３泊目 『旅館の女達』
「クロさーん、うちの婿になるっすー」
「………」
「クロさーん」
「………」
「もし婿になってくれたらー、マリアを『専用ダッチワイフ』として進呈するっすよー」
「いやーんクロード様のエッチー（棒」
「いらん！ つかマリアは何でここにいんだ！ お前はさっさと自分の仕事に戻れ！」
「いやーんクロード様のイ・ケ・ズ（棒」
「……マジで今すぐダッチワイフにしてやろうか？」
「業務に戻ります」
イソイソと持ち場へ戻っていくマリア。
どうにかうるさいのを１人追い払ったが、まだ俺の隣にはホノカという女将がピタリとまとわりついている。
まったく、こっちは朝食の配膳中だってのに……。
「クロさーん」
「なぁホノカ、話はまた後で聞くから、お前も他の仲居をフォローしに行ってやれよ」
「そんなこと言ってーまたうやむやにする気っすねー？ うちは騙されないっすよー」
「んなことしねぇよ。頼むから、今は仕事をさせてくれ。一段落したら部屋に向かうから」
「っすー…約束したっすよー？」
「おう、約束だ。もし破ったら、お前の婿にでも何でもなってやるよ」
「その約束なんか嫌っす……」
仲居としての業務、午前の部。
今日も今日とて従業員は目が回るほどに忙しい。
俺といえば、狸娘とダッチワイフの面倒も兼ねているので、余計忙しさに拍車がかかっている。
はぁ……。
これで無給は割に合わないと思う、今日この頃。
「クロード様、アワビの間のお客様からご指名です」
「は？ 指名？」
客が外出した隙を見計らい、部屋の掃除、お茶パック・お茶請けの補充、シーツの交換、ゴミ箱に混入している薄く細長いゴムの処理をしていたときのこと。
マリアが部屋の外から良くわからないことを言ってきた。
「はい。女性のお客様なのですが、クロード様に是非ともお酌をお願いしたい、とのことです」
「お、お酌？ こんな真昼間に？」
「詳しくは存じ上げませんが、どうやら事情がお有りのようです」
「事情、ねぇ」
めんどくさい。
というか指名ってなんだ。
うちはホストクラブじゃないんだぞ。
「それ、どうにか拒否できない？」
「できません」
「そこをなんとか……」
「不可能です。お客様のニーズに全力でお応えすることこそ、マリアやクロード様を含めた、全仲居が果たすべく最大の責務であると自負しております」
「………」
正論過ぎてぐうの音も出ない。
「……わかった、行くよ。行けばいいんだろ？」
「ご理解いただきありがとうございます。お部屋の清掃はマリアにお任せください」
はぁ……。
最近、貧乏くじ引かされてばっかな気がする。
「うっす」
「クロさん遅いっすよー。どこで道草食ってたんすかー？」
「悪い。『若妻』の相手してたら遅くなった」
「わ、若…妻……？」
俺の言葉に何故か青ざめるホノカ。
そう、先程指名がどうのと言っていた件だ。
「ど、どゆことっすか？ 若妻ってなんなんすか！？」
「いや、さっき客間で…ぐほっ！？」
腹部に強い衝撃。
狸娘がいきなりタックルしてきたと思いきや、俺の腰に手を回し物凄い力で締め付けてきた。
「く、くっついてくんな…ごはっ！？ は、はーなーれーろー！！」
「夫と『ご無沙汰』の若妻に突き立てたんすか！？ クロさんの立派な『ゲイボルグ』を熟した肉壺にインサートしたんすか！？」
「い、意味がわからん！ とにかく離せ…腰が砕けるうぅ！」
「クンカクンカ！ クロさんは熟れた体の方が好みってことっすかー！？」
「そ、そういうわけじゃ……ドサクサに紛れて匂いを嗅ぐな！」
やばい…こ、腰が……
あああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー………
グキッ
午後。
場所は変わらずホノカの私室。
「おい、ホノカ」
「………」
「ホノカ？」
「………」
ご覧の通り、うちの女将は部屋の片隅で尻尾を抱えたまま完全にイジけてしまった。
まぁ、１００％誤解なんだが。
「ホノカ、話聞けって」
「………」
「あのな、俺は確かに若妻の相手をした。でもそれは指名されたから仕方なく……」
「慰めてあげたんすかー？」
「あぁ…いや違う！ 慰めはしたが『そっちの意味』じゃない！」
「つーん。信用できないっす」
