連載小説
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おまけという名の蛇足
「(それにしても…マイちゃんも魔物娘だし、いつかは素敵な旦那様を捕まえるとは思っていたけれど…まさかそれが、キーくん…実のお兄ちゃんだったなんて、ね……)」

「ん? どうしたの、ママ?」

「……やっぱり、血は争えないものなのかしら。」

「ねー、ママってば?」

「…うふふ、なんでもないわ、マイちゃん♥」








〜〜 各種裏設定(別名:どうあがいても幸福) 〜〜

◯トート・ミゲル (父 → とと → トート)
元淫行教師。
実は孤児院出身で天涯孤独の身。とある街にて大火災が発生し、焼き出されて気を失っている所を保護された。
火災のショックのせいかそれまでの記憶を一切なくしており、また身分を証明する物を何一つ持っていなかったため素性は不明。当時の推定年齢は12歳。
なお、その際に頭部に大きな火傷を負っている。
医師や医療魔道士達の懸命な治療で怪我自体は跡すら残らない程に完治したものの、なぜか頭頂部周辺の毛髪および毛根のみ戻らなかった。
そのお陰で(主に精神的な意味で)それはそれは酷い苦労を重ねており、今なお残るトラウマである。

「魔力」に対する直感力が高く、分析能力に長けている。
しかし不思議なことに、魔力を操る「魔法」に関する才はからっきしであった。
そのため、魔導師ではなく研究員、教授としての道を歩むこととなる。

外見からは想像も付かないが、実はかなりの頭脳派。教授時代には魔法・魔力に関する論文を何本か発表している。
研究・調査に積極的かつ、講義に関しても良くも悪くも砕けた態度にて臨んでいたため、生徒からの評判は悪くなかった。
ただ、彼の独自性の強さは「慣習」を重んじる傾向にある所属学会とは折り合いが悪く、在学中は研究自体は楽しみつつも肩身が狭い思いをしていた模様。

そんなある日、研究室に一人の訪問者がやってくる。新入生だというその女子生徒は、なんとトートの論文に対し真っ向から反論を突きつけてきた。
理路整然と疑問点、不明点をぶつけてくる女子生徒に対し、トートは一つ一つ丁寧に回答していく。
喧々諤々とした議論のやり取り。聡明な彼女からの意見は新たな着眼点や発見を齎すこともあり、実に建設的な時間とを過ごすこととなる。
やや融通の聞かない面もある女子生徒は時に不躾な言動を取ることもあったが、それもトートにとっては微笑ましい物であった。

そうした関係が一週間、一ヶ月、一年…と過ぎていく内に、彼らの間には自然と特別な感情が生まれる。
…しかし、「先生」と「生徒」の関係が許される筈もない。
「卒業後にこそ」と二人で決めた取り決めが仮に実現したとしても、周囲からの好奇の視線、あるいは悪意の付け入る隙は消えないだろう。
あまつさえ、女子生徒の「貴族出身」という肩書はあまりにも重荷であった。
トートの才能がこのまま埋もれていく事に耐えきれなくなった女子生徒は、卒業式のその日、恩師に何も告げることなく、学院を立ち去ろうとする。

だが、トートはそれを許さなかった。

逃げようとする彼女の手を握り、強引に空き教室へと連れ込んで。少女が今までずっと隠していた本音を、包み隠さず話させる。
自分たちの関係が許されない? このままでは、ここで研究を続けられない? どちらにせよ、卒業したら、この学院には居られない?
それに対する答えは、一つだった。
『じゃあ、俺と一緒に逃げよう!』
…突発的な駆け落ちの末、流れ流れてたどり着いたは宗教国家アトール。
主神教国でありながら不思議と牧歌的な風土を気に入ったトートは、今では妻となった(元)女子生徒と共に腰を落ち着け、やがて待望の第一子を迎えるのだが……。

現在の生業は文筆業。
子供向けの魔力教本を上梓したり、アマチュアの論文を添削したりと、仕事は地味だが元々の才覚もあって一家四人で暮らせるぐらいには稼いでいる。

結ばれるまでの経緯もあり、妻のマミとは結婚式を挙げておらず、もちろん新婚旅行にも行けていない。
口には出していないが、この点に関してはマミに申し訳なさを感じている。
今回の旅行は新婚旅行リベンジ!の心意気で臨んだものの、まさかこんな結末になるとは……

■ ■ ■

「人造勇者計画」の失敗作。

主神教団のとある暗部組織は、「才能」や「奇跡」という偶発的要素でしか生まれ得ない『勇者』という存在を人工的に生み出すべく一つの計画を立ち上げた。
それこそが、「人造勇者計画」。最終目標は、『一族郎党全てが勇者たる血筋』を誕生させること。
魔力の才や武勇に優れた者を引き入れ、子を産ませる。その子が優秀であれば、また別の子と番わせる。
最重要視されるのは、才覚のみ。
ありとあらゆる倫理観をかなぐり捨て、ただただ高い素養を持つ人間同士を「掛け合わせ」続け、ひたすらに血筋を濃くしていく……
そうして誕生した被験体のうち、「魔力の感知/分析能力」に一定の成果が見られた個体が後のトート・ミゲルである。

ただし無理な調整が祟ったためか、魔力の出力能力に欠陥があり「感情力による強いブーストが無ければ魔法自体が使えず、また発動した魔法を制御できない」ため、失敗作と断じられた。
なお、得られた成果を「次」の個体へと生かす「繁殖要員」とするべく、「老化の呪い」によって繁殖可能な年齢まで強制的に成長させられている。(実年齢としては妻のマミと同年代、やや年上。)

だが、暗部組織の実態が主神教団内の自治機関に露見した事により事態は急変。
他ならぬ教団自身の手によって暗部組織は実験施設ごと(物理的に)壊滅し、生存した数少ない被験体たちも悍ましい実験の記憶を消された上で保護された。

余談だが、被験体の中には「勇者」とは呼べないまでも高い戦闘力や魔力を持たせることに成功した者もごく少数ながら居たらしい。
彼らあるいは彼女らは、貴重な「資金源」として別の犯罪組織や悪徳貴族に買い取られた形跡がある物の、組織壊滅に伴い当時の資料が散逸したためその足取りは杳として知れない。

