(74)セイレーン
大きな鏡台に向かうように、一体のセイレーンがイスに腰を下ろしていた。
鏡台には化粧道具に混ざって楽譜がおいてあり、セイレーンが袖を通しているのも、きらびやかな衣装だった。
衣装と髪型、そして顔に薄く施された化粧は、十代半ばほどの可愛らしさと美しさが同居する彼女の魅力を引き立てている。
しかし、衣装や髪型とは裏腹に、セイレーン自身の表情は沈んでおり、どこか思い詰めたような様子であった。
すると、不意に部屋の扉からノックの音が響いた。
「そろそろ時間だ」
扉が開き、男が一人顔をのぞかせる。
「準備は・・・できているようだな」
部屋に入り、扉を閉めながら、男はセイレーンの様子を確認した。
「ん・・・?大丈夫か?気分でも悪いのか?」
だが、すぐに彼女の異常に気がつき、そう問いかけた。
「大丈夫・・・です・・・」
セイレーンは男の方に顔を向けると、微笑んだ。しかしその微笑みは、どこか無理をしている様子が見て取れる、作った笑みだった。
無論男も、彼女の作り笑いを即座に見抜いた。
「大丈夫って・・・お前、辛そうだぞ。約束したよな?『イヤなことがあったり、止めたくなったらすぐ俺に言う』って」
「・・・・・・・・・」
セイレーンは表情から笑みを消すと、鏡の方を向いた。
「その・・・もう、歌いたくないんです・・・」
男の方を見ず、鏡の中の自身を見ながら、彼女が絞り出すように言う。
「コンサートも、イベントも・・・歌の内容なんてどうでもよくて、お客さんは、私が歌っているのを見に来ているだけなんだって、気がついたんです・・・」
「何で・・・」
「今日の演目見てください。ファンのアンケートで選ばれた歌をやるって言うのに、私ががんばって書いた歌が一つしか入ってないんです。誰かが書いた、歌ばっかりで・・・」
セイレーンは翼で顔を覆うと、涙声で続けた。
「誰も、私の歌を聞いてくれてない・・・もう、イヤなんです・・・」
「そうか・・・じゃあ、止めようか」
男は、何事もないかのように、そう口にした。
「ファンの求めているお前と、お前のやりたいことが違っている、っていうのは辛かったな。でも、よく今日までがんばった。偉いな」
「プロデューサー・・・」
「それに、お前は優しい。だって、お前が『自分の書いた歌しか歌いたくない』と言えば、俺はそうせざるを得ないのに、ファンのことを考えてそうしなかったんだからな」
男の言葉が、セイレーンの胸に突き刺さる。自分のものでない歌を歌うのがイヤで、ただ逃げたいだけだというのに、優しいだなんて。
「お前が活動方針を変えたいと言えば、俺はそうする。お前が今日のコンサートは止めたい、と言えば、俺はそうしてやる。そういう約束だったな」
男はセイレーンの側に歩み寄ると、衣装が崩れぬよう注意しながら肩に手を触れた。
「よく、今まで頑張ったな」
頑張ったな。今まで幾度もかけられてきた言葉だったが、今かけられた一言は、セイレーンの胸に熱く染み込んでいった。
「プ、プロデューサー・・・」
セイレーンの言葉が震え、視界がにじむ。
鏡越しに彼の顔を見ようとしているのに、見ることができない。
「おいおい、泣くなよ・・・明日から休みにして、しばらく羽を伸ばそうって相談をしようってのに・・・」
「違うの・・・もう止めていい、っていわれたら・・・きゅうに、涙が・・・」
「別にアイドルを止めるってわけじゃないんだ。そう悲しまなくてもいい」
「でも・・・」
男の言うことは、セイレーンも頭でわかっていた。だが、涙はなぜか止まらないのだ。
「ああ、そうか、そういうことか」
困った様子の男が、何か思いついたように手を打った
「やっぱり、お前は優しいな。だって、これまでつきあってきた『ファンが見ているお前』とお別れになるって、泣いているんだからな」
「・・・・・・え?」
