おまけ
リックはため息を吐いた。
現在の時刻は夜の九時を過ぎたところだ。
取りたてて変わったこともなく、無事に仕事を終えて一日が終わろうとしている。それだけなら、リックもため息を零したりはしなかっただろう。
彼のため息の理由は今の状況にあった。
リックがいるのは風呂場だ。これがなかなか落ちない風呂場のシミと格闘しているなんて理由だったらまだいい。だが残念なことに、風呂場にはシミなんて一つもなかった。
リックがため息を漏らさざるを得ない理由は、二人の妻が当然のように一緒に風呂場にいるからだった。
風呂は一緒に入るという決まりがあるため、リックとしても駄目だとは言えないのである。もちろんこの提案が出た時には、リックも控えめにそこまでしなくてもいいのではと発言した。
「いいよね?」
「いいわよね?」
当然、二人の笑っていない笑顔に押し切られたのは言うまでもないことである。
そんなわけで、現在夫婦三人で入浴中だった。
リックは妻二人によって真っ先に体をすみずみまで洗われ、一人湯舟に浸かっている。
一方、クレアとリーンベルの妻二人は互いに体を洗っていた。正確には、クレアがリーンベルの背中を流している最中だ。お互いに金髪なこともあって、こうしていると仲の良い姉妹に見える。
ヴァンパイアのクレアは水に濡れると大変なことになるのだが、薬に詳しいサバトに所属する魔物から、ヴァンパイアも普通に入浴できるようになる入浴剤を定期的に購入しているため、こうして問題なく風呂を楽しめている。
リックとは既に夫婦になっているので、仮に大変なことになってもあまり問題はなかったりするのだが、それはクレアの乙女心に反するらしく、入浴剤はほとんど毎日使用している。
一度、たまには使わなくてもいいじゃんとリーンベルが言い、リックもクレアもその時は素直に賛成したのだが、案の定クレアがすっかり発情し、ベッドまで我慢できずに風呂場で行為に及ぶこととなった。
そこにリーンベルが「せっかくだからあれも使っちゃえ♪」と夫婦の果実を持ってきてクレアに食べさえた挙句、自分もぱくりと食べたものだからえらいことになった。
二人揃ってすっかりその気になってしまい「今夜は楽しいお風呂プレイ♪」だの、「あなた、早く抱いて♪」と迫られ、翌日の夕方まで妻二人に尽くすことになった。
あれ以来、クレアは入浴剤をきちんと使うことに決めたらしく、今夜も湯舟は鮮やかな緑色となっている。
体を沈めれば確かにリラックスできて気持ちいいのだが、全裸のクレアとリーンベルがすぐ横で体を洗っているせいで、せっかくの入浴剤の効果も半減している気がしてならない。それくらい、妻二人の裸は刺激が強かった。
「力加減はどう? ベル」
「うん、ばっちり。すごく気持ちいいよ。まあ、リックのアレには勝てないけど」
「アレに勝つのは無理よ。私達の一番敏感なところに最高にぴったりだし、そうでなくとも、匂いだけで意識がぼうっとしてくるもの」
加えてこんな会話が交わされたのでは、入浴剤の効果などまるで実感できず、リックはなんとも言い難い気持ちになって聞いてないふりをするだけだ。
もちろん二人の会話に上がっているリックのアレは、惜しげもなく晒されている妻達の裸を見た時点でしっかり戦闘態勢に入っている。
リックはそれがばれないかと気が気ではなかった。クレアとリーンベルがたった今話題にしているものが、彼女達を喜ばせる状態になっていると知ったら、間違いなく求めてくるに違いないからだ。
そうでなくとも、この入浴が終わればリックの部屋で夫婦の時間に突入である。
二人を相手にしなければならないので、いくらインキュバスとなっていても体力も精も節約できる時には節約するというのがリックの考えだ。あくまでも考えであり、クレアやリーンベルから夜まで待てないと求められたら、わかりましたと応じてしまうので、あまり意味のないことであったが。
