連載小説
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無垢とお前とお茶目とお前とオレと…ロリロリ? 前編
日差しが強い昼下がり。
向こうならば夏真っ盛りの時期だろうか。
基本この港町は気温が高く、普段からも夏のような気候なのだが。
近場の海にも入りやすい今日この頃のこと。

「ユウタ、準備出来た?」
「なんとかできたよ、マリ姉。」
オレこと黒崎ゆうたは今現在住まわせてもらっている家であるカフェバーを経営するマスターのディランさんとその奥さん、マーメイドのクレメンスさんの娘。
マリンことマリ姉とともに準備をしていた。
何の準備かといわれれば、外泊の準備。
可愛らしくいうのなら、お泊りである。
それも、海のど真ん中に位置するところに建ててある孤児院に。
これは急なことじゃない。
別に孤児院が何らかの理由で人手を欲していたりするわけでもない。
ただ今日はこの家にいてはいけないという理由があるから。
ディランさんとクレメンスさんの二人の日。
夫婦の日である。
年頃の娘を持つ夫婦といえ時に愛を確認することはある。
それが不老のマーメイドとその血を飲んだ人間なら生涯ずっとだろう。
いいことだ。
声が大きいけど。
めちゃくちゃ激しいけど。
以前雨が降り、波が荒れて孤児院にいけなかったことがあった。
そのときは大変だったな。
夜になったらマーメイドの喘ぎ声が響いてくるんだから。
自室に篭って一晩中耳を塞いで耐えたが…あれはきつかった。
マリ姉も同じだろう。
生々しい音に艶のある声。
それが一晩中聞こえ続けるのだから…寝付けるわけがない。
あんな声を聞いたらいやでも体が反応するし、男の子として危なくもなる。
もしもあの時オレがマリ姉の部屋に行ってたらと思うと…そのときは…。
…うわぁ。だめだ。考えてはいけない。
考えたらなんか…生々しいことしか思い浮かばない。
とにかく。
オレとマリ姉はそんな思いをしないためにも今日は孤児院で寝泊りをしようとしていた。
他に行く宛がないというわけでもない。
宿屋に泊まればいいだろうけど…金がかかるからなぁ。
共にあの店で働いている者として給料にそんな余裕がないことはわかっている。
そんな宿屋に泊まるなんて財布が心配だ。
それに比べて孤児院ではそんな心配は要らない。
基本的にオレとマリ姉があの孤児院のお手伝いとしてよく泊まってくる。
子供たちの遊び相手やら手伝いをして。
時に子供たちの料理をして、泊まらせてもらっている。
あそこはいいねぇ。
子供たちは可愛いし、孤児院の先生は綺麗だし。
…男がオレしかいないのはちょっと気恥ずかしいけど。
オレは手軽な大きさのバッグに着替えを詰め、肩に掛けてこの店のドアの前に立つ。
隣の海の魔物娘用の水路には同じようにバッグを肩に掛けたマリ姉。
「それじゃあ、行きましょ。」
「うん。」
「「行ってきまーす!」」
オレとマリ姉はドアを開き、二人同時に家を出る。
チリンっと、ドアに付いている小さな鈴が店に響き渡った。



