後編
つい先程までは桃色だった空気が、一瞬にして灰色になった。少なくとも、リックはそう感じていた。
今さっきのクレアとの情事をリーンベルに見られていた。それが分かっただけで、リックの顔色が赤から青へと変わる。
「……どういう意味ですか?」
私の番と言い放ったリーンベルから目が離せない。
そのリーンベルは無言でクレアへと手を伸ばすと、驚くほど無造作に彼女をベッドの端へと押しやった。クレアの破瓜の血が白いシーツに幾つかの赤い染みを作る。
リックは驚いて声も出なかった。私の番と言った意味をようやく理解したのだ。
「えっと、まさか本気ではないですよね……?」
冗談だよ。リーンベルが笑顔でそう言ってくれるのを期待した。しかし、目の前のリーンベルはにこりともしなかった。それどころか、泣きそうな顔になってリックを見つめてきた。
その赤い瞳だけが、強い意思を示すように光を帯びている。
「……本気だよ」
リーンベルは帽子を取ってベッド脇の棚に乗せた。続けて、羽織っていたマントを脱ぎ、長い手袋を外していく。
「ちょ、リンベルさん!?」
リーンベルが身に纏っていたものを次々に脱ぎ始めるので、リックは制止しようと口を開きかける。しかし、リーンベルがロングブーツをするりと脱ぎ、すらりとした美脚を露わにすると、口からはどんな言葉も出てこなかった。
「……上と下、どっちからがいい?」
残るは上下の衣服だけとなったところで、頬を赤く染めながらリーンベルは少し上擦った声でそう尋ねてきた。リックがどちらから先に見たいか訊いているのだが、肝心のリックは口をぱくぱくさせるだけで、言葉も出ない様子だった。
リーンベルはリックから目を逸らすと、上着に手をかけて一息に脱ぎ捨てた。大きな二つの果実が解放されてぷるんと揺れ、リックは無意識のうちにそれを凝視してしまう。リックがそうしている間にも、リーンベルは最後のホットパンツを躊躇いがちに下ろした。
リックは思わず息を飲んだ。クレアの裸を見た時も綺麗だと思ったが、リーンベルの裸も負けていなかった。
真っ白な肌は傷やシミなど一つもなく、光り輝いているようだった。細い手足はすらりと伸びて、彼女がきちんと成熟していることを証明している。そんな彼女の体で最も目を惹くのはやはり見事な二つの乳房だ。見ただけでもその感触が分かるんじゃないかと思えるくらいの質量を誇り、その魅力を暴力的なまでに主張している。
完成された芸術のような裸体はリックの目を惹きつけて放さず、しっかりと目に焼き付いていく。
「……お父さん以外の男の人でわたしの裸を見たの、リックが初めてだよ。だから、その責任は取ってね……」
静かにベッドに上がると、リーンベルは四つん這いになってそろそろとリックに近づいていく。彼女の手足が動く度に、その巨乳がぷるんと揺れる。
覆い被さるように迫ってくるリーンベルを前にして、リックはようやく我に返った。
「ま、待って下さい! 僕にはクレアさんがいますし、大体、リンベルさんにここまでされるようなことしてませんよっ!?」
「ほんとはね、リックがクレアさんとくっつくのを見届けたら、わたしは帰るつもりだったんだ。でも、いざその時になったら、帰るなんてできなかった。だってそれは、リックを諦めることになるから」
ゆっくりとリックへ近寄りつつ、リーンベルの言葉は続いた。
「男の人からの贈り物って、リックがくれた百合の造花が初めてだったんだ……。だからわたし、本当に嬉しかったんだよ?」
リーンベルの唐突な告白で、昨日の彼女の様子に納得ができた。
納得できたが、今の状況は駄目だった。自分には想い人がいるのだ。しかも、つい先程肌を重ねたばかり。だから、ほとんど転がり落ちるようにベッドから逃げ出していた。
「だ、駄目です! いくらリンベルさんが好きだって言ってくれても、こんなの駄目です!」
