前夜
残り一日。
朝目覚めて真っ先に頭がそれを考えた。多くの人にとっては、祭日でもなんでもないはずの明日。だが、ルークは明日という日がこの国にとって忘れられない日になると思っている。なにせ、ミラがいなくなるのだ。それがどれほどの影響を及ぼすのかは想像もつかないが、騒ぎになるのは間違いないだろう。その時に自分が騎士として騒ぎの収拾に当たっているのか、または当のミラと一緒に船の上かはわからない。そんな妄想に近いような出来事が、明日には起こるのだ。そう思うと、なぜか笑えてしまった。
「ほんと、この状況はなんなんだろうな……」
ぼやきながら制服に着替え、いつもの如く朝礼に向かう。しかし、その途中でおかしなことを言われた。廊下でカリムと出会ったのだが、ルークを見るなり胡散臭そう目を向けつつ、
「なんだルーク、お前は今日は休みだろ? それなのに制服着てるなんて寝惚けてんのか?」
そう言ってきたのだ。
「あ? お前、なに言ってんだ。俺、休みを出した覚えはないぞ」
「そんなこと言っても、今日と明日の出勤にお前は入ってなかったぞ。どうせミーネちゃんとデートの約束でもしてあるんだろ? 昨日はこの町に泊まったみたいだしよ。ちっ、朝から気分が悪くなるなまったくよぉ」
朝からいらん誤解で絡んでくるカリムは鬱陶しいことこの上なかったが、言われた内容は覚えがない。しかし、同じことは以前にもあった。
心当たりがあったルークはカリムとの会話を切り上げて即座に向かう先を隊長室へと変更する。静かな廊下を足早に歩き、見慣れた扉をノックすると「入れ」の声を待って、今日の仕事を強制的に休みにした人物の部屋に滑り込んだ。
「朝から真面目な顔をしてどうかしたのか?」
書いていた書類から顔を上げてルークを見たミラは小さく笑ってそんなことを言った。
「今日も尊いお勤めだと思っていざ朝礼に出ようとしたら、休みだと言われたんでな。どういうことなのか、説明を聞きに来たんだよ」
「明日が期限だからな。今日は一日よく考えてほしいと思って休みにした。明日が休みな理由は言わなくてもわかるだろう」
ミラの目がこれでいいかと見つめてくる。その視線から逃げるように顔を逸らし、ルークは頭をかいた。
「まあ、そんなことだろうとは思ってたけどな。しかし、今日はどこかに行こうとは言わないのか?」
以前は馬車で劇の鑑賞と食事に出かけた。あれは、今思えば立派なデートだったわけだ。
「できればそうしたいところだが、生憎と今日までは騎士団のミラとして振る舞う必要があるからな。よって今日はお前とのんびり過ごすことはできそうにない」
そこまで言って一呼吸置き、ミラはこう続けた。
「だからお前は今日一日好きにするといい。明日に備えてな」
そう言って小さく笑うと、ミラは再び書類の作業に戻った。
「隊長は俺の気を引こうとは思わないのか?」
久しぶりの軽口が自然と口から出た。それも、かなりらしくないものが。
それを聞いたミラは少し驚いた顔をしていたが、すぐに真面目な表情になると椅子から立ち上がってルークの傍まで来た。ほんの少し前だったなら、この後ミラにされることといえば、恐怖の鉄拳しかなかった。だが、今はどうなのだろう。
以前とは違った緊張を身体に走らせていると、ミラの手がすっと伸びてきて、ルークの服を掴む。そのまま引っ張られたと思ったら、次の瞬間には頬に温かくて柔らかいものが押し当てられていた。
「っ……!」
あまりにも予想外すぎて声にならない。しかし、ルークが醜態を晒すより先にミラの顔がぱっと離れていき、ひとまずは助かったようだった。
「今日はこれだけだ」
そう言ったミラの頬はほんのりと赤くなっている。それを見られたくなかったのか、ミラはすぐに身を翻してしまった。
「さあ、話が済んだのならもう行け。私もこれから朝礼に行かなくてはならないからな」
あまりにも大胆な行動に出られ、呆気に取られていたルークはそこでようやく固まっていた身体をぎこちなく動かし、頬に触れる。僅かにしっとりしているそこは他よりも少し温度が高くなっているように感じる。
「……ここまでされてまだ悩んでるような俺なのに、隊長は愛想を尽かしたりはしないのか?」
肩越しにミラが振り向いた。その表情には少しだけ呆れたような笑みが浮かんでいる。
「嬉しいからな」
ぽつりと言うと、ミラは自分の席に戻っていき、ルークが部屋に来た時のように椅子に座った。そのまま机に身を乗り出すと、少しだけ期待するような目で見つめてくる。
「悩んでいるということは、私にも可能性はあるのだろう? 真剣に考えてくれているのは素直に嬉しい。だからな」
ミラの口元が寂しげに笑った。
「明日、お前が来るのを待っているぞ」
「……」
どう返事をしていいかわからず仏頂面になるルークへ、ミラは手で出ていけと指示をする。
「よく考えるとだけ言っておく」
そう言い残すと、ルークは逃げるようにミラの部屋を後にしたのだった。
ミラの計らいで急遽休みになり、私服に着替えたルークはなんとなくゆっくりと騎士団本部を歩いていた。同僚達は朝礼のために各自の集合場所にいるらしく、辺りは静かだ。もはや見飽きたと言っていいこの場所も、明日の選択によっては二度と訪れることはなくなるのだと思うと、変な感慨が湧いてくる。
妙な気分のまま、のんびりと正門の方へ歩いていくと、そこにはいつかと同じような光景があった。誰もいない正門の傍にぽつりと佇んでいるそいつは騎士団の本部へ窺うような目を向けていた。その目がルークを捉えたからか、表情が少し綻び、いかにも来てほしそうな雰囲気へと変わる。
「犬かあいつは」
人化の術とやらを使っているので尻尾はないが、もしあったら間違いなく揺れていたことだろう。
本当にわかりやすいヤツだと思いながら、ルークは傍まで歩いていく。
「どうした? なにか用か」
「あ、えと、ルーク、今日はお休みなんだよね……?」
「まあな。で、ここにいるってことは、俺に用か?」
つい先程ルークも知ったばかりの事実をミーネが知っていても、今更驚きはしない。どうせ同僚の誰かが教えたに違いないのだ。もしかしたら、昨日のうちにミラが話したのかもしれない。
そんなことを考えながらミーネに目を向けると、案の定こくりと頷かれた。
「その、買い物に行かない? 久しぶりに一緒に歩きたいなって思っちゃったりして……」
語尾がほとんど小声だったが、それでもルークの耳には聞こえた。なんとなくその顔に目を向けると、少し窺うようなミーネの目とばっちり合う。
「……まあ、いいか」
「ほ、ほんとっ……?」
「いいぞ。ただし、行く店は決めておけよ。全部回るはなしだからな」
いつだったかのふざけた返答を思い出して釘を刺すルークだったが、ミーネは慌てたように首を振った。
「だ、大丈夫だよ。今日は食材を買うだけだからっ」
「やっぱり冬眠すんのか?」
「しないってばっ!」
ルークの軽口にミーネがむくれる。久しぶりのこの他愛のないやり取りが、やけに心地よく感じられた。
「そうかよ。じゃあ、行くか」
「うん」
たったそれだけなのに、ミーネは嬉しそうに笑う。人化の術を使っているので尻尾はないが、あったら間違いなく揺れていただろうなと思いながら、ルークはミーネと並んで歩き出した。
ミーネとの買い物は驚くくらいに何事もなく終わった。その後は適当に町をぶらつき、ふらりと入ったことのなかった料理店に入り、そこにあったキノコの蒸し焼きとステーキなるメニューに少しはしゃいだくらいだ。そして現在、ミーネを家まで送っている。以前のように抱きつかれたら背中に全神経が集中しそうだったが、幸いなことに今日は買った荷物がルークとミーネの間にあるので、ルークの理性がかき乱されるような事態にはなっていない。だが、ミーネがなにも話してこないのが少し不思議だった。
気まずくはないが、かといって気楽ともいえない微妙な空気のなか、通い慣れたミーネの家に到着した。森の奥の一軒家は今日もひっそりと佇んでいる。ここに通っているうちにすっかり見慣れてしまったが、それもルークの選択によっては二度と見ることのない光景なのだと思うと、こちらも不思議と感慨深いものがある。恐らく、後ろにいるミーネに会うこともなくなるからだろう。
「ほれ、到着だ」
「うん。ありがとうルーク。それでね」
馬からおりたミーネが少しだけ上目遣いになりがなら、じっと見つめてくる。
「今日は、まだ一緒にいてくれる?」