孤児院は海のど真ん中にある。
それも港町からしてかなりの距離があるところに。
海の魔物達ならばその程度の距離どうもないのだろうが…オレは人間。
泳げないわけでもないが…あの距離を泳げば筋肉痛は確実。
さらに言うと…足を引っ張られて海に引きずり込まれる危険もある。
この前はネレイスに引っ張られたところをマリ姉に助けられた。
あれは怖かった…。
そんな危険な思いをするくらいなら安全にということで。
オレが孤児院へと行く手段は必然的にこうなる。
舟。
さらにいうなら手漕ぎボート。
小さいがしっかり頑丈に作られたボートだ。
その上でオレは櫂を握る手に力を込めて海水を掻く。
太陽の光に照らされ宝石のように輝く飛沫を上げて。
綺麗なもんだ。
オレのいた世界じゃここまで綺麗な海は海外に行かなければ見られないくらい。
そこが透き通っている。
思わず手を差し出してその透き通った海水を掬いたくなるぐらいに。
「本当、綺麗なんだよなぁ…。」
思わず感嘆の声が漏れてしまうほどに。
その声を聞いてマリ姉がふふっと小さく笑った。
オレの目の前。
ボートの上でオレの反対側にマリ姉は座っていた。
…マーメイドがボートに乗るっていうのはなんか…新鮮だな…。
っていうか、泳げばいいのに。
「毎回同じことばかりいうわね、ユウタって。」
「まぁね。オレのいたところじゃ海なんて見えなかったからさ。」
オレは漕ぐ手を休めない。
最初のほうは舟で移動するのには一苦労したが今ではもうお手の物。
前を見なくても自由に進めるようになった。
もしかしたら瞼を閉じていてもいけるかもしれない。
いかないけど。
それで数回ネレイスが乗り込もうとしてきたことがあったし。
あれは…怖かった。
マリ姉がいなかったらオレは今頃ネレイスに連れ去られていただろう…。
そんなことを思い出しながら漕いでいると急に手ごたえが変わった。
櫂が急に重くなる。
「ん?」
今まで海水の手ごたえを受けて、それを懸命に漕いでいたのだがその手ごたえとはかなり違う。
なんというか…抵抗を強く受けているような。
不思議に思って海面見てみるとそこには波。
舟の側面に打ち付ける細かな波があった。
まるで潮の流れが変わったように。
舟の行く先を変えようとするように。
それを見て、理解する。
一応海を舟で渡る以上、潮の流れをそれなりには心得ている。
まだオレが潮の流れさえわからなかったころは…。
…ネレイスに襲われまくっていたからなぁ。
流れで自由が取れないところに向かって来ては襲撃だもんなぁ。
そしてやっぱりマリ姉に助けてもらった。
マリ姉…いつもありがとう!
っと、話がずれた。
この潮の流れは何なのかわかる。
どうしておきているのかも。
どう流れていくのかも。

