連載小説
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勇者U
 この国の朝は寒い。
朝陽は未だ地平線の向こうで
日の光が雲を紫色に照らす。
薄暗い街路を街灯が照らし、
雪が風で巻き上がり、煙のように立ち込めている。
私は着古したコートのポケットに手を入れ
閑散とした道を行く。
その途中にあるキオスクに寄るのが毎日の日課だ。
店番の親父がいつものように眠そうな目で
新聞を見ていた。

「パンをくれ」
「あいよ」

親父は新聞を読みながら店頭のパンを
カウンターに置く。
私がいつものように銅貨二枚を出す

「三枚だ」
「なんだと?」
「今日から値上げしたんだ」

こちらを一瞥せず親父は値札を指さす。
私は渋々懐から銅貨を一枚取り出す。

「まいどあり」

 キオスクを後にして検問所に行く道すがら、
目につくものがある。
『新しい時代!新しい価値観!』
『異なる種族を受け入れよう!』
そういった標語とともに男女が絡み合う
絵が描かれたポスターだ。
当然政府が発行しているポスターではない。
この国の誰かが、あるいはこの前拘束された
バフォメットのような外部の魔物娘が
持ち込み、貼り出しているのだろう。
嘆かわしいことだ。

「おはよう」
「おはようございます!」
「我が国に栄光あれ」
「我が国に栄光あれ」

検問の守衛と挨拶し、私は検問所に入る。
特にこれといった通知はなく、
いつも通りの入国審査が始まる。

「これより検問を開始します。入国許可証をお持ちの方は前にお進み下さい」

 今日の入国審査は滞りなく進められている。
所持品の証明書が新たに必要になった当初は
多少の混乱もあったが、最近は荷物審査の
ルーペの出番も少ない。
私が個人的に気になったのは入国の目的である。
我々の国への亡命、あるいはこの国を経由する
ための一時入国、そういった目的で
検問所を訪れる入国者が人間、魔物娘問わず増えていることだ。
彼らが言うに元々魔物娘の穏健派が主流だった地域に住んでいたが
最近になって過激派が台頭するようになったので
避難してきたとのことだった。
我が国はこの国の思想に賛同してくれる国民が得られることは
歓迎するべきとし、また魔物娘が移住ならともかく
一時的な通過であれば不問とするという
器量の広さを示し亡命者を受け入れていた。

「次の方、お入りください」

私が次の入国者を呼ぶと入ってきたのは
見知った顔だった。

「やぁ!また会ったな!」
「はぁ・・・」

整った顔で笑うのは前に我が国の兵士に追い返されていた勇者だった。
一応魔界の勇者らしいので相変わらず肌の露出が多いが、
サキュバス特有の妖艶さよりも彼女自身の快活さが勝っているので、
男を誘惑するためというよりも
機能性のために軽鎧をまとっているという印象だ。
今日は服装がボロボロじゃないあたり、いくら野蛮人でも
学習はするのだろう。

「今日は入国許可証を持ってきたぞ!」

彼女は自信満々に開いた胸元の谷間に手を入れ
紙を取り出した。


『に ゅ う こ く ち ょ か し ょ う
 なまえ:るちあ・じょるじぇ・こすたば
 しゅっしん:たんぬ・とぅヴぁ
 あ な た の に ゅ う こ く を み と め ま す
 ↓↓↓ここにスタンプをおしてれ!↓↓↓』


ひどい手書きの落書きを手渡された。
私は口元が緩むのを必死に堪え
なるべく事務的にこの紙に入国不許可の印を押した。

「入国は許可できません」
「なぜだ!」

なぜって・・・。えーっと
私は彼女の落書きを見ながら理由を探した。
タンヌ・・・・・なんだって?

「タンヌ・トゥヴァという国は存在しません」

笑いでにやけるのを我慢して紙を返す。
対する彼女は返ってきた紙と私の顔を
交互に見るとやがて大笑いしながら言った。

「ははははっ!よくぞ私の偽装を見破ったな!」

彼女はこの程度の子供だましにも満たない紙っぺらで
検問を通過できると本気で思っていたらしい。
この女はいままでこんな調子で生きてきたのだろうか。
見た目は上級なのにここまで阿呆だと人間だの魔物娘だの関係なく
心配になってくる。

「よしっ、今度は本物を見せてやるぞ!覚えていろ!」

お決まりのような捨て台詞を吐くと彼女は出て行った。
私が何をしたというのだ。
20/01/19 13:55更新 / 二三の理
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ゆうしゃはいやし。

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