依頼と護衛と
遺跡から救出してきたリザードマンを背負い森の中で少し開けた場所まで退散してきた。
彼女を横たえてすぐに火をおこし、聞こえてはいないだろうが失礼します・・・と言って彼女の鎧を外し骨折以外で怪我をしているところがないか診察する。
とりあえず、一度安堵の息をついた。
・・・・・・擦り傷だらけだが右腕の骨折が一番重症で他は大した事ない傷のようだ。これなら俺だけでもなんとかなりそうだ。
近くの木の太い枝を切って添え木にする。
慎重に彼女の腕を伸ばして添え木を当てて包帯で固定する。
バックパックから傷に効く軟膏を取り出し、見える範囲で怪我をしている場所に塗っていく。
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
俺は出来るだけの応急処置をすませると二回目の安堵の息をついた。後は彼女の意識が戻るのを待つだけだ。
緊張状態から意識が戻ってくると次は彼女に意識が行く。
切れ長で吊り上った目尻、艶っぽい唇、それらのバランスがとれ整った顔立ち、金色でさらさらとした髪はポニーテールに、スラリと長い手脚は細い線をイメージさせるが身体は見事な女性の曲線を描いている。特に胸は存在感を通り越して重量感さえ感じさせる。
応急処置に集中していて気が付かなかったが、見れば見るほど美人である。
・・・まぁ、美人じゃない魔物なんて聞いたことないけど。でも彼女ほどの美人は滅多にお目にかかれない。
目を開けたらどんな雰囲気になるのだろうか?
閉じられた目のその奥にある瞳は何色だろうか?
どんな声?どんな仕草?どんな性格?
・・・・・・・・・あれ?
なんだこれ・・・・・・・・恋する野郎の思考じゃねえか
・・・・・・・まさか・・・・・・・・・・・・・
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや
待て!落ち着け!俺!!
素数でも数えるんだ・・・・・・・2・・・3・・・・・・5・・・・・7・・・・・・11・・・・・・・・2001・・・・・・
冷静に考えろ・・・・・彼女はリザードマンだ。
リザードマンは自身に勝った男を夫にする。そういう種族だ。図鑑で読んだろ。
つまり、彼女をモノにするには彼女より強くなければならない。
よし次は自分の確認だ。どうだ?・・・・・・・・・たぶん彼女の足元にもおよばないだろう。
端から眼中に入れてもらえないじゃないか。ははははははは・・・・・・・・・・・・・・・は?
・・・・・・・・・・あれ?
なんで俺が惚れてる設定で話を整理してるんだ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・いや・・・・・・・・ちょ・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・・・・
3度目のため息は疲れきったようなものだった。
運命・・・というか自分の選択を呪う。
こんな高嶺の花を目の前に現れるとは・・・・・・・
はぁ・・・・・・・
悩んでも今は何の進展もしない。とりあえず彼女が起きた時のために何か作っとくか・・・
・・・・・たしか、干し肉を作ったばかりだったからそれを湯で少し戻して・・・・・・・・・・・・・
彼と私は幾多の困難を乗り越え、ついに悪の魔法使いを追い詰めた!
しかし、やつは最後の切り札、巨大ゴーレムを起動させ襲いかかってきた!!
不意を突かれた私は巨大ゴーレムに捕まってしまう。
一歩でも動けばこの女を握りつぶすぞ、と魔法使いは言う
私に構うな!!と彼に叫ぶ。
彼は静かに首を横に振って大丈夫だ、と言った。
次の瞬間彼の姿は消え、ゴーレムの手首から先が斬り落とされる。
唖然とする私を抱えて彼はゴーレムから少し離れる。
ここで待ってて、と彼の優しい声がして再び彼はゴーレムと魔法使いのもとへ
そして・・・・・・・・・・・
目が覚めた。
ここは・・・・・・どこだ・・・・・・?
確か・・・・・・・遺跡で・・・・・・・・・!!!!!!!!
『ぐう!!!』
『・・・・・・あ!気が付いたね。』
気絶する前のことを思い出して起きようとすると身体中に痛みが走り声をあげてしまった。
その声に反応したこいつは・・・・・・誰だ?
