中編
病室の床には複雑な幾何学模様が描かれ、魔法陣を形成していた。その中心部に置かれたベッドで、マナはただ虚空を眺める。少し頬が痩けたとはいえ顔立ちは整っているし、不健康な容姿ではない。食べさせてやれば食事はできるし、夜が来れば目を閉ざして眠る。だが他に何も言葉を発することはなく、瞬き以外に動くこともない。ただ静かに息をして、何もない空間を見つめているだけだ。
小さな肩に、そっと手を置いた。彼女は何も言わないが、温かみのあることを確かめるたび、俺は少しだけ安堵する。
「……マナ」
名前を呼ぼうと、手を引こうと、呪いで幽閉された妹の魂には届かない。それでも、死んではいないのだ。
祖国では、妹の名は有名だ。魔物に捨て身の覚悟で挑み、勝利するも呪いを受けた悲劇の英雄として。司祭は盛んにマナの活躍と代償を喧伝し、国民の魔物への敵愾心を煽った。元々マナは勇者候補生として教育を受け、魔術の才能から将来を期待されていた。かつてのレスカティエの勇者たちを超える存在になり得ると云われていただけあり、プロパガンダとしての効果は大きかった。
一方俺は「猜疑心が強い」「加減を知らない」との理由で勇者候補から外され、下級騎士として匪賊征伐の現場へ送られた身だ。歴戦の一兵卒だの傭兵だのと苦楽を共にし、実戦の中で腕を磨いた。やがて己の腕でのし上がり中央へ戻った俺と、絵に描いたような優等生のマナとの関係はあまりよくなかった。勇者候補生時代に問題視されていた俺の性格は、戦場暮らしでさらに悪化していたのである。
だからマナが呪いを受けたときも、俺は教団の発表に裏があると疑い、司祭の周辺のまともそうな僧侶たちに問い質した。交渉は得意ではないが、まともな聖職者というのは後ろめたいことを隠すのが下手で、つついてやればすぐに動揺する。後は剣を使っての交渉で聞き出した。
マナにかけられた呪いは司祭が主催した魔術実験の事故によるもので、公式発表は司祭が責任逃れのためでっち上げた話である……と。
「妹さんの呪いは偶発的な事故によるものです」
魔女と名乗る少女が、見た目にそぐわぬ大人びた口調で言った。マナよりも大分年下に見えるが、これでもそれなりの年月を生きている魔物らしい。
「それ故、意図的にかけられたものと違い、術式を紐解くのに時間がかかります」
「時間をかければ解けるのか?」
俺の問いかけに、魔女はちらりとマナを見た。そしてゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「落ち着いて聞いてください。我々の見解では、最も迅速かつ確実な方法は……魔物化による解呪です」
「魔物化……!?」
それがどういう意味かは分かる。魔物には人間を同族に変える力を持つ者がいるとは聞いていた。
「魔物は体に宿す魔力の種類が違うので、人間にかかる呪いは効きにくいのです。また魔物化する過程で肉体が作り替えられます。ベストなのはダークスライムになることですね」
「ダークスライム……メリッサのような?」
「はい。ダークスライムによる魔物化は人間の肉体をほぼ完全に融解し、再構成しますから。呪いが最も残りにくいかと」
淡々と説明され、俺はしばし考え込んだ。つい最近まで教団の教えの下で生きていたのに、魔物への嫌悪感や恐怖といったものはなくなっていた。メリッサの献身的な看護と、彼女の体の一部を食べさせられたせいだろう。あの淫らな奉仕も受け入れてしまい、教団で言う所の「魔に魅入られた愚者」になってしまった。
そのことに後悔はない。どの道離反した身だし、メリッサという女性の素晴らしさを知った。これからは魔物と……彼女と共に生きていくつもりだ。
だが妹を魔物に変えるということを、即座に受け入れることはできなかった。
「ご自分の意志で亡命なさったとはいえ、そうすぐには割り切れないかと思います」
俺の心中を察したかのように、魔女はそう言った。
「妹さんの呪いは命を奪うものではありませんから、時間はあります。この町の人たちを見て、よく考えた上でご決断なさってください」
「……ありがとう」
マナの髪をそっと撫で、俺は病室を後にした。
病院に務めている医者は人間も魔物もいて、メリッサのようなダークスライムばかりというわけではないようだ。ただし人間は男がほとんどで、人間の女らしい者は見かけられない。皆分け隔てなく平等に扱われているようだが、患者は種族ごとに分けて病室に入れられている。治療の効率化のためだろう。
病室を覗いてみると、やはり魔物はあまり病気にはかからないのか、患者は怪我人がほとんどだ。人間も怪我人の方が多い。しかもそいつらの目つきや気配などは兵士のそれであり、つまり戦傷者が大半を占めているようだ。教団との争いによるものだろう。
教団騎士の花形といえばやはり魔物と戦う聖騎士団や、神の加護を受けた勇者である。俺はその勇者候補から落とされ、人間の匪賊を征伐する任務に就いていた。だから魔物と戦った経験は少ししかないし、そのときも撃退するのみで殺すまではしなかった。
