黒ミサ潜入レポート2/バフォメット
「…………ゴクリ」
あらすじ。
黒ミサを調査していたスヴァルこと俺は調査準備が完了し、主賓が来るのを今か今かと待っていたのであった。
あらすじ終わり。
薄暗い会場で、一際目立つステージに光が照らされ始めた。
そろそろ主賓のバフォメット3姉妹が姿を現すのだろう。
集められた魔女達はステージを見つめた。
ステージにスポットライトがあたる。
主賓は、現れた。
その立ち振る舞いに、会場は一瞬静かになる―――
『な、なんだ?やばい程鳥肌が……!』
『さあ、本格的に始まるわよ』
『す、すげぇ美人だな』
『きゃー!ラズリア様ー!』
会場は様々な反応と共にざわざわと波立った。
それもそのはず、ステージに登場した3姉妹は、普通のバフォメットとは格が違う、妖艶かつ禍々しいオーラを纏っている―――俺はそんな気がした。
(やはり、崇拝されているだけはあるな)
暗視カメラのフォーカスを3姉妹へと合わせ直した。
そして、そのバフォメットの一人が開口一番に発したのは―――
「―――皆、お兄ちゃんは好きかー?」
『おー!』
「皆、可愛い妹は好きかー?」
『オオォー!!』
「おー、盛り上がってるねぇ……。おい、マイクを早くよこしてくれー」
お待たせしました、とステージの傍から男性がマイクを手渡した。
(使い魔である男逹の熱気が凄いな……)
確かに、魔女になった女性はどれだけ年を召していようと、容姿は幼い少女になるのである。
身長や特徴に違いはあろうと、少女である事は違いない。
会場にはかなりの魔女。
つまり、かなりの人数の少女達がいるのだから、男逹は俄然元気なのだろう。
魔女である彼女達からしたら、使い魔である男性は『お兄ちゃん』の様な存在であり、
男性でいえば魔女である彼女達は『可愛い妹』の様に感じるのだろう。
まぁ、俺にそんな性癖は無いけど…。
取り敢えず、【お兄ちゃん 妹】と手帳に書き込んだ。
『やあ皆さん、こんばんは!ベリー3姉妹の長女、クランで〜す!』
『皆様良く来て下さいました、ベリー3姉妹の次女、ブルーノです』
『皆、さっきは返事サンキューな!ベリー3姉妹の三女、ラズリアだー!』
会場は大きな歓声と拍手に包まれた。
「凄いな。しかもこの人気か……」
魔術界のアイドル、ベリー3姉妹。
俺はそんな肩書きを心に思い浮かべた。
『いやーしっかし皆、またじゃんじゃん信者増やしてるみたいだなー?』
『前より断然増えてるよねー?ありがたい事だよ、ねぇブルーノ?』
『そうですね、二人が輝けば輝く程、もっともっと増えると私は思いますよ?』
『オイオイ、その中にブルーノ姉さんも入らなきゃ、ここまで規模は大きくならなかったって……3人揃ってアタシ達なんだからさ』
『あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。
そうね…、私も3姉妹の一人。自信を持って、頑張るわ』
『さて、いい話の最中ですが司会進行はわたしクランちゃんが務めます、よろしく!』
再び会場に黄色い歓声が飛び交う。
『ぶった切るねークラン。相変わらず、って感じだな』
『全く……儀式をやるからといって焦るのは良くないですよ、クラン?
ちゃんとお喋りや説明を含めて成立する前口上なのですから、きちんとやりましょうね』
『はいはい、分かりましたよ〜。
え〜、それでは今から執り行う儀式含め、細かな説明に入りたいと思います!』
長女のクランが司会進行を始めた。
会場の魔女達は3姉妹のやりとりに聞き入っている。
儀式―――。
資料では『人間の女性を魔女へと転生させる魔術の一種』らしい。
魔術なので、はっきりとした原理は不明。
まさに魔法、マジック。
タネも仕掛けもない。
正真正銘、魔法の力なのである。
(資料に詳しい事は載っていなかったし、俺がこうして調べあげて書き改めれば、給与アップの余地はある……!)
暗視小型カメラを回しながら、俺は下心を晒してそんな事を考えていた。
給与が多い事は良い事だし、あって困ることはない。
そうでしょう?と誰もいない暗闇に問いかけた。
時には欲望を出していかないと、仕事の動きにも支障が出るかもしれないし。たぶん。
『えー、すでに魔女の方は、新たな仲間を盛大な拍手で迎えましょう。いいですねー?』
『おっと、使い魔は主人の言う事ちゃんと聞けよー?