組織の実験により「認知機能」の一部を歪められており、「『魔物』を『魔物』として認識しづらい」状態となっている。
より具体的に言えば、角や羽、尻尾などの「魔物らしい部位」に対しては現実感が希薄に見えてしまうようだ。
本編中にて妻や娘を「魔物」ではなく「魔物のコスプレ」と解釈したのはそのため。
本来は「魔物の行う『性的行為』を『性的行為』として認識しない」暗示を掛けたかったようだが、魔物娘は存在自体が『性的』すぎる故にこうなってしまったらしい。
ただし、「魔物の『性的行為』」のジャミング自体は効果を発揮しており、よっぽど決定的瞬間を見なければ「じゃれあい」の類と勘違いする。
キーニアとマイが8年間インピオし続けられたのは、この暗示による物が大きい。
結果としてバカップル兄妹の「ここまでならセーフ…!ここまでならバレない…!!」というラインが広がりすぎ、今回の惨状へと繋がった。
この認識阻害は妻であるマミに対しても発動条件を満たしている物の、魔物かつ魔力の扱いに長けたマミが無意識に放っている強力な「魅了魔法(チャーム)」により完全に無効化されている。
ちなみに、「繁殖要員」としての役割を果たすため性欲自体は旺盛となるよう調整されている。ナチュラル・ボーン・スケベ。
それゆえ「魔物ではなく人間」と判断した美女には普通に鼻の下を伸ばす。伸ばした。おかげでたいへんなことになりましたね。
つまり最終的な出力結果は『妻以外の魔物娘に対して[のみ]クソボケムーブかますスケベ親父』である。役に立たねぇ調整だなぁオイ!!

本来ならば解呪困難である「老化の呪い」によって早逝する運命にあったが、体調不良などの自覚症状がほとんど無い内に(本人も気づかぬ間に)インキュバス化したため、今後も末永く健康でエロい毎日を送る事が確約されている。
でも髪だけは生えない。きっとこれからもずっと。







◯マミ・ミゲル (母 → マミー → マミ)
肉食系元優等生。肉食系に関しては今もなお現役。
とある下級貴族の四女。台詞オンリー故に描写しそびれたが、実は今も昔も眼鏡っ娘。(筆者の譲れないこだわり)
実家は過去に多くの優秀な魔導師を輩出しておりかつては名門とも呼ばれていたが、現在はすっかり没落してしまっている。
上の子たちも魔力の才に恵まれない中、唯一マミだけが魔導師としての適正を認められ、家名再興の期待を一身に背負う事となる。

そしてそれは、マミにとっての地獄の日々の始まりであった。

勉強。勉強。実践。勉強。勉強。実践。試験。勉強。勉強。
マミに求められたのは、「魔導師として成功し、家名を取り戻す」。ただその一点のみ。
娯楽や余暇など、以ての外。お前の全てはただ『家』のためだけにある。それを決して忘れるな。
両親の教育は徹底していた。親や兄、姉がマミが向ける視線や対応は、家族に対するそれとはどこか一線を画していたようにも思う。
兄や姉たちには、「貴族たる立ち居振る舞いを身につけるため」として豪華な自室を与えられるのに対し、自分に割り当てられたのは狭苦しい「勉強部屋」。
ただの物置と区別の付かないような場所で、他の家族が和やかに談笑する声を遠くに聞きながら、自分は魔法の教本に囲まれ、固くなったパンを齧り、勉強を続ける……。
涙など、とうに枯れ果てた。笑顔など、自分には縁がない。
…荒みきったマミの心の、唯一の支えは、「主神の教え」であった。
主神教の力の強いこの世界においては、熱心な教徒であればあるほど国や皆からの覚えが良くなる。
両親がマミに「主神教徒」となる事を求めたのは打算による物が全てだったが、それが彼女に一つの転機を齎す。
唯一許された、勉強以外の行為。聖典…教本以外の書物を読むことすらも初めてであり。
そこに記された神の慈愛に溢れた教えを、少女は余す所なく吸収する。
マミが生まれて初めて『愛』を感じた存在は、両親ではなく「主神様」であった。

もしマミが神学校へと入学していたとすれば、彼女は偉大なる聖職者へとなれていたかも知れない。
…けれども、そんな『夢』が叶うはずもない。もし両親がそれを知れば、「主神の教え」すらも自分から取り上げてしまう恐れすらあった。
『夢』とは所詮、そんなモノだ。マミの心の奥底には、奇妙な確信があった。
故にマミは、己の夢を押し殺す。信仰とは、心の有り様。突き詰めてしまえば、聖堂も、聖典もなくとも…神はいつでも、私達の傍に寄り添っておられる。
そう自分の心に言い聞かせ、両親の望み通り魔術学院へと入学したマミに、突きつけられたのは。
残酷な、現実だった。

幸か不幸かはさておき、マミは優秀な才能を持っていた。
その行為は大いに間違っているとは言え、両親の教育方針はマミの実力を大きく伸ばしていた。
大きく伸ばして、しまった。

マミは困惑した。
両親からは、名門とばかり聞いていた。この学院を首席で卒業し、世間に名を残すことだけがマミの生きる意味だと。
だと、言うのに。

………授業のレベルが、低すぎる。

なぜ、わざわざこんな講義を開く必要がある? その理論に関する論文など、10才になる頃には暗記した。
なぜ、実技で教えるのがこんな初歩的な魔法なのか? そんな物、6才のマミでも3日ほど徹夜すれば簡単に習得出来る内容だろうに。
なぜ、そんなに、へらへらとした態度で学べる? お前たちに、覚悟はないのか。家名を背負う、過酷な宿命はないのか。

なぜ。なぜ。なぜ。なぜ。

……なぜ、自分はこんな所にいる。
あれだけ、叱られ、詰られ、虐げられ。
ありとあらゆる全てを捨てさせられて。
ようやくたどり着いた場所が………ここ?
こんな所で、首席になって。それに一体、なんの意味がある?
こんな、こんな事で、そんなレベルで「名声」とやらが得られるのならば。

…………………私は、なんのために『夢』を捨てたの?

マミの心に生まれた絶望は、やがて尽きることのない苛立ちへと変容し。
その牙は、学院の教授たちへと向けられた。

マミはこれまで、「魔法」に関する間違いが許されなかった。
マミはそれゆえ、「魔法」に関する間違いを許せなかった。

魔力に関する論文は、一つ残らず目を通している。もちろん、この学院に所属する教授が発表した物も全てだ。
少しでも疑問点や矛盾点があれば、マミはすぐさま発表者の教授たちへと直談判に向かう。
理路整然としつつも舌鋒鋭く問い詰めてくる女子生徒を、教授連中は尽く煙たがった。
曖昧に誤魔化す。急用を思いだした、と逃げ出す。烈火の如く怒り出し、頬を張ってくる者すら居た。

その対応全てが、ますますマミを絶望へと追いやっていく。
所詮。所詮、世界なんてこんな物か。こんな、くだらない物のために。自分は。

だから、その時も、何一つ期待なんてしていなかった。
いつものように、発表されたばかりの論文を読んで。
いつものように、疑問点を問い詰めるために発表者の教授の元へ乗り込んで。
初めて会うその教授に、挨拶もそこそこに直談判を仕掛けてみたら。

