連載小説
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(112)大百足(オオムカデ)
大百足が、白い着物をまとって舞台の上に立っていた。
幾対もの足をはやした下半身を起きあがらせ、人の姿と変わらぬ上半身をもたげて立っていた。
両手には扇を持っており、響く笛の音と、時折鳴る太鼓に合わせ、ゆっくりと舞う。
大百足という魔物の姿と、顔に施された禍々しい隈取りが、舞に恐ろしい気配を付け加える。
だが、彼女の姿は恐ろしくはあるものの、どこか目を引きつけるような異様な魅力があった。
「そこにぃ〜きたぁるはぁ〜ゆみのあつたかぁぁ〜」
舞台袖から老人の、妙に間延びした声が響いた。
そして大百足の舞う舞台に、若い男が登場する。
磨き上げられた鎧を身にまとい、弓を携えた男だった。
顔立ちはまだ少年の気配を残していたが、そこに宿る表情はりりしかった。
「はちりのむかでぇにぃぃ、ゆみをひきぃ〜たおしたりぃぃ〜〜〜」
老人の声にあわせ、鎧姿の男は手にしていた弓を構えた。
そして背負った空の矢筒から、矢を一本抜き出すような仕草をすると、存在しない矢を弓につがえて、引き絞った。
数秒間、男の動きが止まり、弦を引く指がゆるむ。直後、びぃん、と弦が空を打つ音が鳴り響いた。
ただ弓を構えて鳴らしただけにすぎない。だというのに、大百足は動きを止め、ばたりと舞台の上に倒れ伏した。
「かくしてぇ〜〜みずほのさとよりぃ〜〜わざわいたちさりたりぃ〜〜」
カン、カンと拍子木が鳴り響き、太鼓と笛の音が高まる。
そして幕が舞台に降りると同時に、拍子木が高らかに鳴った。
「・・・・・・ふぅ・・・」
すべて終わったことに、男は低くため息をついた。
今年も無事、勤め上げることが出来た。
彼は構えていた弓をおろすと、倒れ伏す大百足の元まで歩み寄った。
「お疲れさま」
「うん、そっちもお疲れさま」
大百足は顔を上げると、男に向けてにっこりと微笑みながら、そう労いの言葉を口にした。
隈取りこそ恐ろしげであるが、表情は柔らかかった。
「怪我はない?立てる?」
「大丈夫よ」
男の差し出した手を取り、大百足は起きあがった。
「はいはい、お疲れさま〜」
巫女装束をまとった女が、舞台袖から二人の方へと歩み寄ってきた。
「今年も見事だったわよ。ほら、すぐ宴会が始まるから、二人とも準備しなさい」
「はい」
巫女の言葉に、大百足と男はうなづいた。
「じゃあ、また後でね」
「うん」
そう言葉を交わすと、二人は舞台袖から楽屋に向けて移動していった。



弓使いのアツタカの伝説は、この国のあちこちにある。
曰く、身の丈八丈の大イノシシを二本の矢でしとめた。
曰く、二十人力の力で城の門を押し開いた。
曰く、狼の群に矢を射放ち、一本の矢で三頭の狼をしとめた。
そしてこの近辺では、山に住む体長八里の大百足を退治したという話が伝わっている。
アツタカのおかげで大百足はいなくなり、付近の里は平和になった。そのことを忘れぬよう毎年祭りをやっているほどだ。
そして、今年もまた祭りの目玉である再現劇が奉納され、人々は宴会を楽しんでいた。
神社の境内にゴザを広げ、めいめいが好きなところに座って飲み食いしている。
「お、アツタカ様がきたぞ!」
酒を飲み、料理をつついていると、不意に声が上がった。
人々が顔を向けると、舞台の上で鎧をまとっていた男が、境内に現れたところだった。
すでに鎧は脱いでおり、普段着と変わらぬ格好だった。
「おーい、こっちだ、こっち来い」
男に、老人が中心となったグループから声がかかった。
「あ、はい」
「こっちだ、こっちに座れ」
祖父と孫といってもいいほど年上の老人が、自身の傍らのゴザをたたくままに、男はそこに腰を下ろした。
