連載小説
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休息〜 <さぼりー 出発。<…日の光は嫌い
俺たちの次の仕事は帰ってきたその日の内に決まった
どうやら魔物勢でも教会勢でもない勢力が砂漠で何かを企んでるらしい
それ以外のことが分からない以上、また罠かもしれないけど
魔王様直々の依頼じゃあ、やるっきゃないな!

ーーー宿ーーー

「と、言うわけだよジローくん」
一通り説明し終わり、リーゼさんの淹れてくれた紅茶を啜る。
「ふぅん…すまんなカヤ、俺は着いていけん」
「ん?なんか用事か?」
雰囲気に流されやすいところのあるこいつがハッキリ言うときは必ず何かある
もう12年前後の付き合いだ、分かりきっている。
ジローはこれまたリーゼさんの淹れてくれたコーヒーに砂糖をドバドバ入れて飲む。甘そう…
「図書館にいったんだがな、そこの主がデザートの複製ができそうな所を知ってるってんで行ってくるよ」
魔力式デザートイーグルの複製、それができると言うことは戦力の増強を意味する
正直戦い慣れているのはヴェルエくらいなもの、マトモな武器は欲しい
特にジローは狙いが性格で端から見て実に銃撃向きだった、電動ガンの話だが。
それでもからっきしの俺より向いてるのは確実だ
「わかった、じゃジローはデザートイーグル造りに行ってくるのな」
戦力増強が見込めるのであれば一時的に分散もありだろ
「ちなみに何処に行くんだ?」
余程高度な魔術とか駆使して造るんだろうな…
「ん、火山地帯の鉱山街らしいな」
すっげぇアナログで手作業っぽいわ。
「明日は早いから先寝るわ、お休み」
ジローはそう言うと部屋に戻っていった。
コーヒーを飲んだあとに眠れるってスゴいな…

ーーーギルドーーー


「マスター、こんばんは」
ギルドカウンターで書類整理を終えたマスターに女の声が掛かる
「む、セリエか…」
「もう、ライラでいいってば」
夜も遅く開いているのは呑み屋位のものだ
不思議そうにマスター尋ねた
「どうしたこんな時間に」
それにライラは答えるでもなくソファに座った
寂しそうなライラの表情に何かを感じたマスター
「何か飲み物を出そう、少し待ってろ」
そういって台所へ向かった


ーーー翌日、宿ーーー


「あさだよ、あーさぁー」
那由多が煩い、正直いろいろ有りすぎて疲れきっていた俺は那由多を無視して布団を被る
昨日マスターと話し合った結果、1日休暇を取って行くという話になったので今日はフリーだ
「んもーいいさ!兄貴なんかほっとく!!」
那由多がむくれて出ていってしまった
一応報酬から銀貨数枚は渡してあるし今日一日なら不自由しないだろうが…
<ごぉぉぉぉおおおしゅじん〜〜〜〜!拐われるううううう…!!
ライラは連れていかれてしまったようだ
関係ないな、引き込もリストの俺はどんな状況でもオフトゥンがあれば寝られるからな
再び眠ることにした…Zzz…

ーーーアリシア邸ーーー

ジローは朝早くに起きてアリシア邸に来た
と言うのもデザートイーグルの解析とあわよくば強化、複製ができればいいと思いアリシアの
鉱山街に行くという提案に乗ったためだ。
「なあアリシア、なにで行く気だ?」
朝早く、と言うことは時間がかかるのだろうとジローは予想した、が。
「この街にある転移ポータルで行くわ」
予想外にハイテクな物があって少々驚く
「そんなものがあったんだな」
これは移動が楽そうだ、しかしそうなると…
「なんで朝早くの必要があったんだ?」
「日の光は嫌いなの。」
私的な理由らしい

ーーー移動ポータルーーー

アリシア邸から出発し、ものの数分歩いて建物に入り、到着した
「これがポータルか…」
門、という認識でいいのか
不思議に光る大きな門
「遠いのよね、ボロニアは…だからポータルが出来た。」
言いながらアリシアはポータルに乗っかった。
生活の知恵の延長線上だろうが、魔力が絡むと凄みが増す。
「どういう仕組みなんだか…」
ジローは呟き、アリシアに続いてポータルに乗っかる。
瞬間。目の前の景色が歪み、ねじ曲がった。あまりの気持ち悪さに目を瞑り終わるのを待った。
アリシアの「着いた」という言葉が掛かったのは3秒後位だったが何分か経ったように感じた
「…地獄だったな…うぇ……」
呻くジローに淡々と告げる
「乗り物酔いの類いなの…?ポータル酔いは人間だとそこそこ多いみたいだけど」
アリシアは涼しい顔をしている。
「行きましょう、日が昇りきる前に…」
アリシアのローブの裾は思い切り握りしめられた跡があった。