「はぁ……」
……いや、待てよ。
どうして俺はホノカの機嫌をこうも必死に直そうとしてるんだ？
若妻の相手をしてイジけたこいつだが、よくよく考えてみれば俺に過失はないはず。
それにいつまでもこうしていては、今も忙しなく動き回る同僚達に申し訳ない。
「ふぅ…俺は仕事に戻る。いいな？」
「………」
顔を尻尾に埋めたままのホノカに背を向け、そのまま部屋を後にする。
………。
板長から『絶対に泣かせるな』と言われた俺だが……大丈夫、だよな？
「ふーー( ´⊿`)y-～～」
その夜。
夕食の配膳を終え、今はとりあえず一段落といった時間帯。
その隙に俺は小休憩という名目で旅館の裏手で葉巻を吹かす。
もちろん先輩方の許可はもらっている。
「ふぅ」
疲れた。
そして、今日１日中気になっていたことが１つ。
ホノカがあの後、どうなったのか。
仮にホノカを泣かせてしまったのなら、俺は板長に……。
「っ…ゴホッゴホ……」
葉巻の煙で咳き込む。
いやいや、ホノカがあの程度で涙を見せるはずがない。
短い付き合いだが、あいつがどういう人物なのかはこの半年で嫌というほどわかった。
それに板長だって、本気で俺を殺そうとは思っていないだろう。
『弟のような存在だ』と言っていたのが良い証拠だ。
………。
確証はないが。
「なーんで俺、こんなビクビクしてんだろ」
元々男性従業員が自分１人と肩身の狭い想いをしてきたが、やはり直接の原因は板長だろう。
頭ではわかっていても怖いものは怖い。
１度殺されかけた俺の体は、あの人を遺伝子レベルで恐怖してしまっている。
まったく…元傭兵とは思えない、我ながら情けない話だ。
「ん、もう１本いっとくか」
懐から２本目の葉巻を取り出す。
まぁ、色々考えても仕方がない。
とにかく今は任された業務を全うしよう。
それで殺されるんなら、それが俺の人生ってことで。
もうなるようになれってんだ……。
「すー……」
そんなことを考えながら、火を点けた葉巻を咥え煙を目一杯吸いこんでいると……
「あら、クロードじゃない」
「っ！？」
板長、降臨。
「ゴフ…ゴホッゴホッ」
「ちょ、ちょっと、大丈夫？」
突然ラスボス登場。
再び咳き込む。
そんな俺の背中を板長が優しくさする。
「ゴホ……ふぅ」
「落ち着いた？」
「は、はい」
「そ。というか、咳き込むぐらいなら葉巻なんて止めなさいよ。体にも良くないんだから」
「………」
この場合、原因はあなたですけどね。
「１０年前から吸ってるんで、たぶんもう（禁煙は）無理っす」
「そういうことは、ちょっとでも努力した後に言いなさい」
「う～っす」
「……喧嘩売ってる？」
「いえ違いますすみませんでしたっ」
………。
俺、一生かかってもこの人には勝てない気がする。
「つか、板長はなんでここに？ 休憩ですか？」
「そうよ。ずーっと厨房に籠もってると肩凝っちゃうから、たまに外に出てシャドーボクシングしてるの。トレーニングにもなるし一石二鳥よ。あんたもどう？」
「遠慮しときます」
休憩時間にトレーニング？
どこの戦闘民族だよ……。
「あ、ねぇクロード」
「はい？」
板長は板前帽を被り直しながら、
「後であたしの部屋に来なさい。『イイコト』させてあげるから♪」
「………」
本気で断りたかった。
でも板長の要求を跳ね除けることなんて俺にできるはずがない。
だから俺は彼女の言う事を素直に聞き入れる他なかった。
………。
………。
………。
下心？
ははっ、あるわけなイダロソンナモノ。
「やっと来たわね。さ、早くこっちに来なさい♪」
「っ……」
これ……どんなプレイ？
「あんた腕力あるし、マッサージさせたら気持ち良いかな～って思ったのよ」
「いや、あの……」
「あぁこの格好？ あたしからあんたへのちょっとしたサービスよ♪ これから重労働させるわけだから、前金代わりに着付けてみたの。どう？ 興奮する？」
「あー、まぁ、はぁ……」
冗談でもＢＢＡ無理すんなとは言えない。
いや、というよりむしろ……
「………」
「？ なによ？」
「いえ、別に」
普通に似合っているから驚いた。
普段のギャップと相まって、今の板長はとても魅力的…に見える。
こんなこと絶対本人には言わないが。
