29品目 『絶対領域』
「ん……」
早朝。
イチカが目を覚ました場所は寝室。
見慣れない光景に一瞬戸惑うものの、すぐさま自分が旅行中の身であることを思い出す。
「………」
むくりと体を起こすと、枕元に置かれた愛用の『下着』にゆっくりと手を伸ばす。
「(σω-)」
眠い目を擦りながら気だるそうに身支度をする。
昨日は少々ハメまく……ハメを外し過ぎてしまった。
いや、真の原因はあの吸血お嬢様が因縁をつけてきたせいだ。
アレさえなければ、今頃はファルシロンと同じベッドで子作りに励んでいたことだろう。
本来なら皆が寝静まった後、『全裸』でファルシロンの部屋に突入する予定だったが、体が疲弊しきっていたため、自室で服を脱いで待機している内に眠りに落ちてしまったのだ。
「………」
狸印のロゴが入ったノースリーブを着ると、イチカは音もなく部屋を後にする。
寝込みを襲うという計画が潰えた今、彼女の目的はただ1つ。
そう、愛しい彼のために『モーニングコール』のサービスを提供するのだ。
「すっすっすー♪」
イチカの足取りは軽い。
寝込みを襲えなかったとはいえ、朝一番に彼の可愛い寝顔を見ることができる。
もう想像しただけで濡れ……胸が高鳴るというものだ。
「シロさんの部屋はー、ここの角っすよねー」
ちなみに下半身は下着姿のまま。
これはドジっ娘というわけではなく、彼の慌てふためく様を見たいがための策略。
寝顔の観賞と同時にイタズラもしてしまおうという、まさに2段構えの完璧な計画なのだ。
期待に胸を膨らませながら、イチカは長い廊下の一角を曲がる。
すると……
「「……あ」」
廊下の奥に、肌が透けて見える程生地の薄いロングドレスを着たお嬢様の姿が。
「………」
一瞬動揺したものの、すぐさま歩きだす。
そんなイチカを見たロザリンティアも同様に歩きだす。
「「………」」
両者無言のまま少しずつ距離を詰めていく。
まさか……まさかとは思うが、あの吸血女も自分と同じ目的が?
いやそもそも、あの高飛車女が律儀にも朝早く彼を起こしに行くだろうか?
……偶然か?
………。
待て、ならばあの男を誘う気満々の淫らな格好はどう説明する?
2つの余分な脂肪をバインバインと揺らしながら品性良く歩くその姿は、世界中の男を悩殺するには十分過ぎる。
これに見えそうで見えないスケスケドレスとくれば……チッ。
「「………」」
そしてイチカの予想通り、ロザリンティアはファルシロンの眠る部屋の前で足を止めた。
『お前何しに来たの?』と言わんばかりに睨み合う2人。
そして、
「……こんなところで会うなんて、奇遇ですわね」
「ほんとっすねー。お嬢様はーこれからどちらへー? お小水ならアッチっすよー?」
「いいえ、今は催していませんの」
「そっすかー」
「えぇ」
「………」
「………」
………。
「コホン……実はわたくし、これからファルシロンを起こしにいくつもりでしたの。近い未来夫となる殿方にできる、わたくしなりのせめてもの礼儀ですわ」
「ほほー、それは感心っすねー…………で? 本当の目的はなんすかー?」
「で、ですからファルシロンを起こしに……」
「起こすだけっすかー? うちならーもっと気持ちイイ方法で目覚めてもらうっすけどねー」
「ふん、狸の気持ちイイなど底が知れていますわね。わたくしなら、もっと盛大に『ヌいて』差し上げることができますわ!」
「………」
お嬢様のギリギリ発言に戸惑うイチカ。
しかし、
「いやいやー、そんな『汚れ仕事』はお嬢様に似つかわしくないっすよー。ここはうちに任せるっすー」
「そういうわけにはまいりませんわ。『朝の処理』も、貴族であるこのわたくしが成すべき義務の1つですの」
「無理はいけないっすよー。お嬢様に『喉奥奉仕』はできないっすよー」
「『上目遣いバキューム』という秘伝の技がありますの。心配はご無用ですわ」
「………」
「………」
………。
「あー『搾りたての生臭いミルク』が飲みたいっすねー」
「そうですわね。わたくしも『白オタマジャクシの踊り食い』がしたいですわ」
「………」
「………」
………。
「「っ!!!」」
両者ともほぼ同時に、半ばタックルするかのようにファルシロンの部屋の扉をこじ開ける。
そして我先にとベッドに向かって飛び込む。
「くっ! ファルシロン(の息子)はわたくしのモノですわよ!?」
「先に手(口)に入れた方が勝ちっすよー」
広いベッドの上で揉みくちゃになる2人。
「どこに……どこにいますのファルシロン(の息子)!?」
「シロさんのナニはどこに……はわー!? 尻尾を引っ張るのは反則っすーーー」
「ま、間違えましたわ……って! どさくさに紛れてわたくしのドレスを破くのは止めてくださいます!?」
ギシギシ バタバタ ビリビリ!
