後編
「いいですか」
そう言ったのは龍姫姉だった。
寂しげで悲しげで、とてもつらそうな表情を浮かべている。
「いいですか、ゆうた」
龍姫姉はもう一度繰り返して言った。
「ここから出て外へ行けば私達のような存在はいません。全くと言っていいほどです」
「…?」
その言葉の意味がわからない。
その表情の意味もわからない。
どうしてそこまで悲しげでオレの顔を覗き込んで言うのか、どうしてオレの頭に撫でるわけでもないのに手を乗せているのか。
「ここは外と全然違うといってもいいでしょう。私達のように頭から角や耳を生やした女性も、下半身が足でないものも、提灯や猫に化けるものもいません」
「そうなの?」
「ええ、そうです」
そこ龍姫姉は言葉を切った。
その先を言いたくないからか、迷っているのか、躊躇っているからか。
しばらくは何も言おうとしなかった。
それでも結局は口を開く。
苦々しげに、重々しくその言葉を言った。
「―だから、忘れなさい」
「…え?」
「ここであったことは忘れなさい」
龍姫姉の下半身が彼女の体ごと巻きついた。
逃がさないようにというつもりではないだろう、きっと離さないために。
手放したくないと我侭を言うように。
口にしていることと全く逆のことを思って、だろう。
「何もかも、忘れなさい。ここであったことは外ではありえないこと。私達との関わりはあってはいけないこと。だから…忘れなさい」
「なんで…?」
「覚えていたら…きっと大変なことになるからです」
そこから先並べられた言葉の内容は詳しく覚えていない。
ただそれでどういいたかったのか、どう伝えたかったのかは今だからこそわかる。
こんな世界で神様なんて存在は非科学的なもの。
幽霊と同じ、言葉にあっても実在しないもの。
名前はあっても目にはできない、そこにいるという証拠はない。
そんな世の中でここでの生活はいい影響にならない。
人の姿をしていない彼女達との暮らしはこれから先の生活で害となるかもしれない。
オレと龍姫姉達。
人間と人外。
人と神。
―それを区別するためにはオレは幼すぎたのだから。
だから、だからだろう。
龍姫姉がこの手を取ったのは。
オレに向かってそう言ったのは。
「やだよっ!」
オレは大声で叫んでいた。
子供ながらに我侭で、何もわかっていなくて、龍姫姉がどれほどまで迷い、下した決断かなんて知らずにただ嫌がっていた。
「ボクはいやだ!そんなわすれるなんていうのはいやだ!みんなといっしょにいたのをわすれたくないっ!」
「…ゆうた」
「たつきおねえちゃんといっしょにやくそくしたことをわすれたくないっ!」
「…っ」
「ぜったいに、おぼえてるもんっ!」
そんなオレの言葉に龍姫姉は顔を伏せた。
紫色の綺麗な長い髪が垂れて表情を隠す。
どのような顔をしているのかわからないが一つ二つ、雫が垂れたような気がした。
「…まったく」
そう言いつつも彼女は顔を上げてくれない。
それでも片手でオレの体を抱きしめる。
巻き疲れているこの状態では既に隙間さえもないのだがそれでもきつく抱き寄せる。
「ゆうたは…我侭ですね」
「わがままでいいもんっ!」
「ふふ、我侭で、甘えん坊で…それでも真っ直ぐで…やんちゃな子…」
そうして龍姫姉は囁いた。
それが最後の言葉。
それが終わりの言葉。
「ゆうた―」
そうっと、小さく、それでもハッキリと。
「―大好きですよ」
そこで記憶が途切れる。
それがあの頃の終わり。
オレが今まで覚えてなかった理由で、思い出せなかった理由。
何をどうやったのかはわからない。
それでも龍姫姉はオレのためにあのときのことを忘れさせた。
それは苦渋の決断で、苦難の決意。
それがオレのためだから。
だからこそ忘れさせたんだ。
次に目を開けたところで目の前にいたのは人間の女性である先生の姿だった。
「貴方が黒崎ゆうた君ですか?」
そして何もなかったかのように彼女はそう言ったのだった。
「本当はずっと忘れたままにさておくはずだったのですけどね」
龍姫姉はそう言いながらオレの体を優しく抱きしめる。
それはあの時と同じ感覚で、懐かしき感触。
人間ではない神様の姿。
大きい手、鱗の生えた腕、角の生えた頭、蛇のように長い体。
どれもがあの時と同じ、まったく変わらないもの。
安心できるこの温もりも、包まれるような安らぎも、満たしてくれる充足感も同じ。
間違いなく龍姫姉のもの。
それらを感じながらもオレは疑問に思ったことを聞く。
「ずっと?」
「ええ、ずっと。もう二度と思い出さないようにと…そう願って術をかけたのですけどね…」
術。
それがオレの記憶を縛っていたものだろう。
思い出さないようにずっと奥深くまで沈めておき、そのまま朽ち果てて墓場まで持っていくはずだったのだろう。
そこまで龍姫姉がオレのことを考えてくれていたことに嬉しく思う反面、そんな決断をしたことに寂しさを覚えた。
「でも、思い出してくれた…」
「…龍姫姉」
「私との約束まで思い出してくれるなんてとても嬉しかったです」
そっと顔だけを動かして見ると言葉通り龍姫姉は嬉しそうな顔をしていた。
人間らしい耳はなく、あるはずのない雄雄しい二本の角が頭から生えている。
こんな闇夜でも煌く金色の瞳とアジサイのように鮮やかな紫色の長髪はそのままだ。
「ありがとう」
龍姫姉はそのままそっと口づけする。
唇にではなく頬へ。
それは先ほどしてきた色っぽい唇での愛撫ではない、子供によくやる愛情ある行為。
昔にも何度かされた記憶がある。
それはくすぐったくて、それでどこか心地いい。
だが今となってはやはり照れる。
あの頃は性を意識する年頃ではなかったし、逆に今のオレは大人。
龍姫姉の行為にオレは指で頬を掻いて小さく笑った。
「どういたしまして」
その言葉を最後にオレと龍姫姉は何もしゃべらなくなった。
しとしと降り注ぎ湖面に弾ける雨音だけが大きく伝わる。
時折葉を叩く音も聞こえ、暗闇には雨の音だけが響いていた。
その雨音を聞いて思う。
そういえば龍姫姉は水の神だっけ。
それも天候を変えられるとかなんとかとおばあちゃんが言っていたな。
もしかしてこの雨も龍姫姉が降らせたのだろうか。
もしそうだとしたら龍姫姉は狙っていたのだろうか?
それともオレの記憶が戻ることを期待していたのだろうか?
さりげなく、あの時と同じ状況を作り上げることで。
…どうなのだろう。
龍姫姉に聞こうと体を捩ったそのとき。
「はくしゅっ!」
思わずくしゃみが出てしまった。
いけない、雨で冷え切っているからだろう体の方が不調を訴えているようだ。
後ろから抱きしめられているとはいえ夜の雨が生む寒さは人肌同士で暖めるには少々足りない。
「寒いですか?」
当然龍姫姉は聞いてくる。
見てみれば子供を心配するような親の顔だ。
「平気。それよりも龍姫姉は?」
「私はこれくらい平気です」
龍ですからね、彼女はそう付け加えた。
確かに龍姫姉は龍だ。ついでに言うと神様だ。
そんな彼女に寒さや暑さはあまり関係のないものなのかもしれない。
感じる体温は温かいけど。
「中に入りましょうか」
そう言って龍姫姉は部屋のほうを指差した。
古い木でできた戸の隙間から明かりが一筋漏れている。
そりゃ室内のほうがここよりも暖かいだろう。
でも今はこのままでいたいと思うところもある。
ようやくここまで来れて、あの時と同じ状況なのだから。
このままをもう少し味わいたい。
「大丈夫。このぐらい平気だよ」
「ダメです」
…あれ?龍姫姉?
なんだか態度がおかしいぞ?
「風邪でも引いたら大変ですよ?さぁ中へ行きましょう」
「え?いや、平気だって」
「ダメです」
…じゃ、何で聞いたんだ。
龍姫姉の一方的で親のような扱いに苦笑しつつもオレは頷いた。
「それじゃあ中に行くよ」
「ええ、そうしましょう」
彼女に幼子のように手を引かれするする滑る先生の隣を歩いて二、三歩、目の前の戸に手を伸ばして二人分の幅を開いた。
「…」
開いて固まった。
戸を開き目の前に広がるのはこの部屋の光景。
広く何十枚と敷かれた畳。それからお供え物をする台に壁に刻まれた龍の姿。
後は染みのある天井だとか、この部屋を十分に照らす明かりを放つ蛍光灯だとかそれくらい。
それくらいならまぁいいだろう。
この部屋の、この空間の普段どおり。
普段どおりではないところといえば先ほど龍姫姉が脱いだ服だろう物が丁寧に折りたたまれて鎮座しているぐらい。
後はオレが持ってきたお神酒の瓶がお供え物として置かれているだけ。
ただそれだけのはずだが…。
どうしてだろうか、目の前にはそれ以外のものが見える。
この部屋の中央に陣取るかのように敷かれたそれ。
大きめに見ても…というか実際それなりの大きさがある。
二人三人寝転がれるほどに広いそれはどうみても…布団だ。
布団ってここの部屋にしまわれてたっけ?
先ほど思い出した記憶の中に龍姫とここで寝ていた記憶もいくらかあった。
そのときここで寝ていたのは覚えているが…もう少し小さめの布団だったような…。
いや、そこじゃない。
気にすべきところはそこじゃないんだ。
問題はその布団について。
畳の上に敷かれ、その上に毛布を置く。
そこまでは別段気にするようなものではない。
だが、枕が。
枕が二つ。
そしてその布団は一つ。
一つの布団に枕が二つ。
時間は既に真夜中と言っていいだろう。
そんな時間に布団、これはもう寝るということを意思表示しているかのようだ。
寝るにはちょうどいい時間だしそのまま包まって朝まで夢の中へと旅立つことは当然だ。
生物として当然のことだ。
だが問題は枕が二つ。
枕が、二つ。
「…?」
何度見ても枕は二つだ。
一つではない。
それどころか布団は一つだ。
くどいようだが枕二つで布団一つって…うん、どういうこと?
ここで寝るのはオレと龍姫姉だけだよな?
あれ?オレはここで寝るの?
あれ?オレは別のところで寝るんじゃないの?
布団は二つ必要じゃないの?
混乱している頭だがどう考えたところで結論が変わらない。
頭の中に浮かんだ言葉はどれも同じ意味のもの。
人間の男と龍神の女。
いくら人外といえ、神様といえ龍姫姉は女性。
それでオレは男性。
男と女が同じ布団に寝るということ。
男女が同じ床で一夜をともにすること。
すなわち―
―床入。
―共寝。
―同衾。
「いやいやいやいやいや!」
あまりにも露骨な表現。
あまりにも予想外な展開。
これはつまるところつまり、そういうことですか?
男女の契りとかそういうことになるっていうんですか!?
「…えっと、龍姫姉?布団が一つしか見当たらないんだけど?」
これは間違いか、見落としか、ただのお茶目な悪戯なのか確かめるために龍姫姉に聞いてみた。
彼女はオレの質問に対してにこやかな笑みを浮かべて一言。
「ええ、一つだけですよ」
…どうやら見間違いでも見落としでも、ただのお茶目な悪戯でもないようだ。
というか確信犯だ。
「えっとさ、龍姫姉…ここは二つ必要なんじゃないの?」
「寝るのには一つで十分でしょう?」
「一人で寝るときにはそうだけど」
「二人で寝るときもそうですよ」
どうしてだろうか、龍姫姉の言い方が少しばかり強くなってきた気がする。
それどころか腕が背にまわされ、尻尾が足をするりと撫でる。
それはまるで催促しているようで、一歩踏み出すように促しているように思えた。
「えっと…二人で寝るっていうのは?」
「文字通り、言葉通りです。いくら冬ではなくとも雨の降る夜は寒いですしね」
「そりゃ寒いけど布団に入れば平気でしょ」
「それでは布団に入りますか」
ごめん、促したつもりはなかったんだけど…。
というかどうして龍姫姉は頬を染めているのだろうか。
片手で口元を押さえてなんともしおらしい。
大人の女性、いくら姿が人間離れしていようとも美女であることに変わりない。
その姿は見ているだけで惑わされるような妖艶さを、同時に今すぐにでも押し倒したくなるような可憐さを秘めていた。
…ってそうじゃない。
「いくらなんでも男女が二人同じ布団に入るのはいけないんじゃないかなーと思うんだけど?」
「あら、昔には何度も一緒に寝ていたでしょう?」
「それは小さかったからであって…」
「今は大人、というわけですか?」
「そう」
男女七歳にて同衾せず。
大人になればやたら親しくするべきではない、距離を置いて礼節をわきまえるべきだ。
慎むべきところはつつしみ、重んじるべきところは重んじなければ。
「むしろ、大人だからでしょうに」
「…え?」
「年頃の男女はわきまえるべきですが…夫婦ならそれくらいしても当然ですよ」
「夫婦!?」
予想外の言葉に体が固まった。
夫婦って…結婚もしてないのに気が早いんじゃ…。
「夫婦って言うにはまだ早いんじゃ…」
「早くはないでしょう?神前で契りを交わさずとも約束を交わしたのですから」
神前っていうか…神隣というか…その約束した相手が神様なのだけど。
「それとも―」
そこで龍姫姉はオレの頬を両手で挟んだ。
そのまま顔を近づけ息が掛かるほどまで近寄ってくる。
甘い香りと熱い吐息が肌を撫で、目を逸らすことなんてできなくなった。
「―ゆうたは結婚の約束をした女性を前にして何もしないのですか?」
…しまった。
言った手前、思い出してしまったこの現状。
拒むなんてことは許されない。
拒めないわけでもないが、先ほどの発言からしてそれはまったく逆のものだ。
好きだというより、大好きだというより、ずっと先の言葉を言ったのだから拒否なんてできるはずがない。
「ゆうたは私が嫌いですか?」
嫌いなわけがない。
「私が不満ですか?」
不満なんて欠片もない。
「迷惑ですか?」
そんなことないに決まってる。
だけど、でも、オレは―
―…やめよう。
何を拒む必要があったんだ。
何でここで躊躇っているんだ。
ここまで来たというのに、ようやく思い出せたというのに。
あともう少しだけ踏み出せばいいだけなんだから。
「…龍姫姉」
オレは龍姫姉の手を掴んだ。
鋭い爪に煌びやかに輝く鱗、それから伝わる硬くも優しい彼女の感触を手に感じつつそっと引く。
先ほどから龍姫姉がしてくれたように今度はオレが手を引いていく。
引いて、そのまま二人で布団の上に座った。
オレは正座、龍姫姉も同じようにして座り伸びた下半身をさりげなくオレの後ろへと這わせる。
部屋の中とはいえ外は雨、そして夜である以上この部屋もそれほどまで暖かくない。
快適というには少しばかり冷たい温度がやけにハッキリと感じる。
戸を越して伝わってくる雨音もよく聞こえる。
それはここで何も音が響かないから。
何を言ってあげるのかなんてわからないから。
聞こえるのはせいぜい微かな息遣い。
これからすることは未体験である以上どうすればいいのかなんてわからない。
だから無骨になっても無粋になっても許して欲しい。
「その、オレも男だから…だから…」
「…はい」
龍姫姉は小さく返事をした。
オレの返事を待ってくれているように、それでいてどこか期待に目を輝かせて。
「…止まらないよ?」
その言葉に彼女は頷いた。
優しく、母性溢れる笑顔で。
同時にどこか妖艶で、艶のある笑みで。
「止まらなくていいのですよ。求めて良いのですよ。ゆうたに求められることをどれほど心待ちにしていたか…」
「龍姫姉…」
「だから、来て下さい…♪」
その言葉に今度はオレが頷いて龍姫姉の肩に手を置いた。
このまま押し倒すのがいいのだろうか?
それとも服に手を掛けたほうがいいのか?
いや、でも始めはやっぱりキスから…?
そう考えていると彼女が控えめに口を開いた。
「ただ…」
「うん?」
ただ…どうしたのだろう。
心の準備が整わないから待って欲しいというのだろうか?