そのとき魔物たちは俺が傷を負わせた仲間に肩を貸し、決して見捨ててはいかなかった。そして俺も追い打ちはしなかった。下手に恨みを買って報復を受けたらたまったものではない。俺は人間の悪党の方が許せない性分だったので、匪賊討伐の兵力を魔物相手に消耗しないようにという判断だ。今思うとそうしておいて本当によかった。
彼女たちもまた、こうして同胞を労り、互いに支え合って生きている。それを一方的に悪と断じ、滅ぼそうとする教団の、延いては神の思想に大義はあるのか。確かに魔物が人間の土地へ侵攻することはあるが、「教団により同胞が殺されていくのを止めるため」とでも言えば彼女たちの大義は成り立ってしまう。人間と魔物の夫婦からは魔物しか生まれないという問題も、魔王の力が増せば解決してしまうらしい。
これから先、俺のような事情がなくても魔物側へ亡命する者は増えるだろう。
「あっ、ヴィンデンさん!」
病院から出ようとしたとき、聞き慣れた声に呼び止められた。ズルズルという足音も聞こえる。
「ああ、メリッサ先生」
「お出かけするなら、その前に一つだけ検査させてくださいねー」
相変わらず、屈託のない笑顔で彼女は言った。妹もこんな風に笑えるなら、人間ではなくなってもいいのではないか……そんな考えが頭をよぎる。
だがそれ以上考えることはできなかった。メリッサが背後に周り、俺のズボンの隙間に粘液の手を差し込んできたからだ。不定形な手はぬるりとパンツの中に入り込み、俺の下半身を前後から挟み込む形になる。
「ちょっ、な、何をする気なんだ!?」
「肛門の触診ですー」
「なっ!? 待っ……アッー!」
………
……
…
スライムの指で肛門を掻き回されながら精液を搾られた後、俺は町へ出た。快楽と引き換えに何か大事なものを失ったような気がしたが、メリッサの笑顔を見ると怒る気にもなれない。これもまた魔物の怖さなのだろうか。
「ヴィンデンさんも、きっとこの町にすぐ馴染めますよ」
俺の隣を歩きながら、彼女は優しく言った。亡命者である俺に対して一応の監視が必要だったらしい。俺としてもメリッサが道案内をしてくれるのは有り難いが、道中でまた『診察』と称するナニかをされないかが不安だ。
病院は町の中央地区にあり、同区画には政治関係の施設も置かれているという。闘技場や練兵場なども見受けられた。
俺の目的地は東地区の教会である。教会と言っても主神を信仰しているわけではなく、単に冠婚葬祭を行ったり、子供たちに勉強を教える施設として作られたそうだ。俺がそこへ行くのは教会が懐かしいからではなく、そこにあいつがいると聞いたからだ。亡命のきっかけを与えてくれた傭兵、ヅギ・アスターが。
東地区は繁華街のようで、中央地区へ至る道は『職人通り』と呼ばれているという。その名の通り、仕立屋や香水屋などの工房が見受けらた。魔物の町が文化的にも高い水準にあるという証拠だろう。彼女たちが死と破壊をもたらす存在ではないと知っていても、ここまで文化的だとは思っていなかった。
路傍には大道芸人やギター弾き、踊り子などが点在し、活気に溢れる繁華街だ。そこを通り抜け、俺とメリッサは教会へ辿り着いた。勇者の訓練を受けていた大聖堂などとは違い、虚飾のないシンプルな建物である。
「こんにちはー」
「あら、メリッサさん。いらっしゃい」
メリッサがドアを開けて挨拶すると、シスターの格好をした魔物の女性が出迎えた。体型は人間と同じだが、ローブを突き破ってピンク色の触手が生え、蠢いている。メリッサと交わったせいだろうか、こんな魔物を見てもグロテスクとは思わなかったし、そんな自分が嬉しかった。
「今日はヴィンデンさんが、ヅギさんに会いたいと仰るので」
「ヴィンデン・ロイ・リーセンロッツです」
名乗りながら手を差し出すと、彼女はゆったりとした仕草で握手に応じた。優しい手つきだったが、握る力はしっかりしていた。
「ヅギから聞いています。私はこの教会を仕切っている、シュリーといいます」
「……ヅギはこちらに?」
「今寝室にいます。多分起きてると思いますから、ご案内しますね」
こちらへ、とシュリーさんは歩き始めた。あいつが昼間から寝室にいるのを不信に思いつつ、後に続く。教会と居住区は渡り廊下で繋がっており、ヅギの部屋もそこにあるようだ。
建物はシンプルではあるが、作りはしっかりしている。居住区にはパンを焼く香ばしい匂いが漂っていた。シュリーさん曰く、子供たちにパン作りや小物作りなどを教えているそうだ。
案内された寝室のドアに、ヅギとシュリーさんの名札がかけられていた。男女が同じ寝室を使っているということは、つまりそういう仲なのだろう。聖職者の格好はしていても、教団の禁欲的な教えなどとは全く関わりがないようだ。
「ヅギ、起きてる? ヴィンデンさんがいらしたよ」
シュリーさんが戸をノックして尋ねると、「入りな」という声が聞こえた。