「おーし、今年もよくやったなあ」
「お前さんのアツタカは凛々しくていいぞ」
「ま、ワシの若い頃には負けるけどな」
すでにできあがっている老人たちが、男に口々に声をかけた。
「いや、僕は立派な鎧着て、弓を鳴らしただけですし・・・」
「それが難しいのよ、それが」
「妙に緊張してると、十分に引く前に指が外れちまうからな」
「それをお前さんは、よくやったよ」
「ま、ワシの若い頃には負けるけどな」
「ははは・・・」
老人たちの賞賛の言葉に、男は照れくさそうに笑った。
「それで、八里の大百足はまだか?」
「ああ、大百足ならまだ化粧を落としてるところだと思います」
頬や目元など、顔全体に描き込まれた隈取りは、遠くから見てもはっきりとわかるほど立派なものだった。
鎧の着脱にも時間はかかったが、大百足の隈取りに比べれば楽なものだ。
「それで若者よ。あの大百足の嬢ちゃんとはどうなんだ?」
「どうなんだって・・・まあ、そこそこ仲はいいと思いますけど」
「そういうのじゃないんだなあ」
当たり障りのない若者の返答に、老人の一人は腕を組みながら口を開いた。
「昔から、アツタカと八里の大百足を演じた男女は、結構深い仲になれるって話があるんだよ」
「ほれ、サノキチのじいさんとばあさんも、アツタカと八里やってただろ?」
「とにかく、せっかくアツタカを演じたんだから、その御利益に預かってもいいじゃないかって話だ」
「ま、ワシの若い頃には負けるけどな」
「は、はぁ・・・」
老人たちの言葉に、男は反応に困った。
確かに多少仲はいいとは思うが、あくまで友人としての仲の良さだ。
それに、大百足とは三年ほど連続でアツタカと八里の大百足を演じている。
老人たちの言葉が事実だとするなら、すでにそこそこの仲になっているはずだ。
「あ、いたいた」
不意に男の背中に、女の声がかかった。彼が振り返ってみると、巫女が背後に立っていた。
「ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
「何ですか?」
「大百足ちゃん、ちょっと疲れちゃったみたいで、今日は帰りたいって。それで、君に大百足ちゃんを送ってもらいたいんだけど・・・」
「わかりました。今どこに?」
「楽屋よ」
「はい・・・じゃあ、すみませんみなさん、ちょっと僕はここで失礼します」
男は顔を前に向けると、老人たちに向けて軽く頭を下げた。
「お、早速御利益がきたみたいだな!」
「よいか若者、当たって砕けろだ!」
「色よい返事がもらえるといいな!」
「ま、ワシの若い頃には負けるけどな」
「ははは・・・」
男は老人たちの言葉に、半笑いで応じながらゴザを立った。
そして、宴会の席の間を通り抜けながら、彼は社務所に入った。
廊下を進み、普段は空き部屋の楽屋の前に立つと、彼は一呼吸おいてから襖に向けて声をかけた。
「僕だ。開けるけどいい?」
「うん、いいよ」
大百足の声に、彼は襖に手をかける。
すると、薄明かりのともる楽屋に、大百足が下半身でとぐろを巻くようにして座っていた。
「調子悪いって聞いたけど、大丈夫?」
「うん、ちょっと疲れただけだから・・・」
隈取りを落としたきれいな顔に、どこか弱々しい笑みを浮かべながら、彼女は応じる。
「巫女さんから送ってくれって頼まれたんだけど・・・」
「いいわよ。少し疲れただけだし・・・それに、宴会抜け出させたみたいで悪いし・・・」
「いいよいいよ。どうせあのまま残っていても、ダメ出し大会で料理食べる暇もないし」
彼はそう、大百足の申し訳なさを和らげるように言った。
「それじゃあ・・・お願いしようかな」
大百足は彼の言葉に、しばし逡巡してからそう言った。
「立てる?」
「大丈夫よ。そこまではないわ」