『ふうむ、成る程成る程。うん、実に面白い着眼点じゃあないか。君、時間はあるか? ん、いやなに、私も中々暇だったもんでね。どうせだから、一つ講義でも打ってみようかと…駄目かい?』

…件の教授が、年に似合わぬ禿頭をつるりと撫でつつ、嬉しそうに紅茶の準備を始めるだなんて。全く予想も、していなかったのだ。

そうして始まった、ミゲル教授の特別講義。
どこかとぼけた様相および言動とは相反し、彼の説明はとても理知的で。
マミが浮かべた疑問に対し、即座に丁寧な回答と、解説を述べてくれた。
この学院に来てから初めて行う、学院に来るまでずっと思い描いていた、学術的な議論。
いつしかマミの質問にも熱が入り、紅茶のおかわりすら忘れて夢中になって持論を述べていた、その時。

教授の理論に対し、致命的な矛盾を、指摘してしまった。

大きく目を見開くミゲル教授を見た瞬間、マミは己の発言を後悔した。
やって、しまった。折角の、楽しい時間を。自分の手で、台無しにしてしまった。
……でも。きっと、自分は我慢できない。
「間違い」を放置しておく事なんて、できない。
「間違い」は悪いことだから。
「間違い」をしたら、怒られるから。
…そして。生徒が、生意気に、教授に「間違い」を指摘するなんて。それこそ、「間違い」に決まってるから。
だから。自分は。怒られる。また。痛いのが。くる。

そして。少女の怯えた視線が向けられる中。男の手が。ゆっくりと上がって。それで。

ぱんっ!

『あーーーーっ! そうか!! いかん、全っ然気付かんかった!! いやぁ凄いなぁマミくん、よう指摘してくれたっ!! うん、新発見だこれは!!』

破顔一笑。世紀の発見、と言わんばかりに「両手を打ち鳴らした」教授は即座にメモ用紙を引っ張り出して、夢中になって何かを書き留め始める。
それは…マミには、全く、理解できない光景だった。
自分は、「間違い」を指摘したのに。それを、悲しむでも、怒るでもなく。喜んで、受け取るなんて。

『んー? ああ、確かに間違いは正さんといけないわな。そうやって「正す」事で人は成長していける訳だ。失敗は成功の母!いい言葉だねぇ…』

呆然と疑問を口にするマミに対し、教授はメモから顔も上げないまま返答する。

『でも一人だと、どーにも間違いに気づけんでねぇ…共同研究者が欲しいんだが、中々見つからなくて…いや、だからこそマミくんが来てくれて良かった!うんうん!!』

ぺちぺちと自分の禿頭を叩きながら、なおもメモから目を離さない教授は、まるで新品の玩具を買ってもらった子供のような、無邪気な笑顔を浮かべていて。
思わず、楽しそうですね、と呟いた所で、ようやく視線を上げた彼は。マミを見て一瞬驚いたような顔をした後、今度はいたずら小僧のような笑顔になった。

『なんだい。そういうマミくんだって、随分楽しそうじゃあないか。』

マミは思わず、自分の顔に触れた。タノシイ? こんな自分が? 楽しそう?
……ああ。そうだ。さっき、「間違い」を指摘してしまった、その時。私は、確かにこう思ったじゃないか。
『折角の、楽しい時間を。』って。

そうか。
私は、まだ。「楽しい」と思うことが、出来たんだ。

そうか。
私は、まだ。こんなに、「泣く」ことが、出来たんだ。

『ウ、ウワーーーーッ!? えっ待ってもしかして今のってセクハラ!? セクハラになるのっ!? ごめんマミくん俺そんなつもりで言った訳ではどうか許してくれはしませんか!?』

突然、大粒の涙を流し始めた女子生徒を目の当たりにし、滑稽なまでに取り乱して土下座すら披露する、そんな愉快な教授を見たマミは。泣きながら、笑った。

それからマミは、ミゲル教授の研究室へ足繁く通い始めた。
もちろん、その目的は建設的な議論のためで、下心など欠片も含まれていない。
けれど目上の人間に会うのだから、何かしらの手土産が合ったほうが粗相が無いだろう。あくまでマナーの範疇の対応だ。
……クッキーなんかが良いかな。お茶菓子としてちょうどいいし。あれだったら生地を作って焼くだけ、優秀な自分に出来ない道理はない。
そうして完成した黒焦げの物体X達を泣きながら持ち込んできたマミを、ミゲル教授は『つ、次はガンバ!』と口元を真っ黒にしながら慰めてくれた。翌日の講義は講師体調不良に付き休講となった。

まあ、議論の合間に少しは雑談めいた内容が混じったりもしたが、それもおかしな事ではないだろう。
色々と興味深い話も聞けたし、とてもよく参考になった。
子供の頃は勇者とか魔道士に憧れていたとか。
その憧れは、大昔にそういう立派な人たちに命がけで助けてもらった事がきっかけだとか。
そのために頑張って勉強しては見たけれど、残念ながら才能はからっきしだったとか。
でも少しでもそういう人達の役に立ちたいと、この仕事に就いたとか。
ちょっとでも教授としての箔を付けようと、普段は「私」なんて一人称を使っているが、素だと「俺」になっちゃうとか。
最近は、自分と一緒の時は「俺」を使うようになってくれてるとか。
……孤児院育ちなのもあって、密かに『家族』に憧れているとか。
あくまで、あくまで学術的興味から、そういうお相手とか、いらっしゃらないんですか、なんて聞いてみたら、『まあねぇ、こんな外見だからねぇ…』と困ったように笑っていた。
これまでこの人と出会った異性が全員、よりにもよって外見でしか人を判断出来ないような軽薄な連中ばかりだったのは、間違いなく主神様の思し召しだろう。マミは深く神に感謝を捧げた。
その後で『その点マミくんなんか美人さんだし、回りの生徒もほっとかんよねぇ。良いなって思う男子とかいないの?』などと聞いてきたので、「生徒同士が恋愛関係に陥った場合に起こり得るありとあらゆる問題点」を滔々と語ってみせた所、『アッハイわかりました俺の負けです。』と平服された。えっへん。

いつしか、マミは彼を「ミゲル教授」ではなく「先生」と呼ぶようになっていた。
「先」に「生」き、導くもの。堅苦しい「教授」等という肩書よりも、そちらの呼称の方が彼に合っているように思えた。
決して、「自分だけあの人の事を特別扱いしたい」という下心による物だけではない。でも区別って大事ですよね。特別な人だし。
本来ならば、「父」や「兄」とはああいう感じの人なのかも知れない。
マミには、それは良く、分からなかったけれども。……自分の回りに、そう呼べる相手は、居なかったから。