ーーーエトリアギルドーーー

キィ、蝶番の扉が開きヴェルエが入ってきた
「おはようマスター」
「よう、ヴェルエか全く最近はここも賑やかでいいねぇ」
「そうね、そうかもしんない」
カウンターで向かい合う二人。クロードは皿を磨き、ヴェルエは椅子に座ってそれを見守る
「すっかり飲食店のオヤジね」
クロードの作業を見つめ、くすりと笑っていう
「仕方ないだろ、ここに来る依頼なんてほとんどないんだぜ?なんたってエトリアの天下のド田舎アーリンだからな」
クロードは肩をすくめて冗談めかして言った
「かつての英雄が何でこんなことやってんのかねぇ?」
「前もいったろう?それだけ平和なんだよ、たぶん世界単位で見なければ、な」
かつて世界を平和に導いた人間だからこそ出来る哀しい顔、その顔には『全てなんて救えない』という感情がありありと見てとれた。
「アタシこの前平和じゃなかったんだけどね」
冗談半分にいう。ヴェルエなりの気遣いだ。
「だったら取り戻しに行ってみるか、お前の平和」
じっと、ヴェルエを見る
「…そーね、そろそろアタシの平和をつかみに言っても良いのかもね」
二人は微笑いあう、その姿は親子のそれに似ていた。


ーーー火山鉱街ボロニアーーー

ポータルから出てまず最初に見えたのは月だった
遠いとは聞いたがここまでとは…
(俺達が出たときは明らかに朝だったよな?)
そう思考しつつ空を見上げる
冬の空にはオリオン座、記憶していた向きと何か違う気もするがきっとあまり深い意味はない。
そういう世界なのだろう。
「…月が、綺麗だな…」
呟く。こちらの世界の月は大きく、満月の為かかなり明るい。
「いつまで月を見ているの?」
アリシアに声を掛けられるまで月に見とれていた。
「あ、ああ…すまん、いこうぜ」
「これからいくのはそこの建物の奥ね」
そこ、と呼ばれた方を見ると山肌から建物がはみ出る形で入り口がある
目的の鍛冶屋はそこの奥にあるらしい。
「ほう、結構広そうだな…」
そう言って前を見るとアリシアが先に行ってしまった
せっかちなやつ、そう思いながら歩く。
まあ、目的地も分かったしゆっくり行くことにした。

入ってみると大きくくり貫いたメインストリートにいくつもの店(ぽいもの)が並んでいて
なにやらアーケード街を思い出す感じだった
服屋がありパン屋があり、あれは…布団屋か?肉屋もある。
勿論武器屋もあるっぽい。
奥、奥、奥ね…と呟き歩く。道中褐色だったり白めだったり小さな女の子に「なになに?兄さん迷子かい?」とか「旅のお兄さん、探し物かい?」とか声を掛けられた。
総じてなにか身の丈に合わない物を担いでるんだよなぁ、一体何なのか。武器か?
「やーやーお兄さん探し物かい?いいもんあるよ?」
相変わらずここの女の子は小さくてフレンドリーでどこか商売っ気がある絡み方だな
「ああ、迷ったんだ。鍛冶屋はどこにある?」
すると女の子はケラケラ笑い出した
「ぷ、あははは!鍛冶屋って、ここはボロニアだよ?どの鍛冶屋か分かんないさっ」
そんなにいっぱいあるのか…困った
「じゃあ、この街一番の鍛冶屋を教えてくれ」
違ったら違ったでまた考えることにしよう
「うーん、ウチが鍛冶屋なら間違いなくウチに連れてくけどねぇ…おしい…」
呟いたあと「分かった、着いてきなっ」といって歩き出した

ーーー鍛冶屋赤鉄ーーー

カウンター越しに話す二人、アリシアと鍛冶屋の店主。
「ーーーと言うわけなの。」
「へぇ、魔力を射ち出す銃ねぇ」
珍しいものも有るもんだ、と感心する鍛冶屋の店主はオレンジ短髪の女の子
「で、どこにあるのさその銃は」
早く、と言わんばっかりに興味津々な顔で手を出す店主
「待って、もうすぐ来るから…」
ガチャ…鉄製の扉が開く
「ここか…着いたぞ鍛冶屋…」
やれやれといちゃ感じでジローが入ってきた
「迷ったの?」
アリシアが不思議そうに聞く
「ああ迷ったから教えてもらった」
「で!早く見せておくれよ、その銃を!!」
待ちきれんといった表情で銃を見せろとねだる少女、この少女もちっこい…。
「ジロー、銃を…」
言われるがまま、銃を取りだしアリシアに渡した
それを少女がひったくる
「おお…おおお…おおおお!!」
可愛らしいな、目が輝いてる…
「どう?作れそう…?」
アリシアが少女に聞く
「うーん、まあ無理ではない、とだけな…」
煮え切らない少女の返事
「どういうこと…?」
「いやな?どうもこの武器は不完全なんだわ」
不完全?不完全と言ったかこの少女は
少女はジローとアリシアの表情の疑問符を読み取り、説明を始める
「と、いうのもこの銃は魔力を吸い、射ち出す。単純な筈の仕組みに威力を減衰させる機構が割り込んであるのさ。するとどうなるか、反動は減るだろうが打ち出した弾の威力がガクンと下がる」
とても分かりやすく説明してくれたがそれでは作れない訳ではないという言葉の説明がつかない
「そこまでわかってるなら複製も出来そうなものなんじゃないか?」
「うん、そこなんだけど。完全に複製は出来ない、ただ似たような物は造れるってことさ」
「そうか、ならどういうものなら造れそうだ?」
期待を籠めて聞く、高望みはしないが心は踊る。
「そうさね…いくつか案は有るけど…こんなのはどうだい?」
少女は近くにあったメモ帳に鉛筆で武器を描き始めた