その問いにどう答えるか、少し迷った。返事の期限はいよいよ明日に迫っている。それなのに、ルークはまだ決断できていない。だから、今のルークにとって時間はなによりも貴重なのだが、自然と口が返事をしていた。
「まあ、いいぞ」
ミーネの狐の耳がぴくりと動いた。
「ほ、ほんとっ? じゃあ、すぐに準備してくるから、ちょっと待っててっ」
そう言い残すと、ミーネは家に引っ込んでしまった。
「準備してくるって、まだどこか行く気なのか……?」
町で買い物はしてきたはずだが、それでは物足りなかったのだろうか。ルークが首を捻っていると、ミーネはすぐに戻ってきた。その手にには片手サイズの籠が握られている。
「お待たせ。それじゃ、行こっか」
「いや待て。行くってどこにだ?」
「もちろんキノコを採りにだよ♪ 今日の料理で使うから」
さも当然のように言われた内容は、まさかのキノコ採取と今日の料理はキノコですという宣言だった。明日のことなど少しも考えていなさそうなマイペースぶりに、どうしたってため息が出てしまう。
「はあ……」
「どうしたのルーク? 早く行こっ」
「そうだな……。さっさと行かないと夕飯遅くなるもんな……」
「うん♪」
仕方なしに尻尾を揺らしてご機嫌なミーネについて行く。こうなったらキノコが見つからないことを祈るばかりである。
しかし、キノコが関わるとなぜか本来以上の力を発揮するのがミーネだった。恐ろしいことに、どこにどんなキノコがあるのか完全に把握してるらしく、森の中をすたすたと歩いては次々にキノコを見つけ、籠に放り込んでいく。どう見ても計算されたルートを辿っているようにしか思えない手際の良さに、ついに我慢できなくなって聞いていた。
「なあ、お前、キノコのある場所わかってるのか?」
「うん。今日のためにあえて採らなかったやつもあるの♪ ほら見て見て♪ 肉厚で美味しそうでしょ?」
嬉しそうにシイタケを見せられても、ルークとしては反応に困る。
「あー、そうだな。それが今夜の食卓にのるんだな……」
ややげんなりしてしまうが、場合によってはミーネの手料理もこれで最後なのだと思うと、妙に落ち着かない気分になる。
「うん。その……明日になったら、ルークいなくなっちゃうかもしれないんだよね? だったら、最後くらいは美味しいもの食べてほしいなって……」
それまではしゃいでいたのが嘘のようにしゅんとし、ミーネはぽつりとそう言った。狐の耳はぺたりと伏せ、尻尾は力なく垂れている。
わかりやすいくらいに感情を身体に出され、ルークは苦い顔になってそっぽを向いた。いつものように振る舞ってはいるが、ミーネも明日が特別な日であることはしっかりと理解していた。だからこそ今夜は得意なキノコ料理なのだろう。
「まぁ、あれだ。メシは期待してる」
ミーネの心情を察し、どう答えるか悩んだ末に口から出たのは素直ではない言葉だった。それでもミーネは少し溜飲が下がったのか、その口元に笑みが浮かんだ。
「うん、任せて。今日はいつも以上に頑張って作るからね」
曖昧な笑みを浮かべていたが、声だけは元の調子でミーネはそう答えた。
宣言通り、ミーネの作ったキノコ料理は今までの中でも特に気合いが入っていた。量はいつものことだが、質も今回はルークも認めざるを得ないほどの出来だったといっていい。食卓に並んだキノコ料理の群れは、見かけはともかく味は文句のつけようがなかった。ミーネも変わらずルークの隣りに座り、それぞれの料理を解説しながらルークの分を取り分けていく。それをどこか不思議な感覚で眺めながら、ルークはミーネの好きなようにさせておいた。
「ルーク、美味しい?」
「ああ、そうだな。今回はよく出来てるな」
キノコたっぷりのソースがかかったハンバーグを口に運びながら、ミーネの会話に付き合う。どういうわけか、ミーネはやけに饒舌で、はじめて一緒に行った買い物は楽しかっただの、新しい料理を練習中だの、キノコの話だのと、話題が尽きることはなかった。
食事が終わり、ソファに身を預けたルークはぼんやりと食事中の会話を思い出す。今考えれば、あれはもう二度と会話をする可能性がなくなることを想定した上でのものだったのかもしれない。
「もう会えない、か……」
残された時間はいよいよ僅かだ。選択によってはミーネと会うこともなくなる。このなんとも不思議な日々にすっかり慣れてしまったせいか、明日も明後日も何も変わらないと錯覚してしまう。もしかしたら、明日には二人との関係が変わってしまうという事実を否定したいのかもしれない。
ミーネも同じなのか、普段なら夕食を食べたらお別れであるところを、今日は風呂から上がるまで居てくれと言われている。いつもと変わらぬ日常のようで少しだけ、しかし確実に違う部分が出てきている。
「これも俺のせいなのかね……」
そこに答えが書いてあるわけでもないのに、無意味に天井を見つめる。だが、頭は働かず、時間だけが流れていく。
「ルーク」
ぼんやりとしていた状態から我に返ったルークが顔を向けると、廊下に通じる扉から顔だけを出したミーネと目が合った。
「なんだ」
「えっと、その、今日は暑い……よねっ」
湯あたりでも起こしたのか、ミーネは唐突にわけのわからないことを言い出した。仮にその内容を真面目に考えてみても、風呂上がりで本人が一時的に暑いだけで、ルークは少しも暑いと感じていない。
「……」
唐突に意味不明なことを言い出し始める娘を憎からず思っている自分の感性は、色々とまずいかもしれない。
ルークが無言で深いため息をついたからか、ミーネは慌てたように言葉を続けた。
「そ、それでっ、着替えてくるから、もうちょっとだけ待っててっ」
文脈というものをまるで無視し、ミーネはルークの返事も待たずに逃げるように引っ込んでいった。
「あいつはなにがしたいんだ……」
ため息をつきつつも、そういえばミーネとの日常はこんな感じだったことを思い出す。はじめはただ気疲れするだけのやり取りだったはずが、今は不思議と悪くない気分になるのだから、世の中わけがわからないことだらけだ。
ルークはソファに座り直すと、眠るように目を閉じた。明日には変わらない日常か、国を出るかを選ばなければならない。もっと単純に、自分が傍にいたいのはどちらなのかを決められればいいのだが、困ったことにこちらはより難しい。ミラもミーネもそれぞれ違った良さがあり、それをルークがどちらも好ましく思ってしまっているからだ。
頭の中でぐるぐると廻る考えに疲れて目を開くと、時計の針が十一時になろうとしていた。思っていたよりも時間が経過している。それはいいのだが、ミーネが戻ってこないことが気がかりだ。さすがに遅すぎる。
「何してんだあいつは……」
今夜は夜通しでどうするか考えるはずだったのに、すっかり予定が狂ってしまった。
ルークは頭をかきながら立ち上がると、リビングを出てミーネの部屋に向かった。廊下までは暖炉の熱も届きにくいのか、少し寒い。
寒さも手伝って足早にミーネの部屋に辿り着くと、軽くノックする。
「おいミーネ。まだかかるのか? そろそろ帰る時間なんだが」
「あ、えと、その、部屋に入ってきて……」
ぎこちない声が扉の向こうから聞こえてきて、ルークは多少訝しみながらも扉を開けて部屋に入った。
「おい、知っての通り明日のことを考えたい―」
からそろそろ帰る。そう言おうとしたところでルークはぴたりと止まった。
ベッドだのテーブルだのといった生活に必要な家具が一通り揃っている部屋の真ん中にミーネは立っていた。ルークが言葉を失ったのは、その姿がいつかも見た風呂上がりのバスタオルを身体に巻いただけの姿だったからだ。淡いピンクのバスタオルによって局所こそ隠されているものの、二つの膨らみやすらりとした足にどうしても目が行ってしまう。
「お前、まだそんな格好して……」
指摘されたミーネはぴくりと耳を反応させ、顔が少し俯く。そしてそのままおっかなびっくりといった感じでルークへと近づいてくる。そうしてルークの前に立ったミーネがぽつりと呟くように言った。
「その……明日には、もしかしたらルークとお別れかもしれないんだよね……?」
「まあ、そうなるかもしれねぇな……」
目の前に立たれたことでミーネの身体に意識が向きそうになるのを必死に抑えながら、ルークは平静を装ってなんとかそう答える。そんなルークにミーネはそっと手を伸ばし、服の端を遠慮がちにつまんだ。
「あのね……心の準備できたから、その……」
ミーネはそこで言うべきか悩むように一旦言葉を止めたが、顔は俯けたまま、ぽつりと言った。
「今夜は帰らないでほしい……」
