連載小説
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約束と誓いと

あれから3日。
フューと一緒にフューの故郷を目指して山を行く。
ここまでは順調だ。特になにも起こっていない。しいて言うなら食料の補給の為にイノシシを狩ったことだろうか。
しかし、地図にも載っていない村が本当にあるのか?不安になる。
頼りになるのは彼女の記憶だけだ。聞くと彼女も村に戻るのは4年ぶりだと言う。不安だ。
あーーーー、不安がってもしかたない。
「困難にも大胆に挑め!」
俺の大好きな冒険者の言葉だ。この困難の先に得るものがあると信じて!


得るもの、か・・・・・・・・・
ふ、と彼女を見る。辺りを見回し自分の記憶と辺りの景色を比較しているようだ。

・・・・・・・・今は考えないようにしよう。
「困ってる時はお互い様」「受けた依頼は必ずやってのける!」
これも大好きな冒険者の言葉だ。
彼女は今利き腕が使えずに困っている。そんな彼女の依頼を受けた。今はそれでいい。
そう自分の中で結論をつけ、こっちだ、と指差す彼女に従いまた歩き出した。





























あれから3日。
クーと一緒に私の故郷を目指して山を行く。
ここまでは順調だ。特に何も起きてない。しいて言うなら食料の確保の為に彼がイノシシを仕留めたことだろうか。
彼の狩りは見事だった。
本来臆病な性格のイノシシを巧みに誘き出し、一撃でイノシシの急所を突いて仕留めてしまった。

聞けば、彼は一流の冒険者になるべく旅をしていると言う。
腕が立ち、武器の扱いも巧い、顔もいい、背丈も合格、困った私を見捨てない所を見ると性格もよし、さらに夢を持ち、それに向かって邁進している。
申し分ない・・・・・・・・・はぁはぁ・・・・・・・・手合わせしたい・・・・・・・・
彼は知らないだろう。私が後ろを歩いている時、ギラギラした目でお前を見つめていることを。

だが・・・・・・・・この腕では・・・・・・
私は憎々しく布で吊られ木で固定された右腕を睨む。
完全に折れてるってことは完治には2〜3週間、下手すれば1ヶ月は掛かるだろう。
里に着くのはこのまま行けば明後日。どう考えても足りない。


・・・・・・・・・・ならば、里に滞在してもらおう。
いろいろゴねれば彼も断れまい・・・・・・・・・
ふふふ・・・・・・・・楽しみだ・・・・・・・・・・ジュルリ・・・・・


















日が暮れ、辺りが暗くなると里への道が分かりづらくなる。

私と彼は野宿にいい場所を探す、が・・・・・・・・・


『・・・・・・・・??』
『クー、気づいたか?』
『殺気・・・・・?・・・・賊に目を付けられましたかね?』
『人数は少ないようだ。蹴散らすのも悪くない』

私が左手をサイクロプスの剣に伸ばす。
軽いこの剣なら慣れていない左手でもなんとか扱えるだろう。
しかし、その手は彼に掴まれ、賊とは反対の方向へ駆け出した。

『お、おい!どこへ行くんだ!?奴らは向こう・・・・・』
『貴女は怪我をしてます!無理して危険に首を突っ込むべきじゃない!』
『賊の1人や2人なら問題ない!!』
『スプーンも扱うのに戸惑ってた左手で!?』

ぐうの音もでない・・・・・・・
・・・・・・・・・・そうか、こいつなりに心配してくれてたんだな。
優しい人・・・・・・・・・・



と、目を閉じかけた時彼が突然止まり、私は彼の背中にぶつかった。

『わっぷ・・・・・どうしたのだ?』
『・・・・・・・・・・・すみません。俺の判断ミスでした。』
『なに?・・・・・・・あ・・・・・・・』
『囲まれてます。まんまと誘い込まれたみたいです。』

気が付けば周囲に人の気配、・・・・最初の奴らも合わせて10人ちょっとというところだろうか
さらに、地形は窪地。
不利な状況に誘い込まれてしまった。何たる不覚!!


「げははははははははははははははははは!!!!!まんまと引っ掛かってくれてありがとう!」
「さすがボス!」
「上手くいきやしたね!」


強烈に下品な笑い声を上げながら我こそは盗賊団の首領という雰囲気の男が現れ、それに続いてわらわらと子分どもが私たちの周りを囲む。


『なんでしょうか?俺たちはしがない旅人です。これと言って金目のものはもってませんよ。』
「いいや!!俺たちゃ見てんだよ。そのメストカゲが俺たちの狙ってたダンジョンから宝を横取りしたのをよ。」
「そうだそうだ!」
「ボスの綿密な計画がパァだぜ。」
「そうよ!天下のヨーキド盗賊団が目の前のお宝が盗れなかったなんて、不名誉も甚だしいってもんよ。」

!!!!
ヨ、ヨーキド盗賊団だと!!?

