悪夢若しくは遠い世界
――なにか違う。
ここ数日、謎の違和感が自分を悩ませている。いつも通りの日常のはずなのに、なにかとても大切なことを忘れている様な気がしてならないのだ。
教室を移動する最中も食堂で好物を食べている時も一向にそれが無くならない。
ふと、食堂のテーブルの向かいに座る友人に疑問を投げかける。
「なあ、この学校ってこんなに“人間“の女子って多かったっけ?」
すると友人は怪訝な顔で
「? どういう意味だ?うちの学校の男女比は6対4くらいだけど」
確かに質問して気が付いたが別におかしなことはない。自分は何を疑問に思ってそんなことを言ったのだろう?
友人は「ここ最近疲れているみたいだし家に帰ったらとっとと寝たほうがいい」と言って行ってしまった。それを見送りながら自分は牛乳を飲む。…はて、牛乳ってこんな味だったっけ?なにかがものたりないような。
下校しようと荷物をまとめている時、クラスメイトの話し声が聞こえてきた。
「それでさ、その彼女浮気を悪びれずにさ、『今日からはもういい』っていったらしいぜ。女ってこえーよな」
「うわ、ひっでー。そいつそのまま振られちゃったわけ?」
「そうそう。一体そいつ何股してるんだろうな?」
なにか酷く落ち着かない。何かが恐いような、寂しいような。
気を紛らせようと、自分は八百屋でなにか適当なフルーツでも買って食べることにした。
さて、何を買おうか。
「すいません。虜の果実が置いてないんですけど売り切れちゃったんですか?」
「虜の果実?悪いがそんな名前の果物なんて見たことも聞いたこともないよ」
そうだ。虜の果実ってなんだ?あまりにも違和感なく口からでてきたが一体自分は何を言っているのだろう。気まずくなってしまったが結局バナナを買って帰ることにした。
街を通る途中TVに目を向けて見る。
水難事故で死者多数…暗いニュースだ。
まだ落ち着かないので帰り道の途中で深呼吸をしてみた。
うっ…空気がまずい…いや、単に今通ったトラックの廃棄ガスを吸っただけか。
そして、今の自分の部屋がある安アパートに戻ってきた。いつも通りの筈なのにやけに静かに感じる。どうやら本当に疲れているようなので寝る支度をしていると電話がかかってきた。多分実家の兄だろう。
「よお、そっちはどうだ。」
「まあまあだよ。そっちは?」
「ああ、どうも最近妻との関係がってこれだと愚痴だな。そうそう父さんの容態も良くないし今度帰ってくるときはちゃんと病院に見舞いに行けよ」
「えっ?なに言ってんだよ?お父さんは昔病気がちだったって言ってたけど今じゃ健康じゃん」
「お前こそなに言ってんだ?母さんと離婚してからどんどん具合が悪くなっていって今じゃ入院してるだろ。俺はもう切るからな、お休み。」
そう言って兄からの電話は切れた。
離婚?父さんと母さんが!?そんな、そんなことあるはずがない!
アパートの部屋の中に関わらず大きな声で叫んでしまった。
そうだ、そんなことあるわけが無いんだ。だいたい離婚が死語になってから一体何年経ったと思っているんだ?冗談にしても悪質すぎる!
そこまで考えを巡らせてからふと、違和感の正体に、気づいて、しまった。
嗚呼――ああ、一体、
―――――“彼女たち”は、何処に行った?
気が付いたら、自分は寝間着のまま何処かのビルの屋上に居た。
やっと気づいた違和感の正体。
科学はあっても魔法なんて欠片もない。
海で死者が出た。
死者が出たとしても蘇りはしない。
そして何より。何より。
――魔物が何処にも居ない――
あの淫猥ながらも純真な彼女たちは何処にいる!?
あの人間よりも人間臭い異形の住人たちは何処にいる!?
居ないのだ。何処にも居ない。此処は――人間だけの世界。
ああ、そうだ“あの世界は”何処へ消えた?
この世界の夜はあまりにも暗すぎる。
この世界の絆はあまりにもか細すぎる。
自分は屋上の手すりに手をかけていた。
そうだ。この世界にもいいところはあるかもしれない。
でも、自分にとっては、この世界は、あまりにも、辛すぎる。
まるでそうするのが正しいかの様に手すりの外側に身を投げ出した瞬間。
「やっとみつけた。」
その声と共に身体が重力の向きではなく、上へ引っ張られる感覚がした。
懐かしい。そう思える声だった。
「探すのが遅れてごめんなさい。でも、これは夢。悪い夢を見ていた。ただそれだけの話なの。さあ、もう眠って。起きた時にはもう悪夢は思い出せなくなっているわ。」
その声を最後に、自分の意識は遠のいていった。
ここ数日、謎の違和感が自分を悩ませている。いつも通りの日常のはずなのに、なにかとても大切なことを忘れている様な気がしてならないのだ。
教室を移動する最中も食堂で好物を食べている時も一向にそれが無くならない。
ふと、食堂のテーブルの向かいに座る友人に疑問を投げかける。
「なあ、この学校ってこんなに“人間“の女子って多かったっけ?」
すると友人は怪訝な顔で
「? どういう意味だ?うちの学校の男女比は6対4くらいだけど」
確かに質問して気が付いたが別におかしなことはない。自分は何を疑問に思ってそんなことを言ったのだろう?
