連載小説
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エピローグ
 クレアの屋敷の一室にて、昼間から腰を振る男女の姿があった。
 男の方は当然リック。相手はリーンベルである。
 お互いに裸となり、リックに跨ったリーンベルが腰を前後に揺すっていた。その動作に合わせて大きな乳房はゆさゆさと弾み、リックの興奮を煽る。
「リンベルさん、もう……!」
「いいよ、いっぱい出して!」
 一際大きくリーンベルが腰を振り、最奥までリックを迎え入れたところで陰茎が弾けた。
「あはっ♪ 四度目なのに、たっぷり出るね〜♪」
 子宮口へと吐き出される精に感じ入りながら、リーンベルは幸せそうに腹を撫でる。そんな彼女と出会い、結ばれてから早くも二ヶ月が過ぎようとしている。
 あの後、クレアとリーンベル、リックの三人はあれこれと話し合い、二人ともリックの妻になるという形でなんとか話は落ち着いた。
 クレアは最初こそ絶対に認めないと息巻いていたが、リックと結ばれたのはリーンベルのおかげだとは思っていたらしく、リーンベルがそれを指摘すると苦い表情になり、そこにリックも頼み込んでなんとかリーンベルも妻となることを認めた。
 クレアがリックに好意を持つようになったのは、初めて彼女がリックの店を訪れた時だったそうだ。
 その日、リックは注文を受けてバラの花を包んでいた。そこへクレアがやってきたのだ。彼女としてはたまたま目に入った店に気まぐれに行ってみただけらしいが、こんな小さな店に領主のクレアがやってくるとは夢にも思わなかったリックは盛大に慌てて、扱っていたバラの棘で指先に軽い怪我をした。リックにとっては単なるドジ話なのだが、クレアにとっては思い出深いらしく、そう語ってくれた彼女の頬は赤かった。
 クレアがそのバラをかなり強引に買い上げたことはリックもよく覚えている。既に売約済みだったが、あれこれとまくし立てて、リックの血が付いたバラを買い取って行ったのだ。
 実はあの時点でリックの血の匂いに強烈に惹かれたらしく、買い取ったバラに付いた一滴の血を何度も舐めたのだと恥ずかしそうに語っていた。そして、その血の味に完全に魅了され、リックを自分の夫にすると決めたらしい。
 そこまではよかったのだが、クレアは領主としての仕事があり、リックに会えるのは会議の日だけ。だから、会議の日は欠かさずリックの店へ通っていたが、領主としての立ち位置や貴族としての誇りもあって素直になれず、このままではリックを自分のものにするのは難しいと思っていたらしい。そこへリーンベルが現れ、半ば強引な形でリックと夫婦になったわけだ。
「あなた、お昼は何がいい……」
 リーンベルに精を搾られつつ、リックがクレアの話してくれたことを考えていると、当のクレアが部屋に入ってきた。領主の仕事が一段落ついたのだろう。
 料理はクレアの担当となっていて、こうしていつもリックに聞きにきてくれる。しかし、二人がベッドの上で愛し合っているのを見て、目を見開いた。
「ちょっとベル! なんでお昼からしてるの!?」
「屋敷のお掃除を頑張ったから、リックにご褒美を貰ってたんだよ」
 悪びれもしないリーンベルに、クレアは泣きそうな顔になって足早にベッドへと近づいてきた。
「精を貰う時は二人一緒にって約束したでしょ!? こんなのずるいわ!」
「あはは、ごめんごめん。ほんとは夜まで我慢するつもりだったんだけど、リックに労いの言葉をかけてもらったら、ムラムラしちゃってさ」
 世間一般ではダンピールとヴァンパイアはそこまで仲が良くないらしいが、この二人はこんな感じに時折言い争うことはあっても、すっかり仲良しである。
 もちろん、最初は仲良くするなんてことはなかった。クレアはリーンベルもリックの妻になることこそ認めたものの、あまり快くは思っていなかった。
 それが改善されたのは三人で町に行った時の出来事がきっかけだ。
 クレア、リーンベルの二人と結婚し、屋敷に三人で暮らすことになったリックは思い切って花屋を閉店した。その手続きやら衣服などを回収する目的で町に戻った時、男二人がたまたまクレアの悪口を言っている現場に遭遇し、それを聞いてしまった。
 彼らはリック達には気づかず「クレア様はろくに町のことをしてくれないくせに、いつもえらそうにしている」といった内容の陰口を叩いていた。
 この会話で、クレアはこんな風に思われていたのかとショックを受け、妻の働きぶりを知っているリックは珍しく怒ってその二人に訂正の言葉を言わせようとした。しかし、ここで誰よりも早く動いたのがリーンベルだった。
 彼女はつかつかと男二人に歩み寄ると、問答無用で彼らをボコボコに叩きのめしたのだ。
 これにはリックもクレアも唖然とした。男二人を綺麗にのして戻ってきたリーンベルにリックがその理由を尋ねると、彼女はむくれながら「同じ妻の悪口を言われて大人しくしているほど、わたしは寛容じゃないもん」と言ったのだった。
 この一件以来、二人の仲は驚くほど良くなった。おかげで、ぎずぎすすることなく夫婦円満な生活を送れていると言っていい。
 そんなわけで、今も言い争ってはいるが、本気の怒り合いではなく、親友か姉妹の小さな喧嘩といった程度だ。
「ねえあなた、ベルがまた抜け駆けしないように、料理は当番制にしない?」
 自分抜きでリックがリーンベルとベッドインしていたことが不満らしく、クレアはそんな提案をした。
 現在、この屋敷の掃除を担当するのがリーンベル、料理担当がクレアとなっている。これも話し合いで決めたことだ。リックももちろん手伝うつもりだったのだが、妻二人から「妻の仕事を夫にやらせるつもりはない」と猛反対され、家事はまったくやらせてもらえない。