大陸の東で高額の賞金が懸かってる大悪党じゃないか!!

「さあ!この状況が分かってるなら、さっさとダンジョンのお宝を渡しやがれ!!」




くっ・・・・・・・

意地を張ってる時じゃない・・・・・・

今は自分の・・・・・・何より、クーの身の安全が大切だ。

私はサイクロプスの剣に手を伸ばす。





しかし、その手は再び阻まれた。



『クー!!』
『ダメです・・・・・』
「ああ!?てめえ、この状況分かってるのか?」
『そうだ!私がこの剣を渡せばそれで・・・・・・』
『それで離してくれるとは思えません。』


「・・・・・・げはははははは!!!頭がいいな小僧!」
『なっ!?』
『盗賊の考えることは皆同じですね。』


くそ!!
私のせいだ・・・・・・私が欲を張ったばかりに・・・・・・
クーを・・・・・・・危険な目に・・・・・・・



『仮に、剣だけで引き下がるつもりだったとしても、答えは同じです。』
『・・・え?』
「・・・・・・・なんだと?」



『どんな状況でも、俺はこの女性<ひと>を護る。』



クーの背中が異様に大きく見えた




























足が震える・・・・・・・・・


『そうだ!私がこの剣を渡せばそれで・・・・・・』


手が震える・・・・・・・・・


「・・・・・・げはははははは!!!頭がいいな小僧!」


怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


でも、立ち向かわなければ


後ろにいる人、護りたい人


今までだったら逃げてきた

ここでも逃げたら、この先ずっと逃げ続けるだろう

ここが分水嶺だ


もう逃げない、いや、逃げたくない




『どんな状況でも俺はこの女性<ひと>を護る』





「野郎共!!かかれ!!!」


掛け声と共に一斉に襲い掛かる盗賊
まずは地の利を覆さなければ・・・・・・

靴の踵に仕込んであった小さなナイフを盗賊の1人に投げる。
・・・・・外れた。しかし体勢は崩れた。
すかさずフューの手を引き、体勢の崩れた盗賊に体当たりを食らわせ、包囲を突破する。


距離を取り、盗賊共が来るまでに荷物を捨て、槍を構える。


ざわめく盗賊どもに俺はがむしゃらに突っ込んだ



ここからが・・・・・・・・勝負だ!!!!


























地の有利を覆され、浮き足立つ盗賊共が体勢を整える前にクーは槍を構え突撃した。

慌てる盗賊を1人、また1人とクーの槍が屠っていく。


流れる様な、とは言いがたいまだ荒い我流の槍術。
だが、経験から生み出されたそれは着実に盗賊を追い詰める。




が、地の利のように人の利は崩せなかった。


圧倒的人数の差にクーの傷は増え、返り血と自分の血が分からなくなる。

ついに膝をついてしまうクー
盗賊が隙を逃さず彼に襲い掛かる


クーが、クーがやられてしまう!!!!



『クーーーーーーーーー!!!!!!!!!』


私は無我夢中になりサイクロプスの剣を有らん限りの力で投げた。




「ぐが!!」




有利な状況に油断していたヨーキドのノド笛に偶然剣が突き刺さる。
突然のボスの悲鳴に一瞬動きが止まる盗賊共。

天の利は今私たちに微笑んだ。


『おおおおおおおおおお!!!!!!』


クーは力を振り絞って立ち上がり、盗賊共をすり抜け、突然の出来事に目を白黒させているヨーキドに槍を突き立てた




「ボスが・・・・・・・」
「・・・・・・ボスがやられた」
「おい・・・・・どうする・・・・・」
「俺に聞くなよ」
「・・・・・いや・・・・・・お、俺は逃げるぜ!!!」
「うわ、あ、うわああああああああ!!!!」

統制を無くした盗賊は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

『・・・・・・勝った』


そう呟くと、クーは糸が切れた人形の様にその場に倒れこんだ。

『おい!クー、クーレスト!!!しっかりしろ!!!!』
























結論から言えば、彼は大丈夫だ。

緊張の糸が切れて気を失っただけだった。
傷は深いものもあるが、命に係わるものはなかった。

よかった。本当によかった・・・・・・



彼の手当てを終え、焚き火を囲んで話す・・・・・

『本当に、ありがとう。』
『いえ・・・・・・俺はただがむしゃらでした。貴女の、その剣がやつに刺さらなければ今頃・・・・・・』
『・・・・・・・本当だな。まさか当たるとは思わなんだ。サイクロプスの剣とは本当に凄いものなのだな・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・・・・・』


どー、どどどど、どーしよう。会話が、会話が続かない。
クーのあの言葉を聞いてから、顔も上手く見れない・・・・・・
あうう・・・・・どうしよう・・・・・・


あ、あああああ・・・・・・・・・・・ね、寝てしまった・・・・・・


そ、そうだな。今日は疲れたな。
明日・・・・・・うん!明日はきちんと会話を!うん!










