連載小説
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第十四話 『今度は私が……頑張る』
 着物の裾を捲り上げ、ナナカは俺の上で微笑む。一つ目が見下ろしているのは、股の下でそそり立っている俺の男根だ。青い指で自分の股を弄り、割れ目をほじくるように刺激して、たらたらと汁を垂らす。準備が完了すると、その汁が付いた手で男根をそっと握ってきた。

「今度は私が……頑張る」

 いじらしい微笑を見せて、ゆっくり腰を下ろすナナカ。先端が女陰の入り口をくぐった瞬間、彼女の体がぴくんと震えた。
 そのままじわじわと腰を沈めて、少し進む度にくぐもった声を漏らす。男根を根元まで咥えこんで、尻が俺の体にぺたんと着くと、ナナカは嬉しそうに笑みを浮かべた。膣内は昨日と同じく、熱く、強く締め付けてくる。

「……ん」

 脚に力を入れ、腰を持ち上げるナナカ。熱くて柔らかな膣壁が竿を擦り上げる。再び腰を下ろしたときには奥に先端が当たったようで、青い体がまた震える。相変わらず締め付けが強いせいで、ナナカの腰の動きもぎこちない。だが一生懸命にやるその様子が何よりも興奮する。
 はだけた胸元へ手を伸ばす。鷲掴みにしてやると指の間からはみ出す乳の感触。

「あっ、んっ、ふっ……」

 次第に慣れてきたようで、ナナカは小刻みに腰を動かし続ける。大きな瞳が潤んで、じっと見つめてくる。

 そのまましばらく、日本庭園の静けさの中でナナカにされるがまま交わった。口づけも交わし、体を弄りあっているうちに確信が湧いてきた。こいつはもう、俺のためにいる女なんだと。
 やがて出るものが込み上げてきたとき、ナナカの顔も上気して達しそうになっていた。しなだれかかって俺の口を貪りながら、腰だけを器用に動かし続ける。どうすればいいのかもう分かっているあたり、こいつもやっぱり魔性なんだろう。

「ん……んんーぅ!」

 口づけを交わしたままくぐもった声を漏らすナナカ。その瞬間膣内が男根を吸い上げ、たまらない気持ち良さが込み上げてきた。恋女房の中で激しく脈打ち、どくどくと音を立てて精を吐き出す。
 肩をしっかりと抱きしめてやった。繋がった股間がそのまま溶け合ったような感覚。妖怪変化を嫁にした連中はみんなこれを味わっているのか。女房に頭が上がらなくなる奴も多いだろう。

 くだらないことを考えながら、俺は恋女房に精を吸い上げられた。これで子供ができるかどうかは分からないが、今のうちに名前くらいは考えておくか。女の子しか生まれないなら考えやすいしな……。









…………




……








 情事を済ませて向かった『茶室』は、想像していた畳の間ではなかった。外国からの客を持て成すために作られたという喫茶店のような部屋で、椅子とテーブルがある。和・洋の意匠が入り混ざった、目新しくも郷愁を感じさせる内装だ。
 フィッケル中尉とレミィナ姫は俺たちより後にやってきた。二人は特に何も言わなかったが、俺たちと同じようなことをしていたのは間違いない。中尉は平然としているが、姫様はやたらと嬉しそうな様子で、尚且つまだ頬が少し赤かった。

 供されたのは緑茶と串団子。平たい形で、醤油と餡子が一本ずつ皿に並んでいる。

「老舗の団子でね。レミィナと初めて一緒に食べた菓子さ」
「あの頃はお互い子供だったよねー」

 姫様が嬉しそうに団子を頬張る。中尉は和菓子を物珍しげに観察し、口に運んだ。俺も食ってみると醤油の団子は表面がこんがりと焼けていて、大変に香ばしい。甘味が無いから酒の肴にも良さそうだ。
 ナナカも気に入ったようで顔を綻ばせている。よく噛んで食えよ、と念のため忠告すると笑顔のまま頷いた。こいつの一挙手一投足が可愛らしく見えてくる。

 茶室に集まって団子を食しているのは俺たちと藩主の他に、もう一人いた。昨日姿を見せた女、レミィナ姫の親兵・エコー隊長だ。

「まったく、お嬢の居場所を特定するのは至難の技だよ、ホント」
「そう言う割にはいつもあっという間に見つけるじゃない」

 主人と家来というより、友達同士といった会話をする二人。エコー当人が言っていた通り、実態は遊び仲間に近いようだ。だがどうやら今日やってきたのは単にお茶を飲むためだけではないと見た。

「で、この場にいる皆さんに報告があるんだけどね」

 彼女が卓上に出したのは、古びた分厚い本だった。ボロボロの表紙には何か文字が書かれているものの、俺には読めない。カレー屋を初めてから文字もある程度勉強したが、どうもルージュ・シティで一般的に使われていた文字とは違うように見える。

