連載小説
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魔物って意外と人間くさいな <アンタアタシ達をなんだと思ってんのよ…
「戸惑っちゃダメだ」
冷酷にそう告げたジロー
俺達の後ろには09の亡骸(なきがら)
空には朝日が覗き始める
「帰ろうカヤ、とりあえず気持ちの整理はそれからだ」
ジローの一言でハッと我に帰る
ふとジローの顔を見ると困ったような、なにか言葉にしづらい苦い顔をしていた
「…ありがと、ジロー。またお前に生かされたよ…」
そう言うしか俺には無かった
殺すな、とはあの状況では言えないだろうし。何より話の通じそうな相手ではなかった。
…よそう、終わらない。
なんとか絞り出す声
「…帰ろうか、うんそうしよう」
「そうね…」
ヴェルエも頷いて、俺達は宿へ向かう


ーーー宿屋ネレイスの鱗ーー―


ギィィ、部屋の戸を開ける。
ラナリアはスヤスヤと寝息をたてている
「アタシ水浴びしてくるよ…」
死には慣れていないらしいヴェルエはテンション低めにそういって何処かへ行ってしまった
こんなときにテンション上がるわけないか…
「ジロー、どうする」
なんだか気まずくなってついつい聞いてしまう、答えを求めている訳じゃない
「どうって…寝るか?」
ジローだってそうだったのだろう。戸惑いは、心の揺らぎは抑えられない。
「寝よう、かな…」
俺達は一時の休息を得た。それは肉体的より精神的な休息だ
こんなこと、と切り捨てるほど冷めてはいないが傷付いてばかりもいられない。
寝て、忘れてしまおう…人間の心は脆いんだ…


ーーー???ーーー

『ねぇ兄貴』
誰だよ、お前
『私は兄貴の妹だよ』
うちはこんな妹いないぞ、オレオレ詐欺(夢)か?
『んもう、厨二病の兄貴なら解ってくれると思ったのになぁ…』
失礼ななやっちゃな、『元』厨二病だ。
『どっちでもいいよーおバカヤ』
おバッ…なんつー懐かしい呼び名を…、で誰なんだよ妹(仮)さん?
『えへん、聞いて驚け。私は別世界の君自信なのだよ!』
おい、それ妹じゃねぇじゃん。俺じゃん。
『いいの!妹がやりたいの!!』
やりたくてやるものだっけ?妹って。でその妹様が何のよう?
『んでは私はナユ、今から会いに行くから待っててね!』
ナユ?聞いたような聞かないような…
『じゃ、いっきまーす』
あ、おいまて!!おーい……

ーーーネレイスの鱗ーーー

バッ
布団から飛び起きた、やけにしっかり覚えている夢だ。
なんちゃら夢っていう意識のある夢だったのかな?
空は暗く淀んでいる、雨か…
(しっかし、夜明けから夜まで寝てたか…俺は…)
夜明けのことはあまり考えない事にした。
周りを見る、ジローに絡み付いてラナリアが寝ている…
俺のベッドにはヴェルエともう一人
「…?誰だこいつ?」
赤紫の髪をした女…
「こいつが…ナユ?」
確かに見覚えがある、というか今さっき見た顔だ
だが何だか確信が持てない、こんな顔だった気がしない
弟や妹の誰とも似ていない気さえする、異世界の俺だからだろうか
そもそもそれを信じていいのか。しかし現に夢から覚めても居るわけで…
「…んあ、あらー着いたっぽいね。おはよう、お·に·ぃ·ち·ゃ·ん」
…不思議とグラッとこない。ヴェルエのおにぃちゃん魔力よりこない。
「お前がナユか?」
確信が持てない以上聞きたくなるわけで。
「お前とはご挨拶だな私。いや、おにぃちゃん。んん?違うな…兄貴?」
なんで疑問系で聞き返すんだお前が
「いかにも、私はナユ、兄貴から見たもしもの世界の君自身」
不思議なやつだ
髪は赤紫で縛ってはいないが手首にゴムがあるから、まぁ結ぶんだろう
目は赤茶色で明るく…体型は貧相ではないとだけ
「…であって数分で自分を視姦とはやるね、流石私だ」
うっ、鋭いな。女は視線に敏感とか聞くがおれ自身も女とあれば例外じゃないか。
「…場所を変えるぞ」
何となく変えなきゃいけない気がしただけだ
「あーいあい」
受け答えの緩さもどこか聞き覚えがある
懐かしい感じだが、何なんだろうな