ドアが開けられたとき、部屋のベッドにあいつが横たわっていた。気品さえ感じられる整った顔立ちに、濁った赤い瞳をした男。大振りのグレイブを手足のように操り、一騎当千の力を見せる勇敢な戦士であり、血に酔った狂人。しかし俺の、延いては妹の命の恩人である傭兵、ヅギ・アスター。
彼はベッドの上で、じっと虚空を見つめていた。
「……具合はどうだ、ヴィンデン?」
目線をこちらに向け、ヅギは尋ねてきた。
「……怪我をしたのか?」
彼の質問に答えることもせず問い返した。助けにきてくれたときに傷を負ったのではないかと思ったのだ。だがヅギは乾いた笑い声を立て、首を横へ振った。
「肺を病んでてな。薬飲んだ後は大人しくしろと言われてるんだ」
「魔物と交わった男は病気にかからないんじゃ……」
メリッサから聞いた話だ。交わりを通じて魔物の魔力を取り込んだ人間は『インキュバス』となり、魔物同様の抵抗力を持ち病気にはかからない。
だがメリッサへ目を向けると、彼女は力なく俯いた。
「ヅギさんのご病気は原因が分からないのです」
「原因なんて知れたことさ。やってきたことへの報いなんだろ、多分」
自嘲気味に言うヅギだが、俺はこいつのやってきたことを知っている。確かに人の道に反した大罪だ。教団の教えのみならず、今の世の中では魔物からも嫌悪されることである。報いを受けても当然だ、と勇者候補生時代の俺なら思っただろう。
だが多くの戦いで、人の醜さを嫌というほど見た今となっては、こいつよりも先に裁かれるべき者がいるのではと思える。俺が征伐してきた匪賊の中にも、生活苦からやむを得ずその道に入った者がいた。軍を動かし、兵を捨て駒にし、民を困窮させ、土地を焦土に変え、それでも権力を持って威張り腐っているような連中。そういう奴らこそが、真に報いを受けるべきではないのか。
「ヴィンデン、オレにも妹がいたんだ」
「……お前に?」
ふいに意外な言葉が、ヅギの口から出た。ベッドに横たわる姿を見たのと同じくらいの衝撃だった。
「子供の頃に死んだよ。飢饉のときオレは人の肉を食って生き延びたけど、妹は神父様から教わったこと優先した。覚えているのはそれだけさ、顔も思い出せない」
ヅギは淡々と語る。その顔に悲しみの色はない。本当に自分の妹を忘れてしまったのだろうか。戦いと死でできた人生がそうさせてしまったのだろうか。
マナの顔が思い浮かんだ。呪われる前の、小生意気なあいつの表情は脳裏にしっかり焼き付いている。だがもしかしたら、俺もいずれ……。
「オレは教団が全部悪だとは考えてない。オレに字を教えてくれたのは教団の神父だった。孤児だったシュリーを引き取って育てたのも、飢饉のとき食べ物を他人に分け与えて真っ先に餓死したのもその神父だ」
勉学の推進、慈愛の心、自己犠牲の精神。教団が本来理想としていることだ。それを忠実に実行する聖職者も大勢いる。
しかし。
「だが神父様が窮状を訴えたのに、俺の村を見殺しにしたのも……教団なのさ」
「……教団は特別な存在だ。だが盲目だった」
俺は戦いの中でそのことに気づいていた。魔物を倒せば全て解決すると思っている馬鹿共が、人間が内に抱えた闇を無視していることに。だから俺はいつしか神ではなく、自分の腕のみを信じて戦うようになっていた。
マナは純粋で真面目だった。醜い戦場へ出たことなどない。だから司祭どもから漂う腐臭に気づかなかったのだろう。そして俺も気づかせてやれなかった。
「そんな時代は終わりが近づいている。みんなが特別な時代が来る。人間も魔物もな」
ヅギの言葉に、はっと顔を上げる。
「この町はもうそうなっている。人間だ魔物だ、そんな区別はどうでもいいと思わないか」
「……人間が魔物になることも、か?」
「魔物になれば価値観や考え方も変わる。けどそんな物はどの道、成長や時代の変化でコロコロ移ろいでいくものだろ」
こいつは俺の悩んでいることをを見透かしているのだろうか。
確かにヅギの言う通りかもしれない。今の正義が永遠の正義とは限らない。時代によって移り変わるものだ。神を絶対とする教団でさえ、時代によって教義は変動し、時には異端者とも呼ばれる革新派が現れるくらいだ。
「心の根底にあるものは簡単には変わらない。人間にも魔物にも、良心ってものがあるからだ」
「良心……」
傭兵の口から出る言葉としては似つかわしくない。だが何故だろうか、今のヅギが言うと重みが利いている。まるで高僧の言葉であるかのように。
「お前も、自分の良心に従え」
………
……
…
俺とマナは決して仲の良い兄妹ではなかった。子供の頃はよく一緒に遊んだが、俺が勇者候補生から落とされたことがきっかけで、兄弟仲が変わっていった。決してマナが俺を格下に見たり、蔑んだことはない。だが匪賊征伐の最前線で戦い続けた下級騎士隊長と、魔物との戦いに備えて本国で教育を受けていた魔法使い……価値観や意見が食い違うのは当然だった。
