黒ミサ潜入レポート4/バフォメット
「それでは早速お聞きします。3人の長所はどんな所ですか?」
「そうね、この中で純粋に魔力が高いのはラズリアよね。
私はまじないや占いに長けていて、クランは……」
ブルーノが淡々と答えていたが、クランの長所で口ごもった。
「クランは……うーん……」
「わたしはアクセ作るの得意だよー?」
「そうね、こんなところかしら」
とブルーノは締めくくったが、クランは「見せてあげるから待ってて♪」と引き出しを漁っている。
「これ……じゃないや、これ……でもないし……」
「んで、他には?まだ聞くんだろ?」
ラズリアは慌ただしいクランに目もくれず、俺に向き直る。
「はい、それでは次の質問です。
私は人間なので、あまりよく分からないのですが、魔術ってどんな原理なんですか?」
「んー、その事はなぁ……」
ラズリアは腕を組み、何か考えている様だ。
「ぶっちゃけ実は、アタシらもよく分かんないんだ」
「む? それはどういう……」
「そうなのよね、バフォメットになった時からいつの間にか使いこなしていたものだし。だから、その質問は正確に答えられないわ……」
(結局、解らないままか……とほほ)
がっくりと肩を落としたところで、後ろから不意に手が伸び首に何かをかけられた。
見ると、氷の結晶の様な透き通った石がつけられたペンダントだった。
「ほら、綺麗でしょー?ところで、ライターさんに彼女さんはいるの?」
屈託のない笑顔を向けられ、答えようかと心で瞬時に問答した。
「ええまぁ、一応は……」
「いるの!?それって人間の女の子?」
「私も気になるわ、その話。宜しければ教えて下さらない?」
「あー…いや、カラステングの娘なんですけど」
「へえ〜そうなんだー!次の黒ミサ開催には絶対連れてきてよね!」
「私達にかかれば、人間でなくてもどんな方でも魔女になれますから、ね?」
「二人共、がっつくのは程々にしときなよ」
「……はーい、分かってますよーだ」
「私としたことが、少々取り乱しましたわ……ごめんなさいね」
「あ……いえ、伝えておきます」
ラズリアに向かって膨れっ面をするクラン。
ブルーノは俺に平謝りだったが。
「ライターさんには特別に教えるけどな、実はアタシら、本当の姉妹じゃないんだ」
「……そうなんですか?てっきり本当に姉妹なんだと思いましたよ」
「アタシらは最初、別々の地域の魔女達を束ねて黒ミサを開いていたんだ。
……だが、ここ数年集まりが悪くてね。
教団の勢力が衰えないもんだから、魔女を集める為の黒ミサも開きづらくなったのさ。
そこで、先に動いたのはブルーノだった」
ラズリアはそう語り、ブルーノの方を向いた。
「私はまず手始めに、クランがまとめている地域へと向かったの。
クランはなかなか理解してくれなかったから、説明には時間がかかったわ」
「だってー、ブルーノの話難しかったんだもーん。
もっと分かりやすくしてくれれば、わたしだって分かったもん」
「……まあ、クランと私は手を取り黒ミサを合同開催する様になった。
その数ヶ月後、ラズリアを引き入れたの」
「最初は嫌だったのさ。
アタシのテリトリーに土足で踏み込んで、『一緒に手を組まないか?』なんてさ。
でも現実はそうも言ってられなかった。
実質アタシの所も参加人数は減ってきていたし、正直厳しかったんだ」
「そして私達は、バフォメット3姉妹として活動してきた。
今でこそ人数は各個人の全盛期より少ないけれど、徐々に近づいてきているの。
だから私は、二人のおかげでここまでこれたと、いつも感謝しているのよ」
「それはアタシだって同じだ。あの時のアタシはどうかしてた。
自己中心で、誰の話も聞いちゃいなかった。
二人が誘ってくれなかったら、バフォメットとしては終わりだったよ……」
ブルーノとラズリアは信頼を再確認するかのように頷きあった。
「そう……でしたか。数々の苦労を乗り越えてきたんですね」
メモを取りながらそう答えた。
実際初めて聞いたから、感動しそうになった。
しかし、情に流されている場合ではない。
仮にも、今の俺は教団のスパイ。
