連載小説
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恋慕と貴方とオレと懸念 後編
今鏡の前に立てばオレの瞳に映ったのはとんでもない間抜け面だと思う。
そう思うほどセリーヌさんは普段と違っていた。
「…え?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまうくらいに。
だって…目の前にいるセリーヌさん。
いつもの清楚で優しい淑女な姿をしていない。
「んもう、ユウタさんたらぁ〜♪」
「…。」
清楚とはかけ離れた姿。
優しさからは遠い表情。
淑女にあるまじきその声色。
あの日に見せてくれたあの表情に似ている。
赤く染まった頬は興奮によるもの。
そだが、興奮するような原因がない。
とろんとした目はまるで熱に浮かされたかのようで。
なんていうか…この姿…まるで…。

―酔ってる?


そんなまさか…。
なんで急に酔うんだよ。おかしすぎるぞ。
セリーヌさんがお酒に弱かったとしてもお酒なんて飲んでないのに。
飲んで…あれ?
ちょっと待て、オレはいったい彼女に何を飲ませた?
気付け薬を…飲ませたんだよな?
あの、ウーロン茶みたいな色をしていたものを飲ませたんだよな…?
「ふふふ〜♪ユウタさぁ〜ん♪」
ねだるような声とともにセリーヌさんはオレにしなだれかかってくる。
まるで甘えるようにその身をオレに寄せた。
「え?ちょ!?セリーヌさん!?」
勿論オレはパニックだ。
いきなり変貌した彼女に対しての驚きがいまだに引きそうにない。
とにかくセリーヌさんの体を受け止めた。
「んふふ〜♪」
セリーヌさんはそのままオレの胸板に頬擦りをしてくる。
服越しに感じるセリーヌさんの柔らかさ。
その仕草がまるで猫のようでとても可愛らしい…のだが。
やはり反応が出来そうにない。
オレの体は固まり、彼女のなすがままになる。
「んふふ〜♪」
なぜだか上機嫌にオレの胸に頬を擦り付けるシー・ビショップ。
どうしたのだろうか。っていうか、どうすればいいのだろうか…。
そんな風に困っていると不意にセリーヌさんの動きが止まった。
そのまま顔を上げ、オレの顔を覗き込む。
薄茶色の瞳が黒い瞳に映りこむ。
「…あの…?…セリーヌさん…?」
「………………………………………………馬鹿。」
ぼそりと、セリーヌさんは言った。
小さい声で、オレを半目で睨み付けて。
ただ、あまりにも小さい声だったのでよく聞こえなかったが。
「…へ?」
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」
「ええっ!?」
どうしたんだこの女性!?
セリーヌさんはオレを馬鹿と罵りながら胸を叩いた。
聖職者なら口にしないような言葉を吐いて。
それほど強くない力で。
駄々を捏ねるような、子供っぽい仕草をするセリーヌさんの姿。
普段の姿とはギャップがあって不覚にも可愛いと思ってしまった。
いや、普段も可愛い…っていうか綺麗なんだけど。
「ユウタさんの馬鹿!意気地なし!腑抜け!」
「え、いやちょっと…。」
本当にどうしたのだろうか。
普段なら絶対に言わない暴言をオレに言って。
優しそうな性格とは一変して。
いったいどうしてしまったのか。
「弱虫!臆病者!この、へたれっ!!」
「へたっ!?」
今の一言は地味に効いた…。
オレの胸を深く穿ったぞ…。
そりゃ、自覚はあったけど…こうも真正面から言われると…きつい。
「何で襲ってくれないんですか!?今までだって誘ったのに、何で襲ってくれないんですかぁ!?」
「っ!?」
セリーヌさん!?貴方いったい何を言っているんですか!?
今言ったことの意味、わかっていますか!?
「胸押し付けても反応してくれないし!キスをせがんでもしてくれなかったじゃないですか!」
「えっ!?そんなことしてましたっけ!?」
「しましたっ!」
そーいや、腕に胸を押し付けられたような気がしなくもない。
すぐさま体を離して猛りそうな男の本能を止めようとしてたけど…。
襲わないように遠慮してたけど…。
「これじゃあ、ネレイスさんに手伝ってもらった意味がないじゃないですか!!」
「………………え?」
今…なんと?
「この前ようやく一人になってくれて。やっと海に引きずりこんでもらえたっていうのに…。」
「…。」
ちょっと待て…海に引きずり込んでもらった?
ってことは…なにか?オレは最初から狙われていたって事か?
それも好色なネレイスじゃなく、この女性に。
清楚で清廉なシー・ビショップのセリーヌさんに…。
だが、それなら納得がいく。
ネレイスがオレを引きずり込んでいながらオレを手放した理由。
粘り強くオレを海へと引き込もうとしたのに対してあっさりと手放してしまったそのわけ。
あまりにもおかしいと思っていた疑問が氷解する。
…なんだよこれ。
これじゃあまんま、双子の姉の言ったとおりじゃないかよ。
我が麗しき暴君の言ったことのままじゃないかよ…!
都合がいい話には大抵―

―裏がある。

まんま裏があった。それも一人の女性の策略があった。
淑女で乙女の策謀があった。
それにまんまと嵌められてしまったオレ…。
…笑えないぞ、これ。
「こーやって倒れたフリを装ってるのに襲ってくれないで…。」
「…。」
さらに爆弾発言したぞ…。
倒れたフリって言ったぞ…。
フリだったのか…え?マジでフリなの?
過労…じゃなかったのか…?
…心配して部屋に連れ込んだオレは…なんだったんだ…。
「馬鹿です、ユウタさんは…。」
セリーヌさんはオレの背に腕をまわして抱きついた。
ぎゅっと、その身をオレに押し付けて。
途端に香るセリーヌさんの甘い香り。
海の魔物だというのにこんな香りを漂わせるのは反則だ。
あまりの良さに理性が揺らぐ。
それに、体。
わざとかそうでないのかわからないが、押し付けられる彼女の胸。
結構大きく柔らかな二つの膨らみが学生服越しでも感じられる。
伝わってくる体温も、セリーヌさんの心臓の鼓動も。
「ここまで私がしてるのに…一向に襲ってくれる気配を見せてくれないで…。」
「…それは。」
「遠慮、しすぎです…。」
「…。」
その言葉に何もいえなかった。
図星だったんだ。その一言は。
「奥手で、遠慮しがちで、馬鹿で、鈍くて、へたれで…。」
「ちょっと…。」
言いたい放題言ってくれるじゃないか…セリーヌさん。
つうか、そんな風に思ってたんだ。
オレ、そんな風に思われてたんだ…。
「だけど、優しい…。」
「…。」
「ユウタさんは…優しいです…。」
抱きついた腕は緩めない。
抱きしめた体は離さない。
セリーヌさんはオレを離すまいと強く、それでも優しく抱きついたままで言う。
「優しいです…本当に、皆がユウタさんを好きになる理由も納得できるほどに…優しいんです…。」
「…オレはそんな優しくはないですよ。」
「嘘。」
そう言ってセリーヌさんはオレを見た。
顔を上げて、オレの顔を覗き込むようにして。
赤く頬を染めたその顔で。
「優しいから皆が好きになっているんです。気づかないのですか…?」
「…いや。」
今までそんな好意なんてむけられたことなかったからな…。
気づこうにも気づけない。
というか、誰がオレを好きになったんだよ…。
「鈍感、にぶちん。」
「…。」
「馬鹿、へたれ。」
「…。」
普段なら絶対に言わないであろう暴言を浴びせられて何も言えなかった。
普段と違いすぎる態度に対応できなかった。
「でも…。」
セリーヌさんは言葉を繋ぐ。
暴言ではないもので。
罵倒ではないものを。