マミは一つだけ、先生に不義理を働いていた。
マミが先生の個人的な事情に付いて根掘り葉掘り聞くのに対して、自身の事……「自分の家」に関することだけは、ほとんど何も話さなかった。
話したくは無かったし、何よりも……話すことが、出来なかった。
…会話の流れで、自分が下級貴族に連なる物だと話したことは、ある。
そしてその後に、言葉が続かなくなった。
話したくない事は、数えきれない程ある。けれども、話したい事はあった、はずだ。……話さなくてはいけない事も、あった。
けれども、それを声に出すことが出来ない。……おそらくは、深いトラウマに対しての防衛本能。
金魚のように口をぱくぱくと動かすので精一杯のマミを見て。
先生は、何も言わないまま、隣に寄り添ってくれた。
静かに肩を抱き寄せて、優しく頭を撫でてくれた。
……また、「間違い」を、「許して」くれた。
初めて会ったあの時のように、マミは大粒の涙をぽろぽろと零して、そして。
「生徒」と「先生」の一線を、少しだけ越えた。

それからも、ふたりの関係は続いた。
放課後になれば、一直線に「先生」の研究室へ向かう。目的はもちろん学術的な研究のためだ。それは今も昔も変わらない。
「生徒」が「先生」に、論文とか、新魔法とか、課題研究とか、手作り料理を評価してもらうのは当然の事だろう。何一つおかしい事はない。
特に一番最後は自分でも随分と腕を上げた物だと思う。今度『異性の心を胃袋で掴み取る方法』という題材で一本論文でも書いてみようかしら。
うん、本当に、自分たちに何一つやましい事なんてないのだ。
そもそも先生、「アレ」以上の事は全然してくれないし。
…自分に「そういう魅力」が無い…とは、とりあえず、思っていない。
そりゃあ確かに、これまでの生活もあってか、あまり起伏に富んだ体型はしていないけれど。
それでも、最低限「女」としての役割を果たせるぐらいのモノは、持っている…はずだ。
それに先生前に『美人さん』って言ってくれたし。『美人さん』って言ってくれたし。もっと言ってくれても良いのに。

でも。やっぱりその方が、良いのかも知れない。
だって、「夢」はいつか、醒めてしまうモノだから。
…マミにとっての『夢』は、諦めるためのモノだから。
「夢の終わり」は、もうすぐ目の前にまで迫っていた。

降って湧いたような幸せな日々は、瞬く間に過ぎていく。
「生徒」たるマミは、いつまでも学院には在籍できない。
「生徒」はいつか、「先生」から卒業しなくてはならない。

……先頃、随分としばらくぶりに、実家から連絡があった。
マミには、許嫁が居たらしい。名前も、顔も、年齢も知らないが。
それで、良いと思った。
結局自分は、家名という「宿命」からは逃れられないのだから。
実家が命じてきた目的は、素晴らしい恩師と巡り会えたお陰もあって果たすことが出来た。
…もちろん、それで終わりでは無い。
これから、マミは、『家』のためだけに、身を粉にして働かなくてはならないだろう。
別にそれは、構わない。これまでもずっとそうしてきた。これからも、ずっとそうしていけばいい。
あの「地獄」に、大切な先生を巻き込むわけには行かない。
大丈夫。大切な、大切な「想い出」を、貰えたから。
「主神の教え」と、この「想い出」があれば、きっと大丈夫。
それに。
自分が一目惚れした、あの無邪気な笑顔を、守れるのなら。
きっと、悪くはない。

そう、思っていたのに。

最後となる筈だったその日。卒業式が終わった、その後。
逃げようとする女子生徒を、先生は必死で追いかけ、捕まえて。
手っ取り早く、空き教室へと連れ込むと。
最後の「講義」を、始めた。

……………「人は決して、自分がしあわせになるのを諦めてはいけない」。

先生は、女子生徒よりも遥かに号泣しながら、強くその手を握りながら、そう教えてくれた。

そして。
「先生」と「生徒」は、自分達以外の全てを捨てた。

不思議と、後悔は無かった。
ただ、幸福だけがそこにあった。
ふたりはもう、何一つ我慢しなかった。
全てを捨ててぽっかりと空いたはずの穴は、すぐにお互いの事でいっぱいになった。

ある日宿泊した安宿の部屋に、主神様を模した小さな像が置かれていた。
近場の教会で安価に購入したものか、はたまた宿の主人が手慰みに作った物か。
別にそれは、どうでも構わなかった。
そこに、主神様が御座す。ただそれだけで、理由としては十分だった。
主神様が優しく見守る中で、ふたりの男女が見つめ合う。誓いの言葉を、口にする。
病めるときも健やかなる時も、いつでも伴侶の傍に居る、と。
愛し合う二人は、そう固く誓い合った。

信仰とは、心の有り様。突き詰めてしまえば、聖堂も、聖典もなくとも…神はいつでも、私達の傍に寄り添っておられる。
ずっと「言い訳」だった言葉が、疑いようの無い「真実」に変わったのは、きっとその時だったろう。

そうして、逃げて、逃げて、逃げ続けて。流れ着いたのは、小さな国だった。
そこは決して裕福な国では無かったが、それでも「主神の教え」が人々に強く息づいていた。
ずっとずっと、マミが憧れていた優しい「教え」。
すぐにマミは、この国が大好きになった。
既に身重となり、長旅が困難になったタイミングでこうしてこの国に辿り着いたのも、主神様のお導きに違いない。

そうしてこの国、アトールに腰を落ち着けて早々、マミは待望の第一子を出産する。
キーニア・ミゲル。
私の血を分けた、私の大好きな人の血を引いた、愛しい愛しい私の息子。
愛する夫と、可愛い息子に恵まれて。しあわせで、しあわせで、しあわせすぎて。そのしあわせが、少し不安なぐらいで。

まさか、その不安が的中するだなんて。

キーニアは、酷く病弱な子だった。
いつでも、すすり泣くような小さな泣き声しかあげない。
とてもとても少食で、ミルクを上げてもしばしば吐いてしまう。
そろそろ一歳になろうと言うのに、ハイハイすらも満足に出来なかった。

『どうやら、この子の内包する魔力に問題があるらしい。生まれつき、自分で自分の魔力が制御出来とらんようだ。』

久しぶりに「教授」の顔つきになった夫はそう言ったあと、消え入りそうな声で、俺のせいかもしれん、と呟いた。
…夫の体質は、よく知っている。確かに、論理的に考えれば、それを悪い形で遺伝してしまった可能性は高い。
けれども。それは違う、と声を大にして言いたかった。そんな事はありえない、と真っ向から否定してやりたかった。
自分だけの事なら、まだ納得が言ったかも知れない。そういう星の元に生まれついた、運命なのだと。
けれどそれが、夫に関しての事なのであれば、納得するわけには行かなかった。
こんなに、こんなに優しい人が。自分を、地獄から救ってくれた人が。不幸な運命を背負っていて、良い訳が無い。
だから私が、それを否定する。
それは得意分野だ。あの頃、何度も何度も繰り返した作業。そう、あの人にだって「間違い」を指定出来たんだから。
それで再び、「間違い」を見つけられたら。
今度は私が、その「間違い」を「許して」あげるんだ。
そうしたら、きっと…私も、ようやく成長できる。
あの人にふさわしい、妻として。
この子にふさわしい、母として。