「それにしても、ベルは胸が大きいわよね。羨ましいわ」
「そうかな? 確かにクレアよりは大きいけど、魔物からしたら標準じゃない?」
「ベルが標準なら、私の胸は標準を下回ることになるじゃない。なんとか大きくできないかしら……」
クレアは自分の胸の大きさに不満があるようだ。確かにリーンべルよりは小さいが、それでも一般的な人の女性よりは十分に大きい。夫のリックはもちろんそれを知っているので、「十分大きいと思うんだけどな……」と彼女達に聞こえないように呟いた。
「そんなに気になるならリックに聞いてみようよ。ねえリック」
ぼそぼそと呟いているところにいきなり声をかけられ、リックの体がビクつく。
「は、はい! なんですか?」
「……なんでそんなに驚いてるの?」
リーンべルに不思議そうに見つめられ、リックは慌てて弁解する。
「あ、いや、あまりにも気持ちいいのでうとうとしちゃって……」
「あら、そうなの? でも、ベッドの上ではもっと気持ちよくしてあげるから、寝ちゃ駄目よ。それよりあなた、聞きたいことがあるのだけど」
「そうそう。わたし達の胸、どう思う?」
「どうって……」
リックが返事に困っていると、二人は浴槽の傍まで来て正座する。そして、リックによく見えるようにとの配慮なのか、浴槽のふちに自分の胸を置いた。
二人の胸はその柔らかさから、浴槽のふちに合わせてふにゃっと形を変える。
目の前に合計四つの母性の象徴を並べられ、リックは嫌でも顔が赤くなった。
「ほら、顔赤くしてないで触ってよ」
何もしようとしないリックに焦れたらしく、リーンべルはまずリックの左腕を掴んでクレアの胸に押し当て、続けて右腕を自分の胸に押し当てた。
「ん……」
「あっ……」
リックの手が胸に触れた瞬間、揃って艶めかしい声を上げるクレアとリーンべル。だが、一番声を上げたかったのはリックに間違いない。
両手の手のひらから伝わる二人の乳首と胸の感触は、それくらいの触り心地だった。
「ねえリック、揉んでよ……」
「あなた……」
期待と媚びとが入り混じった目で見つめられ、あまりの恥ずかしさから正視できなくなったリックは目を逸らした。それでも妻二人の要望には応えなければと思い、恐る恐る両手を動かしてクレアとリーンべルの胸を揉み始める。
「あぅっ……」
「ひんっ……」
ゆっくりと揉んでいくと、二人は我慢ならないのか感じ入った声を上げ、手のひらに当たる乳首が固くなっていく。
リックはといえば、二人の胸の感触に内心で盛大に悲鳴を上げていた。
リーンべルはふにふに、クレアはぷにぷに。
二人の胸を無理に擬音で例えるならそんな感じだ。もちろん、どちらがいいかなど言えるわけがない。聞かれたら、どちらもいいとしか言えないくらいに揉んでみた感触がいい。
「あん……リック、揉むの上手いね……」
「器用だからよ、ん……」
そっと二人に視線を向けると、リーンべルもクレアも頬が赤くなり、目がとろんとしてきていた。
このまま揉み続けたら間違いなく二人はその気になるだろう。今まで散々交わってきたからこそ、リックはそれが分かった。
分かったところで手を止めると、二人は急に現実に意識が戻ったようで、不満そうな目でリックを見た。
「リック、なんで止めるの?」
「そうよ。とっても気持ちよかったのに……」
口々に漏らす言葉にも不満が混じっている。その目が名残り惜しそうにリックの手に向けられていることに気付き、リックはお預けをするように両腕を背後に隠した。
「えっと、二人が本来の目的を忘れそうになっていたので……」
リーンべルとクレアは揃って目を瞬かせた。
「最初の目的ってなんだっけ? 胸を揉んでもらうことじゃなかった?」
「私もそうだと思ったけど……」
普段はしっかりしている二人とは思えないほど、今の彼女達はぼけているらしい。しかし、すぐに思い出したようだ。
「ああ、そうだわ。そういえば、胸についてどう思うか聞いていたのよ」