戦場を経験した俺が、魔物への備えばかり考える上層部を皮肉るのを、マナははみ出し物のやっかみのように聞こえていたのかもしれない。だが妹が呪いを受けたとき、「俺が助けなくては」という感情が真っ先に浮かんできた。ヅギの言う『良心』という奴なのだろう。
教団の教えやら、魔王の野望やら、そんなものはどうでもいい。この世界がどうなるかも。
ただ俺の良心が言うのだ。マナを助けろと。
「……ではヴィンデンさん、よろしいですね」
メリッサが俺に最後の確認をする。病室のベッドの上で、マナは裸で寝かされていた。これから始まるのは教団が最も嫌悪する儀式。人間を魔物へと変ずる行為。
「ああ。頼むよ」
悩みに悩んで、決断した。魔物になろうとどうなろうと、きっとマナの良心は変わらない。
何より、魔物の良心というものを信じたい。俺を親身になって手当てして、支えてくれた女性……メリッサを。
メリッサはゆっくりとマナに歩みよった。感情なく虚空を見つめているマナの頬に、そっと粘液の手を這わせる。痩せた体を優しく抱き起こし、少しずつスライム体を広げて行った。
「よいしょ、っと」
起こされたマナの下に、メリッサはずるりと滑り込んだ。まるで紫色のゆりかごのように、彼女の体が広がり、マナを包み込んで行く。手足も、顔も。
「溺れたりはしないから、安心してくださいね」
マナの全身を飲み込んだメリッサが微笑む。紫色の粘液の中で、マナの体が小刻みに震え始めた。一瞬呪いが解け始めたのかと思ったが、そうではない。メリッサのスライム体が、肉体を刺激しているのだ。
ふともも、胸の膨らみなどの性的な箇所が、スライムで揉みしだかれて柔らかく揺れる。さらにマナの股間……女性の最も神聖な場所が押し広げられた。陵辱とも取れる、否、陵辱としか思えない光景にも関わらず、俺は黙ってそれを見ていた。昨日メリッサから受けた『治療』を思い出しながら、自分でも驚くほどに落ち着いている。
ゆっくりと、マナの女性器にメリッサが侵入していく。今まで妹の女性器など見たこともなかった。そこが異形の魔物に犯されて、押し広げられているのだ。
「はい、あーんしてください」
粘液の中でマナが口を開ける。自分の意志ではない、メリッサがこじ開けたのだ。俺にしたように、自分の体をマナに飲ませている。
「外側と内側、両方から溶かしますよー。体も心も……ね♥」
メリッサの愛撫が強まり、マナの乳房がスライムの中で揉まれ、ひしゃげる。下半身も女性器と肛門が押開かれ、スライムで盛んに刺激されている。そんなことをされても、相変わらず無感情な目で虚空を見つめるマナだが、俺はある変化に気づいた。
メリッサの紫色の体に、何か別の液体が混ざり始めたのだ。スライムに犯される女性器から、それが染み出し、紫の粘液に混ざっていく。
それだけではない。マナの手が少し、動いていたのだ。細い指がゆっくり、何かを握るような動きを始めたのである。
「マナ……?」
「意識は戻っていないみたいですね。でも食事を口元へ出せば食べましたから、それと同じようなものだと思います」
にこやかに語り、メリッサは徐々に愛撫を激しくしていた。紫色のスライムが活発に蠢き、マナを犯し、揉み解していく。
もう融解が始まっているのだろうか、指先だけでなく全身が細かな運動をしていた。
「さあ……心まで溶けてきますよ。気持ちいいのも感じるはずです」
彼女の言葉通り、マナは苦しんでいるようではなかった。無表情だった顔が、とろんと蕩けるような半眼になってきた。開かれた女性器には半透明のスライムが侵入しているせいで、膣内まで見えるようになっていた。
妹の膣。女の穴はここまで淫らな姿をしているものなのか。あの澄まし顔の、優等生マナの膣でさえも。
マナの体がぴくんと痙攣したかと思うと、小さな水音が聞こえた。股間からメリッサのスライム体の中に、愛液とは違うものが迸っていくのが見えた。
「あはっ、気持ちよくてお漏らししちゃったんですね」
体の中で放尿されたにも関わらず、メリッサは嫌な顔もせずに笑っていた。マナの漏らしたものは粘液の中に吸収され、なくなっていく。
「ぜーんぶ出しちゃいましょうねー。おしっこできるのも、これで最後ですからねー」
愛おしそうに、メリッサはマナに語りかける。その笑顔は魔物が少女を陵辱しているものではない。むしろ母性さえ感じるような、温かみのある表情だった。
粘液の中で、マナがゆっくりと目を閉じた。頬が緩んで、微笑を浮かべたようになる。
手がしきりに動いている。俺は思わずメリッサの体に、自分の手を押し込んだ。柔らかな粘液の中で、マナの手をそっと握る。
するとマナは、俺の手を握り返してきた。
「マナ……!」
妹は目を開けていた。そして、俺を見つめて……微笑んでいた。
それは一瞬のことだった。次の瞬間、マナの全身が細かな気泡に包まれたのだ。不思議な泡が音を立てながら、マナの姿を完全に覆い隠す。
握られていた手が徐々に小さくなり、なくなっていった。全身がゆっくりと縮み、やがて人の形も為さなくなっていく。
掌で握れるくらいの大きさまで縮んでしまったとき、気泡が消えた。