しかし龍姫姉の口にした言葉はオレの予想と違っていた。
「もう一度、言ってもらえませんか?」
「え?」
「先ほどの言葉を…聞きたいのです」
「…」
その言葉にオレは一度逃げるように視線を外し周りを確認して(確認というよりはただの時間稼ぎというか…)一息ついた。
結婚するとまで言った以上今更好きなんて言葉で事足りないだろう。
好きだ何てそれは子供の頃から既にわかっていることだし、確認するまでもない。
だから少し洒落て、ちょっとばかり悪戯めいて。
それでいて、本当の気持ちを彼女の耳に囁いた。
「―愛してる」
「っ!」
一瞬龍姫姉の体がびくりと大きく震えた。
表情を伺えば顔は真っ赤、それでいて嬉しそうな、でもどこか泣き出しそうな表情を浮かべている。
してやったり。
ただ囁いたオレも鏡を見なくてもわかるくらいに顔がわかるくらいに赤くなっている。
このような言葉を口にしたことは今までなかったし、何よりその相手が龍姫姉なのだから。
どこか気恥ずかしさを覚えた。
「それじゃあ…」
「ええ…♪」
共に小さく頷いて、肩に置いた手を首筋へと添える。
逆に龍姫姉はオレの両頬に両手を添えた。
胸に手を当てずともわかるほど鼓動が大きく脈打つ。
もしかしたら龍姫姉にも聞こえているのではないかと思えるほどだ。
しかし龍姫姉は瞼を閉じていた。
その間にも顔を近づけ唇をそっと突き出す。
部屋の明かりを艶やかに反射する桜色で柔らかそうな唇。
瞼を閉じて紅潮した頬で誘うような表情。
オレも龍姫と同じように瞼を閉じる。
そして、そっと唇を重ねた。
「ん」
「んっ♪」
感じたのは柔らかさ、それから上品な甘さだった。
この世にこれほど柔らかなものがあったのかという驚きと高級和菓子のようなしっとりとした甘美な味。
それから背筋を貫く経験のない快感だった。
蕩けるような快楽で、今までにない極上の快楽で、染み渡るような優しい快楽。
いかにも龍姫姉らしい、彼女とのキスだからこそ得られる感覚。
それを十分に堪能してからオレはすっと唇を離した。
唇を重ねていたのはとても長い時間だったかもしれないし、とても短いものだったかもしれない。
時間感覚が狂うほど彼女との口付けは夢中になれた。
「龍姫姉…」
その名を呼んで恥ずかしげに表情を伺えば彼女は照れたような笑みを浮かべていた。
笑みを浮かべたまま湿った唇の間から舌を出す。
それはゆっくりと先ほどオレの唇が重なっていたところを拭って戻っていく。
その行為はどこか物足りないと催促するようであり、どこか妖艶なものを感じさせた。
「ゆうた…」
名を呼ばれ体が近づけられる。
上体を寄せた龍姫姉はそのまま下半身をオレの背に当てた。
どうやらもっと近づいて欲しいようだ。
オレも身を乗り出して体を寄せると―
「―んっ!?」
「んちゅっ♪」
不意打ちでキスをもらった。
それも先ほどの重ねるだけではない、唇から舌を入り込ませる深いキス。
驚いて反射的に逃げようと身を引くが彼女の体に阻まれた。
「ん、ふぅ…れろ、むちゅ♪」
逃げることなんて許されず、引くことなんてかなわない。
雅やかな甘さが脳の奥まで染み渡り、媚熱で頭が火照っていく。
割り込んできた龍姫姉の舌はオレの舌を探り当てると逃げるよりも早く絡め取った。
「ん、むーんんん!」
「ん、ふむぅ♪…ん、んー♪」
先ほどよりもずっと深い口付けは先ほどとは比べ物にならないほどに甘いものだった。
肌よりもずっと高い体温が、唇とはまた違った柔らかさが、ぬるぬるとした蜜のような唾液が纏わり、伝わり、絡んでくる。
さらに深くまで潜り込もうとしているのか龍姫姉の手が後頭部へと回された。
体には二つの大きな膨らみが押し付けられ後ろへ倒れそうになるも彼女の体に支えられる。
それは互いに尽くしあうようなキスではなくて欲望にまみれた口付けだった。
一方的、それで問答無用。どこか優しさを残すも貪欲な行為。
それでも不思議と嫌とは感じないのは龍姫姉が愛する女性だからだろう。
抵抗なんてするはずもなく、逆にオレからも積極的に舌を絡ませていく。
それだけでは止まらない。
彼女の甘く柔らかな舌をねっとりと舐め上げ今度はオレからも舌を突き出し進んでいく。
龍姫姉は抵抗の意を見せず、それどころか待っていたとでも言うようにオレの舌を口内へと受け入れた。
龍姫姉の口内はよりいっそう甘みが増した。
柔らかな舌はオレの舌での愛撫を心待ちにしていたかのように絡みつき、自分の領域に踏み込んできた獲物を貪欲に啜る。
「んちゅぅ♪…ん、んふっ♪ふ………ん、んんっ♪」
「ん、ふぅ、んっ」
気づけばオレの体は徐々に龍姫姉に押されて後ろへ倒されていく。
それに加えて前からは体で押し、支えてくれていた蛇身が下がっていく。
後ろに手をついて支えたい一方この快楽に指先一本も動きそうにない。
それほどまでにオレはこの口付けに酔わされ、もっと味わいたいと欲張っていた。
「んんんっ♪」
口内へと侵入させた舌が押し返され、再び龍姫姉の舌がオレの口内へと侵入してくるのと同時に体重をかけられた。
支えるはずだった手を彼女の首筋に添えている以上抗うものは何もない。
そのまま力の任せるままに倒された。
体が柔らかな布団に受け止められ、体の上からは龍姫姉が倒れこんでくる。
当然唇は重ねたまま、舌を入れたままで。
後ろが布団になったこともありこれで引くことは完全にできなくなった状態でオレと龍姫姉のキスはよりいっそう激しいものとなった。
「んんっ♪ひゅぅ、ふ…ん…ちゅぅ、あ、んんん♪」
重ねるというよりも押し付けるような。
啄ばむというよりも噛みつくような。
啜るというよりも貪るような。
荒々しくもとろけるような甘いキス。
そんなキスを受けていたらいきなり龍姫姉の体が跳ねた。
「んひゅっ♪」
体が震えるも強く唇は重ねたままで艶の掛かった声が漏れた。
そして震える龍姫姉とは反対に固まるオレの体。
固まったのは手に感じる感触が変わったから。
龍姫姉の艶やかな白い肌の弾力が柔らかなものへと変わる。
力を入れた分だけ沈み、包み込んでくれるような。
唇とはまた違う柔らかさが身にまとう布とオレの手を通して伝わってきた。
見なくてもわかるそれが何かはわかっている。
オレの手は龍姫姉の首筋から勝手に移動してそれで…胸に添えられていた。
口ではなんだかんだ言っても本能は一人の女を求める男。
意識していなかろうが本能がその先を求めて動き出している。
そこでようやく龍姫姉は名残惜しげに唇を離してくれた。
銀色の糸が伝い、ぷつりと切れる。
唇の下についたそれを龍姫姉はゆっくりと見せ付けるように舐め取った。
「ん、ふ♪やっぱりゆうたはおっぱいが好きですね♪」
「いや、その…」
「口ではなんだかんだ言っても手はこっちに来てますよ♪」
「…」
体が勝手に動いたといっても事実は事実なので言い訳できるわけもない。
それに…その、好きなのも事実なんだし。
「いいのですよ」
そこで龍姫姉から声が掛かった。
「我慢しないで。止まらないで。ゆうたの好きなように…してください♪」
「っ!」
そんなことを言われては止まれるものも止まらない。
愛する女性が全力で受け入れてくれるというのだからここで止まれば恥だろう。
なら止まらず、躊躇わず。
行動で示すまで。
オレは両手を龍姫姉の服にかけ、そっと開いてその豊満すぎる膨らみを開放させた。
「…っ」
服越しから、という昔からずっと思っていたのだが龍姫姉の胸は大きい。
小さなスイカでも詰め込んでるんじゃないかと思ったほどだ。
これほどまでに大きい女性はそういないだろう。
そこらのグラビアアイドルも真っ青になるほどだ。
子供の頃には一緒に風呂に入っていても、あの時見るのと今見るのではだいぶ違う。
子供と大人じゃ感じるものが違う。
ふっくらとしたその膨らみは片手では支えきれそうにないほどでオレが手で支えても埋もれてしまうほど。
その大きさもさることながら重力に負けずに綺麗な形を保つその張りが美しい。
そして先端にあるつんとした桜色の乳首。
紫色の長髪と龍姫姉の持つ美貌とスタイルのよさはその全てが天女を思わせるほど。
「そんなに見られると…恥ずかしいです♪」
そういいながらも彼女の目はどこか期待の色を見せつけていた。
それを確認してから視線を戻す。
服の拘束を逃れたそれはオレのすぐ目の前に存在している。
龍姫姉は上から覆いかぶさるようにキスしていたのだからそんな体勢で服を脱がせればとうぜんこうなるだろう。
そしてすぐ先にある胸の先端が、そこにある。
既にぷっくりと膨れていて硬くなっているだろうことは予想がついた。
興奮してる…?
だったら、そうだとしたら…。
ぞくりと悪寒にも似た感覚が背筋を上ってきた。
それと同時にどす黒い欲望が鎌首をもたげた。
下から押し上げるように手を出す。
「ふ、あっ♪」
途端に漏れ出す龍姫姉の切ない声。
艶の掛かったそれと共にわずかながらに息が荒くなる。
手に伝わる感触はパン生地とかマシュマロとか思いつくもの以上に柔らかい。
手の平に吸い付きずっしりとした重量が両手に掛かる。
力をこめて揉みしだく。勿論痛みを与えないように配慮しながら。
「んん…♪あ、ぁん♪」
甘い声はねだるように頭に響きオレもそれに答えるように手を動かした。
小指から親指まで波打つように力を込める。
その分龍姫姉の胸はぐにぐにといやらしく形を変えた。
同時に表情も変わってくる。
慈愛溢れたあの笑みがオレによって与えられる感覚に耐える表情。
しかしどこかとろけるような、求めるような潤んだ瞳。
そんな瞳で見られたら…こちらも止まれなくなるというものだ。
揉む手を止めて今度は指先に移る。
指の腹で最小の面積が触れるように、ふくらみのラインを撫でた。
「ひゅぅっ♪」
途端に先ほどより跳ねた声が漏れる。
龍姫姉は敏感なのか、それとも女性というのはこういうものなのかわからない。
それでも喜んでくれているようならなによりだ。
それじゃあ今度はと思い指先で龍姫姉の胸に乳首を中心にして渦を描く。
「ん、んぅ♪」
中々な反応。
そのまま指先の描く円を徐々に小さくしていく。
そのときそっと乳輪に指先が触れた。
「ひゃぁ♪」
今までのあった中で大きな反応。
やはり先端は敏感なのだろう。
そんな反応されたらそれくらいわかるし、それにもっとしてみたいと思ってしまう。
今度は五本の指を使って鷲掴んだ。
そして力を込めずに引き、指と指の感覚を狭めていく。
「ふぅ、ぅ♪」
そして五本の指がある一点を刺激した。
「あんっ♪」
一番大きな反応を返してきた。
やっぱりここが一番感じやすいのだろう。
人差し指と親指で挟み込んで感触を確かめるように捏ねくる。
「そこは…ぁ♪」
「うん?ここは…どうなの、龍姫姉」
わざとらしく聞いてみる。
ここまでの反応をされたら嫌がるなんてありえないが、止めて欲しいともわからない。
逆にして欲しいかさえわからない。
本当は理解しているがあえて聞いてみたいんだ。
余裕溢れ慈愛に満ちている龍姫姉の口から淫らな言葉が。
「感じてくれてる?」
「は、い…ぃ♪」
「気持ちいい?」
「気持ちいいです、あっ♪」
「そっか、よかった。それじゃあ―」
―もっとしてあげないと。
そう言ったのは龍姫姉に感じてもらいたい、尽くしたいという本心か。
龍姫姉を思うように喘がせたい、もっと鳴かせたいという欲望か。
そのどちらかなんてわからない。
だがわからなくてもいいだろう。
するべきことは一つなのだから。
「あ、む」
「ひゃぁあっ♪」
龍姫姉の体が跳ねた。
それを逃がそうとせずオレは彼女の背に手を回して捕まえる。
そうして先ほどの行為を続けた。
彼女の胸の先端を口に含んで、吸う。
ただそれだけではなく時折舌で先端を舐めながら。
啄ばむように吸い付いては乳輪をなぞるように舌を這わす。
龍姫姉のように表すなら赤子だと言われそうだが、赤子はこんないやらしい吸い方はしないだろう。
「そんな風に吸ったら、ああ♪」
吸うたびに艶やかな声が漏れ、小刻みに体を震わせる。
だがこれだけじゃあ芸がない。
これだけ感じてくれているのは嬉しいが同じものばかりじゃ飽きも来るというもの。
それにオレの初めての女性に対する興味と貪りたいという欲望もまた尽きない。
角度を変えて吸い付いてはあえて乳首以外に吸い付き、口付けを落とす。
だがしかし、どこか物足りないという表情を龍姫姉は浮かべていた。
熱に浮かされつつもその先を求めるような目を向けている。
どうしたのだろうか…何かもっとして欲しいことがあるのだろうか?
そう思っていたら声が掛かった。
「んぁあ…♪ゆうたぁ、もっとしてください♪」
甘く、とても甘い、おねだりの言葉。
龍姫姉はオレの手を取り、オレが吸い付いているのとは逆の乳房へ押し付けた。
そこでようやく理解する。
理解して口を離した。
「ん、こっちも…弄ってほしい?」
「はい…♪」
「そっか」
肯定の言葉にオレはそのまま手に力を込めた。
ただし、ずっと強く。痛みを感じさせずとも力強く。
「あぅん♪」
一段と高い声に手を止める。
「ごめん、ちょっと強くしすぎたかな?やっぱり手じゃなくてこっちがいいかも」
そう言って今度はそちらを口に含んだ。
「んひゅぅ♪」
さらに体が跳ねても構うことなく吸い続ける。
ただし今度は吸うだけに留まらない。
唇で乳首を挟んで、次に歯を立てて甘噛みする。
勿論空いている手はもう片方の乳房を弄繰り回して。
快楽の波を途切れることなく送り出す。
「ふ、あぁ…ん♪あっ………んっ♪」
声が徐々に高くなってきた気がする。
それに伴い体の震えも大きくなってきたように思えた。
それがどういう意味なのか確信はないがそれでも理解している。
…なら。
一度揉んでいた手を離し、啜っていた口も名残惜しげに離した。
「あ…っ」
物足りないと言わんばかりな切ない声が聞こえる。
だが、そんなのもつかの間、オレはすぐさま口は吸い付き、手は先端を摘んだ。
先ほどよりも力を込めて、さっきよりも刺激的に。
「ひぁあああああああっ♪」
途端に龍姫姉は体を震わせた。
声も震えも今まで見せた中で一番大きなものだろう。
背筋をぴんと張詰め仰け反るように振動し、それに伴い豊かな膨らみ二つもゆさゆさと揺れる。
「ふぅ…ぁ………ん♪」
震えが収まる頃を見計らってオレはゆっくりと口と手を離した。
「ぷはぁっ!…どうだった龍姫姉」
「ふぁ…♪もう、あんないやらしく吸うなんて…ゆうたはいけない子ですね♪」
「そりゃ、オレも男だからね」
小さく笑って起き上がった。
そして龍姫姉の体とオレの体の位置を入れ替える。
今度はオレが上に、龍姫姉が下になった。
胸だけ肌蹴た服を脱がし、布団の外へと投げやると龍姫姉の手がオレに伸びてきた。
その手は服に手を掛け、するりと脱がしていく。
空手着のような服でも帯がないのですぐさま取り払われる。
この服の構造は龍姫姉の服と大差ないので脱ぐのも脱がすのも苦労ないのだろう。
上半身は裸になり、下半身は黒い袴だけ。
「こうして見ると…本当に逞しくなりましたね…♪」
感慨深く、熱っぽく呟いた龍姫姉は体に手を撫で回す。
ごつごつとした見た目とは違い柔らかな感触が這わされる。
今まではえらいえらいと褒めるために撫でられた彼女の手。
この手で撫でられるのはずっと昔のことだったのだがやはり変わっていない。
じんわりと温かく、それでとても落ち着く。
ただ昔と違うところといえば家にいたときにしたように手つきがねちっこいということだ。
成長したところを全て確かめようとしながらも、先ほどのお返しといわんばかりの動き。
くすぐったくてなんとも悩ましい。
そのまま下へと下がり、袴を押し上げる部分に手を添えられる。
「っ!」
「ここまで逞しくなって…♪」
どこか恍惚とした表情で龍姫姉は撫でた。
ただの一撫で、ただ手が触れただけ。
それだけだというのに背筋に電撃が走ったかのような刺激を得る。
思わず腰が引けてしまうほどに。
「ああ、だめですよ♪逃げないでください♪」
その言葉に続き龍姫姉の蛇身が背を押した。
慌てて膝と手を突き何とか支えるも下半身から立ち上る快感は止まらない。
それどころか支えるためについている膝に彼女の蛇身が巻きついてくる。
するすると、ゆっくりと。
ぎゅうぎゅうと、しっかりと。
きつくもないが緩くもない。
そのままの状態で彼女は笑みを深めた。
オレが逃げられないことに対してか、オレが動けないことをいいことにか。
「それじゃあ下も、見せてください♪」
そんなこと言われてもこの状態では脱ぐこともできないだろうに。
そう思っているとぐにぐにと蛇身が蠢き、それに合わせて袴と下着が徐々に下がっていく。
元々ベルトもなくただ履いていたというだけだからだろう、それは龍姫姉の体によってすぐに脱がされ服と同じように布団の外へと投げられた。
「…器用だね」
「ふふ、昔はこうやって服を脱がせていたのですよ♪」
「そりゃ手馴れてるわけだ…」
「でもこれは昔とは違いますね♪」
すぅっと手のひらがオレのものを撫で上げる。
途端に電撃に討たれたかのような快楽が体中に走った。
「ちょっと…龍姫姉…!」
「はぁ…♪もうこんなに硬くなって…♪」
龍姫姉の大きな両手に包まれたことによりその熱が陣割と伝わってくる。
普段なら安心できるその温かさが伝わるたびに疼くような媚熱のように感じられた。
そのままゆっくり下から上に、上から下へと擦って感触を確かめてでもいるのだろう。
ただそんなことをされれば他人から触れられた経験のないオレはその未曾有の感覚に黙って耐えるのは難しかった。
「待った…っ!龍姫姉、本当に、待って…!」
しかし彼女はオレの声なんて届かないのかあえて聞こえていないふりをしているのか手を動かすことをやめてくれない。
しかも擦るだけでは終わらない。
時折揉み解すように力を込めれば、指先でくすぐるように撫でてきて、そうして再び撫で回す。
「く…ぅ………ぁ…っ!」
「我慢しないでください♪そんな声を出されてはもっとしてあげたくなります♪」
「それは…ちょっと止めて…」
「びくびくして…可愛らしいですよ♪」
「だからこの歳で可愛いなんて―んむっ!」
いきなり体を起こしてきた龍姫姉の唇で塞がれた。
そのまま先ほどのようなねちっこく深い口付けを交わす。
ちゅっちゅと啄ばむような音がすればにゅちゅにゅちゅと舌が擦り合わせられる音が重なった唇から漏れる。
離れようとすれば吸いつかれ、求めれば求め返される。
それは先ほどのキスよりもずっと積極的でずっと情熱的なものだった。
布団を握ってなんとか耐えるが…これではどちらが攻めているのかわかったものではない。
体を震わせながら耐える様は先ほどの龍姫姉と同じだった。
「ぷはぁ、あ…ぁ♪」
「ん…はぁ、龍姫、姉…」
止めてといっても手をやめずあろうことか口付けさえしてさらに追い詰めてくる彼女に恨めしい視線を送るが龍姫姉はうっとりとした表情を向けるだけ。
そうしてまだ離れていないこの距離でオレの唇を舌でなぞった。
「んんっ!」
「れろ、ん、ちゅ♪」
小さくキスしてようやく離してくれる。
体に巻かれた蛇身も同時にゆるくなっていった。
それでも、当然巻きついたまま。オレを捕らえて離さない。
多少の自由は許されてもこの布団から逃がす気はないだろう。
そんなつもりはこちらもないのだけど。
「龍姫姉…」
「はい…♪」
その名を呼んで、彼女は返す。
その言葉の意味も理解してくれたように。
互いに素肌を晒しているこの状況。
もう先へと進んでもいいだろう。
触れ合いよりもずっと熱く。
抱擁よりもさらに気持ちよく。
口付けよりももっと甘い。
男と女の交わりへ。
「するから…ね?」
「はい♪来てください…♪」
腕を絡ませ身を寄せて。
覆いかぶさるオレと抱きとめる竜姫姉。
そのまま既に痛いほど張り詰めているものを竜姫姉のにあてがって―
―…あれ?
