連載小説
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妖しい騎士
青年ダイの生まれは先ほど彼が述べた通りフランス西部ガスコーニュ地方のタルブ出身。
スペイン王国との国境地帯で、窓からは夏でも雪残るピレネー山脈が見え、サハギンたちの隠れ里である白い滝、その流れを集める激流が聞こえ、緑のよく耕された土地にはブドウ畑とともにワ―シ―プやホルスタウロスの群れがのんびり暮らす。そんなのどかな地です。
太子アンリ4世もまたここ、ガスコ―ニュ出身で人々の希望であり、誇りでした。よってダイも裸足で野山を駆け回り、雪解け水の河を泳ぎ、ニンニクを生で齧るやや荒っぽい育ちです。
そんな土地ですから、たとえ、たとえですよ?一応500年、尊厳王フィリップ四世の時代から続く名家の子でも、舞踏や社交術でなく戦うための剣術、槍術、銃術、兵法ばかり習って育ったのでした。
そんな父が旅立つ我が子に持たせてくれたのがさっきのバカにされた馬、十五エキュの金、長剣、そしてあの言葉でした。
実際はしょぼくれた馬に長すぎる剣、パリへ行くには明らかに足りない路銀。
特に馬と剣に関しては年頃の男の子には辛すぎる。ダイは最初こそ落胆したもののそれらを用意してくれた父を改めて感謝、尊敬し、言葉を胸に勇みパリを目指したのです。
あの乱闘にはこんな理由がございました。


「あの子やっぱ死んだ?」

「いえいえ、とんでもない!まだ生きてますよ。手当てして使ってない部屋へ放りこんでおります。まったく仕方のないクソガキで。ご迷惑おかけしました。」

「いいのよ〜。出会っちゃったアタシが悪いの」

「気がつき次第追い出しますよ。それよりもマドモアゼル、何とあの野郎トレヴィル公への手紙を持っておりまして。ほら、この通り。」

「…へえ…。」
鈍い光を湛えた眼で微笑を浮かべ、騎士は歩き始めました。

「む?マドモアゼル?おつりは?よろしければチップとしていただきますが…」

「…これでよし。」主人はさっとおつりを袋に入れ、金庫にしまいました。



「んんん・・・あつつ…」

「やっと起きたかい?さっさと出っていってくれよ。枢機卿の部下にでも知れたらまたまたおおごとだ。」

「いって…おい!主人!俺の剣は!?」

「あんたの剣なら折れちまったよ?ほれこの通り。」
 と言って主人は部屋の隅で真っ二つになっている剣を指差します。大方、ゴブリンに殴られたのでしょう。

「あ…あああ…父…上…」
 剣は一家の誇り。父が託してくれたもの。どんなに扱い辛くても、ダイにとって誇り。涙はボロボロ。止まりません。

「…泣いてる場合じゃないね!主人!追加の金を払うから傷が治るまでここに居させてくれ。それと今から言う薬草を!」

「金払うってなら…文句はないけど…」

ふと窓を見るとそこにはさっきのダークヴァルキリ―の騎士。思わず覗き込みました。

「で、枢機卿猊下のご命令は?」

話しているもう一人…ワイトでしょうか?雪のように白い肌、麦の穂の様に鮮やかな金色の髪、そして妖しくも美しいたゆたう様なアズーリの瞳。
今まで田舎にいたダイにとって、新鮮で、危険な刺激。思わず見とれたものの、しっかり耳はそばだてます。

「あなたがイギリスにもどり、バッキンガム公がすでにロンドンを発ったかを調べる。以上よ。」

「招致しました。では、あなたは?」

「いったんパリへ戻ろうかと。」
そういう騎士の左のこめかみには傷。ダイは再度決闘すべく宿を飛び出ました。

「待て!今度こそ勝負だ!」

「あらまあ、可愛らしい…勝負して差し上げては?」

「私だって忙しいのよ〜」
 そうなり馬へ。

「そう…では、オ・ルヴォワ―ル…」
ワイトの美女も御者に命じ出発。ダイはポカーンと見送るのみ。

「…とっとりあえず、キズを癒さなきゃ…な。剣だって新調しなきゃ。」
14/12/18 20:53更新 / リエージュ川島
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