「……施術、終わりました」
メリッサがベッドの上から降り、体からそれを取り出した。彼女の体内にあるのと同じ球体……ダークスライムのコアだった。
生まれ変わった、妹の姿がそこにあった。
小さな肩に、そっと手を置いた。彼女は何も言わないが、温かみのあることを確かめるたび、俺は少しだけ安堵する。
「……マナ」
名前を呼ぼうと、手を引こうと、呪いで幽閉された妹の魂には届かない。それでも、死んではいないのだ。
祖国では、妹の名は有名だ。魔物に捨て身の覚悟で挑み、勝利するも呪いを受けた悲劇の英雄として。司祭は盛んにマナの活躍と代償を喧伝し、国民の魔物への敵愾心を煽った。元々マナは勇者候補生として教育を受け、魔術の才能から将来を期待されていた。かつてのレスカティエの勇者たちを超える存在になり得ると云われていただけあり、プロパガンダとしての効果は大きかった。
一方俺は「猜疑心が強い」「加減を知らない」との理由で勇者候補から外され、下級騎士として匪賊征伐の現場へ送られた身だ。歴戦の一兵卒だの傭兵だのと苦楽を共にし、実戦の中で腕を磨いた。やがて己の腕でのし上がり中央へ戻った俺と、絵に描いたような優等生のマナとの関係はあまりよくなかった。勇者候補生時代に問題視されていた俺の性格は、戦場暮らしでさらに悪化していたのである。
だからマナが呪いを受けたときも、俺は教団の発表に裏があると疑い、司祭の周辺のまともそうな僧侶たちに問い質した。交渉は得意ではないが、まともな聖職者というのは後ろめたいことを隠すのが下手で、つついてやればすぐに動揺する。後は剣を使っての交渉で聞き出した。
マナにかけられた呪いは司祭が主催した魔術実験の事故によるもので、公式発表は司祭が責任逃れのためでっち上げた話である……と。
「妹さんの呪いは偶発的な事故によるものです」
魔女と名乗る少女が、見た目にそぐわぬ大人びた口調で言った。マナよりも大分年下に見えるが、これでもそれなりの年月を生きている魔物らしい。
「それ故、意図的にかけられたものと違い、術式を紐解くのに時間がかかります」
「時間をかければ解けるのか?」
俺の問いかけに、魔女はちらりとマナを見た。そしてゆっくりと、言葉を紡ぐ。
「落ち着いて聞いてください。我々の見解では、最も迅速かつ確実な方法は……魔物化による解呪です」
「魔物化……!?」
それがどういう意味かは分かる。魔物には人間を同族に変える力を持つ者がいるとは聞いていた。
「魔物は体に宿す魔力の種類が違うので、人間にかかる呪いは効きにくいのです。また魔物化する過程で肉体が作り替えられます。ベストなのはダークスライムになることですね」
「ダークスライム……メリッサのような?」
「はい。ダークスライムによる魔物化は人間の肉体をほぼ完全に融解し、再構成しますから。呪いが最も残りにくいかと」
淡々と説明され、俺はしばし考え込んだ。つい最近まで教団の教えの下で生きていたのに、魔物への嫌悪感や恐怖といったものはなくなっていた。メリッサの献身的な看護と、彼女の体の一部を食べさせられたせいだろう。あの淫らな奉仕も受け入れてしまい、教団で言う所の「魔に魅入られた愚者」になってしまった。
そのことに後悔はない。どの道離反した身だし、メリッサという女性の素晴らしさを知った。これからは魔物と……彼女と共に生きていくつもりだ。
だが妹を魔物に変えるということを、即座に受け入れることはできなかった。
「ご自分の意志で亡命なさったとはいえ、そうすぐには割り切れないかと思います」
俺の心中を察したかのように、魔女はそう言った。
「妹さんの呪いは命を奪うものではありませんから、時間はあります。この町の人たちを見て、よく考えた上でご決断なさってください」
「……ありがとう」
マナの髪をそっと撫で、俺は病室を後にした。
病院に務めている医者は人間も魔物もいて、メリッサのようなダークスライムばかりというわけではないようだ。ただし人間は男がほとんどで、人間の女らしい者は見かけられない。皆分け隔てなく平等に扱われているようだが、患者は種族ごとに分けて病室に入れられている。治療の効率化のためだろう。
病室を覗いてみると、やはり魔物はあまり病気にはかからないのか、患者は怪我人がほとんどだ。人間も怪我人の方が多い。しかもそいつらの目つきや気配などは兵士のそれであり、つまり戦傷者が大半を占めているようだ。教団との争いによるものだろう。
教団騎士の花形といえばやはり魔物と戦う聖騎士団や、神の加護を受けた勇者である。俺はその勇者候補から落とされ、人間の匪賊を征伐する任務に就いていた。だから魔物と戦った経験は少ししかないし、そのときも撃退するのみで殺すまではしなかった。
そのとき魔物たちは俺が傷を負わせた仲間に肩を貸し、決して見捨ててはいかなかった。そして俺も追い打ちはしなかった。下手に恨みを買って報復を受けたらたまったものではない。俺は人間の悪党の方が許せない性分だったので、匪賊討伐の兵力を魔物相手に消耗しないようにという判断だ。今思うとそうしておいて本当によかった。