百足型の下半身のとぐろを解き、大百足は身を起こした。
腰から下、人で言うなら膝のあたりまでの体節を直立させ、幾対ものの足で体を支える。
「行こうか」
「うん」
かちかちと、甲殻が床板を打つ音を立てながら、彼女は歩きだした。
社務所を出て、喧噪の響く境内をわき目に、二人は神社を後にした。
すでに日はだいぶ傾いており、夜の訪れはもうすぐのようだった。
「・・・ねえ・・・」
並んで道を進みながら、ふと大百足が口を開いた。
「アツタカと、八里を演じた二人の話・・・知ってる?」
「ああ、さっき爺様たちに聞かされたよ」
大百足の言葉に、男は頷いた。
「まあ、一回演じただけで夫婦になった人もいるらしいけど、それなら三回も演じた僕たちは何だって話だよね」
そう、男と大百足は三度も演じている。
だというのに、二人の仲はこうして言葉を交わす程度にとどまっていた。
「うん・・・でも、御利益のおかげでこういうやってお話したり、送ってもらったりしてるなら・・・私は・・・」
「ははは、三回演じてこのぐらいなら、夫婦になるには僕はあと何回アツタカをやればいいんだろうね?」
そう男が言うと、大百足が表情をこわばらせた。
少しだけ青みがかった頬に、朱が差している。
彼女の紅潮に、男は自分の何気ない発言の意味するところに思い至った。
「あ・・・いや、そう言う意味じゃなくて・・・」
「うん、大丈夫。わかってるから」
男の言葉に、大百足は小さく首を振った。
どうやら、誤解は解けたようだ。確かに男は大百足に対して好意を抱いていたが、それは彼の一方的な感情だった。
彼女と夫婦になりたい、という気持ちはあるが、彼としては大百足の幸せや気持ちを優先したかった。
だから、アツタカと大百足を三度も演じたことを盾に、彼女に婚姻を強要するようなことはしたくない。
だが、誤解は解けたものの、二人の間にいくらかの気まずさが取り残された。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
言葉もなく、二人は夕日に照らされる道を歩いていた。
徐々に二人の影が長く引き延ばされていくが、二人の間には沈黙が横たわっていた。
やがて、二人は村と山の境目にある、小さな小屋に至った。
大百足の住まいだ。
「今日は、ありがとうね・・・」
小屋の戸口に立った大百足が、男を振り返りながら口を開いた。
「いや、こっちこそ特に何事もなくてほっとしてるよ」
小屋までの道中で、大百足が体調を崩すことがなくてよかった。
「うん・・・じゃあ、また明日、ね・・・」
「ああ・・・」
本当はもう少し言葉を交わしたい。その衝動を胸の奥で押さえ込みながら、男は大百足の別れの言葉に頷いた。
「・・・」
大百足が小屋の戸に向き直り、ゆっくりと戸を開いていく。
今日はこれでお別れだ。だが、明日になればまた会える。だから、大丈夫。
そう男が自身に言い聞かせていると、大百足が戸を開いたところで動きを止めた。
「・・・・・・本当はね・・・・・・」
男に背を向けたまま、大百足が言葉を紡ぐ。
「あなたのことが、好きです」
「っ!?」
大百足の突然の告白に、男は胸を強く打たれたように吐息を漏らした。
「でも、あなたが私のことをあまり好きじゃないかもしれないと思って、今まで言えなかったの。あなたが私に優しいのは、誰にでも優しいからじゃないかとか、あなたと話すのが楽しいのは、私の方だけじゃないかとか、そんな不安でいっぱいだった」
「・・・それは・・・」
「返事はいいわ。私、もう決めたから」
くるり、と男の方に体ごと向きながら、大百足は続けた。
「私のことを、好きになってください」
そう言うと、大百足は一息に男との距離を詰めた。
彼が驚いて身を引く間もなく、大百足が男に抱きつく。
