本編
「キーニア。マイ。座りなさい。」
「………………」
「………………」
「…あの、あなた……」
「母さんは少し黙っていてくれ。」
「……はい……」
「………お兄ちゃん………」
「………ほら、行こう、マイ。」
「待て。」
「えっ?」
「…マイはお兄ちゃんの隣じゃなく、こっちに来なさい。」
「………………」
「分かるだろう? ほら、早く。」
「っ…父さん、それは「お前が口を挟むんじゃない!!」
「や、やめて!お兄ちゃんを怒らないで!!私、わたしが悪いの、私が……!!」
「………父さんの、言う通りにしよう。」
「…で、でも……おにいちゃん………」
「大丈夫。兄ちゃんは、絶対に、お前を守るから。」
「………………うん……」
「………ふん………母さんも、座って。」
「……………ええ……」
妹 父 母
兄
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「すまんちょっとタイムだ息子よ。母さん?これなにかおかしくない母さん?」
「えっ………?」
「おおっとちょっとそこで本気で困惑されるとはワシ思ってなかったぞぉ。」
「えっと、その、母さん? 父さんが言いたいのはこう、バランス…みたいな……?」
「………? 妻はいつだって、夫の隣に寄り添う物でしょう?」
「うんそうだねその通りだね母さん!でもね時と場合ってやつがあると思うのよワシ!!」
「そ、そんな……病めるときも健やかなる時も、いつでも私の傍にいると、主神様の前で誓ってくださったのに……」
「うん言ったね!言った!でもこう、今は主神様も「しゃーなし!」って言ってくれるんじゃあないかな!?」
「そこは解釈違いです。」
「わかった!この話はやめよう!家族会議が宗教論争になってしまう!!」
「……え、えっと……父さん、俺はその、別にこれでも……」
「お前が良くてもワシが気にするのぉ!!これじゃアレじゃん、息子を三人がかりでボッコボコにしてるみたいになるじゃん!?」
「えぇ〜……?」
「…ごめんなさい…でも、私はどんな時でも、あなたの隣に居たいの……」
「か…母さん………」
「………それに………マイちゃんも随分と美人になったしあなたの気が迷いはしないかって不安で」
「母さん!?それ暗にワシが娘に懸想する変態父だって言ってない母さん!?」
「………………。」
「待ってくれマイちゃん!無言でスッと距離を取るのはやめてくれパパの心がしぬ!!」
「だって、この子も最近は私に似てきたから…つい……」
「前々から思ってたけど母さんって清純派に見えて結構いい性格してるよね。」
「いやこれは「自分が美人だからアピール」ではなく「自分がワシ好みの女性だからアピール」だぞ息子よ。」
「よく分かるね父さん。」
「伊達に長年おしどり夫婦続けとらんからな。」
「あら、あなたったら…♥ …でも、ごめんなさい、あなた……弱い私を、どうか許して……」
「えっ待って母さん今なぜそこを触るの!?待って待って息子と娘が見ているよ母さん!?」
「こうしていれば、いつ浮気してもすぐにわかりますから……」
「しないよ!? しかも相手はあまつさえ実の娘だよ母さん!?」
「いざというときはこの手に力を込めれば……」
「いや無いからね!?絶対ないからねその「いざ」は!?」
「…………っ……!」
「おっとマイちゃん? なんだいそのなにかに気づいた表情は? おおーっとマイちゃん? なぜこの流れでワシの手を自分の太ももに持っていくんだいマイちゃん? あっごめんやっぱ言わなくて良い多分聞いたらパパ再起不能になっちゃうわコレ」
「…………!!」
「ほら!ほらとうとうキーニアまで殺意の籠もった視線でワシを見始めたよ!? 気づいて!どうか皆気づいて!今この四人の中でワシが一番泣いている!! ちょっと皆一度冷静になろう!な!? ワシの外見も相まって「妻と娘を侍らせる寝取りデブ竿役親父」みたいな絵面になっちゃってるから!!」
「えっそれだと要素が一個足りな「ハゲちゃうわぁぁ!!まぁぁぁだハゲちゃうわぁぁぁぁぁ!!?」
「パパ…それはもう諦めなよ……」
「大丈夫よあなた、あなたはいつだって輝いているわ……! ほら、お鼻ちーんってして?」
「ちーん……っ」
「うん、良し、良いな?これで良いな?良いよね?皆納得した?」
父母
兄 妹
「……いや、うん、俺は別に良いけど……」
「うふふ、やっぱり夫婦はこうでないと…ねぇ、あなた♥」
「母さん頼むから今は今だけは勘弁して母さんマイちゃんの視線がそろそろ絶対零度を限界突破しそうなの。」
「(……パパとママばっかりずるい…パパとママばっかりずるい……!!)」
「(どうしよう、段々父さんが可哀想になってきた。)」
「あー、あー………こほん。いいか、これからワシ真面目に行くからね?わかってくれるねミゲル一家一同?」
「「アッハイ。」」「(頑張って、あなた…!)」
「えー………よし、うん、よし……………キーニア。」
「………………うん。」
「……なんで、こんな事をした。」
「…………マイの事が、好きだからに…決まってるだろ。」
「性欲の捌け口にする事を好きとは言わん。」
「っ…!」
「お兄ちゃんがそんな人な訳ないでしょ!? 何言ってるのパパ!! 訂正して!!」
「マイ。ワシは今キーニアと話しとるんだ。」
「やだ!! こんなの、こんなの黙ってられるわけない!! それに、それに、そもそもはっ……!!」
「おい馬鹿、やめろマイ!!」
「わた、私の方から誘ったの!!…こ、告白だって私の方からだった!!お兄ちゃんはっ…おに、お兄ちゃん、はぁ……! …わたし…私の、わがまま……聞いてくれた、だけ、だもん………」
「…それは、言うなって…約束、しただろ……ばかやろ……」
「だって、だってぇ…わたし、言わなかったら…お兄ちゃん、絶対、むりやり私のこと襲った、って言うもん……そうやって、そうやってぇ…ひぐっ……自分だけ、わるものになって……マイのこと、おいてっちゃう……」
「………………」
「…………マイ、ちゃん……」
「…………マイ。」
「…ひっく……なによぉ……」
「お前の言う事は、何一つ、キーニアの弁護にならん。」
「なっ……!?」
「キーニア。お前さっき、マイの事を守る、とか言っとったな。」
「…ああ、言ったよ。」
「何も守れとらんだろうが。」
「それは、まだ、わから「本当に守りたかったらなんで告白された時に諭してやらんかったんだこの馬鹿息子がぁ!!」
「ひっ……!?」
「………あ……」
「あなた、少し落ち着いて。…マイちゃん、すっかり怯えちゃってるから……」
「………ああ。……いきなり大声出してすまんかったな……」
「……しらない……ぐしゅっ……もう、パパなんかきらい………だいっきらい……」
「……そうか。…でも、パパはマイの事を好きでいるよ。ごめんな。」
「…うるさい……もう、パパの下着いっしょに洗ってあげないから……」
「うん。寂しいけど、それも、仕方ないよな。…………キーニア。」
「…………うん。」
「お前が、マイを守りたいなら。そして、マイを…家族として……女としても、愛しているなら。お前は、絶対に、断らなきゃいけなかった。違うか?」
「…………きるわ……いだろ………」
「ん?」
「……出来るわけ無いだろうがっ!!そんな事!!考えても見ろよ!マイだって馬鹿じゃない!! そんな、そんな軽い気持ちで実の兄貴に想いを告げたと思ってるのかよクソ親父!!!」
「………………」
「……ぉ…にい、ちゃ……」
「…俺、あんなに震えて、怯えてるマイを初めて見たんだよ………いつだって、元気で笑ってるマイが……放っといたら、そのまま消えちまいそうで……だから……!!」
「つまりは同情か。」
「違うっ!! …そりゃあ、ちょっとはそういう気持ちがあったのも否定しないけど……でも…!! …その時、俺だって初めて気づいたんだよ……この、俺の……世界一可愛い、俺の妹への…本当に、気持ちに……」
「………ばか…お兄ちゃんの、ばかぁ……! い、いつも、かわいい、なんて言ってくれないのに…なんで、こんな時だけ……」
「…今言わないと、絶対後悔すると思ったからだよ。」
「…なに、言ってるのよ…そんな…そんなの、後でいくらでも言ってよ…そんな…最後みたいに、言わないでよぉ………」
「………はぁぁ……この、馬鹿もんが……お前はいつもそうだ、後先ってもんを全く考えとらん………息子と娘が、揃って地獄に堕ちていく様を見せられる親の気持ち…お前、本当にわかっとるのか……!」
「待てよ…なんだよ、地獄って……そんなの、まだわかんないだろ……!!」
「わかるに決まっとろうが……! 実の兄妹が結ばれるなんぞ…一体、どこの誰が祝福する……?」
「そりゃあ人間同士ならそうだろうさ!!でも魔物に関しちゃあそうじゃないんだよ!!」
「なんでそこで魔物の話が出てくるんだ! 今はお前たちの話をしてるんだぞ!?」
「えっ」
「えっ」
「あら、あら…」
「……………えっ?」
「……えっ…いや、え……父さん?あれ?」
「……えっまってまってなにこの空気。え、ごめんわかんないワシちょっとわかんない。なんで急に皆引いてるの。いや、そりゃワシ結構不真面目なパパだったかもしれんけど今はガッチガチに大真面目だったよ? だったよね? あ待って待ってなんか凄く怖くなってきたよ? なんでそんな珍獣を見るような目をワシに向けるの我が子たち?」
「い、いやだってそりゃ……その、父さん?」
「う、うむ。」
「ちょっとマイの方見てもらってもいい?」
「うむ。」
「……今、あなたの娘の頭部を見てなにか違和感はありますか。」
「角が生えとるな。」
「うんそうだねそうだよね。では背中は。」
「翼が生えとるな。」
「それではこれはなんでしょうか。」
「尻尾だな。マイの腰辺りから生えとる。」
「そうだね。ちゃんと全部見えてるんだね父さん。」
「馬鹿にしとるのかこやつめ。これでも視力にゃあ自信があるんだぞ父さんは。」
「アッハイ。」
「全く、年寄り扱いしおってからに………ふー……」
「………………」
「………………」
「………………」
「………それで話を戻すが、なぜここで魔物の話題が「いや今思いっきり答え合わせしたよね!?」
「……………?」
「なんでここで更にそんなに純粋無垢な(きょとん?)顔が出来るのさ父さん!?」
「パ、パパ!えっと、今の私は何に見えますか!?」
「………………サキュバスコスプレしてるマイちゃん……」「あーーーー!そっちね!!そういう解釈ね!?」
「うん、あとパパ的に可愛い娘がエロ衣装着てるってのが割りとじわじわダメージ入ってるからちょーっと見てるの辛いかなーって」
「え、えぇ…? これ結構、おとなしめな方なんだけどなあ……」
「助けて母さんマイちゃんがすっげぇ怖いこと言ってるパパもう意味を理解したくない!」
「よしよし、大丈夫ですよあなた、よしよーし…♥」
「…い、いやとりあえず聞いてくれ父さん!辛いかも知れないけど現実を直視しよう! 冷静に考えてくれ、主神教の力が強いこの国でこんな背徳的な衣装が手に入ると思う!? というかそもそも需要が無いでしょ!?」
「そ、そうだよパパ! それにほらっ! これ見て! 羽こんなにパタパタ動かせるよ!? それに尻尾も自在に!!」
「あぁやっぱりそれ母さんの特製衣装じゃないか…まあワシらの寝室使っとったからそりゃ見つかるかぁ……」
「めっちゃ身近な所に需要有りやがった!? おいそれでも主神教徒かアンタ!!」
「いや、ワシには「最強勇者ワシ 〜超性剣エクスカリバーの前では淫魔女王も完全♥敗北〜」プレイは主神様的にも推奨だという確信が」
「色んな意味で駄目に決まってんだろうがこのスケベ親父がぁ!?」
「(あ、あぁー…寝室の箪笥の奥にあった、あのハリボテの鎧兜ってそういう事かぁ……)」
「…えっ…い、いや、ちょっと待てよ……? 父さん、今この動く羽とかを「母さんの衣装」って言ったよな……!?」
「あっ……! …と、という事は……や、やっぱり、そうなの……?」
「………………ふぅ。流石に、もう誤魔化せないわね。…………えい♥」
「うわっ!?」「きゃぁっ!?…ま、ママ…その、角と翼……わ、私とおんなじっ……!?」
「か、母さん!? 母さん!? なんでここで自慢の早着替えを披露するんだい母さん!?」
「あんたこれをずっとただの早着替えと認識してたの!?」
「うふ、可愛い人でしょう♥ …なんて、今は言ってる場合じゃ無いわね……あなた。」
「お、おう?」
「今、改めて告白します。私は……トート・ミゲルの妻、マミ・ミゲルは。既にこの身を…魔物、サキュバスへと変じております。今まで、黙っていて……ごめんなさい、あなた。」
「 」
「(父さん…言葉も出ないぐらい驚いてる、って事は………ガチで気づいてなかったんだ……?)」
「(あのハリボテ鎧、相当年季入ってた気がするんだけど………一体何年気づかなかったのパパ……?)」
「けれど、これだけは信じてほしいの。あなたへの愛は、あの日主神様へ誓いを立てた時から…いいえ、それよりもずっと前から…今に、至るまで。一点の曇りも、ありません。…何があろうとも、私が操を捧げる相手は、あなただけです……トートさん。」
「…………これだけ長年連れ添ったんだ、今更お前の愛を疑ったりなどしない。しない、が……あれほど敬虔な主神教徒だったマミくんが、まさか……」
「あら…私は今でも、主神様を信仰していますよ?」
「えっでも主神教じゃあれだけ盛んに魔物を排斥しようとしとるよ?」
「そこは解釈違いです。」
「アッハイわかりましたワシの負けです。」
「弱っ!?」「まぁでも、ここで迂闊に反論するとママ本気で百倍返ししてくるもんね…理路整然と…」
「う、うむ、母さんの主神教への信仰度合いは昔っから凄かったからなぁ、知識量が半端無いのよ…だからこそ、その部分だけよう信じられん…もしかして、だから神学校ではなく魔術学院に入っとったのか?」
「あ、いえ、そこは…そういう訳では、無いんですけれど……」
「えっ待って待ってママって魔術学院になんて通ってたの!? うそっ、全然知らなかった!?」
「通ってた、どころか超優秀な生徒だったんだぞ母さんは。長い学院の歴史にも……まあ、十本の指には入るほどの。」
「微妙にランクが低い辺り、いつもの惚気じゃあなく本当っぽさを感じるね…いや、十分凄いけどさ…」
「も、もう! 昔の話はいいじゃないですか、あなた!!」
