連載小説
[TOP][目次]
第三話 「この町は誰でも受け入れてくれる」
 鍛冶屋を訪れた二人に連れられ、俺は町の見物に繰り出した。休息が必要とはいえ寝てばかりでは体も鈍る。ナナカは仕事があるから行かないとだけ言って、寝ている間に届いたという俺の生活費から一部を手渡してくれた。素っ気ない態度だったが、小屋を出るときに小声で「気をつけて」と言ってくれた辺り、やっぱりいい嫁さんになれるなあと思った。

 小屋を出ると、浜辺に乗り上げていた我が零観がなくなっていた。波にさらわれたのだとしたらもう見つかることはないだろうが、あの領主がもう持って行ったのだと思う事にした。魔法だの化け物だのが実在しているのだからそのくらいできるだろう。

「ジュン、あんたも空を飛ぶ機械で来たのかい?」

 砂浜を歩き始めたとき、ヅギと名乗った修道士が尋ねてきた。やはりこいつも飛行機の存在を知っている。以前にこちらへ来た奴は相当有名なのだろうか。

「あんたも、ってことは前に来た奴も飛行機乗りか」
「ああ、町の大通りに降りてきて大騒ぎになってた。ドイツって国の奴だったな、確か」

 案の定、ドイツ人がこの世界に来ていたようだ。それも同じ飛行機乗り。ドイツには陸軍や海軍の航空隊はないというから、空軍のパイロットということになる。同盟国とはいえ場所が離れすぎているし、俺は今までドイツ人と関わる機会などなかった。だが別の世界へ飛んでしまうという同じ目にあった身であり、似た立場の人間ということになる。

「その人は今どうしているんだ?」
「リリムと婚約したとさ」
「りりむ?」
「魔物のお姫様です」

 シュリーさんが穏やかに答えた。魔物にも王様だの王女様だのがいるということか。一体どんな奴なのだろう。リライアはどことなく高貴な佇まいであり、領主の名に相応しい貫禄を持っていた。おまけにあの領主といいナナカといいシュリーさんといい、この世界の魔物の女というのは美人揃いなのではないか。そうだとすれば王女ともなると、中国の伝説に出てくる傾国の美女のような、かなりの別嬪さんということになる。

「そんな凄い女をKAにするたぁ、相当なやり手だな」
「いや、女の扱いは下手そうだったな。むしろ姫さんの方が頑張っていろいろアプローチしてたよ」

 それはまたどんな色男なのだろうか。同じ飛行機乗りということだし、一度会ってみたい気がする。
 それにしても化け物と人間が婚約できるということに驚いた。この二人の態度からして大して珍しいことではないのだろう。領主もナナカも俺を人間だからと差別するようなことはなかったし、捕って食おうともしなかったが、そこまで人間と親密とは思わなかった。

 いずれ国へ帰る方法を探すにしろ、こちらで知らなければならないことは山ほどありそうだ。
 しばらく海岸を歩いていると、やがて多数の帆船が停泊する港が見えてきた。竜骨のある西洋式の船の他、中国風のジャンク船も少数ながら見受けられる。視力に自信のある俺には甲板で忙しく動き回る水夫の姿が見えた。そして俺の目がおかしくなければ、その水夫の何人かは腕が鳥の翼になっていたり、足がタコのそれだったりした。

「ここらは町の西地区でな。海の魔物が多いんだ」

 ヅギが言った通り、港に近づいていくにつれ、居るわ居るわ、西洋の伝承に出てくるような人魚がわんさかいる。青や緑、赤など鮮やかな色の鱗と髪をした、何とも美しい生き物だ。水の中に住むのだから当然といえばそうだが、服らしい服を着ていない奴が多い。胸を貝殻や布切れで隠しているのみで、玉の肌を恥ずかしげもなく晒している。本当にここは竜宮城なのかもしれない。

 彼女たちは船から降りてきた水夫と談笑する者もいれば、水面から顔を出して小舟を誘導している者もいた。赤っぽい鱗をした人魚はことさら人懐っこいようで、すれ違いざまに男の頬にキスをしたり、じゃれついたいたりとせわしない。船員の男たちもまんざらではなさそうで、中にはすでに夫婦となっているような雰囲気の奴もいた。