「―好き。」

どくんと、胸が高鳴った。
どきりと、心が高鳴った。
セリーヌさんが言ったこと。
それはオレが、聞きたかったことだから。
待っていた言葉だったから。
「セリーヌ、さん…。」
「好きなんです…ユウタさんのことが、ずっと、好きなんです…。」
どう反応していいかわからない。
求めていた言葉なのに、言われたことなんてなかったから反応できない。
ただ、胸の内側から何か温かなものがこみ上げてくる。
その感覚を実感して。
オレはただ胸に抱きつくシー・ビショップのなすがままになっていた。
「好き…好き…です…大好きなんです…。」
うわごとのように呟き続ける彼女。
意識は朦朧としているのか視線がおぼつかない。
それなのに、腕はオレを逃がさないように抱きついている。
離れないように、しっかりと。
…どうしよう。
まるで酔っ払ったようなセリーヌさん、どう対応すればいいんだろうか…。
とにかく抱き返そうと腕を伸ばして、止めた。
オレの視線の先。
そこにあるのは中身の入っていないグラス。
ベッドの上に倒れていたもの。
…原因はこれだよな。
いったい何を飲んだんだよ。
手を伸ばして掴み取る。
中はすでにセリーヌさんが飲み干してしまったのでない。
だが少量、傾ければ垂れるぐらいの雫はあるだろう。
オレはグラスを傾け、僅かに垂れる雫を舌で舐めとる。
途端に、舌の上に広がる独特の味。
…苦い。
それも、すごく。
その後口内に広がる風味。
これは…。
「…うわ…酒。」
アルコール飲料。
それもとびきり度数の高いやつ。
18年間の人生の中でアルコールを摂取した経験なんて少ないオレだが、そんなオレにもわかるほど強いアルコールだった。
色はウーロン茶に似てたし、この独特の風味…。
もしかして…ブランデー?
そんなまさか……ありうるな。
ここはカフェバー。
バーと名がついている以上、お酒も出している。
それは働かせてもらっているオレはよく知っていること。
店内に数十種類のお酒が並んでいるのだって毎日見てる。
…だからってよりによってこれか?
ブランデーって確か火がつくほど度数が高いって言うし。
まさか…いや、でもそれらわかる。
セリーヌさんがこんな酔っ払ったような態度をとったのも。
…まさかと思っていたが…本当に酔っていたとは。
「えへへ〜♪」
「…。」
お酒に弱いのか、この女性は。
しかも酒乱…。
タチ悪いって。
「あれ〜?どうしたんですかぁユウタさん。そんなにグラスを傾けて…あ、ユウタさんも飲みたかったんですかぁ?」
「え?いや、違いますけど…。」
「またまた〜遠慮しないでくださいよ〜♪」
「してませんから?」
何この酔っ払い…。
可愛いような…ちょっと頭にくるような…。
普段のセリーヌさんからはイメージできない姿。
「でも〜私が全部飲んじゃいましたし…あ、そうだ。」
酔っ払ったセリーヌさんは何かを思いついたような表情をしたかと思えばニヤニヤしだした。
真っ赤な顔で、とびきりの悪戯を思いついた子供のように。
「…どうしたんですか?」
「こうすればいいですよ〜♪」
そういったかと思えば彼女はすぐに行動をして見せた。
酔っているとは思えない俊敏な動きでオレの背へまわしていた腕を後頭部へとまわす。
自然、近づく顔と顔。
って、え?何!?
「私がぁ〜口の中に残っているのを移してあげればいいんです〜♪」
「へっ!?ちょっとっ!?セリーヌ―んんっ!?」