「いやな、そんな来歴があるもんだからワシも「そりゃ母さんなら羽や尻尾が自在に動くマジックアイテムぐらい作れるだろう」って思っててね?」
「ああそこでそう繋がるんだ……」
「でも絶対限度ってあると思うよパパ?」
「いやあ、少なくともワシが見た中じゃあ母さん以上に優秀な生徒はそうはいなかったよ? お陰で母さんのときは本当に採点が楽だった。」
「や、やですわあなた、そんな子どもたちの前で、恥ずかしい……」
「へー……」「ふーん………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……………………採点?」
「あっ。」「あら。」「えっ…………あっ。」
「……………………ええと。……………発言の許可を求めます。」
「おうなんだ言ってみろやこの淫行教師。」
「卒業までは!!卒業までは我慢した!!それで勘弁してはもらえんか息子よ!?」
「あとねキーくん、ママは声を大にして言いたいんだけれどキスまでは淫行じゃないわ。」「母さん!?母さん!?」
「じゃあディープキスはどっち判定になりますかママ!!」「マイ!?マイ!?」
「あれはもうセックスよマイちゃん。」「真顔で一体何を言い切ってるの母さん!?」
「うんそうだよね触れるだけのキスとは別カウントだよね!?つまり私のはじめての相手はパパじゃなくてお兄ちゃんで良いんだよね!?」
「ぐああああああああああああああ!!!!」「マイ!やめるんだマイ!!父さんがありとあらゆる感情でもうぐちゃぐちゃになってる!!」
「あっ…そうねごめんなさいあなた、これだとやっぱりあなたが淫行教師って事に「やめろォ!ワシを殺したいのか!?」
「というかやっぱ我慢しきれてねぇだろうがスケベ親父がっ!?」
「いや本当に体に手は出しとらんからっ!?マジで父さんめっちゃ頑張ったんだからな!?わかれ!わかってくれ!!」
「…でも、卒業式が終わった途端…トート先生…トートさんってば、私を強引に空き教室へ引き込ん「わあああああああああ!!わあああああああああ!?」
「いや待てよそれはいくらなんでも駄目だろ許されるのそれ!?」
「…………………まあ、許されんかったなぁ…」
「あっ……そ、そうか、少なくとも俺が物心付く頃にはもう教師じゃなかったのか…」
「…キーくん、あまりパパを責めないであげて。それにね……それがあったからこそ、貴方が今ここに居るのよ…」
「……母さん……………ん、あれ、そういえば俺の誕生日って…………あ……ああぁぁ〜〜………?」
「おいやめろ考えるんじゃあない息子よ! 気付くな!! 気付いてはいかん!!」
「……………えっ、パパまさかの一発必中…?」「うふふ…この人は昔から、やるときはやる男なの…♥」
「…うわ……うわぁ…なんだろうこの感情……少なくとも知りたくなかったぁ………せめてもうちょっと我慢しろよ……」
「いやうん、ワシもね、流石にやばいなーとは思ったが、思っても……あれはなぁ……」「あれってどれだよぉ……」
「………う、うーん………えーと………うん。……お兄ちゃん?」
「…うん?」
「………教師と、生徒って…そんなに、駄目、なんですか……? ………ぐすっ……キーニア、先生っ…!」
「………………」
「………………」
「……………………父さん。」
「なんだ、息子よ。」
「これどうやって我慢したの。」
「とにもかくにも根性だ。いやマジであの頃のワシもっと褒められてもいいと思うの誰にも言えんかったけど。」
「(……先生……キーニア先生、かぁ……うん、今度ヤろう、絶対ヤろう…♥)」
「(あの頃の制服、確かまだ仕舞ってあったわね……胸周りとか、今もまだ入るかしら……♥)」
「…と、とりあえずだ、息子の理解も得られた所で……」
「ちくしょう…理解したくなかったのに心でわからせられた…ちくしょう……」
「あ、お兄ちゃん鼻血鼻血。ほら、お鼻ちーんってして?」
「ちーん……っ」
「ぶっちゃけるがそっち方面だとワシも君らに言いたいことあるからね?」
「うっ。」「ぎくっ。」
「………なんでまたわざわざワシらの寝室使った?」
「………………」
「………………」
「仮想新婚らぶらぶ夫婦状態からしか接種できない栄養素があるからです。そこに現役夫婦の寝室という舞台が揃うことで倍率ドンですわあなた。」「母さん!?また真っ直ぐな視線で言い切ってくれたね母さん!?」
「………………」「………………」「ねぇ本格的に我が子達が目を合わせてくれなくなったんだけどこれやっぱり図星と判断していいのかなあ!?」「あらあら、うふふ…♥」
「…うん、まあ…それはワシとしてもわからん部分がないでもないから、一応理解は出来るんだが…」「俺が言うのもなんだけど理解出来ちゃうんだね父さん…!?」
「それよりも一番言いたいのは、別の…………いや、まあさあ…性癖ってのは、誰かに迷惑さえ掛けなければ否定されちゃあいかんもんだとは思うけどさあ……」
〜〜〜 回想 in その時パパとママが見た物は!? 〜〜〜
『くそっ! くそっ! くそぉっ! お前が! お前がそんなに可愛いから! 俺はっ! 俺はぁっ!』
『あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あぁーっ♥ おにっ♥ おにぃひゃっ♥ もっと♥ もっと言ってぇ♥ 『ボク』のこと可愛いってぇ♥』
『俺がっ!俺がどれだけっ…このっ、このやろっ♥ 悪い『弟』は兄ちゃんがしつけてやるからなぁっ!!』
『んひぃぃぃぃぃっ♥ ごめっ、ごめんなしゃぁぃ♥ ボク『男』なのにぃっ♥ おにいちゃんのことすきになっちゃったのぉっ♥ でっ、でもぉ♥ もう、もうボク『女の子』だからぁ♥ だか、だからっ♥ ゆるひいぃぃっ♥♥』
『ちくしょうっ!なんで女になっても魅力が変わらないんだよっ!マイっ! マイっ! マイっ♥ マイぃっ♥ 俺だけの『妹』ぉっ!!』
『あはぁぁぁぁぁっ♥ おにいちゃんっ♥ おにいちゃぁぁんっ♥ すきっ♥ しゅきぃぃっ♥♥♥』
「実の妹相手によりにもよって『弟が性転換して妹に』プレイなんてする事ある????」
「……それは……その……はい……」
「(…どうしよう……好奇心でヤッてみただけなのに、背徳感でいつもよりも燃えちゃったとか言えない……!)」
「(……凄い…なんて発想なの……貴女はもう、ママを越えたのね……流石よ、マイちゃん……♥)」
「いや…いやもうさ…『あれこれめっちゃ根の深い案件じゃないの?パパはマイちゃんの苦しみに気づけなかったやつなの?』って……正直息子と娘がズッコンバッコンしてる事実よりもきっつくて……」
「それはもう誠に申し訳ございませんでしたっ!!!」
「だ、大丈夫だよパパ!そんなこう、繊細な話じゃないからっ!? ごめんね本当に好奇心だけです!!」
「それなら…それなら良いんだけどね…? にしたってなんでそんな連れ添って十年目ぐらいでちょっと夜に刺激が欲しい夫婦みたいな極まった方向に走っちゃったの……」
「えっでも私達まだ八年目「あっバカっ」あっ!?」
「 」
「あらぁ……♥」
「…………………」
「…………………」
「………………はち?」
「…………あー…」
「…………………てへぺろっ♥」
「オゥこらこのクソガキゴルァァァァァァァァ!?」
「ぴぃぃぃぃっ!?」
「はいっ!!なんですか父上はいすいませんっ!!」
「おみゃぁぁぁぁ!!!? いまっまぁぁぁぁ!???? なんさいこらゴラァァァ!!!!? グルァァァァァァ!!!!!!?」
「サー!! 今年で18になります、サー!!!」
「じゅうはああああああぁっ!! ひくっ!! はっ!! いくづぅぅぁぁああああああああ!!!??」
「サー!! 10であります!!サー!! お許しくださいサー!!!!」
「それでえーと、マイちゃんはキーくんの2つ下だから…ふふ、最近の女の子はマせてるわね…♥」
「はっちぃーーん!? は、はーっ、ハアアーッ!! ハァーッ!!??」
「サー!! 意識をしっかり!! サー!!」
「パパぁっ!! お願いだからいつものパパに戻ってぇ!? う、うわっ、なんか火っ!? 火が出てるなにこれっ!?」
「…う、うぅん、流石にこれは収拾が付かないかしら……あなた、ねえ、あなた?」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ぎゃぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
「「きゃぁぁぁぁぁぁっっ!!??」」
「あなた? 気持ちは、まあ、わかりますけれど、まずはキーくん達のお話を聞きましょう?」
「ぎゅびぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! ぐげりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「ひゃぁぁぁぁぁぁっっ!!??」」
「あなた……もう。可愛い妻を放っておくなんて、悪いひとね……」
「ぎょぼむぎょへぇぇぇぇぇぇ!! ぶびょぎょぎゅりょぉぉぉぉぉ!!」
「「ウワーッ!! ウワッ、ウワワーーーーッ!!??」」
「………………今夜は『オムツ』つかいましょうか♥」
「そうだねワシら理性的な話し合いの心を忘れてはいけないよね母さんだからそれはやめよう。」
「うふふ、それでこそあなたらしいですわ、トートさん♥」
「待ってくれ!!ちょっと待ってくれないか!? 少し事態を理解する時間が欲しい!!」
「ぐ、ぐしゅっ…いつもの…いつものパパじゃなかったぁ…おにいちゃん、こわいよぉ………」
「だ、大丈夫だからな、マイは兄ちゃんが守ってやるからなぁっ……!!」
「…あー、うん、その、頭は冷えたから…それどころか背筋が凍ったから安心していいぞ、我が子達……」
「今の!? 今の一言でっ!? 父さん一体どういう意味なのアレ!?」
「………本当に、知りたいか………?」
「ごめんなさいすみません俺が悪かったです言わないでください!!」
「………ま、ママ……くすん………赤ちゃんプレイって、どうなの……?」
「良いのかなぁマイ!? 震え怯えながらも精一杯絞り出した言葉がそれで良いのかなぁ!?」
「うふふ…あれは良いものよ…♥ かっこいい旦那様が、私の前でだけ全てを忘れて甘えてくれるの……♥」
「母さん!!やめるんだ母さん!!犠牲者はワシ一人で十分だよ!?」
「えっでもパパかっこよくないよ?」
「そこは愛さえあればなんとでもなるのよマイちゃん♥」
「があああああああああああ! がああああああああああああ!!」
「父さん!父さんしっかりして!!大丈夫父さんはかっこいいよ!!」
「う、ぐぅ……ふ、ふふ…お前に、こうも助けられるとは…いつの間にか、大きくなりおって……」
「………父さん……」
「…………いやもう…マジで父さんよりさっさと大人になりすぎじゃん…なんだよ10歳とか8歳とか…ワシその頃って記憶すらないよ……?」
「父さんっ……!?」
「…うーん…キーくんが10歳で、マイちゃんが8歳の頃、っていうと……もしかして、あの『迷子』の時かしら?」
「っ……」
「…え、えっとー……」
「ん……? あ、ああ。キーニアとマイが一緒に裏山まで遊びに行って、そのまま迷子になった…あの時は、心底肝が冷えたなあ…。翌朝、神官様たちがお前達を見つけてきてくれた時はそれはそれは主神様へ感謝したもんだ。」
「……そうね、神官様ご夫婦が………神官様、か……」
「…………か、母さん…?」
「…あ、あははー…ママ、そんなに私の顔、じっと見て…え、えっと、なにか付いてるかな……?」
「マイちゃんが『目覚めた』のは、その時なのね?」
「っ!?」
「マ、ママっ!? どうしてそれを…あっ、いやっ、ええとっ……!!」
「………え? なに? なんの話しとるの君ら? えっ?」
「……母さん。正確には、『その時』じゃなくて『その直前』……かな?」
「お、お兄ちゃんっ……」
「いいんだ、マイ。正直に、話そう。…俺達だって、よく分かってない事が多いんだ。知りたいことだって、ある。………父さん。」
「う、うむ。」
「……ごめん。あれ、ただの『迷子』じゃない。……『家出』、だったんだ。俺と、マイの。」
「なぬっ………!?」
「あっ、お、お兄ちゃんを怒らないで! げ、原因は…やっぱり、私にあるの……だから……!!」
「マイ、お前…」
「いいの!ここは…ここは、私から説明させて。…えっと…うん、一番最初から説明した方が、いいよね……パパ。あの頃の…お兄ちゃんの事、覚えてる?」
「え、ええと、10歳のキーニア、というと…そうだな、確か町内工作大会の子供部門で優勝した頃だったか。」
「と、父さん!? なんでそんなピンポイントに覚えてるの父さん!?」
「それは覚えてますよね、あなた? あの時貰った表彰楯、キーくんは恥ずかしがってすぐにしまい込んじゃったけど…この人ったら、こっそり回収して今でも時々眺めて…」
「父さん待ってなんて事してるの父さん!?」
「……キーニア。」
「な、なに!?」
「……安心せい。子供の頃だけでなく、ついこの間の陶磁器品評会で貰った賞状もしっかりワシが保存してある。」
「待って待って待って俺あれ確かに捨てたつもりだったんだけどなあ!?」
「もう、キーくん?幾らなんでも賞状をゴミ箱にぽい、は良くないわよ? ちゃんとママが回収しておきました。」
「何してくれてんの母さんっ!? やだよ俺あの結果にめちゃくちゃ苦しんだんだよ!?」
「まあ初出品だし、参加賞でも仕方なかろ。」
「俺さぁ!! あれ本っ気で魂込めてたんだよ!? なのにさぁ!! 俺より4つも5つも年下の子でも入賞してるのにさあ…!!」
「おうおう、苦悩おおいに結構。その子らだって最初から天才とは限らんわい。それに、お前も凡才とは限らん。ま、これからも頑張れ。」
「う、うぅっ…ああ、もう、今はそんな話じゃなかったろ!? ほ、ほら、マイ!?」
「あ、う、うん。えっと…こほん。改めて………パパ。あの頃の、お兄ちゃんって凄く…………すっごく………モテなかったよね。」「マイさん!? あれっ!? マイさん!?」
「まあ、親近感は凄かったね。流石はワシの息子というか。そこは似んでも良かったけどなあ…」「えぇー!? 今そういう話でしたっけ!?」
「この辺の子は、ちっちゃくてもみんなませてたから特にねぇ……キーくん、顔も悪くないし、手先も器用だし、運動もそこそこできるのに…本当に女の子と縁、なかったものね…?」
「やめて心底不思議そうな顔やめて!!俺だって「なんで?」って言いたいよ!?」
