連載小説
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第三話 旅のお供はコーヒーと新聞ともう一つ
亭拉が町に着いてから一週間。
ブラジャー製作の技術指導や行商人との商談、長との補給物資の交渉等で瞬く間に時間が過ぎて行った。

その間この町についてわかったことと言えば…

・町の規模以上に貿易の拠点として賑わっている事
・人間の男性とラミアの他に少数だが人間の女性、他の魔物もいる事
・人間と魔物との関係は良好で(親魔物領と言うものだろう)人間同士、人間と魔物との夫婦が半々位いる事
・商隊の中には海を越えた東洋の島国(ジパングというらしい)から来ているものもいる事
・南の方からコーヒーが入って来る事(ここ重要)

今、亭拉は日陰に座り煎れたてのコーヒーを堪能している。

(長に言って補給物資に麻袋一杯のコーヒー豆とコーヒーセットを追加してもらおう、無理なら実力行使だ)

等と考えていると一人のハーピー(黒っぽい奴)に話しかけられた。

黒鳥「あの〜、あなたがこの町に『ぶらじあ』を伝えた冒険者さんですか〜?」
こちらを探るような目付きの鳥が言うには自分は新聞記者で新聞の配達や勧誘、取材等を行っているらしい…Bだな。

テイラ「何か用か?近々町を出るから新聞ならとらんぞ。」
黒鳥「あら〜それは残念、でも今回は取材の件でお声をかけたんですよ〜」
どうやら早速ブラジャーの事で取材に来たらしい。

テイラ「職業柄魔物の新聞に載るわけにはいかないんで諦めてくれ。」
そう言うと今は腰のベルトにチェーンを通し、ベルトとズボンの間に挟んでいた教会の証を見せる。

黒鳥「ゲーッ、教会!?」
さすがに驚いたのか後ろに飛び退いて距離を取り、怯えた目でこっちを伺ってくる。

町のなかでも別に隠しているわけではないがやはり初めて見た者は人間、魔物問わずかなり怯える。
何らかの理由で教会から離反し、親魔物領に住む『元教会』も少なくないらしいがそれでも魔物達の中では証だけでも十分な恐怖の対象なんだろう。

なんとも言えない居心地の悪さから取り合えずこちらから声をかける。

テイラ「あー、お前は人間に危害を加えたことはあるか?」
そう言うと残像が見えるくらいの勢いで首を横に振る黒いハーピー。

テイラ「確かに教会に所属しているが無差別に魔物の殲滅をしてる訳じゃない、取材も『親魔物領に居た教会の人間』じゃなく『異世界から来た人間』としてなら受けなくもな「マヂですか!?」お、おう…」
亭拉が言いきる前にずずいっと近づき胸元から細い木炭に紙を巻いたもの(この世界の鉛筆だろう)と手帳を出す、ていうか顔が近い鼻息かけるな。


……
………

黒鳥「いやぁ〜、ありがとうございましたぁ〜、それと例の件よろしくお願い致します〜。」
取材が始まってから終始笑顔の黒いハーピー、切り替え早ぇなおい。
手帳と鉛筆を胸と乳隠し(ブラジャーではない)に押し込もうとしているがうまくいかないらしい。

(そう言えばこの前練習がてらに作ったポーチが有ったっけ)
そう思って四次元鞄をまさぐるとベルトで腰に巻くタイプのポーチを引っ張り出す。

テイラ「ほら、これ使いな。」
急にポーチを差し出され、キョトンとしたまま動かなかったのでその細い腰に着けてやる。

「わわっ」と顔を赤らめ多少驚きながらもおとなしくポーチをつけられる黒いハーピー。

足の邪魔にならないようポーチは脇側でいいだろう。

黒鳥「お?おおぅ!」
腕をあげたり腰を捻ったりその場で軽く跳んでポーチの感触をたしかめる。
反応から見て気に入ってもらえたようだ。

黒鳥「いや〜ありがとうございます〜、実は取材手帳を入れる場所がなくって仕方なく胸のなかに入れてたですよ〜♪」
胸の前で手のひらを合わせ体をくねらせる。
喜んでもらえてなによりだ。