「そんなことより…ほら、早く始めなさい！ まずはオイルを背中に満遍なく塗るのよ。それから腰の辺りを重点的に揉みほぐして……」
板長は身に纏っていた浴衣を惜しげもなく脱ぎ捨てると、どこから持ちだしてきたのだろうか、折り畳み式のジュエルマットの上にうつ伏せに（全裸で）寝そべり、俺にマッサージの手順を指示し始める。
……俺へのサービス随分とゾンザイじゃないっすか？
「変なとこ触ったら殺すから」
「変なとこって、例えば？」
「あたしの性感帯」
「いや、俺板長の性感帯なんて知らないっす」
俺は袖を捲り、マッサージオイルを手の平に乗せ擦り合わせる。
……安産型のイイ尻だなー、なんて思いながら。
「んー、お尻は許してあげる。特別よ？」
「うーっす」
肉付きの良い、しかし限界まで絞り込まれた板長の裸体。
両足をキュっと閉じているため、尻肉に阻まれ秘所２カ所はギリギリ見えない。
………。
無心…無心……。
数十分後。
「ん～～～！ 気持ち良かった～♪ また頼んでも良いかしら？」
「見返り次第ですかね」
「現金な奴ねぇ……。あたしの体に触れるだけでもう十分ご褒美じゃない？」
「割に合いませんよ。『使わせて』くれるなら話は別ですけど」
その気はないが、勇気を出して少し喰い下がってみる。
俺なりのちょっとした反抗のつもりだ。
「は、ナマ言ってんじゃないわよ。あたしの体を好きにできるのは、死んだあたしの夫だけ。それとも、あんたがあたしを娶ってくれるの？ それなら話は別だけど」
「あ、いや……」
「まったく、冗談も休み休み言いなさい。それに、性欲処理ならホノカに頼めばいいじゃない？ あの子なら喜んで奉仕してくれるわよ？」
「勘弁してください……ガキ犯すほど腐っちゃいませんよ」
「なら、無料奉仕ってことで決まりね♪」
「………」
この旅館には、女しかいない。
とびきり厄介な女が、何人も―――――
～旅館・施設紹介～
『足湯』
９０％天然温泉
滋養、強壮、生殖能力増大、勃起倍増・勃起不全解消
冷え性や足のむくみにも効果あり
残り１０％は各種スライムのスペシャルブレンド
「………」
「クロさーん」
「………」
「もし婿になってくれたらー、マリアを『専用ダッチワイフ』として進呈するっすよー」
「いやーんクロード様のエッチー（棒」
「いらん！ つかマリアは何でここにいんだ！ お前はさっさと自分の仕事に戻れ！」
「いやーんクロード様のイ・ケ・ズ（棒」
「……マジで今すぐダッチワイフにしてやろうか？」
「業務に戻ります」
イソイソと持ち場へ戻っていくマリア。
どうにかうるさいのを１人追い払ったが、まだ俺の隣にはホノカという女将がピタリとまとわりついている。
まったく、こっちは朝食の配膳中だってのに……。
「クロさーん」
「なぁホノカ、話はまた後で聞くから、お前も他の仲居をフォローしに行ってやれよ」
「そんなこと言ってーまたうやむやにする気っすねー？ うちは騙されないっすよー」
「んなことしねぇよ。頼むから、今は仕事をさせてくれ。一段落したら部屋に向かうから」
「っすー…約束したっすよー？」
「おう、約束だ。もし破ったら、お前の婿にでも何でもなってやるよ」
「その約束なんか嫌っす……」
仲居としての業務、午前の部。
今日も今日とて従業員は目が回るほどに忙しい。
俺といえば、狸娘とダッチワイフの面倒も兼ねているので、余計忙しさに拍車がかかっている。
はぁ……。
これで無給は割に合わないと思う、今日この頃。
「クロード様、アワビの間のお客様からご指名です」
「は？ 指名？」
客が外出した隙を見計らい、部屋の掃除、お茶パック・お茶請けの補充、シーツの交換、ゴミ箱に混入している薄く細長いゴムの処理をしていたときのこと。
マリアが部屋の外から良くわからないことを言ってきた。
「はい。女性のお客様なのですが、クロード様に是非ともお酌をお願いしたい、とのことです」
「お、お酌？ こんな真昼間に？」
「詳しくは存じ上げませんが、どうやら事情がお有りのようです」
「事情、ねぇ」
めんどくさい。
というか指名ってなんだ。
うちはホストクラブじゃないんだぞ。
「それ、どうにか拒否できない？」
「できません」
「そこをなんとか……」
