「そ〜れ！」
「ほいっす」
「トス、ですわ！」

キャハハ♪　ウフフ♪

「………」

眩しい程に白い砂浜。
永遠の如く広がるエメラルドグリーンの海。
肌を褐色に染め上げようと容赦なく照りつける太陽。
そして……波打ち際でボール遊びに興じる３人の美少女。
子供のように無邪気な笑顔を見せる彼女達の姿は、まるで海に舞う妖精を想わせる。
そんなこの世の楽園のような光景を、パラソルの下デッキチェアに悠々と寝そべりながら眺めることのできる僕は、恐らく最高に幸せ者なのだろう。
目的地に到着するまではイマイチ実感が湧かなかったものの、こんな場所で１週間滞在できると思うと、もう胸の高鳴りを抑えることができない。
……もちろん健全な意味で。

「ねー！　いつまでも寝てないで、お兄ちゃんもこっちにきて混ざりなさいよー！」
「そうですわ！　せっかくの海ですのに、勿体ないですわよ！」

もう少しのんびりしていたかったけど、お誘いとあらば仕方がない。
とは言っても、半日列車の中で過ごしていたため疲れている…という名目で休んでいたが、楽園を前にそんな疲労もすっかり消え失せていた。

「あ、あちち！？」

デッキチェアから降りる僕の足を、太陽により熱せられた白砂が容赦なく包み込む。
これは相当熱い……。
店長の話によると、この砂浜は貝殻と朽ちた珊瑚が細かく削れたためにできたものらしい。
自然の力のみで数kmにもわたる砂浜を形成したというのだから驚きだ。
そもそもここ一帯がこんなにも綺麗なのは、ほとんど人の手が入っていないからだろう。
一体どれ程の時を費やしてきたのだろうか……う〜ん、年季を感じる。

「早く来ないとー足の裏焼けちゃうっすよー？」
「い、今行きまーす！」

肢体を海水で濡らした３人の美少女に笑われながら、僕は熱を帯びた灼熱の砂浜を一心不乱に駆け抜けるのでした。












「ゆ、ゆっくりよ？　ゆ〜っくり……」
「……こんな感じ、かな？」
「……うん、イイ感じ！　外壁はこれで完璧ね。後は内部の構造だけど……」
「え、中も作るの？」
「当然でしょ？　外側だけの安っぽい城なんて興味ないわよ」
「そ、そう。意外とこだわるんだね」

店長とロザリーさんが数km離れた離島まで競争するとか言い出しそのまま泳いで行ってしまったため、取り残された僕とリンは２人で大人しく砂のお城を作ることに。
あの２人が帰ってくるまでの暇つぶしに…ということだったのだがなかなか帰ってこないので、予想以上に魂の込もった作品になってしまった。

「んー…指先だけだと他の部分が崩れちゃうわねぇ……」
「あんまり凝り過ぎると壊れかねないし、ある程度のところで見切りをつけないと」
「ん〜……うん、それもそうね」
「それじゃ、これで完成だね」

リンは最後の仕上げと言い、お城の手前の砂に『あたしの城』というタイトルを彫り込む。
できれば製作に大きく貢献した僕の名前も入れてほしかったけど……。

「ふぅ。我ながら良い出来栄えね！」
「そうだね。壊すのが勿体ないよ」
「まぁ、そのうち自然に壊れるでしょうけど」

僕とリンは小１時間かけて作った大作を様々な角度から眺める。
うむ…自分達だけの力で製作したということもあってか、城に対して妙な愛着
が湧いてくる。

「それはそうと、イチカさんとロザリー帰ってこないわね？　何かあったのかしら？」
「あの２人に限って事故とかはないと思うけど……」

泳いでいる最中に足がつった……なんてことはあまり考えたくない。
そもそも魔物であるあの御二方がそんなにヤワなはずがない。

「ここで心配しててもキリがないし、僕達も少し泳ごうか」
「そうね。ちょうど汗を流したいと思ってたのよ」

長時間波打ち際で作業していたため、僕も知らぬ間にけっこうな量の汗をかいていた。
体の至るところに付着した砂も洗い流したい。

「ねぇ、あたし達も競争する？」
「別に構わないけど、結果は目に見えてるじゃないか」
「まぁ、確かにあたしが１００％勝つわね」
「そゆこと。それでもやる？」
「やっぱり止めとくわ。弱い者いじめはしない主義なの」
「そ、そっか」

兄として非常に複雑な心境だが、力関係では確かに僕に勝ち目はない。
仮に喧嘩でもしようものなら、またいつかの武闘大会の時のように９９９ダメージを受けるハメになる。
兄のプライドを捨て妹の御機嫌取りをしてでも、それだけは御免被りたいデス。

「はぁ〜♪　火照った体にヒンヤリとした海……最っ高の組み合わせね！」
「あはは、そうだね」

海に顔を着けないように、腕を大きく広げながらゆっくりと水を掻いていく。

「そういえば海って、露天風呂の逆バージョンみたいだよね」
「え？」
「ほら、海だと顔は温かいのに体は冷たい。露天風呂なら、顔は涼しいけど体は温かい」
「あ〜、言われてみればそうね。お兄ちゃんのくせになかなか賢いじゃない？」
「いやいや、僕も今気がついたんだ」