盛るの大いに結構だが、それは後回しだ。オーケー?』
『儀式の最中、私達は無防備ですので警備担当の使い魔の方、宜しくお願い致します』
それぞれ注意を呼び掛けてから、
『それでは、皆さんどうぞ!』とクランが呼んだ。
複数の女性がステージに招かれ、一人ひとり、丁寧にお辞儀をした。
『それでは皆様、合言葉の時間です。よろしいですね?』
ブルーノは女性達に問いかけた。
「私もあの合言葉で魔女になったのよね…」
「なつかしいわ〜、ねぇアナタ」
会場からは回想の会話で魔女達が静かに盛り上がった。
しばらくして、会場は再び静寂へと包まれる……。
ブルーノが合言葉を口にした。
『星に祈りし少女、その頬を伝う涙は』
「「星屑の軌跡、万物の願いを叶えん」」
『星を求めし少年、その内に秘めし炎は』
「「灼煌の雄獅子、幾千の輝きを喰らう」」
『……皆様、良く出来ました。
クラン、ラズリア、準備は良いかしら?』
『アタシはいつでもオーケー』
『クランちゃんも万事おっけー!』
『それでは、始めます…!
「魔術の母、サリエルの名の元に―――』
3姉妹の足元から魔方陣が現れる。
魔方陣は徐々に大きくなり、これから魔女になる女性達の足元をも照らした。
合言葉を手帳に書き込んで、その光景を眺めていた俺は、かなり興味を持った。
(魔術の原理―――今回ばかりは突き止めたいものだ…!)
知りたい。
興味と、好奇心がそれを動かす。
知りたい―――!
「……潜入調査、してみるか」
『変装キット』もある。
勿論、危険を伴う。
捕まれば、何をされるか分からない。
しかし、「好奇心」という物は俺を突き動かすに十分な動機だった。
会場では、魔術の詠唱が続いている。
詠唱が終わり、奥に引っ込んだ所で俺が突撃潜入取材………これでよし。
(さあ……大博打といこうじゃないか!)
そんな算段を考えながら、俺は『変装キット』を手に取った。
(3へ続く)
あらすじ。
黒ミサを調査していたスヴァルこと俺は調査準備が完了し、主賓が来るのを今か今かと待っていたのであった。
あらすじ終わり。
薄暗い会場で、一際目立つステージに光が照らされ始めた。
そろそろ主賓のバフォメット3姉妹が姿を現すのだろう。
集められた魔女達はステージを見つめた。
ステージにスポットライトがあたる。
主賓は、現れた。
その立ち振る舞いに、会場は一瞬静かになる―――
『な、なんだ?やばい程鳥肌が……!』
『さあ、本格的に始まるわよ』
『す、すげぇ美人だな』
『きゃー!ラズリア様ー!』
会場は様々な反応と共にざわざわと波立った。
それもそのはず、ステージに登場した3姉妹は、普通のバフォメットとは格が違う、妖艶かつ禍々しいオーラを纏っている―――俺はそんな気がした。
(やはり、崇拝されているだけはあるな)
暗視カメラのフォーカスを3姉妹へと合わせ直した。
そして、そのバフォメットの一人が開口一番に発したのは―――
「―――皆、お兄ちゃんは好きかー?」
『おー!』
「皆、可愛い妹は好きかー?」
『オオォー!!』
「おー、盛り上がってるねぇ……。おい、マイクを早くよこしてくれー」
お待たせしました、とステージの傍から男性がマイクを手渡した。
(使い魔である男逹の熱気が凄いな……)
確かに、魔女になった女性はどれだけ年を召していようと、容姿は幼い少女になるのである。
身長や特徴に違いはあろうと、少女である事は違いない。
会場にはかなりの魔女。
つまり、かなりの人数の少女達がいるのだから、男逹は俄然元気なのだろう。
魔女である彼女達からしたら、使い魔である男性は『お兄ちゃん』の様な存在であり、
男性でいえば魔女である彼女達は『可愛い妹』の様に感じるのだろう。
まぁ、俺にそんな性癖は無いけど…。
取り敢えず、【お兄ちゃん 妹】と手帳に書き込んだ。
『やあ皆さん、こんばんは!ベリー3姉妹の長女、クランで〜す!』
『皆様良く来て下さいました、ベリー3姉妹の次女、ブルーノです』
『皆、さっきは返事サンキューな!ベリー3姉妹の三女、ラズリアだー!』
会場は大きな歓声と拍手に包まれた。
「凄いな。しかもこの人気か……」
魔術界のアイドル、ベリー3姉妹。
俺はそんな肩書きを心に思い浮かべた。
『いやーしっかし皆、またじゃんじゃん信者増やしてるみたいだなー?』
『前より断然増えてるよねー?ありがたい事だよ、ねぇブルーノ?』
『そうですね、二人が輝けば輝く程、もっともっと増えると私は思いますよ?』
『オイオイ、その中にブルーノ姉さんも入らなきゃ、ここまで規模は大きくならなかったって……3人揃ってアタシ達なんだからさ』
『あら、嬉しい事言ってくれるじゃない。
そうね…、私も3姉妹の一人。自信を持って、頑張るわ』
『さて、いい話の最中ですが司会進行はわたしクランちゃんが務めます、よろしく!』
再び会場に黄色い歓声が飛び交う。
『ぶった切るねークラン。相変わらず、って感じだな』
『全く……儀式をやるからといって焦るのは良くないですよ、クラン?