―唇が塞がれた。

あの日以来のキス。
そっと重ねるだけのものではなく、舌を口内へと侵入させ、絡める深いもの。
あの時はとても優しい甘い味がしたが、今度のは少し薄まったブランデーの味がした。
ちょっぴり大人味。
だけど、とんでもなく情熱的なキス。
「…んんっちゅ♪ん…ん♪」
「…んっ…む、んっ!」
荒々しくも優しさを。
ねちっこいのに淑やかさを感じさせるような舌の動き。
セリーヌさんの本質を感じさせるディープキス。
オレの舌を根元から舐めあげるように動けば絡められ、唾液を流し込まれる。
一方的に。
苦くも甘く感じる唾液を注がれる。
それがだがどうしようもなく気持ちがいい。
脳の奥まで蕩かすように感じるほど。
体を支える腕から力が抜ける。
徐々に、削られていくように。
それをわかっていたようにセリーヌさんはここぞとばかりに力をかけてきた。
唇を重ねたまま、体重をかけてきた。
抗えずにオレの体は倒される。
ぼすんと、音をたててオレはベッドに体を沈めた。
それなのにセリーヌさんはいまだにキスをやめようとしてくれない。
むしろさっきよりも一段と激しく貪る。
「ん…んん♪ちゅるるっ、ん…ふ、ぅんん♪」
抵抗しようにもいつの間にか手首を掴まれて。
下はベッドで逃げ場はなくて。
体を動かせず、身じろぐことも許されない。
キスをしてどのくらいたったのだろうか。
一分二分なんてものじゃない。
もしかしたら十分は唇を重ねていたんじゃないか、そう思うほど長く貪られ、セリーヌさんはようやく唇を離した。
「んん―ぷはぁ♪ど〜うで〜すか〜?ユウタさん♪」
「ぷはぁっ!はぁ…ど……どう…って…。」
あまりの長さに酸欠になりかけた。
意識が朦朧として焦点がぶれる。
力も入らない。
抵抗、出来ない。
セリーヌさんはオレの様子を見てとても満足げに頷いた。
そして顔に浮かべる笑みは聖職者からはかけ離れた表情。
妖艶な笑み。
何か、危険なものを感じる。
そんなことをお構いなしにセリーヌさんは次の行動へと移った。
「なんだか熱いですね、ユウタさん♪こういう時は脱ぎ脱ぎしましょうね〜♪」
「…え、あ、ちょっと…。」
まるで保母さんのような子供に言い聞かせるような声色とともにオレの学生服を脱がしていく。
手際よくボタンを外し、Yシャツまで外し終え、ベルトにまで手をかけた。
あまりにも手馴れている。
流れるような動作だった。
よくもまぁ、この世界にない服をここまで上手に脱がせるよなと感心してしまうほどに。
…ってあれ?オレがセリーヌさんに助けられた時も服は半分くらい脱がされていたか。
それなら手馴れているのにも納得。
…いやいや、納得してどうするんだ。
気づけばベルトは放られてパンツにまで手を掛けられた。
「ちょっ!セリーヌさん!!」
「よいしょー♪」
脱がされた。
それも、楽しげに…。
ノリノリなんだけど…この女性。
やる気かなり感じるんだけど…。
セリーヌさんはオレのものを見つめていた。
さっき長々と情熱的なキスをされ、当然ながらオレのものはもう準備万端だ。
セリーヌさんはそれを見てにへらとした笑みを浮かべる。
その上、舌なめずりまでした。
「えへへ〜♪ユウタさんのオチンポ♪」
「っ!」
とんでもないこと言ったぞ!
普段、というか絶対に口にしないような言葉を言ったぞ!!
あまりの驚きに吹きかけたぞ!
「これが、私の中にいたんですよねぇ♪」
「え、あ…そうですけど…。」
答えるのに困る質問だ。
「びくびくしてて…可愛いですよ♪」
「…。」
「…ふぅっ!」
「くっぁ!?」
いきなり息を吹きかけられた!
あまりにも急すぎたのでオレのものはびくりと大きく震える。
情けない声が漏れる。
それを聞いてセリーヌさんは一段と喜びの色を浮かばせた。
「んふふ〜♪可愛い声ですよ、ユウタさん♪」
「…。」
恥ずかしくなって顔を背けた。
やたらと顔から熱を感じるのでオレも真っ赤に染まった顔をしていることだろう。
セリーヌさんは興奮かエチルアルコールによるものだろうけど、こっちは羞恥によって。
異常なほどに体が熱くなった。
「あれ?何で顔をそむけるんですか?いけない人ですね〜…あ、そうだ。」
何かを思いついたような声を出し、何か音がした。
布が擦れるような、そんな音が。
不審に思いセリーヌさんをちらりと横目で見れば―