猫に追われる鼠のように逃げ、寝室の壁を背にするリック。断じて肌を重ねるつもりはないと意思表示をしているつもりである。
しかし、そんな思いも虚しく、リーンベルもベッドから下りてリックにゆっくりと迫ってきた。彼女の直線上には立たないように、リックはずりずりと壁に沿って逃げる。
「好きなの! ねえ、リック。逃げないでよ……」
「駄目ですってば! いい子だから!」
「好きな人の前で裸になった魔物が、いい子でいられるわけないよ……」
完全に端へと追い詰められたリックの前に、リーンベルが迫る。
「リックがクレアさんのこと好きなのは分かってるよ。でも、そのクレアさんを正直にさせたのは、わたしだよ?」
「え……。じゃあ、クレアさんのあの変化はリンベルさんが……?」
リーンベルはこくりと頷いた。
「わたし達ダンピールの魔力はヴァンパイアから理性と思考力を奪うからね。あのレイピアには、わたしの魔力がたっぷりと染みついてる。だからレイピアに貫かれたクレアさんは、リックを想う気持ちに我慢できなくなったんだよ」
リーンベルの説明で、ようやくリックは納得することができた。
信じられないことだが、あのクレアと両想いだったのだ。そして、それをはっきりとした形にしてくれたのがリーンベルということになる。
「でもね、我慢できなくなったのはわたしもだから。だから、もしリックがクレアさんと両想いになれたことをわたしに感謝してるなら、わたしにもご奉仕させて」
「ご奉仕って……」
目の前に立ったリーンベルは、ゆっくりと屈んだ。そして膝立ちになると、その豊満な胸でリックの陰茎を挟み込んだ。
「ひっ……」
「愛しいあなたへのご奉仕だよ」
自分の胸を両手で寄せ合わせ、リックの肉棒に圧力をかける。乳房の弾力と柔らかさで圧迫しながら、肉棒を締め付けていく。
「あぅぅっ……」
膣内とはまた違った快感に、リックは情けない声を漏らした。
挟まれただけでもリックは気持ちいいと感じたのだが、リーンベルはそれで済ますつもりなどないらしい。
左右の乳を交互に上下するように動かし、肉棒ごと揉み回した。肉棒に付いたクレアの愛液が潤滑油となって胸は滑らかに動き、優しい圧迫感と快感とを刷り込むように与えてくる。
「リンベルさん……! ちょっと待って……!」
「やだ! わたしだって、好きな人にご奉仕したいもん!」
リックは早くも限界だった。今日に至るまで、こういった淫らな行為とは無縁だったのだ。免疫など一切持ち合わせていない彼にとって、たぷたぷとした双丘によるパイズリはとても耐えられるものではなかった。
「あぁぁぁぁっ!」
悲鳴とともに精液が吐き出され、リーンベルの谷間を汚していく。
「きゃっ!」
自分の胸でいきなり精が吹き出したことでさすがに驚いたのか、リーンベルの手が止まり、自分の谷間で脈打つリックの陰茎をしげしげと眺めた。
「これがリックの精……。ふふ、あったかい……♪」
嬉しそうに笑うと、リーンベルの手が再び動き出した。おかげでリックは、クレアの中に出したのとほとんど変わらない量の精液をリーンベルの胸に捧げることになった。
優しい胸の感触に促され、筒先から精が我先にと飛び出していく。
「あはは……。こんなに出たってことは、それだけ気持ちよかったのかな?」
「あう……」
下から楽しそうに見上げてくるリーンベルの視線が痛い。それに加えて彼女の豊かな胸は自分の精液で汚れてしまっている。とんでもない失敗を見せつけられているようで、リックは顔を逸らすしかなかった。
「ふふっ、なんだか嬉しいな。リックがわたしの胸で気持ち良くなってくれて。クレアさんよりわたしの方が胸は大きいみたいだし、これはわたしの担当かな……」
パイズリを終えたリーンベルはすっと立ち上がると、リックの背に両腕を回しつつ抱きついた。リーンベルの胸がリックの胸に当たって、ぐにゃりと形を変える。その柔らかさは今し方体験したばかりだが、こうして抱きつかれると改めてその感触を思い知らされた。