『きゃあああ!? わたくしのお気に入りがーーー!?』
『あー布切れだと思ったらドレスだったんすかー』
そんな何とも言えない光景がしばらく続いた。
そして………
「あ、あの〜……なに、してるんですか?」
「「あ」」
朝食の準備を終えて戻ってきたファルシロンに一部始終を見られてしまった狸と吸血鬼なのでした。
朝食の席にて。
「わざわざ起こしにきてくれたんですか? すみません、気を使わせてしまって……」
「あなたが気にすることはありませんのよ? 許婚として、当然のことをしたまでですわ」
「ははー、許婚というのはー朝からナニをしゃぶるのがお仕事なんすかー」
「お黙り! やましい目的があったのはあなたも同じではなくって!?」
「はてー? 何のことっすかー?」
「しらばっくれるつもりですの!?」
「と、とりあえず食べましょう! 話は後でゆっくり聞きますから」
「ふんっ!」「っすー」
「……はぁ」
なんとかこの場を治め朝食を食べてもらうことに成功。
リンの姿が見当たらないが、下手に起こしに行くと怪我をしそうなので後回しに。
「ファルシロン? このパンは、一体どこから持ってきましたの?」
「あ、えっと、食糧庫に備蓄されていたものです。ベーコンと卵は僕が持ってきたものですけど」
「そうでしたの。ここの持ち主もなかなかに気が利きますわね♪」
「ふぁーはほひほほほほっふははーほほへんはふはひはいっふおー」
「あの、全部食べきってから喋ってください……何言ってるのかさっぱりですから」
「ほっふふぇー(そっすねー)」
こんがりときれいに焼けたフランスパンを口いっぱいに頬張る店長。
しかし次の瞬間、30cm以上あったそれが一瞬の内に彼女の口内へと消えていった。
ロザリーさんもそうだけど、店長も店長で意外に大食漢だなぁ……。
「……ゴックン。まーあの人のことっすからーその辺は抜かりないっすよー」
「あの人? あぁ、例のグラキエスの方ですね。名前は確か……リリィさんでしたっけ?」
「そっす。交渉事のセンスもピカイチっすけどー、なにより気が利くのがイイっすねー。きっとー良妻賢母のイイ母親になるっすよー」
「は、はぁ」
まるで自分の娘のように自慢気に語る店長。
ほんと、リリィさんと店長は一体どういう関係なのだろうか?