両腕と、数対の節足が彼の体を抱きしめ、大百足の顔が彼の顔に近づく。
「・・・!」
そして、妙に間延びした一瞬を挟んで、大百足の唇と男のそれが重なった。
男が最初に感じたのは、唇の柔らかさだった。
だが直後、彼女の唇の奥から液体が彼の口内に流れ込んだ。
大百足の温もりを帯び、さらさらとした甘く、ほのかに苦い液体だ。
「っ!?」
男はのどの奥から声を出そうとするが、後から後から注がれる液体に息を詰まらせ、ついに液体を飲み込んでしまった。
男ののどが数度上下したところで、不意に大百足が唇を話す。
「げほっ・・・!」
押さえ込まれていた口が解放され、彼は大きくせき込みながら、口中に残る液体を吐き出した。
液体は、男を抱きしめる大百足の胸元に降り懸かり、青みがかった胸元の肌や着物を紫色に染め上げた。
「え・・・?」
「あ・・・は、ぁ・・・!」
口からで多液体の色に愕然としていると、大百足が突然艶っぽい声を漏らした。
「は、あぁ・・・ああ、ごめん・・・これ、私の毒・・・あ、毒といっても危険なのじゃないから」
胸元をぬらす紫の液体を指先に掬い取りながら、彼女が言った。
「男の人の体にはいると、体を熱くする毒だけだから・・・そして、男の人の唾と混ざると、私にも効くようになるの」
彼女は指先をぬらす液体を口に含んだ。
目を閉じ、紫の液体を味わうように指をしゃぶる。
唇を窄めたまま顎を開く。その扇情的な大百足の姿に、男の目は釘付けになっていた。
やがて、大百足の唇が開き、唾液にまみれた指が糸を引きながら彼女の口から出てくる。
指をぬらしていた液体は一滴も残っておらず、彼女が毒液を飲んだことを示していた。
そう、男の口から吐き出された、彼の唾液入りの毒液だ。
「は、ぁああ・・・」
彼女の口からため息のような吐息があふれる。
心なしか彼女の頬に赤みが差し、男を抱きしめることで押しつけられる体にも、熱が宿っていた。
同時に男の方も、強い酒を飲んだときのように腹の底が熱を帯びていくのを感じていた。
生じた熱は血の流れに乗って全身に広がっていく。やがて、自身の高まった体温に、男は頭がぼやけさせていった。
「う、うぅぅ・・・」
視界がおぼろになる一方で、自身を抱きしめる大百足の乳房の感触が妙に鮮明になっていく。
背中に回された彼女の腕や、足をがっしりととらえる幾対もの節足が、温もりとともに彼の肌に沈み込んでくるような錯覚を覚える。
このまま抱きしめあっていたら、自分と大百足は一つになっていく。
男は、無意識のうちに大百足の方に手を回しながら、鈍ってく意識の仲で考えていた。
そして、顔を紅潮させ、瞳を情欲の涙に潤ませる大百足と、彼は再び唇を重ねていた。
先ほどのような一方的な接吻ではない。男の方から顔を近づけ、大無kでがそれを受け入れたのだ。
緩く開いた唇と唇が触れ合い、ゆっくりと開閉して互いの唇を噛む。
歯を立てるわけでも、力を込めるわけでもない。下手すれば豆腐を砕くこともできないほどの優しい力で、二人は互いの唇を感じるように口を開閉させた。
やがて二人の口腔から舌が伸び、互いに絡み合う。
毒液のわずかに残る唾液を互いに擦り付けあい、交換し、飲み込みながら、二人は接吻にふけっていた。
「ん・・・ちゅ・・・ぁ・・・」
「む・・・く・・・ん・・・」
唇の間から時折声を漏らしながら、二人は唇を重ね続ける。
しかしその一方で、二人の手は互いの体をまさぐっていた。
男の手が、大百足の肩を撫で、着物の襟首から背中へ入っていく。
大百足の手が、男の背筋を擦り、腰から尻へとたどっていく。
そして、着物越しに男の足をがっしりと掴む節足は、敬遠するようにふるえていた。
堅い甲殻に覆われた節足の先端は、布地越しに男の肌を引っかいていた。