マミは生来の優秀さを存分に活用し、夫に余計な心配を掛けないよう内密に調査と研究を繰り返し、やがて一つの真実のたどり着き、そして。

…………………全てが、わからなく、なった。

理解は、出来た。
キーニアが、病弱な体質に生まれついた理由。
トートが、魔力に関して特異な体質を抱えている理由。
……自分が、忌まわしいあの家で、期待をかけられつつも冷遇されていた理由。
それから。自分と、夫の間にあった、もう一つの真実を。

この時、マミは。生まれて、初めて。
主神様の「愛」を、疑った。

だって。こんなの。あまりに。あまりに、酷すぎるじゃないか。
生まれてからずっと不幸で。ようやく、ようやく幸せのしっぽを捕まえて。ちらつく悪意すらも、大切なあの人が強引にねじ伏せてくれて。
やっと、やっと、念願のしあわせを手にできると、思ったのに。今度こそ、『夢』を叶えられると思ったのに。
…………私が、一体、何をしたの?

…ふと気がつくと。マミは、礼拝堂に座っていた。
場所自体は、見知った場所だ。自宅のすぐ近くにある礼拝堂。ミサには毎回、熱心に参加している。
無意識の内に、足がここへ向かっていたのだろう。偉大なる主神様に、救いを求めて。

その主神様を疑っているくせに。

自然と、自嘲の笑みがこぼれた。あはは、先生。私、こんな風に笑えるようにもなったんですよ。褒めてくれるかなあ。せんせい。
その時、ふわりとした物がマミの肩に掛けられた。思わず、せんせい?と呟きながら横を見ると。
美しい女性が、自分の隣に座っていた。
彼女は、マミの言葉に一瞬驚いたような表情をして。すぐに、優しい微笑みを浮かべた。

―――― 大丈夫ですか?
―――― ごめんなさい、あまりにも辛そうで、少し見ていられなくて。それで、毛布を。

静かにそう語りかけるその女性もまた、マミのよく知る人物だった。
主神教に仕える、神官……の見習い、と自称していた。
元々住んでいた場所が魔物に襲撃されたため、夫(その時点ではまたギリギリ夫ではなかった、らしいが)とこの国に逃げてきたと言う。
自分達とほぼ同じ時期にこの街に流れ着いたのもあって、不思議と親近感が湧いた。
見習いと自ら言うだけの事はあり(?)、教義の知識や礼法の類はまだまだ発展途上ながらも、そのひたむきで一生懸命な姿勢にはマミも好感を持っていた。
ただ一生懸命になりすぎるあまり、猪突猛進気味なのは玉に瑕か。
厳格な神官である今の夫に対しても、結ばれるまでに相当無茶なアプローチを掛けたらしいと風のうわさで聞いている。

―――― 最近のマミさん、どこか鬼気迫る物があったから、心配で……。
―――― なにか、あったんですね? 良ければ、話してくれませんか?

彼女の声色はどこまでも優しく。その瞳は、マミへの気遣いに溢れていた。
…他ならぬ、主神教に仕える聖職者に、主神への疑いを告げるなんて。
そんな事、出来るはずがない。してはいけない。なのに………
彼女の視線を見ているだけで、全てを打ち明けたくなってくる。いったい、どうしてだろう。
やがて、マミの口はぽつり、ぽつりと語り始める。
自分を苦しめている、ありとあらゆる不条理を。
それを齎しているのが、他ならぬ主神様なのではないのかという…浅ましい、疑いを。

マミの告白を、彼女は黙って聞いてくれていた。
そうして、全てを打ち明けられた後。
彼女は静かに、両の目を瞑って。
しばらく経ってから、もう一度目を開いた、その瞬間。

「神官見習い」は、表情を一変させた。

―――― マミさん。

密やかに、緩んだ口元。うっとりと、細められた瞳。

―――― 主神様の教えは、確かに素晴らしい物です。だからこそ、私も主神教へと帰依しました。

それはとても、「神に仕える高潔な聖職者」に相応しい物ではなく。

―――― でもね、マミさん。

例えるなら。それは。

―――― この「教え」には、ひとつだけ、『大きな間違い』があるの。

人を誘惑し、道を誤らせる。

―――― そしてそれが、貴女を…貴女の旦那様を、キーニアくんを、苦しめている。

………「魔物」の、ような……。

―――― ねえ。
―――― 『真実』を、知りたくはない?

魔のモノは、そう囁いて迷える子羊へと手を伸ばす。
いつしか、マミの瞳も虚ろに蕩けていた。
その手を。優しく伸ばされたその手を、取ってしまいたい。
でも。でも、そのまえに。だめ。これは。これだけは。たしかめなきゃ。

そうしたら。せんせいは。きーくんは。ちゃんと、しあわせに。なれ、ますか。

―――― なるわ。

帰ってきたのは、力強い断言だった。

―――― もちろん、貴女だって幸せになるのよ、マミさん。

真っ直ぐな瞳が、マミを真正面から見据える。

―――― 私は、私の元に『不幸』がある事を許さない。私の愛する全てが、『不幸』になる事を許さない。

そこにはもう、妖艶な淫婦はいなかった。

―――― そのために、私はここにいる。

そこには、自らの使命を語る、高潔なる聖職者がいた。

―――― だから、お願い。
―――― 私の手を取って、マミさん。

それが、愛しい夫のためになるなら。愛する息子のために、なるならば。
マミにはもう、躊躇する理由はない。

そして、その日、マミは。

『人間』を、やめた。

■ ■ ■

こうして「サキュバス」へと生まれ変わったマミは、その後三日三晩に渡ってトートと交わり続け、完全に魔物として覚醒する事となる。
嫁が居なくなって泣きじゃくる息子を抱えてオロオロしてたら、神官さんの奥さんが嫁を伴って自宅に押しかけてきて、
「マミさんが心労で物凄く参ってるんです! これを救えるのはトートさんだけです!! いっぱいいっぱい慰めてあげてください!! それはもうぐっちょんぐっちょんに愛してあげてください!! あっその間キーニアくんはウチで面倒を見ますからご心配なく! 大丈夫です私だって絶対世界一のママになる予定だもん!!」
と一方的に捲し立てて嫁の変わりに息子を抱いて出ていった時の夫の困惑は如何ほどの物であっただろうか。
ただ本当に辛そうだったのは事実だったので、今夜はとことん優しくしてあげんと…と決意を固めはした。