翌日もまともに彼の背中すら見られなかった。










そしてその次の日。


『・・・・・?、あれは・・・・・?』
『あ、あれだ!私の里だ!!』

盗賊の残党が襲ってくることもなく私は故郷に帰ってきた。





















襲撃から2日

まだ身体中の傷が痛むがなんとかフューの里に辿り着くことができた。
里の入り口に近づくと当然ながら門番に警戒される。

「何者だ!ここは誇り高きリザードマンの里ぞ!!」
『・・・・・・サリー?それに・・・・クロエか?』
「え?もしかして・・・・フューなのか?」
「・・・・・・・間違いない!フューだ!」

三人は喜んで抱き合っている。どうやら幼馴染みらしい。
昔なじみの話に花を咲かせていると1人が「族長を呼んでくる」と言って走っていった。フューの顔色が若干悪くなった気がした。
しばらくすると・・・・・・・


「フュゥゥゥゥゥゥゥゥゥニイイイイイイイイイイイリィィィィィィィ!!!!!!!」


里の向こうから砂煙を上げてリザードマンが走ってきた。
速・・・いや、疾い。
あっという間に里を横断するとフューに抱きつき押し倒した。

「おかえり!おかえり!おかえりなさい!!!」
『は、母上、ん・・・・・落ち着いて・・・・・』

キスの嵐だ。
母子のスキンシップだが、女性同士の禁断のものを見ている気分になり、とっさに後ろを向いた。
・・・・・・・・・・待て。族長を呼びに行ってフューの母が来た。
フューは族長の娘だったのか・・・・・・・
失礼にならぬよう、挨拶せねば。

『あの・・・・・・・』
「あ゛あ゛っ!!??」

目で殺された。
お邪魔だったようだ

『母上!こちらは、わ、私を、怪我をした私を親切にも里まで護衛してくださった、クーレスト殿だ。』
「・・・・・んまあ!そうなの!?」

フューを開放し、咳ごみしながら仕切りなおす。

「ん、んん。我が娘をここまで送り届けてくれてありがとう。私はこの里の長でありフュニリィの母、ミラルドだ。えーと・・・・」
『クーレストと申します。』
「そうか。うむ、クーレスト殿も怪我をなされている様子。ここで立ち話は辛かろう。クロエ!我が屋敷まで案内してやってくれ。」
「はっ!」

きちんとすればかなり威厳のある人だ。族長たるカリスマに溢れている。
クロエさんに案内され、里の門をくぐる。
後ろではフューが母に何か吹きこまれ頭から湯気を吹きだしていた。
・・・・・・・・・何なんだ?















「もうヤっちゃったの?」
『!!!!!、な、ななんなな、なにををををを言うのででですか母上!!』
「なんだ・・・・・お婿さんじゃないのね・・・・・・・」
『はい・・・・・・・』
「でも、貴女はその気みたいね。」
『ーーーーーーーーー!!!』

4年ぶりに会った母子の会話だろうか?
からかうように私に話す母を置いて私も自宅に向かう。


そう・・・・・・まだそんなんじゃない。
手合わせすら・・・・・・・・・・

・・・・・・・そうだった。隙を見てクーにここに滞在するように言わなければ。




「おお!!フュニリィ!!!」
『ただいま戻りました、父上。で、こちらが・・・・・』

キ゛ヌロッ

もの凄い剣幕でクーを睨む父上。冷や汗をダクダク流すクー。
私が必死に説明し、なんとかその場は収まった。

「そうかそうか。」
「クーレスト殿が本当によい御仁でよかった。最近は物騒だしな。」
「うむ。盗賊から我が娘を護っていただき、誠に感謝申し上げる。」
「医者を呼ぼう。まずは傷を癒すが良い。その後は・・・・・・・・」
『え?』
「宴じゃ!!私の娘が帰ってきたのだ!!!里をあげての宴じゃぁ!!!」
「「「「「よっしゃあああああああああ!!!!」」」」」

いつの間にか窓の外で聞いていた里の男たちが歓声をあげ宴会の準備を始める。
クーは!?・・・・・・・すでに父上の案内のもと、医者に連れて行かれた。
ああ!!話す機会があああああああ!!!













