連載小説
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太刀洗彼方は人外を惹きつける その2
―どうしてこうなった。彼方が盛り塩をするというから念のためついて来たら部屋に通されてしまった。これはあれか、オーケーのサインなのか?据え膳食わねば女の恥ってやつなのか?ちなみに今彼方は近くのコンビニに塩を買いに行っている。彼方が持ってきたジュースを口に含み周りを改めてみてみる。なんというか彼方らしい地味な部屋だ。本当に必要最低限のものしか置いていない。ふとベッドに目が留まる。クールぶってはいるがやはり小学生というべきか布団が少し乱れている。

「しょーがない、綺麗にしてやるか」

 そう綺麗にするだけ。別にニオイをかいだりとか全然するつもりないし、そうこれは必要なことであり別にいやらしいことなんてするつもりはないし

「……ふぅ」

  思いっきり枕に顔を埋めてしまった。ちょ、ちょっとだけ……ちょっとだけ……。

枕に顔を埋めながら布団にくるまってみる。よくその布団を使っている人に包まれている気分とかいうけど、実際に今、彼方に包まれている気分になっている。

「……それにしても何やってるんだろ俺」

 いまいちパッとしないやつだと思っていたが以外にも我が強く行動力もあったなんて完全に計算外だった……。普通あういうタイプってその場の空気に流されやすいと思ったんだけどな……―



―「あひ、ふへへそこはダメだろ彼方……」
「人のベッドで寝ながら涎を垂らしているほうがダメだろ……」

 盛り塩に使う塩を買って来たら勝手に寝ている菅野。寝るのはまあ多少は我慢できるけど涎を垂らされるのはちょっと……。

「起きろ菅野」
「んああああぁぁ!」
「なに!?」

 悪い夢でも見てるのかいや、悪い夢で涎を垂らすってことはないはずだ。声をかけてダメなら……布団をひっぺがえすか……。

「起きろおおおぉぉぉ!!!!!」
「うわあああぁぁぁ!!!……あ?」
「やっと目が覚めたか……」

 見る見るうちに顔が赤くなっていく菅野。忙しいやつだ……。

「み、見たのか……」
「なにが」
「見たのか!?!?」
「とりあえず涎をふけ」

 ハンカチを口元に押し付ける。布団に垂れたのは後で拭こう……急によそよそしくなった菅野をよそに準備を始める。とはいえ買ってきた塩と小皿を4つ鞄にいれて準備は完了だ。

「見たのか……」
「いい加減にしないと置いていくぞ」

 そもそも見られて困るような状態になるなよ……。菅野も準備ができたようなので早速向かうとしよう。



「もう一度聞くけど……盛り塩なんか効果あるのか?」
「さあ?」

 そんなことを聞かれてもわからない。以前図書室で見ただけだ。銅像の四隅に小皿をおき塩を円錐状に形を整えていく。実際オカルト的なことが関わっているのならとりあえず盛り塩だろう。


 それから10分ほど待ってみたが特段異常なことは起きない。暇だな……。

「菅野」
「……んぁ、寝てない。寝てないぜ」
「……その半開きの口から垂れてる涎をどう説明するつもりだ」
「た、た、垂れてねーし!!」

 慌てて袖で口元をぬぐう菅野。寝るたびに涎垂らしてるなこいつ……。

「お前休みの日とか何してるんだ?」
「な、なんだよ急に……ハッ俺に気があるな」
「もういい」
「嘘!嘘だから簡単に諦めるなよ!」
「今日はいい天気だね」
「話題をすり替えるなよ!すげー傷つく!」