 マストの上に立つ鳥人の女が空中に舞い上がり、青い翼をはためかせながら頭上を通り過ぎていく。俺は航空力学なんてものは忘れ、その優雅な姿を見送った。

「あれは何て魔物だ?」
「セイレーンだ。海に住むハーピーの仲間で、歌で男を誘惑する」
「じゃああいつは?」

 今度は軍船のマストによじ登っている、タコ足の女を指差して尋ねた。やはり服らしい服は着ていないが、軍帽らしきものを被っている。吸盤の生えた足を器用に使い、帆柱の上へ上へと登って行く。

「ありゃスキュラの水兵だよ。目をつけられるとしつこいから気をつけな」
「ふうん。美味そうな脚だな。あそこに浮いているのは?」
「あれはシー・スライム」

 手短に答えながら、ヅギはスタスタと港町の中へ入っていく。魚だの樽だのを山積みにした荷車が船と私設の間を行き来しており、俺たちは時折脚を止めて衝突を避けた。マグロのお化けのようなとんでもない大魚を運ぶ魔物たちも見受けられ、それはすぐ近くの市場で即座に解体されていた。見ればエビだのイカだの貝だの、様々な魚介が直売されている。料理屋の三男坊に生まれた俺は何となく、昔親父に連れられて行った市場の光景を思い出した。

 ヅギは辻馬車に乗ると言い、市場の方へ歩いて行った。付いて行くと魚を焼いている出店もあり、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。

「よう人食い牧師! エビ食うか?」
「ハハ、行きにたらふく食ったよ」

 陽気な売り声に笑いながら答え、ヅギは市場の外れに停まっている馬車を指差した。簡素な物から装飾の施された物、荷物運搬用の物など様々な種類がある。ヅギはその中で比較的小型な物を選んで、御者の少年に金を渡した。
 馬車の中はさして豪華な作りではないがクッションが敷いてあり、乗り心地は良かった。御者が馬に鞭を当て、ゆっくりと走り出す。港町の風景が次第に遠ざかっていった。


「魔物のいる町だからって怖がる人もいますけど、いい所でしょう」

 シュリーさんが言った。心底この町が好きだと言いたそうな、楽しげな笑顔だ。

「ああ。だが魔物には人を食う奴もいるんだろう?」
「今の魔物は人は食わないよ」

 ヅギが感情のない声で答える。

「え、でもあんた、さっき人食い牧師って呼ばれてなかったか?」
「オレは人間だよ」
「え?」

 化け物が人間を食わないのに、人間が人間を食うのか。何ともややこしい妙な話だ。俺の戸惑う姿がおかしかったのか、シュリーさんはクスクスと笑った。

「魔物はみんな女です。だから人間の男性と結婚するんですよ」

 言いながら、彼女はうねる触手をヅギの腕に巻き付けた。ヅギもそれに応えるかのように彼女の頭を撫でる。どうやらこの二人もそういう関係らしい。

 馬車に揺られながら、二人からこの世界の人間と魔物について感嘆に説明を受けた。
 それによると人間も魔物も神が作った存在で、元々は互いに殺し合わせることで数を調整していたのだという。その頃の魔物は本当の化け物で、情け容赦なく人を殺し、知能も獣並の奴が多かったそうだ。だがそんな化け物にも平和を望む女がいて、そいつが魔物の女王となり、人間の英雄と手を組んで神様の作った世界を引っくり返した。

 馬車の窓から外を見てみれば、下半身が蛇だったり馬だったり、異形の化け物がうじゃうじゃいるが、そいつらはみんなうら若き乙女だ。男は皆普通の人間らしい姿をしている。
 つまり魔王は魔物の存在を人間の女に近づけ、人間の男とポスることでベビる生き物に変えてしまった。その魔王が元々男を誘惑する悪魔だったからそういう発想になったらしいが、そのお陰で女化した今の魔物はみんなヘルで、そのギアはタコニックなギアナイス、一度ポスったら男を虜にしてしまうような体になっているそうだ。おまけに魔物は人間の病気とは無縁らしく、ベアーでやってもシックの心配はないという。何とも便利な話だ。

「だが魔物と人間がマリっても、寿命は違うんじゃないか。魔物なんだから百年とか千年とか生きたりするんだろ?」
「普通の人間でも人魚の血を飲めば寿命が延びるし、インキュバスになれば女房と同じくらいは生きられる」

 インキュバスなるものは魔物と交わり続けた結果、その力を取り込んだ男のことだとヅギは続けた。あまり普通の人間と変わる所はないが、寿命は交わった魔物と同じくらいに伸び、ついでにラリキが凄まじいことになり、魔物としては万々歳だという。なるほど、いたれり尽くせりだ。

