連載小説
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4泊目 『お人形さん遊び』
「買い出しにお付き合いいただき、ありがとうございます」
「おーう」
「団体様がご到着される前に、食材の補充をと思いまして」
「おーう」
「本来はマリア1人で出向く予定でしたが、可能ならばクロード様を同行させても良いと……」
「誰が?」
「リン様です」
「あ、そ……」

ホノカじゃねえのかっ!
あいつなら文句の1つでも言えたのに……。

「しかし意外です」
「ん、なにが?」
「クロード様が素直に同行してくれたことが、です」
「いや素直ではなかっただろ。面倒だって言ったらお前、俺の腕凄い力で握ってきただろ。ミシミシいってたぞ」
「クロード様」
「うん?」
「何を仰っているのか、マリアには理解しかねますが」
「おい!」

そんなどーでもいいやりとりをしながら、俺はリビングドールの少女マリアと卸問屋までの道のりをノコノコのんびりと歩く。
正直なところ、旅館の仕事よりもこちらの方がダントツで楽なため、端から同行するつもりではあった。
しかし素直に了承するのも癪だったので、建前として渋るような態度を見せたのだが……

「見ろ、この痣が証拠だ! 手の大きさがやけに小せえから尚薄気味悪いわ!」
「これは痛々しいですね。一体誰がこのような酷いことを?」
「………」

ダッチワイフにしてやろうかと本気で考えてしまった。












問屋にて。

「……はい、承りました。後程旅館の方へお届けに参りますね」
「よろしく頼む」

窓口の美人受付嬢イネス(キキーモラ)に食材の発注を依頼。
刺身として出す魚介系の生鮮食品は、客の口に入る直前まで鮮度を保つため、ギリギリまで配送を遅らせるよう指示する。
そして、それ以外の食材に関しては……

「残りはこっちで運ぶから、準備を頼む」
「ほ、本当によろしいのですか? こちらでお届けすることもできますが……」
「『女将の意向』だ。無駄な配送料をかけたくないんだと」
「はぁ、左様ですか」

心配そうな表情を見せるイネス。
彼女の気遣いは嬉しいが、下っ端が上に逆らうことはできない。
それにまぁ、適材適所というやつだ。
怪力の俺を有効活用して無駄な出費を抑える……確かに合理的ではある。
………。
正直に言おう。
こんなことでいちいち腹を立てていたら、とてもじゃないがあの旅館で働くことはできない。
慣れとは恐ろしいものだ。

「ま、いつものことだ。あんたが気にするようなことじゃない」
「……承知致しました。道中、くれぐれもお気をつけください」
「おう」

イネスは毎度このように心配をしてくれる。
旅館ではなかなか労わられることのない俺にとって、彼女は数少ない癒しポイントでもある。
はぁ…俺の周りにもう少しこういう良い女がいてくれれば……。
いや、『良い女』は仰山いるのだが…そう、『中身』が……ね。












帰路。

「重い……」
「マリアがお持ち致しましょうか? まだ幾分余裕がありますが」
「いい。お前に頼るくらいなら苦しみを選ぶ」
「そうですか。クロード様は『ドM』なのですね」
「うっせ!」

荷物の重さに顔を歪める俺とは対照的に、小さな身体のマリアは俺の倍はあるであろう荷物を両手にぶら下げ、『この程度で根を上げているのですか?』といわんばかりの表情でこちらを一瞥する。
ったく、ダッチワイフ幼女が調子乗りやがって……。
まぁいい。苦しいとは言っても、旅館の業務に比べれば遙かにマシだ。
ここはゆっくり時間稼ぎ…もとい、寄り道でもしていくか。
戻ったらまた過酷な業務に逆戻りなんだ。ちょっとくらいサボってもバチは当たらんだろ。
さて、となると問題は……

「なぁマリア」
「はい、なんでしょうか」

このダッチワイフを如何に説得するかだ。
ホノカの右腕とも呼べるこいつは、およそスタミナ切れというものを知らない。
なので、『働け』と命令されれば三日三晩…いや、その命が朽ち果てるまで働き続けることだろう。
まぁそもそも、人形のこいつに命という概念があるのかどうかは甚だ疑問ではあるが……。
ともかく、仕事馬鹿のこいつを言い包めることは簡単ではない。
しかも下手をしたらチクられる可能性もある。

「クロード様?」
「いやなに。お前、いつも頑張ってんなと思ってさ」

策はないが、とりあえず褒めてみることにした。

「あいつ(ホノカ)の無茶な要求にも顔色1つ変えずに応じるんだから、すげえよ」
「マリアは主から与えられた使命を日々こなしているだけなのですが」
「そこが凄いんだよ。少なくとも、俺には真似できねぇな」
「はぁ。マリアは、凄いのですか?」
「おう。胸張っても良いと思うぞ」
「………」

マリアはその場で足を止め俯いてしまった。
ま、まずったか?