 こちらとしては暇が潰せればそれでいいのだ。菅野の休日だろうが天気の話だろうが別にどっちでもいい。

「休みの日!休みの日な!?えーっと、えーっと色々!」
「……今日は雲一つ無いいい天気だね」
「いーじゃんか何してても!!」

 なにしてても構わないし、あんまり触れてほしくなさそうだから話題を変えたのになんで声を荒げているんだろう。

「そういうお前は何してんだよ」
「神社の掃除の手伝いとか、買い物とか」
「うわ、クソつまんねー」

 自分は秘密のくせに人の休みを聞いてその返答は失礼だろう。

「……この妖怪涎女」
「やめろおおお!!」

 ……よし、しばらくはこのあだ名でコントロールできそうだ。いいネタをもらったぞ。

「それにしても何にも起きねーな……」
「やるだけやって満足したのかな……?」―



―急に話題を振られてビビったー!普通にミサに参加してるって言えればいいけど彼方は確実にどんなものか聞いてくる。短い付き合いだが俺にはわかる。こいつの洞察力というか直感は馬鹿にできないレベルだ。少なくとも俺より優れている……と思う。あまり深く突っ込まれると思いもしないところでボロが出そうだし。

 ……そんなことを考えていたからだろう。俺は空からの襲撃者に彼方が手を無理やり引っ張るまで気が付かなかった。

 砂埃が舞い、視界が覆われる。それでも姿が見えない襲撃者の魔力の強さを感じる。

「誰だ!」

 俺の壁になるように一歩踏み出し、目を細めながらも瞬きせずにじっと前を睨み付ける彼方。意外とガッツがあるんだなぁ。

「勝手に変な改造とかされると困っちゃうんだよねー」

 感じる魔力の大きさとは対照的に少女のような声音。少女のようなこの声から察するに十中八九俺と同じ魔物に違いない。

 刹那。砂埃を振り払い目の前に現れる襲撃者。全体的に色素が薄い翼と尻尾。そして白に近い紫の髪。青い瞳と目が合う。こいつは―

「―アークインプか!」
「ピンポーン。大正解」

 にこっと笑い右手の人差し指で額を軽くつつかれ、後ろによろめきしりもちをつかされる。慌てて立とうとするが。四肢に力が入らなくなっている。まずい!

「はーい、よーく私の目をみてね……逸らしちゃだめだよ……」
「なにを……はううううぅぅぅ!!」

 瞬時に全身が焼かれたように熱くなる。催淫術を掛けられたのだろう。下半身からだらだらといやらしい液が垂れはじめ半開きの口の端から涎がこぼれる。飲んでも飲んでも追いつけない量だ。

「ねぇねぇお姉ちゃん。今自分がすっごくエッチな顔してるってわかる?」
「う、うるせー……うぅ」

 まずい。少しでも気を抜けば自分の手で全身をまさぐり悶えてしまいそうだ。

「んふふー。そんないじめてほしそうな顔してると私もいたずらのし甲斐があるなぁ」

 背後に回り抱きしめられ、そのまま下半身をまさぐり始めるアークインプ。ダメだもう―

「うあああああぁぁぁぁぁぁ!!!」
「あはははは!ちょっと触っただけでイッちゃった!」

 瞬時に絶頂を極めさせられ、さらにそのことを笑われる。悔しいが完全に術にはまっている今、俺に抵抗する手段はない。


 ……もちろん、俺が一人なら、の話だ。


 風切り音とともに目の前を鞄が勢いよく振り払われる。動揺して判断が後手に回っている俺と違い、いつものいまいち感情の読めない顔で襲撃者に逆襲する彼方。もちろん相手は魔物である以上掠りもしていないが相手を遠ざけることが出来ただけでも十二分だ。

「……涎の次はおもらし……」
「ち、ちげーよ!そういうのじゃないから!っつーかこっち見んな!!」

 こういうところは年相応な反応だと感心したいところだが今は他にやらなければならないことがある。

「大丈夫だ。……漏らしたなんて誰にも言わないから」
「お願いだからちょっと黙っててくれ」

 泣きそうになる気持ちを抑えて立ち上がろうとするものの、少しでも力を入れればかけられた術の影響ですぐにでも達してしまいそうになる。先送りになっただけでまずい状況に変わりはない。

 「おやおや、もう一人の子は普通の子みたいだけど……なんか物凄くいいにおいがする……!」

 脱力して動けなくなった俺に興味を失ったのか、彼方に視線を移すアークインプ。純粋な真っ向勝負なら多少の時間稼ぎぐらいはできると思うが、今の状況ではそれもままならない。