「ねえリック、わたしのことは嫌い?」
「え? いや、嫌いでは……」
「じゃあ、わたしのこともお嫁さんにして」
さすがにこの発言にはリックも面食らった。
「いや、私のこともって、それはまずいですよ!」
「どこが? クレアさんと結婚する。わたしとも結婚する。これで解決だよ」
全く解決ではない。それでは重婚ではないか。
リックはそう言いたかったのだが、リーンベルは反論を封じ込めるようにキスをしてきた。すぐに唇を離すようなキスではなく、長い情熱的なキスだった。
花の蜜のような仄かな甘さがリーンベルの唇から伝わってきて、口内に広がる。くどくないのに癖になりそうな甘さだ。それだけに、もっと味わいたいと自分から唇を押しつけてしまう。
「ん……」
リーンベルはキスに応じつつ、そのままリックをベッドまで引きずるようにつれていくと、もつれ合うように倒れ込んだ。
そこでようやくキスを終えると、リックの上着を素早く剥ぎ取る。
リックを完全に裸にすると、リーンベルは両腕を伸ばしてリックを抱き寄せた。
リーンベルに覆い被さり、後は彼女を抱くだけという状況になって、リックの理性は激しくぐらついていた。彼女の柑橘系を思わせるすっきりとした匂いも、この状況ではリックの本能を煽る媚薬じみた効果を発揮している。
頭の中で、『浮気』だの『一夫多妻』だのといった言葉が滅茶苦茶に暴れ回る。
「お願いリック。あなたのものにして……」
潤んだ目で見つめられ、切なげな声で懇願されたその瞬間、彼の理性は盛大な音を立てて崩壊した。
男の獣欲が勝どきを上げ、目の前のものを受け取れと本能が命令する。
体中の血がぐつぐつと煮え滾り、リーンベルの瑞々しい体を乱暴に抱きしめると、リックは躊躇うことなく剛直を突き入れた。
「んっ! 大きいのが、入って……!」
リーンベルの体がのけ反り、びくりと震える。
彼女の秘所を貫いたリックは、自分のものが温かい締め付けの中に埋没していることをはっきりと感じた。二度の射精を経ていなければ、この時点で果てていたかもしれない。それくらいリーンベルの膣は熱烈に歓迎してくれていた。それに応じるように中で脈打たせると、彼女は体を悩ましげにくねらせた。
「あっ……。お腹の中、リックでいっぱい……」
艶めかしく弾む吐息がリックの頬に吹きかかり、それが追い風となってリックの欲望の火を煽っていく。
昂ぶる欲望に従い、リックは動き出した。
最初だからと遠慮することもなく、激しく抽送を繰り返す。擦れ合う部分からは、湿った水音が立ち始めた。
「もっと、いっぱいにしてあげますよ……! お腹の中に、納まりきらないくらいにね……!」
欲望が理性を振り切ったことで、リックらしからぬ言葉がその口から漏れる。言葉だけでなく、その腰使いも乱暴に近い。それでもリーンベルは歓喜の声を漏らした。
「あ、うう、んっ……! リック、激し……♪」
「誘惑したのは、リンベルさんですからね……! クレアさんとも上手くいくように、責任、取って下さいよ……!」
「取るよ、責任、やんっ! 取るから、んっ、あなたのお嫁さんにして!」
返事の代わりにより激しく腰を上下させて、膣奥の子宮口を何度もノックする。
「あ、いやぁ、ん、だめぇ、変になっちゃうよぉ……!」
突き入れる度にリーンベルは喘ぎ、体の下で彼女の胸が踊る感触が余計にリックを興奮させる。
膣内の熱が上昇し、蠕動を繰り返す。それに催促されるように、リックは急速に限界へと誘われた。もはや何も考えられず、ただリーンベルの蜜壷を抉るだけだった。
「あ、いや、いやぁぁぁぁっ!」
びくりとリーンベルの体が震えたと同時に、彼女の全身がぐっと強張った。それによって肉棒がいっそう強く締め付けられ、臨界点を突破した。