 そんなリックが唯一担当しているのが、屋敷の庭園の手入れだった。
 リックが花を育てたり手入れすることを好むと知っているクレアが、リックと結婚した後のことを考えて屋敷の敷地内に庭園を用意していたのだ。リーンベルはこれを「用意周到すぎ!」と笑っていたが、リックはここまで想われていたのかと恐縮ものだった。
 庭園以外にも敷地内には二つの花園がある。一つはクレアが受け持つバラ園、もう一つはリーンベルが受け持つ百合園である。この二つに関しては、三人共同で手入れをする決まりだ。
 最初はクレアのバラ園だけが存在していたのだが、リーンベルがわたしも作りたいと言い出し、じゃあ作るかという流れになった。ちなみに選んだ花が百合なのは、やはりリックが贈った造花の百合を気に入ったからだそうだ。
 こうして三人それぞれに受け持つ担当があるのだが、これはほとんど適材適所で決まっていたりする。
 リーンベルは掃除などの肉体労働を苦に感じないらしく、「得意だから任せて」と自ら掃除担当に名乗り出た。実際、その働きぶりは見事なもので、クレアも素直に感心したほどだった。そのクレアも掃除ができないわけではないのだが、領主としての仕事に忙殺されることが多く、納得がいくまで掃除をする時間がなかなか作れなかった。それでも、結婚するまでは一人で屋敷の状態を維持していたのだから、リックは素直にすごいと感心したものだ。
 クレアは三食の食事を担当することになった。体を動かす仕事は得意なリーンベルだが、料理や裁縫といった細かい仕事は苦手らしく、「わたしは無理だから、二人でよろしく!」と晴れ晴れとした笑顔で言い放ったので、じゃあ私がとクレアの担当になったのだ。
 一応、凝ったものでなければ料理もできるリックは日替わりで料理担当することを提案したのだが、クレアは笑って「あなたに料理なんかさせないわ」と拒否されてしまった。
 その時は少し納得いかなかったリックだが、クレアが作った料理を見て日替わりにしなくてよかったと安堵することになった。
 領主であり貴族でもあるクレアは舌が肥えているおかげもあってか、味はもちろん、見かけまで素晴らしい料理ばかり作るのだ。これを食べた次の日にリックが普通の料理を出そうものなら、恥さらしになるのは確実だった。
 リーンベルも絶賛し「クレアがお嫁さんでよかった!」と、まるで夫のような発言をしていた。
 そのリーンベルだが、クレアの料理をリックがいつも褒めるので、自分も愛する夫に料理を作ってあげたいと言って、クレアと一緒に厨房に入ったことがある。
 リックとしてはリーンベルの手作りというだけで楽しみだったのだが、リーンベルはすぐにとぼとぼと厨房から出てきて言ったのだった。
「やっぱり、わたしには無理……」
 その後、クレアに話を聞くと、ニンジンの皮を剥かせたら、ほとんど芯しか残らなかったそうだ。
 そんなリーンベルの弱点を知っているからこそ、クレアは料理を当番制にしようと言っているのだ。
「ごめんってば!」
「ふふ、じゃあ今夜リックに先に相手をしてもらうのは私ということで勘弁してあげる」
 話はまとまったようで、リーンベルは少しバツが悪そうに頬をかき、クレアは楽しそうに笑っている。
 それを見て、リックは平和で幸せな光景だと微笑んでしまう。
 小さい頃からの夢だった花屋は二人と結婚したと同時に閉店することになったが、リックは少しも残念に思わなかった。
 花はきちんと手入れをしながら育ててやれば、いずれは綺麗な花を咲かせる。しかし、どれだけ手を尽くしても、いずれは枯れてしまう。それは絶対に避けられないことだ。
 だが、リックが手にした二輪の花は違う。
 彼女達は、愛情と精を与えてやれば、いつもまでも美しく咲き誇ってくれる。それは、花に囲まれることに喜びを覚えるリックにはとても嬉しいことだ。
 それだけでなく、いずれはリックの子種が彼女達の腹で芽吹き、新しい命を宿すのだ。魔物からは魔物しか生まれないそうだから、妻達に似て美しい花が生まれることだろう。
 リックは未だに繋がったままのリーンベルの腹へと目を向ける。
 この綺麗な腹の中でいずれ自分の子種が芽吹き、命を宿す。
 膨らんだ腹を撫でて、嬉しそうに微笑むリーンベル。
 それはまさしく幸せな未来そのものだ。しかし、未だに挿入している状態なのがまずかった。
 そんな状態で妊娠だの子供だのといった生々しい想像をしてしまったものだから、インキュバス化してすっかりたくましくなった息子が現金にも反応してしまったのだ。
 リックをしっかりと咥え込んでいるリーンベルは当然のようにそれに気づき、ハッとしたようにリックに顔を向けた。
「あっ、リックがぴくぴくしてる! なになに、まだヤる気? いいよ、じゃあ、五回戦始めようか♪」
「ちょっとベル! 五回戦って、そんなにしてたの!? 駄目、駄目よ! 私に代わって!」
「クレアは料理を作るまでお預けだよ。わたしはお掃除頑張ったご褒美だもん。働かざる者、抱いてもらうべからずだよ」
「そんな言葉、聞いたことないわ!」
「うん。わたしが今考えたから♪」
 再び部屋が騒がしくなった。
 本当の意味で、花に囲まれるというリックの夢は叶った。
 永遠に美しく、賑やかな花達。
 そんな彼女達が、リックは大好きだった。
13/03/19 00:39更新 / エンプティ
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