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第十一話 Letzt Butallion
ジャイアントアントの巣穴を後にしたテイラ達三人は、少し弱まったものの未だに降り続ける雨の中『クレバネット』へと歩いていた。
因みにジャイアントアント達は治水河川の維持管理と山火事の後の植林活動をするためにあの場所に定住する事にしたそうだ。

燃え尽きた山の斜面を抜け、疎らに木の生え始めた谷を歩いていると道を塞ぐように大きな岩が落ちていた。

テイラ「面倒臭いなぁ、ちょっと待ってろ。」
『歩くキャンプ地』の中にシルクを残し、岩を退かそうとした瞬間。

シルク「キャッ!」
???「プヒヒ〜ッ、つ〜
かまえた♥」
茂みの中から飛び出した何者かにシルクが捕まり、テイラとスエードから引き離される。

スエード「貴様っ、何者だ!」
ローブを脱ぎ去り素早く剣を構え、シルクを抱えた相手に向き直る。

???「う〜ごくな〜♥コイツがどうなっても良いの〜?それに周りを見てみろ〜♥」
ローブで顔を隠した襲撃犯はフード越しにシルクの頭を掴み顎先で周りを指す。

ガサッガサガサガサッ
辺りの茂みや谷の上から十数人のローブを被った人影が現れる。
その中で亭拉の前に出てきた一人がローブを取る。

???「へ〜、大男かと思ったら中々カワイイ子じゃな〜い♥」
丸っこい顔、半分垂れた耳、ニタニタした嫌らしい笑み、どうやら亭拉達は山賊オークの罠に掛かってしまったようだ。

山賊豚「じゃ〜こっちのローブの中身はどんな子かなぁ〜♥」
シルクを捕まえたオークは乱暴にフードを剥ぎ取る。

乱暴な扱いに顔をしかめながらも必死に叫び声を殺すシルク顔がフードから覗く。

山賊豚「な〜んだ女か〜、ざ〜んね〜ん。」
あからさまに残念そうな顔をしながらシルクの髪を掴みグリングリンと引っ張る。

テイラ「止めろ!」
山賊豚達「「「「プヒッ!」」」」
内臓に響き渡る程の亭拉の怒号にビクリッと体を震わせるも直ぐに元のニタニタ笑いに戻るオーク達。

山賊豚「そ、そんな事言って良いのかしら〜、この娘の命は私が握ってるのよ〜。」
少々引き吊った顔をしながらシルクの髪を引っ張りあげ、顔を亭拉に向けさせる。
シルクは痛みに悲鳴を上げそうになるを必死に堪えている。
その悲鳴が余計にオーク達を調子づかせる事がわかっているからだ。

スエード「卑怯な、欲しいものが有るなら正々堂々と勝負しろ!」
シルクの悲痛な表情に堪えかねたスエードが堪らず声をあげるが、オーク達はそれでもニタニタ笑いを止めようとはしない。

頭領豚「プヒ〜ヒッヒッ、欲しいものは手段を選ばず手に入れるのが魔物ってモンでしょ〜、アンタみたいな良い娘ちゃんの方が可笑しいのよ〜♥」
嫌らしい笑い声をあげながらゆっくりと亭拉に近寄り腰に手を回すとベロンッと亭拉の頬を舐める。
しかし亭拉は全く意に返さずずっとシルクを掴んでいるオークを睨み付け続けている。

シルク「嫌ぁーっ!」
それを目の当たりにしたシルクはオークの頭領に飛び掛かろうとするが髪を掴まれ引き摺り戻される。

自分の髪を引き千切らんばかりに暴れるシルクを見ながら口角を釣り上げるオークは懐から刃が内側にカーブしたナイフを取り出し振りかぶる。

山賊豚「アンタキレ〜な髪してるね〜、首切り落としてアタシの房飾りにしてあげるよ〜♥」
尚も暴れ続けるシルクにめがけてナイフを降り下ろす。

それを見たスエードと亭拉は駆け出そうとするが、スエードは距離が離れすぎているため、亭拉はオークの頭領に抱き抱えられていたため間に合わない。

ブチリッ

山賊豚「プヒ〜ッ、ホントキレイな髪ねぇ〜」
シルクが暴れた為に狙いが逸れる。
シルクはナイフで髪を肩の辺りから切断され、そのショックで気を失いその場に倒れ込む。

スエード「キサマァ!よくも髪を!女の命を!」
そう叫ぶと大剣を振りかざし山賊オークに斬りかかる。

山賊豚「うるさいよ!こんなヒョロヒョロの蛇娘なんかに熱くなって、アタシの方が良い女じゃないガァッ(ゴビュッ)」
逆上したオークはナイフを降り下ろす。
しかしナイフがシルクに突き立てられる寸前、オークの腕がピタリと止まる。
ボトリと落ちたオークの怒りの形相が驚愕から苦悶に代わり、やがて白目をむき脱力しきった表情になり動かなくなった。

