連載小説
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7.惹かれあう二人
彼女の情事を思い出す・・・
真夜中にいないなと思ったら二階でまさか私の写真見ながら、オナニーしていただなんてとてもじゃないが信じられなかった
あんなの見たら私だって彼女に対する情を持ってしまうじゃないか・・・
今まで向こうのことと完全に割り切っていたのに・・・
いまさらながら見なければ良かったと後悔した・・・

“おはよう!”と書かれた紙を持って互いに挨拶する
すっきりした清清しい朝を喜んでいるそんな顔した彼女
「・・・おはよう」
昨日のことを思い出してしまってまともに顔を見れない私
“・・・どうした?顔が赤いぞ?風邪か?”
「・・・風邪じゃない。なんでもないから気にするな・・・」
おかしな奴だともいいたげな様子

最近、やっと簡単な筆談ができるようになってきた私たち
こうやってなんとか会話し何が言いたいのかもなんとなくわかってきたけれども、その心うちまではまだわからない
昨日の夜の出来事・・・今の私はどんな顔して彼女に接すればいいのだろうか?
わからない・・・とにかく、平常心、平常心・・・
心の中に浮かぶもやもやを振り払うかのように、朝食の準備に取り掛かった



カメラが不思議アイテムになった頃は春だったが、今はもう夏になっていた
休みの日は当然、外など行きたくなくてエアコンつけて家でゴロゴロしているときが多くなる
“・・・休みなんだろ?どこかに出かけないのか?”
「・・・こちらの夏は猛烈に暑くなるから出かけたくない。命が危うくなる事だってあるんだよ」
熱中症なんて彼女の住んでいる所にはないのだろう。命が危うくなるような暑さがいまいち想像できないみたいで頭を傾げている
“・・・そちらの夏とはどんな夏なんだ?!”
「蒸し暑くてたまらないんだ。蒸してなければ暑くても大丈夫なんだろうけど・・・」

あちらも夏らしいから、彼女の露出の多い服を着た姿を期待していたのだが期待はみごとに裏切られた
暑くてもこの猛暑なんていうのはないらしい…だから薄着ではあるけれどもちょっと物足りない。
逆に私の方がエアコンをかけてない時はTシャツにトランクスなんて格好でいるもんだから露出が多くなって、“なんていう格好しているんだ?!”なんて注意されるけど、注意しつつその顔が少しうれしそうなのが癪に障る

緑豊かな自然に包まれた彼女の家は、つる草に覆われたりしているのでそれほど暑くはならないらしい。開け放たれた窓からは風が吹いているようで、カーテンがやさしく揺れているのが見える
はぁ、まったくあちらは快適そうで羨ましく思う



梅雨もとっとと過ぎ真夏になった今日この頃
その日も天気予報では猛暑により熱中症注意と言っている
しかし、海からの冷たい風が入り込むため午後は一時的に豪雨になる所もあるという
天気予報の言うとおり、昼間は猛烈に暑かったが夕方になるとなにやら、雲行きが怪しい
徐々に暗くなる雲を見て、夕立になるなと思った

嵐の前の静けさのように、怪しい風が吹き始め
ぽつぽつと降り始めた雨は次第に大粒になり激しさを増す
風も強くなり、近くの雑木林にある竹や木々は大きくしなっている
雲はますます黒くなり時々、ドドドーーーンという雷の音がどこからともなく響いてきた

猛烈な風と夕立、雷鳴に雨戸を閉めようと窓を開けた時だった・・・


バリバリバリッ!!!
 ドドドーーーーーーン!!!


いつか聞いた耳をつんざくような音がすぐ近くの木から聞こえた

恐怖を思い出して竦む体
目に映るのは

爆ぜる木・・・
所々から煙と火花を散らす木肌・・・
飛び散る青白い稲妻・・・

一瞬だったが、飛び散った稲妻が濡れた地面を伝って部屋の中へ飛び込んだように見えた

ストン・・・

体は尻餅をついていた
どうやら腰が抜けたらしい
「・・・あ・・・っ」
窓からは、暴風と雨の飛沫が入り込み顔を撫でていく
稲光に竦む体に何とか喝を入れて、やっとの思いで窓を閉める


プルルルルッ!
 プルルルルッ!!