黒鳥「ホントは私も『ぶらじあ』が欲しかったんですが、あれはピッタリしすぎで手帳が入らないんで正直諦めてたんですよ〜♪」
今度は乳隠しを指で摘まみビヨンビヨンと引っ張って見せる、ピンクの輪っかが見え隠れしてるが黙っておこう。

黒鳥「あ、これはお礼です」
そう言って手帳を入れていたのとは反対側の胸から一枚の金属製のカードを出す。
コイツ、もしかしたらBも無いのかもしれん。
見慣れない文字の書かれた銀色のカード、所謂【ルーン文字】という奴だろう。

黒鳥「そのカードを持っていれば最寄りの配達員が新聞をお届けに参ります、ただ反魔物領に居るときは配達できませんので領外に出た際に纏めてお届けする形になります。」
例の件、くれぐれもよろしくお願いしますね〜♪と言いながらブラジャー販売所まで走っていく黒いハーピー、飛べよ。

テイラ「しかし良くしゃべる鳥だったな、あの種族はみんなあぁなんだろうか?」
知識を検索しようと思ったが面倒臭くなったので止める。
すっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干し補給物資の件で長を訪ねようと長の大型テントに向かって歩き出す。


……
………

ラミー「おぉテイラか。」
一声かけてからテントに入った亭拉の顔を見るなり長の方から話を切り出してきた。

ラミー「お前のお陰でただの中継地だった我が町に特産品ができた、礼を言う。」
勇者になるため来たはずの世界でまさか下着を作るはめになるとは思わなかったが、こんな風に喜ばれるならまぁ悪い気はしない。

ラミー「しかも商隊に町の外でも『ぶらじあ』を売ってくれるよう契約を取り付けてくれるとは礼のしようもない。」
そう言うと長は軽く頭を下げる。
魔物のなかでも気位の高い方であるラミアの、しかも町の長が軽くでも頭を下げるのは恐らく大変なことなんだろう。
コイツ私が教会の人間だって忘れてるんじゃないか?

テイラ「あー喜んでもらえて何よりだ、それでと言う訳じゃないが補給物資の件で話をしたいんだが…」
話が長くなりそうだったので用件を切り出す。

ラミー「うむ、テイラのこの町に対する貢献を考えれば何を出しても惜しくはない、遠慮せずに言ってくれ。」
こちらが思った以上に評価してくれているようだし思いきって『アレ』も要求してみるか。

テイラ「先ずは水と食料だな、できれば食料は保存の利くものが良い。」
ラミー「安心しろ、ここはもとより砂漠を横断するための中継地だ、保存食は豊富に取り揃えている。」
まず一つ目は心配ないようだ。

テイラ「後は野営用のテントや簡単な調理器具等の雑貨が欲しいな。」
ラミー「任せろ、我が町では旅に必要な物は何でも揃う、店には私から話を通しておくから後で食料と一緒に好きなだけ持っていくと良い。」
自信満々で言いきるところを見ると品揃えには絶対の自信があるようだ。

テイラ「あー、ついでと言ってはなんだがコーヒーが欲しいな。」
ラミー「コーヒーが気に入ったか、私もアレが好きでわざわざ商隊に頼んで持ってきてもらっている、毎朝夫に抱かれながら飲むコーヒーは身も心も芯から温めてくれるしな、夫はいつも私よりも早く起きて私のためにコーヒーを煎れてくれてな、今朝も私が目覚めると二つのカップを寝床まで持って来てくれてその内一つを手渡すと私をそっと抱き寄せて温めてくれたんだ、砂漠の朝は冷えるからな、身体の半分が蛇の我々は寒さに弱く、身体が温まるまで満足に動けないんだ、その点私は良き夫に恵まれ夫の温もりで身体を温めるというラミアにとって最高の幸せを毎朝得られる、これは夜の交わりにも引けをとらない私の人生でも最高の瞬間の一つだ、しかしそろそろ夫との間に子供が「そろそろ話を戻しても良いか?」お、おう…」
このままだとノロケ話で日が暮れるので無理矢理にでも話をもとに戻す。
しかし堅そうな長でもやっぱり魔物なんだな、夫の事を話し出すと止まるところを知らないな。