「…お兄ちゃん、同年代の友達がみんな彼女ができちゃって…ひとりで寂しそうに壁に向かってボール蹴りしてる姿…今でも私、忘れられない……」
「そこはお願いだから忘れてくれないかなあ!? でもその時抱きしめて慰めてくれたのはありがとうなマイ!!」
「あ、お兄ちゃん、覚えててくれたんだ…♥ …ん、んんっ…それで…それで、ね。その時、わたし……偶然、聞いちゃったの。お兄ちゃんが……夕日に、向かって………」
『ちくしょぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!! 俺だって、絶対、彼女ひゃくにん作ってやらァーーーーーーーーーーー!!!』
「……って…泣きながら、叫んでいるのを……!」「よりによってお前に聞かれてたのかよちくしょぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!」
「………百人かぁ……」
「………なんでかしらねぇ……?」
「やめてください!!心底困惑した顔で見るのはやめてください!!子供の言うことだ真に受ける事はないだろう!?」
「…それを聞いて、私、こう思ったの。百人は絶対無理だけど」「絶対!?無理!?」「キーニア、少し静かにしなさい。」「ぬっくぅ……!!」
「お兄ちゃん、だったら……誰よりもかっこいい、私のお兄ちゃんだったら……きっと、そのうちに……一人は、彼女さんが出来ちゃうんだろうなって。そして、それは………『妹』の私じゃ、絶対に、ないんだ、って。」
「…………………」
「…………………」
「………マイ……」
「…産まれたときから、ずっと、ずぅーっと一緒だったんだよ? 私、ずっとお兄ちゃんの背中を見てた。かっこいいところも、かっこわるいところも、きゅんってするところも、いらってするところも。全部、ぜーんぶ。…世界で一番、キーニアお兄ちゃんの事を知ってるのは…世界で一番、キーニアお兄ちゃんが、大好きなのは…私なのに。…私が一番、好きなのに。私じゃ、ぜったい…お兄ちゃんの一番に、なれないの。」
「…………マイ。」
「……ん……えへへ、心配してくれるんだ…♥ ううん、大丈夫だよ、お兄ちゃん…これは全部、昔の話。あ、でも、お兄ちゃんの一番、っていうのは今も変わらないよ? …話、戻すね。その時の私は…それが、その事が、とっても…とっても、とっても苦しかった。苦しくて、つらくて…いっぱい、いっぱい泣いちゃって…そうして、気がついたら………」
「……『魔物』の姿に、なっていたのね?」
「………うん。」
「…その時に、マイが魔物になったと…?」
「ごめん、その辺りは俺にも…よく分からないんだ。マイ自身も、よく分かってなかったと思う。…あの時のマイは、本気で混乱してたから。」
「私…主神様の、天罰が下ったと思ったの。『妹』なのに、『兄』を愛してしまった…それが、主神様の怒りに触れて。この身を、魔物に変えられちゃった、って………。凄く、怖かった。少なくとも、誰かを「食べたい」なんて風には、思わなかったけど…魔物だって事が誰かにバレたら、大変な事になる。パパも、ママも…お兄ちゃん、だって…きっと、巻き込まれて…でも、その時、私、本当にどうしていいかわからなくて……」
「…マイが泣きながら俺の所に飛んできたのは、その時だな。こいつ、文字通り「飛んで」来たんだ。父さんみたいに、「できの良い仮装」とか思う暇も無かったよ。」
「…告白っちゅうのは、その時の事か。」
「ああ。」
「さっきも言ったけど、魔物になった原因はそれだと考えてたし……それに…うん。…これで、「最後」だと思ったから。全部、全部お兄ちゃんに話したの。私の気持ちを、全部。…魔物の私はもう、ここには居れないから、これでお別れしなきゃいけないから。…そしたら、お兄ちゃんは……」
「…マイに、言ったんだ。『じゃあ、俺と一緒に逃げよう!』って。」
「!!」
「……まぁ…!」
「……ん、んん…。それが…『家出』の真相、という事か。」
「…うん。家からシーツを持ってきて、マイに羽織ってもらって。そのまま、とりあえず裏山に向かって……でも、そこから後の事なんて、なんにも考えてなくてさ。」
「ようやく見つけた山小屋に、ふたりで避難したけど…結局、途方に暮れちゃって。…でも、そんな時でも、お兄ちゃん…ずっと私の頭を撫でながら、『大丈夫だからな』『兄ちゃんが、守ってやるから』って……慰めて、くれて…♥」
「え、ええっと、それからだけどね!? 実は、その後に「また別の『魔物』に出会ってしまった…かしら?」
「な、なんと!?」
「母さんっ……!?」
「ママっ!? な、なんで分かるの……!?」
「ふふっ♥ ママもママで、色々と秘密があるのよ…♥」
「ちょちょ、ちょーっと待った!? 裏山ってすぐそこぞ!? えっ、そんな近くに魔物って潜んどったの!?」
「少なくとも、ここにも二人の魔物がいますわ♥」
「いやそれはそうですけれどもそうじゃないよ母さん!?」
「くすっ…♥ 大丈夫です、あなた。魔物は決して、恐ろしい物ではないの。…キーくん、マイちゃん。その時出会った方が、あなた達に「魔物の生態」を教えてくれたのね。」
「う、うん……その、魔物の身であれば、兄妹で結ばれる事も……とか…ただ……」
「…私がなんで魔物になったか、っていう事だけは教えてくれなかったよね。あれ、なんでなんだろう……」
「…そう……私に、気を使ってくれたのね……。マイちゃん。あなたが、魔物になった理由…いいえ、正確には…あなたは元々、魔物だったのよ。」
「……やっぱり、それは…私が、ママの娘だから…っていう意味?」
「ふふ、正解♥ さすがマイちゃんね♪」
「え、えーっと……母さん? じゃあ、もしかして俺もそうなの……?」
「ああ、キーくんは「いや、お前に関しちゃ、元々人間だろう。」
「えっ…父さん?」
「…母さん。やっぱり、17年前かな?」
「……ええ、そうです。キーくん、あのね…魔物には、一つ特徴があるの。魔物からは、魔物の『娘』しか産まれない。だから、『息子』であるキーくんは…私がまだ、人間の時に産まれた子なの。」
「……う、うーん…? そういえば、母さんさっき「この身を魔物に変じた」って言ってた……?」
「ま、んな事はどうでもええわい。お前たち二人は、二人とも母さんがお腹を痛めて産んだ子供。キーニアも、マイも、そこになんの違いもない。違いもないので……」
「えっ?」「ぱ、パパ?」
「ふんっ!」「いでぇっ!?」「ほんっ!」「きゃんっ!?」
「こぉら、この馬鹿息子に馬鹿娘!! そんな切羽詰まった状況だったら、さっさと父さんと母さんに相談せんかっ!!」
「いっ、てぇぇ……! そ、そんな、簡単に出来るかよぉ……」
「簡単だろうが難しかろうがやれぃ!」
「で、でも…そしたら…パパと、ママにめいわくが……」
「子供は親に迷惑を掛けるもんだっ!!ワシが何回キーニアとマイちゃんのおしめを替えてやったと思っとる!!」
「あなたってば、おしめを替えるのが私よりも上手なんだもの……それに……『着ける』のも……♥」「はい母さん今は!今はやめよう!!耳を塞いでくれてありがとう息子と娘!!」
「………父さん……」
「なに、確かにこの国は穏やかでのんびりしとっていい場所だが!世界はなんだかんだ広いもんだ!親魔物国家、なんちゅうのも増えとるらしいしな!……まあ、主神教徒の母さんにゃ、少しつらいかもしれんが…」
「……ふふ。心配いりませんわ、あなた。信仰とは、個々人の心の有り様…突き詰めてしまえば、聖堂も、聖典もなくとも。神はいつでも、私達の傍に寄り添っておられます。」
「…ん、そうか。母さんが言うんなら間違いあるまい!ほれ、なーんの心配もいらんだろう! まぁったく! いつも言っとるだろうが、もう少し後先を考えろと!!」
「………なあ、マイ。 ……ほんと…うちの父さんって、凄いよな。」
「……いつもは、あんななのにね……ふふ。」
「くすっ……さて。ちょっとだけ、補足説明するわね。さっきも言ったけれど、マイちゃんは生まれついてのサキュバス。だけれど、流石にサキュバスの姿ではこの国で生きるのは難しいわ。だから…ママが貴女に、魔法を掛けたの。」
「あっ…じゃ、じゃあ私の姿って、あの時初めてああなった訳じゃなくて…?」
「そう。正確には、ずっと隠していたその角や羽、尻尾みたいな部位が、表に出てきてしまったのね……」
「えっ、えっ…!? で、でも私、自分の体なのに、そんな事全然……?」
「……ふむん…魔法というか、どちらかと言えば呪法…んにゃ、封印術に近いか。」
「…流石、お見通しですね。ええ、幼い時分では自己意識での制御が難しいと判断しました。成長してから、改めて真実を打ち明けて、マイちゃん自身に制御をしてもらうつもりだったんですけれど…」
「まあ、幾らなんでも8歳でこうなるとは思わんわなあ……しかし封印の維持に関してはどうした? マイが無自覚な所を見るに、定期的に掛け直してる風にも思えんけども」
「維持に関しては、この子自身の魔力で継続するように術式を組んでいます。害のあるものではないので、拒絶反応の心配もありませんし」
「マイ自身の? 『外』からではなく『内』から組み上げとるのか? いや、だが女の子のマイでそれは……」
「あ、それは私も驚いたんですけど、マイちゃんって魔力の生成能力がかなり高いんです。男性魔導師とあまり遜色がないぐらいで」
「なんと? …ちなみに、魔力操作の方は?」
「流石にこの子はまだ小さかったから、ちゃんと調べてはいませんが…少なくとも、人並みには。むしろ…いいえ、確証の無い事でした、忘れてください。」
「ふふっ、その辺のシビアさは変わらんなぁマミくんは………あとは……ん〜〜……確か昔かじった話だと、確か魔物の爪やら角やらは常に魔力に覆われ…あぁなるほど。魔力自体の出力を抑える、いやさ節約する方向ね?」
「ええと、どちらかと言えば消費する魔力を別の方向に向けてます。先生のおっしゃる方向ですと、特に角なんかに殺傷力が発生してしまうので、隠蔽系統の術式を割り当ててますね。」
「えっ、殺傷力が発生? 弱体化ないし無力化でなく? ワシ、魔力の使用用途は攻撃能力の強化のためって聞いとったけど? だから出力を絞ってったらそのまま縮小あるいは消失するもんかと…」
「あぁ、やっぱりそこは勘違いされてるんですね……もう、都合の悪いことを嘘に書き換えるからいけないのよ。せめて仮説、あるいは詳細不明と素直に明記するべきなのに…!」
「あーいや、資料が古かったんかもわからんねぇ。ほら、ン百年前の旧魔王時代から変わっとらん論文使っとる所多いから……」
「結局は怠慢じゃないですか! 先生! やっぱりもう一度ペンを取りましょう!? 私達で学会に新たな風を吹き込みましょうよ!!」
「い、いやでもねぇ、ワシその学会から追放されとるしねぇ……」
「…ふふ、それぐらいだったらなんとかなる伝手もありますよ? もちろん…実験や実証に関しては、私のこの体を、いくらでも使ってください…♥」
「マミくん? なんか話の趣旨変わっとらんかなマミくん!?」
「…………………」
「…………………」
「はっ……!?」
「あ、あら…………こほん。…………うふふ♥」
「……………マイ。にいちゃんいまなにかとてもふしぎなものをみたきがする。」
「そうだね。きっとゆめだったんじゃないかなおにいちゃん。」
「え、ええと! どこまで話しとったっけねぇワシら!?」
「そ、そうですね、あなた。確か、マイちゃんへの補足説明の途中だったかしら?」
「……えーっと……ママ? つまり…その、私の……ふーいん?が、解けちゃった…って事なの?」
「そう、ね……平たく言えば、そうかしら。原因は間違いなく、マイちゃんの精神に過剰な負荷が掛かってしまったから…魔物は特に、恋愛関係の衝動に関して魔力が影響を受けやすいし……現状への強い否定が、魔力の過剰生産へと繋がった…? 一種の防衛本能かしら…どちらにせよ、それで術式中の魔力循環許容量を凌駕して…………」
「…………う、うむ。……ああ、マミく……いや………ふぅ……。」
「(うわっ…どうしよう父さんめっちゃ議論したそうな感じだ……!?)」
「(いつもの…いつものママじゃない…というか本当に何を言ってるのかわかんない……!!)」
「………………つまり、恋する乙女は無敵なのよマイちゃん♥」
「なるほどそっか! もー、だったら最初からそう言ってよね、ママ♪」
「いいのかっ!? 本当に結論それでいいのっ!?」
「(……パパ初めて思うわー…ちょーっとマイちゃんのこと甘やかしすぎたかなぁ……)」
「それで、そんな無敵の恋する乙女なマイちゃんに聞きたいんだけど……」
「なぁに、ママ? なんでも聞いていいよー♪」
「父さん、ちょっとマイへの教育方針について相談が。」
「うむ、次の家族会議の議題が決まったな息子よ。」
「…あの、『家出』の時。神官様たちに保護されたマイちゃんは、私達が知っている、『人間』の姿をしたマイちゃんだったわ。さっき貴方達が言っていた、山小屋で遭遇した『魔物』…彼女に、「人化の魔法」を教わったのかしら?」
「あ、うん。しん…じゃなかったっ、魔物のお姉さんが、『人間の姿に戻る方法』を教えてくれたの。」
「…『人間の姿に戻る方法』、ね……」
「俺にはさっぱりわからなかったけど、なんか結構あっさり出来てたよな。アレだけ大騒ぎしてたのに、思った以上にすぐなんとかなったから脱力しちまったよ…」
「そ、そんな事言って!!お兄ちゃんだって、成功した時は泣いて喜んでくてたでしょ、もうっ!!」
「…ん、ん、ん、ん? いや、えーと、マミく、じゃなかった、母さん? えっと、ワシの記憶だと確かあの家出ってせいぜい十数時間しか経っとらんかったよね?」
「え、ええ。この子たちの話だと、夕方から家出を初めて…それで、翌朝には帰ってこれてますから……」
「マジ? マジなの? えっ、しかも今のマイ達の話聞くと本気で数十分程度で習得してないこの子? 「人化の魔法」ってそんなにそうなの?」
「ま、まあ…この魔法に関しては、サキュバスの中では基礎の基礎の基礎クラスですから、直感的に習得出来ても…おかしくは、無いんですけれど……?」
「うわぁー…こわいわー……魔物こわいわー……」
「ごめん、母さん、全然話が見えないんだけど…なにか、不味いの?」
「あ、いいえキーくん、不味い…とかでは無いのよ? ただ、その………マイちゃんが習得してるの、どう考えても「人化の魔法」じゃあないの……」