ここで一つの問題が生じた。
―……………入れるところどこだ?
男と女。
雄と雌。
それでもオレと龍姫姉は違う存在。
人と神。
人間と龍。
いくら似た姿であって、天女のように美しいとしても体のつくりが違う。
そうなれば性交の仕方も変わってくるのではないか。
それとも人間に似た姿だから同じように股間にあたる場所にあるのだろうか?
とすれば腰と蛇身の境界あたりか?
まだ完全には脱がし終えていない龍姫姉の体。
そこで鱗と人肌の境界線らしき場所にある布。
あの服は元々龍姫姉のこの姿のためにあったものであり、同じ構造をしているオレが着ていた服と異なるべき部分。
袴と腰周りを巻くような布。
とすればやはり…。
そう考えていると龍姫姉が先に動いた。
股間の布に手を掛け、そのままゆっくり見せ付けるように脱いでいく。
「ほら…見えますか?」
「っ!」
そうして現れたのは龍姫姉の女の部分。
ぴっちりと閉じた肉の唇からはぬらぬらとした粘液が体を伝って布団へ染み込んでいた。
鱗で保護されていたのだろうかそれが付着していて、普段なら神々しい輝きを放つ鱗が妖しく光っている。
そこから立ち上る独特な香りはどこか甘みを含んでいて思わず酔ってしまいそうな感覚に陥った。
ざわざわと男の欲望を撫でられるような。
ぞくぞくと雄の本能を刺激されるような。
そんな光景。そんな姿。
「ここに…ゆうたのを入れて…―」
そっと指が這わされた。
そのまま見せ付けるように筋をなぞる。
「ぐちゅぐちゅにかき混ぜて―」
這うたびにぬるぬるの粘液が漏れ出してきた。
それは指に付いては部屋の明かりを妖しく反射する。
「ゆうたと私で、一緒に気持ち良くなって―」
龍姫姉はそこに這わせた指でそっと広げた。
粘液に溢れたそれは紛れもない女性器。
それはとても神々しく思え、いやらしく蠢いているように見えた。
「そして―」
ごくりと喉が鳴る。
それは初めて女を目にしたオレのものだったか、それともこの行為の先を期待している龍姫姉のものだったかわからない。
「―私を、ゆうたの女にして…♪」
その言葉にオレは小さく頷いた。
自身のものを手に取り、そっと龍姫姉にあてがう。
「んっ…♪」
「っ…!」
先端に感じた湿り気と胸や唇とはまた違った柔らかさ。
そこから伝わるのは先ほど手で擦ってもらったのとはまた違う気持ちよさ。
これだけでも気持ちがいいのだから入れたら一体どうなってしまうのだろう。
疑問と、期待と、それからその先を求める欲望。
男女の契りを結ぶという覚悟、そして龍姫姉への純粋なる好意。
それらを胸にオレは一息吐き出し、腰に力を込めた。
―ぐちゅりと今まで聞いたことのない音が体中に伝わった。
「う、くぅ…ぁっ!」
「ああああああああああああああっ♪」
どろどろに蕩けた愛液の感覚が。
ぎゅうぎゅうに締め付ける感触が。
じくじくと伝わってくる媚熱が。
体中を駆け巡り、全てを快楽へと変換していく。
それでもまだ先端だ。
これで全て入ったらどうなってしまうのだろう。
未知の感覚に恐怖にも似たものを覚えつつ腰を進めるのをやめない。
包まれて、引き込まれて、飲み込まれて。
さらに奥へ奥へと突き進んだ。
そんな中でだ。
予想外なものを身に感じることとなった。
「…っ!?」
それは抵抗。
進む途中で突然感じた抵抗に思わず腰が引けたが引けなかった。
いつの間にか体に龍姫姉の蛇身が巻きつき、押してきていたのだから。
これではまず引くことはできないし、抜くこともできないだろう。
気づけばそのまま力に従うようにその抵抗を突き破っていた。
「あうぁ…っ♪」
「…え?今のって…まさか」
それを突き破っても龍姫姉は痛みを感じている様子はなかった。
それどころか目尻が下がり蕩けた表情を見せてくれる。
そこへ目の端から一筋の雫が頬を伝った。
「もしかして…龍姫姉も…初めて?」
「は、い…♪」
挿入した感覚に身もだえし、感じたことのない快楽を何とか耐えつつ聞くと肯定の言葉が返ってきた。
初めて。
つまるところオレが今突き破ったのは龍姫姉の純潔の証。
「待っていたのですよ…♪」
龍姫姉はそっとオレの首に腕をまわした。
「ゆうたが生まれてからずっと、待っていたのですから…♪」
「龍姫姉…」
「ずっと、ずっと…ゆうたが来てくれることを願って待っていたのですから…♪」
そこでキスされた。
それも右頬に。
次いで左頬に。
さらに鼻先に。
重ねて額に。
そして、唇に。
「やっと、来てくれました…♪」
唇を離して龍姫姉は言った。
「もう、待ちくたびれるかと思いました…」
そっと額が合わせられる。
近づいた顔と顔。
龍姫姉の潤んだ金色の瞳が目に入る。
「でも、来てくれたのですから…約束を、守るといったのですから…♪」
だから―
―最後まで、責任とってくださいね…♪
その言葉にオレからもキスを返す。
額に、そして唇へ。
「喜んで」
そっと呟いてから止めていた腰に力を込めた。
そのままどんどん奥へ奥へと突き進んでいく。
純潔な彼女の中は異物であるオレをときつく締め上げてくる反面、受け入れるように、飲み込むように律動していく。
それは優しい龍姫姉自身のようで、どこか貪欲なところまで彼女の本質を表しているかのようだった。
そのままオレは突き進む。
少しだけ肉壁を擦っただけでも頭の中が真っ白になりそうな快楽を何とか堪えて。
ぎゅうぎゅうと絞られるように蠢く龍姫姉の感触を我慢して。
「ひゅあ、ああ♪ゆうたが、来てぇ、来てますっ♪」
「龍姫姉…っ!」
そうして全てが収まるというところで先端にこつんと少し硬いものを感じた。
途端に。
「ひゅぁあ♪」
「うぁっ!?」
いきなり龍姫姉の中がきつく締まった。
ただでさえ初めてということできつかった彼女の中は痛いほど、それでいて逃がさないようにと締め上げる。
だがそれによって感じたのは痛みではない。
先ほど擦り、包まれ、飲み込まれていくあの感覚がさらに襲ってきた。
精液をねだる様に、むしろ強引に搾り取ろうとするように。
敏感な反応に先端に感じた周りの柔らかな肉壁とは違った感触。
それが龍姫姉の子宮口だと認識していたときには既にオレは爆発していた。
「う、あ、あああっ!」
「はぁあああぁあああああっ♪」
溜まりに溜まっていた精液が注ぎ込まれていく。
ただでさえ先ほど龍姫姉の手でされていたのだ。
されていても出してはいない。
そんな状態で未経験のオレが女性の膣へと入れようものなら果てて当然。
むしろ全て収めるまでに果てなかったことのほうがすごいだろう。
どくんどくんと止まらぬ射精。
流し込むたびに龍姫姉の体は震え、それに伴って彼女の中も震えながらに律動する。
もっと下さいとねだるように。
さらに出せと言わんばかりに。
その動きに合わせるように一度で治まらずに二度三度とどくどくオレの証を流し込んでいった。
「ふっ……く、はぁ…」
「はぁ…ん♪ふぁあ…♪」
崩れそうになる体を何とか支えるのだがどうも力が入らなく、オレの体は龍姫姉の体に倒れこんでいた。
肌には汗が浮かび、重なっていることによって混ざり合い、このまま一緒に溶け合ってしまいそうに思える。
不快ではない、むしろ心地いい。
不満ではない、むしろ落ち着く。
だがこのまま体重をかけている状態では龍姫姉とて苦しいだろう。
小さかった子供の頃とは違う、大人の体なんだから。
体を横へずらし布団の上で向き合うようにそのまま寝転ぶ。
当然繋がったまま。
「はぁ…ぁ………ふふ♪」
龍姫姉が小さく笑った。
どこか満ち足りたような、満足したような、それでももっと欲しいというような顔で。
「沢山出ましたね♪ゆうたの…とっても温かいですよ♪」
そんな表情を浮かべた彼女にオレも笑って答える。
「龍姫姉の、中…気持ちよすぎだって…」
「あら、それは嬉しいですね♪…でも」
そっと背に龍姫姉の蛇身が押し当てられた。
右腕が体へ絡みつき、腰に手を添えられる。
左手は自身の下腹部へ、オレのものが入っているところに。
「まだまだ硬いです…♪」
「…若いからね」
「それなら、もっとしましょう♪沢山しましょう♪」
肯定の意を込め身を寄せる。
そうして再び腰を動かした。
横になったことによってどこか動きにくいところがあるがそれでも一度出したからだろう、先ほどよりもずっと余裕があった。
龍姫姉の中の感触をよく味わい、身に感じ、どこで感じてくれるのか探り出す余裕が。
突き刺し、引いて、押し込み、戻す。
「んんん♪はぁあっ♪あっ♪ひゅわっ♪」
動くたびに走る快感。
擦るたびに漏れる艶声。
「く…ぅう♪ん、ひゅ♪ふぁあ、ああ♪」
奥を強く突けば震え上がり。
引き戻して中を掻けば締め付ける。
重なる呼吸が荒くなりながらも互いに動くことをやめない。
龍姫姉が腰を引けばオレも自身を引き抜き。
オレが突き出せば龍姫姉は腰を進めた。
抜けないギリギリまで離れては隙間なんてないほどにぴったりとくっつき、奥を突く。
徐々に重なり合っていく動き。
それどころか徐々に加速してきてさらなる快楽を求めていく。
だがその中でオレの余裕は長くは続かなかった。
あまりにも気持ち良すぎるんだ。
気づけば全てを投げ出してただ性欲のままに腰を突き動かしたいと思わされる。
これが女性との交合なのか、龍との性交なのか、そのどちらなのかなんてわからない。
「龍姫姉…っ!」
「あ、ぁあっ♪ゆう、たぁあっ♪」
名前を呼んで、名前を呼ばれて。
求めて、求め返されて。
それがたまらなく心地よくて気持ちよくて。
そして、たまらなく愛おしい。
狂おしいほど龍姫姉が愛おしい。
もっと深く繋がろうとさらに激しくしようと龍姫姉の腰に手を当て自身を押し込もうとしたそのときだった。
手に何かが触れた。
瞬間。
「んひゅうっ♪」
龍姫姉の声がいきなり跳ねた。
それと同時に中もぎゅうっと締めてくる。
「う、ぁっ!?」
どうしたのだろう?
どこか気持ちのいいところにでも当たったのだろうか?
そう思ってもう一度彼女の腰に手を当てた瞬間やはり。
「ひゃぁあ♪」
艶やかな声が漏れる。
…どうしたのだろう。
もしかして龍姫姉の性感帯はお尻なのだろうか?
そう思ってもう一度撫でてみる。すると触れた。
「はぁあああっ♪だ、めっ♪そこはだめ、ですぅ♪」
弱弱しくオレの手を止めようと龍姫姉の手が伸ばされる。
だがオレはそれを既に見つけていた。
本来龍姫姉の下半身である蛇の体。
それには鱗が生えており体から尾へ向かって一様に鱗が生えている。
撫でようものならば艶やかな手触りと少し硬い、まるで宝石のような感触を手に残してくれるだろう。
だが、オレの手に触れたものはその鱗の中の一つ。
上から下へ撫でたときに突っかかったというか、目立ったというか。
一枚だけ他の鱗と逆に向かって生えている鱗の感触があった。
逆に生えた鱗?
―…逆鱗?
よくドラゴンの弱点とされるものである。
それは逆鱗といいつつそこだけ鱗が生えなかったり、その鱗だけが他の鱗よりも脆かったり、そこが命と繋がっていたりと書かれていた。
ゲームでも何度か出てきたし。
逆鱗に触れる、という言葉もあるほどだ。
そして龍姫姉は龍。
龍とドラゴンでは似ているようで違うものだが逆鱗というものがあるのならそれは弱点と思っていいだろう。
ただ、思っていた弱点とはまた違うものだったけど。
「やぁあ、あっ♪ゆうた、やめれて下さいぃ♪」
「…もしかして龍姫姉はここが弱かったりする?」
今更聞かなくてもわかるのだがそれでもやはり聞いてみたい。
しかも聞きながら指で撫でるのはやめずに。
「そう、です、からぁあ♪やめてぇ♪」
快楽に耐え切れず蕩けた表情、そして同じく快楽に染まった声。
そんなものを見せられて、聞かされて。
今更やめるなんてできやしない。
それが愛した相手であり、普段から慈愛溢れる龍姫姉だからなおのこと。
もっと見せてもらいたいし、もっと喘がせたいと思ってしまう。
「いいよ」
そう言ってオレは腰をかまわず進めた。
「ふぁあっ♪ゆ、ゆうたぁあ♪本当に、そこだけはぁあ♪」
「気持ちいいんでしょ?だったらもっと気持ちよくなろう?」
逆鱗を指で撫で回し、彼女の中をかき回す。
二つの器官によって生じる快楽に龍姫姉は普段とは違う乱れた姿を見せてくれた。
触るたびに体が跳ねて、かき混ぜるたびに粘液が噴出す。
悶えて、震えて、蕩けて、感じて。
「我慢しないで、ね?」
先ほどのお返しといわんばかりの言葉を投げかけ腰の動きを早めていく。
ずっちゅずっちゅと重い水音がいやらしく部屋に響く。
「んんっ♪やぁ、ああだめぇ♪はげし、すぎで、すっ♪」
布団に広がった紫色の長髪が波打ち、柔らかなで包容力のある体がのたくる。
それでもやめない。
腰の動きは留まらない。
もっと高いところへ、更なる昂ぶりを求めて。
彼女の体をきつく抱きしめどんどん動かしていく。
龍姫姉と繋がっている所と、逆鱗に触れている指を。
「ふぅ♪ひゃぁっ♪あ、ふひゅ、やぁっ♪」
何度も何度も子宮口を叩くたびにちゅっちゅと吸い付かれ、またどろっと熱い愛液が噴出しオレのものへと絡み付いてくる。
燃えてしまいそうなほど熱い感覚。
何度も収縮してくる龍姫姉の中はまだまだ欲しいとねだっている。
オレもそれに答えるために下腹部からせりあがってくる熱いものを感じ、一気に速度を上げた。
「ん、ひゅあ♪は、激し、いですっ♪そんなにした、らぁあ♪だめ、ですっ♪だめなんですっ♪」
ただでさえ艶やかだった声がさらに高くなっていく。
それを聞いて欲望がさらに燃え上がる。
だらしなく開いた口からは唾液が一筋滴り、抱きしめた体からは汗が弾けた。
濃く香ってくる龍姫姉のどこか雅やかな甘い体臭がさらに本能を疼かせる。
繋がり合っているオレのと龍姫姉のものは先ほどよりもずっと馴染み、さらなる快楽を送り出す。
その快楽がさらにオレを高みへと押し上げた。
ぞくぞくと背筋を上がってくる悪寒にも似たあの感覚。
どくどくとせり上がって来る下腹部のこの感覚。
「龍姫姉…またっ!」
「ふぇ?あ、ああっ♪」
オレは龍姫姉の体をきつく抱きしめた瞬間、下腹部の感覚が爆ぜた。
「ふぅぅうぁああああああああああああああああああああっ♪」
そしてオレは馬鹿をやった。
あまりにも調子に乗りすぎていたんだ。
『逆鱗に触れる』
文字通り逆鱗に触れたオレは忘れていた。
その言葉が意味することはいったいなんだったか。
その意味がどれほど重要だったか。
それを思い出す前にオレはこの身で実感することとなる。
ぜぇはぁと肩で息を整えるオレと龍姫姉。
力なく横たわった彼女の姿を見て少し反省した。
流石にやりすぎてしまっただろうか?
やめてって言ってたし…でもあれだけ喘がれては止まれないし。
可愛かったなぁ、龍姫姉。
普段の清廉淑女な姿からは想像付かないほどの乱れっぷり。
優しい声が艶やかになり、自愛溢れる顔が快楽で蕩けていた。
口からはだらしなく涎なんて垂らしちゃって…。
そんな痴態を見せられたら止まれなくなって当然だ。
でも、やはり無茶しすぎたかもしれない。
自重しつつもオレは龍姫姉といまだに繋がりあっていた。
否、抜くことができないんだ。
果てた後は体が敏感になる。
そんなところで龍姫姉の中はあまりにも気持ちが良すぎる。
良すぎて耐えられなくなりそうなくらいに。
先ほどだって無我夢中に腰を振ってはいたがその分返ってきた快楽は狂いそうなほどのものだったし。
良すぎるのもまた問題である。
「龍姫姉?」
とりあえず龍姫姉がちゃんと意識あるかどうかぐらいの確認をしておこう。
なければこのまま寝てしまえばいいだけだし。
あ、でも。汗をかいたからせめて濡れたタオルで体ぐらい拭いてあげないと。
そんなことを考えながらオレは龍姫姉の方を叩いたそのときだった。
オレの手よりも先に龍姫姉の手が肩に置かれた。
「あ、龍姫姉、大丈―」
ぶ、まで言えなかった。
というのも唇を塞がれていたから。
手でも指でもなく、龍姫姉の唇で。
優しく重ねるだけならまぁよかった。
情事の後ということなので軽いものかと思っていた。
でも違う。
まだまだ情事は終わっていなかった。
「ふむっ!?」
それは先ほどもしたように深く激しい口付けだった。
ただそれにしてはあまりにも一方的。
そして何より攻撃的。
痛みを感じさせるようなものではないのだが少なくとも優しさからはかけ離れているもの。
貪るように、喰らいつくように、抉り出すように。
口付け、啜り、吸う。
思わず手を出して止めようとするのだが動かない。
いや、龍姫姉が押さえつけていた。
「んーんー!?」
「んんんんっ♪じゅりゅりゅっ♪ちゅぅ、ん…む、んん♪」
長い長い口付け。
息をつく暇さえなく、それは続けられた。
あおのあまりの長さに苦しさを感じ、何とか顔を横に振りぬき逃げるように唇を離した。
「ぷはっ!龍姫姉ちょっとま―むっ!!」
それでもわずか数秒、いや数瞬といったところすぐさま龍姫姉の唇が重なった。
再び貪るようなキスが始まる。
「んー!ん、ん……」
「んむ、ちゅ♪……ちゅう♪…んんん♪」
息が続かなくなり意識が朦朧としてくる。
一方的な快楽に脳まで犯され、頭には霞が掛かったように.感じたとき、ようやく龍姫姉は唇を離した。
「んちゅ♪…ふぅ、はぁ…ふふふ♪」
そうして呼吸を整える間に小さく笑う。
それはオレの知っているものではなかった。
まるで母親のように子供のやんちゃを見て笑うようなあの笑みではなかった。
「ゆうたが…いけないのですよ?だめだって言ったのに、止めてって言ったのに……ゆうたが触るのですから…♪」
「…はぁ、ぁ…たつ、き、ねぇ…?」
「ゆうたが…悪いのですからね…♪」
そう言って横に並んだ体勢からオレを仰向けに、龍姫姉は覆いかぶさるように身を寄せる。
この体勢だとオレの目に映った龍姫姉は部屋の明かりでちょうど陰になった。
その陰になった姿で二つ、異様な光を宿す金色の瞳。
綺麗に輝き、優しさ溢れたものではなかった。
まるで獲物を狙った獣のような瞳。
頬を赤く染め潤んだ目ではそれが逆にどこか妖艶な雰囲気をかもし出す。
だが…こんな龍姫姉の姿は見たことない。
こんな龍姫姉は知らない。
「龍姫姉……?」
それでも本能的には悟っていた。
これはまずい。
何が?