ラミー「しかし旅に必要な物は大体目処がついたとおもうが?」
テイラ「いや、最も大事なものがまだ残っている。」
そう、こればっかりは自分じゃどうにもならない。

テイラ「最後に『この世界の事に詳しい道案内』が欲しい。」
ジジイにもらった知識はある。
しかしアレは知りたいことを検索しなければ知識を引き出せない欠点がある。
つまり『何がわからないかわからないと』いけないのだ。

ラミー「フム、心当たりはあるが…」
長は一度目を伏せ考え込み…

ラミー「その人物は魔物娘だ。」



……

………

長との交渉の後、亭拉は町の市場に向かい補給物資を見繕う。

長の話通りどこでどの商品を指定してもタダで譲ってくれ、アレもコレもとオマケまでつけてくれる始末。
渡された商品を次々と鞄にしまってゆき巨大なコーヒー豆の麻袋をねじ込んだときはあり得ない状況に周囲は騒然とし、その鞄を売ってくれと言う商人も現れた。
しかし物を入れた分重量がしっかりと加算される事を知って渋々諦めていった。

日も暮れ始めた頃、亭拉は長に呼び出され、町の外れにある一回り小さなテントに案内される。

薄暗い室内にランプの光りが揺らめいている。
ランプは部屋の奥のローテーブルの上に、ローテーブルはその奥の寝床の隣に、寝床には薄手の毛布にくるまった女性が一人。

女性はこちらに気づくと手にしていた分厚い本をバタリと閉じ、身体を起こしてこちらに目を向ける。

惹き込まれるような紅い瞳、真っ直ぐに腰まで延びる上質な絹のように真っ白い髪、それに対して優しいミルクのように白い肌。
部屋の明かりは小さなランプ一つだが亭拉にはまるで彼女自身が輝いているかのようにハッキリと認識できた。

???「そちらが先程お話にあった方ですか?」
本をローテーブルに置き寝床からスルスルと蛇のような下半身を滑らせ這い出てくる。
細い。
町のラミアは皆健康的で豊満な身体をしているがこの白いラミアは細い、華奢と言っても良い。

ラミー「彼女がテイラが求めていた『この世界に詳しい道案内』だ。」
長の言葉を白いラミアが引き継ぎ話を続ける。

白いラミア「はじめまして、貴方が私の知識を必要としていると町長様からお聞きしました。」
こちらを見て微笑む姿は今にも壊れそうな儚さを感じる。

ラミー「彼女は生まれつき身体が弱く日の出ている間は外に出るのが難しくてな、その代わり世界各国の書物、魔導書、又は各国の商人から直接話を聞いたりしている、お陰で地方別の魔物の生体や国の裏事情等を非常に詳しく知っている。」
白いラミア「私は町のラミアと冒険者の間に生まれました、ジパングに生息する『白蛇』や白い髪のサキュバス『リリム』とは関係ありません。『突然変異』もしくは『アルビノ』と呼ばれるそうです、魔物に限らず生き物であれば全てに僅かながら存在するそうですよ。」
どこかで聞いたことがある。
アルビノによる色素以上で真っ白な生物が生まれる事があると、そして免疫力が低く短命な場合が多い。
だが彼女は魔物だ。

テイラ「だったら【精】を摂取すれば身体を強くできるんじゃないか?」
そうだ、魔物にとって最も効率の良いエネルギー源。

【精】

それさえ摂取すれば先天的な身体の弱さなど直ぐに克服できるはずだ。

ラミー「ダメだったんだ…」
長がそう言うと白いラミアと共に視線を下げる。

ラミー「デリケートな花に大量の肥料を与えると枯れてしまうように彼女の身体は【精】の強すぎるエネルギーに耐えられないのだ。」
どうやら彼女の身体は予想以上に深刻なようだ。

白いラミア「こんな私でも貴方のお役に立てるのであれば喜んで旅のお供を致します、ですがこの体では足手まといにしかならないのかも知れません…」
そこまで言うと彼女はより深く俯きその目には涙が滲んでいた。

ラミー「フム、やはりソコが問題か…」
室内の雰囲気がよりいっそう暗くなる。









テイラ「ティンと来た!」
顎に手を当て考え込んでいた亭拉が急に視線を上げる。

テイラ「君は俺に巻き付けるか?」
そう言うと肘を曲げた状態で両手を上げる。
腰の位置に巻き付け、と言いたいらしい。

白いラミア「それ位ならできますが…」
スルスルとほとんど音をたてずに近付き亭拉の腰の位置に巻き付く。
彼女は下半身も細い、他のラミアよりも一回り近く細い彼女の下半身からヒンヤリとした感触が伝わってくる。