宴が終わったのは夜遅くだった。

宴の様子は・・・・・・前半はよかった。後半は母上と父上が惚気&私の幼少期からの話を延々と語りだし、多少げんなりとした空気でお開きになったとだけ綴っておこう。

今、私はクーが寝ている部屋の前にいる。
ここで話しておかないと明日の朝にでも彼は旅立ってしまうかもしれない。

ふーーー・・・・・・ドキドキするな・・・・・・
・・・・・・・・よ、夜這いの時はこんな気持ちになるのだろうか?
・・・・・!!!、ち、ちがうぞ!!ただ話をするだけだ!け、決して淫らなことは考えてないぞ!!!ただ、もしそんな雰囲気になってもいいようにちゃんと可愛い下着を・・・・・・って何を言ってるんだ私は。
深呼吸してドアをノックする。

『クー、起きてるか?』
『・・・・・・・・・・・・・』

返事がない。
もう一度ノックする。・・・・・・・無音だ。
意を決して中に入る。




窓が開けられ、部屋に居るはずの彼は何処にも居なかった。












私は剣を持ち、家を飛び出した。
もしかしたら盗賊に攫われたのか?いや、部屋が荒らされた形跡はなかった。
様々な疑念と憶測が私の中で渦巻く。
門番が止めるのも聞かず、私は里の外へ飛び出した。
彼が何処にいるか分からない。
けど、私は確信にも似た何かに導かれるように走っていた。
それは・・・・・・もしかしたら運命と呼ばれるものかもしれない。


森の中、少し開けた場所で彼に追いついた。



『クーレスト!!!!!』
『!!、フュー・・・・・』
『よかった・・・・・てっきり、盗賊に攫われたのかと・・・・・さあ、戻ろう。』
『すみません。俺は、このまま行きます。』


心臓を鷲掴みにされた気がした。体温が一気に下がった気がした。


『・・・・・どうしてだ?』
『ごめんなさい・・・・』


理由を話さないクー。
説得にも応じない。
・・・・・・・・ならば

『クー!!ここで手合わせしろ!!!』
『え!?』

剣を抜き、クーに襲い掛かる。
慌てて持ってきたが、左手でも扱えるサイクロプスの剣だったようだ。
だが、左手だけではクーに勝てない。

今は、それでいい。
クーを繋ぎとめられるなら!それで!

『ぐうう!!!』
『はあああ!!!!!』

やむなく槍で私の剣を受け止めるクー。
キンッ、ガインッ、と金属同士がぶつかる音が辺りに響く。
そして・・・・・・

『くっ!!』

私は競り負け、その場に座り込んだ。
ああ・・・・・・これで・・・・・・・

『負けた・・・・・・』
『違う。こんなの違います!!!』
『・・・・・何を・・・・・・何でだ!!!』

私は叫んだ。
これでも、クーを止められないのか!
私は必死になって叫ぶ。

『ダメです。こんなんじゃ・・・・・』
『何がダメだ!!今勝負して私が負けた!!それでいいんだ!!!』
『よくありません!!!こんなの間違ってる!!!!』
『何が間違ってるんだ!!!!言ってみろ!!!!』

『俺は貴女が好きなんです!!!!!!!』

『え・・・・・・』


さっきまでざわめいていた心がシンと静まる。
虫のさざめきも木のざわめきも聞こえない。ただ、クーの声が響く。


『だから、好きだから、今のままじゃダメなんです。あんな盗賊団からも貴女を護れない今のままじゃ・・・・・・・・・・』
『うん・・・・・』
『ですから、待ってください。修行します!そしていつか必ず!!貴女と勝負しに・・・・・・・』
『一年だ・・・・・・』
『・・・・・・え?』

『一年だ。それ以上は待てない。待ちたくない。・・・・・私もこの腕を治し、更なる精進を重ね、お前に挑もう。』
『はい!!俺も、一年で、貴女を抜いて見せます。貴女に相応しい冒険者になって貴女の前に現れます。』
『ああ。一年後・・・・・・そうだな。この場所がいい。』
『一年後、ここで。待っていてください。』














そうして、私たちは別れた。
来年の今日、剣を交えることを誓って。
10/10/07 14:49更新 / 腐乱死巣
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■作者メッセージ
はい、三話でした。
ここまでご覧いただき誠にありがとうございます。


ようやくここまできた・・・・・・・
ターニングポイント、中間点っす。
バトル描写がありましたが、難しいですね・・・・・・
表現したい動きの半分も文に出来てないきがします(;w;)
いかがでしたでしょうか?

クーとフィーの心の動きも文にできてない・・・・・・
自分の語彙力の無さに嫌気がさします・・・・・・orz

これからも精進いたします。
ではまた次のお話で

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