黒ミサ潜入レポート3/バフォメット
「―――それでは改めまして。
私はレスカティエ生まれのフリーライター、『シュガーリィ=アーケイオス』と申します」
3姉妹を前に、丁寧に紹介をする俺。
「へえ、レスカティエから早速お客さんか」
「フリーライターにしては…、きっちりし過ぎるくらいの格好ですわね」
「ええ、これが私の正装です。
ネクタイを締めないと……いつも落ち着かないものでして、ハイ」
絶賛潜入活動中。
これらに至るまでを、大まかに説明しよう―――
「ふむ、やはり大したもんだ」
『変装キット』を使っての着替えが終わり、俺は新聞記者の様な格好をしている。
淡いグレーのスーツに青いネクタイ、カラーコンタクトで目の色彩を変え、スヴァルという存在をくまなく隠す。
そもそも、先程の『性欲鎮静化チョコレート』や、この『変装キット』はある友人が俺の為に開発してくれているのだ。
実際、教団の支給品よりこっちの方が優れている事は間違いない。
本部にそんな事を言ったら怒られるだろうが…。
そしてその友人は、ユニコーンの妻を持った俺の大切な旧友なのだ。
……おっと、この話は次の機会にしよう。
今は潜入に集中だ。
あらすじ。
潜入取材活動と称して給与アップ作戦を決行するスヴァル。
生命と給与アップを天秤に、スヴァル一人の戦いが始まる。
あらすじ終わり。
(戦いって言っても、不必要な戦闘はしっかり避けるけどね)
危なくなったら逃げる。
これ調査員の鉄則。
…………危なくなったら、逃げる。
大事な事なので、二度言っておく。
潜入の準備は済んだので、会場に滑り込むタイミングを伺う。
『―――皆様、仕上げです!』
『皆さんの祈りを!』
『アタシ逹の詠唱と共に!』
『「ウィッチ・ジェネレーション!!!」』
魔方陣の光がより一層強まった。
まばゆい光が会場全体を照らし、しばらくは何も見えなくなった。
視界が回復した頃、ステージ上の女性逹は変化したお互いの姿を見て、きゃあきゃあと飛び跳ねて喜んでいた。
ブルーノは彼女逹を横目にマイクを構えた。
『皆様、お疲れさまでした。
会場の皆様も、協力ありがとうございました』
それに続いて、クランが再び司会進行を始めた。
『さて、新たに仲間が8人増えました!』
『それでは……』
『「ようこそ!私達の黒ミサへ!!」』
大きな拍手と歓声が会場を包む。
ボルテージは最高潮の様だ。
「よし、頃合いだな……」
会場を見渡しながら、警備が手薄そうな会場の入り口を探す。
会場周りはかなり堅固な警備配置をしている。
一筋縄ではいかないかもしれないが、あっさり退く訳にもいかない。
(ここは静かに行くべきだな)
茂みから茂みへと静かに渡り、入り口の警備をしている男二人にひっそり近づく。
なかなかデカイ奴等だ。
……が、力量的には出し抜けられそうだ。
「はー、今回も警備というのは辛いものがあるな、ジョン」
「また君と二人で警備することになるとはな、スミス」
右の男がスミス、左の男がジョンという名前の様だが、今は構っている暇はない。
腰に取り付けていた『鎖ノ手錠[チェーン・ワッパー]』を引きだし、右の男を狙って、放つ!
「……うぐっ!? 何だこれは!」
鎖が絡み、動きに制限をかける。
「誰だ!? くそ、早く連絡を…!」
二本目を左の男に絡ませる。
「……悪いね、少しお邪魔するよ」
「き、貴様―――」
「『チェーンズ・ロック!』」
一本目と二本目を絡み合わせ、厳重にロックする。
「このっ………くそっ!おいスミス!」
「うるさいぞジョン!黙っていろ!」
チームワークは一気に崩壊したようだ。
去らばだジョンスミス。
どっかの対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースにでも助けを求めておけ。
「外せない……このッ……!」
必死にもがく二人を残し、会場へと忍び込んだ…。
『――っていう、ブルーノの意外な一面をこないだ見たんだよねー!』
『そ、それは誤解ですよクラン!
アレは、その、気まぐれだったというか……』
『はいはい、ブルーノのツンデレは今に始まった事じゃないしなー♪』
『だから違うのよー!もう……二人のせいで余計に恥ずかしいわ』
会場が3姉妹のトークに魅了されている中、俺は目立たないよう自然な動きでステージ付近へ徐々に近づく。
歩いている時に、聞こえてきた使い魔の男達からは、
「クランちゃん……やっぱアイドルや」
「ラズリア様はまた一段とお美しくなっておられる…!ああ、美しい……//」
「ブルーノ様マジ天使//」
「ブルーノ様のツンデレ……胸熱やな」
「ラズリア様に罵れられたい……//」
「クランちゃん……ハァハァ//」
(これ……ちゃんと取り締まった方が良くね?)