―前を大きく肌蹴たセリーヌさんがいた。

身に纏っている白い修道服。
普段も前を大きく肌蹴ているのだが、止め具となるものを外していた。
さらには黒い艶のある水着のような布。
胸を覆い隠していたそれを取っ払って艶やかで大きな胸が開放される。
…大きい。
ただ隠していた布地から開放されたそれは思っていたものよりも大きかった。
感動を通り越して迫力を感じるほどに。
もしかしたら着やせをするタイプなのかもしれない。
あの服で着やせというのもおかしいけど。
っていうか、この女性。
「何脱いでるんですかっ!?」
「どうですか〜?私の胸は?」
相変わらずオレの話を聞かないセリーヌさん。
一方的な言葉のキャッチボールだ
胸を露出させたセリーヌさんはにへらと笑みを浮かべたままだ。
やはり顔を真っ赤にして、とても妖艶な笑みを浮かべて。
「んっ♪」
自分の胸を持ち上げた。
そのまま、揺らす。
まるで誘惑するように、誘うように。
男の情欲を沸きあがらせるように。
「…っ!」
「どうですか〜?もっと見たいですかぁ?」
いや、明らかに誘っている。
いつものセリーヌさんなら絶対にしないようなことをして、酔いに任せたまま大胆な行動して。
まっすぐに見つめる瞳に情欲を燃やして。
オレを求めていた。
揺れる大きな肌色の塊。
先端にある可愛らしいピンク色の突起は膨れ上がって自己主張していた。
うっすらと赤みを帯びた表面に。
しっとりと汗を滲ませた肌色に。
男としての欲望が燃え上がる。
彼女が欲しいと騒ぎ出す。
だが、なぜだろう。
体がうまく動かない。
先ほどセリーヌさんに情熱的なキスをされたことによるものか、酸欠に近い状態だからだろうか、力が入らない。
アルコールが回ったのだろうか?
セリーヌさんから唾液をこれでもかと流し込まれたからだろうか?
体が以上に熱く、心臓がやたらと早く鼓動を打つのはそのせいか?
自分自身それなりの抗体があると思っていたが、そうでもないらしい。
やはり高校生、まだまだ体が発展途上だ。
「答えてくれないんですかぁ?いけない人ですね…それならお仕置きしましょう♪」
「え?」
オレが反応しきる前に彼女は動き出した。
その大きな胸を屹立したオレのものにあてがったと思ったら―
「えいっ♪」
―挟まれた。
とても柔らかく温かなものに。
もちもちとした肌に、感じたことのない感触に。
「んあっ!!」
その柔らかさにオレはだらしなく声を漏らす。
左右から圧迫される豊満なその感触。
あまりにも気持ちが良い…!
抵抗なんて出来なくなるほど。
体に力なんて入らなくなるほど。
「ふふ、気持ちよくしてあげますから…ね♪」
オレのものを優しく包み込んでいるセリーヌさんの胸。
彼女は自分の胸の両側に手を添えて、動かし始める。
ゆっくりと、上から下へ。
「…くっ…ぅっあ…!」
しっかりと、包み込んで。
「あ、はぁ…びくびくしてます♪」
甘い声と甘い快感。
清楚な印象をぶち壊してくれるその姿。
大きな胸にオレのものを挟みこんでいる、隠微なる姿によりオレの本能は暴れだす。
体を支配する、はずなのに。
目の前の女性を求める、はずなのに。
体は力が入らずに何も出来なかった。
彼女から与えられるその感覚を享受していることが精一杯だった。
腰を動かして快楽を貪りたいのに許されないが、柔らかく優しい感触に翻弄される。
「ひっ…ぁ…ぐ……ぅっ…!」
せめて快楽に抗おうとした唇を噛んで耐えるが意味はない。
それ以上に気持ちが良いから。
だが、その気持ち良さが変わる。
左右から胸に挟まれていた感触にさらに追加される。
「ちゅっ♪」
「っあ!!」
電撃が走ったかと思った。
あまりにもすさまじい快楽だった。
セリーヌさんがオレのものの先端にキスをしただけだというのに。
「んふふ〜♪」
彼女はオレの反応を見て喜びながら今度は赤い舌を出した。
子供のようにべーっと。
見せ付けるようにチロチロと動かして。
子供には似合わない淫靡な表情。
純粋とはいえない妖艶な動き。
そのままセリーヌさんはオレのものを舐め始めた。
「っ!!?」
先端を丹念に、唾液を塗りこむように。
舌を強く押し付け、時折撫でるように這わせて。
温かな舌がオレのものを這い回りヌメヌメとした唾液の軌跡を描く。
そのたびにオレのものから伝わってくる快楽はじわじわと本能を攻め立てる。
体の中で燃え上がる欲望を、湧き上がる興奮を。
さらに煽り、果てへと誘う。
「じゅるっ…ん♪…とっても、硬いです…ユウタさんのオチンポ♪」
「…ふっぁ……ぅ…。」
「とっても切なそうな顔してますよ…♪出したいのですかぁ?」
出したいかと問われれば間違いなく出したい。
ただ、今でも十分に気持ちがいい。
この状態で出したら自分が壊れるんじゃないかと思ってしまうほどに。
だから、少し怖かった。
だがセリーヌさんはそんなオレの心の内を見透かしたように微笑んで言う。
妖艶さを残しつつも優しそうに笑って。
「いいんですよ♪出していいのですからね♪全部、受け止めてあげますから…ね♪」
その言葉とともに加えられた力。
それはセリーヌさんが自分の胸を左右から中のものを押しつぶすように、オレのものへと強く押し付けるような力だった。
胸はセリーヌさんが加えた力を余所へと逃がすことなく受け止め、オレのものへと伝わる。
そして伝わった力はオレのものから感覚へと変換された。
無論、快楽へと。
「んんっ!!?」
柔らかく温かな胸が潰れてオレのものを圧迫する。
左右から伝わるその感触はオレの中で膨大な快楽へとなり、オレの限界をたやすく砕いた。
「ああぁっ!!」
頭の奥で何かがはじける音を聞き、オレは欲望を放ってしまった。
我慢は出来ず、力も入らず。
体は快楽が駆け巡る。
欲望を解き放った瞬間特有の快感が浸透する。
放たれた精はそのまま床やベッドへと落ちるだろうと思っていたがそれは違った。
「あはぁ♪すごい、出てますぅ♪」
なんと、セリーヌさんが受け止めた。
それも口ではなく、顔で。
セリーヌさんの顔がオレの放った精で白く染まる。
清楚は淫靡に。
優美はみだらに。
とてもいやらしく染まった。
オレの放った精で。
「…っ!」
とても背徳的。とても倒錯的。
背筋を悪寒にも似た感覚が走った。
「ユウタさんの、せーえき…♪はぁあ♪」
恍惚とした表情でオレの精を拭い取るセリーヌさん。
顔に付着したものをふき取り、手の平へと集める。
そしてそれをオレの前で、オレに見せ付けるように舐めた。
いやらしく、舌で掬い取るように。
「んふっ♪ユウタさんの精液、おいし♪」
手の平を舐め、指をしゃぶり、指先を舐める。
いやらしい以外のなんでもない光景。
普段の行動からでは予測できないその行為がオレの中で勢いを弱めていた欲望を刺激した。
じっくりと時間をかけて精を舐めとったセリーヌさんは人間で言えば膝のところで立つ。
オレから見て彼女の体が見えるように。
大きく前を開いた白い修道服。
そこから除く二つの大きな胸。
すらりとしたくびれは美しさを感じさせ。
部屋の明かりでも煌く鱗は宝石のようだ。
シー・ビショップ。
海の神官。
とても美しいその姿は神官と呼ぶには無理があるだろう。
「ユウタさ〜ん♪」
可愛らしくオレの名を呼んでくれる彼女。
いやらしく蕩けた表情。
興奮によって赤く染まった頬。
荒く、獣のような吐息。
まだ少しばかり残っているオレの精。
しっかり自己主張する胸の突起。
神聖なんて言葉は合わないだろうその姿。
オレの情欲を刺激してくれるその姿。
セリーヌさんは両手を自分の下半身に、肌と鱗の境界線のところへと動かしていく。
そこにあるのは黒い帯のようなもの。
オレの持っている空手の帯とは違う、薄く水着のような布。
おそらく…下着…。
「見てください…♪ユウタさんの精液を舐めて…とってもエッチな気分になったので…私…♪」
両端についていた結び目を解き、重力に従って布が落ちる。
布のしたにあったのは…セリーヌさんの、女の部分。
「どうですかぁ♪もう、ユウタさんのオチンポが欲しくて…こんなになっているんですよぉ♪」
「っ!」
まじまじと見たことはこれが初めて。
綺麗な肌に一筋あるそこからは粘り気ある液体が溢れていた。
涎のようにダラダラと垂れ流すその様子は見ているだけでも本能を刺激する。
理性という抑えを砕こうとする。
セリーヌさんはそこへ指を這わせ、左右に開いた。
オレに見せ付けるように。
「っ!!」
「ここに、欲しいんですよぉ…ユウタさんのオチンポが♪あの日から…ずっと欲しかったんですからね…♪」
奥へ奥へと律動するセリーヌさんのそれ。
粘液を垂れ流しいやらしく光っている。
そこにオレは入った。
あの日にこれでもかというほど触れ合い、繋がった。
その事実が、その経験がオレの本能をよりいっそう燃え上がらせる。
「セリーヌ、さん…。」