わからない。
それでも、まずい。
思わず後ろに下がろうとした…だが、動けない。
両肩を龍姫姉に押さえつけられている。
足を動かすも動かない。
龍姫姉の蛇身が執拗なまでに巻きついている。
せいぜいできることは身を捩ることぐらい。
龍姫姉から逃げることはおろかこの布団から出ることさえも敵わない。
「ゆうたの、自業、自得…なのですから、ね…♪」
じゅるりとわざと音を立てて龍姫姉が唇から滴っていた唾液を舐め取った。
途端に―
―じゅぱんっ!と音がする。
同時に体にバラバラになりそうな快楽が送り出されていた。
「うぁっ!?」
「はぁんっ♪」
果てた後の敏感な体。
それで先ほどの行為を再開しようものなら狂いそうなほどの快楽に叩き込まれる。
そんな中で今まで感じたことのなかった奔流の中で耐え切れるとは思えない。
「ちょっと待った!龍姫姉!」
慌てて制止の声を掛けるも―
―じゅぱんっ!!
「ぁあっ!!」
「ひゅんっ♪」
その音の正体がオレの出した精液と龍姫姉あふれ出した愛液が交じり合ったものが弾けた音だと気づいた。
気づいたところでどうもできない。
龍姫姉はそのまま腰を動かしてくる。
じゅぱん、ぱちゅんと卑猥な音を響かせて更なる快楽をたたき出してくる。
その音が響くたびに龍姫姉の中は振るえ、愛液に濡れた肉壁はまるでいくつもの舌に舐められるような感覚を伝えて飲み込んでいく。
「んふぅっ♪ふ、ぁ、ああ♪あんっ♪ゆうたの、オチンポこんなに硬くってぇ♪」
普段なら絶対に、あの龍姫姉からは絶対に想像できない言葉を漏らす。
「もぉっと、出していいですからねぇ♪私の子宮を、ぉ♪ゆうたの、精液で一杯にしてくださいっ♪」
淑女な彼女が卑猥な言葉を口にするその様はそそるものがある。
だが今の状況ではその様子を気にかけることはできそうにない。
あまりにも気持ちよすぎるのだから。
これでは先ほどの行為と全く逆になっている。
龍姫姉がオレを攻め、オレが龍姫姉に攻められる。
せめてもの反抗をと思い逆鱗に手を伸ばすも力が入らない。
調子なんて崩された。
余裕なんて引き剥がされた。
あるのは抵抗できない弱弱しい力と一方的な快楽を感受する体。
それから快楽の渦に沈みそうな意識。
沈みそうで、後一歩と言うところで快楽が再び意識を押し上げる。
気を失うさえも許されない。
外から聞こえる雨音にも負けないほどの嬌声を上げて先ほどよりも乱れる龍の美女。
そこには愛だとか恋だとか、優しさだとか慈しみなんてものはかけらもない。
あるのは雌として雄から種を搾り取ること。
獣のように快楽を貪るだけ。
乾いた欲望を満たすため、枯れた性欲を潤すため。
そんな中で先ほど既に二度目を出したのにまた再び上り詰めてくる限界を感じた。
先が膨らみ、目の前の雌に種付けする行為へと進んでいく。
それを感じたのだろう龍姫姉の腰の動きもより激しいものとなった。
「あうっ♪ゆうたの、オチンポが膨らんでぇ♪出るのですね♪ゆうたの、精液、どぷどぷって出してくれるのですねっ♪」
「龍姫姉ぇ…っ!!」
「いいれすっ♪一杯だし、てっ♪私を孕ませちゃってください、ねっ♪」
そう言って腰が抜けるか抜けないかぎりぎりのところで高く持ち上がる。
それがオレへのトドメの一撃であることを悟ったときには既に龍姫姉は動き出していた。
ぱちゅん、と腰と腰がぶつかり愛液と精液が混ざり合ったものが弾ける音が部屋に響いた。
「う、ああぁぁあああああっ!!!」
「はぁああああああああああああああああああああああっ♪♪♪」
三度目の射精。
それなのに一度目、二度目と変わらない量を注ぎ込んでいく。
その刺激にオレは身悶えし、龍姫姉もまた絶頂して体を震わせた。
その中で貪欲に子宮口が吸い付いて離さない。
さらに精液をねだり、さらに快楽を求めている。
ようやく精液を出し終えてオレは力なく手を布団の上に投げ出した。
もう無理。
性欲お盛んな高校生、それでもこんな神様との性交で得る快楽に三度も付き合えば限界だってくる。
それにあれほどの量を三度も出したのだ、普通ならもう出ないだろう。
終わり。
どこか名残惜しいところもあるが致し方ない。
そう思ったそのとき。
―ぱちゅんっ♪
「おぁあっ!?」
また、人知を超えた快楽が。
再び、人には到底得られないだろう快感が。
肉の弾ける音と共に送り出されてきた。
「まだぁ、ですよっ♪」
見れば龍姫姉が再び腰を動かしている。
瞳に灯った情欲の光をぎらつかせ。
体に燃え盛る肉欲をみなぎらせ。
無理やり行為を再開させる。
「ちょっと、本当に待って!龍姫姉っ!!これ以上は無理!!」
「んぁあっ♪そんなこと許しませんよっ♪ゆうたの、オチンポまだまだこんなにぃ♪硬いじゃないですかぁああっ♪」
「それはまだ出してすぐだから、うぁっ!!」
「嘘をつく子にはぁ♪とびっきりの、お仕置きですっ♪」
「嘘じゃない!嘘じゃないから!本当にもう無理だから!!」
「だめですっ♪もっと、もっと精液出してくださいぃ♪」
乱れに乱れる龍姫姉とオレはそのまま激しい交わりを何時間も繰り返し続ける。
外では行為の激しさを物語るかのように降り続く雨も激しいものへとなっていった。
「し、死ぬかとおもった…」
オレは神社の廊下で座ってそう呟いた。
隣では先ほど愛し合った龍姫姉が肩を寄せて身を任せている。
すでに先ほどの行為の跡はない。
悲鳴に近い声で叫ぶオレをそれでも止まずに腰を動かし続けた龍姫姉。
時間にしてどれほどだろう?一時間や二時間で済んだとは思えない。
その跡何度出したのか覚えていないが彼女の子宮が精液で満タンになるほど出してようやく止まってくれた。
そのときには龍姫姉も正気に戻ってくれて助かった。
そしてその後汗や涎に愛液や精液にまみれた体を清めるために風呂に入って着替えてきた。
そこでまた一度してしまったのは…まぁ、若いということで。
ことを終えてようやく落ち着いたオレと龍姫姉は既に夜が明ける時間。
そんな時間に二人で神社の廊下に座り、暗闇に滴る雨音を聞いていた。
まるでそれは昔のように。
しかしあの時と違うのは今は龍姫姉が並んでいるということ。
子供と親という関係ではない。
一人の男と女の関係。
それで夫婦なのだから。
でも。
「本当に…死ぬかと思った…」
あれは流石にきついものがあるというのに。
「ゆうたが私の逆鱗に触れるのがいけないのです」
そんなオレに龍姫姉は言った。
口調は怒っているのだが表情は温かい笑みを浮かべている。
「いや、あそこまで乱れるとは思ってなかったし、あんなことになるなんて知らなかったし…」
「私はやめてと言ったはずですよ?」
「…いやでも、龍姫姉が可愛くて」
「………もうっ♪」
そういいつつぺしぺし尻尾で足を叩いてきた。
まるで子供のような仕草である。
それが大人な龍姫姉の印象からはとても想像できないものであり、思わず微笑ましく思った。
それからオレと龍姫姉の間に会話はなかった。
ただそのまま雨音を聞いて、特に何することもなくその身を寄せ合っているだけだった。
それだけでも心地いい。
あの時と同じで、とても落ち着く。
龍姫姉の傍はいつだってそうだ。
先生と呼んでいたときだって、昔抱きしめられていた時だって。
とても満たされ、とても癒される。
そっと紫色の髪を撫でれば嬉しそうな声を漏らし、手に手を重ねれば優しく包み込んでくれる。
肩を抱けば身を委ね、頭を肩へと乗せてくる。
オレもそれを喜んで受け入れた。
そうして静かに二人でいたところ、龍姫姉ちゃんがどこからか杯と瓶を取り出した。
それはオレが持ってきたお神酒の入った瓶であり、雨雲の間から差し込み始めた朝日の光を照り返す。
それともう一つの杯。
それは漆を塗った黒の杯だった。
朝日の光を反射する漆黒色。
それをオレは知っている。
「それって…おばあちゃんの」
「はい」
おばあちゃんが大切にしていたものの一つだ。
よく日向で縁側に座ってそれの手入れをしているのを昔に見たことがある。
細かな装飾のないただの杯だがどことなく厳粛な雰囲気をかもし出している。
それに龍姫姉はとくとくとお神酒を注いでいく。
「ゆうたは神前式を知っていますか?」
「ん、まぁ少しは」
それは一つの結婚式。
神様のご加護を願い、三々九度の杯を交わす。
知っているのはせいぜいそれぐらい。
「どうせだったら杯だけでもと思いまして」
そう言って龍姫姉は杯に注がれたお神酒をふぅっと吹いた。
表面にわずかに波立ち、暗闇には目立ちにくいが霧のようなものが抜け出ていくのが見えた。
「これなら未成年のゆうたでも飲めますよ」
「…おぉ」
どうやらアルコール分を飛ばしていたらしい。
さすが水の神様、液体なら何でもできるということだろう。
龍姫姉の手から杯を受け取り、空いた手を重ねた。
「龍姫姉」
オレは彼女の名を呼んだ。
差し込んできた朝日の光で照らし出される顔はほんのり頬が赤く染まっている。
情欲にまみれた先ほどのではない、どこか照れているような、恥らう乙女のようなもの。
「はい♪」
龍姫姉からも手を重ねる。
それを見てオレは頷き、杯を煽った。
それは一つの誓いであり、約束であり。
長い時間をかけて果たしたことを表す行為。
その日オレが飲んだ杯がこの世のどんなものよりも美味であったことは言うまでもない。
約束とは重要なものだ。
それはあるとき金以上の価値を見出し、命よりも重いものとなる。
そのいい証拠が指きり。
昔は自身の指を切ってまでそれを照明し、したほうもそれ相応の気構えを持たなければいけない。
約束を違えれば拳骨百万に針千本。
それはただの言葉だとしてもそれほどにまで大切だということを表していた。
「約束を守れるようになってようやく立派な男じゃぞ」
そうおじいちゃんも言ってたっけな。
そんなことを思いつつもオレは自身の指を見て、オレの膝の上に頭を乗せて眠る彼女の指を見ていた。
それは日差しの温かな春の日のこと。
お父さんの実家の北の山の上にある湖、その中央にある神社の廊下。
オレは龍姫姉と共にいた。
彼女はオレの膝の上で眠っている。
それはとても安らかであり、満ち溢れた顔をしていた。
ここで初めて会ってもう何年だろう。
約束を交わしてもう何十年。
あの時とは全く逆の立ち位置になっている。
甘やかして、成長を見守ってくれていた龍姫姉が今ではオレに甘える立場だ。
なんだかんだ言って彼女もまた甘えん坊ということだろう。
大人っぽくて、優しくて。
それでもおねだりで、どこか貪欲で。
それがまた愛おしい。
それは初めて肌を重ねたあの日からずっと変わらないことだ。
あの日からもう数年。
既に体は成長を止めた。
それはきっと彼女の影響。
龍姫姉は龍神であり長寿であることは間違いないだろう。
だからきっとそれに合わせてオレもまたそうなっているのではないかとそう思う。
せっかく龍姫姉と夫婦になったというのに神様の寿命についていけずオレだけ先に老いてしまうのはあまりにも悲しいものがあるし。
「ん…」
龍姫姉が薄く目を開けた。
「龍姫姉、起きた?」
覗き込むようにして顔を近づけるとそっと手を伸ばし、頬に添えられる。
大きくてじんわりと温かな手。
あの頃と、あの日と何も変わっていない。
そのまま龍姫姉はどこか潤んだ瞳でオレを見つめてくる。
どことなく頬を染めて。
それは龍姫姉のおねだりの仕草である。
「…仕方ないな」
小さく笑ってオレは彼女の唇にそっと自分の唇を重ねた。
「ん♪」
重ねて、舐めて、吸って、啜って。
長い口付けをしてようやく離れる。
そうして映った龍姫姉の顔はどこか嬉しそうだ。
「いいですね、こういうの」
「うん?そう?」
「ええ。こうやってゆうたといることができるなんて幸せですよ」
「そりゃよかったよ」
「こんなに大人っぽくなって…」
そう言ってオレの体に手を当てた。
何度だって目にしているし何度も手で触れてきている体。
それでも確かめ足りないのだろう。
オレの小さい頃を知っていて、育ててくれたようなものなのだからそんな龍姫姉の目からしたらこの成長は信じがたくも嬉しいものなのだろう。
何度も確かめたいぐらいに。
「でも時々オレのことを子供扱いするじゃん」
体を重ね、甘えられる立場になっても龍姫姉はオレを子供のように扱うときが多々ある。
それは昔の癖が抜けないのか、それとも今のオレがまだまだ子供ということか。
それでもまぁ…嫌なものではない。
「それでは…大人として扱いましょうか♪」
そう言った龍姫姉は身を起こしてオレに抱きついてきた。
そのまま服の中へと手を差し込み、尻尾で背筋を撫でていく。
ぞくぞくとする感覚に身を捩ると嬉しそうに龍姫姉が笑みを浮かべた。
逆にオレは笑みを引きつらせる。
「もうさっき大人扱いしてくれたから十分」
「なら今度はたっぷり甘えていいのですよ♪」
「いや、終わってからまだ一時間しか経ってないけど…」
「もう一時間も経ったのですからいいでしょう♪」
「さっきだって二桁したんだからもう少し休ませて…」
「我慢できないのです♪」
そう言って押し倒される。
柔らかく、優しく、ゆっくりと。廊下の床に倒れこんだ。
そうして覆いかぶさってくる龍姫姉。
その目には先ほど消えたと思っていた情欲の光が宿っていた。
「まったく、仕方ないな」
「ふふ、なんだかんだ言ってゆうたは聞いてくれるのですから♪」
「そりゃ愛する妻に求められちゃ断れないって」
「それではしましょうか、旦那様♪」
そう言って再び口付けをする。
舌を使った深く、熱いキスはもう少し先。
先ほどしたとはいえ始めるなら軽く、甘いものからといこう。
重ねて、啄ばみ、また重ねる。
その行為に痺れを切らした龍姫姉が舌を出してオレの唇を舐めてきた頃を見計らい、オレは小さく囁いた。
「龍姫姉、愛してる」
あのときの言葉をもう一度。
既に何度も囁いたというのにそれでも足りない。
言葉にして、口にして初めて伝わってもこの気持ちを全て伝えきれない。
それは一生をかけても足りないだろう。
そんな言葉を聞いて龍姫姉もそっと囁いた。
「ゆうた、愛してますよ♪」
互いに確認しあい、再び行為を再開する。
甘くて、熱くて、深くて、優しく、愛おしいもの。
飽きることはありえない、むしろ回数を重ねるたびにもっとしたくなる。
春の日の暖かな日差しを隠すことなく空に広がる薄い雲。
そこから優しく降り注いだ慈しみの雨音を聞きながらオレと龍姫姉は何度目になるかわからない愛し合いを繰り返していくのだった。
―HAPPY END―
「…お盛んだねぇ」
「…毎度のこと終わった後に出てくるのやめろよ、あやか」
「…流石に私も心臓に悪いです」
「別に終わった後なんだからいいでしょうが。それよりももうお昼だよ?ご飯は?」
「いや、自分で作れよ」
「ゆうたも先生も料理上手いんだから作ってくれてもいいじゃん」
「私としてはまだゆうたとするつもりなのですけど」
「いくら先生の影響受けてもゆうただって枯れるでしょ?ちょうどいい休憩取らなきゃ」
「…なんかなー」
「…なんか、ですね」
「ほらほら、早くしてよ。どうせ夕食は二人とも行為に没頭しすぎて作らないんだしさ」
「家に帰れよ」
「やだよ、面倒見てよ。代わりに子供たちの面倒見るからさ」
「いや、私達二人で育てていきたいのですが」
「じゃあたしも育ててよ」
「何でだよ。あれか、胸―痛いっ!」
「ったく…ほら、食器は出すからさっさとしてよね」
「…ふふ、子供ができたらこんな風になるのでしょうか?」
「少なくともあんな子供に育たないようにしないとね。まぁ、龍姫姉との子供なら優しい子になってくれると思うよ」
「ふふ、ゆうたったら♪」
「ほら、早くしてよ!」
「はいはいっと」