「不可能です。お客様のニーズに全力でお応えすることこそ、マリアやクロード様を含めた、全仲居が果たすべく最大の責務であると自負しております」
「………」
正論過ぎてぐうの音も出ない。
「……わかった、行くよ。行けばいいんだろ？」
「ご理解いただきありがとうございます。お部屋の清掃はマリアにお任せください」
はぁ……。
最近、貧乏くじ引かされてばっかな気がする。
「うっす」
「クロさん遅いっすよー。どこで道草食ってたんすかー？」
「悪い。『若妻』の相手してたら遅くなった」
「わ、若…妻……？」
俺の言葉に何故か青ざめるホノカ。
そう、先程指名がどうのと言っていた件だ。
「ど、どゆことっすか？ 若妻ってなんなんすか！？」
「いや、さっき客間で…ぐほっ！？」
腹部に強い衝撃。
狸娘がいきなりタックルしてきたと思いきや、俺の腰に手を回し物凄い力で締め付けてきた。
「く、くっついてくんな…ごはっ！？ は、はーなーれーろー！！」
「夫と『ご無沙汰』の若妻に突き立てたんすか！？ クロさんの立派な『ゲイボルグ』を熟した肉壺にインサートしたんすか！？」
「い、意味がわからん！ とにかく離せ…腰が砕けるうぅ！」
「クンカクンカ！ クロさんは熟れた体の方が好みってことっすかー！？」
「そ、そういうわけじゃ……ドサクサに紛れて匂いを嗅ぐな！」
やばい…こ、腰が……
あああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーー………
グキッ
午後。
場所は変わらずホノカの私室。
「おい、ホノカ」
「………」
「ホノカ？」
「………」
ご覧の通り、うちの女将は部屋の片隅で尻尾を抱えたまま完全にイジけてしまった。
まぁ、１００％誤解なんだが。
「ホノカ、話聞けって」
「………」
「あのな、俺は確かに若妻の相手をした。でもそれは指名されたから仕方なく……」
「慰めてあげたんすかー？」
「あぁ…いや違う！ 慰めはしたが『そっちの意味』じゃない！」
「つーん。信用できないっす」
「はぁ……」
……いや、待てよ。
どうして俺はホノカの機嫌をこうも必死に直そうとしてるんだ？
若妻の相手をしてイジけたこいつだが、よくよく考えてみれば俺に過失はないはず。
それにいつまでもこうしていては、今も忙しなく動き回る同僚達に申し訳ない。
「ふぅ…俺は仕事に戻る。いいな？」
「………」
顔を尻尾に埋めたままのホノカに背を向け、そのまま部屋を後にする。
………。
板長から『絶対に泣かせるな』と言われた俺だが……大丈夫、だよな？
「ふーー( ´⊿`)y-～～」
その夜。
夕食の配膳を終え、今はとりあえず一段落といった時間帯。
その隙に俺は小休憩という名目で旅館の裏手で葉巻を吹かす。
もちろん先輩方の許可はもらっている。
「ふぅ」
疲れた。
そして、今日１日中気になっていたことが１つ。
ホノカがあの後、どうなったのか。
仮にホノカを泣かせてしまったのなら、俺は板長に……。
「っ…ゴホッゴホ……」
葉巻の煙で咳き込む。
いやいや、ホノカがあの程度で涙を見せるはずがない。
短い付き合いだが、あいつがどういう人物なのかはこの半年で嫌というほどわかった。
それに板長だって、本気で俺を殺そうとは思っていないだろう。
『弟のような存在だ』と言っていたのが良い証拠だ。
………。
確証はないが。
「なーんで俺、こんなビクビクしてんだろ」
元々男性従業員が自分１人と肩身の狭い想いをしてきたが、やはり直接の原因は板長だろう。
頭ではわかっていても怖いものは怖い。
１度殺されかけた俺の体は、あの人を遺伝子レベルで恐怖してしまっている。
まったく…元傭兵とは思えない、我ながら情けない話だ。
「ん、もう１本いっとくか」
懐から２本目の葉巻を取り出す。
まぁ、色々考えても仕方がない。
とにかく今は任された業務を全うしよう。
それで殺されるんなら、それが俺の人生ってことで。
もうなるようになれってんだ……。
「すー……」
そんなことを考えながら、火を点けた葉巻を咥え煙を目一杯吸いこんでいると……
「あら、クロードじゃない」
「っ！？」
板長、降臨。
「ゴフ…ゴホッゴホッ」
「ちょ、ちょっと、大丈夫？」
突然ラスボス登場。
再び咳き込む。
そんな俺の背中を板長が優しくさする。
「ゴホ……ふぅ」