ーーーラドラット西の浜辺ーーー

ザザーン…ザザーン
雨は降ってなかった、正確には降り終わったらしく雲も薄くなってきているようだ
「で、なんで俺のとこに?」
一番の疑問だ。
「楽しそうだからさ、それに一度でいいから自分の男版を見て、さわって。してみたかったんだ〜!」
触って、てお前なぁ
「俺は動物園のふれあい動物じゃねぇよ、大体どうやって来た?」
二つ目の疑問、こいつわざわざ夢にまで介入してきたけどどうやったんだ?
「賢者な時に神様にお願いしてたらエロいお姉さんが連れてきてくれた」
……はぁ?
「まるで意味わからんぞ、エロいお姉さん?じゃ連れてきてくれた人がいたってのか?」
誰だわざわざ俺を連れてくる物好きは
「何て名前だっけなー、んー思い出せんッ」
おでこに人差し指当てて考える様は不覚にも可愛らしく見えた
「まぁいいや。一晩、今夜寝たら拠点に戻るから。とりあえずお前もこい、那由多」
うん?自然と出た言葉に違和感を感じた
那由多?こいつはナユって名乗ったのに俺は何を…
「なんで本名を?」
ナユも驚いている、そりゃそうだろう。いきなり教えてもいない本名を呼ばれたら誰だって驚く
「あー、ほら。似てるだろ?勘だよ勘、そんなことよりほら宿帰るぞ」
慌てて取り繕う。俺はいったいどうしたって言うんだ…?



翌日、空は綺麗な青空。
出発の支度をする皆と今だベッドで寝てるナユ
「なぁ皆、別世界の自分自身って、信じるか?」
どう説明していいものか分からずこんな切り出し方
ラナリアはポカンとし、ジローは動じず、ヴェルエは徐(おもむろ)にベッドを見た
最初に口を開いたのはラナリア
「信じるっていうか、居るの?そんなの」
尤もな意見だ、抑(そもそも)別次元とか別世界という考えがないタイプか
次にヴェルエ
「その話、ベッドの上の誰かさんと関係ある?」
う、鋭いな
「ああ、うん…まぁ」
返事に困る、俺だって信じきっていないんだから
最後に動じずのジローが言葉を発した
「まぁ居るんじゃね、あるだろ。異世界くらい」
まぁ異世界から来た人間ですしねぇ〜、俺達は…
「で、なにいきなり?そこのベッドの娘も誰?」
ヴェルエが痺れを切らして聞いてきた
さて、どう説明したものか…
「うん、その…そこのソイツは、どうやら俺自身らしいんだ」
改めて言葉にしたときの違和感が半端じゃない
だがそれしか言いようがないし、そうとしか聞いてない
<はぁ?ドッペルゲンガーみたいなもの?
<自分自身ってことは違うよね?
<ドッペルゲンガー、ここにはそう言うのも居るのか…
三者三様に呟いた、するとベッドから間延びした声と欠伸が聞こえた
「んー、ふあぁー。ご紹介に与りました私はナユ〜、カヤの別存在だよ〜」
ベッドからむくりと起き上がり眼を擦りながらいう
「あっ、一応妹ってことでよろしくぅ」
ぶいっ、と指を出した
<かわいい〜
<はあ…妹、ねぇ…
<カヤ、お前どんな次元でも変わらないな…
悔しいがジローの呟きには同感である
「んーそろそろ出発?起きなきゃダメ?ノットオフトゥンイン?」
あー、ダメだ、こいつ俺だ。
「ああそうだよ、出発だ。行くぞ」
皆荷造りは終わっている。ナユにチョップを食らわせ出る事にした


