第一話 三十歳童貞で騎士になった
某市のアパレル会社に勤める男『亭拉 明(テイラ アキラ)』は混乱していた。
目が覚めると布団に寝たまま真っ白な空間に居たからだ。
テイラ「昼のように真っ白な夢を見る、あぁこれが白昼夢か!」
???「何を言っとるんじゃおぬしは?」
声のした方に振り向くとそこには着流しを着た白髪の男が立っていた。
テイラ「あー、チェンジで…」
折角夢に出てくるなら綺麗なお姉さんにしてくれよと思いながら冷めた目で一言、そんな亭拉に白髪の男はカカカと笑いながら話を続けた。
???「まぁそう言うな、実はおぬしに遣いを頼みたくての」
そう言うと亭拉の前にどっかりと胡座をかくと何時の間にか男の下には座布団が敷かれていた。
???「おぬしの居る世界とは別の世界を救ってきて欲しいんじゃよ。」
まるで子供に茶菓子を買って来るのを頼むかのような気軽さで言ってのけた男に亭拉は無言で枕を投げつける。
すると枕は男の目の前で霧のように溶けて消えるとニッカリと笑った男の顔があらわれる。
???「なぁに、良く有る『人を害する魔物を駆逐し邪悪な魔王を倒してきて欲しい』ってだけじゃよ。」
とりあえず他に投げる物がないか探す亭拉に男が続ける。
???「タダとわ言わん、欲しいもんはなるだけ用意しよう。」
ほっといても話が進んでることに気がつくと旅に必要な物が頭に浮かぶ。
(あー、これが世に言うゲーム脳?いやラノベ脳か?まぁいい、どうせ夢なら思いつくだけ全部言ってやれ。)
テイラ「取り合えず現地の知識、頑丈な服、容量無限の鞄、ドラゴンを軽く凌駕する頑丈な体とパワー、あと魔法が二つ、後は…」
突然スラスラと答え始める亭拉に一瞬驚いた表情になった男にとどめの一言。
テイラ「軍用スコップかな。」
予想だにしなかった答えに首を傾げながら男は亭拉に問う。
???「フム、してその心は?」
テイラ「1つ目、読み書きは勿論の事なんの予備知識もなく放り込まれたら最初の町でのたれ死ぬのは目に見えてる」
指を一本立てて理由を述べる亭拉に頷く男。
そして男が頷くと亭拉の頭の中に現地の言葉や文字、文化などが流れてくる。
テイラ「二つ目、パジャマで冒険はできないし四次元ポケットはRPGの基本だ。」
指をもう一本立て説明を
続ける亭拉にニヤリと少し悔しそうに笑って頷く男、どうやらパジャマのままで放り出す気だったようだ。
そして亭拉の体を淡い光が包むとごく一般的な『冒険者の服装』に変わる。
テイラ「三つ目、長旅を続けるのに重い鎧は邪魔なだけだしどんな武器を扱っても非力なら持て余すだけだ。」
ほぅ、と少し感心したように男が頷くと体の芯から熱が込み上げ力がみなぎる感覚を覚える。
テイラ「四つ目、100の魔法をあれこれ考えて使うより汎用性の高い二つの魔法を使いこなす方が不測の事態に対処しやすい。」
それを聞いた男がウムウムと強く頷くと亭拉の前に二つの光の玉が現れる、魔法の素か何かだろう。
テイラ「最後に!」
手を開き五本の指を立て強めに宣言すると、
テイラ「使ったことのない槍や剣より扱いやすいタダの道具の方がまだましだ。」
ウームと考え込むように男が頷くと目の前に三つ折りの軍用スコップが現れる。
テイラ「で、聞きたいんだが…」
一通りの旅支度を整えた亭拉が男に訪ねる。
テイラ「あんた一体誰なんだ?」
亭拉の問いに男は変わらず笑顔で答える。
???「ワシか?世の中にはワシの事を『主神』と呼ぶ者も居るが実際は子供たちの健やかな成長を願うタダのジジイじゃよ。」
笑いながら答えた『主神』と名乗る男に亭拉はもう1つの疑問をぶつける。
テイラ「じゃあもう1つ、なんで俺が選ばれたんだ?」
その問いに『主神』は意地悪い笑顔を浮かべ
主神「三十にもなって童貞じゃから魔法使いの代わりに勇者になってもらったんじゃよ。」
言い終わるかいなかの刹那。
亭拉は三つ折りの軍用スコップを素早く広げ主神に殴りかかる。
頭にスコップが降り下ろされる寸前、景色がドロリと歪み突然の浮遊感に襲われる。
…
……
………
ザクリッ
意識が戻ると同時に砂にスコップをたたきつける。
砂?