「逃げろ!彼方!」
「じゃ、あとよろしく」
「おおおおおいいぃ!?」

 即答だった。まるで俺がそういうと予め解っていたかの如き即答。そのまま背を向けかなりのスピードでダッシュする彼方。ここまで速攻で見捨てられると逆に清々しくなる。

「……」
「ハッ追わねーのかよ」
「んー?だってすぐに捕まえられるし。いまはお姉ちゃんに悪戯したいかな」

 瞳をぎらつけせて座り込む俺の前に立つアークインプ。瞳を見ているうちにまた少しづつ体が熱くなってくる。逸らそうとしたときにはすでに遅く、完全に精神を掌握されたようだった。

「それじゃあ、さっきの続きからやろうね」
「……クソッ」

 辛うじて言葉での抵抗はできるがそれもいつまでもつかわからない。そのまま力を込めていた口をあっさりと割られ、アークインプの舌が入ってくる。口の中を蹂躙するかのように暴れまわる舌に翻弄されっぱなしだった。相手が口を離した時にはお互いの唇を結ぶ光る糸ができていた。完全に脱力してしまった俺の体はもうなされるがままだった。

「ねえねえお姉ちゃん。私はアンジュっていうんだけどお姉ちゃんは何て名前なの?」
「う……あ……」

 答えてはいけない。普段ならともかく今の状況で答えるのは名を支配されることで、相手の魔法を全て無条件でくらってしまうことで―完全に堕とされることを意味する。

「ねえ、おしえてよ……もっと悪戯してあげるから……それともこのままゆっくりじっくり苛められるのがいいの?」
「う、うるせぇよ……」
「んふふ、そうこなくっちゃ」

 アンジュの手が股に伸びてくる。そのまま秘裂のなかにチュプ…という水音とたてて指が侵入してくる。

「はううぅ……!」
「お姉ちゃんが名前を教えてくれるまでこうやってゆっくりと苛めてあげるからね。ぜーったいにイかせてなんてあげないから」
「あ、あ、ああぁぁ……」

 もどかしい。苦しい。辛い。ゆっくりと体は快感を引き出されているのにあと一歩足りない。無意識に体をゆすり快感を貪ろうとするものの、アンジュは器用に指を動かし、一定以上の快楽を得ることができない。このままでは完全に壊れてしまう。普段あまり自分を慰めず、さらに男との干渉もしたことがない俺はあっさりと屈してしまう。

「お、俺は……」
「ん?なぁに?」
「俺の名前は……!」

 霞が視界を埋め尽くす中、俺を置いて走り去ったやつのことが頭をよぎる。薄情だとおもうけどそれも仕方がないことだと思う。魔女になって背丈が縮んだ俺とは違い、まだ純粋な成長しかしていない子供だ。むしろ下手に関わられるよりもこっちのほうが良かったと思う。

「俺の名前は―」
「そいつの名前は菅野愛梨。住所不定家族構成不明、通称妖怪涎女だ」

 ―だからこそアンジュよりも再び現れた感情のなさげな少年の姿に俺は心臓の鼓動が跳ね上がった。

「お、おま、なにやって……うくうううぅぅぅぅぅ!!!」

 アンジュが驚いた拍子に指を奥深くまで突き込んできたせいで絶頂させられる俺。じらしが無くなり、まだましな状況になった俺は戻ってきた少年、彼方の姿を見る。

 左手にはどこからとってきたかわからないゴミ箱のふた。右手には箒。……完全に子供のチャンバラスタイルだった。

「ぷっ、あはははは!なになに?そんなおもちゃを取りに行ってたの?なんていうか男気は認めてあげるけど……クスクス」

 アンジュの嘲笑を聞いてか聞かずか、ふたを盾のように構えそのまま突貫してくる彼方。こいつのこの行動力はどこから来るのだろうか。

 アンジュは笑みを浮かべながらも魔力を指先に集中させ、彼方に狙いを定める。恐らく魅了系の魔法だがもともとの魔力の高さや受ける側の彼方がただの子供であることを考えるとどう考えても過剰な威力だ。

「やめ……ろ……!」
「……」

 ちらっとこっちを見た後、舌をペロッと出し

「い・や・だ」
「てめぇ……!」

 そのまま魔法を放つアンジュ。こうなった以上もうどうしようもない。あの時、神社で白川と取り決めたように関わらせずに、無理にでも止めておけばと後悔がよぎる。

 そのまま魔法の奔流は彼方を包み―





―その奔流をふたの盾で突破した彼方がアンジュの目の前に箒を振り上げて現れた!!!