「ああ、言われてみれば。リックの揉み方が上手いから、ふにゃ〜ってなってたよ」
二人の胸の方がよっぽどふにゃふにゃ……ではなく、自分をふにゃふにゃにさせたとリックは思った。
「で、どうだったの、あなた?」
「わたしも聞きたいな。気持ちよかった? 感触は? 大きさは? 味は?」
「えっと、よかった、です……」
味については答えられないが、よかったというのは嘘偽りなく本音である。もちろん、言った後でものすごく恥ずかしい思いだったが。
それを聞いた二人は嬉しそうに笑った。
「ほら、リックもいいって言ってくれたじゃん。リックが満足してくれるんだから、胸の大きさなんて気にすることないよ」
「そうね。リックが満足してくれるならいいんだけど、私個人としてはやっぱり気になるのよ」
どこか納得いかない表情のクレアに、リーンべルはぽんと手を叩いた。
「あ、そういえば、好きな人に揉んでもらうと大きくなるって聞いたことがあるよ。後は……妊娠しても大きくなるって……」
自分で言って恥ずかしくなったらしく、リーンべルの頬が赤くなる。
「妊娠……」
その言葉で二人の妻はそれぞれ自分の腹に目をやり、次いで合わせたようにリックを見つめた。二人の言いたいことはすぐに分かったので、リックは気まずそうに明後日の方向へと顔を向ける。
「あはは……。まあ、簡単にはできないね……」
「そうね……。魔物が子供を授かりにくいのは知ってたけど、ここまでとはね……」
二人ともその気配は全くないらしく、少し残念そうだった。
そうなってくると、夫のリックは非常に申し訳ない気持ちになり、がっくりと肩を垂れた。
彼女達はそんなリックの様子から、愛する夫が何を思ったか瞬時に分かったらしく、慌てたように会話を再開した。
「そ、そういえば、乳製品も胸の発育にいいって聞いたことがあるわ。ホルスタウロスのミルクなんて、特に効果がありそうじゃない?」
「あ〜、確かにあの子達の胸は大きいしね。でも、クレアは気にしすぎだって。あそこまで大きくなくても、リックは気にしないよ。ね、リック」
「え? あ、ああ、もちろんですよ!」
二人が妊娠した様子を想像していたせいで、リックはよくわからないまま返事をしてしまった。そして、それを瞬時に後悔した。
「……リック、大きい胸が好きなの?」
「……あなた、そうなの?」
悩んでいたクレアはもちろん、リーンべルまでもが真剣な目で見つめてきた。
「え、えっと……」
あまりにも返答に困る質問をされて、リックは言葉に詰まった。
今は二人の妻がいる身だが、結婚前のリックは女性の体に興味を持つことはほとんどなかった。だが、リックも健全な男だ。大きい胸が好きか嫌いかだったら……間違いなく好きな方だった。
その微妙な間だけで夫の答えを悟った妻二人は無表情になり、言った。
「リック、今夜から最低百回はわたし達の胸を揉んでね」
「え」
「ベル、どうせなら回数は固定じゃなく、加算式にしましょ。リックが一回射精するまでに百回揉めなかったら、追加でもう百回揉んでもらうの。どう?」
「え、ちょっと……」
「いいね。そうなると、こうしてのんびりお風呂に入っている場合じゃないかな。さっそくベッドに行こっか。たくさん揉んでもらうことになりそうだし」
さらりととんでもない決まりがリックを無視して決定され、クレアとリーンベルは互いにリックの腕を取って湯舟から引っ張り上げた。
二人のしなやかな腕がリックの腕に絡みつき、次いでその胸が二の腕に押しつけられる。
服を着ている状態で同じことをされたって落ち着いてはいられないのに、裸でそんなことをされたら体が強張るのは当然だった。
特に、直に感じる二の腕に押し当てられた胸の感触は、リックを文字通り抱かれている気分にさせ、肉棒をこれでもかと反応させた。