「落ち着いた？」
「は、はい」
「そ。というか、咳き込むぐらいなら葉巻なんて止めなさいよ。体にも良くないんだから」
「………」
この場合、原因はあなたですけどね。
「１０年前から吸ってるんで、たぶんもう（禁煙は）無理っす」
「そういうことは、ちょっとでも努力した後に言いなさい」
「う～っす」
「……喧嘩売ってる？」
「いえ違いますすみませんでしたっ」
………。
俺、一生かかってもこの人には勝てない気がする。
「つか、板長はなんでここに？ 休憩ですか？」
「そうよ。ずーっと厨房に籠もってると肩凝っちゃうから、たまに外に出てシャドーボクシングしてるの。トレーニングにもなるし一石二鳥よ。あんたもどう？」
「遠慮しときます」
休憩時間にトレーニング？
どこの戦闘民族だよ……。
「あ、ねぇクロード」
「はい？」
板長は板前帽を被り直しながら、
「後であたしの部屋に来なさい。『イイコト』させてあげるから♪」
「………」
本気で断りたかった。
でも板長の要求を跳ね除けることなんて俺にできるはずがない。
だから俺は彼女の言う事を素直に聞き入れる他なかった。
………。
………。
………。
下心？
ははっ、あるわけなイダロソンナモノ。
「やっと来たわね。さ、早くこっちに来なさい♪」
「っ……」
これ……どんなプレイ？
「あんた腕力あるし、マッサージさせたら気持ち良いかな～って思ったのよ」
「いや、あの……」
「あぁこの格好？ あたしからあんたへのちょっとしたサービスよ♪ これから重労働させるわけだから、前金代わりに着付けてみたの。どう？ 興奮する？」
「あー、まぁ、はぁ……」
冗談でもＢＢＡ無理すんなとは言えない。
いや、というよりむしろ……
「………」
「？ なによ？」
「いえ、別に」
普通に似合っているから驚いた。
普段のギャップと相まって、今の板長はとても魅力的…に見える。
こんなこと絶対本人には言わないが。
「そんなことより…ほら、早く始めなさい！ まずはオイルを背中に満遍なく塗るのよ。それから腰の辺りを重点的に揉みほぐして……」
板長は身に纏っていた浴衣を惜しげもなく脱ぎ捨てると、どこから持ちだしてきたのだろうか、折り畳み式のジュエルマットの上にうつ伏せに（全裸で）寝そべり、俺にマッサージの手順を指示し始める。
……俺へのサービス随分とゾンザイじゃないっすか？
「変なとこ触ったら殺すから」
「変なとこって、例えば？」
「あたしの性感帯」
「いや、俺板長の性感帯なんて知らないっす」
俺は袖を捲り、マッサージオイルを手の平に乗せ擦り合わせる。
……安産型のイイ尻だなー、なんて思いながら。
「んー、お尻は許してあげる。特別よ？」
「うーっす」
肉付きの良い、しかし限界まで絞り込まれた板長の裸体。
両足をキュっと閉じているため、尻肉に阻まれ秘所２カ所はギリギリ見えない。
………。
無心…無心……。
数十分後。
「ん～～～！ 気持ち良かった～♪ また頼んでも良いかしら？」
「見返り次第ですかね」
「現金な奴ねぇ……。あたしの体に触れるだけでもう十分ご褒美じゃない？」
「割に合いませんよ。『使わせて』くれるなら話は別ですけど」
その気はないが、勇気を出して少し喰い下がってみる。
俺なりのちょっとした反抗のつもりだ。
「は、ナマ言ってんじゃないわよ。あたしの体を好きにできるのは、死んだあたしの夫だけ。それとも、あんたがあたしを娶ってくれるの？ それなら話は別だけど」
「あ、いや……」
「まったく、冗談も休み休み言いなさい。それに、性欲処理ならホノカに頼めばいいじゃない？ あの子なら喜んで奉仕してくれるわよ？」
「勘弁してください……ガキ犯すほど腐っちゃいませんよ」
「なら、無料奉仕ってことで決まりね♪」
「………」
この旅館には、女しかいない。
とびきり厄介な女が、何人も―――――
～旅館・施設紹介～
『足湯』
９０％天然温泉
滋養、強壮、生殖能力増大、勃起倍増・勃起不全解消
冷え性や足のむくみにも効果あり
残り１０％は各種スライムのスペシャルブレンド
13/10/13 21:29更新 / HERO
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