そして夜になったら嫁がめっちゃドスケベなサキュバス衣装に身を包んでた。敬虔な主神教徒だった嫁が。
『マミくん…そこまで追い詰められとったんかマミくん……!?』
夫は後悔した。自分の体質を恨み打ちひしがれるよりも先に、まずは愛する妻を気遣うべきだったと。自分の無神経さが、妻をこんなに狂わせてしまったのだと。
でも勃起はしてました。なんならいつも以上に元気してました。マミくん大歓喜。

責任持って一晩中ぐっちょんぐっちょんに慰めてあげた後の賢者タイム、夫はふと思いました。
『いや、やっぱり仮にも主神教徒がさぁ…魔物(に扮した妻)とイチャイチャラブラブはあかん気がする……』
という訳で二晩目は「魔物退治っぽい感じ」で責めてみる事にしたのです。
夫は思いました。ドスケベサキュバスが自分の下でひぃん♥ひぃん♥言ってるのくっそやべぇわコレ。ハマる。ハマった。いっぱい出た。マミくん超歓喜。

そんなこんなで三日三晩の交わりを終え、夫の精をたっぷり補給してすっかりお肌艶々・魔力ビンビンになったマミは颯爽と我が子を迎えに向かう。
たった三日しか経っていないにも関わらず、すっかりげっそりとした神官の奥さんは『マミさん……ママって……すっごい大変なんだね……』と遠い目で呟いていた。大丈夫、貴女も絶対に良いママになれるわ。
…だってキーくん、こんなに穏やかに眠ってるもの。ちょっとの間でも、大切に、お世話してくれたのね。
照れくさそうに、へろへろのピースサインを向ける頼もしい仲間に微笑みを返した後。マミは息子の額に手を当て、意識を集中させる。

……魔物と化し、魔力が研ぎ澄まされている今ならば分かる。
幼い息子の中で、行き場をなくし、嵐の如く渦巻いている魔力の流れが。
途切れ途切れとなっている魔力のラインを、どうすればつなぎ直せるかも。

今まで、よく頑張ったね。もう大丈夫。あとは、ママに任せて。

そう、息子に語りかけるマミの姿は。
悪魔の如き角や尻尾を生やし、禍々しい黒き翼を広げているにも関わらず。
無限の愛に溢れた慈母そのものに見えたと、神官見習いの彼女は言った。



一歳の誕生日を迎える頃には、キーニアはすっかり元気になっていた。
これまでベッドの上からほとんど動けなかった鬱憤か、ハイハイを覚えるや否やあちこちへ動き回るやんちゃっぷりを発揮。
それを慌てて追っかけては捕まえ、ベッドに戻す夫。
夫の目を盗んで、ベッドから脱走する息子。
それに気づき、泡を食ってふたたび息子を追いかける夫……。

そんな、どこにでもあるような、平凡な家族の光景。
マミが、ずっとずっと欲しかった光景。
マミ自身もすっかり忘れていた、マミが生まれて初めて抱いた『夢』。
それがようやく、ようやく叶った幸せを噛み締めながら…マミは今日も、主神様へと祈りを捧げる。



なお、トート視点での現在の状況は『「最強勇者ワシ 〜超性剣エクスカリバーの前では淫魔女王も完全♥敗北〜」プレイを始めてから、妻は明るくますます美人になり、息子の病気が治って、ワシもなんだか腰痛(原因は老化の呪い)が良くなりました!』となる。
故にミゲル教授は己の仮説が真であると確信した。なのでこのまま続ければ絶対に髪も生えてくるはずと期待している。パパ…それはもう諦めなよ……。







◯キーニア・ミゲル (兄 → あにき → キーニア)
シスコン野郎。
本人はもちろん家族や周囲を含めて誰一人気付いてはいなかったが、実は子供の頃から若干「インキュバス寄り」の体質であった。
原因は赤子時代の「魔力治療」によるもの。サキュバスたるマミの魔力を浴びたため、影響を受けてしまったのだ。
身体能力が高い(それでもあくまで常識的範囲内)のはそのため。ただし、手先の器用さに関しては持って産まれた才能。
なお、インキュバス寄りとはいっても、比率は「人間98:魔物2」ぐらいの微々たる物である。

だが、そこに一つの罠があった。
インキュバスとはすなわち「他の魔物娘にとってのオス」である。故に、魔物娘達は(一部例外はあるが)インキュバスに対しては非常にメススイッチ(子宮がきゅんっ♥)が入りづらい。
そして理由は「まったくもってふめい」であるが、実はキーニアに年の近い女子たちは7割〜8割が魔物娘と化していたのだ。
早い話が…魔物娘もとい周囲の女子たちにとって、キーニアは「いまいちピンと来ない系男子」であった。だから全然モテなかったんですねえ。
もちろん、これは魔物避けの類ではなく、あくまで「一目惚れされづらい」という程度のシロモノ。
例えば会った当初はピンと来なくとも、付き合いを続けていく中で「あ、この人イイかも…♥」となる可能性はあった。大いにあった。
でもね。キーニアくんの回りの男子ズには、もちろんそういうマイナス補正が無いわけでね。基本みんなはそっちへ行っちゃうんだよねぇ……。
だがしかし、それが周りに回って一人の少女の恋を叶えることになるのだから不思議なものである。
なお、本編でのマミの「……なんでかしらねぇ…?」は「(魔物娘だらけの環境で、人格的に問題がある訳でもないのにモテないのは)なんでかしらねぇ…?」という意味。

香炉だの陶磁器だのなどという些か渋い趣味に目覚めたのは、8才の頃に起きたある事件によるもの。
マイとのちょっとした兄妹喧嘩により、彼女のお気に入りだったネコさんマーク入りのマグカップを壊してしまった事があった。
遠方からの流れ商人による出店でたまたま買っただけのそのカップは今となっては手に入れようがなく、大泣きに泣きまくる妹の前で両親もオロオロするばかり。
初めは怒りでへそを曲げていたキーニアも、泣き続ける妹を前にしている内になにかモヤモヤした気持ちが抑えきれなくなってきてしまい。
…気付いたときには、自分の貯金箱を握りしめて家を飛び出していた。
バザール通りに並ぶ出店を一軒一軒覗いては、同じマグカップが無いかを必死で探す。
けれども、探せども探せども目的の物は見つからない。じわじわと襲い来る絶望、それでも溢れ出しそうになる涙を必死に堪えるキーニアに、声を掛ける人物が居た。

