再会と試合と
クーを見送った後、一年後の目標に向かって燃える私を待っていたのは族長たる母の大目玉だった。
夜中に大きな物音で周囲に迷惑をかけたこと、門番の制止を無視し無断で里の外に出たこと、そしてなにより、深夜に叩き起こされたこと。
最後のは八つ当たりだ。
我が母ながら理不尽にも程がある。
だが、クーの告白、私の気持ち、そしてクーと私の誓いを聞いた母は
「あなた達の気持ちはよくわかった。一年間、あなたの思うようにやってみなさい。全力で応援するわ。」
と言って、ギュッと抱きしめてくれた。
ああ・・・・・・・やはり母は暖かい・・・・・・・・・・
次の日から鍛錬を始めた。
と言っても右腕が使えないので存分に剣は振れない。だが、これでいい。
右腕が使えなくなって初めて自分が利き腕に頼りすぎていたことに気づいた。
そのせいで、盗賊団にも遅れをとってしまったのだ。
右腕が完治するまで1ヶ月程は左腕の強化。
水の中で手を開いて閉じてを繰り返し基礎握力をつける。水では効果がなくなってきたらバネを使った。
鉄アレイを借りてきて何千回と持ち上げる。
気がついたら左手でリンゴが潰せた。
力だけでなく器用さもつける。
箸くらい使えるようにならなければ。
だんだんと左手で剣の素振りをするときに剣が手に馴染む感じがしてくる。
いい感じだ。
そうやって修行に励み右腕が直る頃、一つ悩みができた。
クーはもっと強くなって帰ってくる。
私ももっと強くなってあいつと闘うと誓った。
なら、もっと強くなるにはどうしたらいいだろう・・・・・・・・
そんな時、母上がプレゼントをくれた。
一般的な剣よりだいぶ軽く、いくらか短い剣だ。
「せっかく左手で剣が握れるようになったんだから新しいスタイルを身に着けるのもいいんじゃないかしら?」
『それで二刀流ですか・・・・・・・・』
「お節介だったかな?」
『いえ!ありがとうございます、母上!』
それから、里の二刀使いに師事を仰いだり、幼馴染みに頼んで練習試合をしたり。
残りの10ヶ月ほどは全て二刀を自在に操る為に費やした。
約束の日。
私は朝早くから約束の場所で彼を待った。
流石に早すぎだと自分でも思ったが彼に、クーに逢えると思うと居ても立ってもいられない!
待ちながら、彼との試合をイメージする。
・・・・・・・・・・一年の歳月は彼をどんな姿に変えているだろうか?どれ程逞しく成長しているだろうか?
想像するだけで涎g・・・・・・・身体が震えるようだ。
日が沈む頃
草木をかき分ける音がする。
剣に手をかけ警戒する。
この気配・・・・・・・忘れもしない。
現れたその姿・・・・・・・一年間愛おしく思い続けた姿。
一年前の傷より大きな傷があちこちに出来ている。
髪は自分で切っているらしくあまり整っていないが、それが彼の野性的な魅力を引き立てている。
身体は筋肉で一回り大きく見える。だが不快なほど筋肉質ではなく引き締まり完成された身体だ。
ああ・・・・・・流石は私の見込んだ男だ・・・・・・・
約束通り強くなってきてくれたのだな・・・・・・
『ただいま・・・・・・・・かな?』
『女を待たせるなんて、男としてどうなのかしら?』
『これでも急いだ方なんだけど。でも、時間は決めてなかった気が』
『私は朝からここで待ってたんだぞ。』
『それはすみませんでした。』
一年ぶりの会話がこれか。
私があまりに可笑しくてクスクス笑うと、彼も釣られて笑う。
・・・・・・・・・・・・さて、
『早速かよ・・・』
『当たり前だ。・・・・・・私がこの時をどれだけ待ち望んでいたことか・・・・・・』
『・・・・・・・・・俺も。やっとここに立てた。』
私が剣に抜き、構えると彼も荷物を降ろす。
背中から槍を抜き放ち構える。
彼と共に何度も闘い抜いてきたであろうそれは随所に傷がありながらも手入れが行き届き、最高の状態になっているようだ。
『合図は?』
『・・・・・日が沈みきったら。でいいか?』
『ふふ、いいだろう。』
『私は誇り高きリザードマンの里、族長が娘フュニリィ!!貴様に決闘を申し込む!!!!』
『俺は冒険者!クーレスト!!その決闘、受けて立つ!!!』
ああ、この日をどれだけ待ちわびたか・・・・・・・
ああ、彼をどれだけ待ち望んだか・・・・・・・・
ああ、この日の為にどれだけの血と汗を流したか・・・・・・・・・
さあ、語ってやろう・・・・・
この双刃に全てを乗せて!!!!!