痛みはない。ほんの少しむずがゆい程度だ。
だが、そのむずがゆさは、大百足の毒液によるものか妙に強く感じられた。
もっと足をかきむしってほしい。
そんな衝動が彼のうちに芽生え、催促するように身じろぎした。
「んぅ・・・」
すると、大百足が少しだけ眉根を寄せながら、小さく声を漏らす。
直後、彼女の両腕と節足に力がこもり、男の体が持ち上げられる。
そして彼女は、男を抱えたまま小屋の中に入り、尻尾で器用に戸を閉めた。
かちかちと音を立てながら、土間から板の間へ大百足があがり、ようやく唇を話す。
「ぷは・・・もう、逃げようとして・・・」
顔を紅潮させた大百足が、ほんの少し起こったような口調で、男に言った。
どうやら先ほどの身じろぎを、大百足の拘束から逃れようとしての抵抗と誤解したらしい。
「まあ、毒液のおかげで、たぶん満足に動くこともできないだろうけどね」
「ひ、ひが・・・」
男は誤解を解こうと口を開くが、妙に舌が回らなかった。
同時に彼は、全身が妙にこわばり、ろくに動けないことに気がついた。
どうやら彼女の毒液は、彼の全身に回っているらしい。
「あは・・・身動きできないのに、ここはこんなにかちかち・・・」
男を抱きしめたまま、大百足がうれしげな声音で腰をぐりぐりと押しつけた。
彼女の下腹には男の股間が接しており、屹立する肉棒が布地越しに彼女のそこを押していた。
「もう、ここまでしちゃったんだからいいよね・・・?」
少しだけ抱擁を緩め、男と自身の帯に手をかけながら、大百足が震える声で尋ねる。
「毒液の力を借りてるけど・・・最後まで、何度も・・・私のことが好きになるまでして・・・いいよね?」
一度男に含ませ、自身にも効果が及ぶようにした毒液を飲んだというのに、彼女の口調には少しだけ冷静さが残っていた。
彼女の理性の最後の一線が、こんなことはしたくないと主張しているかのようにだ。
しかし、男の着物をはだけさせ、屹立を露わにした瞬間、瞳に宿っていた逡巡の光が消え去った。
「あぁぁぁ・・・!」
肉棒の匂いか、屹立を目にしたからか、大百足の表情が楽しげなものにゆがんでいった。
「ああ・・・いいね・・・いいよね・・・?あなたの、いれていいよね・・・?」
熱のこもった言葉を紡ぎながら、彼女は腰の下、人の上半身と百足の下半身の境にある女陰を肉棒に押しつけた。
溢れる熱い液体と軟らかな肉の感触が、男根を圧迫する。
「うぅ・・・!」
直接ふれる女陰の感触に、男は声を漏らした。
今まで感じたことのないうずきが、彼を襲ったからだ。
女と交わりたいという、頭が生み出す性交への欲求とは違う、柔らかく温かな肉の穴に自身を埋めたいという、肉棒自体が生み出す衝動によるものだ。
肉棒全体が、切なげにびくびくと身を震わせ、膨れた裏筋が押し当てられる女陰に食い込んだ。
「ああ・・・ん・・・!」
大百足は膣道の入り口を押す肉棒の熱にあえぎながらも、どうにか身を動かして先端を女陰に当てた。
そして、一瞬の間を挟んで、大百足は腰を前に進めた。
亀頭が女陰に入り込み、続く肉竿が膣道を埋めていく。
肉の亀裂が押し広げられ、熱を帯びた固いものが自分の内を満たしていく感触に、大百足は腰を進めながら軽くのけぞった。
「はぁぁ・・・!」
大きく開いた大百足の口から声が溢れ、仰け反ったことで腰が突き出される。
すでに根本近くまで入り込んでいた屹立は、彼女の仰け反りによって本当に根本まで埋まった。
亀頭が膣底を押し上げ、彼女の胎内でゆっくりと脈打つ。
押し広げられた膣が、肉棒の脈動によって一層広げられる。
「ん・・・く・・・!」
軽く絶頂に達してしまった大百足は、甘い快感の余韻に意識を浸したまま、どうにか男をみた。
このまま男と抱き合ったままでいたいが、それでは男に自分を好きになってもらうという目的が達成できない。