『……アーハン? どうしたんだいショタっ子くん、迷子かな? 迷子センターへのご案内は必要かい? え、違う? もしや新手の誘い受け? んー、よく勘違いされるが、私は弟属性は守備範囲外でぇ……うん? ………なに? ………妹の? ……大事なマグカップを? ……ほう。…ほうほうほう。ほぉぉぉぉぉう………? ……そのお兄ちゃん力(ぢから)や、ヨシッ!! 推せるッッ!! この私が力を貸そう、お兄ちゃんッッ!!』

…バザールの片隅で出店を開いていた、魔法使いめいた格好の女性。
子供のキーニアでもドキリとする程の美人なお姉さんでありながらも、言動が色々と意味不明。
正直ドン引きしたキーニアが「いや、いいです…」とお断りも入れるも、『お願いッ!お願いだから推させてッ!? 私のにぃにになってくれとは言わないからせめて君が妹と仲直りする所見せてッ!?』と泣きながら食い下がられては流石に無下に出来なかった。

そして、数十分後。帰宅したキーニアは、母の胸ですすり泣いている妹に、手に持った物を差し出す。
それは、壊れてしまったマグカップ………とは、似ても似つかない、カップに似た形の、なにか。
側面にかろうじて四足歩行と見える生き物が書かれたそれを困惑しきった顔で見つめるマイに、キーニアは顔を赤くしながらこう言った。

『ごめん。まだやっぱ、うまく作れなかった。でも絶対、俺がまたおんなじの作ってやるから。こわしちゃって、ごめんな。』

…贈り物なら、手作りがベスト。そう頑なに主張する残念美人の手を借りて、拙いながらも必死で作った焼き物。作りは悪くとも、妹への想いをたっぷりと詰め込んだ一品。
マイは差し出されたそれをおずおずと受け取り、大事そうに胸に抱いて。何も言わず、ただ一度だけこくり、と頷いた。兄よりもずっと、顔を赤くしながら。

一方その頃、『はぁぁぁぁぁ…尊い…尊いよぉぉ……ちっちゃくても妹のために頑張るお兄ちゃん尊いぃぃぃ………♥ うぅぅぅ…私もはやく、にぃにが欲しいぃぃぃぃぃぃぃ…………!!』と大量の涙と鼻水とヨダレを垂らしながらミゲル家を覗き込んでいる不審な女性が通りすがりのご近所さんにより通報されていた。
だが数分後、憲兵が駆けつけたときには既にその女性は姿を消していたという。

謎の残念美人との関わりは、それが最初で最後であった。本来ならば数時間は掛かる焼き物を、あの時はなぜ数十分足らずで作ることが出来たのか。今なお解けぬ謎ではあるが、気にしてみてもしょうがない。というかあの人ちょっと怖かったしもうあんまり関わりたくない。
兎にも角にも、妹との約束を果たすためにマグカップの製法を学び始めたキーニアが、陶器全般の魅力に取り憑かれていくのにそう時間は掛からなかった。
件の処女作については、マイが今でも愛用している。カップではなく、筆記具入れとしての用途であるのはご愛嬌。
約束についても、二年前に無事果たされた。妹のおねだりによって2個作られたそれは、兄妹用として仲良く食器棚に並んでいる。

余談であるが、この事件をきっかけに妹は兄を「自分だけのオス」としてロックオンした模様。むしろよく2年も我慢したねマイちゃん。

今回の騒動で両親が新婚旅行未経験だと知ったため、今度は6泊7日の夫婦旅行をプレゼントしてあげようと画策中。
その気持ちの内訳は「親孝行」が4、「妹との仮想らぶらぶ新婚夫婦性活リベンジ」が6である。







◯マイ・ミゲル (妹 → マイ)
ナチュラル・ボーン・ドスケベ。
父の直感力と母の魔術的才能と兄への切ない恋心と魔物の魔力とお砂糖とスパイスと素敵ななにかが混ざった結果誕生したトンデモ性欲モンスター。
実は余裕で魔界勇者に就任できる程の実力を秘めているが、その魔力の全てはお兄ちゃんとのエロ行為にのみ使用される。なんでこんな事になっちゃったの。
計画を成功させるための最後の1ピースがよりにもよって宿敵たる魔物そのものにあったとか、主神ちゃんでも思うめぇ…。
お兄ちゃんとこれまでシた中で最も盛り上がったプレイは『アトール陥落三部作』。
魔力を編み上げて結界、すなわち「全てが自分の思い通りになる空間」を作り出し、なんかこう時間や空間を『チョチョイのパー(注:術者自身がこう表現している)』することで、小規模なアトールを再現。
実際の結界範囲内は「兄の部屋」を覆うぐらいの規模でありながら、このアトールの中では「数日〜数年単位」に及ぶ仮想生活を送る事が出来る。もちろん、実際に流れる時間はせいぜい一晩。
その中でお互いの立場を諸々変えながら三晩(実時間換算)続けて行った超本格的イメージプレイこそが『アトール陥落三部作』である。
第一夜「サキュバス♥マイちゃん 〜遂に見つけた私だけの王子様♥ マイの虜にしてあげる☆〜」は、「魔物の襲撃により陥落するアトールと、そこで暮らす一般人キーニアに一目惚れ即逆レイプ♥」という比較的シンプルな内容。
第二夜「悲劇の勇者・マイ 〜あなたの為だけに勇者を捨てた、とっても悪い女の子の話〜」では、「勇者という立場故に愛する人と結ばれない悲しみ」を二年(結界内時間)に渡って熱演。クライマックスの魔物に堕ちてからのらぶらぶ慰めえっち♥は大層萌えたが、ちょっと過程がきつかった。
第三夜「勇者キーニアVS魔王マイ 〜貴様を殺すのは私だッ!憎しみと色欲に塗れた五年間殺し愛生活〜」は封印指定。第二夜における自分の演技力に妙な自信を付けたマイが『芸風を広げたい!』と挑戦した物の、ふたりの関係性がねじれにねじれた結果ラストが相打ち心中エンドに。
翌日、そこには兄妹揃って寝込んでしまう程に精神的大ダメージを負ったバカップルの姿が! なお最終的に、『前世では色々あったけど今はらぶらぶ兄妹に転生したの♥おにいちゃんだいしゅき♥』プレイを翌晩敢行する事でどうにか精神の均衡を取り戻した。
そして家族会議後、母と娘の仲良し女子会にてこのプレイ体験を耳にした母は夫を呼び出し緊急家族会議を開催。
自分の予想を遥かに越える娘の魔力的才能およびそれを制御するための教育方針について夫と入念な打ち合わせを行い、それを横で聞いていた娘は理解が追いつかないあまりにお兄ちゃんの膝上でごろにゃん♥ごろごろぉ♥するだけの可愛いネコちゃん妹と化した。

現在の夢は、家族みんなでの『合同結婚式』を開くこと。『結婚式は女の子の夢!』と豪語し、大好きなママが念願のウェディングドレスに身を包める日が一日でも早く来るように、色々と頑張っているようだ。