電話が鳴っている
動かない下半身を引きずって音のするところまで這う

「・・・これは?」

音源は携帯電話だった
でも、これはあの時に使えなくなった携帯だった

「・・・はい。・・・もしもし」
“・・・・・・”
「・・・?・・・もしもし?」
“・・・あっ・・・えっ?!・・・信じられない・・・”
誰だか知らないが息を呑んだような声が聞こえてきた
「あー、誰ですか?」
誰から掛かってきたか分からずに問いかける。けれど、相手は絶句しているようで誰だか分からない
「?」
ふと、液晶ディスプレイを見るとあちらの彼女は黒くて丸い物の前で固まったように動かない
何しているのだろうか?

電話を切ろうと携帯を見たときに、その画面に信じられない顔が映っていた
「!?っ・・・君は?!」
それは・・・
栗毛色の髪
瞳孔が鋭い目
その目には光るモノが浮かんでいるのが見えた
いつもいつも追いかけてきた彼女そのものだった

“・・・やっと、あなたの声を聞けた・・・”

笑顔を浮かべて涙ぐむ彼女
「本当に君なのか?信じられない・・・」
何度も携帯と液晶ディスプレイを見る
まぎれもなくあの“彼女”だった



前の雷の時に使えなくなった携帯電話
もう使えないなと棚の上に放ってあったのだが・・・やはり今の雷だろうか?
携帯の画面に映る彼女は泣いている
「本当に君なのか?」
その問いに答えるように、口元を押さえ目にいっぱいの涙を浮かべてコクコクと返事をしている
私は、彼女が落ち着くのを待って話かけることにした

『ワタシ、ミーリエル。あなたは?』
すっかり落ち着いたのだろう、彼女の口からは透き通った可愛らしい声が聞こえてきた。彼女の口の動きは明らかに日本語ではないのに、日本語が聞こえてきた。どうなっているんだろう?
「私は、優治だ」
『ユ・・・ユuzi?・・・ユージ!よろしくね!!それでね、早速だけれど聞きたいことが山ほどあるの!今まで筆談だけだったから細かいこととかうまく聞けなかったんだけれど!まず・・・まずねっ!今、あなたはどうやってワタシと話しているの?』
記者をしているとあって、はきはきとしていて聞きやすい声だった
「私の場合、遠くの人と話せる機械があるんだけれどそれで話しているんだ。前の雷で壊れたと思っていたけど、今の雷でなぜか使えるようになったらしいんだ・・・」
『ワタシも同じよ?雷撃が当たった時に、持っていた遠くの人と話せる通信水晶というものがあるのだけれど・・・それを使っているわ。透明で透き通っている水晶が、そのときの影響で真っ黒になってちょっとヒビも入って使えなくなちゃったんだけれど、それが今突然光ったと思ったら・・・雷や雨の音が聞こえたの。こちらは雨なんて降っていないし・・・だから、もしかしたらあなたの世界なんじゃないかって・・・。あなたが映るんじゃないかって思っていたら徐々にあなたが見えてきて・・・』
「そうなんだ。なあ、ミーリエルさん。いくつか君のことを聞いていいかい?君はどういう人で、何をしている人なのか。あと、どうしてこっちが見えるのか?あのカメラはどうしたのかを聞きたい」
『ユージ!“さん”はいらないわよ?ここで一緒に暮らしているんですもの。ミーリエルって呼んでね?それでワタシは、リザードマンです。リザードマンて知っている?』
「ああ、トカゲの人だね。ということはミーリエルは武に生きる人なのかな?」
『ううん。違うよ。筆談の時も言ったけどワタシは記者。見たものありのままを記事にして、みんなに伝えるの。昔はワタシも剣を振るっていたけど、ある時から記者になろうって決めたの』
「理由を聞いてもいいかい?」
ちょっと、考えるそぶりをしいたミーリエル。少しずつ話をしてくれた
『ワタシ、昔は普通のリザードマンみたいに自分より強い人を探して修行の旅をしていたわ。自分よりも強い人を夫として迎える。それが私たちリザードマンの生き方。ワタシの母も祖母も先祖の人々もそうしてきたの。だから、それが普通でワタシも修行をする傍らいい男の人と巡り合わないかなっていつも思ってた。ある日、旅の途中でハーピーに知り合ったの。彼女は記者で、珍しいことはないかってワタシに訪ねてきたの。特になかったんだけれど何を気に入ったのか一緒に旅することになってね。見たこと聞いたこと世の中のことをいろいろな人に伝えることこれが一番の喜びだって言ってた。その時のワタシにはわからなかったけどね』
「今は自分の記事読んでもらえるのうれしい?」
『うん、すごくうれしいよ。記事読んでくれたいろいろな人に感想とかもらえるしね。それでね、ある日ね小さな村に入ったの。魔物と人がお互い支えあって本当に幸せそうな村。でも、襲われたの。魔物を快く思わない人たちに・・・。当然、ワタシも彼らと一緒に村を守るために戦ったわ。でも、その村は魔物を快く思わない人たちの国に近かったの、だからだんだんと不利になっていったんだけれど・・・。ある時にね、ワタシたちが不利なのを聞きつけて、駆けつけてくれた人達がいたの。本当に感謝したわ、ありがとうって!でも、どうしてここのことを?って思ってたら、ハーピーの記者さんが書いた記事で立ち上がってくれた人たちだったの。すごいって思ったわ。人に伝える…それだけで立ち上がってくれた人達がこんなにもいた。一人の力ではどうにもならないことが、どうにかなったんですもの!だからワタシも記者になっていろいろなことを伝えて、誰かの役に立ちたい!そう思ったのが記者になった理由』
「その村はどうなったの?」
『その村、今は人も増えてもう襲われるような事はなくなったわ。あれ以来、村にはどんどん人が増えていったの。そして、大きな街になったわ。来た人たちは、襲ってきた男目当ての人もいたし、純粋に困っている人を助けたいと思った人、人が集まったから商売が出来ると思った人、反魔物国から噂を聞きつけて逃げてきた人。それがここの近くにある街よ。そんな街を見守りたくてワタシもここにいついちゃった!』
そう語るミーリエル。一つの街の発展を共に見守ることが出来たからか、生き生きとしていてすごく誇らしげだ