砂?砂?!砂!!
辺りは一面の大砂丘。
突如としてジリジリと照りつける太陽、ペンペン草一本生えていない砂漠に放り出された。
テイラ「あのジジイ、やってくれやがったな!」
RPGお決まりの『始まりの町』を期待していた亭拉の予想だにしなかった主神の仕打ちにお思わず足元の砂を蹴り上げる。
キーン…サクッ
蹴り上げた砂の中から金属製の何かがとびだした。
後を追い拾い上げると拳大の銀色の十字架のようなモチーフを金色のレリーフが囲んだデザインの首飾りにメモ紙が付けられた物だと解る。
――――――――――――――――――――――――――――――――
この世界で教団と呼ばれる組織の 『上級聖騎士(パラディン)』の証じゃ、これを見せれば教団の者は無条件に協力してくれるじゃろう。
子供たちの事をくれぐれも頼んだぞ。
By 主神
PS いっそのことそっちで嫁さんも見つけてこい
――――――――――――――――――――――――――――――――
テイラ「大きなお世話どぅわぁ!!」
メモ紙を引きちぎり片手でクシャクシャに丸めて投げると空中で破裂した、どうやら音速を超えるスピードで投げてしまったらしい。
ドラゴンを凌駕するパワーは本当に身に付いているようだ。
次に『上級聖騎士(パラディン)』という言葉について考えてみる。
【『主神』からの『神託』を直接受けた騎士】
【その権限は教団最高位の『教皇』に次ぐ】
【基本的に如何なる命令形問うにも属さず『主神』からの『神託』に従うことを最優先とする】
【『騎士』を名乗っているが『魔法使い』『学者』『司祭』等職業は騎士とは限らない】
色々と新しい言葉も出てきたが今すぐに思い出せるのはこれくらいか。
確かにこの世界の基礎知識は頭に入っているようだ。
テイラ「さて、取り合えずは近くの町まで行かないとな。」
歩きながら鞄に手を突っ込み持ち物を確認する。
そうび
E 軍用スコップ
E ローブ
E 頑丈な冒険者の服
E 頑丈な冒険者の靴
アイテム
→ なにももっていません
テイラ「ん?」
アイテム
→ なにももっていません
テイラ「え?」
→ なにももっていません
中身を要求するのを忘れていた…
灼熱の太陽の下、背筋が凍りつくような感覚が亭拉を襲った。
三日後
サクッ
サクッ
サクッ
砂漠の中のオアシス。
十数件の簡易住居が並び、旅人や商人の中継地としてそこそこ栄えている場所。
町の外れの岩に頬杖をつき景色を眺めていた美しい女性。
健康的な褐色の肌に緩いウエーブのかかった長い髪を時折風に揺らしながらふと視線を向けた先にフラフラと近づいてくる1つの人影を見つけた。
その人影は女性の目の前で立ち止まると絞り出すように一言…
テイラ「み、水…」
女性「え、ミミズ?砂漠にそんなのいないよ?」
ドサリッ
お約束の一言に全身の力が抜けその場にた折れ込む。
倒れ込んだ際に巻き上がった風に乗った精の香りにニヤリと口を歪めスルスルと這い出してきた蛇の下半身を持つ女性、所謂ラミアという魔物だ。
倒れた男、亭拉 明に近づきぐるりと巻き付くとズルズルと簡易住居に引きずり込んでいった。
ざんねん テイラ のぼうけんは おわってしまった?