馬車は結局置いてあったし、折角だから持って帰ることに
あのジジイの差し金ってのは気にくわないが使えるものは使うに越したことはない
馬車に女子を乗せ俺とジローは歩く。
…ちなみにエトリア領のアーリンまで2日半かかった。足がいたい


「ーーと言うわけだ、マスター」
とりあえずギルドに報告を済ませた
ジローは図書館を教えたら一目散にソコへ
ラナリアはヴェルエと宿へ。
那由多は俺とギルドに
「ふぬうー、ヴェルエを狙ってか…」
顔をしかめて考え込むマスター
「マスター、あいつはいったい何者なんだ?」
狙われたヴェルエには09という『妹』がいた。
何より最高傑作とはいったい…?
「いや、俺も良くは知らん。あいつは一部記憶がなくてな」
記憶喪失かよ、そりゃわかんねぇな
「と、言っても6歳だったか、までの記憶がないだけでそっからは俺と一緒に居るんだがな…」
「結構長い付き合いなんだね!」
那由多が割って入ってきた
「ん、ああ。アイツとは30年の付き合いになるな」
へぇー30年かぁー
「「30年!?」」
「長くない!?アイツ何歳!?」
「えぇ?36以上とか見えないって!?どう見ても16〜7だよ!?」
少し困った顔をしてマスターは答えた
「ああーっと、エルフは長命の種族だから、な?」
っと、忘れていた。エルフにとって30年はたいして長くないものなのだろう。
<ほえー長命かぁ〜
衝撃の事実にポカンとしていると後ろから声がかかった
「ちょっとー、その娘誰よ。ご主人様ァ?」
忘れていた、ライラの存在を…


ーーーアリシアの館前ーーー

…図書館?というよりは館だろうが…まぁいいか
玄関扉をノックした、返事はない
勝手に入っていいものかな…
「仕方ないか、お邪魔します」
ガチャンギィィィイイイイ普通に扉は開いた

なかは薄暗いが見えないほど暗くない
「何かご用…?」
正面の階段から少女が現れた、フード被った少女は血色が悪い
「図書館ってのはここであってるか?」
用件を伝えた、ここ図書館じゃなきゃ用はない
が、少女はなにか呆れたような顔をして言った
「…そう、ここが図書館よ」
<もう図書館でいいわ…
なにか聞こえたがスルー
「じゃあ本のある場所に案内してほしい」
頷き、少女は歩いていく。ついていけばいいのか。
………
「着いた、ここよ」
ガチャ、キィィイ
扉にはアリシアの部屋と書かれていた。
アリシアっていうのか…
なかに入る。本を手に取る。座り込む。
不思議と読めない字は無いようだ、すらすら読める
まぁ言葉も通じていたし近いものがあるのか…
「なぁ、アリシア?」
「なに?」
「アンタ魔物だろ?」
少しの沈黙
「そうよ、リッチ。不死者よ」
やはり女の子か、俺が倒したようなモチーフまんまの巨獣だとかそういうのはいないはずだもんな
「魔法は詳しいか?」
「まぁ人並み以上には」
本を読みながら少しの思案…
「じゃあさ、見てほしいものがあるんだ」


ーーーエトリアギルドーーー
「ふぅーん、カヤ自身ねぇ…」
一応説明してみたが、ライラも半信半疑といったところか
「…ねぇ、私をここに連れてきた人にスッゴク似てるんだけど。貴女じゃないの?」
じーっとライラを見つめる那由多
「知らないわよ、大体うちのご主人は一人でいいって」
<そりゃざんねーん
さて、説明はしたものの…どうすっかなー
「…ねぇ、ナユタ?だっけ?そのアタシに似た女って、青白い髪とか立派な角とか生えてた?」
まさか!といった顔をして恐る恐る尋ねるライラ
「そうだよー?」
ライラは顔面に手を当てて徐に上を向いて「あ゛ぁ゛ーもー」なんて声をあげる
「あんの、バカ母…」
母?こいつの母親が犯人?
「ゴメンね、その犯人十中八九アタシの母親よ…」