確か『脅迫』がどうとか言ってたような気がするけど……
「………(ニヤリ)」←店長
………。
うん、考えるのは止めよう。
なんだか危険な匂いがする。
「と、ところで店長! そのリリィさんのことなんですけど、別荘にはいらっしゃらないんですか? 僕はてっきり現地で待機しているのかと」
「あー本来はそのつもりだったみたいっすけどねー。地元で急な商談が入ってー2,3日遅れてくるらしいっすよー」
「そうだったんですか。良かった」
「どうしてーそんなこと聞くんすかー?」
「え? あぁいえ、別に大したことじゃないですよ。直にお礼がしたいな〜と思っただけで」
「ほむー、そゆことっすかー」
店長はパクリと卵焼きを口に放りこむ。
「んぐんぐ……シロさんは律儀っすからねー。きっとーあの人にも気に入られるっすよー」
「あはは。そうだと良いんですけど」
「ファルシロン? 許婚であるわたくしを前に、良くも他の女の話ができますわね?」
「ぇえ!? い、いや、これは、えっと……」
「ふふっ、冗談ですわ。こんなことでいちいち腹を立てていては、器の小さい女だと思われてしまいますわ」
「っすー? ならーうちとシロさんがイチャイチャしててもー文句言わないでほしいっすー」
「それは無理な相談ですわね。狸は特別ですもの……悪い意味で」
「……小さい女っすねー」
「お黙り!」
「あ、あはは…………はぁ」
朝食の時間が楽しく?過ぎていく。
「う〜ん! 今日も絶好の海水浴日和ですね」
「えぇ、そうですわね」
正午過ぎ。
午前中は別荘(大豪邸)でのんびりとくつろぎ、午後からやっとエンジン始動。
天気は雲1つ見当たらない文句なしの快晴。
このビーチの太陽は加減というものを知らないのだろうか。
「昨日は無駄に体力を使ったっすからー、今日は力配分していきたいっすー」
「そうですね。デッキチェアでのんびりするのも悪くないですよ」
「そっすねー。でもやっぱり始めはー火照った体を冷やすことからっすー」
そう言うと店長は綺麗なエメラルドグリーンの海へと駆けていった。
ちなみにリンの姿が見当たらないのは単純明快。
昨日遊び疲れたせいなのか、いまだにベッドから起き上がることができないでいた。
快活な妹の性質が裏目に出てしまったようだ。
まぁだからと言って昼過ぎまで眠っているのはどうかと思うが……。
「ところでファルシロン? わたくしに何か言いたいことがあるのではなくって?」
「え、あ……へ?」
唐突に話をふられたため疑問に疑問で返してしまった。
「えっと、僕がロザリーさんに言いたいこと……んー…えーと……」
「………」
ニコニコと微笑むロザリーさんの表情が少しずつ険しいものに。
そうでなくとも焦る僕。
「えー…あー…んー……」
「………(イライラ)」
そして、
「……ファルシロン」
「は、はぃ」
カプッ♪
「いっ!?」
「チュ〜〜〜〜〜〜〜♪」
首筋に容赦のない吸血攻撃。
まるでストローで吸い上げるかのように造作もなく僕の血を吸い取っていく。
「あ…ぁ……」
「チュ〜〜〜……んっ…ぱぁ♪」
ロザリーさんは僅か数秒で僕を解放してくれた。
が、そこそこの量を吸われたため、僕を立ちくらみのような感覚が襲う。
そんな僕を尻目に、彼女は頬を少し紅潮させながら口元を手で拭う。
「ふぅ…いつ飲んでも、あなたの血は美味ですわね♪ 久方ぶりでしたので、思わずイってしまいそうになりましたわ……///」
「はぁ…それは、どうも……」
若干ボ〜っとする頭を奮い起こすため頭をブンブンと振る。
「そ、それにしても、いきなり酷いじゃないですか!? 吸い方も少し乱暴でしたし……」
「当然の報いですわ! わたくし、昨日からずっと待っていましたのに……」
「え?」
僕がロザリーさんを待たせていた?