「………」
「お、おい」
「……です」
「え?」

マリアは顔を上げると、こちらに向かって深々とお辞儀をする。

「そのような温かいお言葉をかけてくださるなんて…マリア、感激です」
「お、おう」

これは……予想外の反応だ。

「ホノカ様にも労わりのお言葉をいただくことはありますが、クロード様にそう仰っていただけるとは…マリア、夢にも思いませんでした」
「あ、あぁ、そう」

驚いた。
ここまで顕著に反応するとは。
感情の起伏が小さいマリアのことだから、てっきり軽く流されるだけかと思っていたのだが……。

「しかし、なぜ急にそのようなことを?」
「ん? あ…あぁいや、別に深い意味はねぇよ。ただの気まぐれだ」
「はぁ」

ふむ…畳みかけるか。

「そうだ、なんかプレゼントしてやろうか?」
「ぷれぜんと? どなたが、どなたにですか?」
「いや、俺がお前に」
「クロード様が、マリアに?」
「おう」
「なぜですか? マリアは、クロード様から贈り物をしていただく理由がありません」

そうきたか……。
だが、その返しは想定済だ。

「んなもんねぇよ。それともなにか? 気に入った相手にプレゼントするのに理由が必要か?」
「それは……」
「まぁ強いて言うなら、日頃頑張ってるお前に、俺からのちょっとした労わりの気持ちってとこだ。実際色んなとこでサポートしてもらってるしな」
「………」

よし、これでトドメだ!

「なぁマリア」
「………」
「『アンティークショップ』って、知ってるか?」
「………(ピクッ」












商業地区のとある一角。

「クロード様、ここは一体?」
「『アリスの人形専門店』。巷じゃけっこう有名らしい」

魔物が経営しているらしいが、こっちも魔物同伴なので特に問題はないだろう。

「しかし、なぜマリアの好みをクロード様が把握しているのですか?」
「お前の着てるその服…『ロリータファッション』って呼ぶんだっけか? そういう業物売ってる店っつたら、こういう魔物系列の店しかねぇかなと思ってさ」
「………」

マリアは驚きと嬉しさがごちゃ混ぜになったような顔でこちらを見る。
そして、同時に俺も驚いた。
普段無表情なリビングドールも、こんな人間らしい表情を出せるんだな、と。

「ま、とりあえず入ろうぜ。魔物が扱う人形なんて面白そうだ」
「しかし、持ち合わせが……」
「プレゼントするって言ったろ? 俺に任せとけって」
「………」

感謝の意を表しているのか、マリアは黙ってお辞儀をする。
……今更サボるための口実でしたなんて言えないな、こりゃ。












旅館『豆狸』にて。

「ホノカ様、ただいま戻りました」
「あーお疲れ様っすー。随分遅かったっすねー?」
「実は、少々寄り道をしてしまいまして…申し訳ございません」
「はわ! 勤勉なマリアが珍しいっす! さてはークロさんにそそのかされたっすねー?」
「………」
「別にー怒ってるわけじゃないっすよーノ マリアにはーいつもお世話になってるっすからねー。寄り道したくらいじゃ怒れないっすよー。イイ気分転換になったっすかー?」
「はい、おかげ様で」
「それは良かったっすー♪」

そう言ったところで、ホノカはあることに気づく。

「っす? その袋はなんすかー?」
「これは、クロード様からの贈り物です」
「お、贈り物…っすか?」

マリアの言葉に動揺を隠せないホノカ。
クロさんが…マリアに贈り物……?

「いえ、特に深い意味はありません。普段お世話になっているので、そのお礼代わりに…ということだそうです」
「そ、そうなんすか? それなら構わないんすけど……」

まったく!
うちという嫁(自称)がありながら、他の女に手を出すとはこれ如何に!
これはキツ〜イお仕置きが必要かもしれない……。

「ところで、当のクロさんはどこっすかー?」
「クロード様なら、厨房でリン様にお叱りを受けている最中かと」
「あ、そっすか」

既に制裁済だった。

「ならーうちは冷やかしに行ってくるっすー。マリアは休んでてイイっすからねーノ」
「お気づかい、ありがとうございます」





………。

ホノカが去って数分後。

「………」

ガサゴソ……

「猫耳……♪」



気になるあの人からの贈り物。
誰も見ていない隙に、ソレをそっと頭に取り付ける。
本当はあの人にも見てほしかったが、仕方ない。
また後日、改めてお披露目することにしよう−−−−−

















〜旅館・施設紹介〜

『土産売り場』

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13/12/18 17:47更新 / HERO
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■作者メッセージ
何ヶ月ぶりでしょうか@@!
ここ最近バタバタが止まりません!
書く時間がありません!
でも書きたい!

なにこのジレンマ!

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