バフォメット
『霊廟焼失
〜国民に悲しみ広がる〜』
検問所の書類に同封された
今朝の新聞の一面にはそう書かれていた。
霊廟とは”建国の父”と呼ばれるこの国の偉大な前指導者を
祀っている建物であり、我が国の権威と誇りの象徴である。
新聞によると何者かが内部から火を放ち、
安置されていた遺体は完全に焼失、
骨の一本も回収できなかったそうだ。
私が犯人への怒りを腹に据えながら新聞を読み進めていると
誰かが検問所のドアをノックした。
「入るぞ」
入ってきたのは軍服の男だった。
質のいい服を身にまとい、見せびらかすように
胸にはいくつかの勲章を付けている。
彼は私の所属する入国管理省の上司だ。
「お疲れ様です」
私はすぐに立ち上がり、敬礼をして挨拶をする。
「まるでウサギ小屋だな」
彼は鼻を鳴らし、嫌味を言う。
「まあ、審査官の君に免じて我慢しよう。
今朝の新聞は読んだか」
「ええ、はい」
「まこと憤りを隠せない事態である」
「その通りでございます」
「入国審査の強化については聞いてるかね」
「はい」
私は新聞に一緒に置かれていた通知を
頭の中で暗唱する。
国内の警備強化そして反政府的活動を取り締まるため、
これからは一般の入国者にも所持品証明書が必要になる。
もし所持品証明書がない、あるいは偽装の場合
入国管理省から配布された魔法道具で審査する必要がある。
「よろしい。そしてもう一つ指令がある」
「指令ですか」
「これを見たまえ」
そういって彼は手配書を取り出した。
年端もいかない少女の似顔絵だった。
「この少女が検問所を訪れたら拘束するように」
「こんな幼い少女をですか」
「そうだ、これは入国管理省よりもさらに上からの
命令である」
そして彼はこう付け加えた。
「なんでも霊廟放火の重要参考人らしい」
その日の仕事は順調だったとは言い難い。
突然入国審査に必要な書類が増えたおかげで
一人一人入国の度に違法な所持品がないか
チェックしなければいけないのだ。
我が国の魔法使いが作ったルーペ型の
魔法道具がなければ一人当たりの
所要時間は倍増していただろう。
「次の方、お入りください」
「うむ」
私が次の入国者を呼ぶと入ってきたのは子供だった。
背中に身に不釣り合いな大きなキャンバスのようなものを
背負った人間の少女だった。
例の手配書の少女だ、
そう確認した私は相手になるべく考えがばれないように
取り繕いながら
「入国許可証はお持ちですか」
「ほれ、これじゃろ」
少女は老人めいた口調で入国許可証を取り出す。
「どのような目的ですか」
「観光じゃ。しばらく滞在するのじゃ」
「所持品証明書はお持ちですか」
「なんじゃいそれ。聞いとらんぞ」
「ええ、今日から必要になりましたので」
私はルーペを手に取り
「所持品証明書をお持ちでないのでしたら
こちらで所持品を確認させていただきます」
「にゃっ!どう見てもただの画材道具じゃろ!」
「しかし偽装という可能性もあります」
「まっまずい!やめるのじゃ!」
ルーペで彼女を見るとまず目に飛び込んだのは大きな角だった。
手足には毛で覆われ、下着未満の露出の激しい恰好だった。
目の前の魔物娘が必死に荷物を隠そうとしていたが
キャンバスのようなものは看板で
「サバトが君を待っている」
と大きく書かれ
一緒に持っていた紙の束は
「サバトに入って人生を変えよう」
「私たちがあなたを満たしてあげる♥」
といった勧誘のポスターだった。
バフォメットはまるでこちらが悪いことをしたような目で
にらみつけてきたが
私は意にも介さずという態度で告げた。
「国内での反体制的プロパガンダは禁止となっております」
そう言うと入国許可証に入国不許可の印を押し、
呼び鈴を鳴らして兵士を呼んだ。
「なっなんじゃ!サバトの勧誘ぐらいで拘束するのか!」
「はっ離すのじゃ!」
彼女は暴れたが兵士に複数人がかりで抑え込まれ連行された。
私は犯罪者が連れていかれるのを見て達成感に満ちていた。
彼女は然るべき判決を言い渡され、罰を受けるだろう。
我が国に栄光あれ。
******************************************************
この国で重要な建物の一つ
その中でも多くの人に知られていない
彼だけに許された部屋でその男は微笑んでいた。
今日、サバトを主宰する魔物娘の一人の
身柄を拘束したと部下から知らせが入った。
その報告を聞き彼の愚息は机の下で勃起した。
霊廟放火の重要参考人など建前だ。
拘束したバフォメットは放火に一切関係ない。
「ようやく会えるねぇ・・・」
男の気味の悪い声が誰もいない部屋に消えていった。
〜国民に悲しみ広がる〜』
検問所の書類に同封された