友人は「ここ最近疲れているみたいだし家に帰ったらとっとと寝たほうがいい」と言って行ってしまった。それを見送りながら自分は牛乳を飲む。…はて、牛乳ってこんな味だったっけ?なにかがものたりないような。
下校しようと荷物をまとめている時、クラスメイトの話し声が聞こえてきた。
「それでさ、その彼女浮気を悪びれずにさ、『今日からはもういい』っていったらしいぜ。女ってこえーよな」
「うわ、ひっでー。そいつそのまま振られちゃったわけ?」
「そうそう。一体そいつ何股してるんだろうな?」
なにか酷く落ち着かない。何かが恐いような、寂しいような。
気を紛らせようと、自分は八百屋でなにか適当なフルーツでも買って食べることにした。
さて、何を買おうか。
「すいません。虜の果実が置いてないんですけど売り切れちゃったんですか?」
「虜の果実?悪いがそんな名前の果物なんて見たことも聞いたこともないよ」
そうだ。虜の果実ってなんだ?あまりにも違和感なく口からでてきたが一体自分は何を言っているのだろう。気まずくなってしまったが結局バナナを買って帰ることにした。
街を通る途中TVに目を向けて見る。
水難事故で死者多数…暗いニュースだ。
まだ落ち着かないので帰り道の途中で深呼吸をしてみた。
うっ…空気がまずい…いや、単に今通ったトラックの廃棄ガスを吸っただけか。
そして、今の自分の部屋がある安アパートに戻ってきた。いつも通りの筈なのにやけに静かに感じる。どうやら本当に疲れているようなので寝る支度をしていると電話がかかってきた。多分実家の兄だろう。
「よお、そっちはどうだ。」
「まあまあだよ。そっちは?」
「ああ、どうも最近妻との関係がってこれだと愚痴だな。そうそう父さんの容態も良くないし今度帰ってくるときはちゃんと病院に見舞いに行けよ」
「えっ?なに言ってんだよ?お父さんは昔病気がちだったって言ってたけど今じゃ健康じゃん」
「お前こそなに言ってんだ?母さんと離婚してからどんどん具合が悪くなっていって今じゃ入院してるだろ。俺はもう切るからな、お休み。」
そう言って兄からの電話は切れた。
離婚?父さんと母さんが!?そんな、そんなことあるはずがない!
アパートの部屋の中に関わらず大きな声で叫んでしまった。
そうだ、そんなことあるわけが無いんだ。だいたい離婚が死語になってから一体何年経ったと思っているんだ?冗談にしても悪質すぎる!
そこまで考えを巡らせてからふと、違和感の正体に、気づいて、しまった。
嗚呼――ああ、一体、
―――――“彼女たち”は、何処に行った?
気が付いたら、自分は寝間着のまま何処かのビルの屋上に居た。
やっと気づいた違和感の正体。
科学はあっても魔法なんて欠片もない。
海で死者が出た。
死者が出たとしても蘇りはしない。
そして何より。何より。
――魔物が何処にも居ない――
あの淫猥ながらも純真な彼女たちは何処にいる!?
あの人間よりも人間臭い異形の住人たちは何処にいる!?
居ないのだ。何処にも居ない。此処は――人間だけの世界。
ああ、そうだ“あの世界は”何処へ消えた?
この世界の夜はあまりにも暗すぎる。
この世界の絆はあまりにもか細すぎる。
自分は屋上の手すりに手をかけていた。
そうだ。この世界にもいいところはあるかもしれない。
でも、自分にとっては、この世界は、あまりにも、辛すぎる。
まるでそうするのが正しいかの様に手すりの外側に身を投げ出した瞬間。
「やっとみつけた。」
その声と共に身体が重力の向きではなく、上へ引っ張られる感覚がした。
懐かしい。そう思える声だった。
「探すのが遅れてごめんなさい。でも、これは夢。悪い夢を見ていた。ただそれだけの話なの。さあ、もう眠って。起きた時にはもう悪夢は思い出せなくなっているわ。」
その声を最後に、自分の意識は遠のいていった。
16/07/08 23:50更新 / MADNAG