俺は質問を続けた。
「魔女達を根絶やしにしようとした教団を、その……恨んでいたりします?」
「アタシは気にくわない。沢山狙われた事もあったし、正直嫌いだ」
「わたしはそうでもないかなー。
使い魔の人達だって教団から流れてきた人だっているし、それがちょっとした報いだとわたしは思ってる。
……報い?使い方これで合ってたっけ……?」
「私もクランと同じ意見ですわ。かといって、許す訳ではありませんけど。
危害を加えるなら徹底して潰します」
「……そうですか。では次の質問を―――」
と言いかけたその時、部屋にさっきの使い魔の男が入ってきた。
「あら、ロベルト。会場で何かあったのかしら?」
「いえ、ブルーノ様。そろそろ終了のお時間かと」
「もうそんな時間か……。
時間ってやつはアタシらの魔術でさえ止められないしな……」
それを聞いたラズリアは、仮部屋の壁にかかっている時計を眺めた。
「シュガーリィさん、最後に何か質問はあるかしら?」
ブルーノは俺に聞いてきた。
「では、最後に1つだけ。人間と魔物娘は共存は可能だと思いますか?」
「そうだねー、きっと出来るよ!」
「ええ、もちろん。
私達魔物と人間は、触れ合えばきっと誰でもわかりあえる。
それこそ、教団なんて組織が無くなるぐらいに、ね」
「最近は肉食系の男が少ないけど、時代の流れってやつだな。
時代の流れは、魔物と人の隔たりを無くしていくだろーぜ」
3姉妹は最後にとびきりのスマイルをくれた。
「ありがとうございました。それでは、私はこれで失礼します」
「いい記事書けよな!」
「お気をつけて」
「ばいばーい!」
良い雰囲気で仮部屋を去ろうとした時、それは起こった。
『緊急連絡!緊急連絡!
何者かが警備をかいくぐり、会場内に潜伏中!繰り返し伝える!何者かが警備をかいくぐり、会場内に潜伏している!速やかに侵入者を確保せよ!』
拾った無線機から、大音量で、それは流れた。
あらすじ。
黒ミサ会場裏の仮部屋にて潜入取材をしていたスヴァルこと俺は。
大失態を侵した。(5へ続く)
「そうね、この中で純粋に魔力が高いのはラズリアよね。
私はまじないや占いに長けていて、クランは……」
ブルーノが淡々と答えていたが、クランの長所で口ごもった。
「クランは……うーん……」
「わたしはアクセ作るの得意だよー?」
「そうね、こんなところかしら」
とブルーノは締めくくったが、クランは「見せてあげるから待ってて♪」と引き出しを漁っている。
「これ……じゃないや、これ……でもないし……」
「んで、他には?まだ聞くんだろ?」
ラズリアは慌ただしいクランに目もくれず、俺に向き直る。
「はい、それでは次の質問です。
私は人間なので、あまりよく分からないのですが、魔術ってどんな原理なんですか?」
「んー、その事はなぁ……」
ラズリアは腕を組み、何か考えている様だ。
「ぶっちゃけ実は、アタシらもよく分かんないんだ」
「む? それはどういう……」
「そうなのよね、バフォメットになった時からいつの間にか使いこなしていたものだし。だから、その質問は正確に答えられないわ……」
(結局、解らないままか……とほほ)
がっくりと肩を落としたところで、後ろから不意に手が伸び首に何かをかけられた。
見ると、氷の結晶の様な透き通った石がつけられたペンダントだった。
「ほら、綺麗でしょー?ところで、ライターさんに彼女さんはいるの?」
屈託のない笑顔を向けられ、答えようかと心で瞬時に問答した。
「ええまぁ、一応は……」
「いるの!?それって人間の女の子?」
「私も気になるわ、その話。宜しければ教えて下さらない?」
「あー…いや、カラステングの娘なんですけど」
「へえ〜そうなんだー!次の黒ミサ開催には絶対連れてきてよね!」
「私達にかかれば、人間でなくてもどんな方でも魔女になれますから、ね?」
「二人共、がっつくのは程々にしときなよ」
「……はーい、分かってますよーだ」
「私としたことが、少々取り乱しましたわ……ごめんなさいね」
「あ……いえ、伝えておきます」
ラズリアに向かって膨れっ面をするクラン。