そう言ったのは龍姫姉だった。
寂しげで悲しげで、とてもつらそうな表情を浮かべている。
「いいですか、ゆうた」
龍姫姉はもう一度繰り返して言った。
「ここから出て外へ行けば私達のような存在はいません。全くと言っていいほどです」
「…?」
その言葉の意味がわからない。
その表情の意味もわからない。
どうしてそこまで悲しげでオレの顔を覗き込んで言うのか、どうしてオレの頭に撫でるわけでもないのに手を乗せているのか。
「ここは外と全然違うといってもいいでしょう。私達のように頭から角や耳を生やした女性も、下半身が足でないものも、提灯や猫に化けるものもいません」
「そうなの?」
「ええ、そうです」
そこ龍姫姉は言葉を切った。
その先を言いたくないからか、迷っているのか、躊躇っているからか。
しばらくは何も言おうとしなかった。
それでも結局は口を開く。
苦々しげに、重々しくその言葉を言った。
「―だから、忘れなさい」
「…え?」
「ここであったことは忘れなさい」
龍姫姉の下半身が彼女の体ごと巻きついた。
逃がさないようにというつもりではないだろう、きっと離さないために。
手放したくないと我侭を言うように。
口にしていることと全く逆のことを思って、だろう。
「何もかも、忘れなさい。ここであったことは外ではありえないこと。私達との関わりはあってはいけないこと。だから…忘れなさい」
「なんで…?」
「覚えていたら…きっと大変なことになるからです」
そこから先並べられた言葉の内容は詳しく覚えていない。
ただそれでどういいたかったのか、どう伝えたかったのかは今だからこそわかる。
こんな世界で神様なんて存在は非科学的なもの。
幽霊と同じ、言葉にあっても実在しないもの。
名前はあっても目にはできない、そこにいるという証拠はない。
そんな世の中でここでの生活はいい影響にならない。
人の姿をしていない彼女達との暮らしはこれから先の生活で害となるかもしれない。
オレと龍姫姉達。
人間と人外。
人と神。
―それを区別するためにはオレは幼すぎたのだから。
だから、だからだろう。
龍姫姉がこの手を取ったのは。
オレに向かってそう言ったのは。
「やだよっ!」
オレは大声で叫んでいた。
子供ながらに我侭で、何もわかっていなくて、龍姫姉がどれほどまで迷い、下した決断かなんて知らずにただ嫌がっていた。
「ボクはいやだ!そんなわすれるなんていうのはいやだ!みんなといっしょにいたのをわすれたくないっ!」
「…ゆうた」
「たつきおねえちゃんといっしょにやくそくしたことをわすれたくないっ!」
「…っ」
「ぜったいに、おぼえてるもんっ!」
そんなオレの言葉に龍姫姉は顔を伏せた。
紫色の綺麗な長い髪が垂れて表情を隠す。
どのような顔をしているのかわからないが一つ二つ、雫が垂れたような気がした。
「…まったく」
そう言いつつも彼女は顔を上げてくれない。
それでも片手でオレの体を抱きしめる。
巻き疲れているこの状態では既に隙間さえもないのだがそれでもきつく抱き寄せる。
「ゆうたは…我侭ですね」
「わがままでいいもんっ!」
「ふふ、我侭で、甘えん坊で…それでも真っ直ぐで…やんちゃな子…」
そうして龍姫姉は囁いた。
それが最後の言葉。
それが終わりの言葉。
「ゆうた―」
そうっと、小さく、それでもハッキリと。
「―大好きですよ」
そこで記憶が途切れる。
それがあの頃の終わり。
オレが今まで覚えてなかった理由で、思い出せなかった理由。
何をどうやったのかはわからない。
それでも龍姫姉はオレのためにあのときのことを忘れさせた。
それは苦渋の決断で、苦難の決意。
それがオレのためだから。
だからこそ忘れさせたんだ。
次に目を開けたところで目の前にいたのは人間の女性である先生の姿だった。
「貴方が黒崎ゆうた君ですか?」
そして何もなかったかのように彼女はそう言ったのだった。
「本当はずっと忘れたままにさておくはずだったのですけどね」
龍姫姉はそう言いながらオレの体を優しく抱きしめる。
それはあの時と同じ感覚で、懐かしき感触。
人間ではない神様の姿。
大きい手、鱗の生えた腕、角の生えた頭、蛇のように長い体。
どれもがあの時と同じ、まったく変わらないもの。
安心できるこの温もりも、包まれるような安らぎも、満たしてくれる充足感も同じ。
間違いなく龍姫姉のもの。
それらを感じながらもオレは疑問に思ったことを聞く。
「ずっと?」
「ええ、ずっと。もう二度と思い出さないようにと…そう願って術をかけたのですけどね…」
術。
それがオレの記憶を縛っていたものだろう。
思い出さないようにずっと奥深くまで沈めておき、そのまま朽ち果てて墓場まで持っていくはずだったのだろう。
そこまで龍姫姉がオレのことを考えてくれていたことに嬉しく思う反面、そんな決断をしたことに寂しさを覚えた。
「でも、思い出してくれた…」
「…龍姫姉」
「私との約束まで思い出してくれるなんてとても嬉しかったです」
そっと顔だけを動かして見ると言葉通り龍姫姉は嬉しそうな顔をしていた。
人間らしい耳はなく、あるはずのない雄雄しい二本の角が頭から生えている。
こんな闇夜でも煌く金色の瞳とアジサイのように鮮やかな紫色の長髪はそのままだ。
「ありがとう」
龍姫姉はそのままそっと口づけする。
唇にではなく頬へ。
それは先ほどしてきた色っぽい唇での愛撫ではない、子供によくやる愛情ある行為。
昔にも何度かされた記憶がある。
それはくすぐったくて、それでどこか心地いい。
だが今となってはやはり照れる。
あの頃は性を意識する年頃ではなかったし、逆に今のオレは大人。
龍姫姉の行為にオレは指で頬を掻いて小さく笑った。
「どういたしまして」
その言葉を最後にオレと龍姫姉は何もしゃべらなくなった。
しとしと降り注ぎ湖面に弾ける雨音だけが大きく伝わる。
時折葉を叩く音も聞こえ、暗闇には雨の音だけが響いていた。
その雨音を聞いて思う。
そういえば龍姫姉は水の神だっけ。
それも天候を変えられるとかなんとかとおばあちゃんが言っていたな。
もしかしてこの雨も龍姫姉が降らせたのだろうか。
もしそうだとしたら龍姫姉は狙っていたのだろうか?
それともオレの記憶が戻ることを期待していたのだろうか?
さりげなく、あの時と同じ状況を作り上げることで。
…どうなのだろう。
龍姫姉に聞こうと体を捩ったそのとき。
「はくしゅっ!」
思わずくしゃみが出てしまった。
いけない、雨で冷え切っているからだろう体の方が不調を訴えているようだ。
後ろから抱きしめられているとはいえ夜の雨が生む寒さは人肌同士で暖めるには少々足りない。
「寒いですか?」
当然龍姫姉は聞いてくる。
見てみれば子供を心配するような親の顔だ。
「平気。それよりも龍姫姉は?」
「私はこれくらい平気です」
龍ですからね、彼女はそう付け加えた。
確かに龍姫姉は龍だ。ついでに言うと神様だ。
そんな彼女に寒さや暑さはあまり関係のないものなのかもしれない。
感じる体温は温かいけど。
「中に入りましょうか」
そう言って龍姫姉は部屋のほうを指差した。
古い木でできた戸の隙間から明かりが一筋漏れている。
そりゃ室内のほうがここよりも暖かいだろう。
でも今はこのままでいたいと思うところもある。
ようやくここまで来れて、あの時と同じ状況なのだから。
このままをもう少し味わいたい。
「大丈夫。このぐらい平気だよ」
「ダメです」
…あれ?龍姫姉?
なんだか態度がおかしいぞ?
「風邪でも引いたら大変ですよ?さぁ中へ行きましょう」
「え?いや、平気だって」
「ダメです」
…じゃ、何で聞いたんだ。
龍姫姉の一方的で親のような扱いに苦笑しつつもオレは頷いた。
「それじゃあ中に行くよ」
「ええ、そうしましょう」
彼女に幼子のように手を引かれするする滑る先生の隣を歩いて二、三歩、目の前の戸に手を伸ばして二人分の幅を開いた。
「…」
開いて固まった。
戸を開き目の前に広がるのはこの部屋の光景。
広く何十枚と敷かれた畳。それからお供え物をする台に壁に刻まれた龍の姿。
後は染みのある天井だとか、この部屋を十分に照らす明かりを放つ蛍光灯だとかそれくらい。
それくらいならまぁいいだろう。
この部屋の、この空間の普段どおり。
普段どおりではないところといえば先ほど龍姫姉が脱いだ服だろう物が丁寧に折りたたまれて鎮座しているぐらい。
後はオレが持ってきたお神酒の瓶がお供え物として置かれているだけ。
ただそれだけのはずだが…。
どうしてだろうか、目の前にはそれ以外のものが見える。
この部屋の中央に陣取るかのように敷かれたそれ。
大きめに見ても…というか実際それなりの大きさがある。
二人三人寝転がれるほどに広いそれはどうみても…布団だ。
布団ってここの部屋にしまわれてたっけ?
先ほど思い出した記憶の中に龍姫とここで寝ていた記憶もいくらかあった。
そのときここで寝ていたのは覚えているが…もう少し小さめの布団だったような…。
いや、そこじゃない。
気にすべきところはそこじゃないんだ。
問題はその布団について。
畳の上に敷かれ、その上に毛布を置く。
そこまでは別段気にするようなものではない。
だが、枕が。
枕が二つ。
そしてその布団は一つ。
一つの布団に枕が二つ。
時間は既に真夜中と言っていいだろう。
そんな時間に布団、これはもう寝るということを意思表示しているかのようだ。
寝るにはちょうどいい時間だしそのまま包まって朝まで夢の中へと旅立つことは当然だ。
生物として当然のことだ。
だが問題は枕が二つ。
枕が、二つ。
「…?」
何度見ても枕は二つだ。
一つではない。
それどころか布団は一つだ。
くどいようだが枕二つで布団一つって…うん、どういうこと?
ここで寝るのはオレと龍姫姉だけだよな?
あれ?オレはここで寝るの?
あれ?オレは別のところで寝るんじゃないの?
布団は二つ必要じゃないの?
混乱している頭だがどう考えたところで結論が変わらない。
頭の中に浮かんだ言葉はどれも同じ意味のもの。
人間の男と龍神の女。
いくら人外といえ、神様といえ龍姫姉は女性。
それでオレは男性。
男と女が同じ布団に寝るということ。
男女が同じ床で一夜をともにすること。
すなわち―
―床入。
―共寝。
―同衾。
「いやいやいやいやいや!」
あまりにも露骨な表現。
あまりにも予想外な展開。
これはつまるところつまり、そういうことですか?
男女の契りとかそういうことになるっていうんですか!?
「…えっと、龍姫姉?布団が一つしか見当たらないんだけど?」
これは間違いか、見落としか、ただのお茶目な悪戯なのか確かめるために龍姫姉に聞いてみた。
彼女はオレの質問に対してにこやかな笑みを浮かべて一言。
「ええ、一つだけですよ」
…どうやら見間違いでも見落としでも、ただのお茶目な悪戯でもないようだ。
というか確信犯だ。
「えっとさ、龍姫姉…ここは二つ必要なんじゃないの?」
「寝るのには一つで十分でしょう?」
「一人で寝るときにはそうだけど」
「二人で寝るときもそうですよ」
どうしてだろうか、龍姫姉の言い方が少しばかり強くなってきた気がする。
それどころか腕が背にまわされ、尻尾が足をするりと撫でる。
それはまるで催促しているようで、一歩踏み出すように促しているように思えた。
「えっと…二人で寝るっていうのは?」
「文字通り、言葉通りです。いくら冬ではなくとも雨の降る夜は寒いですしね」
「そりゃ寒いけど布団に入れば平気でしょ」
「それでは布団に入りますか」
ごめん、促したつもりはなかったんだけど…。
というかどうして龍姫姉は頬を染めているのだろうか。
片手で口元を押さえてなんともしおらしい。
大人の女性、いくら姿が人間離れしていようとも美女であることに変わりない。
その姿は見ているだけで惑わされるような妖艶さを、同時に今すぐにでも押し倒したくなるような可憐さを秘めていた。
…ってそうじゃない。
「いくらなんでも男女が二人同じ布団に入るのはいけないんじゃないかなーと思うんだけど?」
「あら、昔には何度も一緒に寝ていたでしょう?」
「それは小さかったからであって…」
「今は大人、というわけですか?」
「そう」
男女七歳にて同衾せず。
大人になればやたら親しくするべきではない、距離を置いて礼節をわきまえるべきだ。
慎むべきところはつつしみ、重んじるべきところは重んじなければ。
「むしろ、大人だからでしょうに」
「…え?」
「年頃の男女はわきまえるべきですが…夫婦ならそれくらいしても当然ですよ」
「夫婦!?」
予想外の言葉に体が固まった。
夫婦って…結婚もしてないのに気が早いんじゃ…。
「夫婦って言うにはまだ早いんじゃ…」
「早くはないでしょう?神前で契りを交わさずとも約束を交わしたのですから」
神前っていうか…神隣というか…その約束した相手が神様なのだけど。
「それとも―」
そこで龍姫姉はオレの頬を両手で挟んだ。
そのまま顔を近づけ息が掛かるほどまで近寄ってくる。
甘い香りと熱い吐息が肌を撫で、目を逸らすことなんてできなくなった。
「―ゆうたは結婚の約束をした女性を前にして何もしないのですか?」
…しまった。
言った手前、思い出してしまったこの現状。
拒むなんてことは許されない。
拒めないわけでもないが、先ほどの発言からしてそれはまったく逆のものだ。
好きだというより、大好きだというより、ずっと先の言葉を言ったのだから拒否なんてできるはずがない。
「ゆうたは私が嫌いですか?」
嫌いなわけがない。
「私が不満ですか?」
不満なんて欠片もない。
「迷惑ですか?」
そんなことないに決まってる。
だけど、でも、オレは―
―…やめよう。
何を拒む必要があったんだ。
何でここで躊躇っているんだ。
ここまで来たというのに、ようやく思い出せたというのに。
あともう少しだけ踏み出せばいいだけなんだから。
「…龍姫姉」
オレは龍姫姉の手を掴んだ。
鋭い爪に煌びやかに輝く鱗、それから伝わる硬くも優しい彼女の感触を手に感じつつそっと引く。
先ほどから龍姫姉がしてくれたように今度はオレが手を引いていく。
引いて、そのまま二人で布団の上に座った。
オレは正座、龍姫姉も同じようにして座り伸びた下半身をさりげなくオレの後ろへと這わせる。
部屋の中とはいえ外は雨、そして夜である以上この部屋もそれほどまで暖かくない。
快適というには少しばかり冷たい温度がやけにハッキリと感じる。
戸を越して伝わってくる雨音もよく聞こえる。
それはここで何も音が響かないから。
何を言ってあげるのかなんてわからないから。
聞こえるのはせいぜい微かな息遣い。
これからすることは未体験である以上どうすればいいのかなんてわからない。
だから無骨になっても無粋になっても許して欲しい。
「その、オレも男だから…だから…」
「…はい」
龍姫姉は小さく返事をした。
オレの返事を待ってくれているように、それでいてどこか期待に目を輝かせて。
「…止まらないよ?」
その言葉に彼女は頷いた。
優しく、母性溢れる笑顔で。
同時にどこか妖艶で、艶のある笑みで。
「止まらなくていいのですよ。求めて良いのですよ。ゆうたに求められることをどれほど心待ちにしていたか…」
「龍姫姉…」
「だから、来て下さい…♪」
その言葉に今度はオレが頷いて龍姫姉の肩に手を置いた。
このまま押し倒すのがいいのだろうか?
それとも服に手を掛けたほうがいいのか?
いや、でも始めはやっぱりキスから…?
そう考えていると彼女が控えめに口を開いた。
「ただ…」
「うん?」
ただ…どうしたのだろう。
心の準備が整わないから待って欲しいというのだろうか?