数年後。とある魔法道具が魔物夫婦界隈にて流行する事となる。
その道具の名は『妄想の香炉』。制作者は、謎の覆面道具職人「マイスター☆シスター」。
基本的な使用方法および用途は、かの有名な『夢想の香炉』や『思い出の香炉』と同様に「使用した魔物夫婦を夢幻の世界へ誘う」というモノだが、その「夢幻の世界」の構築能力が桁違いの代物となっている。
職人が手づから魔力を込めた香料を使用することで、無限の世界へ年単位の時間で浸れるだけでなく、なんと『別の魔物として生を受けた場合の人生』すらも味わえるという。
もちろん『魔物娘が魔物ではなく人間として生を受けた場合の人生』も楽しむことが出来る上、なんでも「マイスター☆シスター」氏は『男性側が妻の魔物と同種族(オス)として生まれた場合の人生』を再現するべく研究を重ねていると言う。
『魔物娘ではない、オスの魔物(非インキュバス)』の存在は既に絶滅して久しく、その再現は困難を極めることが予想されるが、それでもなお「マイスター☆シスター」氏の実力に大きな期待をかける魔物娘は多い。
なおこの商品、香炉自体にはなんら特別な効果はないが、これもまた専属職人の手による作品だと言う。素朴な作りながらも、二匹の猫が仲睦まじく並んだ意匠はどこか微笑ましく、一部では評判だとか。




◯聖地カドコノ (どこかの → カドコノ)
「聖域」と呼ばれることもある、広大な区域全体を強力な結界で覆われた教団の重要拠点。
高名な魔導師達数十人の手で組まれた複雑な結界は、魔王の娘「リリム」ですらも破れないと謳われていた。
だがある時、聖地護衛のために派遣されていた勇者が魔王軍へと寝返るという事態が発生。
魔王の手先へと堕ちた勇者自身の手により結界は破壊され、次いで強襲した魔王軍により「聖域」が一夜にして陥落し魔界と化したこの大事件は「カドコノの悲劇」として知られている。
なお、裏切り者の勇者については何者かによって既に討伐されているという噂が流れており、また実際にこの結界破壊事件以降は全く活動が確認されていないが、詳細は不明である。

◯神官夫婦
二十年ほど前にアトールへと訪れた、主神教団の神官たち。
かの「カドコノの悲劇」からの生存者であり、命からがらの逃亡の末にこの国へたどり着いたと言う。
夫は教団の信徒として長く活動しており、神官と呼ぶに相応しい教養と知識を有しているが、妻は主神教に属してからは日が浅く、まだまだ見習いと言った立場のようだ。
二人は「カドコノの悲劇」をきっかけにして出会い、妻が入信したのも夫の影響によるものらしい。
夫婦揃って若々しい外見をしているため、実年齢を答えると毎回驚かれるとか。若さの秘訣は、妻いわく『愛』とのことだ。
ちなみに妻には遠く離れた場所に妹分とも呼べる程の大親友がいるらしく、現在も定期的に文通を続けているそうな。

◯宗教国家アトール (とある → アトール)
主神教の信者が多く住まう「主神教国」でありながら、反魔物ではなく「中立国」の立場を保ち続けているという珍しい国家。
国主たるアトール[世が『正しく生きよ、隣人を愛し親切であれ』という教義を最重視した施策を続けており、
魔物達と積極的に事を構える、すなわち争いへと繋がる「反魔物思想」に対して忌避感を覚えているからである。
が、それはそれとして国民達含めて「魔物=人食いの恐ろしい存在」という思想自体も信じてしまっているのはご愛嬌。
感覚としては「せっかく姿も人間そっくりで意思疎通できるのに、なんで人を食べたりするんだろうなあ。それさえなけりゃ仲良く出来そうなもんなのに。」というもんである。
これもう侵略してくれって言ってるようなもんだよね。和姦だよね。シていいよね。シた。
という訳で、実は現時点で既に国民の四割程度は魔物化済みというとんでもない事態に陥っている。
魔物の襲撃があった訳じゃないのになあ。ふしぎだなあ。どこかにまもののすぱいでもひそんでいるのかなあ。

数年後、最後まで表立った争いや諍いの無いままに明緑魔界へと生まれ変わったアトールは、「世界で最も静かな魔界化」が起きた国として知られることとなる。
国のスタンス的にも「主神教徒のまま魔物化した国民」が非常に多く、「魔物国家」にして「主神教国」という特異な立ち位置を確立。
主神の救いを求める人々を人魔問わずに積極的に受け入れるアトールは、今後も末永く繁栄を続ける事だろう。
23/06/12 21:55更新 / 突発執筆マン
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■作者メッセージ
きっかけは、些細なことでした。
トートパパが「ハゲちゃうわぁぁ!!」と叫んだ時。
ちょっとした疑問が、頭に浮かんだのです。
『なんでこのハゲここまで過剰反応しよるんやろか。』
こんなになるって事はなんかトラウマがあるよね。ちょっと考えてみようか。
それが全ての始まりでした。

誰が思うよ。ハゲネタが転がりに転がってこうなるとか誰が思うよ。特にマミくんには酷いことをしたよね。ごめんなさいマミくん。
それから娘と名前ダダ被りにしちゃってごめんなさいマミくん。ネーミングセンスが絶望的な筆者を恨んでくれて良い。
まあ台詞オンリーだからなんとか…!と思ってたらトートが予想以上にマミくんマミくん言い出してちょっと焦った。でも「マイくん」と誤字ったのは一回だけだったよ、ほめて。

この話の裏テーマの一つは「主神教団へのポジティブキャンペーン」だったりします。
ただの悪役ではない、きれいな主神教団および主神教徒も書きたかった。いや暗部とか出しちゃったけどね? でも自浄作用で潰れたから多めに見てほしいな…?

気がつけば、なんだかんだでもう4作目の投稿になりますね。思わず筆がノッて、過去にチラッと出てきたあれやこれやを繋げ始めてしまいました。
完全に自己満足ですごめんなさい。リrもとい神官見習いちゃんのキャラがどんどん立ってきて自分でもびっくりしてます。
…この子は旦那さんいるけどなぁ、残念美人はなぁ……書いててすっげぇ楽しいんだけど、エロい気分になれねぇんだよなぁ…どんなにぃにが相応しいんだこいつ…
あ、某Rちゃんが自分のオスをああいう呼び方してるのはもちろんこのお姉さんの影響です。

(…そろそろ本格的に性癖が妹狂いなのが諸兄の皆様にバレる頃かな……)と今更な危惧を抱く、突発執筆マンでした。次回はお人形さんの夢の中にて、またいずれ。…浮気はもうこれっきりにするからゆるして。

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