彼女たちもまた、こうして同胞を労り、互いに支え合って生きている。それを一方的に悪と断じ、滅ぼそうとする教団の、延いては神の思想に大義はあるのか。確かに魔物が人間の土地へ侵攻することはあるが、「教団により同胞が殺されていくのを止めるため」とでも言えば彼女たちの大義は成り立ってしまう。人間と魔物の夫婦からは魔物しか生まれないという問題も、魔王の力が増せば解決してしまうらしい。
これから先、俺のような事情がなくても魔物側へ亡命する者は増えるだろう。
「あっ、ヴィンデンさん!」
病院から出ようとしたとき、聞き慣れた声に呼び止められた。ズルズルという足音も聞こえる。
「ああ、メリッサ先生」
「お出かけするなら、その前に一つだけ検査させてくださいねー」
相変わらず、屈託のない笑顔で彼女は言った。妹もこんな風に笑えるなら、人間ではなくなってもいいのではないか……そんな考えが頭をよぎる。
だがそれ以上考えることはできなかった。メリッサが背後に周り、俺のズボンの隙間に粘液の手を差し込んできたからだ。不定形な手はぬるりとパンツの中に入り込み、俺の下半身を前後から挟み込む形になる。
「ちょっ、な、何をする気なんだ!?」
「肛門の触診ですー」
「なっ!? 待っ……アッー!」
………
……
…
スライムの指で肛門を掻き回されながら精液を搾られた後、俺は町へ出た。快楽と引き換えに何か大事なものを失ったような気がしたが、メリッサの笑顔を見ると怒る気にもなれない。これもまた魔物の怖さなのだろうか。
「ヴィンデンさんも、きっとこの町にすぐ馴染めますよ」
俺の隣を歩きながら、彼女は優しく言った。亡命者である俺に対して一応の監視が必要だったらしい。俺としてもメリッサが道案内をしてくれるのは有り難いが、道中でまた『診察』と称するナニかをされないかが不安だ。
病院は町の中央地区にあり、同区画には政治関係の施設も置かれているという。闘技場や練兵場なども見受けられた。
俺の目的地は東地区の教会である。教会と言っても主神を信仰しているわけではなく、単に冠婚葬祭を行ったり、子供たちに勉強を教える施設として作られたそうだ。俺がそこへ行くのは教会が懐かしいからではなく、そこにあいつがいると聞いたからだ。亡命のきっかけを与えてくれた傭兵、ヅギ・アスターが。
東地区は繁華街のようで、中央地区へ至る道は『職人通り』と呼ばれているという。その名の通り、仕立屋や香水屋などの工房が見受けらた。魔物の町が文化的にも高い水準にあるという証拠だろう。彼女たちが死と破壊をもたらす存在ではないと知っていても、ここまで文化的だとは思っていなかった。
路傍には大道芸人やギター弾き、踊り子などが点在し、活気に溢れる繁華街だ。そこを通り抜け、俺とメリッサは教会へ辿り着いた。勇者の訓練を受けていた大聖堂などとは違い、虚飾のないシンプルな建物である。
「こんにちはー」
「あら、メリッサさん。いらっしゃい」
メリッサがドアを開けて挨拶すると、シスターの格好をした魔物の女性が出迎えた。体型は人間と同じだが、ローブを突き破ってピンク色の触手が生え、蠢いている。メリッサと交わったせいだろうか、こんな魔物を見てもグロテスクとは思わなかったし、そんな自分が嬉しかった。
「今日はヴィンデンさんが、ヅギさんに会いたいと仰るので」
「ヴィンデン・ロイ・リーセンロッツです」
名乗りながら手を差し出すと、彼女はゆったりとした仕草で握手に応じた。優しい手つきだったが、握る力はしっかりしていた。
「ヅギから聞いています。私はこの教会を仕切っている、シュリーといいます」
「……ヅギはこちらに?」
「今寝室にいます。多分起きてると思いますから、ご案内しますね」
こちらへ、とシュリーさんは歩き始めた。あいつが昼間から寝室にいるのを不信に思いつつ、後に続く。教会と居住区は渡り廊下で繋がっており、ヅギの部屋もそこにあるようだ。
建物はシンプルではあるが、作りはしっかりしている。居住区にはパンを焼く香ばしい匂いが漂っていた。シュリーさん曰く、子供たちにパン作りや小物作りなどを教えているそうだ。
案内された寝室のドアに、ヅギとシュリーさんの名札がかけられていた。男女が同じ寝室を使っているということは、つまりそういう仲なのだろう。聖職者の格好はしていても、教団の禁欲的な教えなどとは全く関わりがないようだ。
「ヅギ、起きてる? ヴィンデンさんがいらしたよ」
シュリーさんが戸をノックして尋ねると、「入りな」という声が聞こえた。
ドアが開けられたとき、部屋のベッドにあいつが横たわっていた。気品さえ感じられる整った顔立ちに、濁った赤い瞳をした男。大振りのグレイブを手足のように操り、一騎当千の力を見せる勇敢な戦士であり、血に酔った狂人。しかし俺の、延いては妹の命の恩人である傭兵、ヅギ・アスター。