驚いたように声を出すマスター
「まて、異世界から召喚できるような魔力の持ち主にインプなんて…」
いいかけてそこをライラに遮られた
「居るでしょ?勇者一行、剛拳のクロードさん?」
驚いてライラを見る、どうやら図星のようだが
「なぜ、俺の事を…?」
「簡単だわ、アタシは貴方を知ってるの。セリエ、って名前に聞き覚えはあるでしょう?」
目を見開くマスター、なんだか蚊帳の外だが黙っておこう
「アタシの名はセリエ·クライン。リリー·クラインの、現魔王にして元勇者一行の魔法使いの三つ目の娘よ」
魔王の娘!?ライラ、いやセリエが!?
あまりにも気になったことがあったので割って入る
「待ってくれ、魔王の娘ってのは皆リリムってのになるんじゃないのか?」
セリエは明らかにインプだ小柄な体、魅了など微塵も使えない魔力の微弱さ
「そうね…だからアタシはでき損ないの娘よ。クラインの名も捨てたつもりだったんだけどね」
「…そうか、リリーなら。だが…なぜ?」
マスターは不思議そうにいう、そりゃそうだ。わざわざイタズラに異世界人召喚しても特に用はないはずだ
「知らないわ、あの母の事だし。割りとなにも考えてないんじゃないの?」
ここでいつぞやのアリシアの言葉が過る
『高飛車で、無責任で横暴で意地っ張りでついでに尻が軽いわね…』
成る程、セリエとそっくりなのかもだ
そこで何かを思い出したらしく口を開くセリエ
「そうだ、アタシから皆に依頼よ。正確には母からね」
母から?名前捨てるくらいなか悪いんじゃないのか?
ここで一つ気づく
「…呼び出しってまさか」
「そう、アタシは皆がラドラットの事件を解決している間に母に会ってきたの」
皆が神妙になって聴く
「依頼は、砂漠の地グラザリルにて教会でも魔物でもない第三勢力を調査。あわよくば叩いてほしいとのことよ」
教会、とは現魔物も悪と見なし駆逐せんとする最早邪教で、魔物はそのまま魔物だろうが
第三勢力?一体何が目的なんだ?
「ライ…セリエ、母親とは仲直りしたのか?」
「ライラでいいわご主人様、そうね。まだ完全にじゃないけど、ね」
もはやご主人様がデフォルトなのか
まあ仲直り出来たなら良かったのか…
とりあえず第三勢力を見に行くって依頼、こなそうかな!
で、ジローはまだ図書館か?



ーーーアリシアの館ーーー


「そうね、これなら作れないこともない。けど」
顔をあげアリシアは続けた
「ジロー、私と一緒に火山の街ボロニアに行きましょ」
「火山の街に?」
「これは協力者が要る、鉄を扱うことのプロが…」
ふむ、仕方ないか
「わかった、いこう」
こうして俺たちの進路は決まった


とぅどぅく


14/01/23 16:24更新 / キムカヤ
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■作者メッセージ
なんだかタイトル詐欺が多い今日この頃
さて矢継ぎ早に来る依頼、魔王の娘。勇者一行。
謎は深まります(多分)
さて次回はジローとカヤの別行動シーン
どちらから書いたらいいやら。
と言うわけでアンケートを取ります!!
1.ジローがいい
2.カヤがいい

あとはどっち陣に誰を連れていくのが見たいか
など、露骨にコメを稼いでいくスタイル
い ち お う 締め切りは1/26日前後で。
サボり性なんでもう少し遅くなるかもですが。


それでは皆さんまたらいしゅー

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