「リック、今夜はやけにやる気みたいだね。もしかして、胸だけじゃなくて、わたし達のお腹も大きくしたいの? これなら妊娠も期待できそうかな?」
「考えてみれば、揉んでもらうのと妊娠に関してはリックに頑張ってもらうわけよね。でも、それでは全部リックに押しつけるみたいで悪いから、明日ホルスタウロスミルクも注文するわ。とりあえず、大樽で六個ほど」
「いや、二人とも、落ち着きましょう。ね? まずは体を拭いて、きちんと服を着て、それから話し合いを……」
両腕を妻二人に拘束され、囚人よろしく連れて行かれるリック。着替えるのももどかしいのか、脱衣所を素通りしてベッドに行く気らしい。
部屋に入ってしまったら話し合いの余地はまるでなさそうなので、今のうちに二人をなだめないとまずい。
だが、ここまで話が進んでしまうと、もはや手遅れだった。
「どうせベッドに行ったら裸になるんだし、服なんか着なくてもいいじゃん」
「ベルの言う通りよ。今夜はあなたに頑張ってもらうんだし、服なんか着る時間も脱ぐ時間も惜しいわ」
クレアもリーンベルも、聞く耳を持たないのだった。
「いや、待って下さいよ! 僕は胸の大きさには拘りませんから!」
「ふふ、さっきリックの揉み方、気持ちよかったなぁ。あの調子で百回も揉んでもらったら、もっと大きくなる気がしてきたよ……♪」
「あなたが喜んでくれるように、私は絶対に大きくしてみせるわ」
完全にその気になっている二人を見て、リックはもう無理だと悟った。
クレアとリーンベルはすたすたと、リックはずりずりと引きずられるように廊下を移動し、三人の寝室へやってくる。ここは一応リックの部屋にと割り当てられたのだが、どうせ夜は一緒に過ごすからとの理由でほとんど三人の部屋と化している。
部屋の真ん中に置かれたキングサイズのベッドを見て、リックは諦めたようにため息をついた。
「胸の大きさなんて気にしないのに……」
彼の呟きは、部屋の扉がぱたりと閉められた音によってかき消されたのだった。
現在の時刻は夜の九時を過ぎたところだ。
取りたてて変わったこともなく、無事に仕事を終えて一日が終わろうとしている。それだけなら、リックもため息を零したりはしなかっただろう。
彼のため息の理由は今の状況にあった。
リックがいるのは風呂場だ。これがなかなか落ちない風呂場のシミと格闘しているなんて理由だったらまだいい。だが残念なことに、風呂場にはシミなんて一つもなかった。
リックがため息を漏らさざるを得ない理由は、二人の妻が当然のように一緒に風呂場にいるからだった。
風呂は一緒に入るという決まりがあるため、リックとしても駄目だとは言えないのである。もちろんこの提案が出た時には、リックも控えめにそこまでしなくてもいいのではと発言した。
「いいよね?」
「いいわよね?」
当然、二人の笑っていない笑顔に押し切られたのは言うまでもないことである。
そんなわけで、現在夫婦三人で入浴中だった。
リックは妻二人によって真っ先に体をすみずみまで洗われ、一人湯舟に浸かっている。
一方、クレアとリーンベルの妻二人は互いに体を洗っていた。正確には、クレアがリーンベルの背中を流している最中だ。お互いに金髪なこともあって、こうしていると仲の良い姉妹に見える。
ヴァンパイアのクレアは水に濡れると大変なことになるのだが、薬に詳しいサバトに所属する魔物から、ヴァンパイアも普通に入浴できるようになる入浴剤を定期的に購入しているため、こうして問題なく風呂を楽しめている。
リックとは既に夫婦になっているので、仮に大変なことになってもあまり問題はなかったりするのだが、それはクレアの乙女心に反するらしく、入浴剤はほとんど毎日使用している。
一度、たまには使わなくてもいいじゃんとリーンベルが言い、リックもクレアもその時は素直に賛成したのだが、案の定クレアがすっかり発情し、ベッドまで我慢できずに風呂場で行為に及ぶこととなった。
