連載小説
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サテュロス
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 我々は酒に飢えている。
杯を呷り享楽に耽る。
その一杯のためならば悪魔と手を結ぶ。
その一杯ためならば神にだって平伏する。

――そう全ては酒を飲むために
――そう全ては上手い酒のために
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 我々の国の国民は酒が好きだ。
寒冷地ゆえに強い酒が好まれ名産品となっている。
特に今は冬の季節であり
文字通り火がつくほどの酒も出回っている。
この酒を飲むために人間、魔物娘関係なく
やってくるので、この頃の検問は甘めである。
観光資源で稼げるならば人魔問わずといったところだ。

 日が傾き検問所が閉まる時間が近づいた頃
蹄の音を響かせ
行商人姿の魔物娘が検問所に入ってきた。
私は検問所を閉めた後に食べるつもりだったパンを
慌てて隠した。

「入国許可証はお持ちですか?」
「ええ、こちらに」

懐から取り出された入国許可証は酒の匂いがした。
彼女はサテュロスだ。

「どのような目的ですか」
「お酒を売りに。1〜2ヶ月ほど滞在するわ」

そう言って彼女は商品リストを手渡した。
「ドラネ・ロンティ」、「レスカティエ・デ・ルージュ」、・・・
魔界でしか出回らないような代物ばかりだ。
以前、我が国では「背徳のワイン」なるものが密輸され
ちょっとした騒動になったことがある。
それ以来魔界からの酒の輸入には厳しい。
私は入国不許可の印を押した。

「我々の国では人間にも安全な酒を提供してください」
「そんなぁ、これ全部美味しいやつばかり選んだのに」

サテュロスの商人は肩を落とす。

「わたしさ、以前観光でこの国を訪れたんだけど」
「それで色んなお酒飲みたいなーって酒場を回ったの」
「そしたら下町の酒場で何飲まされたと思う?」

彼女の愚痴は続く。

「薬品よ!薬品!バフォメットがサバトで使うような!」
「味はひどいし、そもそも飲むために作られたものじゃないし」
「それをこの国の人は美味しそうに飲んでいるのよ!」

語気を強めるのと反比例してトラウマを刺激されたのか
二日酔いのように彼女の顔は青くなる。

「工業用アルコール、虫よけ、靴クリーム、・・・」
「魔物娘への嫌がらせかと思ったんだけど」
「この国の人たちそれを本当に美味しそうのに飲むから」
「きっとみんなバカ舌なんだろうって」

言いたいだけ言うと、じゃこれ隣国で売ってくるね
と言って検問所を出た。
隣国は氷の女王が治めているので
魔界産の酒の販売は問題ないだろう。

 彼女の遭遇したのはきっと庶民向けの
観光用ではまず出回らない酒だ。
我々の国の国民は酒が好きだ。
生産が追い付かないほど消費するので
たびたび他のもので代用する。
もちろん観光客にはそのようなもの
普通は出さないし目につくところには置かない。
全ては彼女の好奇心と運のなさが招いた結果だ。

 私はそう推察すると隠してあったパンを取り出し、
靴クリームをそぎ落とし、
口に運んだ。
20/01/06 01:51更新 / 二三の理
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■作者メッセージ
参考文献:「魔物娘図鑑ワールドガイド外伝T 〜ドラゴニア〜」
     「魔物娘図鑑ワールドガイドIII -サバトグリモワール-」

この国の人間は肝臓が強いので魔界産のお酒を飲んでも特に影響はありません。

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