しかし龍姫姉の口にした言葉はオレの予想と違っていた。
「もう一度、言ってもらえませんか?」
「え?」
「先ほどの言葉を…聞きたいのです」
「…」
その言葉にオレは一度逃げるように視線を外し周りを確認して(確認というよりはただの時間稼ぎというか…)一息ついた。
結婚するとまで言った以上今更好きなんて言葉で事足りないだろう。
好きだ何てそれは子供の頃から既にわかっていることだし、確認するまでもない。
だから少し洒落て、ちょっとばかり悪戯めいて。
それでいて、本当の気持ちを彼女の耳に囁いた。
「―愛してる」
「っ!」
一瞬龍姫姉の体がびくりと大きく震えた。
表情を伺えば顔は真っ赤、それでいて嬉しそうな、でもどこか泣き出しそうな表情を浮かべている。
してやったり。
ただ囁いたオレも鏡を見なくてもわかるくらいに顔がわかるくらいに赤くなっている。
このような言葉を口にしたことは今までなかったし、何よりその相手が龍姫姉なのだから。
どこか気恥ずかしさを覚えた。
「それじゃあ…」
「ええ…♪」
共に小さく頷いて、肩に置いた手を首筋へと添える。
逆に龍姫姉はオレの両頬に両手を添えた。
胸に手を当てずともわかるほど鼓動が大きく脈打つ。
もしかしたら龍姫姉にも聞こえているのではないかと思えるほどだ。
しかし龍姫姉は瞼を閉じていた。
その間にも顔を近づけ唇をそっと突き出す。
部屋の明かりを艶やかに反射する桜色で柔らかそうな唇。
瞼を閉じて紅潮した頬で誘うような表情。
オレも龍姫と同じように瞼を閉じる。
そして、そっと唇を重ねた。
「ん」
「んっ♪」
感じたのは柔らかさ、それから上品な甘さだった。
この世にこれほど柔らかなものがあったのかという驚きと高級和菓子のようなしっとりとした甘美な味。
それから背筋を貫く経験のない快感だった。
蕩けるような快楽で、今までにない極上の快楽で、染み渡るような優しい快楽。
いかにも龍姫姉らしい、彼女とのキスだからこそ得られる感覚。
それを十分に堪能してからオレはすっと唇を離した。
唇を重ねていたのはとても長い時間だったかもしれないし、とても短いものだったかもしれない。
時間感覚が狂うほど彼女との口付けは夢中になれた。
「龍姫姉…」
その名を呼んで恥ずかしげに表情を伺えば彼女は照れたような笑みを浮かべていた。
笑みを浮かべたまま湿った唇の間から舌を出す。
それはゆっくりと先ほどオレの唇が重なっていたところを拭って戻っていく。
その行為はどこか物足りないと催促するようであり、どこか妖艶なものを感じさせた。
「ゆうた…」
名を呼ばれ体が近づけられる。
上体を寄せた龍姫姉はそのまま下半身をオレの背に当てた。
どうやらもっと近づいて欲しいようだ。
オレも身を乗り出して体を寄せると―
「―んっ!?」
「んちゅっ♪」
不意打ちでキスをもらった。
それも先ほどの重ねるだけではない、唇から舌を入り込ませる深いキス。
驚いて反射的に逃げようと身を引くが彼女の体に阻まれた。
「ん、ふぅ…れろ、むちゅ♪」
逃げることなんて許されず、引くことなんてかなわない。
雅やかな甘さが脳の奥まで染み渡り、媚熱で頭が火照っていく。
割り込んできた龍姫姉の舌はオレの舌を探り当てると逃げるよりも早く絡め取った。
「ん、むーんんん!」
「ん、ふむぅ♪…ん、んー♪」
先ほどよりもずっと深い口付けは先ほどとは比べ物にならないほどに甘いものだった。
肌よりもずっと高い体温が、唇とはまた違った柔らかさが、ぬるぬるとした蜜のような唾液が纏わり、伝わり、絡んでくる。
さらに深くまで潜り込もうとしているのか龍姫姉の手が後頭部へと回された。
体には二つの大きな膨らみが押し付けられ後ろへ倒れそうになるも彼女の体に支えられる。
それは互いに尽くしあうようなキスではなくて欲望にまみれた口付けだった。
一方的、それで問答無用。どこか優しさを残すも貪欲な行為。
それでも不思議と嫌とは感じないのは龍姫姉が愛する女性だからだろう。
抵抗なんてするはずもなく、逆にオレからも積極的に舌を絡ませていく。
それだけでは止まらない。
彼女の甘く柔らかな舌をねっとりと舐め上げ今度はオレからも舌を突き出し進んでいく。
龍姫姉は抵抗の意を見せず、それどころか待っていたとでも言うようにオレの舌を口内へと受け入れた。
龍姫姉の口内はよりいっそう甘みが増した。
柔らかな舌はオレの舌での愛撫を心待ちにしていたかのように絡みつき、自分の領域に踏み込んできた獲物を貪欲に啜る。
「んちゅぅ♪…ん、んふっ♪ふ………ん、んんっ♪」
「ん、ふぅ、んっ」
気づけばオレの体は徐々に龍姫姉に押されて後ろへ倒されていく。
それに加えて前からは体で押し、支えてくれていた蛇身が下がっていく。
後ろに手をついて支えたい一方この快楽に指先一本も動きそうにない。
それほどまでにオレはこの口付けに酔わされ、もっと味わいたいと欲張っていた。
「んんんっ♪」
口内へと侵入させた舌が押し返され、再び龍姫姉の舌がオレの口内へと侵入してくるのと同時に体重をかけられた。
支えるはずだった手を彼女の首筋に添えている以上抗うものは何もない。
そのまま力の任せるままに倒された。
体が柔らかな布団に受け止められ、体の上からは龍姫姉が倒れこんでくる。
当然唇は重ねたまま、舌を入れたままで。
後ろが布団になったこともありこれで引くことは完全にできなくなった状態でオレと龍姫姉のキスはよりいっそう激しいものとなった。
「んんっ♪ひゅぅ、ふ…ん…ちゅぅ、あ、んんん♪」
重ねるというよりも押し付けるような。
啄ばむというよりも噛みつくような。
啜るというよりも貪るような。
荒々しくもとろけるような甘いキス。
そんなキスを受けていたらいきなり龍姫姉の体が跳ねた。
「んひゅっ♪」
体が震えるも強く唇は重ねたままで艶の掛かった声が漏れた。
そして震える龍姫姉とは反対に固まるオレの体。
固まったのは手に感じる感触が変わったから。
龍姫姉の艶やかな白い肌の弾力が柔らかなものへと変わる。
力を入れた分だけ沈み、包み込んでくれるような。
唇とはまた違う柔らかさが身にまとう布とオレの手を通して伝わってきた。
見なくてもわかるそれが何かはわかっている。
オレの手は龍姫姉の首筋から勝手に移動してそれで…胸に添えられていた。
口ではなんだかんだ言っても本能は一人の女を求める男。
意識していなかろうが本能がその先を求めて動き出している。
そこでようやく龍姫姉は名残惜しげに唇を離してくれた。
銀色の糸が伝い、ぷつりと切れる。
唇の下についたそれを龍姫姉はゆっくりと見せ付けるように舐め取った。
「ん、ふ♪やっぱりゆうたはおっぱいが好きですね♪」
「いや、その…」
「口ではなんだかんだ言っても手はこっちに来てますよ♪」
「…」
体が勝手に動いたといっても事実は事実なので言い訳できるわけもない。
それに…その、好きなのも事実なんだし。
「いいのですよ」
そこで龍姫姉から声が掛かった。
「我慢しないで。止まらないで。ゆうたの好きなように…してください♪」
「っ!」
そんなことを言われては止まれるものも止まらない。
愛する女性が全力で受け入れてくれるというのだからここで止まれば恥だろう。
なら止まらず、躊躇わず。
行動で示すまで。
オレは両手を龍姫姉の服にかけ、そっと開いてその豊満すぎる膨らみを開放させた。
「…っ」
服越しから、という昔からずっと思っていたのだが龍姫姉の胸は大きい。
小さなスイカでも詰め込んでるんじゃないかと思ったほどだ。
これほどまでに大きい女性はそういないだろう。
そこらのグラビアアイドルも真っ青になるほどだ。
子供の頃には一緒に風呂に入っていても、あの時見るのと今見るのではだいぶ違う。
子供と大人じゃ感じるものが違う。
ふっくらとしたその膨らみは片手では支えきれそうにないほどでオレが手で支えても埋もれてしまうほど。
その大きさもさることながら重力に負けずに綺麗な形を保つその張りが美しい。
そして先端にあるつんとした桜色の乳首。
紫色の長髪と龍姫姉の持つ美貌とスタイルのよさはその全てが天女を思わせるほど。
「そんなに見られると…恥ずかしいです♪」
そういいながらも彼女の目はどこか期待の色を見せつけていた。
それを確認してから視線を戻す。
服の拘束を逃れたそれはオレのすぐ目の前に存在している。
龍姫姉は上から覆いかぶさるようにキスしていたのだからそんな体勢で服を脱がせればとうぜんこうなるだろう。
そしてすぐ先にある胸の先端が、そこにある。
既にぷっくりと膨れていて硬くなっているだろうことは予想がついた。
興奮してる…?
だったら、そうだとしたら…。
ぞくりと悪寒にも似た感覚が背筋を上ってきた。
それと同時にどす黒い欲望が鎌首をもたげた。
下から押し上げるように手を出す。
「ふ、あっ♪」
途端に漏れ出す龍姫姉の切ない声。
艶の掛かったそれと共にわずかながらに息が荒くなる。
手に伝わる感触はパン生地とかマシュマロとか思いつくもの以上に柔らかい。
手の平に吸い付きずっしりとした重量が両手に掛かる。
力をこめて揉みしだく。勿論痛みを与えないように配慮しながら。
「んん…♪あ、ぁん♪」
甘い声はねだるように頭に響きオレもそれに答えるように手を動かした。
小指から親指まで波打つように力を込める。
その分龍姫姉の胸はぐにぐにといやらしく形を変えた。
同時に表情も変わってくる。
慈愛溢れたあの笑みがオレによって与えられる感覚に耐える表情。
しかしどこかとろけるような、求めるような潤んだ瞳。
そんな瞳で見られたら…こちらも止まれなくなるというものだ。
揉む手を止めて今度は指先に移る。
指の腹で最小の面積が触れるように、ふくらみのラインを撫でた。
「ひゅぅっ♪」
途端に先ほどより跳ねた声が漏れる。
龍姫姉は敏感なのか、それとも女性というのはこういうものなのかわからない。
それでも喜んでくれているようならなによりだ。
それじゃあ今度はと思い指先で龍姫姉の胸に乳首を中心にして渦を描く。
「ん、んぅ♪」
中々な反応。
そのまま指先の描く円を徐々に小さくしていく。
そのときそっと乳輪に指先が触れた。
「ひゃぁ♪」
今までのあった中で大きな反応。
やはり先端は敏感なのだろう。
そんな反応されたらそれくらいわかるし、それにもっとしてみたいと思ってしまう。
今度は五本の指を使って鷲掴んだ。
そして力を込めずに引き、指と指の感覚を狭めていく。
「ふぅ、ぅ♪」
そして五本の指がある一点を刺激した。
「あんっ♪」
一番大きな反応を返してきた。
やっぱりここが一番感じやすいのだろう。
人差し指と親指で挟み込んで感触を確かめるように捏ねくる。
「そこは…ぁ♪」
「うん?ここは…どうなの、龍姫姉」
わざとらしく聞いてみる。
ここまでの反応をされたら嫌がるなんてありえないが、止めて欲しいともわからない。
逆にして欲しいかさえわからない。
本当は理解しているがあえて聞いてみたいんだ。
余裕溢れ慈愛に満ちている龍姫姉の口から淫らな言葉が。
「感じてくれてる?」
「は、い…ぃ♪」
「気持ちいい?」
「気持ちいいです、あっ♪」
「そっか、よかった。それじゃあ―」
―もっとしてあげないと。
そう言ったのは龍姫姉に感じてもらいたい、尽くしたいという本心か。
龍姫姉を思うように喘がせたい、もっと鳴かせたいという欲望か。
そのどちらかなんてわからない。
だがわからなくてもいいだろう。
するべきことは一つなのだから。
「あ、む」
「ひゃぁあっ♪」
龍姫姉の体が跳ねた。
それを逃がそうとせずオレは彼女の背に手を回して捕まえる。
そうして先ほどの行為を続けた。
彼女の胸の先端を口に含んで、吸う。
ただそれだけではなく時折舌で先端を舐めながら。
啄ばむように吸い付いては乳輪をなぞるように舌を這わす。
龍姫姉のように表すなら赤子だと言われそうだが、赤子はこんないやらしい吸い方はしないだろう。
「そんな風に吸ったら、ああ♪」
吸うたびに艶やかな声が漏れ、小刻みに体を震わせる。
だがこれだけじゃあ芸がない。
これだけ感じてくれているのは嬉しいが同じものばかりじゃ飽きも来るというもの。
それにオレの初めての女性に対する興味と貪りたいという欲望もまた尽きない。
角度を変えて吸い付いてはあえて乳首以外に吸い付き、口付けを落とす。
だがしかし、どこか物足りないという表情を龍姫姉は浮かべていた。
熱に浮かされつつもその先を求めるような目を向けている。
どうしたのだろうか…何かもっとして欲しいことがあるのだろうか?
そう思っていたら声が掛かった。
「んぁあ…♪ゆうたぁ、もっとしてください♪」
甘く、とても甘い、おねだりの言葉。
龍姫姉はオレの手を取り、オレが吸い付いているのとは逆の乳房へ押し付けた。
そこでようやく理解する。
理解して口を離した。
「ん、こっちも…弄ってほしい?」
「はい…♪」
「そっか」
肯定の言葉にオレはそのまま手に力を込めた。
ただし、ずっと強く。痛みを感じさせずとも力強く。
「あぅん♪」
一段と高い声に手を止める。
「ごめん、ちょっと強くしすぎたかな?やっぱり手じゃなくてこっちがいいかも」
そう言って今度はそちらを口に含んだ。
「んひゅぅ♪」
さらに体が跳ねても構うことなく吸い続ける。
ただし今度は吸うだけに留まらない。
唇で乳首を挟んで、次に歯を立てて甘噛みする。
勿論空いている手はもう片方の乳房を弄繰り回して。
快楽の波を途切れることなく送り出す。
「ふ、あぁ…ん♪あっ………んっ♪」
声が徐々に高くなってきた気がする。
それに伴い体の震えも大きくなってきたように思えた。
それがどういう意味なのか確信はないがそれでも理解している。
…なら。
一度揉んでいた手を離し、啜っていた口も名残惜しげに離した。
「あ…っ」
物足りないと言わんばかりな切ない声が聞こえる。
だが、そんなのもつかの間、オレはすぐさま口は吸い付き、手は先端を摘んだ。
先ほどよりも力を込めて、さっきよりも刺激的に。
「ひぁあああああああっ♪」
途端に龍姫姉は体を震わせた。
声も震えも今まで見せた中で一番大きなものだろう。
背筋をぴんと張詰め仰け反るように振動し、それに伴い豊かな膨らみ二つもゆさゆさと揺れる。
「ふぅ…ぁ………ん♪」
震えが収まる頃を見計らってオレはゆっくりと口と手を離した。
「ぷはぁっ!…どうだった龍姫姉」
「ふぁ…♪もう、あんないやらしく吸うなんて…ゆうたはいけない子ですね♪」
「そりゃ、オレも男だからね」
小さく笑って起き上がった。
そして龍姫姉の体とオレの体の位置を入れ替える。
今度はオレが上に、龍姫姉が下になった。
胸だけ肌蹴た服を脱がし、布団の外へと投げやると龍姫姉の手がオレに伸びてきた。
その手は服に手を掛け、するりと脱がしていく。
空手着のような服でも帯がないのですぐさま取り払われる。
この服の構造は龍姫姉の服と大差ないので脱ぐのも脱がすのも苦労ないのだろう。
上半身は裸になり、下半身は黒い袴だけ。
「こうして見ると…本当に逞しくなりましたね…♪」
感慨深く、熱っぽく呟いた龍姫姉は体に手を撫で回す。
ごつごつとした見た目とは違い柔らかな感触が這わされる。
今まではえらいえらいと褒めるために撫でられた彼女の手。
この手で撫でられるのはずっと昔のことだったのだがやはり変わっていない。
じんわりと温かく、それでとても落ち着く。
ただ昔と違うところといえば家にいたときにしたように手つきがねちっこいということだ。
成長したところを全て確かめようとしながらも、先ほどのお返しといわんばかりの動き。
くすぐったくてなんとも悩ましい。
そのまま下へと下がり、袴を押し上げる部分に手を添えられる。
「っ!」
「ここまで逞しくなって…♪」
どこか恍惚とした表情で龍姫姉は撫でた。
ただの一撫で、ただ手が触れただけ。
それだけだというのに背筋に電撃が走ったかのような刺激を得る。
思わず腰が引けてしまうほどに。
「ああ、だめですよ♪逃げないでください♪」
その言葉に続き龍姫姉の蛇身が背を押した。
慌てて膝と手を突き何とか支えるも下半身から立ち上る快感は止まらない。
それどころか支えるためについている膝に彼女の蛇身が巻きついてくる。
するすると、ゆっくりと。
ぎゅうぎゅうと、しっかりと。
きつくもないが緩くもない。
そのままの状態で彼女は笑みを深めた。
オレが逃げられないことに対してか、オレが動けないことをいいことにか。
「それじゃあ下も、見せてください♪」
そんなこと言われてもこの状態では脱ぐこともできないだろうに。
そう思っているとぐにぐにと蛇身が蠢き、それに合わせて袴と下着が徐々に下がっていく。
元々ベルトもなくただ履いていたというだけだからだろう、それは龍姫姉の体によってすぐに脱がされ服と同じように布団の外へと投げられた。
「…器用だね」
「ふふ、昔はこうやって服を脱がせていたのですよ♪」
「そりゃ手馴れてるわけだ…」
「でもこれは昔とは違いますね♪」
すぅっと手のひらがオレのものを撫で上げる。
途端に電撃に討たれたかのような快楽が体中に走った。
「ちょっと…龍姫姉…!」
「はぁ…♪もうこんなに硬くなって…♪」
龍姫姉の大きな両手に包まれたことによりその熱が陣割と伝わってくる。
普段なら安心できるその温かさが伝わるたびに疼くような媚熱のように感じられた。
そのままゆっくり下から上に、上から下へと擦って感触を確かめてでもいるのだろう。
ただそんなことをされれば他人から触れられた経験のないオレはその未曾有の感覚に黙って耐えるのは難しかった。
「待った…っ!龍姫姉、本当に、待って…!」
しかし彼女はオレの声なんて届かないのかあえて聞こえていないふりをしているのか手を動かすことをやめてくれない。
しかも擦るだけでは終わらない。
時折揉み解すように力を込めれば、指先でくすぐるように撫でてきて、そうして再び撫で回す。
「く…ぅ………ぁ…っ!」
「我慢しないでください♪そんな声を出されてはもっとしてあげたくなります♪」
「それは…ちょっと止めて…」
「びくびくして…可愛らしいですよ♪」
「だからこの歳で可愛いなんて―んむっ!」
いきなり体を起こしてきた龍姫姉の唇で塞がれた。
そのまま先ほどのようなねちっこく深い口付けを交わす。
ちゅっちゅと啄ばむような音がすればにゅちゅにゅちゅと舌が擦り合わせられる音が重なった唇から漏れる。
離れようとすれば吸いつかれ、求めれば求め返される。
それは先ほどのキスよりもずっと積極的でずっと情熱的なものだった。
布団を握ってなんとか耐えるが…これではどちらが攻めているのかわかったものではない。
体を震わせながら耐える様は先ほどの龍姫姉と同じだった。
「ぷはぁ、あ…ぁ♪」
「ん…はぁ、龍姫、姉…」
止めてといっても手をやめずあろうことか口付けさえしてさらに追い詰めてくる彼女に恨めしい視線を送るが龍姫姉はうっとりとした表情を向けるだけ。
そうしてまだ離れていないこの距離でオレの唇を舌でなぞった。
「んんっ!」
「れろ、ん、ちゅ♪」
小さくキスしてようやく離してくれる。
体に巻かれた蛇身も同時にゆるくなっていった。
それでも、当然巻きついたまま。オレを捕らえて離さない。
多少の自由は許されてもこの布団から逃がす気はないだろう。
そんなつもりはこちらもないのだけど。
「龍姫姉…」
「はい…♪」
その名を呼んで、彼女は返す。
その言葉の意味も理解してくれたように。
互いに素肌を晒しているこの状況。
もう先へと進んでもいいだろう。
触れ合いよりもずっと熱く。
抱擁よりもさらに気持ちよく。
口付けよりももっと甘い。
男と女の交わりへ。
「するから…ね?」
「はい♪来てください…♪」
腕を絡ませ身を寄せて。
覆いかぶさるオレと抱きとめる竜姫姉。
そのまま既に痛いほど張り詰めているものを竜姫姉のにあてがって―
―…あれ?