服をつまむ手にきゅっと力が込められた。それに合わせて心臓までぎゅっと掴まれた気がした。
いかに鈍いルークであっても、ミーネの言葉の意味くらいは理解できる。だからこそ、頭が真っ白になっていく。ミーネの要望に応じるなら、することは一つしかない。だからこそ、無意識に目がミーネの身体に向いてしまう。
すらりとした手足に、バスタオルを押し上げる二つの膨らみ。こうして見れば、顔だけでなく、その身体も充分に恵まれていると認めざるを得ない。そんな女体の誘惑に、ルークの理性は激しくぐらつく。だが、このまま欲望に任せてミーネを抱いてしまいたいと思う一方で、相手は魔物だと戒める自分がいる。しかし、それはほんの一瞬しかルークを思い留めることはなかった。
狐の耳と尻尾は本人の感情を正確に表し、耳はへこたれ、尻尾は先端を両足の間に挟み込まれるようにして丸まっている。それに愛嬌こそ感じても、嫌悪の感情は少しも湧いてこない。
ルークが内心での葛藤に硬直していると、ミーネはちらりとベッドを見やり、その顔を赤くする。そして一歩、ベッドの方へと後ずさった。服を引っ張られる形でルークも一歩前に出る。
断るならここしかなかった。だがルークはそうせず、ミーネの肩を掴むとベッドの方へそっと押した。その行動でミーネもルークの意思を理解したらしく、一歩一歩後退していく。すぐにベッドへと辿り着くと、ルークはミーネの華奢な身体を押し倒した。
仰向けに倒れたミーネが顔を赤くしながら潤んだ瞳で見つめてくる。それに釣られるように、ルークもベッドに上がってミーネに覆い被さっていく。
至近距離から見つめるミーネのあどけない顔には、恥ずかしさと隠しきれない期待の色とが混在している。
そっとバスタオルに手をかけると、ミーネの身体がぴくりと反応する。
「とるぞ」
ミーネの返事を待たずに、身体に巻いてあったバスタオルをそっと脱がす。
「ぁぅっ……」
毛の一切ない綺麗な秘部やぷるんとした形のいい胸が露わにされ、ミーネは恥ずかしさからか、顔を逸らした。
ルークは思わず息を飲む。それくらい、目の前のミーネの裸は魅力的で、性欲にこれでもかと燃料を投下してくる。
ミーネは大人じゃない。まして、人ですらない。だが、それでも女だった。認めたくないが、ルークはそんな女の部分に異常なほど欲情させられていると熱くなっていく頭の奥で実感していた。股間が急速に膨れ上がっていき、ズボンが途端に邪魔になる。
それに気づいたのか、ミーネが小声で懇願するように言った。
「ルークも、脱いでよ……。わたしだけは、は、恥ずかしいよ……」
ルークは無言で上着に手をかけると、すぐに脱ぎ捨てた。次いで、ズボンを脱ごうとするが、ベルトを外したところで手がぴたりと止まる。
「ルーク……?」
半端なところでルークの動きが止まったからか、ミーネの顔に怪訝そうな色が浮かぶ。
「脱がしてくれ」
「!」
ミーネの前で膝立ちになってそう言うと、狐の耳がぴんと立った。ミーネはいきなりの要求に戸惑いを隠せないようだったが、身体を起こすとおずおずと手を伸ばし、ルークのズボンを脱がしていく。たったそれだけのことなのに、この手のことに一切経験がないであろうミーネがそうしているというだけで、ルークの興奮は際限なしに膨れ上がっていく。そしてミーネがゆっくりとズボンを下ろすと、膨張していたペニスがすぐに飛び出した。
「ぁ……」
急に視界に現れたそれを目にして、ミーネの手が止まる。いちいち初々しい反応をしてくれるミーネに少なくない嗜虐欲を覚えながら、ルークは自分でズボンを脱ぎ捨てた。
「これでいいか?」
ルークの言葉にミーネの耳がぺたりと伏せる。顔を真っ赤にしながら、ミーネは静かに頷く。
それを確認したルークは再びミーネをベッドへと押し倒す。肩から手を滑らせ、目を奪って離さない双丘へとそっと触れる。
「んっ……」
しっかりとした弾力のあるそれに触れた瞬間、ミーネから小さな嬌声が漏れる。
「あ……その、嫌か……?」
以前、冗談で手を伸ばしたら思いっきり拒否されたことを思い出し、そう言ってみる。ルークとしては是非ともこのまま触っていたい感触だが、ミーネが嫌ならすぐにでも止めるつもりだった。
「嫌じゃないけど……その、あまり大きくないんだから、そんなに弄らないで……」
一体なにを基準にミーネがそう言うのかわからないが、ルークから見てミーネの胸は充分だと言っていいくらいに膨らんでいる。だから遠慮なく揉んでみた。
「そんなことねーよ」
こねるようにぷにぷにとした双丘を揉んでやると、ミーネは堪え切れずに悲鳴のような嬌声を漏らす。
「ひぅっ、や……うっ……ん〜〜〜っ……!」
揉む度に感じてしまうらしく、ミーネが逃げるように身悶えする。嗜虐欲と性欲とを同時に刺激され、ルークは俄然やる気になってミーネの胸を揉みしだく。股間のモノがより充血していく。
「あ……んっ、う……やぁ……ん……。そ、そんなに胸ばかり、んぅっ、弄らないでよぅ……」
頬を赤くし、潤んだ瞳で懇願するように見つめてくるミーネ。それがどれだけルークの嗜虐欲を煽っているのか、まるで理解できていない。このまま胸をいじめてやってもよかったが、お望み通りに右手を別の個所に伸ばす。
「じゃあ、こっちがいいのか?」
右手を股間に滑らせる。そこにある毛一つない割れ目を撫でようとしたところで、その先にあるものが目に入った。ほとんど直感的に、太ももの先にある尻尾に触れる。その途端、ミーネの身体が盛大にびくついた。
「し、尻尾はだめぇっ……!」
そこが弱点ですと教えてくれるミーネ。言葉も、身体の反応も、いじめてほしいと言っているようにしか見えない。
「じゃあ、どっちがいいんだ? 胸か? それとも尻尾か? 言ってみろよ」
左手で胸を、右手で尻尾を弄ってやると、ミーネの身体がびくんびくんと面白いくらいに反応する。
「やぁ……んぅっ、そ、そんなのずるいよぅ……。んっ……!」
口は嫌がっているようでも身体は正直に感じているらしく、綺麗な割れ目からとろりとした液体がこぼれてきている。ルークは尻尾から手を離し、ふっくらとした恥丘をそっと撫でた。
「お前、見かけによらずエロかったんだな。こんなに溢れてきてるぞ」
「ち、ちがっ……! それは、ルークがあちこち触ったからで、わたし、エッチなんかじゃないもん……!」
感じていたとは認めたくないのか、ミーネは涙目でそんなことをのたまう。
「そうか。じゃあ、試してやるよ」
そう言ってミーネの両胸をぎゅっと揉む。
「ひんっ……!」
「ん? どうした? 気持ち良かったのか?」
「うぅっ……今のは違うもん……。んっ!」
どうもミーネは敏感らしく、優しく揉んでいるだけなのに「やぁっ……んっ〜〜……!」と嬌声を上げながら全身を震わせる。そんな様子になんとも言えない満足感を覚えながら、ルークは柔らかな二つの膨らみの感触を楽しむ。
そうしていると、ついにミーネが降参するようにルークの手を掴んできた。
「どうかしたか?」
意地悪く聞いてやると、ミーネは潤んだ瞳で見つめてきた。
「その……ねっ……。そろそろ、我慢できなくなってきたから……その、うぅっ〜〜!」
恥ずかしいのか、して欲しいことをはっきりと口にしないミーネ。
ミーネが何を言いたいのかは、ルークにもわかっている。なにせ、ミーネの身体は正直なのだ。ひくひくとねだるように動いている箇所を見れば、どうして欲しいのかは鈍いルークにだってわかる。だからこそ、ルークは敢えてそれを無視し、ミーネの胸を弄る作業を続行した。もちもちともふわふわとも言える胸は病みつきになる触り心地で、堪え切れずに声を漏らすミーネの姿と合わせて、ずっとそうしていたくなるのだ。
「うぅ……いじわるっ、いじわるぅ……!」
ルークに変わらず胸を弄られ、ミーネは胸から感じてしまう快楽を堪えようとぎゅっと目を瞑るが、それで快感を軽減できるはずもなく、どうしたって声が漏れてしまう。
一方、ルークもそろそろ自分の限界を悟っていた。勃起したペニスが軽い痛みを訴えてきている。自分でも驚くくらいに反り立ったソレは、実は魔力のコントロールが上手くできないミーネの影響を多分に受けているのだが、ルークはそんなこと知るよしもない。
晴らしてしまいたい欲求を満たすべく、先端を割れ目へと押し当てる。
「入れるぞ」
狐の耳がピンと立ち、次いでミーネは顔を赤くしながら小さく頷く。それを確認すると、ルークは腰を押し進めた。亀頭から順に、温かいミーネの中へと入っていく。
「ひぐぅっ……! あぅぅ……ルークが、入って、くるよぉ……!」