目の眩むような快感を伴いつつ、肉棒を脈打たせて膣奥にたっぷりと精を撃ち出していく。
「ん、ううっ、中で出てるよぉっ……」
迸りを感じてリーンベルが艶めかしく腰をくねらせる。膣内の締め付けは緩むどころかますます締まり、それによって精液が搾られ、膣奥を満たしていく。
亀頭が温かいものにまみれるのを感じながら、リックは荒い息を吐いて腰を震わせた。
「はぁぁぁ……」
長い息を吐きつつ、どこか満たされた顔でリーンベルは身悶えした。
「これでわたしもリックのお嫁さんだね……。言っとくけど、返品なんてできないからね……?」
興奮が急速に冷めてきたリックは一瞬、誰に? と思ったが、それ以上に自分が節操のない男に感じられて、軽い自己嫌悪を覚えた。
「……抱いてしまった以上はそんなことしませんよ。ただ、リンベルさんは妹を探していたのでしょう? そちらはどうするつもりですか?」
リーンベルは妹と婿を探していた。そのうち、婿に関しては恐れ多くも自分という存在が見つかったわけだが、妹の方は未だに見つかっていないのだ。
仮に結婚するとなると、妹のことはどうするのか、リックは気になった。
「お婿さんが見つかったから、妹を探すのはやめるよ。わたしが勝手に探してただけだし」
リーンベルはあっさりと言ってのけた。あまりにもあっさりしすぎているので、リックは相変わらず繋がったままのリーンベルを驚いて見つめたくらいだ。
「いいんですか? 確か、伝える言葉があったはずじゃ」
「うん。幸せになりなよって言うつもりだった。でも、わたし自身が幸せになったからね。それを放り出してまで妹を探しに行く気にはなれないよ。リックと離れたくないもん」
リーンベルの両手が伸びてきて、リックの頬に添えられる。それだけで、リックの顔が赤くなった。愛されていると、嫌でも実感してしまったのだ。
「ええと、その、いいんですか? 自分の他に妻がいる男でも」
人間の女性なら、怒って張り手の一発もかましそうなものである。だが、魔物の彼女にそういう感覚はないらしい。
「わたしは気にしないよ。だって、同じ男を好きになった人だもん。二人なら、よりリックを幸せにしてあげられると思うし。それに」
そこでリーンベルは言葉を区切り、ちょっとだけ楽しそうに見つめてきた。
「まだ、クレアさんがリックと結婚するとは限らないでしょ? 一緒に寝ただけだしね。結婚しなかったらわたしはリックを独占できるわけだし、どちらに転んでも不満なんかないよ」
確かにクレアとは一度交わっただけで、今後のことについてはまだ分からない。分からないが、さすがに今までどおりの関係というわけにはいかない気がする。だから、クレアが責任を取れと言ってきたら、リックはきちんと応じるつもりだ。
「まあ、そうですけど……。一夫多妻なんていいのかな……」
その辺りの感覚は人であるリックには理解できず、首を傾げるばかり。
「いいのっ。美人のお嫁さんを二人も貰えるんだから、リックは喜べばいいんだよ。だからね……」
リーンベルはリックに抱きつくと、ごろりと寝返りを打って、リックを押し倒した体勢になった。
「あの、リンベルさん? 今度は何を……」
「お嫁さんのことも、喜ばせなくちゃね。言った以上は、きちんと実行してもらうよ」
「言ったって、何をですか……?」
戸惑うリックに、リーンベルは悪戯っぽく微笑んだ。
「お腹に納まりきらないくらいいっぱいにしてやるって、リックは言ったもん。だからたっぷり出してもらうよ、あなた♪」
「え……」
そういえば確かに言った。そして、勢いに任せてなんて大胆なことを言ったんだと、リックは今更後悔した。
「いや、待ちましょう! ちょっと休憩を」
「待たないよ。さ、再開しよっ♪」
リーンベルの膣が肉棒を締め上げ、リックの息子は呼応して固さを取り戻していく。
そして激しい二回戦が始まったのだった。