一体なんのことだろう……。
………。
あ! もしかして……
「えっと、ロザリーさん?」
「……なんですの?」
俯いていたロザリーさんが少しだけ顔を上げる。
そして、
「水着……とっても良く、似合っていますよ」
「!」
ロザリーさんは一瞬戸惑いを見せるものの、すぐさま平静を取り戻し、
「……ふん! い、今更褒められたって…べ、別に嬉しくありませんわよ……///」
「す、すみません」
女性の水着を2日目に褒めるというのは男として情けない限りだが、これには色々と事情がある。
昨日はタイミングを見計らいさり気なく水着の話題に持っていこうとしていたのだが、褒めるべき当の2人が遠泳に精を出していたため、話しかけることはおろか姿さえ見ることができなかったのだ。
「……///」
恥ずかしそうにモジモジとするロザリーさん。
そんな彼女が着ている水着は……えっと、何と表現したら良いのだろうか。
見たままを言わせてもらうならば、その…………『紐(ひも)』である。
僅か数cmの布に覆われた胸の突起は見えそうで見えず、最も隠さなくてはならない局部は『恥ずかしくないんですか?』と思うぐらい布の面積が少ない。
お尻に至っては、もはや隠す気がない。
白くて大きな張りのあるお尻……ゴクリ……はっ!? い、いかんいかん!
世の中にはマイクロビキニという露出の非常に多い水着が存在するらしいのだが、目の前の紐水着を見てしまった後ではそんな業物も霞むというもの。
………。
な、なんだか解説している内にドキドキしてきてしまった。
今まではあえて意識していなかったため感情を抑えることができたが、さすがにこれ以上は……。
「ロ、ロザリーさん、僕達も泳ぎましょう! 店長がじーっとこっちを見て寂しそうですし」
「あれは嫉妬の視線だと思いますが……そうですわね。今日はのんびりと過ごさせていただきますわ」
こうして僕達は浜辺をゆっくりと歩き出す。
海に入ると店長から思いっきり海水をぶっかけられギロリと睨まれた。
……どうして?
2日目 途中経過。
〜店長のオススメ!〜
『超危ない水着』
痴女御用達。
見た目のわりに防御力が高い。
着用の際は不意打ちにご注意を。
価格→78000エル
早朝。
イチカが目を覚ました場所は寝室。
見慣れない光景に一瞬戸惑うものの、すぐさま自分が旅行中の身であることを思い出す。
「………」
むくりと体を起こすと、枕元に置かれた愛用の『下着』にゆっくりと手を伸ばす。
「(σω-)」
眠い目を擦りながら気だるそうに身支度をする。
昨日は少々ハメまく……ハメを外し過ぎてしまった。
いや、真の原因はあの吸血お嬢様が因縁をつけてきたせいだ。
アレさえなければ、今頃はファルシロンと同じベッドで子作りに励んでいたことだろう。
本来なら皆が寝静まった後、『全裸』でファルシロンの部屋に突入する予定だったが、体が疲弊しきっていたため、自室で服を脱いで待機している内に眠りに落ちてしまったのだ。
「………」
狸印のロゴが入ったノースリーブを着ると、イチカは音もなく部屋を後にする。
寝込みを襲うという計画が潰えた今、彼女の目的はただ1つ。
そう、愛しい彼のために『モーニングコール』のサービスを提供するのだ。
「すっすっすー♪」
イチカの足取りは軽い。
寝込みを襲えなかったとはいえ、朝一番に彼の可愛い寝顔を見ることができる。
もう想像しただけで濡れ……胸が高鳴るというものだ。
「シロさんの部屋はー、ここの角っすよねー」
ちなみに下半身は下着姿のまま。
これはドジっ娘というわけではなく、彼の慌てふためく様を見たいがための策略。
寝顔の観賞と同時にイタズラもしてしまおうという、まさに2段構えの完璧な計画なのだ。
期待に胸を膨らませながら、イチカは長い廊下の一角を曲がる。
すると……
「「……あ」」
廊下の奥に、肌が透けて見える程生地の薄いロングドレスを着たお嬢様の姿が。
「………」
一瞬動揺したものの、すぐさま歩きだす。
そんなイチカを見たロザリンティアも同様に歩きだす。
「「………」」
両者無言のまま少しずつ距離を詰めていく。
まさか……まさかとは思うが、あの吸血女も自分と同じ目的が?