破瓜の痛みに一瞬顔をしかめたミーネだったが、ルークが挿入を終えると脱力するように息を吐いた。
「その……痛いか?」
ペニス全体がきつい締め付けの中に埋没しているのを実感しながらミーネの様子を確認すると、ミーネは小さく首を振った。
「最初はずきってしたけど……今はだいじょぶ、かも……」
意外と余裕そうな言葉にホッと胸を撫で下ろす。むしろ、ルークの方がまずいかもしれない。
異物を拒んでいるのか、それとも歓迎してくれているのか、ミーネの中はきつく締め付けてきている。ほとんど押し潰すかのような締め付けは絶え間なく快感を与えてきて、気を抜くとすぐに果ててしまいそうだった。
「動くぞ」
さっきまで胸を揉まれて堪らずに声を漏らしていたミーネに挿入しただけでいってしまうのはあまりにも癪だ。だからルークは素早く行動に移した。ミーネは感じやすい体質のようなので、先にミーネをいかせてしまえばいい。
「あっ、ま、待ってっ」
「なんだ」
いざというところでお預けを喰らったルークが眉を寄せるなか、ミーネは恥ずかしそうに呟いた。
「その……はじめてだから、優しくしてね……?」
完全に火に油を注ぐ発言だった。
「無理だな」
言ったと同時にぐっと腰を突き出し、狭い膣内へと深く潜り込ませる。
「っ〜〜〜〜!? やぁっ、きてる……入ってくるよぉ……!」
ミーネの身体がびくんと震え、それに合わせて膣内がギュッと締まり、ただでさえきつい中が更に狭まる。
「まだだぞっ……!」
余裕などまったくないくらいに窮屈な膣内に抽送を開始すると、動く度にペニス全体が擦られ、全方位から万遍なく刺激される。押し込めばより奥へと引き込むように締まり、引けば逃がさないとばかりにぎゅっと収縮するミーネの中は男が感じる方法を熟知しているかのように蠢き、一回のピストン運動だけでルークの忍耐力をごっそりと削っていく。
「んっ、ひぅっ、そんなに、んぅっ、激しくしないでよぉ……♥」
抽送する度にミーネの甲高い悲鳴のような嬌声がいちいち興奮を煽り、このエロ狐と内心でぼやきつつも、もっと喘がせたいという獣のような欲求が際限なく湧いてくる。
ほとんど本能のような欲求に従い、ルークはひたすらペニスを抽送する。きつい中を押し広げるように動かし、最奥の子宮口を何度も叩く。
「お、奥にずんずんきてるよぉっ、そっ、そこはだめ、おかしくなっちゃうからぁっー♥」
今日一番といってもいい反応を見せ、ミーネの身体が痙攣し始める。それに合わせるようにペニスを包む柔壁が波打ち、根元から射精を促すような快感を刷り込んでくる。
「このエロ狐……! 中の動きがやらしすぎんぞっ……!」
「そ、そんなこと言われても、あぅっ、わたしわからないよぉっ……!」
蕩けた顔でよがるミーネは、もうエロ狐という言葉を否定する余裕もないようだった。
余裕がないのはルークも同じで、より活発に蠢く柔壁によってペニスの芯を駆け巡る射精欲求を堪え切れなくなってきている。このまま中に出してしまいたいところだが、欲求のままにそんな勝手なことをしてはいけない気がした。
ミーネがこれでもかと乱れる姿を見れたことで溜飲も下がったルークは、そろそろ潮時だと判断し、最後の一突きを放って終わりにしようと腰を動かす。そしてそれが失敗だった。
「んくっ、あああっ! ぐりぐりきて、お、奥はだめー!」
子宮口を突いた瞬間ミーネの身体が一際大きくのけぞり、膣全体が一瞬にしてぎゅっと収縮した。ただでさえきつかったミーネの膣穴に押し潰さんばかりに締め上げられ、ペニスが最奥で固定される。ここで射精しろと促すかのような動きに、ルークは取り戻した僅かばかりの余裕をあっという間に失う。
「この馬鹿っ、そんな締め上げたら……!」
尿道を駆け上がり、先端から飛び出しそうになるのを歯を食いしばって堪える。だが、そんなルークの努力を嘲笑うかのように子宮口がひくつき、密着する亀頭へ吸いついた。
「っぉ……! 無、理……!」
最も敏感な先端を刺激され、ついに限界を超えたペニスがルークの意思を無視して射精を始めてしまう。
「ひゃぁぁっ、あっ、んぁぁぁっ! きてるっ、熱いの、ドクドク出てるよぉっ〜!」
一度始まってしまった射精は止まらず、断続的に締め上げてくる膣壁に絞られるように、盛大に白濁を吐き出していく。
「うぉぉっ……! 止まらねっ……!」
「んぅぅぅっ〜! お腹の奥にいっぱい注がれてっ、蕩けちゃうよぉ……!」
ペニス全体を扱かれ、先端を吸われる。ミーネ本人はよがっていても膣はしっかりと搾精のために蠢き、ペニスから根こそぎ精を絞り上げていく。
身体がおかしくなったんじゃないかと思うくらいに射精は長々と続いた。最後の一滴まで注ぎ尽くし、打ち止めだとばかりになにも出なくなったところでようやく締め付けが緩む。
長い射精を終えたルークが脱力してぐったりするなか、ミーネも乱れた呼吸を整えるように胸を上下させる。「あれ……美味しい……?」という小さな呟きが聞こえた気がした。
「その、悪かった……」
興奮の熱が引いたルークは色々とやりすぎたと反省し、そっぽを向きつつぽつりと言う。ミーネの耳がひくひくと動き、頬の辺りに視線を感じる。
「えっと、それはいいんだけど……。あの……ルーク」
「……なんだ」
待っていても続きが来ないので、仕方なく顔を見ると、ミーネは頬を赤くしながらこちらを見ていた。
「えと……その、もう一回してほしいなって……思っちゃったり、してね……」
予想すらしなかった言葉に、ルークは目を見開いてまじまじとミーネを見つめる。至近距離で見るミーネの顔はやはり愛らしく整っている。その小奇麗な顔がどんどん赤くなっていく。
「……もう一回?」
冗談だろうと聞き返すと、ミーネは顔を真っ赤にしながらこくりと頷いた。
「その……すごく美味しかったから……だから、その、もっと欲しいなって……」
「美味しかった?」
「あ、その、変なこと言ってるのはわかってるよ……? でも、本当に美味しいって思ったから。後は、その……気持ち良かったし……」
このまま放置していたらボンッと音を立てて爆発するんじゃないかと思うくらいにミーネの顔が赤くなっている。それくらい恥ずかしいと思っているくせに二回戦をご所望してくるあたり、味をしめたらしい。本当にエロ狐だなとルークは確信する。
「そうだな。生娘みたいな性格だと思ってたが、意外とエロいみたいだしな」
「う……。さっきのは気持ち良かったからで、わたしはエッチなんかじゃないもん……」
細い腰に手を回すとミーネはぴくりと反応しつつも、口からは否定の言葉が出てくる。本当にいちいち人の嗜虐欲を煽ってくる狐だ。
「そうか。じゃあ、また鳴かせてやる」
そう前置きして、未だに挿入したまま大きさを保っているペニスをぐっと押し込む。
ベッドの軋む音と同時に、ミーネの嬌声が部屋に響いた。
静かな朝だった。窓を打つ雨の音は聞こえないので、天気が崩れているわけではないらしい。
覚醒した頭でそんなことを考えながら、ルークはそっと目を開く。
すぐ視界に入ったのは、あどけない顔で眠るミーネ。それだけで、意識を失う直前まで抱き合っていたことを思い出す。体力が尽きるまで行為に及んでいたはずだが、ほとんどいつもと変わらない起床時間に起きられたのは長い騎士経験のおかげかもしれない。一人用のベッドのため、お互いに向かい合って寝てるせいで時計の確認はできないが、体感ではまだ朝礼にも間に合う時間のはずだ。
ルークは小さなため息をつくと、目の前のミーネの顔をまじまじと見つめた。すやすやと眠るその寝顔は、悪夢なんて絶対に見ないとでも言っているかのようだ。天然で、どこか抜けてて、ドジで、変なところで意地っ張り。それでも、愛おしいと思う。あの占い師が言っていたように、ルークは確かに二人の女性を同時に好きになっていたらしい。
感情に流されるままにミーネの頬を撫でようとして、ルークは手を止める。今日はルーク達にとって運命の日。だから決断しなくてはならない。
ベッドの中、ミーネの温もりは捨てがたかったが、ルークはミーネを起こさないように注意しながらそっと抜け出す。
落ちていた服を手早く着ると、静かに部屋を出る。その間際に一度ミーネの様子を見たが、変わらずに眠っていた。それを見ると、ミーネの家を後にする。向かうはフローゼの町の港。ミラに指定された場所だ。
すっかり冷えるようになった早朝から、ルークは馬を走らせた。
