連載小説
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2泊目 『告白と水死体』
「クロード君おはよ〜♡」
「うっす」
「おはようクロード。今日も気持ちの良い朝だ」
「うっす」
「んも〜♪ クロード君てばいっつもシャイなんだから〜♡」
「………」

仲居の朝は早い。
そして他の従業員(魔物)との挨拶はいつもめんどくさい。
今朝は廊下の清掃中、アヌビスとホルスタウロスの2人組に捕まってしまった。
一応2人共年上なので敬意ある態度で接する。

「そうだクロード。女将がお前を呼んでいたぞ」
「え、マジっすか」
「あぁ。なんでも、お前に大事な話があるらしい」
「はぁ、そっすか」
「早く行った方がいいよ〜? ここの掃除は私達がやっておくから〜」
「すんません。お願いします」

先輩2人に頭を下げ、俺は小走りでホノカ(女将)のもとへと急ぐ。
………。
この旅館の従業員は、イイ奴が多くて困る……。





「んも〜ほんと可愛いよね〜クロード君♡」
「あぁ。今すぐにでも犯してやりたいところだ」
「でも〜女将さんから『お触り禁止令』が出てるんだよね〜……」
「ここで働く唯一の男だからな。それに何をやらせても期待以上の成果をあげる…女将が気に入るのも無理はない」
「は〜残念……。でも〜仲良くお話するくらいならOKだよね〜♪」
「そうだな。さぁ、仕事だ。可愛い後輩の分まで、私達がキッチリ働こうじゃないか」
「は〜い♪」












厨房付近にて。

「あ。クロード! ちょっと来なさい!」
「げっ」

ホノカに会いに行く途中、厨房から出てきたある人物に呼び止められた。
白い板前服に長い黒髪が映える彼女の正体は……

「聞こえたわよ? 『げっ』、とはご挨拶ね?」
「………」

彼女は板長。本名はリン。
俺にとってはある意味最大の天敵とも言える人物だ。
この人にはここへ来てほぼ毎日のように説教されている。
また怒られんのかなぁ……よし! 逃げよう。

「すんません、俺急いでるんで。それじゃ……」
「待・ち・な・さ・い!」
「ぐぇ!?」

襟元をむんずと掴まれ捕獲された。

「ケホッ…ゲホ……」
「まったく、どうして逃げようとするのよ?」
「ケホ……どうせ、また説教かなんかですよね……」
「あんたねぇ…あたしのこと一体なんだと思ってるのよ?」
「……暴力魔」
「わかった、死にたいのね?」
「すんませんでしたorz!」
「なら余計な事言わないの!」

俺は見た。
板長の右の拳に邪悪なオーラが凝集していく光景を……。

「それで、俺になんか用っすか?」
「『なにか用ですか』、でしょ?」
「……なにか、用ですか」
「別に用って程じゃないわ。ただ仲居達が良くあんたのことを話してるから、ちょっと気になっただけ」
「はぁ、そっすか」
「………」
「……そ、そうなんですか」

察しの通り、俺が目上の人間?を敬うようになったのは、板長の調きょ…教育があってのことだ。
実際普段からここまで堅苦しくは話さないが、板長が相手だとそうはいかない。
はぁ…息が詰まりそうだ。
あと口うるさい姉ができたみたいで、この人かなり苦手だ。

「それで、どういう悪評ですか? 一応仕事はちゃんとやってるつもりですけど」
「違うわよ、むしろその逆。あんた、最近凄く評判良いのよ。どうして?」
「いや、俺に聞かれても……」
「ベテランのスミレさん(妖狐)とアヤメさん(稲荷)も、『あのツンケンしたところがぁ、母性本能をくすぐるんどすぅ♪ もう堪りまへんわぁ♡』とか言って、ちゃんと話聞いてくれないのよ」
「はぁ」
「で? どうやって仲居達に取り入ったの?」
「と、取り入るとか…俺なんもしてませんって!」
「………(じと〜」
「ホントですよ! 俺にそんな器用な真似できると思いますか!?」
「ん、言われてみれば確かにそうね」
「………」

なんだよもう……。

「……もう行っていいですか? 女将に呼ばれてるんですよ」
「あら、そうだったの? それを先に言いなさいよ?」
「急いでるって言ったじゃないですか!」
「あはは! ごめんごめん。ほら、もう行っていいわよ」
「……はぁ」

やれやれ…やっと解放されたか。
と、ほっと一息ついたのも束の間、

「あ、クロード!」
「今度はなんですかー?」
「ホノカのこと泣かしたら……殺すからね?」
「………」

………。
なんも言えねぇ……。












「あークロさん、随分遅かったっすねー?」

やっとのことでホノカの部屋に到着。
この旅館は広い。とにかく広い。
狭苦しいよりはマシだが、広さに比例して従業員の仕事量も増える。
さらに今でも増築を繰り返しているというのだから堪らない。