「教団が新兵器……まあ『兵器』と言っていいか分からないけど、切り札を投入してくるかもしれない」

 場の空気がふいに張り詰めた。また分けのわからないものが攻めてくるってのか。北欧の天使の次は何が出てくると言うんだ?
 エコーは本を開き、いくらかページをめくった上で、俺たち全員を一瞥した。

「二千五百年前、古代レスカティエ帝国の記録。異世界人のお二人に分かりやすく言うと、お嬢のお母さんが魔王に即位するずっとずっと前の、魔物が普通に人間を焼いたり食ったりしてた時代の話ね」

 指し示されたページには曼荼羅のような挿絵があった。姫様のような女の姿をした魔物ではなく、一般人が想像するであろう西洋の悪魔が多数並んで描かれている。この世界の、古代の魔物というわけか。
 続いてエコーはそこから三つほどページをめくり、俺には読めない文字を朗読した。






ーーそれは人類の魔物に対する怒り、憎しみがどれだけの力を生み出すか証明して見せた。


ーー戦士サルバリシオンは二百キュビトもの巨大な魔神となり、咆哮は町中に響き渡った。


ーーその腕の一振りは五十の悪魔を肉片に変え、その息は溶岩にさえ耐える竜の体をも焼き尽くした。


ーー城塞へ押し寄せた魔物たちはそのとき初めて、人類への恐怖に慄いた。


ーー城を崩したルージュの吸血鬼でさえ、死を免れることはできなかった。


ーーしかし飼いならせぬ憎悪は魔族を殺し尽くすと、守るべき人類へ爪を振り上げた。


ーー聖ウィルギルスは止むを得ず、親友に引導を渡すべく剣を抜いた。


ーー勝てる見込みは無かった。しかし奇跡は起きた。


ーー魔神の爪も吐き出す毒炎も、彼の体に触れる前に光の粒子となって消えた。


ーー彼の聖衣に、大勢の乙女が祈りと共に縫い込んだ刺繍が、憎悪の化身を退けたのだ。


ーー刺繍は次第に弾け飛び、聖衣は粉々にちぎれ飛んだ。しかしそのお陰で、彼の剣は魔神の心臓に届いた。


ーー平和が戻った後、再建された城にはサルバリシオンの名が付けられた。


ーーそして『オンデュウミナスの魔神』と呼ばれたその力は、二度と使われぬよう封じられた。







「……とまあ、こういう話なんだけどね」
「よく分かりませんが、人間を巨大な怪物に変える方法がある、と?」

 中尉の言葉にエコーは頷いた。
 俺も正直、中尉と同様によく分からない。だが少なくとも、人間と魔物が血で血を洗う争いをしていた時代に、その魔神とやらが戦局を変える凄まじい力を発揮したということは分かる。そしてそれを今、教団が使おうとしている……ということか。

「教団の伝承は脚色が多いんだけど、これは本当の話だと思う。今の話に出てきた『ルージュの吸血鬼』っていうのは私やリライアの先祖でね、ルージュ家側の記録にもほぼ同じように書いてあるんだ」
「そうだとしても、そんな見境の無い物を使おうってのか?」

 言い伝えが本当なら、その魔神とやらになった奴は敵味方の区別がつかなくなるということだ。そんなものを兵器として使うなんて自殺行為だ。中尉からの又聞きだが、ソ連軍は犬に爆弾をくくりつけてドイツ軍の戦車に突っ込ませたものの、自軍の戦車に突っ込んでくる犬が多いという理由で中止したらしい。日本でも味方同士での誤認・誤射は多くあったが、その魔神ほど凄まじい力ではなかった。

「ウィルマリナちゃんのお父さんとか、レスカティエから逃げ出した教団幹部が中心になって計画してるんだよ。面子が丸つぶれになった埋め合わせのためにね」
「飛曹長、君に分かりやすいように説明するとだな」

 団子を飲み下し、フィッケル中尉が口を挟んだ。額に青筋が浮いて見える。

「そいつらは自国の国民に圧政を敷き、戦の才もろくに無いくせに国防に口出しをし、国と軍を弱体化させた癌だ。そして自国が魔物に攻められた際真っ先に逃げ出し、国が陥落した後自決もせずにのうのうと生き残っているクズ共だ」

 この上なく分かりやすい説明だった。なるほど、ドイツにもそういう連中は大勢いたんだろうな。当然日本にもいた。若い連中に「我々も後から行く」と言って死地へ追い立てた連中のほとんどは、何の責任も取ろうとはしないだろう。

「俺としては一番殺したくなる人種ですね」
「私も同意見だ」
「ちょっとちょっと、二人とも落ち着いて」

 中尉の剣幕を見て取ったか、姫様が止めに入った。エコーはため息を吐いて話を続ける。

「まあつまりね、旧時代に魔物に殺された人間の怒りとか憎しみとかを収束することで『オンデュウミナスの魔神』になるらしいんだけども。封印されたその魔術を復活させようとしてるらしいんだよね」
「追い詰められてなりふり構わなくなってるわね、レスカティエの残党さんたち」
「計画はまだ完成には至っていないみたいだけど、注意が必要だよ。レスカティエ軍も動いているから、なんとか阻止できるとは思うけど」

 本を閉じ、茶をすするエコー。諜報作戦については俺の分を超えたことだが、万一阻止できなかったらとんでもないことになる。
 そのとき俺に何かできることはあるのか?
 何をすべきなんだ?