朝目覚めて真っ先に頭がそれを考えた。多くの人にとっては、祭日でもなんでもないはずの明日。だが、ルークは明日という日がこの国にとって忘れられない日になると思っている。なにせ、ミラがいなくなるのだ。それがどれほどの影響を及ぼすのかは想像もつかないが、騒ぎになるのは間違いないだろう。その時に自分が騎士として騒ぎの収拾に当たっているのか、または当のミラと一緒に船の上かはわからない。そんな妄想に近いような出来事が、明日には起こるのだ。そう思うと、なぜか笑えてしまった。
「ほんと、この状況はなんなんだろうな……」
ぼやきながら制服に着替え、いつもの如く朝礼に向かう。しかし、その途中でおかしなことを言われた。廊下でカリムと出会ったのだが、ルークを見るなり胡散臭そう目を向けつつ、
「なんだルーク、お前は今日は休みだろ? それなのに制服着てるなんて寝惚けてんのか?」
そう言ってきたのだ。
「あ? お前、なに言ってんだ。俺、休みを出した覚えはないぞ」
「そんなこと言っても、今日と明日の出勤にお前は入ってなかったぞ。どうせミーネちゃんとデートの約束でもしてあるんだろ? 昨日はこの町に泊まったみたいだしよ。ちっ、朝から気分が悪くなるなまったくよぉ」
朝からいらん誤解で絡んでくるカリムは鬱陶しいことこの上なかったが、言われた内容は覚えがない。しかし、同じことは以前にもあった。
心当たりがあったルークはカリムとの会話を切り上げて即座に向かう先を隊長室へと変更する。静かな廊下を足早に歩き、見慣れた扉をノックすると「入れ」の声を待って、今日の仕事を強制的に休みにした人物の部屋に滑り込んだ。
「朝から真面目な顔をしてどうかしたのか?」
書いていた書類から顔を上げてルークを見たミラは小さく笑ってそんなことを言った。
「今日も尊いお勤めだと思っていざ朝礼に出ようとしたら、休みだと言われたんでな。どういうことなのか、説明を聞きに来たんだよ」
「明日が期限だからな。今日は一日よく考えてほしいと思って休みにした。明日が休みな理由は言わなくてもわかるだろう」
ミラの目がこれでいいかと見つめてくる。その視線から逃げるように顔を逸らし、ルークは頭をかいた。
「まあ、そんなことだろうとは思ってたけどな。しかし、今日はどこかに行こうとは言わないのか?」
以前は馬車で劇の鑑賞と食事に出かけた。あれは、今思えば立派なデートだったわけだ。
「できればそうしたいところだが、生憎と今日までは騎士団のミラとして振る舞う必要があるからな。よって今日はお前とのんびり過ごすことはできそうにない」
そこまで言って一呼吸置き、ミラはこう続けた。
「だからお前は今日一日好きにするといい。明日に備えてな」
そう言って小さく笑うと、ミラは再び書類の作業に戻った。
「隊長は俺の気を引こうとは思わないのか?」
久しぶりの軽口が自然と口から出た。それも、かなりらしくないものが。
それを聞いたミラは少し驚いた顔をしていたが、すぐに真面目な表情になると椅子から立ち上がってルークの傍まで来た。ほんの少し前だったなら、この後ミラにされることといえば、恐怖の鉄拳しかなかった。だが、今はどうなのだろう。
以前とは違った緊張を身体に走らせていると、ミラの手がすっと伸びてきて、ルークの服を掴む。そのまま引っ張られたと思ったら、次の瞬間には頬に温かくて柔らかいものが押し当てられていた。
「っ……!」
あまりにも予想外すぎて声にならない。しかし、ルークが醜態を晒すより先にミラの顔がぱっと離れていき、ひとまずは助かったようだった。
「今日はこれだけだ」
そう言ったミラの頬はほんのりと赤くなっている。それを見られたくなかったのか、ミラはすぐに身を翻してしまった。
「さあ、話が済んだのならもう行け。私もこれから朝礼に行かなくてはならないからな」
あまりにも大胆な行動に出られ、呆気に取られていたルークはそこでようやく固まっていた身体をぎこちなく動かし、頬に触れる。僅かにしっとりしているそこは他よりも少し温度が高くなっているように感じる。
「……ここまでされてまだ悩んでるような俺なのに、隊長は愛想を尽かしたりはしないのか?」
肩越しにミラが振り向いた。その表情には少しだけ呆れたような笑みが浮かんでいる。
「嬉しいからな」
ぽつりと言うと、ミラは自分の席に戻っていき、ルークが部屋に来た時のように椅子に座った。そのまま机に身を乗り出すと、少しだけ期待するような目で見つめてくる。
「悩んでいるということは、私にも可能性はあるのだろう? 真剣に考えてくれているのは素直に嬉しい。だからな」
ミラの口元が寂しげに笑った。
「明日、お前が来るのを待っているぞ」
「……」
どう返事をしていいかわからず仏頂面になるルークへ、ミラは手で出ていけと指示をする。
「よく考えるとだけ言っておく」
そう言い残すと、ルークは逃げるようにミラの部屋を後にしたのだった。
ミラの計らいで急遽休みになり、私服に着替えたルークはなんとなくゆっくりと騎士団本部を歩いていた。同僚達は朝礼のために各自の集合場所にいるらしく、辺りは静かだ。もはや見飽きたと言っていいこの場所も、明日の選択によっては二度と訪れることはなくなるのだと思うと、変な感慨が湧いてくる。
妙な気分のまま、のんびりと正門の方へ歩いていくと、そこにはいつかと同じような光景があった。誰もいない正門の傍にぽつりと佇んでいるそいつは騎士団の本部へ窺うような目を向けていた。その目がルークを捉えたからか、表情が少し綻び、いかにも来てほしそうな雰囲気へと変わる。
「犬かあいつは」
人化の術とやらを使っているので尻尾はないが、もしあったら間違いなく揺れていたことだろう。
本当にわかりやすいヤツだと思いながら、ルークは傍まで歩いていく。
「どうした? なにか用か」
「あ、えと、ルーク、今日はお休みなんだよね……?」
「まあな。で、ここにいるってことは、俺に用か?」
つい先程ルークも知ったばかりの事実をミーネが知っていても、今更驚きはしない。どうせ同僚の誰かが教えたに違いないのだ。もしかしたら、昨日のうちにミラが話したのかもしれない。
そんなことを考えながらミーネに目を向けると、案の定こくりと頷かれた。
「その、買い物に行かない? 久しぶりに一緒に歩きたいなって思っちゃったりして……」
語尾がほとんど小声だったが、それでもルークの耳には聞こえた。なんとなくその顔に目を向けると、少し窺うようなミーネの目とばっちり合う。
「……まあ、いいか」
「ほ、ほんとっ……?」
「いいぞ。ただし、行く店は決めておけよ。全部回るはなしだからな」
いつだったかのふざけた返答を思い出して釘を刺すルークだったが、ミーネは慌てたように首を振った。
「だ、大丈夫だよ。今日は食材を買うだけだからっ」
「やっぱり冬眠すんのか?」
「しないってばっ!」
ルークの軽口にミーネがむくれる。久しぶりのこの他愛のないやり取りが、やけに心地よく感じられた。
「そうかよ。じゃあ、行くか」
「うん」
たったそれだけなのに、ミーネは嬉しそうに笑う。人化の術を使っているので尻尾はないが、あったら間違いなく揺れていただろうなと思いながら、ルークはミーネと並んで歩き出した。
ミーネとの買い物は驚くくらいに何事もなく終わった。その後は適当に町をぶらつき、ふらりと入ったことのなかった料理店に入り、そこにあったキノコの蒸し焼きとステーキなるメニューに少しはしゃいだくらいだ。そして現在、ミーネを家まで送っている。以前のように抱きつかれたら背中に全神経が集中しそうだったが、幸いなことに今日は買った荷物がルークとミーネの間にあるので、ルークの理性がかき乱されるような事態にはなっていない。だが、ミーネがなにも話してこないのが少し不思議だった。
気まずくはないが、かといって気楽ともいえない微妙な空気のなか、通い慣れたミーネの家に到着した。森の奥の一軒家は今日もひっそりと佇んでいる。ここに通っているうちにすっかり見慣れてしまったが、それもルークの選択によっては二度と見ることのない光景なのだと思うと、こちらも不思議と感慨深いものがある。恐らく、後ろにいるミーネに会うこともなくなるからだろう。
「ほれ、到着だ」
「うん。ありがとうルーク。それでね」
馬からおりたミーネが少しだけ上目遣いになりがなら、じっと見つめてくる。
「今日は、まだ一緒にいてくれる?」
その問いにどう答えるか、少し迷った。返事の期限はいよいよ明日に迫っている。それなのに、ルークはまだ決断できていない。だから、今のルークにとって時間はなによりも貴重なのだが、自然と口が返事をしていた。