約束の日。
フューは既にそこに居た。
一年間この再会を思いながら闘ってきた。
挨拶した途端に怒られた。彼女は朝から待っていたらしい。
時間決めてなかったから俺と彼女が一年前別れた時間に間に合えばいいかと思っていたが、これは彼女に悪いことをしたかもしれない。
スッ・・・・・・と彼女が剣を握る。
既に臨戦態勢だ。
髪はあの時と同じく金色が風に少し靡いている。ポニーテールにしているからよく判らないが少し伸びたかもしれない。
四肢の変化は特に見られない。そのかわり凛とした美しさは鋭さを増し恐怖さえ感じる。
腰の剣はあの時のサイクロプスの剣と、もう一本。おそらくスタイルを二刀流に変えたのだろう・・・・・・それが一年間の成果ということか。
ならば俺も語ってやろう。
この一年、死に物狂いで腕を磨き、死線を越え、身に付けた技を
この槍に乗せて!!!!!
いざ!!尋常に勝負!!!!!!
日が西の山に沈み、山の影が二人を包み込んだ時
俺たちはほぼ同時に大地を蹴った
いや、若干彼女の方が速い
初撃は彼女の右の剣、槍で受けて捌き弾き返す
すぐに左の剣が襲い掛かる、柄で受け止め後ろへいなす。
着地した彼女より早く地面を蹴り、突きを繰り出す。
避けるのが間に合わないと判断した彼女は剣を交差させ槍を受け止めた。
『素晴らしいぞ・・・・・素晴らしい突きだ』
『剣技も凄いな、判断を間違えば真っ二つになるところだった』
ギリギリの鍔迫り合いの中で語り合う。
言葉ではない、俺たちにしか分からない言葉で
彼女が槍を弾き左の一閃を振るう
それを避けるために飛び退いた俺を追撃する右の剣を石突きで弾く
体勢を整え、槍を短く構える
彼女の双刃が煌き、本気の連撃が襲い掛かる
十合、二十合と打ち合う
右を弾き、左をいなし、僅かな隙を見つけて槍を繰り出す
が、彼女はそれを最小限の動きで見切り、避ける
彼女の連撃は止まる所かさらにスピードが上がる
僅かな隙は圧倒的手数の中に消え防戦一方になる
マズイ、このままだと押し切られる
彼女の連撃を止めるには・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・ここだ!!!!
ギイイン!!!!
繰り出した槍の穂先は彼女の右を押さえ、石突きは左を止めていた
精密な彼女の双刃は投じられた一石によって止められた
槍を振り回し、彼女を吹き飛ばす
マズイな・・・・・・速さでは全く敵わない
攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ、全く隙がない
あの連撃の壁を破るには・・・・・・・・・
吹き飛ばされた彼女が体勢を整え再び襲い掛かる
連撃に持ち込まれないよう、初撃を受け止めてからその場を離れる
『ふははははははははははははははははは』
笑ってやがる・・・・・・・
そうか、楽しいか。よかった。
俺も・・・・・・・・・俺も楽しいぞ!!!!!
楽しかったが、これで・・・・・・・・
彼女の突進を避け、彼女より高い場所へと移動する
距離は・・・・・・・およそ15メートルってとこか・・・・・・・圏内だ
俺は槍を持ち直し構える
明らかに間合いの外で構える俺を見て彼女が戸惑う
『なんだ・・・・・・・?』
答えない。
いつになく緊張しているから
これが外れれば負ける
それを忘れるために精神を研ぎ澄ませる
『待ちの剣、居合いと同じようなものか・・・・・・・・面白い』
そんなもんじゃない
『その誘い・・・・・・乗ってやる!!!!』
彼女が跳び、俺を仕留めんと迫る
彼女の連撃の壁を破るには・・・・・・・・この槍で突き破る!!!!!
槍を渾身の力で揮い、高速の、音速の、神速の突きを放つ
空気の壁を突き破った槍は衝撃波を目の前の標的に弾き飛ばす
突きが解き放たれる寸前に気づいた彼女だが間に合わない
空中で体勢が変えられない彼女は剣を交差して防御に入る
そんなもの・・・・・・・・突き崩す!!!!!
見えない衝撃波は彼女の双刃を捉え、一方の剣を弾き飛ばし、彼女自身も衝撃で吹き飛ぶ
これで終わりではない
先ほど全力を解き放った脚に再び力を籠める
今度は逆だ
脚から槍に向ける力のベクトルを大地に向ける
神速の突貫!!!!!
吹き飛ばされた彼女に空中で追いつき、そのまま共に地面へ激突する
立ち込める土煙の中立ち上がり地面に叩き伏せられた彼女の咽喉元に槍を突き立てる
剣を持ってなおも抵抗しようとする彼女の左腕を踏みつける
これでもう何も出来ない
『・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・』
『・・・・・・・・・・・・負けた』
『・・・・・・・・・・・・勝った』
・・・・・・・・勝った
緊張が切れて膝をつく・・・・・・・・
すると・・・・・・・
ガバッ!!!!!