ここで一つの問題が生じた。
―……………入れるところどこだ?
男と女。
雄と雌。
それでもオレと龍姫姉は違う存在。
人と神。
人間と龍。
いくら似た姿であって、天女のように美しいとしても体のつくりが違う。
そうなれば性交の仕方も変わってくるのではないか。
それとも人間に似た姿だから同じように股間にあたる場所にあるのだろうか?
とすれば腰と蛇身の境界あたりか?
まだ完全には脱がし終えていない龍姫姉の体。
そこで鱗と人肌の境界線らしき場所にある布。
あの服は元々龍姫姉のこの姿のためにあったものであり、同じ構造をしているオレが着ていた服と異なるべき部分。
袴と腰周りを巻くような布。
とすればやはり…。
そう考えていると龍姫姉が先に動いた。
股間の布に手を掛け、そのままゆっくり見せ付けるように脱いでいく。
「ほら…見えますか?」
「っ!」
そうして現れたのは龍姫姉の女の部分。
ぴっちりと閉じた肉の唇からはぬらぬらとした粘液が体を伝って布団へ染み込んでいた。
鱗で保護されていたのだろうかそれが付着していて、普段なら神々しい輝きを放つ鱗が妖しく光っている。
そこから立ち上る独特な香りはどこか甘みを含んでいて思わず酔ってしまいそうな感覚に陥った。
ざわざわと男の欲望を撫でられるような。
ぞくぞくと雄の本能を刺激されるような。
そんな光景。そんな姿。
「ここに…ゆうたのを入れて…―」
そっと指が這わされた。
そのまま見せ付けるように筋をなぞる。
「ぐちゅぐちゅにかき混ぜて―」
這うたびにぬるぬるの粘液が漏れ出してきた。
それは指に付いては部屋の明かりを妖しく反射する。
「ゆうたと私で、一緒に気持ち良くなって―」
龍姫姉はそこに這わせた指でそっと広げた。
粘液に溢れたそれは紛れもない女性器。
それはとても神々しく思え、いやらしく蠢いているように見えた。
「そして―」
ごくりと喉が鳴る。
それは初めて女を目にしたオレのものだったか、それともこの行為の先を期待している龍姫姉のものだったかわからない。
「―私を、ゆうたの女にして…♪」
その言葉にオレは小さく頷いた。
自身のものを手に取り、そっと龍姫姉にあてがう。
「んっ…♪」
「っ…!」
先端に感じた湿り気と胸や唇とはまた違った柔らかさ。
そこから伝わるのは先ほど手で擦ってもらったのとはまた違う気持ちよさ。
これだけでも気持ちがいいのだから入れたら一体どうなってしまうのだろう。
疑問と、期待と、それからその先を求める欲望。
男女の契りを結ぶという覚悟、そして龍姫姉への純粋なる好意。
それらを胸にオレは一息吐き出し、腰に力を込めた。
―ぐちゅりと今まで聞いたことのない音が体中に伝わった。
「う、くぅ…ぁっ!」
「ああああああああああああああっ♪」
どろどろに蕩けた愛液の感覚が。
ぎゅうぎゅうに締め付ける感触が。
じくじくと伝わってくる媚熱が。
体中を駆け巡り、全てを快楽へと変換していく。
それでもまだ先端だ。
これで全て入ったらどうなってしまうのだろう。
未知の感覚に恐怖にも似たものを覚えつつ腰を進めるのをやめない。
包まれて、引き込まれて、飲み込まれて。
さらに奥へ奥へと突き進んだ。
そんな中でだ。
予想外なものを身に感じることとなった。
「…っ!?」
それは抵抗。
進む途中で突然感じた抵抗に思わず腰が引けたが引けなかった。
いつの間にか体に龍姫姉の蛇身が巻きつき、押してきていたのだから。
これではまず引くことはできないし、抜くこともできないだろう。
気づけばそのまま力に従うようにその抵抗を突き破っていた。
「あうぁ…っ♪」
「…え?今のって…まさか」
それを突き破っても龍姫姉は痛みを感じている様子はなかった。
それどころか目尻が下がり蕩けた表情を見せてくれる。
そこへ目の端から一筋の雫が頬を伝った。
「もしかして…龍姫姉も…初めて?」
「は、い…♪」
挿入した感覚に身もだえし、感じたことのない快楽を何とか耐えつつ聞くと肯定の言葉が返ってきた。
初めて。
つまるところオレが今突き破ったのは龍姫姉の純潔の証。
「待っていたのですよ…♪」
龍姫姉はそっとオレの首に腕をまわした。
「ゆうたが生まれてからずっと、待っていたのですから…♪」
「龍姫姉…」
「ずっと、ずっと…ゆうたが来てくれることを願って待っていたのですから…♪」
そこでキスされた。
それも右頬に。
次いで左頬に。
さらに鼻先に。
重ねて額に。
そして、唇に。
「やっと、来てくれました…♪」
唇を離して龍姫姉は言った。
「もう、待ちくたびれるかと思いました…」
そっと額が合わせられる。
近づいた顔と顔。
龍姫姉の潤んだ金色の瞳が目に入る。
「でも、来てくれたのですから…約束を、守るといったのですから…♪」
だから―
―最後まで、責任とってくださいね…♪
その言葉にオレからもキスを返す。
額に、そして唇へ。
「喜んで」
そっと呟いてから止めていた腰に力を込めた。
そのままどんどん奥へ奥へと突き進んでいく。
純潔な彼女の中は異物であるオレをときつく締め上げてくる反面、受け入れるように、飲み込むように律動していく。
それは優しい龍姫姉自身のようで、どこか貪欲なところまで彼女の本質を表しているかのようだった。
そのままオレは突き進む。
少しだけ肉壁を擦っただけでも頭の中が真っ白になりそうな快楽を何とか堪えて。
ぎゅうぎゅうと絞られるように蠢く龍姫姉の感触を我慢して。
「ひゅあ、ああ♪ゆうたが、来てぇ、来てますっ♪」
「龍姫姉…っ!」
そうして全てが収まるというところで先端にこつんと少し硬いものを感じた。
途端に。
「ひゅぁあ♪」
「うぁっ!?」
いきなり龍姫姉の中がきつく締まった。
ただでさえ初めてということできつかった彼女の中は痛いほど、それでいて逃がさないようにと締め上げる。
だがそれによって感じたのは痛みではない。
先ほど擦り、包まれ、飲み込まれていくあの感覚がさらに襲ってきた。
精液をねだる様に、むしろ強引に搾り取ろうとするように。
敏感な反応に先端に感じた周りの柔らかな肉壁とは違った感触。
それが龍姫姉の子宮口だと認識していたときには既にオレは爆発していた。
「う、あ、あああっ!」
「はぁあああぁあああああっ♪」
溜まりに溜まっていた精液が注ぎ込まれていく。
ただでさえ先ほど龍姫姉の手でされていたのだ。
されていても出してはいない。
そんな状態で未経験のオレが女性の膣へと入れようものなら果てて当然。
むしろ全て収めるまでに果てなかったことのほうがすごいだろう。
どくんどくんと止まらぬ射精。
流し込むたびに龍姫姉の体は震え、それに伴って彼女の中も震えながらに律動する。
もっと下さいとねだるように。
さらに出せと言わんばかりに。
その動きに合わせるように一度で治まらずに二度三度とどくどくオレの証を流し込んでいった。
「ふっ……く、はぁ…」
「はぁ…ん♪ふぁあ…♪」
崩れそうになる体を何とか支えるのだがどうも力が入らなく、オレの体は龍姫姉の体に倒れこんでいた。
肌には汗が浮かび、重なっていることによって混ざり合い、このまま一緒に溶け合ってしまいそうに思える。
不快ではない、むしろ心地いい。
不満ではない、むしろ落ち着く。
だがこのまま体重をかけている状態では龍姫姉とて苦しいだろう。
小さかった子供の頃とは違う、大人の体なんだから。
体を横へずらし布団の上で向き合うようにそのまま寝転ぶ。
当然繋がったまま。
「はぁ…ぁ………ふふ♪」
龍姫姉が小さく笑った。
どこか満ち足りたような、満足したような、それでももっと欲しいというような顔で。
「沢山出ましたね♪ゆうたの…とっても温かいですよ♪」
そんな表情を浮かべた彼女にオレも笑って答える。
「龍姫姉の、中…気持ちよすぎだって…」
「あら、それは嬉しいですね♪…でも」
そっと背に龍姫姉の蛇身が押し当てられた。
右腕が体へ絡みつき、腰に手を添えられる。
左手は自身の下腹部へ、オレのものが入っているところに。
「まだまだ硬いです…♪」
「…若いからね」
「それなら、もっとしましょう♪沢山しましょう♪」
肯定の意を込め身を寄せる。
そうして再び腰を動かした。
横になったことによってどこか動きにくいところがあるがそれでも一度出したからだろう、先ほどよりもずっと余裕があった。
龍姫姉の中の感触をよく味わい、身に感じ、どこで感じてくれるのか探り出す余裕が。
突き刺し、引いて、押し込み、戻す。
「んんん♪はぁあっ♪あっ♪ひゅわっ♪」
動くたびに走る快感。
擦るたびに漏れる艶声。
「く…ぅう♪ん、ひゅ♪ふぁあ、ああ♪」
奥を強く突けば震え上がり。
引き戻して中を掻けば締め付ける。
重なる呼吸が荒くなりながらも互いに動くことをやめない。
龍姫姉が腰を引けばオレも自身を引き抜き。
オレが突き出せば龍姫姉は腰を進めた。
抜けないギリギリまで離れては隙間なんてないほどにぴったりとくっつき、奥を突く。
徐々に重なり合っていく動き。
それどころか徐々に加速してきてさらなる快楽を求めていく。
だがその中でオレの余裕は長くは続かなかった。
あまりにも気持ち良すぎるんだ。
気づけば全てを投げ出してただ性欲のままに腰を突き動かしたいと思わされる。
これが女性との交合なのか、龍との性交なのか、そのどちらなのかなんてわからない。
「龍姫姉…っ!」
「あ、ぁあっ♪ゆう、たぁあっ♪」
名前を呼んで、名前を呼ばれて。
求めて、求め返されて。
それがたまらなく心地よくて気持ちよくて。
そして、たまらなく愛おしい。
狂おしいほど龍姫姉が愛おしい。
もっと深く繋がろうとさらに激しくしようと龍姫姉の腰に手を当て自身を押し込もうとしたそのときだった。
手に何かが触れた。
瞬間。
「んひゅうっ♪」
龍姫姉の声がいきなり跳ねた。
それと同時に中もぎゅうっと締めてくる。
「う、ぁっ!?」
どうしたのだろう?
どこか気持ちのいいところにでも当たったのだろうか?
そう思ってもう一度彼女の腰に手を当てた瞬間やはり。
「ひゃぁあ♪」
艶やかな声が漏れる。
…どうしたのだろう。
もしかして龍姫姉の性感帯はお尻なのだろうか?
そう思ってもう一度撫でてみる。すると触れた。
「はぁあああっ♪だ、めっ♪そこはだめ、ですぅ♪」
弱弱しくオレの手を止めようと龍姫姉の手が伸ばされる。
だがオレはそれを既に見つけていた。
本来龍姫姉の下半身である蛇の体。
それには鱗が生えており体から尾へ向かって一様に鱗が生えている。
撫でようものならば艶やかな手触りと少し硬い、まるで宝石のような感触を手に残してくれるだろう。
だが、オレの手に触れたものはその鱗の中の一つ。
上から下へ撫でたときに突っかかったというか、目立ったというか。
一枚だけ他の鱗と逆に向かって生えている鱗の感触があった。
逆に生えた鱗?
―…逆鱗?
よくドラゴンの弱点とされるものである。
それは逆鱗といいつつそこだけ鱗が生えなかったり、その鱗だけが他の鱗よりも脆かったり、そこが命と繋がっていたりと書かれていた。
ゲームでも何度か出てきたし。
逆鱗に触れる、という言葉もあるほどだ。
そして龍姫姉は龍。
龍とドラゴンでは似ているようで違うものだが逆鱗というものがあるのならそれは弱点と思っていいだろう。
ただ、思っていた弱点とはまた違うものだったけど。
「やぁあ、あっ♪ゆうた、やめれて下さいぃ♪」
「…もしかして龍姫姉はここが弱かったりする?」
今更聞かなくてもわかるのだがそれでもやはり聞いてみたい。
しかも聞きながら指で撫でるのはやめずに。
「そう、です、からぁあ♪やめてぇ♪」
快楽に耐え切れず蕩けた表情、そして同じく快楽に染まった声。
そんなものを見せられて、聞かされて。
今更やめるなんてできやしない。
それが愛した相手であり、普段から慈愛溢れる龍姫姉だからなおのこと。
もっと見せてもらいたいし、もっと喘がせたいと思ってしまう。
「いいよ」
そう言ってオレは腰をかまわず進めた。
「ふぁあっ♪ゆ、ゆうたぁあ♪本当に、そこだけはぁあ♪」
「気持ちいいんでしょ?だったらもっと気持ちよくなろう?」
逆鱗を指で撫で回し、彼女の中をかき回す。
二つの器官によって生じる快楽に龍姫姉は普段とは違う乱れた姿を見せてくれた。
触るたびに体が跳ねて、かき混ぜるたびに粘液が噴出す。
悶えて、震えて、蕩けて、感じて。
「我慢しないで、ね?」
先ほどのお返しといわんばかりの言葉を投げかけ腰の動きを早めていく。
ずっちゅずっちゅと重い水音がいやらしく部屋に響く。
「んんっ♪やぁ、ああだめぇ♪はげし、すぎで、すっ♪」
布団に広がった紫色の長髪が波打ち、柔らかなで包容力のある体がのたくる。
それでもやめない。
腰の動きは留まらない。
もっと高いところへ、更なる昂ぶりを求めて。
彼女の体をきつく抱きしめどんどん動かしていく。
龍姫姉と繋がっている所と、逆鱗に触れている指を。
「ふぅ♪ひゃぁっ♪あ、ふひゅ、やぁっ♪」
何度も何度も子宮口を叩くたびにちゅっちゅと吸い付かれ、またどろっと熱い愛液が噴出しオレのものへと絡み付いてくる。
燃えてしまいそうなほど熱い感覚。
何度も収縮してくる龍姫姉の中はまだまだ欲しいとねだっている。
オレもそれに答えるために下腹部からせりあがってくる熱いものを感じ、一気に速度を上げた。
「ん、ひゅあ♪は、激し、いですっ♪そんなにした、らぁあ♪だめ、ですっ♪だめなんですっ♪」
ただでさえ艶やかだった声がさらに高くなっていく。
それを聞いて欲望がさらに燃え上がる。
だらしなく開いた口からは唾液が一筋滴り、抱きしめた体からは汗が弾けた。
濃く香ってくる龍姫姉のどこか雅やかな甘い体臭がさらに本能を疼かせる。
繋がり合っているオレのと龍姫姉のものは先ほどよりもずっと馴染み、さらなる快楽を送り出す。
その快楽がさらにオレを高みへと押し上げた。
ぞくぞくと背筋を上がってくる悪寒にも似たあの感覚。
どくどくとせり上がって来る下腹部のこの感覚。
「龍姫姉…またっ!」
「ふぇ?あ、ああっ♪」
オレは龍姫姉の体をきつく抱きしめた瞬間、下腹部の感覚が爆ぜた。
「ふぅぅうぁああああああああああああああああああああっ♪」
そしてオレは馬鹿をやった。
あまりにも調子に乗りすぎていたんだ。
『逆鱗に触れる』
文字通り逆鱗に触れたオレは忘れていた。
その言葉が意味することはいったいなんだったか。
その意味がどれほど重要だったか。
それを思い出す前にオレはこの身で実感することとなる。
ぜぇはぁと肩で息を整えるオレと龍姫姉。
力なく横たわった彼女の姿を見て少し反省した。
流石にやりすぎてしまっただろうか?
やめてって言ってたし…でもあれだけ喘がれては止まれないし。
可愛かったなぁ、龍姫姉。
普段の清廉淑女な姿からは想像付かないほどの乱れっぷり。
優しい声が艶やかになり、自愛溢れる顔が快楽で蕩けていた。
口からはだらしなく涎なんて垂らしちゃって…。
そんな痴態を見せられたら止まれなくなって当然だ。
でも、やはり無茶しすぎたかもしれない。
自重しつつもオレは龍姫姉といまだに繋がりあっていた。
否、抜くことができないんだ。
果てた後は体が敏感になる。
そんなところで龍姫姉の中はあまりにも気持ちが良すぎる。
良すぎて耐えられなくなりそうなくらいに。
先ほどだって無我夢中に腰を振ってはいたがその分返ってきた快楽は狂いそうなほどのものだったし。
良すぎるのもまた問題である。
「龍姫姉?」
とりあえず龍姫姉がちゃんと意識あるかどうかぐらいの確認をしておこう。
なければこのまま寝てしまえばいいだけだし。
あ、でも。汗をかいたからせめて濡れたタオルで体ぐらい拭いてあげないと。
そんなことを考えながらオレは龍姫姉の方を叩いたそのときだった。
オレの手よりも先に龍姫姉の手が肩に置かれた。
「あ、龍姫姉、大丈―」
ぶ、まで言えなかった。
というのも唇を塞がれていたから。
手でも指でもなく、龍姫姉の唇で。
優しく重ねるだけならまぁよかった。
情事の後ということなので軽いものかと思っていた。
でも違う。
まだまだ情事は終わっていなかった。
「ふむっ!?」
それは先ほどもしたように深く激しい口付けだった。
ただそれにしてはあまりにも一方的。
そして何より攻撃的。
痛みを感じさせるようなものではないのだが少なくとも優しさからはかけ離れているもの。
貪るように、喰らいつくように、抉り出すように。
口付け、啜り、吸う。
思わず手を出して止めようとするのだが動かない。
いや、龍姫姉が押さえつけていた。
「んーんー!?」
「んんんんっ♪じゅりゅりゅっ♪ちゅぅ、ん…む、んん♪」
長い長い口付け。
息をつく暇さえなく、それは続けられた。
あおのあまりの長さに苦しさを感じ、何とか顔を横に振りぬき逃げるように唇を離した。
「ぷはっ!龍姫姉ちょっとま―むっ!!」
それでもわずか数秒、いや数瞬といったところすぐさま龍姫姉の唇が重なった。
再び貪るようなキスが始まる。
「んー!ん、ん……」
「んむ、ちゅ♪……ちゅう♪…んんん♪」
息が続かなくなり意識が朦朧としてくる。
一方的な快楽に脳まで犯され、頭には霞が掛かったように.感じたとき、ようやく龍姫姉は唇を離した。
「んちゅ♪…ふぅ、はぁ…ふふふ♪」
そうして呼吸を整える間に小さく笑う。
それはオレの知っているものではなかった。
まるで母親のように子供のやんちゃを見て笑うようなあの笑みではなかった。
「ゆうたが…いけないのですよ?だめだって言ったのに、止めてって言ったのに……ゆうたが触るのですから…♪」
「…はぁ、ぁ…たつ、き、ねぇ…?」
「ゆうたが…悪いのですからね…♪」
そう言って横に並んだ体勢からオレを仰向けに、龍姫姉は覆いかぶさるように身を寄せる。
この体勢だとオレの目に映った龍姫姉は部屋の明かりでちょうど陰になった。
その陰になった姿で二つ、異様な光を宿す金色の瞳。
綺麗に輝き、優しさ溢れたものではなかった。
まるで獲物を狙った獣のような瞳。
頬を赤く染め潤んだ目ではそれが逆にどこか妖艶な雰囲気をかもし出す。
だが…こんな龍姫姉の姿は見たことない。
こんな龍姫姉は知らない。
「龍姫姉……?」
それでも本能的には悟っていた。
これはまずい。
何が?