「まあ、いいぞ」
ミーネの狐の耳がぴくりと動いた。
「ほ、ほんとっ? じゃあ、すぐに準備してくるから、ちょっと待っててっ」
そう言い残すと、ミーネは家に引っ込んでしまった。
「準備してくるって、まだどこか行く気なのか……?」
町で買い物はしてきたはずだが、それでは物足りなかったのだろうか。ルークが首を捻っていると、ミーネはすぐに戻ってきた。その手にには片手サイズの籠が握られている。
「お待たせ。それじゃ、行こっか」
「いや待て。行くってどこにだ?」
「もちろんキノコを採りにだよ♪ 今日の料理で使うから」
さも当然のように言われた内容は、まさかのキノコ採取と今日の料理はキノコですという宣言だった。明日のことなど少しも考えていなさそうなマイペースぶりに、どうしたってため息が出てしまう。
「はあ……」
「どうしたのルーク? 早く行こっ」
「そうだな……。さっさと行かないと夕飯遅くなるもんな……」
「うん♪」
仕方なしに尻尾を揺らしてご機嫌なミーネについて行く。こうなったらキノコが見つからないことを祈るばかりである。
しかし、キノコが関わるとなぜか本来以上の力を発揮するのがミーネだった。恐ろしいことに、どこにどんなキノコがあるのか完全に把握してるらしく、森の中をすたすたと歩いては次々にキノコを見つけ、籠に放り込んでいく。どう見ても計算されたルートを辿っているようにしか思えない手際の良さに、ついに我慢できなくなって聞いていた。
「なあ、お前、キノコのある場所わかってるのか?」
「うん。今日のためにあえて採らなかったやつもあるの♪ ほら見て見て♪ 肉厚で美味しそうでしょ?」
嬉しそうにシイタケを見せられても、ルークとしては反応に困る。
「あー、そうだな。それが今夜の食卓にのるんだな……」
ややげんなりしてしまうが、場合によってはミーネの手料理もこれで最後なのだと思うと、妙に落ち着かない気分になる。
「うん。その……明日になったら、ルークいなくなっちゃうかもしれないんだよね? だったら、最後くらいは美味しいもの食べてほしいなって……」
それまではしゃいでいたのが嘘のようにしゅんとし、ミーネはぽつりとそう言った。狐の耳はぺたりと伏せ、尻尾は力なく垂れている。
わかりやすいくらいに感情を身体に出され、ルークは苦い顔になってそっぽを向いた。いつものように振る舞ってはいるが、ミーネも明日が特別な日であることはしっかりと理解していた。だからこそ今夜は得意なキノコ料理なのだろう。
「まぁ、あれだ。メシは期待してる」
ミーネの心情を察し、どう答えるか悩んだ末に口から出たのは素直ではない言葉だった。それでもミーネは少し溜飲が下がったのか、その口元に笑みが浮かんだ。
「うん、任せて。今日はいつも以上に頑張って作るからね」
曖昧な笑みを浮かべていたが、声だけは元の調子でミーネはそう答えた。
宣言通り、ミーネの作ったキノコ料理は今までの中でも特に気合いが入っていた。量はいつものことだが、質も今回はルークも認めざるを得ないほどの出来だったといっていい。食卓に並んだキノコ料理の群れは、見かけはともかく味は文句のつけようがなかった。ミーネも変わらずルークの隣りに座り、それぞれの料理を解説しながらルークの分を取り分けていく。それをどこか不思議な感覚で眺めながら、ルークはミーネの好きなようにさせておいた。
「ルーク、美味しい?」
「ああ、そうだな。今回はよく出来てるな」
キノコたっぷりのソースがかかったハンバーグを口に運びながら、ミーネの会話に付き合う。どういうわけか、ミーネはやけに饒舌で、はじめて一緒に行った買い物は楽しかっただの、新しい料理を練習中だの、キノコの話だのと、話題が尽きることはなかった。
食事が終わり、ソファに身を預けたルークはぼんやりと食事中の会話を思い出す。今考えれば、あれはもう二度と会話をする可能性がなくなることを想定した上でのものだったのかもしれない。
「もう会えない、か……」
残された時間はいよいよ僅かだ。選択によってはミーネと会うこともなくなる。このなんとも不思議な日々にすっかり慣れてしまったせいか、明日も明後日も何も変わらないと錯覚してしまう。もしかしたら、明日には二人との関係が変わってしまうという事実を否定したいのかもしれない。
ミーネも同じなのか、普段なら夕食を食べたらお別れであるところを、今日は風呂から上がるまで居てくれと言われている。いつもと変わらぬ日常のようで少しだけ、しかし確実に違う部分が出てきている。
「これも俺のせいなのかね……」
そこに答えが書いてあるわけでもないのに、無意味に天井を見つめる。だが、頭は働かず、時間だけが流れていく。
「ルーク」
ぼんやりとしていた状態から我に返ったルークが顔を向けると、廊下に通じる扉から顔だけを出したミーネと目が合った。
「なんだ」
「えっと、その、今日は暑い……よねっ」
湯あたりでも起こしたのか、ミーネは唐突にわけのわからないことを言い出した。仮にその内容を真面目に考えてみても、風呂上がりで本人が一時的に暑いだけで、ルークは少しも暑いと感じていない。
「……」
唐突に意味不明なことを言い出し始める娘を憎からず思っている自分の感性は、色々とまずいかもしれない。
ルークが無言で深いため息をついたからか、ミーネは慌てたように言葉を続けた。
「そ、それでっ、着替えてくるから、もうちょっとだけ待っててっ」
文脈というものをまるで無視し、ミーネはルークの返事も待たずに逃げるように引っ込んでいった。
「あいつはなにがしたいんだ……」
ため息をつきつつも、そういえばミーネとの日常はこんな感じだったことを思い出す。はじめはただ気疲れするだけのやり取りだったはずが、今は不思議と悪くない気分になるのだから、世の中わけがわからないことだらけだ。
ルークはソファに座り直すと、眠るように目を閉じた。明日には変わらない日常か、国を出るかを選ばなければならない。もっと単純に、自分が傍にいたいのはどちらなのかを決められればいいのだが、困ったことにこちらはより難しい。ミラもミーネもそれぞれ違った良さがあり、それをルークがどちらも好ましく思ってしまっているからだ。
頭の中でぐるぐると廻る考えに疲れて目を開くと、時計の針が十一時になろうとしていた。思っていたよりも時間が経過している。それはいいのだが、ミーネが戻ってこないことが気がかりだ。さすがに遅すぎる。
「何してんだあいつは……」
今夜は夜通しでどうするか考えるはずだったのに、すっかり予定が狂ってしまった。
ルークは頭をかきながら立ち上がると、リビングを出てミーネの部屋に向かった。廊下までは暖炉の熱も届きにくいのか、少し寒い。
寒さも手伝って足早にミーネの部屋に辿り着くと、軽くノックする。
「おいミーネ。まだかかるのか? そろそろ帰る時間なんだが」
「あ、えと、その、部屋に入ってきて……」
ぎこちない声が扉の向こうから聞こえてきて、ルークは多少訝しみながらも扉を開けて部屋に入った。
「おい、知っての通り明日のことを考えたい―」
からそろそろ帰る。そう言おうとしたところでルークはぴたりと止まった。
ベッドだのテーブルだのといった生活に必要な家具が一通り揃っている部屋の真ん中にミーネは立っていた。ルークが言葉を失ったのは、その姿がいつかも見た風呂上がりのバスタオルを身体に巻いただけの姿だったからだ。淡いピンクのバスタオルによって局所こそ隠されているものの、二つの膨らみやすらりとした足にどうしても目が行ってしまう。
「お前、まだそんな格好して……」
指摘されたミーネはぴくりと耳を反応させ、顔が少し俯く。そしてそのままおっかなびっくりといった感じでルークへと近づいてくる。そうしてルークの前に立ったミーネがぽつりと呟くように言った。
「その……明日には、もしかしたらルークとお別れかもしれないんだよね……?」
「まあ、そうなるかもしれねぇな……」
目の前に立たれたことでミーネの身体に意識が向きそうになるのを必死に抑えながら、ルークは平静を装ってなんとかそう答える。そんなルークにミーネはそっと手を伸ばし、服の端を遠慮がちにつまんだ。
「あのね……心の準備できたから、その……」
ミーネはそこで言うべきか悩むように一旦言葉を止めたが、顔は俯けたまま、ぽつりと言った。
「今夜は帰らないでほしい……」
服をつまむ手にきゅっと力が込められた。それに合わせて心臓までぎゅっと掴まれた気がした。