自身の毒液の力を借り、猛りきった男に快感を与え続け、自分におぼれさせるのだ。
「ぁぅ・・・う・・・!」
大百足は背筋をはい上るゾクゾクする快感に耐えながら、ゆっくりと腰を動かした。
肉棒を中心に、軽く回すようにだ。
屹立はいくらか膣の動きについてくるとは言え、根本が動かないため膣壁の一面に押し当てられることになる。
そして大百足が円を描くように腰を回すことで、肉棒への圧迫感は刻一刻と変わった。
襞や粘膜、溢れる粘液が、男の肉棒によってかき回されていく。
そして、膣内をかき回すという行為に、男は快感を覚えていた。
「・・・!」
毒液の効果により舌に力がこもらず、声にすらならない吐息が、あえぎ声代わりに紡がれる。
だが、大百足からすれば、胎内の肉棒の鼓動とそのかすかな吐息だけで、男が強烈な快感に晒されていることを察することができた。
「ほら・・・こうして、こうして・・・私と夫婦になれば、毎日できるのよ・・・?」
時折調子を変えながら、大百足が腰を回しつつそう言葉を紡ぐ。
毒液で意識をもうろうとさせている男に刷り込むようにだ。
彼女の言葉は、肉棒を苛む熱とぬめりと柔らかさと共に、彼の意識に入り込んでいく。
そして、十数度か彼女が腰を動かしたところで、男の肉棒が大きく脈打った。
「ん・・・!?あ、出た・・・」
大きな脈動の直後、腹の底を打った熱と衝撃に、大百足は彼が射精したことを悟った。
思わず大百足は動きを止め、胎内に注がれる精液の感触を味わう。
どくんどくんと軽い衝撃が数度に分けて腹の中を打ち、ゆっくりとへその裏に熱が広がっていく。
膣肉を屹立でかき回されるのとはまた違う、ずっとこうしていたいという心地よさがあった。
「まずは、一回・・・」
精の迸りが止み、屹立が少しだけ固さを失ったところで、大百足はそう言いながら腰を動かした。
愛液に精液がそそぎ込まれ、熱とぬめりを強めた膣内が、男の屹立をぐぢゅぐぢゅと揉みたてる。
二人分の体液が、女陰と男根の動きに淫猥な音を添え、男と大百足の興奮を煽った。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」
自らの立てる濡音に興奮の炎を一層燃え上がらせながら、大百足は腰の動きを激しくしていく。
彼女の腰使いは円を描くような動きにとどまらず、前後左右上下と、勢いで肉棒が抜けかねないほどだった。
「ああ・・・!もっと、もっとぉ・・・!」
大百足が声を上げ、自身の下半身を男に巻き付ける。
自分の体の上からさらに男を縛り付け、その熱をとどめようとする。
おかげで動きは弱まったものの、大百足の膣内はふるえ、波打っており、ただ挿入して抱き合っているだけでも十分な快感をもたらしていた。
「・・・!」
「あ、またね・・・!?ちょうだい・・・!」
男のかすかな呼吸の変化に、大百足は彼の絶頂を悟ると、その唇に食いついた。
三度目の接吻を交わしながら、男は彼女の胎内に白濁を迸らせた。
「んぅ・・・!」
男の口腔を舌でなめ回し、唾液を飲み込みながら大百足が声を漏らす。
膣内の熱と、男の唾液を飲んだことによる自身の毒の変質が、彼女の興奮を加速させる。
そして、大百足は男が射精中にも関わらず彼の肉棒を、彼の迸りをより深くで受け止めようとするかのように、腰を強く押しつけた。
膣壁の蠢きが腰の動きによって不規則に変化し、男の射精の勢いを強める。
大百足の毒液によるものか、その勢いはとどまる気配を見せなかった。
「ぅぐ・・・ん・・・む・・・!」
男が、大百足と唇を重ねたままうめいた。
射精の瞬間に脳裏で瞬く絶頂の光が、延々と続く射精によって彼の意識を焼き焦がしていくからだ。
「・・・っ・・・ん・・・っ・・・!」