「ユウタさん…大好きですよ…♪」
そう言って可愛らしく微笑んだ彼女はオレへ倒れこんでくる。
ともに肌蹴た肌が触れ合い、セリーヌさんの体温が伝わる中で。
オレの顔とセリーヌさんの顔が同じ位置に来るところで。
セリーヌさんは器用に腰だけを動かしてオレのものをあてがった。
初めてでないとはいえオレは学生。
性欲盛んなお年頃の男子がたかだか一度の射精で萎えるはずもなく。
むしろ先ほどの光景でよりいっそう硬さを増した。
「それじゃぁ…いれちゃいますね…♪」
腰に力を入れ、一気に奥へと呑み込まれた。
「ふっあぁっ!!」
「ひゃぁああぁああああぁあ♪」
部屋に響く淫靡な声。
セリーヌさんがあげた甘い声。
それとともにオレのものから伝わってくる感覚。
あの日以来の快感が。
あの日以来の快楽が戻ってくる。
いや、あの日よりもずっと近く。
あのときよりもずっと熱い快楽に塗りつぶされた。
「はぁあ、あ♪…すごい、きてます…♪ユウタさんのオチンポが、私の中にぃ♪」
とても熱く、とてもきつく、それでも優しく抱きしめてくれるセリーヌさんの中。
甘くオレのものを芯から溶かしていくような熱。
濡れて、胸よりもさらに強く柔らかく密着してくる中。
先に触れた少し硬いものはオレの先端に吸い付き、放さない。
根元までしっかりと呑み込んだセリーヌさんの中は隙間なく抱きつき、締め上げている。
オレの形を確かめるように。
オレというものを確認するように。
そしてそのまま律動する。
粘液を塗りこむような、オレのものを嘗め回すような動き。
すぐに果てそうになりそうな快楽がオレの体を襲った。
力の入らない体へと浸透していく快楽。
我慢なんてものは出来ない。
抗うにも力が入らない。
そんな体にセリーヌさんは抱きついてきた。
「わかりますかぁ?ユウタさんのオチンポ、私の中でどくんどくんって…脈打っているんですよ♪とっても熱く、私の中にいるんですよぉ♪」
蕩けた表情のセリーヌさん。
あの日よりもさらに甘く、だらしなく、そしていやらしい。
体を近づけたことによりか、甘いセリーヌさんの香りがオレを包みこむ。
甘く囁かれる言葉はオレの理性を溶かす。
そして触れ合っている肌からは彼女の体温を、繋がっているものからは彼女の感触を感じた。
全てが心地よく、気持ち良い。
それも溶け合ってしまいそうなほどに。
「それじゃぁ…動き、ますね…♪」
「ちょっと待って…。」
「だめです♪」
本当に人の話を聞いてくれない。
せめてもの抵抗をと思い力の入らない手を頑張って動かしたら止められた。
セリーヌさんによって、手首をつかまれた。
その手は動き、オレの手に重なる。
指を絡めて、拘束する。
優しく、甘く、オレの動きを束縛する。
そんなの力の入らないオレの体には意味もないことかもしれないけど。
オレが動けないことを確認するとセリーヌさんは妖艶な笑みを浮かべる。
そして、動き出した。
「んん…ふっぁ♪あぁあ…ん♪」
「くっ…っ!」
ゆっくりと腰を引き上げ、オレのものを吐き出していく。
その際にオレを離すまいと抱きしめるセリーヌさんの中。
柔らかな肉に擦られ、粘液を滴らせる。
そして熱く甘い快楽を伝えてくる。
ただ腰を引いただけでこの気持ちよさ。
あの日もこんな風にしてもらったりオレから求めたりしたのだが…二度目で慣れるほど弱いものじゃない。
徹底的なまでに甘い快楽に耐え切るのは難しいことだった。
「あぁあ…あ…♪ユウタさんのオチンポ…♪」
蕩けた声を出すセリーヌさん。
あの日にも負けないくらいいやらしい顔だった。
そのまま腰を引き、止める。
ちょうどオレの先がセリーヌさんから抜けるか抜けないかのところで。
「え?…セリーヌさん…?」
「ユウタさん…♪」
セリーヌさんは顔を近づけてきた。
あと数センチで唇が重なりそうなところで。
甘い吐息をオレの顔に吹きかけられるくらいの距離で。
そのまま、囁く。
「大好きですっ♪」
その言葉が合図だったのかセリーヌさんは腰を一気に下ろしてきた。
とたん、吐き出されていたオレのものを確かめるように、もう離さないとでも言わんばかりに抱き締めてくるセリーヌさんの中。
粘液が噴出し、肉と肉のぶつかり合う乾いた音が部屋に響く。
そして、オレはすさまじい快楽を感じ取った。
「あぁああああ―んんっ!?」
あまりの快楽に叫び声をあげたはずなのにその声は遮られた。
オレの唇を塞ぐ形で。
セリーヌさんがオレにキスをするという形で。
「んんっ♪ん♪ちゅ、んん♪」
「ふっんん!?むっ!!」
そのまま始まる激しいキス。
丁寧なんて言葉はなく、優しさなんてものは存在しない。
貪欲で強欲で本能的なキスだった。
舌を絡めて、時に啜って。
唾液を流し込まれればそれから蜜のような甘さを感じて。
呼吸する暇さえ惜しいというようなキス。
そんなキスをしながらもセリーヌさんは腰を動かすのをやめない。
肉同士のぶつかる音と、濡れたものが交わりあう音が部屋に大きく響く。
音が響くたびに、快楽を感じさせられる。
腰を惹かれるたびに粘液は噴出し、オレの学生服へ染み込んでいく。
口からは甘い唾液を流され、さっきまでオレのものを包んでいた柔らかな胸を押し付けられる。
手は繋がれ、指を絡められる。
全てが一方的で。
全てが直線的で。
そして全てが気持ち良かった。
こんなに激しいのに優しい。
こんなに荒いのに献身的。
こんなに猛烈なのに慈愛が溢れていて。
セリーヌさんらしい、彼女の本質を感じさせられた。
その全てがオレへの好意だの証だということが心地よかった。
―だが。
そんな快楽に包まれていれば情欲は高まり、本能は目の前の女を孕ませろと叫ぶ。
体はそれに従い、動き出す。
びくびくとセリーヌさんの中で震えた。
「んんっ♪」
それに気づいたセリーヌさんは腰の動きを早めた。
それとともに中は一段と強く抱き締めてくる。
唇も強く押し付けられる。
気づいてる…あの日のように。
オレに限界が近いことに。
握った手に、絡めた指に力を込めて。
セリーヌさんは叩きつけるように大きく腰を打ちつけた。
途端に今まで高められていたオレの欲望は。
今まで滾っていたオレの本能は。
セリーヌさんの中へと流れ込んだ。
「っ!!」
「んんんんんんんんっ♪」
熱く滾ったオレの精がセリーヌさんの中へと流れ込む感覚に頭の中が真っ白になる。
その感覚を受け取ったセリーヌさんも体を震わせ、中は痛いほどきつく締め上げる。
ともに快楽に震える体。
ともに重なるくぐもった嬌声。
最後の一滴まで流し込もうとするオレともっと搾り出そうと動くセリーヌさん。
その動きは重なり、より多くの精を流し込んだ。
徐々に収まってくる体の震え。
それでもセレーヌさんを求めるオレの本能は収まろうとはしない。
それはセリーヌさんにも言えること。
彼女は唇を離し、オレを見た。
いまだに情欲に燃えるその瞳で。
「ふっあ♪…ユウタさんの精液…私の中を染めてるのがわかりますかぁ♪」
やはり普段とは違うその言動。
顔を真っ赤に染めたいやらしい女の顔。
セリーヌさんの表情は恍惚としているものだが、どことなく物足りなさを感じさせる。
「こ〜んなに注がれたら…もっと欲しくなってしまいます♪」
そう言ってふるふると震え、下半身を激しくグラインドさせる彼女。
そんなことをすれば当然オレのものに快楽が生じる。
ぐちゃぐちゃとオレの精液とセリーヌさんの愛液がいやらしい音を立てた。
「ふっ、ぐ…!!」
「あはぁ♪とっても可愛いですよ、ユウタさん♪」
そう言いつつも腰の動きは止めない。
セリーヌさんは更なる精を求めている。
あの日にも感じていたがどうやらセリーヌさんはオレが思っている以上に貪欲らしい。
普段はお淑やかな女性でも、本心は欲深。
強欲で欲張りな一人の女。
遠慮しなければ彼女は獣同然の本能に身を任せ、オレを求める。
それに対してオレのものも反応する。
更なる快楽を求め異常なほど強く大きく張り詰める。
先ほど出したというのに萎えることなく。
普段とは明らかに違う、あの日よりもずっと熱く滾る。
「ふぁ♪ユウタさんのオチンポ、まだまだ硬くて、ぇ♪熱いですっ♪」
「セリーヌさん、ちょ、待って…!」
「だめですっ♪」
そういうセリーヌさんの表情は快楽に染まった獣そのもの。
魚とういよりも鮫という言葉が似合うかもしれない。
貪欲に獲獲物を食らう鮫。
恐ろしくはなく、臆することもない美しく、麗しい鮫。
「もっと欲しいんですっ♪ユウタ、さんの、ぁ♪証っがぁああ♪」
「セリーヌ、さんっ!!」
「好きなんですっ♪好きっ♪大好きぃ♪」
発せられるは想いの言葉。
それとともに振られる腰。
包まれるのは異常なほどの快楽と異質なほどの興奮。
月が真上に昇ろうが、傾き沈み始めようが。
そこにセリーヌさんに激しく貪られ続けるオレの姿があった。