いやそもそも、あの高飛車女が律儀にも朝早く彼を起こしに行くだろうか?
……偶然か?
………。
待て、ならばあの男を誘う気満々の淫らな格好はどう説明する?
2つの余分な脂肪をバインバインと揺らしながら品性良く歩くその姿は、世界中の男を悩殺するには十分過ぎる。
これに見えそうで見えないスケスケドレスとくれば……チッ。
「「………」」
そしてイチカの予想通り、ロザリンティアはファルシロンの眠る部屋の前で足を止めた。
『お前何しに来たの?』と言わんばかりに睨み合う2人。
そして、
「……こんなところで会うなんて、奇遇ですわね」
「ほんとっすねー。お嬢様はーこれからどちらへー? お小水ならアッチっすよー?」
「いいえ、今は催していませんの」
「そっすかー」
「えぇ」
「………」
「………」
………。
「コホン……実はわたくし、これからファルシロンを起こしにいくつもりでしたの。近い未来夫となる殿方にできる、わたくしなりのせめてもの礼儀ですわ」
「ほほー、それは感心っすねー…………で? 本当の目的はなんすかー?」
「で、ですからファルシロンを起こしに……」
「起こすだけっすかー? うちならーもっと気持ちイイ方法で目覚めてもらうっすけどねー」
「ふん、狸の気持ちイイなど底が知れていますわね。わたくしなら、もっと盛大に『ヌいて』差し上げることができますわ!」
「………」
お嬢様のギリギリ発言に戸惑うイチカ。
しかし、
「いやいやー、そんな『汚れ仕事』はお嬢様に似つかわしくないっすよー。ここはうちに任せるっすー」
「そういうわけにはまいりませんわ。『朝の処理』も、貴族であるこのわたくしが成すべき義務の1つですの」
「無理はいけないっすよー。お嬢様に『喉奥奉仕』はできないっすよー」
「『上目遣いバキューム』という秘伝の技がありますの。心配はご無用ですわ」
「………」
「………」
………。
「あー『搾りたての生臭いミルク』が飲みたいっすねー」
「そうですわね。わたくしも『白オタマジャクシの踊り食い』がしたいですわ」
「………」
「………」
………。
「「っ!!!」」
両者ともほぼ同時に、半ばタックルするかのようにファルシロンの部屋の扉をこじ開ける。
そして我先にとベッドに向かって飛び込む。
「くっ! ファルシロン(の息子)はわたくしのモノですわよ!?」
「先に手(口)に入れた方が勝ちっすよー」
広いベッドの上で揉みくちゃになる2人。
「どこに……どこにいますのファルシロン(の息子)!?」
「シロさんのナニはどこに……はわー!? 尻尾を引っ張るのは反則っすーーー」
「ま、間違えましたわ……って! どさくさに紛れてわたくしのドレスを破くのは止めてくださいます!?」
ギシギシ バタバタ ビリビリ!