「えっ?」「えっ?」「ごめんちょーっと待ってくれないかなマミくん、今までワシが長年かけて構築してきた魔力理論がそろそろ崩壊しそうだぞぉー!!」
「先生、先生、気を確かに持ってください…! 大丈夫、これはきっとマイちゃんだけの特異例です、理論自体は間違っていません…!」
「ねぇ? ねぇ私どうなるの!? 私またなにかやっちゃったの!?」
「あ、いいえ、マイちゃん。結果的に見ると何も問題はないのよ? そう、出力結果は完全に理想通りだし、マイちゃん自身には全く少しも全然支障は無い、無いのだけど……」
「あ、そういう意味……あー……そっかぁ〜〜……『完全に理想通り』かぁ〜〜………そうだよなぁ……そうじゃなかったら、帰ってきた時にマミくん気付くよなぁぁ……!! ………………戻っとったんだね?」
「……はい。私が掛けた術式がそっくり、そのまま。マイちゃんの話を聞くに、おそらく魔力が過剰増産された影響で術式自体が完全に消失したはずですけれど…」
「………一応聞くけど、自己修復とか組み込んでた?」
「いえ、迷ったんですけれど…誤発動による過剰修復等の恐れがどうしても無視できなくて……」
「うんまぁそうだよねぇ…ワシも逆の立場だったら、可愛いマイちゃんにそれはできんわ……」
「あーっと、その…父さん? 母さん? できれば俺達にも分かるように説明して欲しいな?」
「?????????????」
「ほら、マイなんかもう完全に頭から煙吹いちゃってるよ?」
「…う、うむ、そうさな。じゃあ、例え話をしよう。いいか、キーニア、マイちゃん。」
「う、うん。」「ふにゃぁ……?」
「ここにキーニアくんがこの間陶磁器品評会に出品した香炉があるとします。」
「ぐっはぁ!?」「おにいひゃんっ!?」
「そこへ突然暴走馬車が現れて、キーニアくんの香炉をバッキバキに完膚なきまでに粉砕してしまいました。」
「ごっふぅ!!」「お兄ちゃーん!?」
「ではキーニアくん。今から30分あげるので、寸分違わぬ全く同じ香炉を作ってください。」
「出来るかァァァァァァァァ!!! 俺あれ作るのに3ヶ月掛かったんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」「お兄ちゃん……!!」
「………………それをマイちゃんは作れちゃったんだわ。」
「うぇっ!?」「えっ……えっ、えぇ?」
「…そういえば、マイちゃん? やっぱり、今は…自在に、魔物の姿と人間の姿を、切り替えられるの?」
「あ、うん…出来るよ?」
「先生。私、あの術式に関しては「隠蔽」と「顕現」の切り替えをそもそも想定していません。」
「しかもマイちゃんの香炉は品評会で入選クラスの仕上がりになっとる。」
「そのっ!!例え話はっ!!いらなかったんじゃぁ!! ないかなぁぁぁっ………!!!」
「お兄ちゃんっ! 泣かないでお兄ちゃんっ! わ、私あの香炉大好きだよっ!?」
「ちくしょうっ…ちくしょぉぉぉっ……次は絶対優勝してやっからなぁ……!!」
「う、うむ、いい感じにキーニアを発憤させられたっちゅー事で……とりあえず、ワシの感じた衝撃は理解して貰えたと思う。」
「傷口にぐっちょんぐっちょんに塩塗り込まれた気分だけどねぇぇぇ……!!」
「…な、なんとなくは、わかったかな……こうやって話してて思い出したんだけど………あの時の魔物のお姉さん、さっきのパパみたいな顔してた気がする……」
「い、言われてみれば……結構、笑顔が引きつってたような……?」
「そっかあ……そこは魔物もおんなじだったかぁ……そらビビるわぁ……文字を教えとったら、突然生徒が戯曲書き出したようなもんよコレ…」
「……お前そんな物凄いことしてたの?」
「ご、ごめんお兄ちゃん全然わかんない…ただ、なんとかなれーっ!って念じただけで…それで上手く行ったから、あんまり深く考えてなくて…」
「…才能ってのはあるんだねぇ、マミくん……」
「こればっかりは、私達もかたなしですね……」
「しかしアレね、こうしてみるとその魔物さんにも親近感湧くわ。なんなら、一度は話してみた「浮気ですか?」違います。違います。聞いてください。違います。」
「……でもあのお姉さん、確かに父さんが鼻の下伸ばしそうなタイプではあったね。」
「キーニアくん? えっそんなに香炉の件引きずってたのキーニアくん!?」
「父さんはあのお姉さんとあったら絶対胸から視線を外さないまま話すよね。」
「……………………。」
「わかったすまん父さんが悪かっただからこの話はやめよう!なんでかわからんが今母さんの入ってはいけないスイッチが入りつつある!!」
「……………………あ な た ?」
「アッハイなんでごさいましょうか若奥様ッ!?」
「…伸ばしてましたねえ。鼻の下。確かに。」
「……………は、はい?」
「今。思い出しました。あの時は、それどころじゃあ無かったけれど…思い返してみれば…確かに……」
「えっ? いや待って? えっちょっとワシわかんないなんで会ったことも無い魔物との浮気を疑われているの? なんかおかしくない?」
「(…あー…これ、やっぱり……母さん、あの人の正体、知ってるな……?)」
「一度ならず…二度までも? 流石に、それは………うふっ♥ ………駄目ですよね。」
「(あっヤバイこれママ完全に駄目なやつだ。)」
「……お、おーっと!!そーだそーだワシ忘れたけどちょっと用事あったよ!!はいっ!では家族会議終了!!お疲れ様で「私を置いてどこへ行くつもりなの?」違います。違います。聞いてください。違います!」
「……父さん。」
「キーニア!そうだフォローを頼むキーニア!!母さんを止めてくれ!!」
「………少しは、俺の心の痛みを思い知れぇぇぇ………!!」
「ウワーッ!? ワシなんか思いっきり越えちゃいけない一線越えちゃってたやーつ!? ま、待てぇいキーニア!! 良いのか!? わ、ワシにだって考えがあるぞ!?」
「はぁ?」
「…お前の部屋の本棚の一番右上端に目立たなーく置いてある「聖地カドコノ見聞録」のケースカバーの中。」
「んなぁっ!!??」
「………ケースカバーの、中?」
「やめろマイっ!? 耳を貸すんじゃあないっ!? というかなんで知ってんだよ父さんっ!?」
「く、クククククッ…この父を欺けるとでも思うたか、馬鹿息子………!! マイちゃーん♪ 今見てきてもいいよー♪」
「……………………」
「………ふ、ふははっ!!俺とマイの絆を甘く見やがったなクソ親父!! 見ろっ!マイは俺を信じてるからこそ確認になん「お に い ち ゃ ん 。」「アッハイなんでごさいましょうか妹様ッ!?」
「……うん。わたし、お兄ちゃんを信じてるよ。わざわざ、見に行ったりなんて、しないよ。」
「そっ……そうかっ! そうだよなっ! 流石はマイ、俺の世界一の妹「だ か ら 」はいぃっ!!なんですか!?」
「……お兄ちゃんの口から、ちゃんと説明してほしいな♥ …………出来るよねお兄ちゃん。」
「………ぬっ……ぬぐっ……ぐ………ぐぉぉぉぉぉぉっ……!!」
「……………………」
「……………………」
「お前さあ、実の妹に手ぇ出しといてその裏でこっそり姉モノのエロ本とか集めてるのって兄貴としてどうなん?」「集めてねぇよまだ3冊しか持ってねぇよクソ親父ィィィィィィィ!!??」
「3冊。ちょっと意図しないと集まらない数だねお兄ちゃん。」「はぁっぐ!?」「うひゃほほほほほほほほ!!ばーかばーか!!」「おまっ、ちょっ、んがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「ほっほっほぉぅ!!若造風情がッ!!ワシを陥れようなんざ100年早「楽しそうですねェ、あなた♥」ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「………ねえ、ママ。」 「あわ、あわ、あわっ……!」
「なぁに、マイちゃん?」 「ひっ、ひっ、ひぃっ……!」
「男の人ってさぁ……みんな、こうなの? …私、お兄ちゃんは違うと思ってたんだけどなぁ……」 「ぬぅっぐ!?」
「そうねぇ。悲しいわね、マイちゃん。私達は、いつでも旦那様だけをみているのにね……」 「ふ、ふぬぅぅぅぅっ……!」
「ねえねえ、ママ。こういう時、ママは、どうしてるの?」
「簡単よぉ、マイちゃん……うふふ♥ お耳、かしてね………こしょ、こしょこしょこしょ……♥」
「…ふぅん…♥ ふん、ふん、へぇー…♥ ……それ、とっても楽しそぉ……♥」
「そうよぉ…とっても、とぉっても楽しいわ…♥ はい、これ…マイちゃんの分♥ …うふ……うふふふふふっ…♥ あなたぁ…♥♥♥」
「わぁ、ありがとうママ♥ 大切にするね♥ …くすっ……くふふふふふっ…♥ お兄ちゃぁん…♥♥♥」
「父さん! 父さん! 魔王とその娘が、鐘を鳴らしながら近づいてくるよ!!」
「息子よ、あれはガラガラだ!! ああ!!魔王たちがワシらを掴んでいく!!」
「「 つ ぅ か ま え た ぁ ♥♥♥」」
「「 あ ひ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ 〜〜〜〜〜〜〜♥♥♥」」
「………………………父さん。」
「………………………なんだ息子よ。」
「…………母さん、その……凄かったね?」
「そうだぞ。凄いんだぞああなった母さん。でもいつもああじゃないからな? アレは本当にヤバイ時だけよ? いつもはマジ最高のお嫁さんなんよ?」
「……うん、まあ……わかるよ……マイもそんな感じだから………」
「…………マイちゃんなぁ。…母娘だったなあ。」
「母娘だったねえ。あれは間違いなく母娘だようん。血筋って凄い。」
「おうともよ。そしてその血をお前も引いとるんだぞ、キーニア。」
「………………そっか。」
「そうだ。」
「…………ねえ。なんでさ、母さんは……人間をやめて、魔物になったのかな……」
「…………………」
「…って、ごめん、父さんも今日知ったんだよね、それ。こんな事聞いても、困るか……」
「…理由、知りたいか?」
「えっ……?」
「母さんも、お前のことを愛しとるからだよ。まったく、この果報者め!」
「え、えっ……? と、父さん……? それ、一体どういう…?」
「言っとくが、ここでいう「愛」は家族愛的な意味だからな!?マミくんが男女的な意味で愛しとるのはワシだけだぞ!?」
「い、今更言われなくてもそれはわかるって!!」
「…まあ、詳しいことは母さんに直接聞きなさい。ちゃんと教えてくれるさ。家族、なんだからな。」
「………うん。そうするよ。」
「それから…ワシからも、話がある。お前と、マイの事だ。というか…それがそもそもの議題だったのに、まぁえらい方向に話が飛んだもんよなぁ…」
「………俺とマイの結論は、変わらないよ。」
「ふん、頑固者め……一体誰に似たんだか。」
「そりゃあ間違いなく父さんでしょ。父子だからなあ。」
「はっは!生意気言いおってからに!! ……魔物だの、なんだの……まあ、ワシにはまだようわからんが。とりあえず……あれだな。」
「…………………?」
「…不届き者が、ワシの可愛い可愛い愛娘をかっ攫っていくんだ。言うべきことがあるだろう。ほれ。」
「……………うん。父さん。マイは……俺が、絶対に幸せにしてみせる。だから……娘さんを、俺にください。」
「却下。」「父さんっ!? あのさぁ!? そうやってハシゴ外していい場面じゃなくないここ!?」
「バカモン、真面目な話だ。言葉が足りんのだお前は。いいか、おい、キーニア。」
「な、なんだよ……」
「お前『も』幸せになれ。」
「っ……!!」
「お前のいかん所は、そこだよ。自分の事を後回しにしすぎるな。「責任」の意味を、履き違えるんじゃあない。」
「…………………」
「…マイはな、優しい子だよ。それでいて、ちょっと我儘だ。あの子は…お前が幸せになってくれないと、あの子自身も幸せにはなれんだろうな。」
「……………っ……」
「……あー、あと…いいか、一回しか言わんからな? …キーニア。お前だってなあ、ワシの可愛い愛息子なんだぞ。それをちょっとは自覚せんか、このバカ息子め!」
「…………と…ぅ、さっ……」
「ん〜〜〜? なにやら涙声が聞こえるな〜〜〜? そーんなヘタレの泣き虫にゃ、かわいいかわいいマイちゃんをやれんわなぁ?」
「…っ、ぐっ…な、泣いてないだろっ!変なこと言うなよっ!!」
「ぶははははっ! まーったく、生意気!! …この間まで、ぴぃぴぃ泣いてた赤ん坊だったのになあ……」
「この間って、十何年前の話をしてるんだよ、このテキトー親父………………あの、さ……父さん……」
「……なんだ、キーニア。」
「…………俺……散々、迷惑掛けたけど…きっと、これからも迷惑、かけるけど、さ………」
「…………………」
「……俺、やっぱり…………父さんと、母さんの息子で……よかっ「はぁぁ〜〜〜〜い♥ トートちゃ〜ん♥♥ ベッドでちゃんといいこいいこできまちたか〜♥♥♥」
「ばうー♥ あー♥ うあー♥ まんま♥ まんまぁ♥」
「………………………………………」
「あぁぁぁぁっ…♥ かわいいっ…♥ トートさん、かわいいっ…♥ うふ、うふふふふぅ…♥ 私がいないと、なんにもできないトートさん…♥ さぁ、オムツきれいきれいしまちょうねぇ♥♥♥」
「うみゃぁぁ♥」
「………………………………………………………………」
「…や、やっぱり、ママすごいや…う、ううん、私だって負けてられない…! え、えーっと…おにい…じゃなくって…き、キーニア、ちゃんっ?♥」
「………………………………………………………………………………」
「キーニアちゃんのだ、だいすきな、妹ママでちゅよ〜♥ …って、自分でだいすきって言っちゃっていいのかな…で、でも問題ないよね、お兄ちゃん私の事好きだもんね…?」
「……………………………………………………………………………………………」
「は、はぁい♥ それじゃあ、妹ママが、抱っこしてあげまちゅからねぇ〜♥」
「……………………………………………………………………………………………………………………」
「ほぉら、おっぱいの中でいいこいいこ〜♥ ちゃーんと甘えっ子できるかな〜?」
「(………あっやばいなこれ結構心地いいぞ?)」
「(………堕ちたか……息子よ………)」
「 ト ー ト さ ん ?」 「ほ、ほぎゃっ!ほんぎゃっ!?」
〜 終われ 〜
「………………」
「………………」