ちゃんとお喋りや説明を含めて成立する前口上なのですから、きちんとやりましょうね』
『はいはい、分かりましたよ〜。
え〜、それでは今から執り行う儀式含め、細かな説明に入りたいと思います!』
長女のクランが司会進行を始めた。
会場の魔女達は3姉妹のやりとりに聞き入っている。
儀式―――。
資料では『人間の女性を魔女へと転生させる魔術の一種』らしい。
魔術なので、はっきりとした原理は不明。
まさに魔法、マジック。
タネも仕掛けもない。
正真正銘、魔法の力なのである。
(資料に詳しい事は載っていなかったし、俺がこうして調べあげて書き改めれば、給与アップの余地はある……!)
暗視小型カメラを回しながら、俺は下心を晒してそんな事を考えていた。
給与が多い事は良い事だし、あって困ることはない。
そうでしょう?と誰もいない暗闇に問いかけた。
時には欲望を出していかないと、仕事の動きにも支障が出るかもしれないし。たぶん。
『えー、すでに魔女の方は、新たな仲間を盛大な拍手で迎えましょう。いいですねー?』
『おっと、使い魔は主人の言う事ちゃんと聞けよー?
盛るの大いに結構だが、それは後回しだ。オーケー?』
『儀式の最中、私達は無防備ですので警備担当の使い魔の方、宜しくお願い致します』
それぞれ注意を呼び掛けてから、
『それでは、皆さんどうぞ!』とクランが呼んだ。
複数の女性がステージに招かれ、一人ひとり、丁寧にお辞儀をした。
『それでは皆様、合言葉の時間です。よろしいですね?』
ブルーノは女性達に問いかけた。
「私もあの合言葉で魔女になったのよね…」
「なつかしいわ〜、ねぇアナタ」
会場からは回想の会話で魔女達が静かに盛り上がった。
しばらくして、会場は再び静寂へと包まれる……。
ブルーノが合言葉を口にした。
『星に祈りし少女、その頬を伝う涙は』
「「星屑の軌跡、万物の願いを叶えん」」
『星を求めし少年、その内に秘めし炎は』
「「灼煌の雄獅子、幾千の輝きを喰らう」」
『……皆様、良く出来ました。
クラン、ラズリア、準備は良いかしら?』
『アタシはいつでもオーケー』
『クランちゃんも万事おっけー!』
『それでは、始めます…!
「魔術の母、サリエルの名の元に―――』
3姉妹の足元から魔方陣が現れる。
魔方陣は徐々に大きくなり、これから魔女になる女性達の足元をも照らした。
合言葉を手帳に書き込んで、その光景を眺めていた俺は、かなり興味を持った。
(魔術の原理―――今回ばかりは突き止めたいものだ…!)
知りたい。
興味と、好奇心がそれを動かす。
知りたい―――!
「……潜入調査、してみるか」
『変装キット』もある。
勿論、危険を伴う。
捕まれば、何をされるか分からない。
しかし、「好奇心」という物は俺を突き動かすに十分な動機だった。
会場では、魔術の詠唱が続いている。
詠唱が終わり、奥に引っ込んだ所で俺が突撃潜入取材………これでよし。
(さあ……大博打といこうじゃないか!)
そんな算段を考えながら、俺は『変装キット』を手に取った。
(3へ続く)
11/12/11 10:54更新 / ちーきく
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