 だがそれにしては、と疑問に思うことがあった。

「その割に、ナナカはどうもホワイトっぽいな」
「ホワイトって何だ?」
「素人女って意味さ」

 その瞬間、ヅギは吹き出した。

「ハハ、まあそうには違いないな。サイクロプスはあんまり他人と関わりたがらない」
「魔物にもいろいろな人がいるんです。でもやっぱり、魔物は魔物ですから」
「ふむ……」

 シュリーさんの言う通りだとすると、あの鍛冶職一本槍のナナカも本性は……。あの一つ目女がそういうことをしている姿はなかなか想像できないが、確かに良い女には違いない。無愛想だが気だてが良く親切で、乳もでかい。ひねくれ者の俺としては素直に男の言うことを聞くばかりの女より、ナナカのように筋の通った女の方が好みだ。
 そう思ってから、許嫁に逃げられた男の考えることではないなあ、と心の中で苦笑する。まあこれも戦争が終わったから考えられることなのかもしれない。

「お、あそこが領主邸だ」

 思い出したように、ヅギが窓の外を指差す。白い石壁の、しっかりとした作りの洋館が見えた。建物にあまり派手な装飾はないが、庭の木々や石などにはなかなか手がかけられていると見え、確かにあの領主の居城に相応しいように感じる。槍を持った兵士が周囲を警備しており、そいつらも人間だったり魔物だったりと様々だ。

 シュリーさんが言うには、今いるのが町の中央区で、政治関係の施設が多くあるという。先ほどの港町は西地区。南地区は対規模な農園や森林があり、農民の他にも町より野山の方が性に合う魔物が住んでいる。北地区は歓楽街のような場所だとかで、魔物が働く遊郭が多数あるという。ただし魔物はあくまでも夫探しのためにやっていることが多く、大抵エスプレイの後にはKAになってしまうそうだ。

 そして向かっているのが二人の住居がある繁華街、東地区とのことだ。馬車が進むに連れて景色が変わり、なるほど何の店か分からないが店舗や工房が立ち並ぶ通りに入った。貴族風の格好をした紳士もいれば労働者らしい格好の連中もおり、子供が道の脇で遊んでいたりと活気がある。人も魔物も様々な姿で入り乱れていた。十六、七くらいの少女たち三人ほど並び、甲冑を着て歩いているという奇妙な光景もあった。その甲冑はぎょろぎょろと目玉のような意匠が彫り込まれた禍々しい物で、おそらくあのお嬢さんたちも人間ではないのだろう。

 虫の下半身を持った女たちが石材を運んでいたり、体中が半透明な粘液でできた女が靴磨きをしていたり、不思議な光景を眺めながら馬車は目的地に着いた。窓にステンドグラスのはめ込まれた白い建物だ。

「ここは教会か?」
「はい。特定の神様を祀っているわけではないんですけど、結婚式とか、子供達に勉強を教える場所として使われています」

 説明しながら、シュリーさんが俺の前に立って教会へ入っていき、ヅギは俺の後から来た。人当たりはいい奴だが、俺が何か辺な真似をしたら後ろからぶった切るつもりだろう。先ほどから何となくシュリーさんを守るような位置取りをしていたり、俺の動きを見ている気配があった。まあこいつらからすれば俺なんて、何処の馬の骨とも分からん奴だ。警戒するのはむしろ当然だろう。

 教会の中は机と椅子が並び、奥に講壇が設けられていた。キリスト教の教会のような十字架は一切なく、町の住人が何人か集まってはいるものの、信心深そうに祈っている者はいなかった。

「お、シュリーさんお帰り」
「その人が異界人ですか?」

 視線が俺に集まった。そういえば俺がどんな奴か、町の人たちが気になってると言っていた。ここで会うために待っていたのだろう。

「こちらがジュンさん。いい人だから、安心してくださいね」
「ふむ」

 シュリーさんの簡潔な紹介の直後、居並ぶ住人たちの中から体格の良い男が進み出た。かなり筋肉質の男で、軍人には見えないが腕っ節は強そうだ。

「同じ異世界人でも、ヴェルナーさんとは随分雰囲気が違うな」

 そいつは俺の顔をまじまじと見つめた後、ぽつりと呟いた。ヴェルナーと言えば、ドイツ軍のお偉いさんにそんな名前の人がいると聞いた気がする。向こうではよくある名前なのかもしれない。