そこにリーンベルが「せっかくだからあれも使っちゃえ♪」と夫婦の果実を持ってきてクレアに食べさえた挙句、自分もぱくりと食べたものだからえらいことになった。
二人揃ってすっかりその気になってしまい「今夜は楽しいお風呂プレイ♪」だの、「あなた、早く抱いて♪」と迫られ、翌日の夕方まで妻二人に尽くすことになった。
あれ以来、クレアは入浴剤をきちんと使うことに決めたらしく、今夜も湯舟は鮮やかな緑色となっている。
体を沈めれば確かにリラックスできて気持ちいいのだが、全裸のクレアとリーンベルがすぐ横で体を洗っているせいで、せっかくの入浴剤の効果も半減している気がしてならない。それくらい、妻二人の裸は刺激が強かった。
「力加減はどう? ベル」
「うん、ばっちり。すごく気持ちいいよ。まあ、リックのアレには勝てないけど」
「アレに勝つのは無理よ。私達の一番敏感なところに最高にぴったりだし、そうでなくとも、匂いだけで意識がぼうっとしてくるもの」
加えてこんな会話が交わされたのでは、入浴剤の効果などまるで実感できず、リックはなんとも言い難い気持ちになって聞いてないふりをするだけだ。
もちろん二人の会話に上がっているリックのアレは、惜しげもなく晒されている妻達の裸を見た時点でしっかり戦闘態勢に入っている。
リックはそれがばれないかと気が気ではなかった。クレアとリーンベルがたった今話題にしているものが、彼女達を喜ばせる状態になっていると知ったら、間違いなく求めてくるに違いないからだ。
そうでなくとも、この入浴が終わればリックの部屋で夫婦の時間に突入である。
二人を相手にしなければならないので、いくらインキュバスとなっていても体力も精も節約できる時には節約するというのがリックの考えだ。あくまでも考えであり、クレアやリーンベルから夜まで待てないと求められたら、わかりましたと応じてしまうので、あまり意味のないことであったが。
「それにしても、ベルは胸が大きいわよね。羨ましいわ」
「そうかな? 確かにクレアよりは大きいけど、魔物からしたら標準じゃない?」
「ベルが標準なら、私の胸は標準を下回ることになるじゃない。なんとか大きくできないかしら……」
クレアは自分の胸の大きさに不満があるようだ。確かにリーンべルよりは小さいが、それでも一般的な人の女性よりは十分に大きい。夫のリックはもちろんそれを知っているので、「十分大きいと思うんだけどな……」と彼女達に聞こえないように呟いた。
「そんなに気になるならリックに聞いてみようよ。ねえリック」
ぼそぼそと呟いているところにいきなり声をかけられ、リックの体がビクつく。
「は、はい! なんですか?」
「……なんでそんなに驚いてるの?」
リーンべルに不思議そうに見つめられ、リックは慌てて弁解する。
「あ、いや、あまりにも気持ちいいのでうとうとしちゃって……」
「あら、そうなの? でも、ベッドの上ではもっと気持ちよくしてあげるから、寝ちゃ駄目よ。それよりあなた、聞きたいことがあるのだけど」
「そうそう。わたし達の胸、どう思う?」
「どうって……」
リックが返事に困っていると、二人は浴槽の傍まで来て正座する。そして、リックによく見えるようにとの配慮なのか、浴槽のふちに自分の胸を置いた。
二人の胸はその柔らかさから、浴槽のふちに合わせてふにゃっと形を変える。
目の前に合計四つの母性の象徴を並べられ、リックは嫌でも顔が赤くなった。
「ほら、顔赤くしてないで触ってよ」
何もしようとしないリックに焦れたらしく、リーンべルはまずリックの左腕を掴んでクレアの胸に押し当て、続けて右腕を自分の胸に押し当てた。
「ん……」
「あっ……」
リックの手が胸に触れた瞬間、揃って艶めかしい声を上げるクレアとリーンべル。だが、一番声を上げたかったのはリックに間違いない。
両手の手のひらから伝わる二人の乳首と胸の感触は、それくらいの触り心地だった。
「ねえリック、揉んでよ……」