ーーーアーリン:商店街ーーー

太陽が頭上に来た頃、アーリンのとある服屋にて
(兄貴が『エトリアのなかでもグラザリルってとこは砂漠らしいし着替えは買っとけよー?』って言ってたけど…)
「ライラの着せ替えのが楽しい〜」
ライラは那由多の着せ替え人形と化していた。
(help!!helpご主人!!)
「んー、ライラはなんでも似合うねー。次これ、行ってみよっか!?うへへ…」
那由多の手に握られたそれはまごう事なきメイド服
「こ、これは…」
可愛らしいデザインのメイド服に興味が沸くが如何せん恥ずかしい
(き、着てみたい…けど…この服何か…プレッシャーを感じる…!!)

「はぁー、冗談で作ったんだけどまさか試着しようなんて人がいるとはねぇ…」
二人のやり取りを見ながら店主のアラクネが呟いた…

ーーーアーリンの宿屋ーーー

「Zzz...」
夕方と言って申し分ない時刻だがカヤはまだ眠る
そこにラナリアが入ってきた
「あれー?カヤ、寝てるの?」
首をかしげるラナリア
「っかしーなぁ?もう夜になっちゃうよ?ガディも居ないし…」
ラナリアはカヤを起こしにかかる、まずは揺すってみる
ゆっさゆっさ
「おーきーてーよー」
ゆっさゆっさ
「もー、起きないし…」
「んー、何だよ…えっと、ラナリアか…?」
寝ぼけ眼で虚ろに自分を起こした主を呼ぶ
「そう、ラナリアだよ。そろそろご飯にしようよ、お腹減った」
ふっと、外を見ると紺色の空。「夜か…」と呟いて布団(ベッド)から出た
そのときガチャ、と扉があきフリフリゴスロリの那由多が入ってきた
「たっだいまー、あー楽しかったぁー」
「う、うう…嬉しいやら悲しいやら…」
那由多に続いて複雑そうな半泣き笑いのライラが入ってきた
「二人ともその格好…えっと、…えっと?」
「ちょっとご主人何か言ってよ!?」
言葉が見つからない、何て言えばいいのか…
<わー二人とも可愛い〜
<でっしょー!?いいでしょー
<う、嬉しいような恥ずかしいような…
ラナリアの無邪気な一言にヒントを得る
「あ、ああ…似合ってるよ、うん。可愛い」
怪訝そうに見つめてくるライラ、ジトゴスロリ目悪魔ッ子、リーチだな。
「ほんとにぃ?そう思ってる?適当いってない?」
可愛い、という感想に偽りはない。いきなりで面食らったが。
「ああ、可愛いよ。ライラ」
「そ、なら…わざわざ買ってきたかいがあったわ、ありがと…♪」
フィーバーです、この笑顔フィーバーですわ!!
言ってライラは「お腹減ったわ、リーゼになにかつくって貰いましょ…」と出ていってしまった

ーーーアーリンの宿屋前ーーー
皆が寝静まった深夜
寝すぎて寝れなくなった俺は宿の前に出て月を見ていた
「いいねー、吸い込まれそうに綺麗な月がこんなに大きく見えるなんてな」
気持ち三倍くらい大きく見える月。
日本は遮蔽物が多すぎて綺麗な月が見れないのだから、長々見ておいて損は無いだろう。
すると横にライラが来た、ちょこんと俺の左手に両手を繋ぐ
「寝れないの?」
「ああ、寝過ぎちゃったよ。はっはっは」
日本であればネットなりなんなり時間を潰す方法はいくらでもあるが、こっちはそんなもの多分無いだろう。
「ね、ご主人さ、契約しようよ」
久しぶりの契約おねだりか…
「ん、っと…わかった」
仕方ない、ヘタレ的に気乗りはしないがライラとの約束『落ち着いたら契約する』をまだマトモに果たしていないからな。
「どこでしよっか…」
なんだか最初の頃と違ってしおらしい、魔物は皆性に対し盛んなんじゃないのか?
その疑問がある一言を生んだ
「ライラ、何かあったのか?」
彼女を心配する一言を。何か様子がおかしいのは出会ってまもない俺でも解る。
「…ご主人。あたしね、インプじゃないみたいなの…」
はい?
14/02/05 00:11更新 / キムカヤ
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■作者メッセージ
何だか遅くなったわりに駄作ですが伝えたいことが伝わればな、と
二つの視点で同時進行は難しいですね…
一話みたいに気持ちに整理がついたら書き直すかもしれないです
技術に自信がついても同様で

さて、ライラさんがインプじゃない!?でも本人いわくリリムでもない。
一体彼女は何者なのか!

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