「途中で板長に捕まったんだ、勘弁してくれ」
「ははー、叔母さんっすかー。なら仕方ないっすねー」
「なぁ、板長なんであんな俺に厳しいんだ? 俺なんかしたか?」
「それはクロさんが半年前ー叔母さんに生意気な態度をとったからじゃないっすかー?」
「うっ…思い出させんなよ……」

そう。
半年前の俺は、どうしようもない命知らずだった。
だからこそ板長に喧嘩を売り、そして……

「100メートル吹っ飛ばされたんすよねー♪」
「……お前楽しそうだな」
「そっすかー? 気のせいっすよー♪」

おかげで俺は転職初日に、全治1ヶ月の重傷を負った。
というか辞めたとはいえ、傭兵の俺を100メートル以上吹っ飛ばすってどういうこと?
トラウマの殿堂入りだよまったく……。

「でもー良く生きてたっすよねー? うちー正直死んだと思ったっすよー」
「いや、間違ってはいない。美人のエンジェルが数人がかりで俺を連れ去ろうとしてきた」
「クロさんモテモテっすねーヾ(*´∀`*)ノ♪」
「やめろ…まったく笑えん」

とまぁそういう理由もあって、俺は板長のことが苦手なのだ。
オワカリイタダケタカナ?

「ま、まぁこの話は置いておこう。それで、俺に大事な話があるんだって?」
「あー、そうだったっすー」

ホノカは姿勢を正すと、いつもと変わらない無表情で、

「クロさん」
「ん?」
「うちの『婿』になるっす」
「んー…………ん?」












「ふぃ〜」

深夜1時。
この時間の露天風呂は、客を含め従業員ですら立ち入り禁止だ。
……『掃除係』を除いては。

「役特、か」

夜中の貸し切り温泉で疲れた身体を温める。
入浴後に掃除しなければならないことを考えると少々憂鬱だが、この時間が唯一の至福であることに変わりはない。

「………」

それはそうと、気になるのは今朝のホノカの一言だ。
『うちの婿になるっす』、だって?
おいおい、いくらなんでも冗談が過ぎる。
………。
ただ、

『大人をからかうな、狸娘』
『はわ!?』

いくら女心に疎い俺でも、好意を持たれていることくらいはわかる。
だからあいつの額を軽く小突いただけで、無碍に否定はしなかった。
まぁ、答えを先延ばしにしただけだが。

「ふぅ」

あいつ…ホノカは、どうして俺を好きになった?
こんな傭兵上がりのどうしようもない男を、なぜ?
……わからん。
キツイ仕事ばかり回してくるもんだから、俺はてっきり嫌われているんだと思っていた。
………。
いや、やっぱり女心はわからん。

「ん、そろそろ上がるか」

考え事をしていたせいで時間があっという間に過ぎてしまった。
早いとこ掃除しないと明日に響きそうだ。

「よっこら……」
「あら、クロードじゃない?」
「( ゚д゚)!?」

立ち上がろうと腰を上げた瞬間、貸し切りだったはずの露天風呂に突然、板長が乱入してきた。
彼女は右腕で胸を隠し、左手にはタオルが握られている。
ッ……他に隠すとこあるだろ!

「い、板長!? なんでここに!?」
「そりゃぁお風呂に入るためよ。それ以外に理由ある?」
「……いや」
「なら、お邪魔させてもらうわね♪」
「………」

言えない。
掃除係以外は立ち入り禁止だなんて、板長相手に言えるわけがない。
言いたいことも言えず悶々とする俺を尻目に、板長は木製の風呂桶で身体を軽く洗い流すと、『隠すべきところも隠さず』俺のすぐ傍のスペースにゆっくりと足から浸かってきた。

「はぁ〜生き返るわ〜〜♪」
「………」
「ちょっと、どうして離れるのよ?」
「いや、別に」

実は夜中の露天風呂で板長と鉢合わせになるのは、これが初めてではない。
たしか今回で4度目だろう。
……ラッキー、だと?
ふざけるなっ!
俺にとっては拷問以外のナニモノでもないわ!!

「はは〜ん♪ あんたもしかして、照れてる?」
「っ……」
「あはは♪ 裸の付き合いは初めてじゃないんだから、そんなに恥ずかしがらなくてもイイじゃない」
「べ、別に恥ずかしがってなんか……」
「ふ〜ん? あたし、体にはけっこう自信あるんだけどなぁ〜」

そう言うと板長は、形の良い巨大なメロン2つを両腕で抱くように持ち上げる。
………。
俺は息をするかのように顔を背ける。
――この人本当に30過ぎてんのか?