『きゃあああ!? わたくしのお気に入りがーーー!?』
『あー布切れだと思ったらドレスだったんすかー』
そんな何とも言えない光景がしばらく続いた。
そして………
「あ、あの〜……なに、してるんですか?」
「「あ」」
朝食の準備を終えて戻ってきたファルシロンに一部始終を見られてしまった狸と吸血鬼なのでした。
朝食の席にて。
「わざわざ起こしにきてくれたんですか? すみません、気を使わせてしまって……」
「あなたが気にすることはありませんのよ? 許婚として、当然のことをしたまでですわ」
「ははー、許婚というのはー朝からナニをしゃぶるのがお仕事なんすかー」
「お黙り! やましい目的があったのはあなたも同じではなくって!?」
「はてー? 何のことっすかー?」
「しらばっくれるつもりですの!?」
「と、とりあえず食べましょう! 話は後でゆっくり聞きますから」
「ふんっ!」「っすー」
「……はぁ」
なんとかこの場を治め朝食を食べてもらうことに成功。
リンの姿が見当たらないが、下手に起こしに行くと怪我をしそうなので後回しに。
「ファルシロン? このパンは、一体どこから持ってきましたの?」
「あ、えっと、食糧庫に備蓄されていたものです。ベーコンと卵は僕が持ってきたものですけど」
「そうでしたの。ここの持ち主もなかなかに気が利きますわね♪」
「ふぁーはほひほほほほっふははーほほへんはふはひはいっふおー」
「あの、全部食べきってから喋ってください……何言ってるのかさっぱりですから」
「ほっふふぇー(そっすねー)」
こんがりときれいに焼けたフランスパンを口いっぱいに頬張る店長。
しかし次の瞬間、30cm以上あったそれが一瞬の内に彼女の口内へと消えていった。
ロザリーさんもそうだけど、店長も店長で意外に大食漢だなぁ……。
「……ゴックン。まーあの人のことっすからーその辺は抜かりないっすよー」
「あの人? あぁ、例のグラキエスの方ですね。名前は確か……リリィさんでしたっけ?」
「そっす。交渉事のセンスもピカイチっすけどー、なにより気が利くのがイイっすねー。きっとー良妻賢母のイイ母親になるっすよー」
「は、はぁ」
まるで自分の娘のように自慢気に語る店長。
ほんと、リリィさんと店長は一体どういう関係なのだろうか?
確か『脅迫』がどうとか言ってたような気がするけど……
「………(ニヤリ)」←店長
………。
うん、考えるのは止めよう。
なんだか危険な匂いがする。
「と、ところで店長! そのリリィさんのことなんですけど、別荘にはいらっしゃらないんですか? 僕はてっきり現地で待機しているのかと」
「あー本来はそのつもりだったみたいっすけどねー。地元で急な商談が入ってー2,3日遅れてくるらしいっすよー」
「そうだったんですか。良かった」
「どうしてーそんなこと聞くんすかー?」
「え? あぁいえ、別に大したことじゃないですよ。直にお礼がしたいな〜と思っただけで」
「ほむー、そゆことっすかー」
店長はパクリと卵焼きを口に放りこむ。
「んぐんぐ……シロさんは律儀っすからねー。きっとーあの人にも気に入られるっすよー」
「あはは。そうだと良いんですけど」
「ファルシロン? 許婚であるわたくしを前に、良くも他の女の話ができますわね?」
「ぇえ!? い、いや、これは、えっと……」
「ふふっ、冗談ですわ。こんなことでいちいち腹を立てていては、器の小さい女だと思われてしまいますわ」
「っすー? ならーうちとシロさんがイチャイチャしててもー文句言わないでほしいっすー」
「それは無理な相談ですわね。狸は特別ですもの……悪い意味で」
「……小さい女っすねー」
「お黙り!」
「あ、あはは…………はぁ」
朝食の時間が楽しく?過ぎていく。
「う〜ん! 今日も絶好の海水浴日和ですね」
「えぇ、そうですわね」
正午過ぎ。
午前中は別荘(大豪邸)でのんびりとくつろぎ、午後からやっとエンジン始動。
天気は雲1つ見当たらない文句なしの快晴。
このビーチの太陽は加減というものを知らないのだろうか。
「昨日は無駄に体力を使ったっすからー、今日は力配分していきたいっすー」
「そうですね。デッキチェアでのんびりするのも悪くないですよ」