今さっきのクレアとの情事をリーンベルに見られていた。それが分かっただけで、リックの顔色が赤から青へと変わる。
「……どういう意味ですか?」
私の番と言い放ったリーンベルから目が離せない。
そのリーンベルは無言でクレアへと手を伸ばすと、驚くほど無造作に彼女をベッドの端へと押しやった。クレアの破瓜の血が白いシーツに幾つかの赤い染みを作る。
リックは驚いて声も出なかった。私の番と言った意味をようやく理解したのだ。
「えっと、まさか本気ではないですよね……?」
冗談だよ。リーンベルが笑顔でそう言ってくれるのを期待した。しかし、目の前のリーンベルはにこりともしなかった。それどころか、泣きそうな顔になってリックを見つめてきた。
その赤い瞳だけが、強い意思を示すように光を帯びている。
「……本気だよ」
リーンベルは帽子を取ってベッド脇の棚に乗せた。続けて、羽織っていたマントを脱ぎ、長い手袋を外していく。
「ちょ、リンベルさん!?」
リーンベルが身に纏っていたものを次々に脱ぎ始めるので、リックは制止しようと口を開きかける。しかし、リーンベルがロングブーツをするりと脱ぎ、すらりとした美脚を露わにすると、口からはどんな言葉も出てこなかった。
「……上と下、どっちからがいい?」
残るは上下の衣服だけとなったところで、頬を赤く染めながらリーンベルは少し上擦った声でそう尋ねてきた。リックがどちらから先に見たいか訊いているのだが、肝心のリックは口をぱくぱくさせるだけで、言葉も出ない様子だった。
リーンベルはリックから目を逸らすと、上着に手をかけて一息に脱ぎ捨てた。大きな二つの果実が解放されてぷるんと揺れ、リックは無意識のうちにそれを凝視してしまう。リックがそうしている間にも、リーンベルは最後のホットパンツを躊躇いがちに下ろした。
リックは思わず息を飲んだ。クレアの裸を見た時も綺麗だと思ったが、リーンベルの裸も負けていなかった。
真っ白な肌は傷やシミなど一つもなく、光り輝いているようだった。細い手足はすらりと伸びて、彼女がきちんと成熟していることを証明している。そんな彼女の体で最も目を惹くのはやはり見事な二つの乳房だ。見ただけでもその感触が分かるんじゃないかと思えるくらいの質量を誇り、その魅力を暴力的なまでに主張している。
完成された芸術のような裸体はリックの目を惹きつけて放さず、しっかりと目に焼き付いていく。
「……お父さん以外の男の人でわたしの裸を見たの、リックが初めてだよ。だから、その責任は取ってね……」
静かにベッドに上がると、リーンベルは四つん這いになってそろそろとリックに近づいていく。彼女の手足が動く度に、その巨乳がぷるんと揺れる。
覆い被さるように迫ってくるリーンベルを前にして、リックはようやく我に返った。
「ま、待って下さい! 僕にはクレアさんがいますし、大体、リンベルさんにここまでされるようなことしてませんよっ!?」
「ほんとはね、リックがクレアさんとくっつくのを見届けたら、わたしは帰るつもりだったんだ。でも、いざその時になったら、帰るなんてできなかった。だってそれは、リックを諦めることになるから」
ゆっくりとリックへ近寄りつつ、リーンベルの言葉は続いた。
「男の人からの贈り物って、リックがくれた百合の造花が初めてだったんだ……。だからわたし、本当に嬉しかったんだよ?」
リーンベルの唐突な告白で、昨日の彼女の様子に納得ができた。
納得できたが、今の状況は駄目だった。自分には想い人がいるのだ。しかも、つい先程肌を重ねたばかり。だから、ほとんど転がり落ちるようにベッドから逃げ出していた。
「だ、駄目です! いくらリンベルさんが好きだって言ってくれても、こんなの駄目です!」
猫に追われる鼠のように逃げ、寝室の壁を背にするリック。断じて肌を重ねるつもりはないと意思表示をしているつもりである。