のか?
目が覚めると布団に寝たまま真っ白な空間に居たからだ。
テイラ「昼のように真っ白な夢を見る、あぁこれが白昼夢か!」
???「何を言っとるんじゃおぬしは?」
声のした方に振り向くとそこには着流しを着た白髪の男が立っていた。
テイラ「あー、チェンジで…」
折角夢に出てくるなら綺麗なお姉さんにしてくれよと思いながら冷めた目で一言、そんな亭拉に白髪の男はカカカと笑いながら話を続けた。
???「まぁそう言うな、実はおぬしに遣いを頼みたくての」
そう言うと亭拉の前にどっかりと胡座をかくと何時の間にか男の下には座布団が敷かれていた。
???「おぬしの居る世界とは別の世界を救ってきて欲しいんじゃよ。」
まるで子供に茶菓子を買って来るのを頼むかのような気軽さで言ってのけた男に亭拉は無言で枕を投げつける。
すると枕は男の目の前で霧のように溶けて消えるとニッカリと笑った男の顔があらわれる。
???「なぁに、良く有る『人を害する魔物を駆逐し邪悪な魔王を倒してきて欲しい』ってだけじゃよ。」
とりあえず他に投げる物がないか探す亭拉に男が続ける。
???「タダとわ言わん、欲しいもんはなるだけ用意しよう。」
ほっといても話が進んでることに気がつくと旅に必要な物が頭に浮かぶ。
(あー、これが世に言うゲーム脳?いやラノベ脳か?まぁいい、どうせ夢なら思いつくだけ全部言ってやれ。)
テイラ「取り合えず現地の知識、頑丈な服、容量無限の鞄、ドラゴンを軽く凌駕する頑丈な体とパワー、あと魔法が二つ、後は…」
突然スラスラと答え始める亭拉に一瞬驚いた表情になった男にとどめの一言。
テイラ「軍用スコップかな。」
予想だにしなかった答えに首を傾げながら男は亭拉に問う。
???「フム、してその心は?」
テイラ「1つ目、読み書きは勿論の事なんの予備知識もなく放り込まれたら最初の町でのたれ死ぬのは目に見えてる」
指を一本立てて理由を述べる亭拉に頷く男。
そして男が頷くと亭拉の頭の中に現地の言葉や文字、文化などが流れてくる。
テイラ「二つ目、パジャマで冒険はできないし四次元ポケットはRPGの基本だ。」
指をもう一本立て説明を
続ける亭拉にニヤリと少し悔しそうに笑って頷く男、どうやらパジャマのままで放り出す気だったようだ。
そして亭拉の体を淡い光が包むとごく一般的な『冒険者の服装』に変わる。
テイラ「三つ目、長旅を続けるのに重い鎧は邪魔なだけだしどんな武器を扱っても非力なら持て余すだけだ。」
ほぅ、と少し感心したように男が頷くと体の芯から熱が込み上げ力がみなぎる感覚を覚える。
テイラ「四つ目、100の魔法をあれこれ考えて使うより汎用性の高い二つの魔法を使いこなす方が不測の事態に対処しやすい。」
それを聞いた男がウムウムと強く頷くと亭拉の前に二つの光の玉が現れる、魔法の素か何かだろう。
テイラ「最後に!」
手を開き五本の指を立て強めに宣言すると、
テイラ「使ったことのない槍や剣より扱いやすいタダの道具の方がまだましだ。」
ウームと考え込むように男が頷くと目の前に三つ折りの軍用スコップが現れる。
テイラ「で、聞きたいんだが…」
一通りの旅支度を整えた亭拉が男に訪ねる。
テイラ「あんた一体誰なんだ?」
亭拉の問いに男は変わらず笑顔で答える。
???「ワシか?世の中にはワシの事を『主神』と呼ぶ者も居るが実際は子供たちの健やかな成長を願うタダのジジイじゃよ。」
笑いながら答えた『主神』と名乗る男に亭拉はもう1つの疑問をぶつける。
テイラ「じゃあもう1つ、なんで俺が選ばれたんだ?」
その問いに『主神』は意地悪い笑顔を浮かべ
主神「三十にもなって童貞じゃから魔法使いの代わりに勇者になってもらったんじゃよ。」
言い終わるかいなかの刹那。
亭拉は三つ折りの軍用スコップを素早く広げ主神に殴りかかる。
頭にスコップが降り下ろされる寸前、景色がドロリと歪み突然の浮遊感に襲われる。
…
……
………
ザクリッ
意識が戻ると同時に砂にスコップをたたきつける。
砂?