彼はベッドの上で、じっと虚空を見つめていた。
「……具合はどうだ、ヴィンデン?」
目線をこちらに向け、ヅギは尋ねてきた。
「……怪我をしたのか?」
彼の質問に答えることもせず問い返した。助けにきてくれたときに傷を負ったのではないかと思ったのだ。だがヅギは乾いた笑い声を立て、首を横へ振った。
「肺を病んでてな。薬飲んだ後は大人しくしろと言われてるんだ」
「魔物と交わった男は病気にかからないんじゃ……」
メリッサから聞いた話だ。交わりを通じて魔物の魔力を取り込んだ人間は『インキュバス』となり、魔物同様の抵抗力を持ち病気にはかからない。
だがメリッサへ目を向けると、彼女は力なく俯いた。
「ヅギさんのご病気は原因が分からないのです」
「原因なんて知れたことさ。やってきたことへの報いなんだろ、多分」
自嘲気味に言うヅギだが、俺はこいつのやってきたことを知っている。確かに人の道に反した大罪だ。教団の教えのみならず、今の世の中では魔物からも嫌悪されることである。報いを受けても当然だ、と勇者候補生時代の俺なら思っただろう。
だが多くの戦いで、人の醜さを嫌というほど見た今となっては、こいつよりも先に裁かれるべき者がいるのではと思える。俺が征伐してきた匪賊の中にも、生活苦からやむを得ずその道に入った者がいた。軍を動かし、兵を捨て駒にし、民を困窮させ、土地を焦土に変え、それでも権力を持って威張り腐っているような連中。そういう奴らこそが、真に報いを受けるべきではないのか。
「ヴィンデン、オレにも妹がいたんだ」
「……お前に?」
ふいに意外な言葉が、ヅギの口から出た。ベッドに横たわる姿を見たのと同じくらいの衝撃だった。
「子供の頃に死んだよ。飢饉のときオレは人の肉を食って生き延びたけど、妹は神父様から教わったこと優先した。覚えているのはそれだけさ、顔も思い出せない」
ヅギは淡々と語る。その顔に悲しみの色はない。本当に自分の妹を忘れてしまったのだろうか。戦いと死でできた人生がそうさせてしまったのだろうか。
マナの顔が思い浮かんだ。呪われる前の、小生意気なあいつの表情は脳裏にしっかり焼き付いている。だがもしかしたら、俺もいずれ……。
「オレは教団が全部悪だとは考えてない。オレに字を教えてくれたのは教団の神父だった。孤児だったシュリーを引き取って育てたのも、飢饉のとき食べ物を他人に分け与えて真っ先に餓死したのもその神父だ」
勉学の推進、慈愛の心、自己犠牲の精神。教団が本来理想としていることだ。それを忠実に実行する聖職者も大勢いる。
しかし。
「だが神父様が窮状を訴えたのに、俺の村を見殺しにしたのも……教団なのさ」
「……教団は特別な存在だ。だが盲目だった」
俺は戦いの中でそのことに気づいていた。魔物を倒せば全て解決すると思っている馬鹿共が、人間が内に抱えた闇を無視していることに。だから俺はいつしか神ではなく、自分の腕のみを信じて戦うようになっていた。
マナは純粋で真面目だった。醜い戦場へ出たことなどない。だから司祭どもから漂う腐臭に気づかなかったのだろう。そして俺も気づかせてやれなかった。
「そんな時代は終わりが近づいている。みんなが特別な時代が来る。人間も魔物もな」
ヅギの言葉に、はっと顔を上げる。
「この町はもうそうなっている。人間だ魔物だ、そんな区別はどうでもいいと思わないか」
「……人間が魔物になることも、か?」
「魔物になれば価値観や考え方も変わる。けどそんな物はどの道、成長や時代の変化でコロコロ移ろいでいくものだろ」
こいつは俺の悩んでいることをを見透かしているのだろうか。
確かにヅギの言う通りかもしれない。今の正義が永遠の正義とは限らない。時代によって移り変わるものだ。神を絶対とする教団でさえ、時代によって教義は変動し、時には異端者とも呼ばれる革新派が現れるくらいだ。
「心の根底にあるものは簡単には変わらない。人間にも魔物にも、良心ってものがあるからだ」
「良心……」
傭兵の口から出る言葉としては似つかわしくない。だが何故だろうか、今のヅギが言うと重みが利いている。まるで高僧の言葉であるかのように。
「お前も、自分の良心に従え」
………
……
…
俺とマナは決して仲の良い兄妹ではなかった。子供の頃はよく一緒に遊んだが、俺が勇者候補生から落とされたことがきっかけで、兄弟仲が変わっていった。決してマナが俺を格下に見たり、蔑んだことはない。だが匪賊征伐の最前線で戦い続けた下級騎士隊長と、魔物との戦いに備えて本国で教育を受けていた魔法使い……価値観や意見が食い違うのは当然だった。
戦場を経験した俺が、魔物への備えばかり考える上層部を皮肉るのを、マナははみ出し物のやっかみのように聞こえていたのかもしれない。だが妹が呪いを受けたとき、「俺が助けなくては」という感情が真っ先に浮かんできた。ヅギの言う『良心』という奴なのだろう。
教団の教えやら、魔王の野望やら、そんなものはどうでもいい。この世界がどうなるかも。
ただ俺の良心が言うのだ。マナを助けろと。