「…あの、あなた……」
「母さんは少し黙っていてくれ。」
「……はい……」
「………お兄ちゃん………」
「………ほら、行こう、マイ。」
「待て。」
「えっ?」
「…マイはお兄ちゃんの隣じゃなく、こっちに来なさい。」
「………………」
「分かるだろう? ほら、早く。」
「っ…父さん、それは「お前が口を挟むんじゃない!!」
「や、やめて!お兄ちゃんを怒らないで!!私、わたしが悪いの、私が……!!」
「………父さんの、言う通りにしよう。」
「…で、でも……おにいちゃん………」
「大丈夫。兄ちゃんは、絶対に、お前を守るから。」
「………………うん……」
「………ふん………母さんも、座って。」
「……………ええ……」
妹 父 母
兄
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「すまんちょっとタイムだ息子よ。母さん?これなにかおかしくない母さん?」
「えっ………?」
「おおっとちょっとそこで本気で困惑されるとはワシ思ってなかったぞぉ。」
「えっと、その、母さん? 父さんが言いたいのはこう、バランス…みたいな……?」
「………? 妻はいつだって、夫の隣に寄り添う物でしょう?」
「うんそうだねその通りだね母さん!でもね時と場合ってやつがあると思うのよワシ!!」
「そ、そんな……病めるときも健やかなる時も、いつでも私の傍にいると、主神様の前で誓ってくださったのに……」
「うん言ったね!言った!でもこう、今は主神様も「しゃーなし!」って言ってくれるんじゃあないかな!?」
「そこは解釈違いです。」
「わかった!この話はやめよう!家族会議が宗教論争になってしまう!!」
「……え、えっと……父さん、俺はその、別にこれでも……」
「お前が良くてもワシが気にするのぉ!!これじゃアレじゃん、息子を三人がかりでボッコボコにしてるみたいになるじゃん!?」
「えぇ〜……?」
「…ごめんなさい…でも、私はどんな時でも、あなたの隣に居たいの……」
「か…母さん………」
「………それに………マイちゃんも随分と美人になったしあなたの気が迷いはしないかって不安で」
「母さん!?それ暗にワシが娘に懸想する変態父だって言ってない母さん!?」
「………………。」
「待ってくれマイちゃん!無言でスッと距離を取るのはやめてくれパパの心がしぬ!!」
「だって、この子も最近は私に似てきたから…つい……」
「前々から思ってたけど母さんって清純派に見えて結構いい性格してるよね。」
「いやこれは「自分が美人だからアピール」ではなく「自分がワシ好みの女性だからアピール」だぞ息子よ。」
「よく分かるね父さん。」
「伊達に長年おしどり夫婦続けとらんからな。」
「あら、あなたったら…♥ …でも、ごめんなさい、あなた……弱い私を、どうか許して……」
「えっ待って母さん今なぜそこを触るの!?待って待って息子と娘が見ているよ母さん!?」
「こうしていれば、いつ浮気してもすぐにわかりますから……」
「しないよ!? しかも相手はあまつさえ実の娘だよ母さん!?」
「いざというときはこの手に力を込めれば……」
「いや無いからね!?絶対ないからねその「いざ」は!?」
「…………っ……!」
「おっとマイちゃん? なんだいそのなにかに気づいた表情は? おおーっとマイちゃん? なぜこの流れでワシの手を自分の太ももに持っていくんだいマイちゃん? あっごめんやっぱ言わなくて良い多分聞いたらパパ再起不能になっちゃうわコレ」
「…………!!」
「ほら!ほらとうとうキーニアまで殺意の籠もった視線でワシを見始めたよ!? 気づいて!どうか皆気づいて!今この四人の中でワシが一番泣いている!! ちょっと皆一度冷静になろう!な!? ワシの外見も相まって「妻と娘を侍らせる寝取りデブ竿役親父」みたいな絵面になっちゃってるから!!」
「えっそれだと要素が一個足りな「ハゲちゃうわぁぁ!!まぁぁぁだハゲちゃうわぁぁぁぁぁ!!?」
「パパ…それはもう諦めなよ……」
「大丈夫よあなた、あなたはいつだって輝いているわ……! ほら、お鼻ちーんってして?」
「ちーん……っ」
「うん、良し、良いな?これで良いな?良いよね?皆納得した?」
父母
兄 妹
「……いや、うん、俺は別に良いけど……」
「うふふ、やっぱり夫婦はこうでないと…ねぇ、あなた♥」
「母さん頼むから今は今だけは勘弁して母さんマイちゃんの視線がそろそろ絶対零度を限界突破しそうなの。」
「(……パパとママばっかりずるい…パパとママばっかりずるい……!!)」
「(どうしよう、段々父さんが可哀想になってきた。)」
「あー、あー………こほん。いいか、これからワシ真面目に行くからね?わかってくれるねミゲル一家一同?」
「「アッハイ。」」「(頑張って、あなた…!)」
「えー………よし、うん、よし……………キーニア。」
「………………うん。」
「……なんで、こんな事をした。」
「…………マイの事が、好きだからに…決まってるだろ。」
「性欲の捌け口にする事を好きとは言わん。」
「っ…!」
「お兄ちゃんがそんな人な訳ないでしょ!? 何言ってるのパパ!! 訂正して!!」
「マイ。ワシは今キーニアと話しとるんだ。」
「やだ!! こんなの、こんなの黙ってられるわけない!! それに、それに、そもそもはっ……!!」
「おい馬鹿、やめろマイ!!」
「わた、私の方から誘ったの!!…こ、告白だって私の方からだった!!お兄ちゃんはっ…おに、お兄ちゃん、はぁ……! …わたし…私の、わがまま……聞いてくれた、だけ、だもん………」
「…それは、言うなって…約束、しただろ……ばかやろ……」
「だって、だってぇ…わたし、言わなかったら…お兄ちゃん、絶対、むりやり私のこと襲った、って言うもん……そうやって、そうやってぇ…ひぐっ……自分だけ、わるものになって……マイのこと、おいてっちゃう……」
「………………」
「…………マイ、ちゃん……」
「…………マイ。」
「…ひっく……なによぉ……」
「お前の言う事は、何一つ、キーニアの弁護にならん。」
「なっ……!?」
「キーニア。お前さっき、マイの事を守る、とか言っとったな。」
「…ああ、言ったよ。」
「何も守れとらんだろうが。」
「それは、まだ、わから「本当に守りたかったらなんで告白された時に諭してやらんかったんだこの馬鹿息子がぁ!!」
「ひっ……!?」
「………あ……」
「あなた、少し落ち着いて。…マイちゃん、すっかり怯えちゃってるから……」
「………ああ。……いきなり大声出してすまんかったな……」
「……しらない……ぐしゅっ……もう、パパなんかきらい………だいっきらい……」
「……そうか。…でも、パパはマイの事を好きでいるよ。ごめんな。」
「…うるさい……もう、パパの下着いっしょに洗ってあげないから……」
「うん。寂しいけど、それも、仕方ないよな。…………キーニア。」
「…………うん。」
「お前が、マイを守りたいなら。そして、マイを…家族として……女としても、愛しているなら。お前は、絶対に、断らなきゃいけなかった。違うか?」
「…………きるわ……いだろ………」
「ん?」
「……出来るわけ無いだろうがっ!!そんな事!!考えても見ろよ!マイだって馬鹿じゃない!! そんな、そんな軽い気持ちで実の兄貴に想いを告げたと思ってるのかよクソ親父!!!」
「………………」
「……ぉ…にい、ちゃ……」
「…俺、あんなに震えて、怯えてるマイを初めて見たんだよ………いつだって、元気で笑ってるマイが……放っといたら、そのまま消えちまいそうで……だから……!!」
「つまりは同情か。」
「違うっ!! …そりゃあ、ちょっとはそういう気持ちがあったのも否定しないけど……でも…!! …その時、俺だって初めて気づいたんだよ……この、俺の……世界一可愛い、俺の妹への…本当に、気持ちに……」
「………ばか…お兄ちゃんの、ばかぁ……! い、いつも、かわいい、なんて言ってくれないのに…なんで、こんな時だけ……」
「…今言わないと、絶対後悔すると思ったからだよ。」
「…なに、言ってるのよ…そんな…そんなの、後でいくらでも言ってよ…そんな…最後みたいに、言わないでよぉ………」
「………はぁぁ……この、馬鹿もんが……お前はいつもそうだ、後先ってもんを全く考えとらん………息子と娘が、揃って地獄に堕ちていく様を見せられる親の気持ち…お前、本当にわかっとるのか……!」
「待てよ…なんだよ、地獄って……そんなの、まだわかんないだろ……!!」
「わかるに決まっとろうが……! 実の兄妹が結ばれるなんぞ…一体、どこの誰が祝福する……?」
「そりゃあ人間同士ならそうだろうさ!!でも魔物に関しちゃあそうじゃないんだよ!!」
「なんでそこで魔物の話が出てくるんだ! 今はお前たちの話をしてるんだぞ!?」
「えっ」
「えっ」
「あら、あら…」
「……………えっ?」
「……えっ…いや、え……父さん?あれ?」
「……えっまってまってなにこの空気。え、ごめんわかんないワシちょっとわかんない。なんで急に皆引いてるの。いや、そりゃワシ結構不真面目なパパだったかもしれんけど今はガッチガチに大真面目だったよ? だったよね? あ待って待ってなんか凄く怖くなってきたよ? なんでそんな珍獣を見るような目をワシに向けるの我が子たち?」
「い、いやだってそりゃ……その、父さん?」
「う、うむ。」
「ちょっとマイの方見てもらってもいい?」
「うむ。」
「……今、あなたの娘の頭部を見てなにか違和感はありますか。」
「角が生えとるな。」
「うんそうだねそうだよね。では背中は。」
「翼が生えとるな。」
「それではこれはなんでしょうか。」
「尻尾だな。マイの腰辺りから生えとる。」
「そうだね。ちゃんと全部見えてるんだね父さん。」
「馬鹿にしとるのかこやつめ。これでも視力にゃあ自信があるんだぞ父さんは。」
「アッハイ。」
「全く、年寄り扱いしおってからに………ふー……」
「………………」
「………………」
「………………」
「………それで話を戻すが、なぜここで魔物の話題が「いや今思いっきり答え合わせしたよね!?」
「……………?」
「なんでここで更にそんなに純粋無垢な(きょとん?)顔が出来るのさ父さん!?」
「パ、パパ!えっと、今の私は何に見えますか!?」
「………………サキュバスコスプレしてるマイちゃん……」「あーーーー!そっちね!!そういう解釈ね!?」
「うん、あとパパ的に可愛い娘がエロ衣装着てるってのが割りとじわじわダメージ入ってるからちょーっと見てるの辛いかなーって」
「え、えぇ…? これ結構、おとなしめな方なんだけどなあ……」
「助けて母さんマイちゃんがすっげぇ怖いこと言ってるパパもう意味を理解したくない!」
「よしよし、大丈夫ですよあなた、よしよーし…♥」
「…い、いやとりあえず聞いてくれ父さん!辛いかも知れないけど現実を直視しよう! 冷静に考えてくれ、主神教の力が強いこの国でこんな背徳的な衣装が手に入ると思う!? というかそもそも需要が無いでしょ!?」
「そ、そうだよパパ! それにほらっ! これ見て! 羽こんなにパタパタ動かせるよ!? それに尻尾も自在に!!」
「あぁやっぱりそれ母さんの特製衣装じゃないか…まあワシらの寝室使っとったからそりゃ見つかるかぁ……」
「めっちゃ身近な所に需要有りやがった!? おいそれでも主神教徒かアンタ!!」
「いや、ワシには「最強勇者ワシ 〜超性剣エクスカリバーの前では淫魔女王も完全♥敗北〜」プレイは主神様的にも推奨だという確信が」
「色んな意味で駄目に決まってんだろうがこのスケベ親父がぁ!?」
「(あ、あぁー…寝室の箪笥の奥にあった、あのハリボテの鎧兜ってそういう事かぁ……)」
「…えっ…い、いや、ちょっと待てよ……? 父さん、今この動く羽とかを「母さんの衣装」って言ったよな……!?」
「あっ……! …と、という事は……や、やっぱり、そうなの……?」
「………………ふぅ。流石に、もう誤魔化せないわね。…………えい♥」
「うわっ!?」「きゃぁっ!?…ま、ママ…その、角と翼……わ、私とおんなじっ……!?」
「か、母さん!? 母さん!? なんでここで自慢の早着替えを披露するんだい母さん!?」
「あんたこれをずっとただの早着替えと認識してたの!?」
「うふ、可愛い人でしょう♥ …なんて、今は言ってる場合じゃ無いわね……あなた。」
「お、おう?」
「今、改めて告白します。私は……トート・ミゲルの妻、マミ・ミゲルは。既にこの身を…魔物、サキュバスへと変じております。今まで、黙っていて……ごめんなさい、あなた。」
「 」
「(父さん…言葉も出ないぐらい驚いてる、って事は………ガチで気づいてなかったんだ……?)」
「(あのハリボテ鎧、相当年季入ってた気がするんだけど………一体何年気づかなかったのパパ……?)」
「けれど、これだけは信じてほしいの。あなたへの愛は、あの日主神様へ誓いを立てた時から…いいえ、それよりもずっと前から…今に、至るまで。一点の曇りも、ありません。…何があろうとも、私が操を捧げる相手は、あなただけです……トートさん。」
「…………これだけ長年連れ添ったんだ、今更お前の愛を疑ったりなどしない。しない、が……あれほど敬虔な主神教徒だったマミくんが、まさか……」
「あら…私は今でも、主神様を信仰していますよ?」
「えっでも主神教じゃあれだけ盛んに魔物を排斥しようとしとるよ?」
「そこは解釈違いです。」
「アッハイわかりましたワシの負けです。」
「弱っ!?」「まぁでも、ここで迂闊に反論するとママ本気で百倍返ししてくるもんね…理路整然と…」
「う、うむ、母さんの主神教への信仰度合いは昔っから凄かったからなぁ、知識量が半端無いのよ…だからこそ、その部分だけよう信じられん…もしかして、だから神学校ではなく魔術学院に入っとったのか?」
「あ、いえ、そこは…そういう訳では、無いんですけれど……」
「えっ待って待ってママって魔術学院になんて通ってたの!? うそっ、全然知らなかった!?」
「通ってた、どころか超優秀な生徒だったんだぞ母さんは。長い学院の歴史にも……まあ、十本の指には入るほどの。」
「微妙にランクが低い辺り、いつもの惚気じゃあなく本当っぽさを感じるね…いや、十分凄いけどさ…」
「も、もう! 昔の話はいいじゃないですか、あなた!!」
「いやな、そんな来歴があるもんだからワシも「そりゃ母さんなら羽や尻尾が自在に動くマジックアイテムぐらい作れるだろう」って思っててね?」