しかし、そんな思いも虚しく、リーンベルもベッドから下りてリックにゆっくりと迫ってきた。彼女の直線上には立たないように、リックはずりずりと壁に沿って逃げる。
「好きなの! ねえ、リック。逃げないでよ……」
「駄目ですってば! いい子だから!」
「好きな人の前で裸になった魔物が、いい子でいられるわけないよ……」
完全に端へと追い詰められたリックの前に、リーンベルが迫る。
「リックがクレアさんのこと好きなのは分かってるよ。でも、そのクレアさんを正直にさせたのは、わたしだよ?」
「え……。じゃあ、クレアさんのあの変化はリンベルさんが……?」
リーンベルはこくりと頷いた。
「わたし達ダンピールの魔力はヴァンパイアから理性と思考力を奪うからね。あのレイピアには、わたしの魔力がたっぷりと染みついてる。だからレイピアに貫かれたクレアさんは、リックを想う気持ちに我慢できなくなったんだよ」
リーンベルの説明で、ようやくリックは納得することができた。
信じられないことだが、あのクレアと両想いだったのだ。そして、それをはっきりとした形にしてくれたのがリーンベルということになる。
「でもね、我慢できなくなったのはわたしもだから。だから、もしリックがクレアさんと両想いになれたことをわたしに感謝してるなら、わたしにもご奉仕させて」
「ご奉仕って……」
目の前に立ったリーンベルは、ゆっくりと屈んだ。そして膝立ちになると、その豊満な胸でリックの陰茎を挟み込んだ。
「ひっ……」
「愛しいあなたへのご奉仕だよ」
自分の胸を両手で寄せ合わせ、リックの肉棒に圧力をかける。乳房の弾力と柔らかさで圧迫しながら、肉棒を締め付けていく。
「あぅぅっ……」
膣内とはまた違った快感に、リックは情けない声を漏らした。
挟まれただけでもリックは気持ちいいと感じたのだが、リーンベルはそれで済ますつもりなどないらしい。
左右の乳を交互に上下するように動かし、肉棒ごと揉み回した。肉棒に付いたクレアの愛液が潤滑油となって胸は滑らかに動き、優しい圧迫感と快感とを刷り込むように与えてくる。
「リンベルさん……! ちょっと待って……!」
「やだ! わたしだって、好きな人にご奉仕したいもん!」
リックは早くも限界だった。今日に至るまで、こういった淫らな行為とは無縁だったのだ。免疫など一切持ち合わせていない彼にとって、たぷたぷとした双丘によるパイズリはとても耐えられるものではなかった。
「あぁぁぁぁっ!」
悲鳴とともに精液が吐き出され、リーンベルの谷間を汚していく。
「きゃっ!」
自分の胸でいきなり精が吹き出したことでさすがに驚いたのか、リーンベルの手が止まり、自分の谷間で脈打つリックの陰茎をしげしげと眺めた。
「これがリックの精……。ふふ、あったかい……♪」
嬉しそうに笑うと、リーンベルの手が再び動き出した。おかげでリックは、クレアの中に出したのとほとんど変わらない量の精液をリーンベルの胸に捧げることになった。
優しい胸の感触に促され、筒先から精が我先にと飛び出していく。
「あはは……。こんなに出たってことは、それだけ気持ちよかったのかな?」
「あう……」
下から楽しそうに見上げてくるリーンベルの視線が痛い。それに加えて彼女の豊かな胸は自分の精液で汚れてしまっている。とんでもない失敗を見せつけられているようで、リックは顔を逸らすしかなかった。
「ふふっ、なんだか嬉しいな。リックがわたしの胸で気持ち良くなってくれて。クレアさんよりわたしの方が胸は大きいみたいだし、これはわたしの担当かな……」
パイズリを終えたリーンベルはすっと立ち上がると、リックの背に両腕を回しつつ抱きついた。リーンベルの胸がリックの胸に当たって、ぐにゃりと形を変える。その柔らかさは今し方体験したばかりだが、こうして抱きつかれると改めてその感触を思い知らされた。
「ねえリック、わたしのことは嫌い?」