―誰が起こしているのかも。

「お出迎えね。」
マリ姉はそういうと舟の縁に腰掛けた。
まるで今から海に潜り込むような姿。
「それじゃあ私は先に行くわ、ユウタ。」
「ん。わかった。オレもすぐに着くと思うよ。」
オレの返事を聞いてマリ姉は頷くと体を一気に倒した。
海面へ倒れこむように。
水面にぶつかる体。
だが、水飛沫をあまり上げない綺麗な着水。
さすがマーメイド。
泳ぐ技術は素晴らしきものだ。
マリ姉がいなくなったこの舟の上。
オレは櫂を離し舟の先端に身を乗り出して先を見る。
そこにあるのは―孤児院。
オレとマリ姉が時に世話を、時にはお世話になっているところ。
海の真ん中にぽつんと建っている建物。
大きなオレンジ色の屋根。
白く綺麗な壁。
潮風に当たっても痛むことないように作られたところ。
その孤児院の周りにある浅瀬に、そいつはいた。
オレが今乗っているこの舟に向かって潮の流れを変化させている奴が。
大きく手を振ってオレへ存在をアピールしている。
「ユウタお兄ちゃーん!!」
それに答えるようにオレからも手を振った。
「おーう!ニーナー!!」
大きな目が可愛らしい幼い少女の姿。
孤児院に住んでいる一人、ニーナ。
勿論人間ではない海の魔物。
その種族は、カリュブディス。
本来海底に固定されたフジツボのような巣穴で生活している彼女。
ミミックの一種であるらしくその巣穴は異次元空間が広がっているらしい。
時折渦潮を発生させては船や船員を吸い込んでいるということだ。
が、ニーナは海底で暮らしてはいない。
そもそもニーナの生活しているところはあの孤児院だ。
なぜなら彼女が住まうべき巣穴がないかららしい。
理由はわからない。
教えてもらおうとするつもりもない。
自分の生活すべき場を失ったという悲しいことを聞きたいなんて思わないから。
巣穴のなくなった彼女は今孤児院で暮らしている。
本来孤児院は親のいない子供たちの面倒を見るのだが、ニーナのように困っている者に対しても面倒を見ている。
主に孤児院の先生やマリ姉やオレが。
そんな中でオレによく懐いてくれたのがニーナ。
ほかの子達もよく好いてくれているのだが…なんていうか…度をわきまえないというか…積極的というか…。
ちょいと手のかかる子達だ。
その分明るく楽しいからいいんだけど。
オレは櫂を舟の内側へとしまう。
この潮の流れに対して櫂は邪魔にしかならないから。
この潮の流れは渦を巻いている。
渦潮。
それもニーナが起こしているもの。
彼女はカリュブディス。
いくら巣穴がなかろうと魔物として持つ魔力はある。
それをいくらか使えば巣穴より作ったものには劣るがそれなりの渦潮を起こせるらしい。
本当にすごいな、カリュブディスって。
ニーナはオレがこうやって舟で来るといつも出迎えとして渦潮を発生させる。
オレの乗っている舟を孤児院へと到達させるためだろう。
潮の流れに乗っていけるのなら櫂なんて漕ぐ必要もなく苦労しなくて済むのだが…。
オレは舟の縁に手を掛けて掴まった。
なぜなら…まぁ、この渦潮は…たいていは…いや、いつも、その…。
…失敗する。
「いくよー!!」
瞬間、舟にかかる波が一気に強くなる。
舟を大きく揺らし、押し流そうと荒れる。
凄まじい力がこの舟にかかっているのだろうが…そんなに一方的にかかれば舟は…。
「それー!」
舟はバランスを崩し、転覆する。
一瞬。
世界が上下逆になる。
そんな間逆の世界が見えた次の瞬間。
オレは舟ごと海へと叩きつけられた。

「ぜぇ……はぁ…ぐっぁ……はぁ…死ぬかと思った…。」
「えっと…その…ユウタお兄ちゃん…ごめんなさい。」
「あ、ああ、平気だって。ただ、今度からはちょっと…加減してくれれば…助かるな。」
荒い呼吸を何とか整え、孤児院の周りの浅瀬にオレはいた。
さっきまでいたところを見ても舟はない。
あちゃあ…また転覆したか。
毎回転覆することなんてわかってるんだけどね。
またあの舟を海底から引きずりあげないといけないのか…きついな。
「ユウタお兄ちゃん…ごめんなさいっ!」
ニーナは顔を歪めてそう言った。
もう泣きそうな顔で。
まったく。こっちはわかってるんだ、あの渦潮は善意で発生させてるってことは。
だから、悪意はないんだってことぐらい。
ちょっとお茶目をやらかすだけで。
それが悪いってことを自覚しているのはいいことだが…そう毎度のこと泣きそうな顔になられたら困るな。
だからオレは泣きそうなニーナの頭をそっと撫でてやる。
「いいって、オレはぜんぜん平気だから。」
「でも…。」
そっと唇を人差し指で押さえる。
指先に伝わるニーナの唇の感触。
柔らかく、温かい。
オレはその感触から指を離して微笑みかける。
「大丈夫だから、な?」
その一言にニーナは頷き微笑んだ。
「…うんっ!」
オレへ微笑むその表情。
本当に可愛いらしい。
輝くような笑顔だ。
思わず見ているこちらも嬉しくなるほどに。
この表情を見られるのなら死ぬようなおもいの一つや二つ、笑って許せるって言うもんだ。
ただ、海に投げ出されるとネレイスに連れて行かれそうでとても恐ろしいけど…。
と、そこで。
呼吸を整えるために四つん這いになっていたオレの耳に届く誰かの声。
「ユウ兄ぃー!!」
顔を上げれば孤児院のドアを開け放ち、走ってくる半透明の女の子。
姿はニーナと同じぐらいの歳だろう。
印象的なのはやはりその体。
半透明で背景まで透けて見え、腰や頭には海月の傘ようなものがついている。
シー・スライム。
海の魔物でこの孤児院に住む子供たちの一人。
名前を―
「おーう!ナタリィー!」
ナタリー。
オレにとっての問題児だ。
どこが問題かというと…なんていうか…積極的なところというか…。
ナタリーは浅瀬を駆け出し、オレのいる方へと向かってくる。
きらきらと日の光を受けて輝く雫。
飛沫を上げて走っているナタリーはなんとも綺麗で可愛らしい。
だが、その勢いを止めようとはしない。
むしろ加速してオレに向かってくる。
そして、オレとの距離が縮まったとき、ちょうど目の前にいるぐらいの近さになったとき。
「どーん♪」
「へぶっ!」
体当たりをかまされた。
四つん這いになっていたので顔面に。
もろに、ぶち当たってきた。
顔に伝わるスライム特有のゼリー質の肌の感触。
ひんやりとして柔らかい。
ニーナの唇とはまた違った感触だ。
その感触を心行くまで楽しむのもいいだろうが…あまりに長く顔を押し付けていると息ができない。
というか、今も出来ていない。
ナタリーから顔を離そうとするのだが…離れない。
あ、コイツ。オレの後頭部に腕まわしてきてやがる。
これじゃ離れようがないわけだ。
離れようがなく、息が出来ないわけだ…。
「んんんんー!!」
「あははー♪ユウ兄くすぐったいよぉ♪」
コイツわかってやってるのか!?
息できてないんだぞ!?今死に掛けているんだぞ!?
あ、本当に苦しい!やばい!マジで苦しい!
苦しさを訴えるためにもナタリーの背中を叩く!
「むー!!むー!!!」
「あははー♪」
それなのにナタリーは相変わらず笑っているだけだ。
背中を叩くもスライムのゼリー質の肌がぺしぺし震えるだけ。
あ、ちょ…意識が…。