「ふにゃ…ユウタ、さん……大好き…です…♪」
まったく…いい気なもんだ。
あれだけオレを襲っておいてこんな満足した顔で眠りやがって…。
オレはセリーヌさんと情事を終えベッドで寝ていた。
といっても眠っているのはセリーヌさんだけ。
ようやくアルコールも異常な熱も抜けて体が自由に動かせるようになったがオレはこれといったこともせずにセリーヌさんと同じようにベッドに横たわっている。
勿論、いまだに繋がりあったままで。
まったく…笑えてくる。
この状況、この状態。
全てがセリーヌさんの思惑通り。
オレがあのネレイスに引きずり込まれたことも、助けてくれたのがセリーヌさんだったことも。
この部屋にオレが運び込んだことも、そして肌を重ねたことも。
全てがセリーヌさんの望んだこと。
ただ、オレの名前を知っていた理由はまだわからないが。
オレの命を救ってくれた彼女の望みは聞いてあげようと思っていたオレはなんだったんだ…。
こんなことなら、正面から言ってくれれば…。
…それは無理か。
セリーヌさんも奥手で遠慮深いってことは今回のことでよくわかった。
だからこそ、オレ達は一歩を踏み出せずにいたんだから。
あのブランデーでその一歩をようやく踏み出せたんだから。
「ユウタさん…。」
不意にセリーヌさんに呼ばれた。
寝言…だろうな。
オレはセリーヌさんの頬を撫でた。
柔らかく吸い付くような白い肌。
子供のように可愛らしい寝顔。
オレを襲った妖艶な表情は見受けられない。
そっと唇を指でなぞったときセリーヌさんが言葉を発した。