「……ではヴィンデンさん、よろしいですね」
メリッサが俺に最後の確認をする。病室のベッドの上で、マナは裸で寝かされていた。これから始まるのは教団が最も嫌悪する儀式。人間を魔物へと変ずる行為。
「ああ。頼むよ」
悩みに悩んで、決断した。魔物になろうとどうなろうと、きっとマナの良心は変わらない。
何より、魔物の良心というものを信じたい。俺を親身になって手当てして、支えてくれた女性……メリッサを。
メリッサはゆっくりとマナに歩みよった。感情なく虚空を見つめているマナの頬に、そっと粘液の手を這わせる。痩せた体を優しく抱き起こし、少しずつスライム体を広げて行った。
「よいしょ、っと」
起こされたマナの下に、メリッサはずるりと滑り込んだ。まるで紫色のゆりかごのように、彼女の体が広がり、マナを包み込んで行く。手足も、顔も。
「溺れたりはしないから、安心してくださいね」
マナの全身を飲み込んだメリッサが微笑む。紫色の粘液の中で、マナの体が小刻みに震え始めた。一瞬呪いが解け始めたのかと思ったが、そうではない。メリッサのスライム体が、肉体を刺激しているのだ。
ふともも、胸の膨らみなどの性的な箇所が、スライムで揉みしだかれて柔らかく揺れる。さらにマナの股間……女性の最も神聖な場所が押し広げられた。陵辱とも取れる、否、陵辱としか思えない光景にも関わらず、俺は黙ってそれを見ていた。昨日メリッサから受けた『治療』を思い出しながら、自分でも驚くほどに落ち着いている。
ゆっくりと、マナの女性器にメリッサが侵入していく。今まで妹の女性器など見たこともなかった。そこが異形の魔物に犯されて、押し広げられているのだ。
「はい、あーんしてください」
粘液の中でマナが口を開ける。自分の意志ではない、メリッサがこじ開けたのだ。俺にしたように、自分の体をマナに飲ませている。
「外側と内側、両方から溶かしますよー。体も心も……ね♥」
メリッサの愛撫が強まり、マナの乳房がスライムの中で揉まれ、ひしゃげる。下半身も女性器と肛門が押開かれ、スライムで盛んに刺激されている。そんなことをされても、相変わらず無感情な目で虚空を見つめるマナだが、俺はある変化に気づいた。
メリッサの紫色の体に、何か別の液体が混ざり始めたのだ。スライムに犯される女性器から、それが染み出し、紫の粘液に混ざっていく。
それだけではない。マナの手が少し、動いていたのだ。細い指がゆっくり、何かを握るような動きを始めたのである。
「マナ……?」
「意識は戻っていないみたいですね。でも食事を口元へ出せば食べましたから、それと同じようなものだと思います」
にこやかに語り、メリッサは徐々に愛撫を激しくしていた。紫色のスライムが活発に蠢き、マナを犯し、揉み解していく。
もう融解が始まっているのだろうか、指先だけでなく全身が細かな運動をしていた。
「さあ……心まで溶けてきますよ。気持ちいいのも感じるはずです」
彼女の言葉通り、マナは苦しんでいるようではなかった。無表情だった顔が、とろんと蕩けるような半眼になってきた。開かれた女性器には半透明のスライムが侵入しているせいで、膣内まで見えるようになっていた。
妹の膣。女の穴はここまで淫らな姿をしているものなのか。あの澄まし顔の、優等生マナの膣でさえも。
マナの体がぴくんと痙攣したかと思うと、小さな水音が聞こえた。股間からメリッサのスライム体の中に、愛液とは違うものが迸っていくのが見えた。
「あはっ、気持ちよくてお漏らししちゃったんですね」
体の中で放尿されたにも関わらず、メリッサは嫌な顔もせずに笑っていた。マナの漏らしたものは粘液の中に吸収され、なくなっていく。
「ぜーんぶ出しちゃいましょうねー。おしっこできるのも、これで最後ですからねー」
愛おしそうに、メリッサはマナに語りかける。その笑顔は魔物が少女を陵辱しているものではない。むしろ母性さえ感じるような、温かみのある表情だった。
粘液の中で、マナがゆっくりと目を閉じた。頬が緩んで、微笑を浮かべたようになる。
手がしきりに動いている。俺は思わずメリッサの体に、自分の手を押し込んだ。柔らかな粘液の中で、マナの手をそっと握る。
するとマナは、俺の手を握り返してきた。
「マナ……!」
妹は目を開けていた。そして、俺を見つめて……微笑んでいた。
それは一瞬のことだった。次の瞬間、マナの全身が細かな気泡に包まれたのだ。不思議な泡が音を立てながら、マナの姿を完全に覆い隠す。
握られていた手が徐々に小さくなり、なくなっていった。全身がゆっくりと縮み、やがて人の形も為さなくなっていく。
掌で握れるくらいの大きさまで縮んでしまったとき、気泡が消えた。
「……施術、終わりました」
メリッサがベッドの上から降り、体からそれを取り出した。彼女の体内にあるのと同じ球体……ダークスライムのコアだった。
生まれ変わった、妹の姿がそこにあった。
19/09/23 13:17更新 / 空き缶号
戻る
次へ