ブビュルッブビュルッと首から鮮血を吹き出していた体は仰向けに倒れ、時折ビクンッビクンッと痙攣し股ぐらを決して愛液では無い何かが漏れ出している。

ジャブッ…ジャブッ…

皆が呆然とする中、亭拉だけはゆっくりとシルクに向かって歩き出す。

山賊豚B「お、お前が何かしたのかぁ!」
亭拉達を囲んでいたオークの中から身の丈ほどもある石のハンマーを担いで走り寄ってくる。

山賊豚B「久しぶりの男だと思って優しくしてやろうと思ったのに、調子に乗るんじゃないよぉぉぉぉ!!」
走る勢いのまま亭拉の脳天にハンマーを降り下ろすが、

パァン…

亭拉が右拳で迎撃すると乾いた破裂音と共にハンマーは霧散し、拳を引き戻すと同時に伸ばされた左手がオークの顔を鷲掴みにする。

コシャッ

オークのプピッという声と共にまるでゼリーを握り潰すかの様にオークの表情を削り取る。

テイラ「許せねぇ…」
胸から下をオーク血と脳奨で斑に染めた亭拉は右腕を首を跳ねられたオークの後ろの茂みに向ける。

テイラ「『紛失の否定 』対象『オリハルコンミリタリースコップ』」
すると茂みの中から亭拉の軍用スコップが飛び出し手に収まる。

まだ固定しきれていないスコップの刃をクルクルと固定し、血塗れの『元』顔を押さえてゴポゴポと声になら無い声を出しながらブルブルと震えて失禁するオークに向き直り頭から真っ二つに切り裂く。

テイラ「ったく、臭ぇな…『存在の否定』」
足元の豚肉に視線を向け魔法を唱えると湯煙の様に消え、亭拉の体にへばりついた血肉も同様に消える。

テイラ「おいキサマら…」
ゆっくりと振り向く亭拉を見て山賊オーク達の表情が凍りつく。

そこに居たのはさっきまでの何処か頼り無さげなげな男では無かった。

悪鬼羅刹

魔王ですら避けて通りそうな殺気を身に纏い肌にピリピリと突き刺さるプレッシャーにオーク達は愚かスエードまで動けずにいた。

手に「俺の大切な…大切な仲間に手ぇ出しといて…」
辺りを包むプレッシャーがより一層強くなる。

テイラ「一匹足りともこの世に塵一つでも遺せると思うなぁ!!」
その姿はまさしく図鑑世界での『勇者』、いやそれ以上の『何か』。

山賊豚達「「「「ピギィッ!」」」」
周囲の木々を揺らし崖の一部が崩れる程の咆哮にオーク達は腰を抜かし中には糞尿を垂れ流す者もいる。

軍用スコップを握り直し山賊オークの頭領に一歩、又一歩と近づきもう一度両断しようとスコップを振り下ろした時。

シルク「テイラ様!」
振り下ろしたスコップの刃が山賊オークの頭領の額に触れる寸前にシルクの声で我に返った亭拉はオークの存在すら忘れシルクの元へ駆け寄る。

憔悴しきり、やっとの事で両手で体を起こしたシルクを両手で包むように優しく抱き寄せる。

シルク「それ以上は…止めて下さぃ…テイラ様にぁ…他の勇者…と…同じ様には…なって欲しぅ…有りません…」
息も絶え絶えに必死に語るシルクの頭を胸に押し付け無言で頷くと、鞄から組紐を取り出し傍らに落ちていた一束のシルクの髪にクルクルと巻き付け真っ白な房飾りを作る。