『・・・・・・誰だ?』
『俺はクーレスト。冒険家・・・・見習いってとこかな。いきなり爆発音がして行って見たら倒れてるからびっくりしたよ。』
・・・・・・・・・・・
男の話を聞きながら自分の状況を確認する
ここは・・・森の中か・・・・・
装備は・・・・・・外されているが全てあるようだ。
『そうか・・・・クーレスト殿、助けていただき感謝申し上げる。』
とりあえず警戒すべきふとどきものの類ではなさそうだ。
私の荷物は全てあるようだし、なにかするなら眠っているうちにするだろう。
なにより、男・・・クーレストから殺気を感じない。
とりあえず礼をしようと起き上がろうと腕に力を入れると・・・・
『ぐ!!!』
右腕に激痛が走る!
私の声に彼は調理中の鍋から離れて駆けつけた
『大丈夫ですか?右腕、完全に折れてるみたいです。固定だけはしていますがあまり力を入れない方がいいですよ。』
そう言って彼は私を引き起こしてくれた。
そうか・・・・・・折れてるか・・・・・・
あのゴーレムめ・・・・・
私が例のゴーレムに殺意(もう死んでるが)を燃やしていると彼は鍋に戻って味を確認していた。
『とりあえず、滋養に効くもんも入れてあります。食べて落ち着きましょう。』
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
美味い
こんなに美味い干し肉のスープは初めて飲んだ。
しかし、スプーンとはいえ左手は使いづらいな・・・・・・・・今のうちに慣れておかねば・・・・・修行メニューに追加だな・・・・・
『重ね重ね感謝いたす。クーレスト殿が来て下さらねば今頃私は・・・・・』
『いえいえ、たしかに偶然でしたが助けられてよかった。えーと・・・・・・』
『ん?・・・・・・・ああ、まだ名乗っていなかったな。これは失礼。私はフュニリィ。フューと呼んでくれて構わない。』
『フューですか、自分もクーで構いませんよ。』
『クー、か。分かったぞ。クー、こんな美味しいスープまで御馳走になり本当にありがとう。』
『いえ!そんな・・・・・どういたしまして。で、その腕ですが、やはりちゃんと医者に診てもらった方がいいですよ。』
そうだな・・・・・・手馴れているとは言え私たちは医術のエキスパートではない。
もし変な感じに繋がったらそれこそ事だ。
幸い、近くに私の里がある。問題は安全にそこに行けるかだ。
左手だけでは満足に食器も扱えないのだ。盗賊はおろか野生動物にも対処できないかもしれない・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・目の前の男。冒険者、と名乗っていたな。
武器も見た感じ使い込まれている。腕はあるようだ。顔もいい。
自分で切っているであろう茶色がかった黒く短い髪はワイルドだ。顔の彫りも深めだし情熱的な目も魅力的だ。身長も理想的だし見れば見るほど手合わせしたい・・・・・・・・・・じゃない。
護衛を頼んでも問題なさそうだ。
『戻っちゃうことになりますが、10日程歩けば大きな街に・・・・・』
『近くに私の生まれ育ったリザードマンの里がある。』
『え!?でもそんなの地図には・・・・・・・』
『人間に簡単に見つかるような里ではない。人避けの魔術も施してある。』
『そうなんですか・・・・・』
『うむ。でだ、クー。貴殿にそこまでの護衛を頼みたい。』
『・・・・・・え?・・・あ、はい?』
『5日ほどだが、頼まれてはくれないだろうか?』
『え・・・・・・と・・・・・・あーー・・・・・・・分かりました。引き受けましょう。』
顔を真っ赤にしたり、やたらあたふたしていたが引き受けてくれた。
これで憂いが一つ減ったな。
『今日はもう遅いんで明日、出発しましょう。』
『うむ。私も疲れたしな・・・・・・』
焚き火を囲んで男と蜥蜴が床についた時
ほぼ同時刻、わりと近くの洞窟で・・・・・
「ボス。例のダンジョンを攻略したメストカゲどうします?」
「偵察だけ付けとけ。奴らがあの窪地に通りかかったら・・・・・」
「奇襲をしかけるんですね。」
「そうだ。あのダンジョンのお宝は俺様が狙ってたんだ。あんなメストカゲに掻っ攫われたなんて、天下のヨーキド盗賊団の名が廃るってもんよ!!」
あーはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!
10/09/28 14:28更新 / 腐乱死巣
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