テイラ「よし、そのまま上半身は俺の背中におぶさるような形で。」
それを聞くと彼女はその小さな胸を亭拉の背中にピタリとつける。
気のせいか上半身は下半身に比べてほんのり温かく感じる。

テイラ「こうすれば旅をするのに何の問題もない。」
ラミー「しかしお前は教会の人間だろう!?そんな状態で旅を続けられるのか!!」
町長が今回最大の問題『教会の人間が魔物をつれて旅をする』という部分について言及する。

テイラ「別に問題はない、使い魔として使役しているとでも他の者に危害を加えないよう自分から離れないようにしているとでも言えば良い。」
何も悪びれる様子もなくサラリと言いのけると言葉を続ける。

テイラ「どうしてもダメなら『冒険者』として旅をするだけさ。」
更には何の躊躇もなく『上級聖騎士』としての立場を捨てると言いはなった。

白いラミア「グスッ、あ、ありかどう、ございばす…」
白いラミアには自分は町に何も貢献していないことがわかっていた。
町の皆はそんな自分に居場所をくれたが、心のどこかで自分が誰にも必要とされていないのではないかとも思っていた。
しかし自分が巻き付いているこの男は魔物を絶対悪とする教会に属しながらも、その立場を捨ててでも自分を必要としてくれると言う。
自分が最も求めていた言葉で有り、自分から最も遠い言葉をくれたことが何より嬉しく涙を抑えることが出来なかった。

亭拉はそんな彼女を視界から外し、頭にそっと手を置いてやる。
町長も顔を反らし口元を手で押さえ声を抑えて泣く。

テイラ「そう言えば、名前を聞いていなかったな。」
湿っぽい空気を少しだも変えようと白いラミアに話しかけるが、

白いラミア「名前は、未だありません。」
返ってきたのは予想外の答えであった。

ラミー「この町独自の習慣なんだが、この町の魔物は伴侶を決めたときその伴侶に自分の名前をきめてもらうことになっている、自分の大切な名前を最も大切な人物につけてもらうと言う意味らしい。」
さらに町長から予想外の答えが出てきた。

白いラミア「はっはんり、町長様!?私はそんな!!」
改めて言われ取り乱す白いラミア。

やっぱりあのジジイ謀りやがったな!!

テイラ「伴侶云々は置いといてだ、君の名前なら始めから決めている。」
取り合えず先伸ばし、なんの解決にもならないがこの場を乗りきるために無理矢理話を進める。


テイラ「君の名前は『シルク』だ。」


そして亭拉がラミアにとって巻き付きが交わりを除いて最大の愛情表現だと知ったのは今からかなり後のことである。
13/01/29 02:21更新 / 慈恩堂
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■作者メッセージ
どうも、慈恩堂です。
いやぁ、旅の支度は強敵でしたね。
三話目になってもまだ最初の町から動いてないですね、どうしてこうなったorz
そしてとうとう五千文字突破!
私としては『読み切りは一万文字』『連載は五千文字』を越えたら長すぎ、と考えているのですが皆さんはどう感じているのでしょうか?

登場人物

新聞記者のブラックハーピー
はっきり言ってモブです。
仮に名前を【バーズアイ】とでもしておきましょうか?
まぁ二度と出てこないんですがね。

週刊『魔物娘』
今回ブラックハーピーが勧誘してきた新聞
内容は反魔物領の進行状況から恋占いまで多岐にわたる
ハーピーだけで作っているわけでなく発行には多くの種類の魔物や親魔物派の人間の協力がある
魔王にも愛読していただいていることが彼らの誇りでもある

シルク
やっと出ました今作のヒロイン
本人も言っていたが『白蛇』や『リリム』とは全く関係はない
身体が弱いとは言うがあくまでも魔物基準で、である
知識はあるがほとんど外に出たことが無いため世間知らずで少々頭でっかちなきらいがある
精を摂取できないことから母親から寝所での実技指導は受けていない
ぶっちゃけヒロインなので話が進めばここで紹介するより良くわかります

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