テイラ「お前の髪に誓おう、金輪際魔物を手に掛けたりはしない。」
そう言ってもう一度シルクを抱き締める。

その瞬間辺りを包んでいたプレッシャーが消え、スエードも手から大剣を落としその場にへたり込む。
殺される寸前だった山賊オークの頭領は白目をむき身体中の穴という穴から汁を垂れ流して仰向けに倒れ込む。
他のオーク達も次々に泣きじゃくったり泡を吹いて倒れたりしていく。


……
………

山賊オークの巣穴

山の斜面をくり貫いただけの貧相な巣穴の中で焚き火に当たり冷えきった身体を温めている亭拉達。
亭拉は焚き火とは別に魔導コンロでお湯を沸かし、砂糖多目の紅茶を煮出している。
シルクはその亭拉に巻き付き焚き火と亭拉の体の両方で暖を取り、スエードはその隣で泥水で汚れた大剣の手入れをしている。

オーク達は汚れた衣服を脱ぎ去り(主に下半身)、もじもじしながら少し離れたところで整列している。(下っぱは雨の中汚れた衣服の洗濯をしている。)

頭領豚「あ、あのぉ〜、勇者様?宜しければアタシ達の事使って頂けませんか?」
先程とはうって変わってオドオドした上目使いで亭拉に媚を売り始める。

テイラ「もう殺そうとは思ってないがお前達の事を許した訳でもない、一匹足りとも連れてく気は無い。」
殺気は籠っていないもののジロリと敵を見る目でオークの頭領を睨み付ける。
切断された髪は『体の欠損』でもなければ『負傷』でも無いため亭拉の魔法で『否定』する事は出来なかったのだ。

頭領豚「ピッ!でも…アタシ達もう勇者様の事が…その…」
顔を赤らめチラチラと亭拉の顔を見る。
その股の間からはトロみの付いた液体が滴り始める。

テイラ「冷えた身体を暖める為じゃ無きゃこうやってキサマらの巣穴なんかに入るのも嫌だったんだ。」
今回の一件で完全にオーク嫌いになった亭拉はしつこく食い下がるオーク達に苛立ちを募らせる。

スエード「テイラ、こうなったら何かしらやらせないといつまでも付き纏われるぞ?」
怒り狂った時の亭拉の印象が頭から離れないスエードはなんとか穏便に済ませようと助け船を出すが、
豚娘A「え、ヤらせて貰えるの?」
豚娘C「プヒッ、じゃあ早速濡らさないと!」
豚娘D「ダメよ、アタシが先なんだから!」

後ろの方で全てを台無しにする声が聞こえる。

ザクッ!

軍用スコップを地面に突き刺した音にテイラ以外の全員がビクリと体を震わせる。
そんな中でもまだ後ろの方でクチュクチュという水音が響いている。

テイラ「だったらキサマら一生かけて大陸中の街道の整備をしてこい、それならキサマらの顔を見ずに済むし世の中の為にもなる。」
仕方ないので取り合えず思い付いた事を適当に指示する。

自分達を打ち負かした男からの命令を恍惚の表情で聞き入るオーク達。
段々と息も荒くなってきて水音も激しくなる。

テイラ「さっさと行け、今すぐ整備を始めてこい!」
もう殺意を押さえきれなくなりそうになった亭拉はオーク達を怒鳴り付ける。

下半身丸出しで豚の様な悲鳴を上げて走り去るのを見届けると、亭拉は熱々の紅茶に生姜を磨り入れてからカップに入れて皆に配り始める。

鞄から二人分の寝具を取り出し今日はここで一晩明かすことを伝え、自分も熱々の紅茶に口をつける。

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この日街道の整備を始めたオークの集団は、後にドワーフやゴブリン、結婚した人間の技術者を加え大陸中の街道を整備士始める。

整備された街道は国同士の流通を活性化し、親魔物国家だけで無く中立国家、更には反魔物国家の発展の手助けとなる。

見通しの良い街道では魔物や盗賊の奇襲も減り、人間や魔物の露店が出たりと人間と魔物の関係向上に一役買ったのはまだまだ先の話である。

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13/02/22 20:52更新 / 慈恩堂
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■作者メッセージ
どうも慈恩堂です。
今回の話は魔物娘を殺すかどうかを最後まで悩みましたが亭拉のこれからの旅に関わる重要な部分なのでオークさんには犠牲になってもらいました。
因みにこの話からシルクはショートカットになります。

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