『それで、なぜあなたの世界が見えるようになったかだっけ?それはね・・・』
ある日、街に一人の魔女がやって来た。彼女は、魔界にいるバフォメット言う高等な魔物と師弟関係にあるほど高名な魔女らしい。そんな、すごい魔物を記事にしたくて取材を申し込んだ
申し出を快く引き受けてくれた魔女さんは、記事に添える写真のために、わざわざ雷撃魔法をやってくれたらしい
しかし、彼女の魔法は予想外のことを引き起こした
的に当たるはずだった雷撃は当たらず、なぜか空中に渦を巻いて留まってしまった
魔法の失敗を悟った魔女さんはすぐに魔法のキャンセルをした
渦を巻いた雷撃はキャンセルされると四方へと飛び散った
その一部が彼女のカメラを直撃したらしい
『これがその時の写真・・・』
そう言って見せてくれた写真は一見真っ白だが、渦を巻く雷撃の中にある光景を映し出していた
私には見慣れた光景・・・あの河原
そこに誰かが倒れている
その後には、白い一条の光
白黒写真だから細部はわからないけれど、たぶんあの時の様子だった

「ミーリエル。たぶんその写真に映っているの私だよ」
えっ!?と驚いている。彼女に私が見えるようになった経緯を教える
散歩中、突然雷にあったこと
酷い火傷を負って数週間動けなかったこと
カメラが動くのを確認したら、撮った写真に誰かが映りこんでいたこと
見たこともない世界を見れるようになったこと
「いろいろ見てたら写真に映っていた君が何していたのか気になってね。君を探してみようと思ったのさ」
パソコンにその時の写真を表示させる

『あなたも、ワタシも同じタイミングで雷にうたれたのか・・・。ねっ!ユージ?これって運命なのかも!』
「運命?」
『そうよ!同じ時、同じ場所で、空間を越えて繋がりあった!すばらしいことじゃない!!』

たしかに、すごいことなんだろうが・・・
途端に、前に感じたもやもやが心の中に広がるのがわかった
あの時は、すぐにほかの事に掛かったから忘れることが出来たけれど今日のはすぐに振り払うことは出来そうもない
目の前ではしゃぐ彼女
もやもやはどんどん広がっていく