「ずっと…一緒に…です…。」

ずきりと胸が痛んだ。
ああ、と思う。
本当は遠慮する必要なんてなかったんだって。
セリーヌさんもオレを求めていてくれたんだって。
オレのことを、本当に好きでいてくれたんだって。
もっと、一緒にいたかったんだって。
ずっと、そばにいたったんだって。
いまさら気づかされる。
本当に…オレは馬鹿だな。
心の中で苦笑してオレは体を動かした。
セリーヌさんの顔へオレの顔を持っていき、その唇に自分の唇を重ねる。
一瞬だけ、ちょっと子供っぽいキス。
そっと離れてオレは呟くように言った。

「おやすみ、セリーヌさん。」

―手はしっかりと握り合って。











「…んぁ。」
起きた。
窓の外からは朝日が差し込み、ベッドの上を照らす。
オレとセリーヌさんを温かく照らす。
「…。」
そうだったな。
昨夜、してたんだな。
オレの目の前で子供のような表情で眠っているセリーヌさんと肌を重ねてたんだな。
それで、散々襲われて眠った。
手は指まで絡めて握り合ったまま。
…温かい。
あの日から感じていた彼女の温かさ。
絡めた指から、繋いだ手からぬくもりを感じる。
ずっとこうしているのもいい。
彼女の手を握ったまままた眠りにつくのもいい。だけど。
一応、この家に住まわせてもらっている以上しなければいけないことがある。
カフェバーで店の番をしないといけない。
そういえばディランさんとマリ姉は帰ってきたのだろうか?
クレメンスさんは勿論いる…っていうか、昨夜の声聞かれてないだろうか…。
「よっと。」
とにかく起きよう。
昨夜飲んだブランデーがそんなに多くはなかったからか、二日酔いのような症状はない。
ただ、異常なほどにスッキリとした感覚はある。
そりゃ…あれだけ出したのだから…当然か。
ともかく、これならいつも通りに動けそうだ。
そう思いオレは起き上がろうとしたそのとき。
「んん…あれ?ユウタ…さん…?」
セリーヌさんが目を覚ました。
いまだに眠そうな表情でオレを見て。
不思議そうな声を上げる。
「あれ?…何で私のベッドに…?」
「…ここはオレの部屋ですよ?」
「あれ?」
不思議そうに首をかしげるセリーヌさん。
その様子からは彼女も二日酔いなんて症状を起こしていなさそうだ。
セリーヌさんはオレを見て、部屋を見渡して、そして再びオレを見た。
裸に近いこの姿。
同じような姿でオレと寝ていたセリーヌさん。
そして、最後に視線はオレとセリーヌさんが昨夜からずっと繋がっている下腹部へと移動して…。
「………っ!!?!」
真っ赤になった。
彼女の顔が。
一瞬で鰭のような耳まで赤く染まる。
「ふぇえええ!?あ!?わ、私はっ!?なんていうことを…っ!!?」
どうやらその慌て具合からしてもセリーヌさんは昨夜のことをしっかりと覚えているようだった。
オレを一方的に散々襲ってくれたことを。
「いろんなことを暴露してましたよ?」
「ふぇっ!?」
「ネレイスに手伝ってもらってオレを海に引きずりこんでくれたってこととか。」
「はわっ!?」
「過労で倒れたことも嘘だったということとか。」
「ひぅっ!?」
「それにオレを馬鹿とかへたれだとか罵ってくれたり。」
「はひっ!?」
オレの言葉一つ一つにセリーヌさんは顔を赤くし、慌てだす。
普段ならまず見ることは出来ないであろう仕草。
オレも普段ならしないだろう。
これは昨夜の仕返しなのだから。
人の言うことを聞いてくれなかった仕返しなのだから。
徹底的に言ってやる。
それから、聞きたかったことを聞いてやる。
「全部セリーヌさんから自白してましたね。」
「そ、それは〜…!!」
可愛らしく慌てふためくその姿。
その姿を見てもっと見たいと思ってしまう。
見ている方が思わず微笑んでしまう。
だが、それ以上に思っていることがある。
「でも。」
オレは言葉を止める。
その先はずっと気になっていたこと。
ずっと聞きたかったこと。
昨夜のセリーヌさんでも言ってくれなかったこと。
遠慮して聞き出せなかったことだから。
「…その…聞いてもいいですかね…オレを…好きになった理由を…。」
それから、オレを知っていた理由を。
一番気になっていたことだ。
オレ自身セリーヌさんと出会ったのはあの日が初めて。
だがセリーヌさんはオレを知っていた。
こんなオレを好いていた。
その理由を、聞きたかった。
「はい…その…。」
恥ずかしげに目を伏せて。
観念したように語りだす。
恥ずかしそうだけどどこか清清しさを感じさせる表情で。
ずっと隠していたものを。教えたかったことを。
伝えたかったことをようやく伝えられることからか。
どこか吹っ切れたような表情でセリーヌさんは語りだした。
「実は…最初にユウタさんを見たのは…孤児院の子供たちを助けようとしていたところでした…。」


要約するとこうである。
以前オレが孤児院の子供たちと遊んでいる中、その中の子供たちが海で鮫の群れに襲われたことがあった。
それを助けに一人で行ったところをちょうど見ていた…らしい。
どうやらその姿に惚れた。
オレが自分から命の危険を冒して助けに行ったその姿に惚れた…らしい。


「…マジ?」
最悪だった。
よりによってそんな『かっこ悪いところ』を見られていたなんて…。
そう、かっこ悪かったんだ…。
実はあれ、助けに行ったのはいいが子供たちは当然のこと海の魔物娘達。
鮫の群れを避けて戻ってくるのなんてお手の物。
それに気づくことなく助けに行ってしまい、オレが鮫の群れに襲われかけた…。
あれは大変だった…。
マリ姉に助けられ、孤児院の皆から笑われて…。
人生における消したい汚点だった。
さらにそれによって孤児院じゃ笑いものだし。
心には大きな傷を負うし…。
その気晴らしとして釣りをしてたらネレイスに海に引きずりこまれてセリーヌさんに出会って…。
「孤児院の方から聞きました…。あの黒髪の男性の名前はなんと言うのかと…。」
セリーヌさんは恥ずかしげに言った。
ああ、なるほど。
だからセリーヌさんはオレを知っていたのか。
確かに孤児院ならオレのことを知らない子はいないからな。
「それから…親友のネレイスに相談して…手伝ってもらって…。」
「…ああ、そう。」
計画的だなぁ…。
「クレメンスさんにも…少しばかり手を貸していただいて…。」
…は?
クレメンスさんにも?え?
そういえば…クレメンスさんよくオレとセリーヌさんを浜辺で見かけたって言ってたな。
それに…昨夜オレが顔を洗いに部屋を出たとき…クレメンスさんとセリーヌさんは二人きり。
そのときセリーヌさんは過労で倒れていたはずだけど…いや、過労は確か嘘だったな。
そして、その後のクレメンスさんの気付け薬を…。
…あれ?何だこれ?
よく考えれば全部辻褄が合うぞ?
二人がオレのいないところで計画を立てていたとすれば…。
あの状況も、あの過労だという発言も、あの気付け薬も。
全部辻褄が合う。
…マジで?
「…だからってブランデーを出すかよ…。」
「え…ブランデー?出されたのって媚や―ブランデーでしたね…。」
今何て言いかけたっ!?
びやって言ったぞ!?
びやって…もしかして媚薬のこと!?
少量飲んじゃったからオレの体があんなに熱かったのか!?
クレメンスさん、いったい気付け薬に何を作ってくれたんですか!?
セリーヌさん、何で視線を泳がせているんですか!?
「と、とにかく!」
セリーヌさんは話を無理やり変えるように強く言う。
そんな風に言ったところでオレの中に湧き上がるこの微妙な気持ちは掻き消えないぞ?
あとでたっぷりと追求してやる。
「デートを重ねるたびに…ユウタさんのことがどんどん好きになって…。」
そう言ってセリーヌさんは顔を上げた。
恥じらいによって頬を赤く染めた可愛らしい表情で。
オレを見つめた。
「ユウタさん…。」
「はい?」
「えっと…その…。」
遠慮しているのかそれとも恥ずかしがっているのか、セリーヌさんは言おうとしない。
昨夜なんて散々オレを求めて、普段言わないようなことを言ったくせに。
それでも悩んだセリーヌさんはオレを見つめて言う。
顔を赤く染めながら。
アルコールではない、感情により染まったその顔で。

「―好きですっ!!」

ハッキリと。
オレに向かって好意の篭った言葉を言った。
今まで言われなかった彼女の本心を。
酔いなんてない、素面の感情で。
言ってくれた。
「あのときから好きになったんです!ずっと一緒にいたいです!ユウタさんが、好きなんですっ!!」
勇気を込めたその言葉。
遠慮なんて要らない、心からの言葉だった。
その言葉に。
セリーヌさんからの好意に。
オレの答えは決まっている。
出会ったあのときから決まっている。

「オレも、セリーヌさんが好きですよ。」

今までのことがセリーヌさんの企みでも。
あの出会いが裏のあったものでも。
オレがセリーヌさんに惚れたことは事実なのだから。
オレがセリーヌさんを好きだということは真実なのだから。
「…本当…ですか…?」
セリーヌさんは驚きの表情でオレを見た。
そんな表情をするもの無理はないだろう。
今の今までオレはセリーヌさんに好きだとは言っていないどころか、それらしい態度を示さなかったのだから。
今まではセリーヌさんが頼んでくれたものを快く引き受けることしかしなかったのだから。