今朝の新聞の一面にはそう書かれていた。
霊廟とは”建国の父”と呼ばれるこの国の偉大な前指導者を
祀っている建物であり、我が国の権威と誇りの象徴である。
新聞によると何者かが内部から火を放ち、
安置されていた遺体は完全に焼失、
骨の一本も回収できなかったそうだ。
私が犯人への怒りを腹に据えながら新聞を読み進めていると
誰かが検問所のドアをノックした。
「入るぞ」
入ってきたのは軍服の男だった。
質のいい服を身にまとい、見せびらかすように
胸にはいくつかの勲章を付けている。
彼は私の所属する入国管理省の上司だ。
「お疲れ様です」
私はすぐに立ち上がり、敬礼をして挨拶をする。
「まるでウサギ小屋だな」
彼は鼻を鳴らし、嫌味を言う。
「まあ、審査官の君に免じて我慢しよう。
今朝の新聞は読んだか」
「ええ、はい」
「まこと憤りを隠せない事態である」
「その通りでございます」
「入国審査の強化については聞いてるかね」
「はい」
私は新聞に一緒に置かれていた通知を
頭の中で暗唱する。
国内の警備強化そして反政府的活動を取り締まるため、
これからは一般の入国者にも所持品証明書が必要になる。
もし所持品証明書がない、あるいは偽装の場合
入国管理省から配布された魔法道具で審査する必要がある。
「よろしい。そしてもう一つ指令がある」
「指令ですか」
「これを見たまえ」
そういって彼は手配書を取り出した。
年端もいかない少女の似顔絵だった。
「この少女が検問所を訪れたら拘束するように」
「こんな幼い少女をですか」
「そうだ、これは入国管理省よりもさらに上からの
命令である」
そして彼はこう付け加えた。
「なんでも霊廟放火の重要参考人らしい」
その日の仕事は順調だったとは言い難い。
突然入国審査に必要な書類が増えたおかげで
一人一人入国の度に違法な所持品がないか
チェックしなければいけないのだ。
我が国の魔法使いが作ったルーペ型の
魔法道具がなければ一人当たりの
所要時間は倍増していただろう。
「次の方、お入りください」
「うむ」
私が次の入国者を呼ぶと入ってきたのは子供だった。
背中に身に不釣り合いな大きなキャンバスのようなものを
背負った人間の少女だった。
例の手配書の少女だ、
そう確認した私は相手になるべく考えがばれないように
取り繕いながら
「入国許可証はお持ちですか」
「ほれ、これじゃろ」
少女は老人めいた口調で入国許可証を取り出す。
「どのような目的ですか」
「観光じゃ。しばらく滞在するのじゃ」
「所持品証明書はお持ちですか」
「なんじゃいそれ。聞いとらんぞ」
「ええ、今日から必要になりましたので」
私はルーペを手に取り
「所持品証明書をお持ちでないのでしたら
こちらで所持品を確認させていただきます」
「にゃっ!どう見てもただの画材道具じゃろ!」
「しかし偽装という可能性もあります」
「まっまずい!やめるのじゃ!」
ルーペで彼女を見るとまず目に飛び込んだのは大きな角だった。
手足には毛で覆われ、下着未満の露出の激しい恰好だった。
目の前の魔物娘が必死に荷物を隠そうとしていたが
キャンバスのようなものは看板で
「サバトが君を待っている」
と大きく書かれ
一緒に持っていた紙の束は
「サバトに入って人生を変えよう」
「私たちがあなたを満たしてあげる♥」
といった勧誘のポスターだった。
バフォメットはまるでこちらが悪いことをしたような目で
にらみつけてきたが
私は意にも介さずという態度で告げた。
「国内での反体制的プロパガンダは禁止となっております」
そう言うと入国許可証に入国不許可の印を押し、
呼び鈴を鳴らして兵士を呼んだ。
「なっなんじゃ!サバトの勧誘ぐらいで拘束するのか!」
「はっ離すのじゃ!」
彼女は暴れたが兵士に複数人がかりで抑え込まれ連行された。
私は犯罪者が連れていかれるのを見て達成感に満ちていた。
彼女は然るべき判決を言い渡され、罰を受けるだろう。
我が国に栄光あれ。
******************************************************
この国で重要な建物の一つ
その中でも多くの人に知られていない
彼だけに許された部屋でその男は微笑んでいた。
今日、サバトを主宰する魔物娘の一人の
身柄を拘束したと部下から知らせが入った。
その報告を聞き彼の愚息は机の下で勃起した。
霊廟放火の重要参考人など建前だ。
拘束したバフォメットは放火に一切関係ない。
「ようやく会えるねぇ・・・」
男の気味の悪い声が誰もいない部屋に消えていった。
20/01/12 20:41更新 / 二三の理
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