「ああそこでそう繋がるんだ……」
「でも絶対限度ってあると思うよパパ?」
「いやあ、少なくともワシが見た中じゃあ母さん以上に優秀な生徒はそうはいなかったよ? お陰で母さんのときは本当に採点が楽だった。」
「や、やですわあなた、そんな子どもたちの前で、恥ずかしい……」
「へー……」「ふーん………」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……………………採点?」
「あっ。」「あら。」「えっ…………あっ。」
「……………………ええと。……………発言の許可を求めます。」
「おうなんだ言ってみろやこの淫行教師。」
「卒業までは!!卒業までは我慢した!!それで勘弁してはもらえんか息子よ!?」
「あとねキーくん、ママは声を大にして言いたいんだけれどキスまでは淫行じゃないわ。」「母さん!?母さん!?」
「じゃあディープキスはどっち判定になりますかママ!!」「マイ!?マイ!?」
「あれはもうセックスよマイちゃん。」「真顔で一体何を言い切ってるの母さん!?」
「うんそうだよね触れるだけのキスとは別カウントだよね!?つまり私のはじめての相手はパパじゃなくてお兄ちゃんで良いんだよね!?」
「ぐああああああああああああああ!!!!」「マイ!やめるんだマイ!!父さんがありとあらゆる感情でもうぐちゃぐちゃになってる!!」
「あっ…そうねごめんなさいあなた、これだとやっぱりあなたが淫行教師って事に「やめろォ!ワシを殺したいのか!?」
「というかやっぱ我慢しきれてねぇだろうがスケベ親父がっ!?」
「いや本当に体に手は出しとらんからっ!?マジで父さんめっちゃ頑張ったんだからな!?わかれ!わかってくれ!!」
「…でも、卒業式が終わった途端…トート先生…トートさんってば、私を強引に空き教室へ引き込ん「わあああああああああ!!わあああああああああ!?」
「いや待てよそれはいくらなんでも駄目だろ許されるのそれ!?」
「…………………まあ、許されんかったなぁ…」
「あっ……そ、そうか、少なくとも俺が物心付く頃にはもう教師じゃなかったのか…」
「…キーくん、あまりパパを責めないであげて。それにね……それがあったからこそ、貴方が今ここに居るのよ…」
「……母さん……………ん、あれ、そういえば俺の誕生日って…………あ……ああぁぁ〜〜………?」
「おいやめろ考えるんじゃあない息子よ! 気付くな!! 気付いてはいかん!!」
「……………えっ、パパまさかの一発必中…?」「うふふ…この人は昔から、やるときはやる男なの…♥」
「…うわ……うわぁ…なんだろうこの感情……少なくとも知りたくなかったぁ………せめてもうちょっと我慢しろよ……」
「いやうん、ワシもね、流石にやばいなーとは思ったが、思っても……あれはなぁ……」「あれってどれだよぉ……」
「………う、うーん………えーと………うん。……お兄ちゃん?」
「…うん?」
「………教師と、生徒って…そんなに、駄目、なんですか……? ………ぐすっ……キーニア、先生っ…!」
「………………」
「………………」
「……………………父さん。」
「なんだ、息子よ。」
「これどうやって我慢したの。」
「とにもかくにも根性だ。いやマジであの頃のワシもっと褒められてもいいと思うの誰にも言えんかったけど。」
「(……先生……キーニア先生、かぁ……うん、今度ヤろう、絶対ヤろう…♥)」
「(あの頃の制服、確かまだ仕舞ってあったわね……胸周りとか、今もまだ入るかしら……♥)」
「…と、とりあえずだ、息子の理解も得られた所で……」
「ちくしょう…理解したくなかったのに心でわからせられた…ちくしょう……」
「あ、お兄ちゃん鼻血鼻血。ほら、お鼻ちーんってして?」
「ちーん……っ」
「ぶっちゃけるがそっち方面だとワシも君らに言いたいことあるからね?」
「うっ。」「ぎくっ。」
「………なんでまたわざわざワシらの寝室使った?」
「………………」
「………………」
「仮想新婚らぶらぶ夫婦状態からしか接種できない栄養素があるからです。そこに現役夫婦の寝室という舞台が揃うことで倍率ドンですわあなた。」「母さん!?また真っ直ぐな視線で言い切ってくれたね母さん!?」
「………………」「………………」「ねぇ本格的に我が子達が目を合わせてくれなくなったんだけどこれやっぱり図星と判断していいのかなあ!?」「あらあら、うふふ…♥」
「…うん、まあ…それはワシとしてもわからん部分がないでもないから、一応理解は出来るんだが…」「俺が言うのもなんだけど理解出来ちゃうんだね父さん…!?」
「それよりも一番言いたいのは、別の…………いや、まあさあ…性癖ってのは、誰かに迷惑さえ掛けなければ否定されちゃあいかんもんだとは思うけどさあ……」
〜〜〜 回想 in その時パパとママが見た物は!? 〜〜〜
『くそっ! くそっ! くそぉっ! お前が! お前がそんなに可愛いから! 俺はっ! 俺はぁっ!』
『あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あっ♥あぁーっ♥ おにっ♥ おにぃひゃっ♥ もっと♥ もっと言ってぇ♥ 『ボク』のこと可愛いってぇ♥』
『俺がっ!俺がどれだけっ…このっ、このやろっ♥ 悪い『弟』は兄ちゃんがしつけてやるからなぁっ!!』
『んひぃぃぃぃぃっ♥ ごめっ、ごめんなしゃぁぃ♥ ボク『男』なのにぃっ♥ おにいちゃんのことすきになっちゃったのぉっ♥ でっ、でもぉ♥ もう、もうボク『女の子』だからぁ♥ だか、だからっ♥ ゆるひいぃぃっ♥♥』
『ちくしょうっ!なんで女になっても魅力が変わらないんだよっ!マイっ! マイっ! マイっ♥ マイぃっ♥ 俺だけの『妹』ぉっ!!』
『あはぁぁぁぁぁっ♥ おにいちゃんっ♥ おにいちゃぁぁんっ♥ すきっ♥ しゅきぃぃっ♥♥♥』
「実の妹相手によりにもよって『弟が性転換して妹に』プレイなんてする事ある????」
「……それは……その……はい……」
「(…どうしよう……好奇心でヤッてみただけなのに、背徳感でいつもよりも燃えちゃったとか言えない……!)」
「(……凄い…なんて発想なの……貴女はもう、ママを越えたのね……流石よ、マイちゃん……♥)」
「いや…いやもうさ…『あれこれめっちゃ根の深い案件じゃないの?パパはマイちゃんの苦しみに気づけなかったやつなの?』って……正直息子と娘がズッコンバッコンしてる事実よりもきっつくて……」
「それはもう誠に申し訳ございませんでしたっ!!!」
「だ、大丈夫だよパパ!そんなこう、繊細な話じゃないからっ!? ごめんね本当に好奇心だけです!!」
「それなら…それなら良いんだけどね…? にしたってなんでそんな連れ添って十年目ぐらいでちょっと夜に刺激が欲しい夫婦みたいな極まった方向に走っちゃったの……」
「えっでも私達まだ八年目「あっバカっ」あっ!?」
「 」
「あらぁ……♥」
「…………………」
「…………………」
「………………はち?」
「…………あー…」
「…………………てへぺろっ♥」
「オゥこらこのクソガキゴルァァァァァァァァ!?」
「ぴぃぃぃぃっ!?」
「はいっ!!なんですか父上はいすいませんっ!!」
「おみゃぁぁぁぁ!!!? いまっまぁぁぁぁ!???? なんさいこらゴラァァァ!!!!? グルァァァァァァ!!!!!!?」
「サー!! 今年で18になります、サー!!!」
「じゅうはああああああぁっ!! ひくっ!! はっ!! いくづぅぅぁぁああああああああ!!!??」
「サー!! 10であります!!サー!! お許しくださいサー!!!!」
「それでえーと、マイちゃんはキーくんの2つ下だから…ふふ、最近の女の子はマせてるわね…♥」
「はっちぃーーん!? は、はーっ、ハアアーッ!! ハァーッ!!??」
「サー!! 意識をしっかり!! サー!!」
「パパぁっ!! お願いだからいつものパパに戻ってぇ!? う、うわっ、なんか火っ!? 火が出てるなにこれっ!?」
「…う、うぅん、流石にこれは収拾が付かないかしら……あなた、ねえ、あなた?」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ぎゃぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
「「きゃぁぁぁぁぁぁっっ!!??」」
「あなた? 気持ちは、まあ、わかりますけれど、まずはキーくん達のお話を聞きましょう?」
「ぎゅびぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!! ぐげりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「「ひゃぁぁぁぁぁぁっっ!!??」」
「あなた……もう。可愛い妻を放っておくなんて、悪いひとね……」
「ぎょぼむぎょへぇぇぇぇぇぇ!! ぶびょぎょぎゅりょぉぉぉぉぉ!!」
「「ウワーッ!! ウワッ、ウワワーーーーッ!!??」」
「………………今夜は『オムツ』つかいましょうか♥」
「そうだねワシら理性的な話し合いの心を忘れてはいけないよね母さんだからそれはやめよう。」
「うふふ、それでこそあなたらしいですわ、トートさん♥」
「待ってくれ!!ちょっと待ってくれないか!? 少し事態を理解する時間が欲しい!!」
「ぐ、ぐしゅっ…いつもの…いつものパパじゃなかったぁ…おにいちゃん、こわいよぉ………」
「だ、大丈夫だからな、マイは兄ちゃんが守ってやるからなぁっ……!!」
「…あー、うん、その、頭は冷えたから…それどころか背筋が凍ったから安心していいぞ、我が子達……」
「今の!? 今の一言でっ!? 父さん一体どういう意味なのアレ!?」
「………本当に、知りたいか………?」
「ごめんなさいすみません俺が悪かったです言わないでください!!」
「………ま、ママ……くすん………赤ちゃんプレイって、どうなの……?」
「良いのかなぁマイ!? 震え怯えながらも精一杯絞り出した言葉がそれで良いのかなぁ!?」
「うふふ…あれは良いものよ…♥ かっこいい旦那様が、私の前でだけ全てを忘れて甘えてくれるの……♥」
「母さん!!やめるんだ母さん!!犠牲者はワシ一人で十分だよ!?」
「えっでもパパかっこよくないよ?」
「そこは愛さえあればなんとでもなるのよマイちゃん♥」
「があああああああああああ! がああああああああああああ!!」
「父さん!父さんしっかりして!!大丈夫父さんはかっこいいよ!!」
「う、ぐぅ……ふ、ふふ…お前に、こうも助けられるとは…いつの間にか、大きくなりおって……」
「………父さん……」
「…………いやもう…マジで父さんよりさっさと大人になりすぎじゃん…なんだよ10歳とか8歳とか…ワシその頃って記憶すらないよ……?」
「父さんっ……!?」
「…うーん…キーくんが10歳で、マイちゃんが8歳の頃、っていうと……もしかして、あの『迷子』の時かしら?」
「っ……」
「…え、えっとー……」
「ん……? あ、ああ。キーニアとマイが一緒に裏山まで遊びに行って、そのまま迷子になった…あの時は、心底肝が冷えたなあ…。翌朝、神官様たちがお前達を見つけてきてくれた時はそれはそれは主神様へ感謝したもんだ。」
「……そうね、神官様ご夫婦が………神官様、か……」
「…………か、母さん…?」
「…あ、あははー…ママ、そんなに私の顔、じっと見て…え、えっと、なにか付いてるかな……?」
「マイちゃんが『目覚めた』のは、その時なのね?」
「っ!?」
「マ、ママっ!? どうしてそれを…あっ、いやっ、ええとっ……!!」
「………え? なに? なんの話しとるの君ら? えっ?」
「……母さん。正確には、『その時』じゃなくて『その直前』……かな?」
「お、お兄ちゃんっ……」
「いいんだ、マイ。正直に、話そう。…俺達だって、よく分かってない事が多いんだ。知りたいことだって、ある。………父さん。」
「う、うむ。」
「……ごめん。あれ、ただの『迷子』じゃない。……『家出』、だったんだ。俺と、マイの。」
「なぬっ………!?」
「あっ、お、お兄ちゃんを怒らないで! げ、原因は…やっぱり、私にあるの……だから……!!」
「マイ、お前…」
「いいの!ここは…ここは、私から説明させて。…えっと…うん、一番最初から説明した方が、いいよね……パパ。あの頃の…お兄ちゃんの事、覚えてる?」
「え、ええと、10歳のキーニア、というと…そうだな、確か町内工作大会の子供部門で優勝した頃だったか。」
「と、父さん!? なんでそんなピンポイントに覚えてるの父さん!?」
「それは覚えてますよね、あなた? あの時貰った表彰楯、キーくんは恥ずかしがってすぐにしまい込んじゃったけど…この人ったら、こっそり回収して今でも時々眺めて…」
「父さん待ってなんて事してるの父さん!?」
「……キーニア。」
「な、なに!?」
「……安心せい。子供の頃だけでなく、ついこの間の陶磁器品評会で貰った賞状もしっかりワシが保存してある。」
「待って待って待って俺あれ確かに捨てたつもりだったんだけどなあ!?」
「もう、キーくん?幾らなんでも賞状をゴミ箱にぽい、は良くないわよ? ちゃんとママが回収しておきました。」
「何してくれてんの母さんっ!? やだよ俺あの結果にめちゃくちゃ苦しんだんだよ!?」
「まあ初出品だし、参加賞でも仕方なかろ。」
「俺さぁ!! あれ本っ気で魂込めてたんだよ!? なのにさぁ!! 俺より4つも5つも年下の子でも入賞してるのにさあ…!!」
「おうおう、苦悩おおいに結構。その子らだって最初から天才とは限らんわい。それに、お前も凡才とは限らん。ま、これからも頑張れ。」
「う、うぅっ…ああ、もう、今はそんな話じゃなかったろ!? ほ、ほら、マイ!?」
「あ、う、うん。えっと…こほん。改めて………パパ。あの頃の、お兄ちゃんって凄く…………すっごく………モテなかったよね。」「マイさん!? あれっ!? マイさん!?」
「まあ、親近感は凄かったね。流石はワシの息子というか。そこは似んでも良かったけどなあ…」「えぇー!? 今そういう話でしたっけ!?」
「この辺の子は、ちっちゃくてもみんなませてたから特にねぇ……キーくん、顔も悪くないし、手先も器用だし、運動もそこそこできるのに…本当に女の子と縁、なかったものね…?」
「やめて心底不思議そうな顔やめて!!俺だって「なんで?」って言いたいよ!?」