使い魔であれば、もう何でも有りなのだろう。
『それでは皆さん、お楽しみの歓談タイムです!』
『使い魔の皆、マナーを守ってご主人様と楽しくいちゃいちゃしろよー』
『私達はステージ裏にいますので、お話がしたい方は私達の使い魔に声をかけて下さいね』
『それじゃ、また後でな!』
3姉妹がステージ裏へと引っ込んだ。
雰囲気的に事が上手く運びそうな予感がする。
(さて、早速声をかけるか)
3姉妹の使い魔に群がる客人達に紛れ、自然な形で整理券を手に入れた。
ここで忍び込むと余計に混乱を生む。
素直に従うのも一流調査員への道。
「……あなた、地味な格好ね〜」
「え? 私……ですか?」
「あのう、すみません……。アスタナ、いきなり失礼だろ!」
よく見ると、話しかけてきた人物は森で追跡した魔女アスタナと使い魔タイニーだった。
「だって〜、黒ミサにこんな地味な格好でくる人なんてそうそういないでしょ〜?
ねぇ?スーツのイケメンさん?」
「私は、一応フリーライターですので……」
「……ふりいらいたあ?何それ?食べ物なの?教えてタイニー」
「フリーライターは、まぁその……文章を書くことを職業にしてる、いわば……物書きだよ」
「へえ〜!あなた凄いのね〜!
ハンサムだし物書きだし、うちのタイニーと全然スペックが違うわ。
まさにニュータイプ!通常の3倍ね!」
「あはは……それはどうも」
(どういうことなの……?)
会話の感じからして俺を誉めているらしい。
「それはそこで使う言葉じゃないし……ああもう…!」
タイニーはがっくりとうなだれていた。
『次、39番の方!』
整理券の数字は39。
ステージ付近にいたのが幸いして、早くも俺の順番になった。
「では、私はこれにて失礼」
二人に別れを告げ、案内される。
ステージ裏には小さな仮部屋がこしらえてあった。
「時間が限られていますので、質問などはお早めに願います。さあ、こちらへ」
使い魔の男が約束事を告げた。
俺は緊張しながらも、一歩を踏み出した――
――こうして俺は3姉妹の前で偽りを堂々と名乗ったのである。
「フリーライターというと、新聞の小さな見出しにアタシ達が使われるのか?」
「いえ、特集記事として大々的に取り上げる予定ですので、いくつか質問します」
「ふーん、特集かあ……。
それでシュガーリィさん、だっけ?クラン達に何が聞きたいの?」
「それはですね……!」
落ち着かない心を無理矢理落ち着かせ、俺はペンを握りしめた……!
(4へ続く)
私はレスカティエ生まれのフリーライター、『シュガーリィ=アーケイオス』と申します」
3姉妹を前に、丁寧に紹介をする俺。
「へえ、レスカティエから早速お客さんか」
「フリーライターにしては…、きっちりし過ぎるくらいの格好ですわね」
「ええ、これが私の正装です。
ネクタイを締めないと……いつも落ち着かないものでして、ハイ」
絶賛潜入活動中。
これらに至るまでを、大まかに説明しよう―――
「ふむ、やはり大したもんだ」
『変装キット』を使っての着替えが終わり、俺は新聞記者の様な格好をしている。
淡いグレーのスーツに青いネクタイ、カラーコンタクトで目の色彩を変え、スヴァルという存在をくまなく隠す。
そもそも、先程の『性欲鎮静化チョコレート』や、この『変装キット』はある友人が俺の為に開発してくれているのだ。
実際、教団の支給品よりこっちの方が優れている事は間違いない。
本部にそんな事を言ったら怒られるだろうが…。
そしてその友人は、ユニコーンの妻を持った俺の大切な旧友なのだ。
……おっと、この話は次の機会にしよう。
今は潜入に集中だ。
あらすじ。
潜入取材活動と称して給与アップ作戦を決行するスヴァル。
生命と給与アップを天秤に、スヴァル一人の戦いが始まる。
あらすじ終わり。
(戦いって言っても、不必要な戦闘はしっかり避けるけどね)
危なくなったら逃げる。
これ調査員の鉄則。
…………危なくなったら、逃げる。
大事な事なので、二度言っておく。
潜入の準備は済んだので、会場に滑り込むタイミングを伺う。
『―――皆様、仕上げです!』
『皆さんの祈りを!』
『アタシ逹の詠唱と共に!』
『「ウィッチ・ジェネレーション!!!」』
魔方陣の光がより一層強まった。
まばゆい光が会場全体を照らし、しばらくは何も見えなくなった。
視界が回復した頃、ステージ上の女性逹は変化したお互いの姿を見て、きゃあきゃあと飛び跳ねて喜んでいた。
ブルーノは彼女逹を横目にマイクを構えた。
『皆様、お疲れさまでした。
会場の皆様も、協力ありがとうございました』
それに続いて、クランが再び司会進行を始めた。
『さて、新たに仲間が8人増えました!』
『それでは……』
『「ようこそ!私達の黒ミサへ!!」』
大きな拍手と歓声が会場を包む。
ボルテージは最高潮の様だ。
「よし、頃合いだな……」
会場を見渡しながら、警備が手薄そうな会場の入り口を探す。
会場周りはかなり堅固な警備配置をしている。
一筋縄ではいかないかもしれないが、あっさり退く訳にもいかない。
(ここは静かに行くべきだな)
茂みから茂みへと静かに渡り、入り口の警備をしている男二人にひっそり近づく。
なかなかデカイ奴等だ。
……が、力量的には出し抜けられそうだ。
「はー、今回も警備というのは辛いものがあるな、ジョン」
「また君と二人で警備することになるとはな、スミス」
右の男がスミス、左の男がジョンという名前の様だが、今は構っている暇はない。
腰に取り付けていた『鎖ノ手錠[チェーン・ワッパー]』を引きだし、右の男を狙って、放つ!