―だから、これはオレの、オレからの気持ち。

誰からも頼まれず、誰からも引き受けない。
正真正銘のオレの心。
それを聞いてセリーヌさんの頬に一筋の雫が垂れた。
朝日に光る、宝石のような雫。
セリーヌさんは泣いていた。
「え!?セリーヌさん!?」
「すいま…せん…。」
ぽろぽろと流す涙を拭いながらセリーヌさんは言葉を繋ぐ。
嬉しそうなのか、悲しそうなのかわからない表情で。
「ユウタさんが…そんなこと…を、言ってくれるなんて…思って、なくて…。」
その言葉を聞いて思う。
セリーヌさんは本当にオレのことを思っていてくれたんだって。
これじゃあ、今まで遠慮していたオレが馬鹿みたいだ。
セリーヌさんは嗚咽交じりにも言葉を続ける。
「ユウタさんに…言っても、らえたことが…嬉しくって……!」
「…セリーヌさん。」
惚れた。その表情に。その言葉に。
また、セリーヌさんを好きになった。
オレは彼女の背に腕をまわして、抱き寄せる。
そっと、優しく。
抱きしめた。
セリーヌさんはオレのなすがまま、オレの腕の中で泣いている。
胸板に顔を擦り付けて。
彼女からも腕をまわして抱きしめて。
それでいて、繋いだ手はまだ離さないで。
一人のシー・ビショップは泣き続けた。
やわらかく差し込む朝日に照らされて。
ともに抱き合う二人の姿がそこにはあった。






後日

「えー…では…その健やかなる時も、病めるときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しきときも、これを共に愛し、これを共に敬い、これを共に慰め、これを共に助け、その命ある限り、他のものに依らず、死が二人を分かつまで愛を誓い、共に想い合い、共に添うことを誓いますか?」
「「誓います。」」
「それでは…えっと…その…。」
「契りを♪」
「「はい!」」
セリーヌさんの一言で目の前の屈強そうな海の男と蛸のような下半身を持つ海の魔物スキュラがし始めた。
うわっ…これは何度やっても慣れない。
オレのいた世界の誓いの言葉を何とか思い出し、それを覚えて儀式をしているのだが…。
目の前でこう激しくされちゃあ…。
隣にいるセリーヌさんは微笑みながら絡み合う二人の姿を見ていた。
これを毎回していたんだよな…セリーヌさんは。
こんな激しい契りを見せ付けられてたんだよな…。
すげぇ。
心から感心してしまった。

あの夜を…というか愛しきシー・ビショップと二度目の肌を重ねたあの日から。
オレは海で暮らすようになった。
その理由はいたって簡単。
ずっと一緒にいたいから。
セリーヌさんが言ってくれたこと。
オレも同じ気持ちだったから。
だからオレはセリーヌさんと一緒にいることが出来るため、セリーヌさんの手伝いにでもなれるようにとこうやっている。
神父の真似事だ。
セリーヌさんはシー・ビショップで、儀式を受け持つ神官なら。
オレはその儀式をサポートするための神父となる。
これならセリーヌさんの手伝いにもなるし、海に暮らす恋人たちのためにもなる。
なかなか良いアイデアだと思う。
学生服で神父なんて笑っちゃうけど。
「ユウタさん…。」
不意にセリーヌさんがオレの手を握ってきた。
その手は普段に比べいくらか熱い。
顔を見れば頬を赤く染めている。
目の前で情事を見せ付けられて彼女も興奮しているようだった。
指を絡め、オレの腕に柔らかな胸を押し付ける。
視線は目の前で激しく交わるカップルへと向けて。
「気持ち、良さそうですね…。」
「…だね。」
「その…私たちも…。」
そう言ってくるセリーヌさんの表情からは遠慮なんてものは感じられない。
むしろ、積極的にオレを求めるような仕草をする。
あの日から、あの夜からずっと積極的に。
恥ずかしげだけど、それでも本心をオレに伝えてくれる。
「あー…その、この儀式が終わったら…ね。」
「はいっ♪」
そう言って笑ってくれるセリーヌさんはとても嬉しそうで。
その顔を見るたびにオレはセリーヌさんに惚れてるということを思い知らされる。
まったく、策略にまんまと嵌っておきながら…。
それでも嫌いには、なれないんだよなぁ。
オレは心の中で苦笑してセリーヌさんの手を握り返した。






これはとある海から伝わった噂。
なんでも、恋人たちのために世界中の海を駆けずり回るシー・ビショップの話なのだが。
あるシー・ビショップに婚姻の儀式をしてもらうと必ず幸せになれるという噂がある。
その婚姻の儀式は普通のシー・ビショップが行う儀式とは違うところがある。
それは儀式を仕切る者が二人いること。
闇のような瞳をして、影のような髪をして、夜のような服を着た神父が共にいること。
一見、ジパング人かと思われる彼が言う言葉は珍しいものであり。
その誓いは恋人たちの心をより強く結ぶ不思議な言葉だという。
その婚姻の儀式をしてもらおうと世界中の海から、はたまた大陸から多くの恋人たちが彼らを求てるらしい。
その求めてくれている恋人たちのために。
今日もそのシー・ビショップは黒い神父と共に恋人たちの元へと旅をする…。





「それじゃあ…ユウタさん…♪」
「おっと、ちょっと待って。」
「え?どうしたのですか?」
「いやね、ちょっと渡したいものがあって……ほら、これ。」
「っ!これって…!?」
「そ、指輪。今までいろんな恋人たちのために海を旅してきたからさ…なかなか渡す機会がなくて…。だから、その…今更なんだけど…ね。」
「ユウタ、さん…。」
「セリーヌさん。オレと、結婚してください…!」
「…はいっ!!」




祝詞 第三節 これにて終了

HAPPY   END
11/04/22 21:04更新 / ノワール・B・シュヴァルツ
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■作者メッセージ
というわけでこれにてシー・ビショップ編、完結です!
シー・ビショップといえば救われた人が彼女のことを好きになってという話もありますが今回はその逆を!
シー・ビショップが誰かを好きになっていたらという話でした!
そして結果がこの策略、陰謀。
なんという策士!このシー・ビショップ只者ではない!
それに嵌る主人公…もげてもらいたいですね!

それでは、次回!
次回は孤児院での話!
出てくるのはなんと!
カリュブディスとシー・スライムがダブルで出ます!
二人同時の話です!

それでは次回もよろしくお願いします!

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