いかに鈍いルークであっても、ミーネの言葉の意味くらいは理解できる。だからこそ、頭が真っ白になっていく。ミーネの要望に応じるなら、することは一つしかない。だからこそ、無意識に目がミーネの身体に向いてしまう。
すらりとした手足に、バスタオルを押し上げる二つの膨らみ。こうして見れば、顔だけでなく、その身体も充分に恵まれていると認めざるを得ない。そんな女体の誘惑に、ルークの理性は激しくぐらつく。だが、このまま欲望に任せてミーネを抱いてしまいたいと思う一方で、相手は魔物だと戒める自分がいる。しかし、それはほんの一瞬しかルークを思い留めることはなかった。
狐の耳と尻尾は本人の感情を正確に表し、耳はへこたれ、尻尾は先端を両足の間に挟み込まれるようにして丸まっている。それに愛嬌こそ感じても、嫌悪の感情は少しも湧いてこない。
ルークが内心での葛藤に硬直していると、ミーネはちらりとベッドを見やり、その顔を赤くする。そして一歩、ベッドの方へと後ずさった。服を引っ張られる形でルークも一歩前に出る。
断るならここしかなかった。だがルークはそうせず、ミーネの肩を掴むとベッドの方へそっと押した。その行動でミーネもルークの意思を理解したらしく、一歩一歩後退していく。すぐにベッドへと辿り着くと、ルークはミーネの華奢な身体を押し倒した。
仰向けに倒れたミーネが顔を赤くしながら潤んだ瞳で見つめてくる。それに釣られるように、ルークもベッドに上がってミーネに覆い被さっていく。
至近距離から見つめるミーネのあどけない顔には、恥ずかしさと隠しきれない期待の色とが混在している。
そっとバスタオルに手をかけると、ミーネの身体がぴくりと反応する。
「とるぞ」
ミーネの返事を待たずに、身体に巻いてあったバスタオルをそっと脱がす。
「ぁぅっ……」
毛の一切ない綺麗な秘部やぷるんとした形のいい胸が露わにされ、ミーネは恥ずかしさからか、顔を逸らした。
ルークは思わず息を飲む。それくらい、目の前のミーネの裸は魅力的で、性欲にこれでもかと燃料を投下してくる。
ミーネは大人じゃない。まして、人ですらない。だが、それでも女だった。認めたくないが、ルークはそんな女の部分に異常なほど欲情させられていると熱くなっていく頭の奥で実感していた。股間が急速に膨れ上がっていき、ズボンが途端に邪魔になる。
それに気づいたのか、ミーネが小声で懇願するように言った。
「ルークも、脱いでよ……。わたしだけは、は、恥ずかしいよ……」
ルークは無言で上着に手をかけると、すぐに脱ぎ捨てた。次いで、ズボンを脱ごうとするが、ベルトを外したところで手がぴたりと止まる。
「ルーク……?」
半端なところでルークの動きが止まったからか、ミーネの顔に怪訝そうな色が浮かぶ。
「脱がしてくれ」
「!」
ミーネの前で膝立ちになってそう言うと、狐の耳がぴんと立った。ミーネはいきなりの要求に戸惑いを隠せないようだったが、身体を起こすとおずおずと手を伸ばし、ルークのズボンを脱がしていく。たったそれだけのことなのに、この手のことに一切経験がないであろうミーネがそうしているというだけで、ルークの興奮は際限なしに膨れ上がっていく。そしてミーネがゆっくりとズボンを下ろすと、膨張していたペニスがすぐに飛び出した。
「ぁ……」
急に視界に現れたそれを目にして、ミーネの手が止まる。いちいち初々しい反応をしてくれるミーネに少なくない嗜虐欲を覚えながら、ルークは自分でズボンを脱ぎ捨てた。
「これでいいか?」
ルークの言葉にミーネの耳がぺたりと伏せる。顔を真っ赤にしながら、ミーネは静かに頷く。
それを確認したルークは再びミーネをベッドへと押し倒す。肩から手を滑らせ、目を奪って離さない双丘へとそっと触れる。
「んっ……」
しっかりとした弾力のあるそれに触れた瞬間、ミーネから小さな嬌声が漏れる。
「あ……その、嫌か……?」
以前、冗談で手を伸ばしたら思いっきり拒否されたことを思い出し、そう言ってみる。ルークとしては是非ともこのまま触っていたい感触だが、ミーネが嫌ならすぐにでも止めるつもりだった。
「嫌じゃないけど……その、あまり大きくないんだから、そんなに弄らないで……」
一体なにを基準にミーネがそう言うのかわからないが、ルークから見てミーネの胸は充分だと言っていいくらいに膨らんでいる。だから遠慮なく揉んでみた。
「そんなことねーよ」
こねるようにぷにぷにとした双丘を揉んでやると、ミーネは堪え切れずに悲鳴のような嬌声を漏らす。
「ひぅっ、や……うっ……ん〜〜〜っ……!」
揉む度に感じてしまうらしく、ミーネが逃げるように身悶えする。嗜虐欲と性欲とを同時に刺激され、ルークは俄然やる気になってミーネの胸を揉みしだく。股間のモノがより充血していく。
「あ……んっ、う……やぁ……ん……。そ、そんなに胸ばかり、んぅっ、弄らないでよぅ……」
頬を赤くし、潤んだ瞳で懇願するように見つめてくるミーネ。それがどれだけルークの嗜虐欲を煽っているのか、まるで理解できていない。このまま胸をいじめてやってもよかったが、お望み通りに右手を別の個所に伸ばす。
「じゃあ、こっちがいいのか?」
右手を股間に滑らせる。そこにある毛一つない割れ目を撫でようとしたところで、その先にあるものが目に入った。ほとんど直感的に、太ももの先にある尻尾に触れる。その途端、ミーネの身体が盛大にびくついた。
「し、尻尾はだめぇっ……!」
そこが弱点ですと教えてくれるミーネ。言葉も、身体の反応も、いじめてほしいと言っているようにしか見えない。
「じゃあ、どっちがいいんだ? 胸か? それとも尻尾か? 言ってみろよ」
左手で胸を、右手で尻尾を弄ってやると、ミーネの身体がびくんびくんと面白いくらいに反応する。
「やぁ……んぅっ、そ、そんなのずるいよぅ……。んっ……!」
口は嫌がっているようでも身体は正直に感じているらしく、綺麗な割れ目からとろりとした液体がこぼれてきている。ルークは尻尾から手を離し、ふっくらとした恥丘をそっと撫でた。
「お前、見かけによらずエロかったんだな。こんなに溢れてきてるぞ」
「ち、ちがっ……! それは、ルークがあちこち触ったからで、わたし、エッチなんかじゃないもん……!」
感じていたとは認めたくないのか、ミーネは涙目でそんなことをのたまう。
「そうか。じゃあ、試してやるよ」
そう言ってミーネの両胸をぎゅっと揉む。
「ひんっ……!」
「ん? どうした? 気持ち良かったのか?」
「うぅっ……今のは違うもん……。んっ!」
どうもミーネは敏感らしく、優しく揉んでいるだけなのに「やぁっ……んっ〜〜……!」と嬌声を上げながら全身を震わせる。そんな様子になんとも言えない満足感を覚えながら、ルークは柔らかな二つの膨らみの感触を楽しむ。
そうしていると、ついにミーネが降参するようにルークの手を掴んできた。
「どうかしたか?」
意地悪く聞いてやると、ミーネは潤んだ瞳で見つめてきた。
「その……ねっ……。そろそろ、我慢できなくなってきたから……その、うぅっ〜〜!」
恥ずかしいのか、して欲しいことをはっきりと口にしないミーネ。
ミーネが何を言いたいのかは、ルークにもわかっている。なにせ、ミーネの身体は正直なのだ。ひくひくとねだるように動いている箇所を見れば、どうして欲しいのかは鈍いルークにだってわかる。だからこそ、ルークは敢えてそれを無視し、ミーネの胸を弄る作業を続行した。もちもちともふわふわとも言える胸は病みつきになる触り心地で、堪え切れずに声を漏らすミーネの姿と合わせて、ずっとそうしていたくなるのだ。
「うぅ……いじわるっ、いじわるぅ……!」
ルークに変わらず胸を弄られ、ミーネは胸から感じてしまう快楽を堪えようとぎゅっと目を瞑るが、それで快感を軽減できるはずもなく、どうしたって声が漏れてしまう。
一方、ルークもそろそろ自分の限界を悟っていた。勃起したペニスが軽い痛みを訴えてきている。自分でも驚くくらいに反り立ったソレは、実は魔力のコントロールが上手くできないミーネの影響を多分に受けているのだが、ルークはそんなこと知るよしもない。
晴らしてしまいたい欲求を満たすべく、先端を割れ目へと押し当てる。
「入れるぞ」
狐の耳がピンと立ち、次いでミーネは顔を赤くしながら小さく頷く。それを確認すると、ルークは腰を押し進めた。亀頭から順に、温かいミーネの中へと入っていく。
「ひぐぅっ……! あぅぅ……ルークが、入って、くるよぉ……!」
破瓜の痛みに一瞬顔をしかめたミーネだったが、ルークが挿入を終えると脱力するように息を吐いた。