「え? いや、嫌いでは……」
「じゃあ、わたしのこともお嫁さんにして」
さすがにこの発言にはリックも面食らった。
「いや、私のこともって、それはまずいですよ!」
「どこが? クレアさんと結婚する。わたしとも結婚する。これで解決だよ」
全く解決ではない。それでは重婚ではないか。
リックはそう言いたかったのだが、リーンベルは反論を封じ込めるようにキスをしてきた。すぐに唇を離すようなキスではなく、長い情熱的なキスだった。
花の蜜のような仄かな甘さがリーンベルの唇から伝わってきて、口内に広がる。くどくないのに癖になりそうな甘さだ。それだけに、もっと味わいたいと自分から唇を押しつけてしまう。
「ん……」
リーンベルはキスに応じつつ、そのままリックをベッドまで引きずるようにつれていくと、もつれ合うように倒れ込んだ。
そこでようやくキスを終えると、リックの上着を素早く剥ぎ取る。
リックを完全に裸にすると、リーンベルは両腕を伸ばしてリックを抱き寄せた。
リーンベルに覆い被さり、後は彼女を抱くだけという状況になって、リックの理性は激しくぐらついていた。彼女の柑橘系を思わせるすっきりとした匂いも、この状況ではリックの本能を煽る媚薬じみた効果を発揮している。
頭の中で、『浮気』だの『一夫多妻』だのといった言葉が滅茶苦茶に暴れ回る。
「お願いリック。あなたのものにして……」
潤んだ目で見つめられ、切なげな声で懇願されたその瞬間、彼の理性は盛大な音を立てて崩壊した。
男の獣欲が勝どきを上げ、目の前のものを受け取れと本能が命令する。
体中の血がぐつぐつと煮え滾り、リーンベルの瑞々しい体を乱暴に抱きしめると、リックは躊躇うことなく剛直を突き入れた。
「んっ! 大きいのが、入って……!」
リーンベルの体がのけ反り、びくりと震える。
彼女の秘所を貫いたリックは、自分のものが温かい締め付けの中に埋没していることをはっきりと感じた。二度の射精を経ていなければ、この時点で果てていたかもしれない。それくらいリーンベルの膣は熱烈に歓迎してくれていた。それに応じるように中で脈打たせると、彼女は体を悩ましげにくねらせた。
「あっ……。お腹の中、リックでいっぱい……」
艶めかしく弾む吐息がリックの頬に吹きかかり、それが追い風となってリックの欲望の火を煽っていく。
昂ぶる欲望に従い、リックは動き出した。
最初だからと遠慮することもなく、激しく抽送を繰り返す。擦れ合う部分からは、湿った水音が立ち始めた。
「もっと、いっぱいにしてあげますよ……! お腹の中に、納まりきらないくらいにね……!」
欲望が理性を振り切ったことで、リックらしからぬ言葉がその口から漏れる。言葉だけでなく、その腰使いも乱暴に近い。それでもリーンベルは歓喜の声を漏らした。
「あ、うう、んっ……! リック、激し……♪」
「誘惑したのは、リンベルさんですからね……! クレアさんとも上手くいくように、責任、取って下さいよ……!」
「取るよ、責任、やんっ! 取るから、んっ、あなたのお嫁さんにして!」
返事の代わりにより激しく腰を上下させて、膣奥の子宮口を何度もノックする。
「あ、いやぁ、ん、だめぇ、変になっちゃうよぉ……!」
突き入れる度にリーンベルは喘ぎ、体の下で彼女の胸が踊る感触が余計にリックを興奮させる。
膣内の熱が上昇し、蠕動を繰り返す。それに催促されるように、リックは急速に限界へと誘われた。もはや何も考えられず、ただリーンベルの蜜壷を抉るだけだった。
「あ、いや、いやぁぁぁぁっ!」
びくりとリーンベルの体が震えたと同時に、彼女の全身がぐっと強張った。それによって肉棒がいっそう強く締め付けられ、臨界点を突破した。
目の眩むような快感を伴いつつ、肉棒を脈打たせて膣奥にたっぷりと精を撃ち出していく。
「ん、ううっ、中で出てるよぉっ……」