砂?砂?!砂!!
辺りは一面の大砂丘。
突如としてジリジリと照りつける太陽、ペンペン草一本生えていない砂漠に放り出された。
テイラ「あのジジイ、やってくれやがったな!」
RPGお決まりの『始まりの町』を期待していた亭拉の予想だにしなかった主神の仕打ちにお思わず足元の砂を蹴り上げる。
キーン…サクッ
蹴り上げた砂の中から金属製の何かがとびだした。
後を追い拾い上げると拳大の銀色の十字架のようなモチーフを金色のレリーフが囲んだデザインの首飾りにメモ紙が付けられた物だと解る。
――――――――――――――――――――――――――――――――
この世界で教団と呼ばれる組織の 『上級聖騎士(パラディン)』の証じゃ、これを見せれば教団の者は無条件に協力してくれるじゃろう。
子供たちの事をくれぐれも頼んだぞ。
By 主神
PS いっそのことそっちで嫁さんも見つけてこい
――――――――――――――――――――――――――――――――
テイラ「大きなお世話どぅわぁ!!」
メモ紙を引きちぎり片手でクシャクシャに丸めて投げると空中で破裂した、どうやら音速を超えるスピードで投げてしまったらしい。
ドラゴンを凌駕するパワーは本当に身に付いているようだ。
次に『上級聖騎士(パラディン)』という言葉について考えてみる。
【『主神』からの『神託』を直接受けた騎士】
【その権限は教団最高位の『教皇』に次ぐ】
【基本的に如何なる命令形問うにも属さず『主神』からの『神託』に従うことを最優先とする】
【『騎士』を名乗っているが『魔法使い』『学者』『司祭』等職業は騎士とは限らない】
色々と新しい言葉も出てきたが今すぐに思い出せるのはこれくらいか。
確かにこの世界の基礎知識は頭に入っているようだ。
テイラ「さて、取り合えずは近くの町まで行かないとな。」
歩きながら鞄に手を突っ込み持ち物を確認する。
そうび
E 軍用スコップ
E ローブ
E 頑丈な冒険者の服
E 頑丈な冒険者の靴
アイテム
→ なにももっていません
テイラ「ん?」
アイテム
→ なにももっていません
テイラ「え?」
→ なにももっていません
中身を要求するのを忘れていた…
灼熱の太陽の下、背筋が凍りつくような感覚が亭拉を襲った。
三日後
サクッ
サクッ
サクッ
砂漠の中のオアシス。
十数件の簡易住居が並び、旅人や商人の中継地としてそこそこ栄えている場所。
町の外れの岩に頬杖をつき景色を眺めていた美しい女性。
健康的な褐色の肌に緩いウエーブのかかった長い髪を時折風に揺らしながらふと視線を向けた先にフラフラと近づいてくる1つの人影を見つけた。
その人影は女性の目の前で立ち止まると絞り出すように一言…
テイラ「み、水…」
女性「え、ミミズ?砂漠にそんなのいないよ?」
ドサリッ
お約束の一言に全身の力が抜けその場にた折れ込む。
倒れ込んだ際に巻き上がった風に乗った精の香りにニヤリと口を歪めスルスルと這い出してきた蛇の下半身を持つ女性、所謂ラミアという魔物だ。
倒れた男、亭拉 明に近づきぐるりと巻き付くとズルズルと簡易住居に引きずり込んでいった。
ざんねん テイラ のぼうけんは おわってしまった?
のか?
13/01/26 02:13更新 / 慈恩堂
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