押し倒された
・・・・・・・・・・・・
え?!ちょっ!!今、今負けたっていいましたよね!??
『負けた』
『そ、そうだね・・・・・・』
彼女からドドドドドドドドという効果音が聞こえる
『探していた、全力の私を負かす、強い、強い男を。』
『は、はい・・・・』
『そして、お前は、約束通り、私を倒してくれた。』
『うん、うん・・・・・・』
『だから・・・・・・だから・・・・・・・ハァハァ・・・・・・』
『私を今ここで嫁に貰ってくれ!!!』
バッ!!という音と共に上半身の鎧を脱ぎだすフュ―。鎧に隠された彼女の重量感満点の胸がインナーがあっても震える・・・・・・・・
・・・・・・・待て待て待てぇぇぇぇぇえええええ!!!!!
『ま、まままま、待ってください!!!』
『ん?どうした?』
『何をする気ですか?』
『服を脱ぐんだ。出来ないだろ。』
『だから待って下さい。服を脱いで何を始める気なんですか?』
『お前に抱いてもらうんだ。手を離せ、脱げないだろ?』
『ストップだ。ストップするんだフュー。』
ピタッっと止まるフュー。
やっと落ち着いたk・・・・・・
『ああああああ!!!愛する者に名前を呼ばれるのがこんなに嬉しいものだったとは!!!!』
火が着いた。
俺に抱きつき胸に顔を埋め全身を擦り付けてくる
『落ち着け!!落ち着くんだ!!』
『どうしてだクー?私のこと、好きじゃないのか?』
『え?・・・・あ、いや・・・・・・・その・・・・・』
『ん?んん??』
『す・・・・・好きです・・・・・・』
『そうだよな!なんせ私の為に秘剣まで身に着けてくるくらいだもんな!!!私もクーの事が大好きだ!!!一年前、私を助けてくれたときからお前に惚れていた!!!でもあの時はまだ試合をしてなかったから言えなかったが。だからお前が居なくなった時本当に悲しかったんだぞ!!』
『ああ、それは・・・・・すまない。』
『いいんだ!!こうして戻ってきてくれたし!!それどころか本当に強くなってきてくれた!ああ!!やはりお前は運命の、私の運命の人だ!!!』
『ああ、ありがt・・・・・・』
『そうだ。あれ!!あの飛ぶ斬撃!!どうやったんだ!!??』
『うぇ!?あああ、あれは・・・・・・・・』
『そんなことはどうでもいいな。今は・・・・・・・』
『聞けよ。』
全く止まらないフュー。
溜まりに溜まったもんが吹きだしてるみたいだ。
このままだと・・・・・・・・・・・え!!ちょ!!インナーに手を伸ばすな!!!
『何をするんだ、脱げないだろ!!』
『確かに、フューのことは好きだ。大好きだ。けど・・・・・・・』
『けど?』
『ちょ、ちょっと展開が早すぎないか?それに・・・・・・外だし・・・・・』
『なんだ、そんなことか。問題ない。闘った二人が高まりあったその体温のまま互いの熱を求めて交わりあう!!ああ、なんてそそるシチュエーション!!初心だなクーは!!・・・・・・・・もしかして・・・・・・・・・・初めてか?』
『ぐ・・・・・・・・悪かったな、初めてで・・・・・・』
『大丈夫だ!!私も23になるが初めてだぞ!!』
『ええ!!!4つ上なのか!!!??』
『・・・・・・・・なんだ?もしかして年上は嫌いか?(涙目)』
『そ、そんなことはないよ。むしろ好き・・・・ていうか!フューが好きなんだから関係ない!!!!』
『ありがとう・・・・・・クー』
涙目だったフューはすぐに笑顔になり、俺に顔を近づけてくる・・・・・・・
目を閉じ、唇が重なる。
やわらかい・・・・・・
フューが首に腕を回してくる。俺も服を抑えていた手で彼女を抱きしめる。
あんな戦いをした猛者だというのに、彼女の身体は俺の腕の中にすっぽりと納まるほど細く、柔らかく、なにより暖かかった。
一瞬、でも2人には永遠のように永く感じた口づけを一旦離し。今度はより深く交わろうとした・・・・・・・・・・・
その時
女性の叫び声が近づいてきた。
「フュニリィ!!!!フュニリィはいるか!!!!???」
『・・・・・・・・・・いいところだったのに。』
『不機嫌になるなよ。』
『もうちょっとだったのに・・・・・・・・・何事だ!私はここだ!!!』
声を聞いてこちらに来るリザードマン。
彼女の蒼白した肌と必死の形相に不機嫌なフューの顔は一気に引き締まる。
「里が!!里が、反魔物国のものと思われる部隊に襲われています!!!!」
10/10/15 19:08更新 / 腐乱死巣
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