ブルーノは俺に平謝りだったが。
「ライターさんには特別に教えるけどな、実はアタシら、本当の姉妹じゃないんだ」
「……そうなんですか?てっきり本当に姉妹なんだと思いましたよ」
「アタシらは最初、別々の地域の魔女達を束ねて黒ミサを開いていたんだ。
……だが、ここ数年集まりが悪くてね。
教団の勢力が衰えないもんだから、魔女を集める為の黒ミサも開きづらくなったのさ。
そこで、先に動いたのはブルーノだった」
ラズリアはそう語り、ブルーノの方を向いた。
「私はまず手始めに、クランがまとめている地域へと向かったの。
クランはなかなか理解してくれなかったから、説明には時間がかかったわ」
「だってー、ブルーノの話難しかったんだもーん。
もっと分かりやすくしてくれれば、わたしだって分かったもん」
「……まあ、クランと私は手を取り黒ミサを合同開催する様になった。
その数ヶ月後、ラズリアを引き入れたの」
「最初は嫌だったのさ。
アタシのテリトリーに土足で踏み込んで、『一緒に手を組まないか?』なんてさ。
でも現実はそうも言ってられなかった。
実質アタシの所も参加人数は減ってきていたし、正直厳しかったんだ」
「そして私達は、バフォメット3姉妹として活動してきた。
今でこそ人数は各個人の全盛期より少ないけれど、徐々に近づいてきているの。
だから私は、二人のおかげでここまでこれたと、いつも感謝しているのよ」
「それはアタシだって同じだ。あの時のアタシはどうかしてた。
自己中心で、誰の話も聞いちゃいなかった。
二人が誘ってくれなかったら、バフォメットとしては終わりだったよ……」
ブルーノとラズリアは信頼を再確認するかのように頷きあった。
「そう……でしたか。数々の苦労を乗り越えてきたんですね」
メモを取りながらそう答えた。
実際初めて聞いたから、感動しそうになった。
しかし、情に流されている場合ではない。
仮にも、今の俺は教団のスパイ。
俺は質問を続けた。
「魔女達を根絶やしにしようとした教団を、その……恨んでいたりします?」
「アタシは気にくわない。沢山狙われた事もあったし、正直嫌いだ」
「わたしはそうでもないかなー。
使い魔の人達だって教団から流れてきた人だっているし、それがちょっとした報いだとわたしは思ってる。
……報い?使い方これで合ってたっけ……?」
「私もクランと同じ意見ですわ。かといって、許す訳ではありませんけど。
危害を加えるなら徹底して潰します」
「……そうですか。では次の質問を―――」
と言いかけたその時、部屋にさっきの使い魔の男が入ってきた。
「あら、ロベルト。会場で何かあったのかしら?」
「いえ、ブルーノ様。そろそろ終了のお時間かと」
「もうそんな時間か……。
時間ってやつはアタシらの魔術でさえ止められないしな……」
それを聞いたラズリアは、仮部屋の壁にかかっている時計を眺めた。
「シュガーリィさん、最後に何か質問はあるかしら?」
ブルーノは俺に聞いてきた。
「では、最後に1つだけ。人間と魔物娘は共存は可能だと思いますか?」
「そうだねー、きっと出来るよ!」
「ええ、もちろん。
私達魔物と人間は、触れ合えばきっと誰でもわかりあえる。
それこそ、教団なんて組織が無くなるぐらいに、ね」
「最近は肉食系の男が少ないけど、時代の流れってやつだな。
時代の流れは、魔物と人の隔たりを無くしていくだろーぜ」
3姉妹は最後にとびきりのスマイルをくれた。
「ありがとうございました。それでは、私はこれで失礼します」
「いい記事書けよな!」
「お気をつけて」
「ばいばーい!」
良い雰囲気で仮部屋を去ろうとした時、それは起こった。
『緊急連絡!緊急連絡!
何者かが警備をかいくぐり、会場内に潜伏中!繰り返し伝える!何者かが警備をかいくぐり、会場内に潜伏している!速やかに侵入者を確保せよ!』
拾った無線機から、大音量で、それは流れた。
あらすじ。
黒ミサ会場裏の仮部屋にて潜入取材をしていたスヴァルこと俺は。
大失態を侵した。(5へ続く)
11/10/01 10:56更新 / ちーきく
戻る
次へ