「…お兄ちゃん、同年代の友達がみんな彼女ができちゃって…ひとりで寂しそうに壁に向かってボール蹴りしてる姿…今でも私、忘れられない……」
「そこはお願いだから忘れてくれないかなあ!? でもその時抱きしめて慰めてくれたのはありがとうなマイ!!」
「あ、お兄ちゃん、覚えててくれたんだ…♥ …ん、んんっ…それで…それで、ね。その時、わたし……偶然、聞いちゃったの。お兄ちゃんが……夕日に、向かって………」
『ちくしょぉぉぉぉぉぉぉーーーーー!! 俺だって、絶対、彼女ひゃくにん作ってやらァーーーーーーーーーーー!!!』
「……って…泣きながら、叫んでいるのを……!」「よりによってお前に聞かれてたのかよちくしょぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!」
「………百人かぁ……」
「………なんでかしらねぇ……?」
「やめてください!!心底困惑した顔で見るのはやめてください!!子供の言うことだ真に受ける事はないだろう!?」
「…それを聞いて、私、こう思ったの。百人は絶対無理だけど」「絶対!?無理!?」「キーニア、少し静かにしなさい。」「ぬっくぅ……!!」
「お兄ちゃん、だったら……誰よりもかっこいい、私のお兄ちゃんだったら……きっと、そのうちに……一人は、彼女さんが出来ちゃうんだろうなって。そして、それは………『妹』の私じゃ、絶対に、ないんだ、って。」
「…………………」
「…………………」
「………マイ……」
「…産まれたときから、ずっと、ずぅーっと一緒だったんだよ? 私、ずっとお兄ちゃんの背中を見てた。かっこいいところも、かっこわるいところも、きゅんってするところも、いらってするところも。全部、ぜーんぶ。…世界で一番、キーニアお兄ちゃんの事を知ってるのは…世界で一番、キーニアお兄ちゃんが、大好きなのは…私なのに。…私が一番、好きなのに。私じゃ、ぜったい…お兄ちゃんの一番に、なれないの。」
「…………マイ。」
「……ん……えへへ、心配してくれるんだ…♥ ううん、大丈夫だよ、お兄ちゃん…これは全部、昔の話。あ、でも、お兄ちゃんの一番、っていうのは今も変わらないよ? …話、戻すね。その時の私は…それが、その事が、とっても…とっても、とっても苦しかった。苦しくて、つらくて…いっぱい、いっぱい泣いちゃって…そうして、気がついたら………」
「……『魔物』の姿に、なっていたのね?」
「………うん。」
「…その時に、マイが魔物になったと…?」
「ごめん、その辺りは俺にも…よく分からないんだ。マイ自身も、よく分かってなかったと思う。…あの時のマイは、本気で混乱してたから。」
「私…主神様の、天罰が下ったと思ったの。『妹』なのに、『兄』を愛してしまった…それが、主神様の怒りに触れて。この身を、魔物に変えられちゃった、って………。凄く、怖かった。少なくとも、誰かを「食べたい」なんて風には、思わなかったけど…魔物だって事が誰かにバレたら、大変な事になる。パパも、ママも…お兄ちゃん、だって…きっと、巻き込まれて…でも、その時、私、本当にどうしていいかわからなくて……」
「…マイが泣きながら俺の所に飛んできたのは、その時だな。こいつ、文字通り「飛んで」来たんだ。父さんみたいに、「できの良い仮装」とか思う暇も無かったよ。」
「…告白っちゅうのは、その時の事か。」
「ああ。」
「さっきも言ったけど、魔物になった原因はそれだと考えてたし……それに…うん。…これで、「最後」だと思ったから。全部、全部お兄ちゃんに話したの。私の気持ちを、全部。…魔物の私はもう、ここには居れないから、これでお別れしなきゃいけないから。…そしたら、お兄ちゃんは……」
「…マイに、言ったんだ。『じゃあ、俺と一緒に逃げよう!』って。」
「!!」
「……まぁ…!」
「……ん、んん…。それが…『家出』の真相、という事か。」
「…うん。家からシーツを持ってきて、マイに羽織ってもらって。そのまま、とりあえず裏山に向かって……でも、そこから後の事なんて、なんにも考えてなくてさ。」
「ようやく見つけた山小屋に、ふたりで避難したけど…結局、途方に暮れちゃって。…でも、そんな時でも、お兄ちゃん…ずっと私の頭を撫でながら、『大丈夫だからな』『兄ちゃんが、守ってやるから』って……慰めて、くれて…♥」
「え、ええっと、それからだけどね!? 実は、その後に「また別の『魔物』に出会ってしまった…かしら?」
「な、なんと!?」
「母さんっ……!?」
「ママっ!? な、なんで分かるの……!?」
「ふふっ♥ ママもママで、色々と秘密があるのよ…♥」
「ちょちょ、ちょーっと待った!? 裏山ってすぐそこぞ!? えっ、そんな近くに魔物って潜んどったの!?」
「少なくとも、ここにも二人の魔物がいますわ♥」
「いやそれはそうですけれどもそうじゃないよ母さん!?」
「くすっ…♥ 大丈夫です、あなた。魔物は決して、恐ろしい物ではないの。…キーくん、マイちゃん。その時出会った方が、あなた達に「魔物の生態」を教えてくれたのね。」
「う、うん……その、魔物の身であれば、兄妹で結ばれる事も……とか…ただ……」
「…私がなんで魔物になったか、っていう事だけは教えてくれなかったよね。あれ、なんでなんだろう……」
「…そう……私に、気を使ってくれたのね……。マイちゃん。あなたが、魔物になった理由…いいえ、正確には…あなたは元々、魔物だったのよ。」
「……やっぱり、それは…私が、ママの娘だから…っていう意味?」
「ふふ、正解♥ さすがマイちゃんね♪」
「え、えーっと……母さん? じゃあ、もしかして俺もそうなの……?」
「ああ、キーくんは「いや、お前に関しちゃ、元々人間だろう。」
「えっ…父さん?」
「…母さん。やっぱり、17年前かな?」
「……ええ、そうです。キーくん、あのね…魔物には、一つ特徴があるの。魔物からは、魔物の『娘』しか産まれない。だから、『息子』であるキーくんは…私がまだ、人間の時に産まれた子なの。」
「……う、うーん…? そういえば、母さんさっき「この身を魔物に変じた」って言ってた……?」
「ま、んな事はどうでもええわい。お前たち二人は、二人とも母さんがお腹を痛めて産んだ子供。キーニアも、マイも、そこになんの違いもない。違いもないので……」
「えっ?」「ぱ、パパ?」
「ふんっ!」「いでぇっ!?」「ほんっ!」「きゃんっ!?」
「こぉら、この馬鹿息子に馬鹿娘!! そんな切羽詰まった状況だったら、さっさと父さんと母さんに相談せんかっ!!」
「いっ、てぇぇ……! そ、そんな、簡単に出来るかよぉ……」
「簡単だろうが難しかろうがやれぃ!」
「で、でも…そしたら…パパと、ママにめいわくが……」
「子供は親に迷惑を掛けるもんだっ!!ワシが何回キーニアとマイちゃんのおしめを替えてやったと思っとる!!」
「あなたってば、おしめを替えるのが私よりも上手なんだもの……それに……『着ける』のも……♥」「はい母さん今は!今はやめよう!!耳を塞いでくれてありがとう息子と娘!!」
「………父さん……」
「なに、確かにこの国は穏やかでのんびりしとっていい場所だが!世界はなんだかんだ広いもんだ!親魔物国家、なんちゅうのも増えとるらしいしな!……まあ、主神教徒の母さんにゃ、少しつらいかもしれんが…」
「……ふふ。心配いりませんわ、あなた。信仰とは、個々人の心の有り様…突き詰めてしまえば、聖堂も、聖典もなくとも。神はいつでも、私達の傍に寄り添っておられます。」
「…ん、そうか。母さんが言うんなら間違いあるまい!ほれ、なーんの心配もいらんだろう! まぁったく! いつも言っとるだろうが、もう少し後先を考えろと!!」
「………なあ、マイ。 ……ほんと…うちの父さんって、凄いよな。」
「……いつもは、あんななのにね……ふふ。」
「くすっ……さて。ちょっとだけ、補足説明するわね。さっきも言ったけれど、マイちゃんは生まれついてのサキュバス。だけれど、流石にサキュバスの姿ではこの国で生きるのは難しいわ。だから…ママが貴女に、魔法を掛けたの。」
「あっ…じゃ、じゃあ私の姿って、あの時初めてああなった訳じゃなくて…?」
「そう。正確には、ずっと隠していたその角や羽、尻尾みたいな部位が、表に出てきてしまったのね……」
「えっ、えっ…!? で、でも私、自分の体なのに、そんな事全然……?」
「……ふむん…魔法というか、どちらかと言えば呪法…んにゃ、封印術に近いか。」
「…流石、お見通しですね。ええ、幼い時分では自己意識での制御が難しいと判断しました。成長してから、改めて真実を打ち明けて、マイちゃん自身に制御をしてもらうつもりだったんですけれど…」
「まあ、幾らなんでも8歳でこうなるとは思わんわなあ……しかし封印の維持に関してはどうした? マイが無自覚な所を見るに、定期的に掛け直してる風にも思えんけども」
「維持に関しては、この子自身の魔力で継続するように術式を組んでいます。害のあるものではないので、拒絶反応の心配もありませんし」
「マイ自身の? 『外』からではなく『内』から組み上げとるのか? いや、だが女の子のマイでそれは……」
「あ、それは私も驚いたんですけど、マイちゃんって魔力の生成能力がかなり高いんです。男性魔導師とあまり遜色がないぐらいで」
「なんと? …ちなみに、魔力操作の方は?」
「流石にこの子はまだ小さかったから、ちゃんと調べてはいませんが…少なくとも、人並みには。むしろ…いいえ、確証の無い事でした、忘れてください。」
「ふふっ、その辺のシビアさは変わらんなぁマミくんは………あとは……ん〜〜……確か昔かじった話だと、確か魔物の爪やら角やらは常に魔力に覆われ…あぁなるほど。魔力自体の出力を抑える、いやさ節約する方向ね?」
「ええと、どちらかと言えば消費する魔力を別の方向に向けてます。先生のおっしゃる方向ですと、特に角なんかに殺傷力が発生してしまうので、隠蔽系統の術式を割り当ててますね。」
「えっ、殺傷力が発生? 弱体化ないし無力化でなく? ワシ、魔力の使用用途は攻撃能力の強化のためって聞いとったけど? だから出力を絞ってったらそのまま縮小あるいは消失するもんかと…」
「あぁ、やっぱりそこは勘違いされてるんですね……もう、都合の悪いことを嘘に書き換えるからいけないのよ。せめて仮説、あるいは詳細不明と素直に明記するべきなのに…!」
「あーいや、資料が古かったんかもわからんねぇ。ほら、ン百年前の旧魔王時代から変わっとらん論文使っとる所多いから……」
「結局は怠慢じゃないですか! 先生! やっぱりもう一度ペンを取りましょう!? 私達で学会に新たな風を吹き込みましょうよ!!」
「い、いやでもねぇ、ワシその学会から追放されとるしねぇ……」
「…ふふ、それぐらいだったらなんとかなる伝手もありますよ? もちろん…実験や実証に関しては、私のこの体を、いくらでも使ってください…♥」
「マミくん? なんか話の趣旨変わっとらんかなマミくん!?」
「…………………」
「…………………」
「はっ……!?」
「あ、あら…………こほん。…………うふふ♥」
「……………マイ。にいちゃんいまなにかとてもふしぎなものをみたきがする。」
「そうだね。きっとゆめだったんじゃないかなおにいちゃん。」
「え、ええと! どこまで話しとったっけねぇワシら!?」
「そ、そうですね、あなた。確か、マイちゃんへの補足説明の途中だったかしら?」
「……えーっと……ママ? つまり…その、私の……ふーいん?が、解けちゃった…って事なの?」
「そう、ね……平たく言えば、そうかしら。原因は間違いなく、マイちゃんの精神に過剰な負荷が掛かってしまったから…魔物は特に、恋愛関係の衝動に関して魔力が影響を受けやすいし……現状への強い否定が、魔力の過剰生産へと繋がった…? 一種の防衛本能かしら…どちらにせよ、それで術式中の魔力循環許容量を凌駕して…………」
「…………う、うむ。……ああ、マミく……いや………ふぅ……。」
「(うわっ…どうしよう父さんめっちゃ議論したそうな感じだ……!?)」
「(いつもの…いつものママじゃない…というか本当に何を言ってるのかわかんない……!!)」
「………………つまり、恋する乙女は無敵なのよマイちゃん♥」
「なるほどそっか! もー、だったら最初からそう言ってよね、ママ♪」
「いいのかっ!? 本当に結論それでいいのっ!?」
「(……パパ初めて思うわー…ちょーっとマイちゃんのこと甘やかしすぎたかなぁ……)」
「それで、そんな無敵の恋する乙女なマイちゃんに聞きたいんだけど……」
「なぁに、ママ? なんでも聞いていいよー♪」
「父さん、ちょっとマイへの教育方針について相談が。」
「うむ、次の家族会議の議題が決まったな息子よ。」
「…あの、『家出』の時。神官様たちに保護されたマイちゃんは、私達が知っている、『人間』の姿をしたマイちゃんだったわ。さっき貴方達が言っていた、山小屋で遭遇した『魔物』…彼女に、「人化の魔法」を教わったのかしら?」
「あ、うん。しん…じゃなかったっ、魔物のお姉さんが、『人間の姿に戻る方法』を教えてくれたの。」
「…『人間の姿に戻る方法』、ね……」
「俺にはさっぱりわからなかったけど、なんか結構あっさり出来てたよな。アレだけ大騒ぎしてたのに、思った以上にすぐなんとかなったから脱力しちまったよ…」
「そ、そんな事言って!!お兄ちゃんだって、成功した時は泣いて喜んでくてたでしょ、もうっ!!」
「…ん、ん、ん、ん? いや、えーと、マミく、じゃなかった、母さん? えっと、ワシの記憶だと確かあの家出ってせいぜい十数時間しか経っとらんかったよね?」
「え、ええ。この子たちの話だと、夕方から家出を初めて…それで、翌朝には帰ってこれてますから……」
「マジ? マジなの? えっ、しかも今のマイ達の話聞くと本気で数十分程度で習得してないこの子? 「人化の魔法」ってそんなにそうなの?」
「ま、まあ…この魔法に関しては、サキュバスの中では基礎の基礎の基礎クラスですから、直感的に習得出来ても…おかしくは、無いんですけれど……?」
「うわぁー…こわいわー……魔物こわいわー……」
「ごめん、母さん、全然話が見えないんだけど…なにか、不味いの?」
「あ、いいえキーくん、不味い…とかでは無いのよ? ただ、その………マイちゃんが習得してるの、どう考えても「人化の魔法」じゃあないの……」
「えっ?」「えっ?」「ごめんちょーっと待ってくれないかなマミくん、今までワシが長年かけて構築してきた魔力理論がそろそろ崩壊しそうだぞぉー!!」