大百足が、男と唇を重ねたまま息を詰まらせた。
ほんの数度膣底と子宮口を打つだけでも意識を揺るがす白濁の衝撃が、彼女の腹の中を延々と叩き続けているからだ。
大百足の子宮は吐き出され続ける精液を喜々として啜り上げ、彼女には子宮への熱を、男には亀頭への吸い付きを感じさせた。
肉棒が猛り、精液を迸らせ、膣が吸い上げ、子宮が飲み込む。
もはや、大百足と男の肉体は二人のものではなかった。
互いの肉体自身が、快感を求めて互いの肉体をむさぼりあっていた。
もはや二人の意識は、荒波に翻弄される木の葉のように、快感の波にもまれながら幾度も絶頂へと突き上げられる。
大百足の毒液の、紫色の悦楽の海が、二人を弄んでいた。



けだるさと、喉の渇き。
その二つに、肌をチクリと刺す痛みが加わった。
「う・・・?」
男は小さくうめくと、鉛のように重い目蓋を、針の太さほどだけ開いた。
目蓋の裏の暗闇にわずかばかりの光が射し込み、あたりの様子が見えてくる。
最初に見えたのは、すぐ目の前で目をつぶる大百足の顔だった。
目の下にクマが浮かび、疲労を色濃くにじませているが、穏やかな寝顔だった。
そして遅れて、彼は彼女が自身に両腕どころか百足の節足まで使って抱きついていることと、互いに一糸纏わぬ姿であることに気がついた。
そう、昨夜大百足に半ばおそわれるようにして、二人で夜を過ごしたのだ。
「うぅぅ・・・」
昨夜の行動を思い返し、男の頭が急速にまどろみから覚めていく。
だが同時に、彼は全身を満たす疲労に襲われた。
どちらの体液かはわからないが、男と大百足の腰のあたりはぐちゃぐちゃに濡れていた。
そうなるまで肌を重ね続けていたのだ。朝まで失神するように眠っていたところで、疲労が抜けるはずもない。
「うぅ・・・」
男は、指一本動かせないほどのけだるさを改めて感じながら、大百足を起こさぬように小さくうめいた。
まさか、こんなことになるなんて。
考えるのも億劫だが、彼は脳裏の一角で彼女の昨夜の言葉を思い返していた。
『私のことを、好きになってください』
互いに、相手に好意を抱いているのは自分だけだというすれ違いが生み出したのが、今日という朝だ。
彼女と肌を重ねる前に、もっと言葉を交わしたかった。
毒液など使わずとも、自分は彼女のことが好きであると伝えたかった。
だが、もう取り戻せない。
ならば、これからの日々で取り返せばいいのだ。
手始めに、彼女の目覚めを待って、自分の気持ちを伝えよう
「・・・・・・」
男は、静かに寝息を立てる大百足をみながら、そう考えていた。
13/04/29 01:41更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
林立する廃墟にツタが絡みついた、人造の森林の一角で一組の男女が対峙していた。
下半身がムカデの女と、弓を手にした男だった。
「ドーモ、ハチリムカデです」
下半身がムカデの女が、男に向けてアイサツする。
モンスターと人間であっても、アイサツは礼儀だ。魔物娘図鑑にもそう書いてある。
「ドーモ、ハチリムカデ=サン、アツタカです」
ハチリムカデのアイサツに、男はそうアイサツを返した。
直後、男の手が跳ね上がり、背負っていた矢筒からタングステンカーバイドの鏃を備えた矢を引き抜いた。
ハチリムカデは矢をつがえられ、撓められていくナノカーボンファイバー製の弓を目に、
やっぱ無理だ。
普通に「大百足の図鑑絵を見返したら、思いの外下半身大きくてびっくりした」って話にしておけばよかった!

そう言いながら、ジュウニヤゲッショクは爆発四散!
末期のハイクを詠むこともなかった。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33