「え!?ウソ!?」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

 普段の姿からは想像もできない激情と気迫を込めた一振りで思い切り悪戯悪魔の脳天を引っぱたく彼方。

 大したダメージは入らなくても、トリックはわからなくても魔法を突破したことは大きく流れを変えられるそう思っていたが。

「い、痛い……痛い痛い痛いいいいいぃぃぃぃぃ!!!」

 なんかめっちゃ痛がってる。相当なダメージを入れることができているようだ。

 振り下ろした箒を振り上げて追撃しようとする彼方に対し、ダメージを嫌ったアンジュは大きく間合いをとり、頭をさすりながら驚愕のまなざしを向けている。きっと俺も似たような顔をしているだろう。

「大丈夫か菅野」
「大丈夫に見えるのかよ……」

 軽口をたたく余裕が生まれた俺は彼方が差し出した手を握り、瞬時に自分にかかっていた催淫術がかき消されたことに気が付き、再び驚く。

 アンジュを見るが別にあいつが魔法を解いたわけではなさそうだ。つまり、魔法を解いたのは彼方ということになるが……。

「……お前なにしたんだよ」
「?」

 こっちもこっちでよく状況を理解していないようだった。なんだこれ。

「ねえねえ僕、その危ないやつおいて一緒に気持ちいいことしよ?」

 威力にビビって懐柔しようとするアンジュ。甘いな、うちの彼方はその程度の安い言葉では流されない!

「やだね、どうせなら菅野とがいい」
「何言ってんだお前!?!?」

 いきなりとんでもないことを言ってのける彼方さん。意味わかってて言ってるのかこの子は!

「……もしかして二人はあれ?コイビトってやつなの?」
「へ、い、いや、ちげーし!な、なあ?」
「……」

 ちらっと顔色を窺うと物凄く、心底いやそうな顔をしてなぜか俺を睨み付ける彼方。なんかゴメンナサイ。

「ふーん、友達以上、コイビト未満って感じだね。じゃあ、私も狙ってみようかな」
「変態はお断りだ」

 バッサリと切り捨て、油断なく睨み付ける彼方。

「そんなに睨まなくても今日はもう諦めるよ。……おじさんの像の件は残念だけど……もっと大きい収穫もあったし」

 魔物らしいいやらしい笑みを浮かべ、舌なめずりをしたアンジュはそのまま空を飛び始めた。

「そっちの魔女のお姉ちゃん。次あった時にまだコイビトになってなかったらその子、私に頂戴ね」
「な、なに言ってんだてめぇ!」

 恥ずかしさを誤魔化すように声を張りあげるが、すでにかなりの高さまでとんでいたアンジュには聞こえていないようだった。

「……」
「……」

 残った俺と彼方との間には非常に気まずい空気が流れていた。もしかすると俺が一方的に感じているだけかもしれないけど、それでも今日だけで涎を垂らす姿を見られ、相手の手で何度も絶頂した姿を見られ、しかもそれがお漏らしと勘違いされて……あぁもう!

「帰ろうぜ」
「……ほうきとかしまってくる」

 そのまま夕日に照らされた校舎に入っていく彼方。最初は待とうとも思ったが、今日あった色々なことや見られてしまった様々な痴態、そして彼方の前で『魔女』と呼ばれたことなどが頭の中をグルグルと回り―



―俺は彼方を置いて、『私も狙ってみようかな』というアンジュの言葉に胸のざわつきを感じながら一人で逃げるように帰路に就いた。
17/01/24 02:00更新 / かすてら
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■作者メッセージ
 女の子同士の絡みってなんかすごくいいにおいとかしそうですよね!!わからないけど!!

 お絵かきスキルがもっとあればぜひとも挿絵にも挑戦してみたいですが……自分には絶対むーりぃー……。

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