「あなた……」
期待と媚びとが入り混じった目で見つめられ、あまりの恥ずかしさから正視できなくなったリックは目を逸らした。それでも妻二人の要望には応えなければと思い、恐る恐る両手を動かしてクレアとリーンべルの胸を揉み始める。
「あぅっ……」
「ひんっ……」
ゆっくりと揉んでいくと、二人は我慢ならないのか感じ入った声を上げ、手のひらに当たる乳首が固くなっていく。
リックはといえば、二人の胸の感触に内心で盛大に悲鳴を上げていた。
リーンべルはふにふに、クレアはぷにぷに。
二人の胸を無理に擬音で例えるならそんな感じだ。もちろん、どちらがいいかなど言えるわけがない。聞かれたら、どちらもいいとしか言えないくらいに揉んでみた感触がいい。
「あん……リック、揉むの上手いね……」
「器用だからよ、ん……」
そっと二人に視線を向けると、リーンべルもクレアも頬が赤くなり、目がとろんとしてきていた。
このまま揉み続けたら間違いなく二人はその気になるだろう。今まで散々交わってきたからこそ、リックはそれが分かった。
分かったところで手を止めると、二人は急に現実に意識が戻ったようで、不満そうな目でリックを見た。
「リック、なんで止めるの?」
「そうよ。とっても気持ちよかったのに……」
口々に漏らす言葉にも不満が混じっている。その目が名残り惜しそうにリックの手に向けられていることに気付き、リックはお預けをするように両腕を背後に隠した。
「えっと、二人が本来の目的を忘れそうになっていたので……」
リーンべルとクレアは揃って目を瞬かせた。
「最初の目的ってなんだっけ? 胸を揉んでもらうことじゃなかった?」
「私もそうだと思ったけど……」
普段はしっかりしている二人とは思えないほど、今の彼女達はぼけているらしい。しかし、すぐに思い出したようだ。
「ああ、そうだわ。そういえば、胸についてどう思うか聞いていたのよ」
「ああ、言われてみれば。リックの揉み方が上手いから、ふにゃ〜ってなってたよ」
二人の胸の方がよっぽどふにゃふにゃ……ではなく、自分をふにゃふにゃにさせたとリックは思った。
「で、どうだったの、あなた?」
「わたしも聞きたいな。気持ちよかった? 感触は? 大きさは? 味は?」
「えっと、よかった、です……」
味については答えられないが、よかったというのは嘘偽りなく本音である。もちろん、言った後でものすごく恥ずかしい思いだったが。
それを聞いた二人は嬉しそうに笑った。
「ほら、リックもいいって言ってくれたじゃん。リックが満足してくれるんだから、胸の大きさなんて気にすることないよ」
「そうね。リックが満足してくれるならいいんだけど、私個人としてはやっぱり気になるのよ」
どこか納得いかない表情のクレアに、リーンべルはぽんと手を叩いた。
「あ、そういえば、好きな人に揉んでもらうと大きくなるって聞いたことがあるよ。後は……妊娠しても大きくなるって……」
自分で言って恥ずかしくなったらしく、リーンべルの頬が赤くなる。
「妊娠……」
その言葉で二人の妻はそれぞれ自分の腹に目をやり、次いで合わせたようにリックを見つめた。二人の言いたいことはすぐに分かったので、リックは気まずそうに明後日の方向へと顔を向ける。
「あはは……。まあ、簡単にはできないね……」
「そうね……。魔物が子供を授かりにくいのは知ってたけど、ここまでとはね……」
二人ともその気配は全くないらしく、少し残念そうだった。
そうなってくると、夫のリックは非常に申し訳ない気持ちになり、がっくりと肩を垂れた。
彼女達はそんなリックの様子から、愛する夫が何を思ったか瞬時に分かったらしく、慌てたように会話を再開した。
「そ、そういえば、乳製品も胸の発育にいいって聞いたことがあるわ。ホルスタウロスのミルクなんて、特に効果がありそうじゃない?」