「えっと…ユウ兄…ごめんなさい。」
「ぜぇ…はぁ……いいから…次、気をつけてくれりゃいいから…。」
荒い呼吸を整える先ほどと同じような姿になっているオレがいた。
隣には心配そうに見ているニーナと泣き出しそうなナタリー。
あー…なんだこの状況は。さっきと同じじゃん…。
今にも泣き出しそうなナタリーを見て小さくため息をついた。
まったく…手のかかる子供だ。
だがそこがまた可愛いんだけど。
オレはナタリーの頭を撫でてやる。
それだけでナタリーの体はびくんと大きく震えた。
「ユウ兄…?」
「そう泣きそうな顔すんなよ。」
オレは撫でる手を下げ、ナタリーの頬に添えた。
ひんやりとした頬。
触れているだけで心地良い肌。
オレはニーナに笑いかけたように微笑みかけた。
「ぜんぜん平気だからな。これくらい、へっちゃらだからさ。」
「…うんっ!」
そう言って笑ってくれるナタリー。
こっちはニーナとはまた違う可愛らしさがある。
天真爛漫の笑みだ。
オレはそれを見て嬉しくなる。
本当に可愛らしい奴だ。
ニーナも、ナタリーも。
オレは立ち上がり、ニーナとナタリーに手を差し出した。
「行こうぜ。マリ姉も先に行って待ってる。」
「わかったよ♪」
「うんっ!」
オレは右手でナタリーの手を、左手でニーナの手を握って歩き出した。
向かうはすぐそこの孤児院。
皆のいるところ。
オレ達は飛沫を上げながら浅瀬を駆け出した。



ドタバタ孤児院生活 これにて始まり!
11/04/25 20:35更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ
ということで始まりました!カリュブディス&シー・スライム編です!
二人同時に出すというのは…意外とキツイものですねw
ですが!リクエストを頂いたので全力で頑張らせていただきます!
リクエストを頂いたネームレスさん!タカカさん!
ありがとうございます!

次回は孤児院でのドタバタした生活風景をお楽しみに!

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