「先生、先生、気を確かに持ってください…! 大丈夫、これはきっとマイちゃんだけの特異例です、理論自体は間違っていません…!」
「ねぇ? ねぇ私どうなるの!? 私またなにかやっちゃったの!?」
「あ、いいえ、マイちゃん。結果的に見ると何も問題はないのよ? そう、出力結果は完全に理想通りだし、マイちゃん自身には全く少しも全然支障は無い、無いのだけど……」
「あ、そういう意味……あー……そっかぁ〜〜……『完全に理想通り』かぁ〜〜………そうだよなぁ……そうじゃなかったら、帰ってきた時にマミくん気付くよなぁぁ……!! ………………戻っとったんだね?」
「……はい。私が掛けた術式がそっくり、そのまま。マイちゃんの話を聞くに、おそらく魔力が過剰増産された影響で術式自体が完全に消失したはずですけれど…」
「………一応聞くけど、自己修復とか組み込んでた?」
「いえ、迷ったんですけれど…誤発動による過剰修復等の恐れがどうしても無視できなくて……」
「うんまぁそうだよねぇ…ワシも逆の立場だったら、可愛いマイちゃんにそれはできんわ……」
「あーっと、その…父さん? 母さん? できれば俺達にも分かるように説明して欲しいな?」
「?????????????」
「ほら、マイなんかもう完全に頭から煙吹いちゃってるよ?」
「…う、うむ、そうさな。じゃあ、例え話をしよう。いいか、キーニア、マイちゃん。」
「う、うん。」「ふにゃぁ……?」
「ここにキーニアくんがこの間陶磁器品評会に出品した香炉があるとします。」
「ぐっはぁ!?」「おにいひゃんっ!?」
「そこへ突然暴走馬車が現れて、キーニアくんの香炉をバッキバキに完膚なきまでに粉砕してしまいました。」
「ごっふぅ!!」「お兄ちゃーん!?」
「ではキーニアくん。今から30分あげるので、寸分違わぬ全く同じ香炉を作ってください。」
「出来るかァァァァァァァァ!!! 俺あれ作るのに3ヶ月掛かったんだぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」「お兄ちゃん……!!」
「………………それをマイちゃんは作れちゃったんだわ。」
「うぇっ!?」「えっ……えっ、えぇ?」
「…そういえば、マイちゃん? やっぱり、今は…自在に、魔物の姿と人間の姿を、切り替えられるの?」
「あ、うん…出来るよ?」
「先生。私、あの術式に関しては「隠蔽」と「顕現」の切り替えをそもそも想定していません。」
「しかもマイちゃんの香炉は品評会で入選クラスの仕上がりになっとる。」
「そのっ!!例え話はっ!!いらなかったんじゃぁ!! ないかなぁぁぁっ………!!!」
「お兄ちゃんっ! 泣かないでお兄ちゃんっ! わ、私あの香炉大好きだよっ!?」
「ちくしょうっ…ちくしょぉぉぉっ……次は絶対優勝してやっからなぁ……!!」
「う、うむ、いい感じにキーニアを発憤させられたっちゅー事で……とりあえず、ワシの感じた衝撃は理解して貰えたと思う。」
「傷口にぐっちょんぐっちょんに塩塗り込まれた気分だけどねぇぇぇ……!!」
「…な、なんとなくは、わかったかな……こうやって話してて思い出したんだけど………あの時の魔物のお姉さん、さっきのパパみたいな顔してた気がする……」
「い、言われてみれば……結構、笑顔が引きつってたような……?」
「そっかあ……そこは魔物もおんなじだったかぁ……そらビビるわぁ……文字を教えとったら、突然生徒が戯曲書き出したようなもんよコレ…」
「……お前そんな物凄いことしてたの?」
「ご、ごめんお兄ちゃん全然わかんない…ただ、なんとかなれーっ!って念じただけで…それで上手く行ったから、あんまり深く考えてなくて…」
「…才能ってのはあるんだねぇ、マミくん……」
「こればっかりは、私達もかたなしですね……」
「しかしアレね、こうしてみるとその魔物さんにも親近感湧くわ。なんなら、一度は話してみた「浮気ですか?」違います。違います。聞いてください。違います。」
「……でもあのお姉さん、確かに父さんが鼻の下伸ばしそうなタイプではあったね。」
「キーニアくん? えっそんなに香炉の件引きずってたのキーニアくん!?」
「父さんはあのお姉さんとあったら絶対胸から視線を外さないまま話すよね。」
「……………………。」
「わかったすまん父さんが悪かっただからこの話はやめよう!なんでかわからんが今母さんの入ってはいけないスイッチが入りつつある!!」
「……………………あ な た ?」
「アッハイなんでごさいましょうか若奥様ッ!?」
「…伸ばしてましたねえ。鼻の下。確かに。」
「……………は、はい?」
「今。思い出しました。あの時は、それどころじゃあ無かったけれど…思い返してみれば…確かに……」
「えっ? いや待って? えっちょっとワシわかんないなんで会ったことも無い魔物との浮気を疑われているの? なんかおかしくない?」
「(…あー…これ、やっぱり……母さん、あの人の正体、知ってるな……?)」
「一度ならず…二度までも? 流石に、それは………うふっ♥ ………駄目ですよね。」
「(あっヤバイこれママ完全に駄目なやつだ。)」
「……お、おーっと!!そーだそーだワシ忘れたけどちょっと用事あったよ!!はいっ!では家族会議終了!!お疲れ様で「私を置いてどこへ行くつもりなの?」違います。違います。聞いてください。違います!」
「……父さん。」
「キーニア!そうだフォローを頼むキーニア!!母さんを止めてくれ!!」
「………少しは、俺の心の痛みを思い知れぇぇぇ………!!」
「ウワーッ!? ワシなんか思いっきり越えちゃいけない一線越えちゃってたやーつ!? ま、待てぇいキーニア!! 良いのか!? わ、ワシにだって考えがあるぞ!?」
「はぁ?」
「…お前の部屋の本棚の一番右上端に目立たなーく置いてある「聖地カドコノ見聞録」のケースカバーの中。」
「んなぁっ!!??」
「………ケースカバーの、中?」
「やめろマイっ!? 耳を貸すんじゃあないっ!? というかなんで知ってんだよ父さんっ!?」
「く、クククククッ…この父を欺けるとでも思うたか、馬鹿息子………!! マイちゃーん♪ 今見てきてもいいよー♪」
「……………………」
「………ふ、ふははっ!!俺とマイの絆を甘く見やがったなクソ親父!! 見ろっ!マイは俺を信じてるからこそ確認になん「お に い ち ゃ ん 。」「アッハイなんでごさいましょうか妹様ッ!?」
「……うん。わたし、お兄ちゃんを信じてるよ。わざわざ、見に行ったりなんて、しないよ。」
「そっ……そうかっ! そうだよなっ! 流石はマイ、俺の世界一の妹「だ か ら 」はいぃっ!!なんですか!?」
「……お兄ちゃんの口から、ちゃんと説明してほしいな♥ …………出来るよねお兄ちゃん。」
「………ぬっ……ぬぐっ……ぐ………ぐぉぉぉぉぉぉっ……!!」
「……………………」
「……………………」
「お前さあ、実の妹に手ぇ出しといてその裏でこっそり姉モノのエロ本とか集めてるのって兄貴としてどうなん?」「集めてねぇよまだ3冊しか持ってねぇよクソ親父ィィィィィィィ!!??」
「3冊。ちょっと意図しないと集まらない数だねお兄ちゃん。」「はぁっぐ!?」「うひゃほほほほほほほほ!!ばーかばーか!!」「おまっ、ちょっ、んがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「ほっほっほぉぅ!!若造風情がッ!!ワシを陥れようなんざ100年早「楽しそうですねェ、あなた♥」ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」
「………ねえ、ママ。」 「あわ、あわ、あわっ……!」
「なぁに、マイちゃん?」 「ひっ、ひっ、ひぃっ……!」
「男の人ってさぁ……みんな、こうなの? …私、お兄ちゃんは違うと思ってたんだけどなぁ……」 「ぬぅっぐ!?」
「そうねぇ。悲しいわね、マイちゃん。私達は、いつでも旦那様だけをみているのにね……」 「ふ、ふぬぅぅぅぅっ……!」
「ねえねえ、ママ。こういう時、ママは、どうしてるの?」
「簡単よぉ、マイちゃん……うふふ♥ お耳、かしてね………こしょ、こしょこしょこしょ……♥」
「…ふぅん…♥ ふん、ふん、へぇー…♥ ……それ、とっても楽しそぉ……♥」
「そうよぉ…とっても、とぉっても楽しいわ…♥ はい、これ…マイちゃんの分♥ …うふ……うふふふふふっ…♥ あなたぁ…♥♥♥」
「わぁ、ありがとうママ♥ 大切にするね♥ …くすっ……くふふふふふっ…♥ お兄ちゃぁん…♥♥♥」
「父さん! 父さん! 魔王とその娘が、鐘を鳴らしながら近づいてくるよ!!」
「息子よ、あれはガラガラだ!! ああ!!魔王たちがワシらを掴んでいく!!」
「「 つ ぅ か ま え た ぁ ♥♥♥」」
「「 あ ひ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ ぃ 〜〜〜〜〜〜〜♥♥♥」」
「………………………父さん。」
「………………………なんだ息子よ。」
「…………母さん、その……凄かったね?」
「そうだぞ。凄いんだぞああなった母さん。でもいつもああじゃないからな? アレは本当にヤバイ時だけよ? いつもはマジ最高のお嫁さんなんよ?」
「……うん、まあ……わかるよ……マイもそんな感じだから………」
「…………マイちゃんなぁ。…母娘だったなあ。」
「母娘だったねえ。あれは間違いなく母娘だようん。血筋って凄い。」
「おうともよ。そしてその血をお前も引いとるんだぞ、キーニア。」
「………………そっか。」
「そうだ。」
「…………ねえ。なんでさ、母さんは……人間をやめて、魔物になったのかな……」
「…………………」
「…って、ごめん、父さんも今日知ったんだよね、それ。こんな事聞いても、困るか……」
「…理由、知りたいか?」
「えっ……?」
「母さんも、お前のことを愛しとるからだよ。まったく、この果報者め!」
「え、えっ……? と、父さん……? それ、一体どういう…?」
「言っとくが、ここでいう「愛」は家族愛的な意味だからな!?マミくんが男女的な意味で愛しとるのはワシだけだぞ!?」
「い、今更言われなくてもそれはわかるって!!」
「…まあ、詳しいことは母さんに直接聞きなさい。ちゃんと教えてくれるさ。家族、なんだからな。」
「………うん。そうするよ。」
「それから…ワシからも、話がある。お前と、マイの事だ。というか…それがそもそもの議題だったのに、まぁえらい方向に話が飛んだもんよなぁ…」
「………俺とマイの結論は、変わらないよ。」
「ふん、頑固者め……一体誰に似たんだか。」
「そりゃあ間違いなく父さんでしょ。父子だからなあ。」
「はっは!生意気言いおってからに!! ……魔物だの、なんだの……まあ、ワシにはまだようわからんが。とりあえず……あれだな。」
「…………………?」
「…不届き者が、ワシの可愛い可愛い愛娘をかっ攫っていくんだ。言うべきことがあるだろう。ほれ。」
「……………うん。父さん。マイは……俺が、絶対に幸せにしてみせる。だから……娘さんを、俺にください。」
「却下。」「父さんっ!? あのさぁ!? そうやってハシゴ外していい場面じゃなくないここ!?」
「バカモン、真面目な話だ。言葉が足りんのだお前は。いいか、おい、キーニア。」
「な、なんだよ……」
「お前『も』幸せになれ。」
「っ……!!」
「お前のいかん所は、そこだよ。自分の事を後回しにしすぎるな。「責任」の意味を、履き違えるんじゃあない。」
「…………………」
「…マイはな、優しい子だよ。それでいて、ちょっと我儘だ。あの子は…お前が幸せになってくれないと、あの子自身も幸せにはなれんだろうな。」
「……………っ……」
「……あー、あと…いいか、一回しか言わんからな? …キーニア。お前だってなあ、ワシの可愛い愛息子なんだぞ。それをちょっとは自覚せんか、このバカ息子め!」
「…………と…ぅ、さっ……」
「ん〜〜〜? なにやら涙声が聞こえるな〜〜〜? そーんなヘタレの泣き虫にゃ、かわいいかわいいマイちゃんをやれんわなぁ?」
「…っ、ぐっ…な、泣いてないだろっ!変なこと言うなよっ!!」
「ぶははははっ! まーったく、生意気!! …この間まで、ぴぃぴぃ泣いてた赤ん坊だったのになあ……」
「この間って、十何年前の話をしてるんだよ、このテキトー親父………………あの、さ……父さん……」
「……なんだ、キーニア。」
「…………俺……散々、迷惑掛けたけど…きっと、これからも迷惑、かけるけど、さ………」
「…………………」
「……俺、やっぱり…………父さんと、母さんの息子で……よかっ「はぁぁ〜〜〜〜い♥ トートちゃ〜ん♥♥ ベッドでちゃんといいこいいこできまちたか〜♥♥♥」
「ばうー♥ あー♥ うあー♥ まんま♥ まんまぁ♥」
「………………………………………」
「あぁぁぁぁっ…♥ かわいいっ…♥ トートさん、かわいいっ…♥ うふ、うふふふふぅ…♥ 私がいないと、なんにもできないトートさん…♥ さぁ、オムツきれいきれいしまちょうねぇ♥♥♥」
「うみゃぁぁ♥」
「………………………………………………………………」
「…や、やっぱり、ママすごいや…う、ううん、私だって負けてられない…! え、えーっと…おにい…じゃなくって…き、キーニア、ちゃんっ?♥」
「………………………………………………………………………………」
「キーニアちゃんのだ、だいすきな、妹ママでちゅよ〜♥ …って、自分でだいすきって言っちゃっていいのかな…で、でも問題ないよね、お兄ちゃん私の事好きだもんね…?」
「……………………………………………………………………………………………」
「は、はぁい♥ それじゃあ、妹ママが、抱っこしてあげまちゅからねぇ〜♥」
「……………………………………………………………………………………………………………………」
「ほぉら、おっぱいの中でいいこいいこ〜♥ ちゃーんと甘えっ子できるかな〜?」
「(………あっやばいなこれ結構心地いいぞ?)」
「(………堕ちたか……息子よ………)」
「 ト ー ト さ ん ?」 「ほ、ほぎゃっ!ほんぎゃっ!?」
〜 終われ 〜
23/06/11 09:48更新 / 突発執筆マン
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