「……うぐっ!? 何だこれは!」
鎖が絡み、動きに制限をかける。
「誰だ!? くそ、早く連絡を…!」
二本目を左の男に絡ませる。
「……悪いね、少しお邪魔するよ」
「き、貴様―――」
「『チェーンズ・ロック!』」
一本目と二本目を絡み合わせ、厳重にロックする。
「このっ………くそっ!おいスミス!」
「うるさいぞジョン!黙っていろ!」
チームワークは一気に崩壊したようだ。
去らばだジョンスミス。
どっかの対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースにでも助けを求めておけ。
「外せない……このッ……!」
必死にもがく二人を残し、会場へと忍び込んだ…。
『――っていう、ブルーノの意外な一面をこないだ見たんだよねー!』
『そ、それは誤解ですよクラン!
アレは、その、気まぐれだったというか……』
『はいはい、ブルーノのツンデレは今に始まった事じゃないしなー♪』
『だから違うのよー!もう……二人のせいで余計に恥ずかしいわ』
会場が3姉妹のトークに魅了されている中、俺は目立たないよう自然な動きでステージ付近へ徐々に近づく。
歩いている時に、聞こえてきた使い魔の男達からは、
「クランちゃん……やっぱアイドルや」
「ラズリア様はまた一段とお美しくなっておられる…!ああ、美しい……//」
「ブルーノ様マジ天使//」
「ブルーノ様のツンデレ……胸熱やな」
「ラズリア様に罵れられたい……//」
「クランちゃん……ハァハァ//」
(これ……ちゃんと取り締まった方が良くね?)
使い魔であれば、もう何でも有りなのだろう。
『それでは皆さん、お楽しみの歓談タイムです!』
『使い魔の皆、マナーを守ってご主人様と楽しくいちゃいちゃしろよー』
『私達はステージ裏にいますので、お話がしたい方は私達の使い魔に声をかけて下さいね』
『それじゃ、また後でな!』
3姉妹がステージ裏へと引っ込んだ。
雰囲気的に事が上手く運びそうな予感がする。
(さて、早速声をかけるか)
3姉妹の使い魔に群がる客人達に紛れ、自然な形で整理券を手に入れた。
ここで忍び込むと余計に混乱を生む。
素直に従うのも一流調査員への道。
「……あなた、地味な格好ね〜」
「え? 私……ですか?」
「あのう、すみません……。アスタナ、いきなり失礼だろ!」
よく見ると、話しかけてきた人物は森で追跡した魔女アスタナと使い魔タイニーだった。
「だって〜、黒ミサにこんな地味な格好でくる人なんてそうそういないでしょ〜?
ねぇ?スーツのイケメンさん?」
「私は、一応フリーライターですので……」
「……ふりいらいたあ?何それ?食べ物なの?教えてタイニー」
「フリーライターは、まぁその……文章を書くことを職業にしてる、いわば……物書きだよ」
「へえ〜!あなた凄いのね〜!
ハンサムだし物書きだし、うちのタイニーと全然スペックが違うわ。
まさにニュータイプ!通常の3倍ね!」
「あはは……それはどうも」
(どういうことなの……?)
会話の感じからして俺を誉めているらしい。
「それはそこで使う言葉じゃないし……ああもう…!」
タイニーはがっくりとうなだれていた。
『次、39番の方!』
整理券の数字は39。
ステージ付近にいたのが幸いして、早くも俺の順番になった。
「では、私はこれにて失礼」
二人に別れを告げ、案内される。
ステージ裏には小さな仮部屋がこしらえてあった。
「時間が限られていますので、質問などはお早めに願います。さあ、こちらへ」
使い魔の男が約束事を告げた。
俺は緊張しながらも、一歩を踏み出した――
――こうして俺は3姉妹の前で偽りを堂々と名乗ったのである。
「フリーライターというと、新聞の小さな見出しにアタシ達が使われるのか?」
「いえ、特集記事として大々的に取り上げる予定ですので、いくつか質問します」
「ふーん、特集かあ……。
それでシュガーリィさん、だっけ?クラン達に何が聞きたいの?」
「それはですね……!」
落ち着かない心を無理矢理落ち着かせ、俺はペンを握りしめた……!
(4へ続く)
11/12/11 10:57更新 / ちーきく
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