「そっすねー。でもやっぱり始めはー火照った体を冷やすことからっすー」
そう言うと店長は綺麗なエメラルドグリーンの海へと駆けていった。
ちなみにリンの姿が見当たらないのは単純明快。
昨日遊び疲れたせいなのか、いまだにベッドから起き上がることができないでいた。
快活な妹の性質が裏目に出てしまったようだ。
まぁだからと言って昼過ぎまで眠っているのはどうかと思うが……。
「ところでファルシロン? わたくしに何か言いたいことがあるのではなくって?」
「え、あ……へ?」
唐突に話をふられたため疑問に疑問で返してしまった。
「えっと、僕がロザリーさんに言いたいこと……んー…えーと……」
「………」
ニコニコと微笑むロザリーさんの表情が少しずつ険しいものに。
そうでなくとも焦る僕。
「えー…あー…んー……」
「………(イライラ)」
そして、
「……ファルシロン」
「は、はぃ」
カプッ♪
「いっ!?」
「チュ〜〜〜〜〜〜〜♪」
首筋に容赦のない吸血攻撃。
まるでストローで吸い上げるかのように造作もなく僕の血を吸い取っていく。
「あ…ぁ……」
「チュ〜〜〜……んっ…ぱぁ♪」
ロザリーさんは僅か数秒で僕を解放してくれた。
が、そこそこの量を吸われたため、僕を立ちくらみのような感覚が襲う。
そんな僕を尻目に、彼女は頬を少し紅潮させながら口元を手で拭う。
「ふぅ…いつ飲んでも、あなたの血は美味ですわね♪ 久方ぶりでしたので、思わずイってしまいそうになりましたわ……///」
「はぁ…それは、どうも……」
若干ボ〜っとする頭を奮い起こすため頭をブンブンと振る。
「そ、それにしても、いきなり酷いじゃないですか!? 吸い方も少し乱暴でしたし……」
「当然の報いですわ! わたくし、昨日からずっと待っていましたのに……」
「え?」
僕がロザリーさんを待たせていた?
一体なんのことだろう……。
………。
あ! もしかして……
「えっと、ロザリーさん?」
「……なんですの?」
俯いていたロザリーさんが少しだけ顔を上げる。
そして、
「水着……とっても良く、似合っていますよ」
「!」
ロザリーさんは一瞬戸惑いを見せるものの、すぐさま平静を取り戻し、
「……ふん! い、今更褒められたって…べ、別に嬉しくありませんわよ……///」
「す、すみません」
女性の水着を2日目に褒めるというのは男として情けない限りだが、これには色々と事情がある。
昨日はタイミングを見計らいさり気なく水着の話題に持っていこうとしていたのだが、褒めるべき当の2人が遠泳に精を出していたため、話しかけることはおろか姿さえ見ることができなかったのだ。
「……///」
恥ずかしそうにモジモジとするロザリーさん。
そんな彼女が着ている水着は……えっと、何と表現したら良いのだろうか。
見たままを言わせてもらうならば、その…………『紐(ひも)』である。
僅か数cmの布に覆われた胸の突起は見えそうで見えず、最も隠さなくてはならない局部は『恥ずかしくないんですか?』と思うぐらい布の面積が少ない。
お尻に至っては、もはや隠す気がない。
白くて大きな張りのあるお尻……ゴクリ……はっ!? い、いかんいかん!
世の中にはマイクロビキニという露出の非常に多い水着が存在するらしいのだが、目の前の紐水着を見てしまった後ではそんな業物も霞むというもの。
………。
な、なんだか解説している内にドキドキしてきてしまった。
今まではあえて意識していなかったため感情を抑えることができたが、さすがにこれ以上は……。
「ロ、ロザリーさん、僕達も泳ぎましょう! 店長がじーっとこっちを見て寂しそうですし」
「あれは嫉妬の視線だと思いますが……そうですわね。今日はのんびりと過ごさせていただきますわ」
こうして僕達は浜辺をゆっくりと歩き出す。
海に入ると店長から思いっきり海水をぶっかけられギロリと睨まれた。
……どうして?
2日目 途中経過。
〜店長のオススメ!〜
『超危ない水着』
痴女御用達。
見た目のわりに防御力が高い。
着用の際は不意打ちにご注意を。
価格→78000エル
13/03/04 09:33更新 / HERO
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