「その……痛いか?」
ペニス全体がきつい締め付けの中に埋没しているのを実感しながらミーネの様子を確認すると、ミーネは小さく首を振った。
「最初はずきってしたけど……今はだいじょぶ、かも……」
意外と余裕そうな言葉にホッと胸を撫で下ろす。むしろ、ルークの方がまずいかもしれない。
異物を拒んでいるのか、それとも歓迎してくれているのか、ミーネの中はきつく締め付けてきている。ほとんど押し潰すかのような締め付けは絶え間なく快感を与えてきて、気を抜くとすぐに果ててしまいそうだった。
「動くぞ」
さっきまで胸を揉まれて堪らずに声を漏らしていたミーネに挿入しただけでいってしまうのはあまりにも癪だ。だからルークは素早く行動に移した。ミーネは感じやすい体質のようなので、先にミーネをいかせてしまえばいい。
「あっ、ま、待ってっ」
「なんだ」
いざというところでお預けを喰らったルークが眉を寄せるなか、ミーネは恥ずかしそうに呟いた。
「その……はじめてだから、優しくしてね……?」
完全に火に油を注ぐ発言だった。
「無理だな」
言ったと同時にぐっと腰を突き出し、狭い膣内へと深く潜り込ませる。
「っ〜〜〜〜!? やぁっ、きてる……入ってくるよぉ……!」
ミーネの身体がびくんと震え、それに合わせて膣内がギュッと締まり、ただでさえきつい中が更に狭まる。
「まだだぞっ……!」
余裕などまったくないくらいに窮屈な膣内に抽送を開始すると、動く度にペニス全体が擦られ、全方位から万遍なく刺激される。押し込めばより奥へと引き込むように締まり、引けば逃がさないとばかりにぎゅっと収縮するミーネの中は男が感じる方法を熟知しているかのように蠢き、一回のピストン運動だけでルークの忍耐力をごっそりと削っていく。
「んっ、ひぅっ、そんなに、んぅっ、激しくしないでよぉ……♥」
抽送する度にミーネの甲高い悲鳴のような嬌声がいちいち興奮を煽り、このエロ狐と内心でぼやきつつも、もっと喘がせたいという獣のような欲求が際限なく湧いてくる。
ほとんど本能のような欲求に従い、ルークはひたすらペニスを抽送する。きつい中を押し広げるように動かし、最奥の子宮口を何度も叩く。
「お、奥にずんずんきてるよぉっ、そっ、そこはだめ、おかしくなっちゃうからぁっー♥」
今日一番といってもいい反応を見せ、ミーネの身体が痙攣し始める。それに合わせるようにペニスを包む柔壁が波打ち、根元から射精を促すような快感を刷り込んでくる。
「このエロ狐……! 中の動きがやらしすぎんぞっ……!」
「そ、そんなこと言われても、あぅっ、わたしわからないよぉっ……!」
蕩けた顔でよがるミーネは、もうエロ狐という言葉を否定する余裕もないようだった。
余裕がないのはルークも同じで、より活発に蠢く柔壁によってペニスの芯を駆け巡る射精欲求を堪え切れなくなってきている。このまま中に出してしまいたいところだが、欲求のままにそんな勝手なことをしてはいけない気がした。
ミーネがこれでもかと乱れる姿を見れたことで溜飲も下がったルークは、そろそろ潮時だと判断し、最後の一突きを放って終わりにしようと腰を動かす。そしてそれが失敗だった。
「んくっ、あああっ! ぐりぐりきて、お、奥はだめー!」
子宮口を突いた瞬間ミーネの身体が一際大きくのけぞり、膣全体が一瞬にしてぎゅっと収縮した。ただでさえきつかったミーネの膣穴に押し潰さんばかりに締め上げられ、ペニスが最奥で固定される。ここで射精しろと促すかのような動きに、ルークは取り戻した僅かばかりの余裕をあっという間に失う。
「この馬鹿っ、そんな締め上げたら……!」
尿道を駆け上がり、先端から飛び出しそうになるのを歯を食いしばって堪える。だが、そんなルークの努力を嘲笑うかのように子宮口がひくつき、密着する亀頭へ吸いついた。
「っぉ……! 無、理……!」
最も敏感な先端を刺激され、ついに限界を超えたペニスがルークの意思を無視して射精を始めてしまう。
「ひゃぁぁっ、あっ、んぁぁぁっ! きてるっ、熱いの、ドクドク出てるよぉっ〜!」
一度始まってしまった射精は止まらず、断続的に締め上げてくる膣壁に絞られるように、盛大に白濁を吐き出していく。
「うぉぉっ……! 止まらねっ……!」
「んぅぅぅっ〜! お腹の奥にいっぱい注がれてっ、蕩けちゃうよぉ……!」
ペニス全体を扱かれ、先端を吸われる。ミーネ本人はよがっていても膣はしっかりと搾精のために蠢き、ペニスから根こそぎ精を絞り上げていく。
身体がおかしくなったんじゃないかと思うくらいに射精は長々と続いた。最後の一滴まで注ぎ尽くし、打ち止めだとばかりになにも出なくなったところでようやく締め付けが緩む。
長い射精を終えたルークが脱力してぐったりするなか、ミーネも乱れた呼吸を整えるように胸を上下させる。「あれ……美味しい……?」という小さな呟きが聞こえた気がした。
「その、悪かった……」
興奮の熱が引いたルークは色々とやりすぎたと反省し、そっぽを向きつつぽつりと言う。ミーネの耳がひくひくと動き、頬の辺りに視線を感じる。
「えっと、それはいいんだけど……。あの……ルーク」
「……なんだ」
待っていても続きが来ないので、仕方なく顔を見ると、ミーネは頬を赤くしながらこちらを見ていた。
「えと……その、もう一回してほしいなって……思っちゃったり、してね……」
予想すらしなかった言葉に、ルークは目を見開いてまじまじとミーネを見つめる。至近距離で見るミーネの顔はやはり愛らしく整っている。その小奇麗な顔がどんどん赤くなっていく。
「……もう一回?」
冗談だろうと聞き返すと、ミーネは顔を真っ赤にしながらこくりと頷いた。
「その……すごく美味しかったから……だから、その、もっと欲しいなって……」
「美味しかった?」
「あ、その、変なこと言ってるのはわかってるよ……? でも、本当に美味しいって思ったから。後は、その……気持ち良かったし……」
このまま放置していたらボンッと音を立てて爆発するんじゃないかと思うくらいにミーネの顔が赤くなっている。それくらい恥ずかしいと思っているくせに二回戦をご所望してくるあたり、味をしめたらしい。本当にエロ狐だなとルークは確信する。
「そうだな。生娘みたいな性格だと思ってたが、意外とエロいみたいだしな」
「う……。さっきのは気持ち良かったからで、わたしはエッチなんかじゃないもん……」
細い腰に手を回すとミーネはぴくりと反応しつつも、口からは否定の言葉が出てくる。本当にいちいち人の嗜虐欲を煽ってくる狐だ。
「そうか。じゃあ、また鳴かせてやる」
そう前置きして、未だに挿入したまま大きさを保っているペニスをぐっと押し込む。
ベッドの軋む音と同時に、ミーネの嬌声が部屋に響いた。
静かな朝だった。窓を打つ雨の音は聞こえないので、天気が崩れているわけではないらしい。
覚醒した頭でそんなことを考えながら、ルークはそっと目を開く。
すぐ視界に入ったのは、あどけない顔で眠るミーネ。それだけで、意識を失う直前まで抱き合っていたことを思い出す。体力が尽きるまで行為に及んでいたはずだが、ほとんどいつもと変わらない起床時間に起きられたのは長い騎士経験のおかげかもしれない。一人用のベッドのため、お互いに向かい合って寝てるせいで時計の確認はできないが、体感ではまだ朝礼にも間に合う時間のはずだ。
ルークは小さなため息をつくと、目の前のミーネの顔をまじまじと見つめた。すやすやと眠るその寝顔は、悪夢なんて絶対に見ないとでも言っているかのようだ。天然で、どこか抜けてて、ドジで、変なところで意地っ張り。それでも、愛おしいと思う。あの占い師が言っていたように、ルークは確かに二人の女性を同時に好きになっていたらしい。
感情に流されるままにミーネの頬を撫でようとして、ルークは手を止める。今日はルーク達にとって運命の日。だから決断しなくてはならない。
ベッドの中、ミーネの温もりは捨てがたかったが、ルークはミーネを起こさないように注意しながらそっと抜け出す。
落ちていた服を手早く着ると、静かに部屋を出る。その間際に一度ミーネの様子を見たが、変わらずに眠っていた。それを見ると、ミーネの家を後にする。向かうはフローゼの町の港。ミラに指定された場所だ。
すっかり冷えるようになった早朝から、ルークは馬を走らせた。
15/06/05 00:04更新 / エンプティ
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