「あ〜、確かにあの子達の胸は大きいしね。でも、クレアは気にしすぎだって。あそこまで大きくなくても、リックは気にしないよ。ね、リック」
「え? あ、ああ、もちろんですよ!」
二人が妊娠した様子を想像していたせいで、リックはよくわからないまま返事をしてしまった。そして、それを瞬時に後悔した。
「……リック、大きい胸が好きなの?」
「……あなた、そうなの?」
悩んでいたクレアはもちろん、リーンべルまでもが真剣な目で見つめてきた。
「え、えっと……」
あまりにも返答に困る質問をされて、リックは言葉に詰まった。
今は二人の妻がいる身だが、結婚前のリックは女性の体に興味を持つことはほとんどなかった。だが、リックも健全な男だ。大きい胸が好きか嫌いかだったら……間違いなく好きな方だった。
その微妙な間だけで夫の答えを悟った妻二人は無表情になり、言った。
「リック、今夜から最低百回はわたし達の胸を揉んでね」
「え」
「ベル、どうせなら回数は固定じゃなく、加算式にしましょ。リックが一回射精するまでに百回揉めなかったら、追加でもう百回揉んでもらうの。どう?」
「え、ちょっと……」
「いいね。そうなると、こうしてのんびりお風呂に入っている場合じゃないかな。さっそくベッドに行こっか。たくさん揉んでもらうことになりそうだし」
さらりととんでもない決まりがリックを無視して決定され、クレアとリーンベルは互いにリックの腕を取って湯舟から引っ張り上げた。
二人のしなやかな腕がリックの腕に絡みつき、次いでその胸が二の腕に押しつけられる。
服を着ている状態で同じことをされたって落ち着いてはいられないのに、裸でそんなことをされたら体が強張るのは当然だった。
特に、直に感じる二の腕に押し当てられた胸の感触は、リックを文字通り抱かれている気分にさせ、肉棒をこれでもかと反応させた。
「リック、今夜はやけにやる気みたいだね。もしかして、胸だけじゃなくて、わたし達のお腹も大きくしたいの? これなら妊娠も期待できそうかな?」
「考えてみれば、揉んでもらうのと妊娠に関してはリックに頑張ってもらうわけよね。でも、それでは全部リックに押しつけるみたいで悪いから、明日ホルスタウロスミルクも注文するわ。とりあえず、大樽で六個ほど」
「いや、二人とも、落ち着きましょう。ね? まずは体を拭いて、きちんと服を着て、それから話し合いを……」
両腕を妻二人に拘束され、囚人よろしく連れて行かれるリック。着替えるのももどかしいのか、脱衣所を素通りしてベッドに行く気らしい。
部屋に入ってしまったら話し合いの余地はまるでなさそうなので、今のうちに二人をなだめないとまずい。
だが、ここまで話が進んでしまうと、もはや手遅れだった。
「どうせベッドに行ったら裸になるんだし、服なんか着なくてもいいじゃん」
「ベルの言う通りよ。今夜はあなたに頑張ってもらうんだし、服なんか着る時間も脱ぐ時間も惜しいわ」
クレアもリーンベルも、聞く耳を持たないのだった。
「いや、待って下さいよ! 僕は胸の大きさには拘りませんから!」
「ふふ、さっきリックの揉み方、気持ちよかったなぁ。あの調子で百回も揉んでもらったら、もっと大きくなる気がしてきたよ……♪」
「あなたが喜んでくれるように、私は絶対に大きくしてみせるわ」
完全にその気になっている二人を見て、リックはもう無理だと悟った。
クレアとリーンベルはすたすたと、リックはずりずりと引きずられるように廊下を移動し、三人の寝室へやってくる。ここは一応リックの部屋にと割り当てられたのだが、どうせ夜は一緒に過ごすからとの理由でほとんど三人の部屋と化している。
部屋の真ん中に置かれたキングサイズのベッドを見て、リックは諦めたようにため息をついた。
「胸の大きさなんて気にしないのに……」
彼の呟きは、部屋の扉がぱたりと閉められた音によってかき消されたのだった。
13/03/19 00:39更新 / エンプティ
戻る
次へ