『ね!ユージ?ユージは彼女いるの?』
突然、何を言い出すのか!
首を振る私
『じゃあ、好きな人いる?』
「いないよ」
目の前の彼女に惹かれつつあるのを、最近の私は自覚していた
この胸の内のもやもやも、やはりそれについてなのだろう・・・
もやもやは、心の中に刺さった棘のように気になっていたのだから・・・

『ワタシね。ユージのこと好き』

「っ!」
今なんて言った?好き?
『いつもいつも、見てた。初めは記事のネタにしようとか、異世界のことを知るいい機会だとか・・・でも・・・あなたのちょっとした仕草とか様子とか見てたら、だんだんと惹かれて行ったわ。そのうちに、こっちのことを知ろうとして文字まで覚えようとしてくれたじゃない。それに・・・あなたのお風呂とか覗いているうちに・・・ね。ちょっと興奮しちゃって・・・・・・』
唖然とした。私だって、彼女の情事を覗いてしまった時から、何かの歯車が動き出してしまったことを自覚している。でも、心の片隅では答えを出すのを拒んでいる
もし、好きになっても、見えない壁が私たちを遮っているのだぞ?
触ることはもちろん、カメラや携帯がなければ話すことも出来ない…のに…
最初、向こうの世界が気になっていろいろ見て回った。そのうちに彼女に出会った
意思を伝えられる相手に出会ってその好奇心からいろいろ教えてもらった
それはとてもうれしいことだった
筆談が出来ないからといって付きっ切りで文字を教えてくれた
すぐ近くに見える・・・といっても画面に映っている彼女にドキッとしたこともある
そして、あの晩のこと…胸が高鳴った
いい男ならあちらにもたくさんいるだろうに…よりにもよって私の映っている写真
どうしたらいいのだろうな…。彼女を見るたびに複雑な心がよぎる
でも、越えられない絶望が先には広がっている

『ユージは・・・ワタシのことどう思っている?』

心がズキッと疼いた

「ミーリエル・・・私も好きだよ」
ミーリエルのまっすぐで直向な想い・・・それを聞いて“好き”そんな言葉が、自然に口から出てきた
いろいろ考えたけど、その想いだけはウソをつきたくなかった

『よかった』
満面の微笑み

「私なんかで本当にいいのかい?リザードマンって自分を倒すくらい強い男を相手に選ぶのだろう?」
通説ではそうらしい
『あなたのことが好きになったの。それに、ユージはもうワタシを倒しているじゃない?』
「・・・え?いつそんなことした?」
向こうの世界にいけもしない私が彼女を倒した?どういうことだ???
『初めて会った時、ワタシが見えているのに気が付いたあなたは、突然走り出したじゃない?ワタシ、あの時本当に焦ったのよ?ワタシのことに気が付いてくれたのあなたが初めてだったし・・・。不意に走り出されたものだから躓いてコケちゃったじゃない!倒れて膝をついたワタシにあなたは手を差し伸べてくれた…ほら、倒されているじゃない!』
いや・・・それは倒されたじゃなく、コケただけだろう!
『いいのよ!細かいことは!とにかくワタシはあなたに倒され、好きになったの!文句ある?!』
「文句なんてあろうはずもないさ。でも・・・ミーリエル?本当にいいのかい?私たちは互いに違う世界に住んでいる。これは考えるまでもないほど大きな壁だよ?」
そう、考えるなと言われても考えてしまう絶望
そんなものが立ちはだかっているのに告白してしまった・・・

不安を隠せない私に、ミーリエルは人差し指を口元に当て『うーん』と何かを考えている。そして・・・
『ユージ!大丈夫よ♪ ワタシだってそこら辺のことはちゃんと考えているんだから!こういう不思議なことをいろいろ聞き集めている知り合いがいるから、彼女に聞いてみるわ。あなたの世界については、ある程度相談しているからきっといい案を出してくれるわよ!!だから、そんなに心配しないで!』
自信満々に笑顔でそう答えてくれたミーリエル。そんな彼女の笑顔に勇気付けられた私だったが、その“知り合い”とやらがいい知恵を出してくれることを願わずにはいられなかった・・・
11/01/23 18:39更新 / 茶の頃
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■作者メッセージ
指摘されて気が付いたけど、確かにすごいコミュニケーション能力だ…orz
まあ、いろいろと細かいことはいいんだy・・・

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