「ここに来たドイツ人はヴェルナーっていうのかい」
「ああ。俺の店で飯を食ってたぜ。俺は料理人のコルバ・ラグネッティだ」

 差し出してきた手を握ると、なるほど、小さな火傷の跡や傷が沢山ある厳つい手だった。海軍の主計科の連中の手を思い出す。調理師として厳しい修行を積んできたのだろう。

「あ、でも何かヴェルナーさんと同じ臭いがするな。臭ぇ油みたいな」
「こりゃガソリンの臭いだ、飛行機乗りだから仕方ないのさ。そういうあんたはニンニク臭ぇな」
「はは、創作料理で使いまくったからな」


 ……そんな話をしている間に、シュリーさんが尼さんたちに指示を出してお茶を用意してくれた。紅茶はいい匂いがして大変結構だったが、無性に緑茶が懐かしくなってしまう。その他大量のクッキーや、菓子パンも配られた。これがなかなかに美味く、戦時食に慣れた胃が拒絶反応を起こしかけるのにも構わず飲み下した。この教会で作っているそうで、腕の良い職人を雇い、孤児や近所の子供にパンの作り方を教えたりもしているらしい。

「子供は物覚えが早いですからね、教える方も楽しいですよ」

 フィルマンと名乗ったパン職人は嬉しそうに言った。彼の傍らには下半身が蛇の修道女がぴったりと寄り添い、ヅギとシュリーさんのように仲睦まじい雰囲気を見せている。教会に来ている他の連中も、大抵魔物の女房を連れていた。中には和服を着た狐の魔物もいたり、どうもこの世界には日本妖怪も存在するようだ。女房の頭から角が生えていようと触手が蠢いていようと、下半身が別の生き物のそれだろうと気にせず、またどちらが上でも下でもなくという感じだ。

 しかし彼ら曰く、人間と魔物が仲良くするのが気に食わんという連中もおり、そいつらと時々戦いが起きているという。この町でも時折敵の攻撃があり、住民の安全を確保すべくこちらから攻勢をかけることもいずれあるだろう、とヅギは言った。

「つまりこの町も戦時体制下ってことか」
「まあそうだな。私設軍以外の民間人も軍事教練を受けたりしてるし」
「ふうん、軍事教練な……」

 俺は空襲に晒される祖国の町を思い出した。町の奥様方が焼夷弾を消火する訓練やら竹槍訓練やら、無駄な訓練を必死に受けているのを見たこともある。軍人の俺に言わせてもらえば焼夷弾が雨のように降ってくる中で消火活動などするより、女は自分の身と子供を守ることだけを考え、とっとと逃げるべきだ。
 だがこちらの世界はどうだろうか。そりゃ祖国ほど切羽詰まっていないということだろうが、皆美味い物を食べ、仲良く笑っていられる。町中で見た兵士たちも皆活き活きとしていた。俺たちは何故あんな悲惨な状況になるまで続けてしまったのだろうかと、ふと切ない気分になる。

「お前、これからどうするんだ?」

 ふいにヅギがそんなことを尋ねてきた。

「……さてな。想定外のことばっかりで、どうしようかと思ってるところだ」

 ふと、国に帰れた場合のことを考えた。戦争は終わったが、俺はその後で勝手に飛び出し、遭遇した米軍機と空中戦までやってしまった。日本が降伏した後に、だ。帰国しても戦争犯罪人として裁かれる可能性はあるだろう。考えてみれば家族ももういないし、無理に帰る必要はないかもしれない。

「国に恋人はいるのか?」
「許嫁がいた。俺が戦争に行った後、他に男を作って逃げやがったがな」
「ならこっちで魔物の嫁を作るのもいいんじゃないか」

 そう言ってヅギは軽く咳き込んだ。
 ヴェルナーというドイツ人も魔物を娶ったというが、どのような心境だったのだろうか。ドイツは首都にソ連軍がなだれ込み激戦になったという。こちらへ来て戦いから解放され嬉しかったのだろうか。いや、おそらくそんな単純なことではないだろう。

「俺も訳合って修道士なんかやってるけど、本職は傭兵だから何となく分かる。お前もいろいろあったんだろうけど、戦いには飽きたって顔してるぞ」

 飽きた、か。確かにそうかもしれない。
 軍民問わず大勢の人々が死んでいくのをこの目で見てきた。俺より若い、飛ぶのを覚えたばかりの連中が『行ってきます』ではなく『行きます』と行って出撃していくのを見送ってきた。戦局の挽回は不可能でも、敵の気力を削ぐことができれば少しでも有利な条件で講和できるだろうと自分に言い聞かせ、あいつらは飛び立って行った。
 それなのに結果は無条件降伏である。ラジオの前で感じた例えようもない空しさは一生忘れないだろう。

