連載小説
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マンの乱闘
「ちょっとまて!」
1625年の第一月曜日。
フランスの町マンの宿屋の前で、たいへんな騒ぎが起きていました。
紫の胴着のダークヴァルキリーの騎士に、
ベレー帽の血気盛んな青年が怒鳴り散らしておりました。
「何がそんなにおかしい!ご教授願おうか!」
齢は17、8ほどで、色あせた毛織の胴着に腰には長剣。
なかなかな色男なのですが、いかんせん頭に血が上っている。
発達したあごの形、巻き舌な「R]の発音からしてガスコーニュ出身でしょうか?
「もしや、私を笑う勇気がなく、馬を笑った?そうだろう?」
笑われても仕方ありません。人々、その騎士の従者たち、
誰が見てもその姿は滑稽そのものなのです。
尾には毛がなく、脛にできもの、加えて下げた頭が一層しょぼくれた「感」を
出してしまいます。
次第に皆が笑いをこらえはじめ、余計に青年の頭に血が上りました。

「なによ〜アタシが何見て笑ってもアタシの自由。そうでしょ?」
そういうなり宿に戻ろうとする彼女。
ついに我慢の限界です。
「待て!」
言うなり青年は剣を抜きました。
「私の名はダイ。ガスコーニュはタルブ出身だ!名乗れ!そして決闘を受けろ!」
まったく相手にせず。そりゃそうか。
「引き返せ!そんなに背をうしろ傷で汚したいのか!」
後ろ傷は逃げる時に負う傷。よって騎士には不名誉なこと。さすがに振り向かざるをえず、
「ふ〜ん。言ってくれるじゃない。チェリーくn…」
その瞬間、青年の剣先が騎士の鼻先にふれました。
とっさの判断でかわさなければ致命傷。周りからも鮮やかな突きに感嘆の声があがります。しかし、従者のゴブリンたちは気が気でなくて。
「やるのかい!?」「あたしらが相手だ!」「ですとろーい!」
などと言って、宿から借りてきた棍棒やらスコップやらをやたらめったらふりまわし始めました。避けるしかありませんよね。
「ちょっ、待てっ!卑怯な!はうっ!…」

「くりてぃかーる!」「そーれやっつけろ!」

「チェリーくーん?意識ある?死んじゃった?また強くなったら会いましょうね〜だからそれまで生きててね?て、もう無理か…」

「クソッ…」
それでも、薄れゆく意識のなか尊敬する父の言葉のみよぎるのでした。

「家名を汚すな。国王陛下と枢機卿、最後に近衛銃士隊のトレヴィル公の三人に敬意を払え。そしてこの方々以外にこの世の誰にも遠慮はいらん。自分の力を信じ
どんな冒険にも飛び込んで行け。禁止令は出ているが、決闘は機会があれば誰でも挑戦するのだ。勇気を示し、名を上げよ。」




14/12/17 00:22更新 / リエージュ川島
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