そんなどうでも良い会話しながら、僕とリンは比較的浅い場所で優雅に泳ぐ。
そして、

「リンも好きな人ができたら、こういう場所に２人で来るようになるのかなぁ」
「っ！？」

リンは急に体を起こし立ち上がると、

「？　リン？」
「な、な、な…なに言ってんのよ！？　お兄ちゃんには関係ないでしょ！？」
「え？　いや、そんな変なことは聞いてなごぼぁ！？」

そのまま頭を抑えつけられ、海中で無酸素状態になってしまった。
抵抗？　無駄です無駄無駄。リンの剛力を既にご存じでしょう？

「〜〜〜！？　〜〜〜〜〜！？！？！」
「お、お兄ちゃんなんて……お兄ちゃんなんて溺れちゃえばいいのよ！！」
「ぷは！？　た、助け…ごぼぼ……！？」

そんな殺人現場のような光景がしばらく続いた。
何気ない家族同士の話題をふったつもりが、結果溺死しそうになるとは夢にも思わなかった。












「いや〜ははは………………死ぬかと思った」
「ふん！　お兄ちゃんが変なこと言うからでしょ！？」
「ごめんごめん。次からは気をつけるよ」

うん、気をつけないと死期を早めてしまう。

「んーにしても、あの２人はまだ帰ってこないのか」
「きっとどこかで取っ組み合いでもしてるんじゃないかしら？」
「いや、そんなまさか……」





一方、

「わたくしの方が早く辿り着きましたわ！　さぁ、素直に負けを認めてはいかがですの！？」
「頭の栄養を胸に取られ過ぎたんすかー？　勝ったのは明らかにうちっすよー」
「これだから狸は困りますわ！　先に島に着いたのは、『胸の差』でわたくしですわ！」
「残念ながらルールの中にー胸に関する項目は含まれていないっすー」
「屁理屈を……！」
「っすー？　やるんすかー？」
「フン！　後悔しても知りませんわよ？」

………。

「はっ！」「っす！」

とある離島にて、狸と吸血鬼の激しい闘いが繰り広げられていた。





「まぁ、暗くなる前には戻ってくるわよね」
「うん。というか、そう信じるしかないよ」

その後も２人でボール遊びや潜水などを楽しんだ後、少し小休憩を挟むことに。
僕達は備え付けのデッキチェアに腰を下ろすと、一体誰が用意したのかわからないトロピカルジュースで喉を潤す。
これを怪しいと思わないのは、相当気が緩んでいる証拠だろう。

「はぁ〜美味しい♪　あ、ねぇお兄ちゃん」
「ん？」
「ちょっとお昼寝するから、身辺警備よろしくね」
「あぁ、うん。おやすみ」

そう言うとリンは僅か数十秒で気持ち良さそうに寝息をたて始める。
海に入ると何だかんだで体力を消耗するのだろう。

「ｚｚ…ｚｚｚ」
「………」

ふと、無防備に眠る妹に目をやる。
彼女が着用しているのは、俗に言うところの赤いフィットネスビキニ。
この水着には様々な種類があるらしいが、これは上下の分かれた腹部を大きく露出させるタイプのもの。
しかしこれによって、彼女の細く引き締まったスレンダーな身体がより一層際立っている。
縦長に伸びた小さなおへそや、腕を上げていることにより大胆に晒された脇。
きっと一部のマニアには堪らないシチュエーションのはず。
胸は……お世辞にも大きいとは言えないが、恐らく大器晩成型だろう（母親が凄いから）。
見栄えよりも機能性を重視する辺り、非常に妹らしいチョイスであると言える。
うん、とても似合っている。

「……ふむ」
「ｚｚ…ｚｚ……ん〜？　お兄ちゃん…どうかしたの？」
「へ？　あ、あぁいや！　何でもない！　うん、何でも！」
「……そう？　ならもう少し…寝かせて……ｚｚｚ」
「……はぁ」

この場合「何見てんのよ変態！！」とか言われてビンタを喰らうのが相場だが、寝起きの妹はご覧の通り、とても穏やかである。
彼女の特殊な性質を知っていたために惨劇を免れることができたけど……これは兄としてどうかと思ったので今後は自重しようと心に誓った。

「ｚｚ……ｚｚｚ」
「(*´ω｀)」

リンの寝顔に心癒されながら、僕はかつてない最高のリゾートを満喫するのでした―――





余談。
気がつけばファルシロンも眠っていた。
そんな彼の傍らで寄り添うように眠るイチカとロザリンティア。
一体いつ戻ってきたのか、１人用のデッキチェアに３人が窮屈そうに身を寄せ合っている。
しかし……それでも皆、とても幸せそうな顔をしていた。





１日目　終了。





〜店長のオススメ！〜

『海の家特製焼きそば』

とりあえず海の家と付けておけば…あら不思議、なぜか夏っぽくなる。

価格→５００エル

■作者メッセージ
店長とロザリー女史の水着解説は次回っ！
あ、新キャラも次回ということでっ！

感想いただけると嬉しいっすﾉ