連載小説
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リリム
「・・・ゆえに我々は魔界の者と手を結び
 更なる共産主義を発展させなければならない。
新しい時代のイデオロギー。
新たなインターナショナル。
そのために今の政権を牛耳るかの書記長率いる
政党を打破し・・・」

集団を率いる代表者のような男が
握りこぶしをふり上げ演説をしている。
彼らのトレードマークなのかそれぞれが赤いスカーフを
体のどこかに巻き付けていた。
私は彼らの前を素通りして職場へ向かう。
最近このようにして検問所の前で演説をする集団が現れて
私としては非常に迷惑だ。
すぐに兵士がやってきて蜘蛛の子を散らすように
退散するがまたやってくる。
ここを通る人の多くが彼らの訴えをスルーしているのに
彼らはどうしてこのようなことをしているのだろうか。
理解に苦しむ。

 太陽が真上を過ぎたころ、私は買い物目的で隣国から
やって来たダークメイジの入国許可証に印を押して彼女を通した。
外ではまだ熱心な反体制派が演説を行っている。

「次の方、お入りください」
「はぁい・・・」

色香の漂うような声で入ってきたのはフード姿の人物だった。
全身は隠れているが、頭のでっぱりと豊満なボディラインは
フードの上からでも確認できる。
隠しきれない白くて長い髪をのぞかせ彼女は言った。

「ここで入国審査を行うのね?」
「はい、そうです。入国許可証はお持ちですか?」
「いいえ、この国に入りたいわけじゃないの」

彼女は私と視点を合わせるようにかがみ、微笑んだ。
彼女のルビーのように赤い瞳と目が合った。

「その許可証はどんな紙なのかな?」

彼女に問われ私は予備として保管してある入国許可証を
彼女に見せる。
どうしてだろうか。彼女の声を聞いていると
彼女の指示に従わなければならない気分になり
人間と魔物娘の間に壁があることが馬鹿らしくなり
彼女たちが我々の味方とさえ思えてくるようだった。

「ふふっ、ありがとう。これはもらってくね」
「・・・はい・・・どうぞ・・・」

普段の私なら決してそのようなことはやらないだろう。
でもそのときは彼女の言葉こそが絶対であるような考えに支配されていた。
彼女は真っ新な入国許可証を懐にしまうと入ってきたドアへ向かった。
そして彼女は検問を立ち去ろうとしたとき一つ付け加えて言った。

「あっそうそう、次にファミリアの子が入ってくるけど通してあげてね♥」
「・・・はい・・・」

私はぼーっとした頭で曖昧な返事しかできなかった。

 次に入ってきた入国者のことははっきりと覚えていない。
誰かに通すように念を押された気がするので審査もそこそこに
入国許可の印を押した。
私の頭の霧が晴れたのはその直後のことであった。
検問所の前で爆発音がして目が覚めたのだ。

『この鬼畜共め!わたしのマスターを返せっ!』

そんな叫び声が聞こえてきたので外に出てみると
まず目に入ったのは散乱した瓦礫と黒い油のような
塊があたりに広がっていたことだ。
誰かがここで何かを爆発させたらしい。
兵士たちは既に主犯捕まえ取り囲んでいたので犯人が
どのような姿なのか確認はできなかった。
検問所の前で演説していた集団が不幸にも標的になったのか
呻き声を上げ多くの人が倒れている。
こうなってしまった以上今日の検問所は閉鎖しなければいけない。
私は被害者の救助へ向かった。

『            報告書
  本日、検問所前にてテロリストによる爆破テロが発生。
犯人の身柄は拘束済み。犯人はダークマターの魔力を利用した爆弾を使用。
負傷者12名、死者はなし。兵士、党員の負傷者は確認されず。
ただし、負傷者の多くが魔物化の兆候が見られたので隔離、経過観察。
現場の除染は翌日までかかる模様。
明日以降の入国審査は除染が終わり次第開始。
                     ――我が国に栄光あれ』
20/01/26 22:35更新 / 二三の理
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■作者メッセージ
サブタイトルつけるときにリリムとファミリアとで迷いました

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