「………」
「クロード? 見たいなら好きなだけ見てもイイのよ?」
「誰が!」
「あはは! 冗談よ、冗談」

はぁ…相手が板長じゃなきゃぶん殴ってるところだ。

「ま、あんたに体見られたところで、あたしは別に気にしないけどね」
「……俺を男として認識してないってことですか?」
「んー、少し違うわね。あんたはあたしにとって、そうね……弟みたいなもんだから」
「弟、ねぇ」

やっぱり男として見られてなかった。

「板長って、男に耐性ありますよね」
「ん? そう見える?」
「はい。いくら俺が年下だからって、羞恥心なさ過ぎやしませんか? 強者の余裕ってやつですか?」
「最後の言葉は聞き流しておくわね。まぁ、男に慣れてるって意味では間違ってないわ。16歳のときまで、兄さんと一緒にお風呂入ってたくらいだし」
「ぶっ!?」

16歳で実の兄と風呂!?
極度のブラコンかなんかか!?
いや、シスコンの可能性も……。

「そんなに驚くことかしら? どこの家だって同じようなもんでしょ?」
「ま、まぁ…そうです、ね。家庭によっては……」

咄嗟に嘘をついた。
下手に否定して反感を買うよりはマシだろう。
嘘も方便というやつだ。

「ふぅ」

話すネタが尽きたのか、板長はゆっくりと目を閉じお湯の温もりに身を委ねる。
………。
正直な話、俺は早く風呂の掃除がしたい。

「あ、そうだ」
「? なんですか……って!?」

板長は湯船に沈めた身体を起こすと、頭からずり落ちたタオルを元の位置に戻しながら、ただでさえ近い俺との距離をさらに縮めてきた。
顔はこれからキスでもするのかと思う程に近い。
くっそ……目のやり場に困るっつの!

「な、な、なんすか!?」
「クロード、正直に答えなさいよ?」
「だ、だから何を……」
「あんた、ホノカをフッたでしょ」
「………」

板長の最強に恐ろしい微笑みに思考回路がショート寸前。
つーかあいつ、板長にチクリやがったな?

「で、どうなの?」
「あ…いや、フッたというよりは、保留にしたというか……」
「保留? 気はあるってこと?」
「あー、それは……」

実を言うと、まったく気がない……わけではない。
まだ15の青臭い小娘だが、あと5年もすれば絶対美人になる。
それに極めつけは、あの類稀なる商売の才能。
あいつと一緒になる奴は、一生食うに困ることはないだろう。
まぁ、それが理由であいつを意識しているわけではないが……。
ただ、普段コキ使われている分、そういった感情を表に出しにくいというのもまた事実。
年齢も10近く離れているため、やはりどうしても純粋な恋愛感情を抱くことができない。
『やり手の女将』に『元傭兵』……世間から見てもかなりアンバランスな組み合わせだろう。

「あー、んー……」
「別に難しく考える必要ないわよ。ただ単純に、あんたがホノカをどう思ってるか。あたしはそれが知りたいだけ」
「………」

俺にとって、一体ホノカはどういう存在なんだ?
好き、なのか?
いや、それならあの時ホノカの申し出を受けていたはず。
むぅ……。

「嫌いでは、ないです」
「ふ〜ん? そう」
「え」

中途半端な返答をしたもんだから、てっきりぶん殴られるのかと思った。
身構え損だ。

「ふ〜んて…それだけですか?」
「なに言ってんのよ? あんたはホノカを嫌ってない。それが聞けただけで十分よ」
「はぁ」

板長は再び湯船に身体を沈める。
心なしか、どこか満足げな表情を浮かべているようにも見える。

「♪」
「あの、板長」
「ん〜? なに〜(´ω`〃)?」

気持ち良さそうに温泉を満喫する板長。
だが俺は、そんな彼女に、あえて言わせてもらう。

「掃除したいんで、早めに上がってくれませんか?」
「………(-_-#)」

ゴキッ ミシッ メキョッ





翌朝
露天風呂に変わり果てた姿で浮かぶクロードを、他の仲居達が発見したそうな――――





〜旅館・施設紹介〜

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50分間 25000エルにて極上のマッサージを体験可能
エントランスにて受付を承ります
(※心付け次第ではそれ以上の『御奉仕』も……?)

13/07/03 16:57更新 / HERO
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■作者メッセージ
構想が…溢れてくる!
誰も私を止められないっ

※執筆速度は変わりません

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