迸りを感じてリーンベルが艶めかしく腰をくねらせる。膣内の締め付けは緩むどころかますます締まり、それによって精液が搾られ、膣奥を満たしていく。
亀頭が温かいものにまみれるのを感じながら、リックは荒い息を吐いて腰を震わせた。
「はぁぁぁ……」
長い息を吐きつつ、どこか満たされた顔でリーンベルは身悶えした。
「これでわたしもリックのお嫁さんだね……。言っとくけど、返品なんてできないからね……?」
興奮が急速に冷めてきたリックは一瞬、誰に? と思ったが、それ以上に自分が節操のない男に感じられて、軽い自己嫌悪を覚えた。
「……抱いてしまった以上はそんなことしませんよ。ただ、リンベルさんは妹を探していたのでしょう? そちらはどうするつもりですか?」
リーンベルは妹と婿を探していた。そのうち、婿に関しては恐れ多くも自分という存在が見つかったわけだが、妹の方は未だに見つかっていないのだ。
仮に結婚するとなると、妹のことはどうするのか、リックは気になった。
「お婿さんが見つかったから、妹を探すのはやめるよ。わたしが勝手に探してただけだし」
リーンベルはあっさりと言ってのけた。あまりにもあっさりしすぎているので、リックは相変わらず繋がったままのリーンベルを驚いて見つめたくらいだ。
「いいんですか? 確か、伝える言葉があったはずじゃ」
「うん。幸せになりなよって言うつもりだった。でも、わたし自身が幸せになったからね。それを放り出してまで妹を探しに行く気にはなれないよ。リックと離れたくないもん」
リーンベルの両手が伸びてきて、リックの頬に添えられる。それだけで、リックの顔が赤くなった。愛されていると、嫌でも実感してしまったのだ。
「ええと、その、いいんですか? 自分の他に妻がいる男でも」
人間の女性なら、怒って張り手の一発もかましそうなものである。だが、魔物の彼女にそういう感覚はないらしい。
「わたしは気にしないよ。だって、同じ男を好きになった人だもん。二人なら、よりリックを幸せにしてあげられると思うし。それに」
そこでリーンベルは言葉を区切り、ちょっとだけ楽しそうに見つめてきた。
「まだ、クレアさんがリックと結婚するとは限らないでしょ? 一緒に寝ただけだしね。結婚しなかったらわたしはリックを独占できるわけだし、どちらに転んでも不満なんかないよ」
確かにクレアとは一度交わっただけで、今後のことについてはまだ分からない。分からないが、さすがに今までどおりの関係というわけにはいかない気がする。だから、クレアが責任を取れと言ってきたら、リックはきちんと応じるつもりだ。
「まあ、そうですけど……。一夫多妻なんていいのかな……」
その辺りの感覚は人であるリックには理解できず、首を傾げるばかり。
「いいのっ。美人のお嫁さんを二人も貰えるんだから、リックは喜べばいいんだよ。だからね……」
リーンベルはリックに抱きつくと、ごろりと寝返りを打って、リックを押し倒した体勢になった。
「あの、リンベルさん? 今度は何を……」
「お嫁さんのことも、喜ばせなくちゃね。言った以上は、きちんと実行してもらうよ」
「言ったって、何をですか……?」
戸惑うリックに、リーンベルは悪戯っぽく微笑んだ。
「お腹に納まりきらないくらいいっぱいにしてやるって、リックは言ったもん。だからたっぷり出してもらうよ、あなた♪」
「え……」
そういえば確かに言った。そして、勢いに任せてなんて大胆なことを言ったんだと、リックは今更後悔した。
「いや、待ちましょう! ちょっと休憩を」
「待たないよ。さ、再開しよっ♪」
リーンベルの膣が肉棒を締め上げ、リックの息子は呼応して固さを取り戻していく。
そして激しい二回戦が始まったのだった。
13/03/12 00:00更新 / エンプティ
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