 ただ一つ確かなのは、ナナカを守るということだけだ。

「皆それぞれ、責任を果たすしかない」

 黙って話を聞いていた藩主が口を開いた。

「今の世の中、人間がうちらに抱く憎悪がそれほどあるとは思えないけど、まあ心ってのは分からないものだからねぇ。いざとなれば皆で何とかするしかない。そのための共栄都市同盟だろう」

 深刻な表情ではなく笑みを浮かべているが、そこには余裕と共に覚悟のようなものが見えた。藩主というより花魁のような出で立ちにも関わらず、人の上に立つ者としての誇りが微かに滲み出ているかのような。
 俺にもかつて、そういう上官がいた。いや、この藩主とは見た目も言動も似ても似つかない軍人たちだが。良き指導者というのは性別や性格とは別に、どことなく似た空気を持つのかもしれない。

 レミィナ姫も笑顔で頷き、お茶を啜った。友人同士、信頼しあっていることが見て取れる。

「つかぬことを伺いますが、藩主様は何という妖怪なんですかね」

 尋ねてみると、藩主をクスッと笑った。

「あたしはね、ぬらりひょんってやつさ」
「ぬらりひょん?」

 聞いたことのない妖怪だ。今ひとつ強そうには聞こえない名前だが、この藩主の雰囲気からして決して弱くはないはずだ。

「疑いの目をぬらりくらりとかわして、気づいたら人に家にひょんと居座ってる……そういう妖怪さね。先祖は海に住んでた、なんて話も聞くけど」
「ジパングの魔物の中でも特に強い力を持ってる種族だよ。深緋さんならお嬢と互角以上かな」
「わたしは成人してるリリムの中じゃ弱い方だしね」

 エコーと姫様が補足する。俺も元々そこまで妖怪に詳しいわけじゃないから、知らない奴がいても当然だ。そんなに強い妖怪なら日本にも何か言い伝えがありそうだが。

「ま、だからってあまり畏まらないでおくれよ。今だってたまたまエコーが報告に来ただけで、元は一緒にお茶を飲むために呼んだんだからさ」
「ああ、報告の他にもう一つ」

 団子の串を弄びながら、エコーが俺に視線を向けた。

「シバさんのヒコーキに積んであった武器、明日にはこっちへ届くって」
「機銃が? そりゃありがてぇ」

 これから戦いが始まるかもしれないのだから、零観も武装しておいた方がいい。あれでも空戦を想定した設計だし、実際にやったことはある。運動性の良いF4FやF6F相手だとかなり辛いが、P-38やF4Uなら何とかならなくもない。速度では勝てないが、相手の攻撃は急旋回で避けられる。
 正直あの天使にも勝てるかは怪しい。レミィナ姫もそうだが、航空力学を無視した、というかバカにしたような飛び方をするからだ。それでも機銃があれば一矢報いることはできるかもしれないし、空を飛べない歩兵相手なら十分な力になる。

「……ジュン、無理はしないで、ね」

 大きな瞳を心配そうに向けてくるナナカ。大丈夫だ、と肩を叩いてやる。

「今の俺には意地の他にも、死ねない理由があるからよ」

 そう、俺はこいつのためにも死ぬわけにはいかない。命を賭けることはあっても必ず生きて帰る。あの少尉みたいに死に急ぐわけにはいかないんだ。




 いっそあの人も、こっちへ来れていれば……。

18/12/02 23:05更新 / 空き缶号
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■作者メッセージ
ぬらりひょん
元々はかなりマイナーな、どういう存在なのかも伝承によって異なる(海坊主の亜種とされている話もある)よくわからない妖怪だったらしい。
『妖怪の総大将』という位置付けは昭和・平成にかけて確立された。
なお、それに一役買った人物は順之介が図鑑世界に迷い込んだいくらか後、
駆逐艦『雪風』に乗って日本へ復員している。



私はまだ死んでいませんでしたとさ。
書くにあたって最初にやったことは今までの話を読み直すことでした。
短編でも書きたいものがあるし、とりあえず書けるものを書けるうちに書く!

ところでこの前久しぶりに雑談掲示板を見たら、なんかFi156シュトルヒのプラモをヴェルナー&レミィナ仕様で作ってくださった方がいるようなのですが。

ありがとうございます!
そしてどんな方法でもいいから見たい!

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