わからない。
それでも、まずい。
思わず後ろに下がろうとした…だが、動けない。
両肩を龍姫姉に押さえつけられている。
足を動かすも動かない。
龍姫姉の蛇身が執拗なまでに巻きついている。
せいぜいできることは身を捩ることぐらい。
龍姫姉から逃げることはおろかこの布団から出ることさえも敵わない。
「ゆうたの、自業、自得…なのですから、ね…♪」
じゅるりとわざと音を立てて龍姫姉が唇から滴っていた唾液を舐め取った。
途端に―
―じゅぱんっ!と音がする。
同時に体にバラバラになりそうな快楽が送り出されていた。
「うぁっ!?」
「はぁんっ♪」
果てた後の敏感な体。
それで先ほどの行為を再開しようものなら狂いそうなほどの快楽に叩き込まれる。
そんな中で今まで感じたことのなかった奔流の中で耐え切れるとは思えない。
「ちょっと待った!龍姫姉!」
慌てて制止の声を掛けるも―
―じゅぱんっ!!
「ぁあっ!!」
「ひゅんっ♪」
その音の正体がオレの出した精液と龍姫姉あふれ出した愛液が交じり合ったものが弾けた音だと気づいた。
気づいたところでどうもできない。
龍姫姉はそのまま腰を動かしてくる。
じゅぱん、ぱちゅんと卑猥な音を響かせて更なる快楽をたたき出してくる。
その音が響くたびに龍姫姉の中は振るえ、愛液に濡れた肉壁はまるでいくつもの舌に舐められるような感覚を伝えて飲み込んでいく。
「んふぅっ♪ふ、ぁ、ああ♪あんっ♪ゆうたの、オチンポこんなに硬くってぇ♪」
普段なら絶対に、あの龍姫姉からは絶対に想像できない言葉を漏らす。
「もぉっと、出していいですからねぇ♪私の子宮を、ぉ♪ゆうたの、精液で一杯にしてくださいっ♪」
淑女な彼女が卑猥な言葉を口にするその様はそそるものがある。
だが今の状況ではその様子を気にかけることはできそうにない。
あまりにも気持ちよすぎるのだから。
これでは先ほどの行為と全く逆になっている。
龍姫姉がオレを攻め、オレが龍姫姉に攻められる。
せめてもの反抗をと思い逆鱗に手を伸ばすも力が入らない。
調子なんて崩された。
余裕なんて引き剥がされた。
あるのは抵抗できない弱弱しい力と一方的な快楽を感受する体。
それから快楽の渦に沈みそうな意識。
沈みそうで、後一歩と言うところで快楽が再び意識を押し上げる。
気を失うさえも許されない。
外から聞こえる雨音にも負けないほどの嬌声を上げて先ほどよりも乱れる龍の美女。
そこには愛だとか恋だとか、優しさだとか慈しみなんてものはかけらもない。
あるのは雌として雄から種を搾り取ること。
獣のように快楽を貪るだけ。
乾いた欲望を満たすため、枯れた性欲を潤すため。
そんな中で先ほど既に二度目を出したのにまた再び上り詰めてくる限界を感じた。
先が膨らみ、目の前の雌に種付けする行為へと進んでいく。
それを感じたのだろう龍姫姉の腰の動きもより激しいものとなった。
「あうっ♪ゆうたの、オチンポが膨らんでぇ♪出るのですね♪ゆうたの、精液、どぷどぷって出してくれるのですねっ♪」
「龍姫姉ぇ…っ!!」
「いいれすっ♪一杯だし、てっ♪私を孕ませちゃってください、ねっ♪」
そう言って腰が抜けるか抜けないかぎりぎりのところで高く持ち上がる。
それがオレへのトドメの一撃であることを悟ったときには既に龍姫姉は動き出していた。
ぱちゅん、と腰と腰がぶつかり愛液と精液が混ざり合ったものが弾ける音が部屋に響いた。
「う、ああぁぁあああああっ!!!」
「はぁああああああああああああああああああああああっ♪♪♪」
三度目の射精。
それなのに一度目、二度目と変わらない量を注ぎ込んでいく。
その刺激にオレは身悶えし、龍姫姉もまた絶頂して体を震わせた。
その中で貪欲に子宮口が吸い付いて離さない。
さらに精液をねだり、さらに快楽を求めている。
ようやく精液を出し終えてオレは力なく手を布団の上に投げ出した。
もう無理。
性欲お盛んな高校生、それでもこんな神様との性交で得る快楽に三度も付き合えば限界だってくる。
それにあれほどの量を三度も出したのだ、普通ならもう出ないだろう。
終わり。
どこか名残惜しいところもあるが致し方ない。
そう思ったそのとき。
―ぱちゅんっ♪
「おぁあっ!?」
また、人知を超えた快楽が。
再び、人には到底得られないだろう快感が。
肉の弾ける音と共に送り出されてきた。
「まだぁ、ですよっ♪」
見れば龍姫姉が再び腰を動かしている。
瞳に灯った情欲の光をぎらつかせ。
体に燃え盛る肉欲をみなぎらせ。
無理やり行為を再開させる。
「ちょっと、本当に待って!龍姫姉っ!!これ以上は無理!!」
「んぁあっ♪そんなこと許しませんよっ♪ゆうたの、オチンポまだまだこんなにぃ♪硬いじゃないですかぁああっ♪」
「それはまだ出してすぐだから、うぁっ!!」
「嘘をつく子にはぁ♪とびっきりの、お仕置きですっ♪」
「嘘じゃない!嘘じゃないから!本当にもう無理だから!!」
「だめですっ♪もっと、もっと精液出してくださいぃ♪」
乱れに乱れる龍姫姉とオレはそのまま激しい交わりを何時間も繰り返し続ける。
外では行為の激しさを物語るかのように降り続く雨も激しいものへとなっていった。
「し、死ぬかとおもった…」
オレは神社の廊下で座ってそう呟いた。
隣では先ほど愛し合った龍姫姉が肩を寄せて身を任せている。
すでに先ほどの行為の跡はない。
悲鳴に近い声で叫ぶオレをそれでも止まずに腰を動かし続けた龍姫姉。
時間にしてどれほどだろう?一時間や二時間で済んだとは思えない。
その跡何度出したのか覚えていないが彼女の子宮が精液で満タンになるほど出してようやく止まってくれた。
そのときには龍姫姉も正気に戻ってくれて助かった。
そしてその後汗や涎に愛液や精液にまみれた体を清めるために風呂に入って着替えてきた。
そこでまた一度してしまったのは…まぁ、若いということで。
ことを終えてようやく落ち着いたオレと龍姫姉は既に夜が明ける時間。
そんな時間に二人で神社の廊下に座り、暗闇に滴る雨音を聞いていた。
まるでそれは昔のように。
しかしあの時と違うのは今は龍姫姉が並んでいるということ。
子供と親という関係ではない。
一人の男と女の関係。
それで夫婦なのだから。
でも。
「本当に…死ぬかと思った…」
あれは流石にきついものがあるというのに。
「ゆうたが私の逆鱗に触れるのがいけないのです」
そんなオレに龍姫姉は言った。
口調は怒っているのだが表情は温かい笑みを浮かべている。
「いや、あそこまで乱れるとは思ってなかったし、あんなことになるなんて知らなかったし…」
「私はやめてと言ったはずですよ?」
「…いやでも、龍姫姉が可愛くて」
「………もうっ♪」
そういいつつぺしぺし尻尾で足を叩いてきた。
まるで子供のような仕草である。
それが大人な龍姫姉の印象からはとても想像できないものであり、思わず微笑ましく思った。
それからオレと龍姫姉の間に会話はなかった。
ただそのまま雨音を聞いて、特に何することもなくその身を寄せ合っているだけだった。
それだけでも心地いい。
あの時と同じで、とても落ち着く。
龍姫姉の傍はいつだってそうだ。
先生と呼んでいたときだって、昔抱きしめられていた時だって。
とても満たされ、とても癒される。
そっと紫色の髪を撫でれば嬉しそうな声を漏らし、手に手を重ねれば優しく包み込んでくれる。
肩を抱けば身を委ね、頭を肩へと乗せてくる。
オレもそれを喜んで受け入れた。
そうして静かに二人でいたところ、龍姫姉ちゃんがどこからか杯と瓶を取り出した。
それはオレが持ってきたお神酒の入った瓶であり、雨雲の間から差し込み始めた朝日の光を照り返す。
それともう一つの杯。
それは漆を塗った黒の杯だった。
朝日の光を反射する漆黒色。
それをオレは知っている。
「それって…おばあちゃんの」
「はい」
おばあちゃんが大切にしていたものの一つだ。
よく日向で縁側に座ってそれの手入れをしているのを昔に見たことがある。
細かな装飾のないただの杯だがどことなく厳粛な雰囲気をかもし出している。
それに龍姫姉はとくとくとお神酒を注いでいく。
「ゆうたは神前式を知っていますか?」
「ん、まぁ少しは」
それは一つの結婚式。
神様のご加護を願い、三々九度の杯を交わす。
知っているのはせいぜいそれぐらい。
「どうせだったら杯だけでもと思いまして」
そう言って龍姫姉は杯に注がれたお神酒をふぅっと吹いた。
表面にわずかに波立ち、暗闇には目立ちにくいが霧のようなものが抜け出ていくのが見えた。
「これなら未成年のゆうたでも飲めますよ」
「…おぉ」
どうやらアルコール分を飛ばしていたらしい。
さすが水の神様、液体なら何でもできるということだろう。
龍姫姉の手から杯を受け取り、空いた手を重ねた。
「龍姫姉」
オレは彼女の名を呼んだ。
差し込んできた朝日の光で照らし出される顔はほんのり頬が赤く染まっている。
情欲にまみれた先ほどのではない、どこか照れているような、恥らう乙女のようなもの。
「はい♪」
龍姫姉からも手を重ねる。
それを見てオレは頷き、杯を煽った。
それは一つの誓いであり、約束であり。
長い時間をかけて果たしたことを表す行為。
その日オレが飲んだ杯がこの世のどんなものよりも美味であったことは言うまでもない。
約束とは重要なものだ。
それはあるとき金以上の価値を見出し、命よりも重いものとなる。
そのいい証拠が指きり。
昔は自身の指を切ってまでそれを照明し、したほうもそれ相応の気構えを持たなければいけない。
約束を違えれば拳骨百万に針千本。
それはただの言葉だとしてもそれほどにまで大切だということを表していた。
「約束を守れるようになってようやく立派な男じゃぞ」
そうおじいちゃんも言ってたっけな。
そんなことを思いつつもオレは自身の指を見て、オレの膝の上に頭を乗せて眠る彼女の指を見ていた。
それは日差しの温かな春の日のこと。
お父さんの実家の北の山の上にある湖、その中央にある神社の廊下。
オレは龍姫姉と共にいた。
彼女はオレの膝の上で眠っている。
それはとても安らかであり、満ち溢れた顔をしていた。
ここで初めて会ってもう何年だろう。
約束を交わしてもう何十年。
あの時とは全く逆の立ち位置になっている。
甘やかして、成長を見守ってくれていた龍姫姉が今ではオレに甘える立場だ。
なんだかんだ言って彼女もまた甘えん坊ということだろう。
大人っぽくて、優しくて。
それでもおねだりで、どこか貪欲で。
それがまた愛おしい。
それは初めて肌を重ねたあの日からずっと変わらないことだ。
あの日からもう数年。
既に体は成長を止めた。
それはきっと彼女の影響。
龍姫姉は龍神であり長寿であることは間違いないだろう。
だからきっとそれに合わせてオレもまたそうなっているのではないかとそう思う。
せっかく龍姫姉と夫婦になったというのに神様の寿命についていけずオレだけ先に老いてしまうのはあまりにも悲しいものがあるし。
「ん…」
龍姫姉が薄く目を開けた。
「龍姫姉、起きた?」
覗き込むようにして顔を近づけるとそっと手を伸ばし、頬に添えられる。
大きくてじんわりと温かな手。
あの頃と、あの日と何も変わっていない。
そのまま龍姫姉はどこか潤んだ瞳でオレを見つめてくる。
どことなく頬を染めて。
それは龍姫姉のおねだりの仕草である。
「…仕方ないな」
小さく笑ってオレは彼女の唇にそっと自分の唇を重ねた。
「ん♪」
重ねて、舐めて、吸って、啜って。
長い口付けをしてようやく離れる。
そうして映った龍姫姉の顔はどこか嬉しそうだ。
「いいですね、こういうの」
「うん?そう?」
「ええ。こうやってゆうたといることができるなんて幸せですよ」
「そりゃよかったよ」
「こんなに大人っぽくなって…」
そう言ってオレの体に手を当てた。
何度だって目にしているし何度も手で触れてきている体。
それでも確かめ足りないのだろう。
オレの小さい頃を知っていて、育ててくれたようなものなのだからそんな龍姫姉の目からしたらこの成長は信じがたくも嬉しいものなのだろう。
何度も確かめたいぐらいに。
「でも時々オレのことを子供扱いするじゃん」
体を重ね、甘えられる立場になっても龍姫姉はオレを子供のように扱うときが多々ある。
それは昔の癖が抜けないのか、それとも今のオレがまだまだ子供ということか。
それでもまぁ…嫌なものではない。
「それでは…大人として扱いましょうか♪」
そう言った龍姫姉は身を起こしてオレに抱きついてきた。
そのまま服の中へと手を差し込み、尻尾で背筋を撫でていく。
ぞくぞくとする感覚に身を捩ると嬉しそうに龍姫姉が笑みを浮かべた。
逆にオレは笑みを引きつらせる。
「もうさっき大人扱いしてくれたから十分」
「なら今度はたっぷり甘えていいのですよ♪」
「いや、終わってからまだ一時間しか経ってないけど…」
「もう一時間も経ったのですからいいでしょう♪」
「さっきだって二桁したんだからもう少し休ませて…」
「我慢できないのです♪」
そう言って押し倒される。
柔らかく、優しく、ゆっくりと。廊下の床に倒れこんだ。
そうして覆いかぶさってくる龍姫姉。
その目には先ほど消えたと思っていた情欲の光が宿っていた。
「まったく、仕方ないな」
「ふふ、なんだかんだ言ってゆうたは聞いてくれるのですから♪」
「そりゃ愛する妻に求められちゃ断れないって」
「それではしましょうか、旦那様♪」
そう言って再び口付けをする。
舌を使った深く、熱いキスはもう少し先。
先ほどしたとはいえ始めるなら軽く、甘いものからといこう。
重ねて、啄ばみ、また重ねる。
その行為に痺れを切らした龍姫姉が舌を出してオレの唇を舐めてきた頃を見計らい、オレは小さく囁いた。
「龍姫姉、愛してる」
あのときの言葉をもう一度。
既に何度も囁いたというのにそれでも足りない。
言葉にして、口にして初めて伝わってもこの気持ちを全て伝えきれない。
それは一生をかけても足りないだろう。
そんな言葉を聞いて龍姫姉もそっと囁いた。
「ゆうた、愛してますよ♪」
互いに確認しあい、再び行為を再開する。
甘くて、熱くて、深くて、優しく、愛おしいもの。
飽きることはありえない、むしろ回数を重ねるたびにもっとしたくなる。
春の日の暖かな日差しを隠すことなく空に広がる薄い雲。
そこから優しく降り注いだ慈しみの雨音を聞きながらオレと龍姫姉は何度目になるかわからない愛し合いを繰り返していくのだった。
―HAPPY END―
「…お盛んだねぇ」
「…毎度のこと終わった後に出てくるのやめろよ、あやか」
「…流石に私も心臓に悪いです」
「別に終わった後なんだからいいでしょうが。それよりももうお昼だよ?ご飯は?」
「いや、自分で作れよ」
「ゆうたも先生も料理上手いんだから作ってくれてもいいじゃん」
「私としてはまだゆうたとするつもりなのですけど」
「いくら先生の影響受けてもゆうただって枯れるでしょ?ちょうどいい休憩取らなきゃ」
「…なんかなー」
「…なんか、ですね」
「ほらほら、早くしてよ。どうせ夕食は二人とも行為に没頭しすぎて作らないんだしさ」
「家に帰れよ」
「やだよ、面倒見てよ。代わりに子供たちの面倒見るからさ」
「いや、私達二人で育てていきたいのですが」
「じゃあたしも育ててよ」
「何でだよ。あれか、胸―痛いっ!」
「ったく…ほら、食器は出すからさっさとしてよね」
「…ふふ、子供ができたらこんな風になるのでしょうか?」
「少なくともあんな子供に育たないようにしないとね。まぁ、龍姫姉との子供なら優しい子になってくれると思うよ」
「ふふ、ゆうたったら♪」
「ほら、早くしてよ!」
「はいはいっと」
12/03/15 20:20更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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