「ま、ゆっくり考えてみな。この町は誰でも受け入れてくれる」
「……ああ。ありがとよ」

 この男ともそれなりに気が合いそうだ。ナナカが行った通り、ここは優しい人々の町なのだろう。


 集まっていた連中の中に、ギターを持った火傷顔の男がいた。いつしかそいつが演奏を始め、その相方だという鳥人が曲に合わせて踊り始める。青い翼が優雅に、ときに激しく舞った。美しい姿だ。交差するいくつもの飛行機雲を思い出す。

 誰もがギターの音と鳥人の踊りに心を奪われている中、俺はふとナナカのことを考えていた。
 ヅギが言うように魔物の嫁を見つけるとしたら、と考えると、思い浮かんだのはナナカだった。あの青い肌で、目が一つしかなく、無愛想な女。見た目で選べと言われれば、大抵の奴は港にいた人魚のような魔物に靡くだろう。ナナカは乳はでかくても、今目の前で舞っている鳥人のような華もない。添い寝されて嫌じゃなかったかと彼女自身が尋ねてきたのも、自分の容姿があまり好きではないからだろうか。

 港の人魚は人懐っこそうな連中だったから、男から声をかければあっという間に良い仲になれるかもしれない。北地区の遊郭とやらに行ってみればより手軽に相手が見つかるかもしれない。だがそれでも、こちらで嫁を探せと言われれば、考えられるのはナナカだった。彼女のことを深く知っているわけでもないし、この世界には彼女以外にも良い女がいることは間違いないだろう。

 それでも、俺にはあの一つ目の職人女が一番なのではないか。そんな気がしていた。

 俺に一夜のぬくもりをくれた、あの娘が。



14/07/12 15:50更新 / 空き缶号
戻る 次へ

■作者メッセージ

「やはり、ルージュ・シティに着くのは夜になります」

 時計と地図を確認し、私は計算結果を彼女に告げた。いつもながら美しい彼女は我が愛機に寄り添い、こちらに微笑みかける。

「飛べるかしら?」
「姫の眷属になって以来、夜目が利くようになりましたからね。心配いりません」

 インキュバスというのは普通の人間とあまり変わらないが、寒冷地の魔物と交わってインキュバスになれば、寒さに強い体になるなど、魔物の魔力でいくらかの恩恵があるようだ。祖国で特殊任務に従事していたため、夜間飛行には慣れているものの、やはり見えるようになると飛行の難度が大きく下がる。目標物のない洋上飛行はさすがに危険だが、陸の上を飛ぶなら地文航法が可能なくらい夜目が利く。彼女を乗せて安全に飛ぶことができるだろう。

「そう。……早く会いたい?」

 好奇心旺盛な笑顔で彼女は尋ねてくる。常にスリルを求め、未知という言葉が大好きな女性だ。ルージュ・シティ領主から知らせがあってから、ずっと楽しみで仕方なさそうな様子である。
 そして今回、私も彼女と同様だった。

「ええ。同じパイロットとなれば尚更、どのような人物か気になりますので。それも日本人のパイロットとなると……」

 言いかけて、私は口ごもった。
 レイテ沖海戦で日本軍が使った『あの戦術』は、我々西洋人には衝撃的であると同時に理解し難いものであった。我が国でも日本に触発されたのか、類似の戦術が試みられもしたが、私は日本人という存在について様々な疑問や興味が尽きない。

「……どうかしたの?」
「何でもありませんよ、姫。行きましょう」

 私たちはコウノトリに乗り込んだ。
 空の雑用係から王女の馬車に出世した愛機のエンジンをかける。新たな『未知』に会いに行くため。






………



海軍軍人は常にスマートでカッコ良くなくてはならなかった!
なので口に出すのが憚られる言葉(主に下ネタ)は隠語で表現したのだ!

KA=嫁(カカア)
ポスる=ヤる
ベビる=子供ができる
ヘル=スケベ(助平→助(ヘルプ)の略)
ギア=おまんこ(ホールとも)
タコニック=タコのように吸い付く
ギアナイス=名器
ベアー=ナマ
シック=性病
マリる=結婚する
ラリキ=摩羅の力
ホワイト=素人女(対義語・ブラック)
エスプレイ=芸者遊び

特定の部隊・階級でしか使われなかったものも含まれているかもしれませんが、そこまでは調べられなかったのでご勘弁を。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33