男の言葉は、セイレーンにとって意外なものだった。
「考えてみればそうだ。デビューから三年、生まれた赤ん坊が立派に立って走って口を利くぐらいの間、お前と『ファンが見ているお前』は一緒だったんだからな」
「・・・・・・」
言われてみればそうだ。ファンはセイレーン自身ではなく、アイドルを演じている彼女を見ていた。
止めていい、と男に言われるつい先ほどまで、『彼女』と彼女自身は影のように切っても切り離せないものだと思っていた。
だが、今彼女は『彼女』から自由になれる。その事実と男の言葉に、セイレーンは自分がいつの間にか『彼女』に対し、名残惜しさのようなものを感じているのを悟った。
「だったら、こうしよう。今日のコンサートは、お別れコンサートだ」「お別れコンサート・・・?」
「そうだ。お前と、『ファンが見ているお前』がお別れするためのな」
セイレーンが男の方を見上げると、彼は続けた。
「今日のコンサートで、これまでの活動方針はおしまい。休みを挟んで、本当のお前を売り込んでいくようにしよう。そして今日は、『ファンが見ているお前』に最後の華を持たせてやるんだ」
「そうね・・・」
男の言葉を聞く内、セイレーンは溢れそうになっていた涙が、いつの間にか引いていることに気がついた。
そうだ。今日で最後なのだ。ならば、最後に『彼女』の舞台を飾って、送り出してやろうではないか。
「分かりました、プロデューサー・・・お別れコンサート、やります!」
「よし!その意気で、送り出してやるんだぞ!」
「はい!」
セイレーンは大きく頷いた。
「ただ、お別れっていうのは俺とお前だけの秘密・・・だからな?」
「分かってます!」
「じゃあ、行ってこい!」
「行ってきます!」
セイレーンは鏡台の前から立つと、男とともに楽屋を出た。
「お待たせしました!」
廊下で待っていたスタッフに男が頭を下げ、狭い通路を急いで舞台袖へと移動する。
すると、小さいものではあるが、セイレーンの耳に彼女の名を呼ぶいくつもの声が届いてきた。
その声は、舞台袖にたどり着くと、幕越しにも関わらず熱気とともに彼女に伝わった。
「俺はここで待っているからな。目一杯、やってこい」
「はい!」
小声でそう言葉を交わすと、セイレーンは舞台袖から舞台の真ん中へ移動した。
そして最後に、舞台袖に立つ男と視線を交わすと、客席と舞台を遮る幕に目を向けた。
ビーッ、と開幕を知らせるブザーが鳴り響き、幕の向こうからの声が止む。
幕が上がり、スポットライトが彼女を照らした。
「みんなー!今日は私のコンサートにきてくれて、ありがとーっ!」
翼の半ばに生える指に握ったマイクで、闇に沈む客席に呼びかける。
すると、暗がりから熱気とともに無数の声が帰ってきた。
「今日は思い切り歌うから、みんな、楽しんでいってねーっ!」
『彼女』の最後を飾る、お別れコンサート。失敗は許されないが、過剰に緊張する必要もない。
いつも通りにやればいいのだ。
「それじゃあ一曲目!『メンスでごめんネ!』」
彼女のタイトルコールとともに、音楽が鳴り響き、いくつもの照明が舞台を照らした。
「今日は最後までありがとーっ!これからも、私を応援してねーっ!」
ゆっくりと幕が下りていく間、セイレーンは客席に向けてマイクで呼びかけ続けた。
コンサートの終わりを惜しむファンがセイレーンの名を呼ぶが、すでにアンコールには応えている。
正真正銘、本当の終わりだ。
幕が完全に下りてもなお、セイレーンは舞台に立ち、しばし余韻に浸った。
「はぁ・・・はぁ・・・」
全部で七曲、アンコールも入れれば八曲をダンスも含めて歌いあげ、コンサートが終わって緊張が解けたたためか、彼女の呼吸は乱れていた。
幕が上がっている間、曲と曲の合間のトーク中でも息は乱れていなかった。だが、疲労は着実にセイレーンの体に残っており、今まさに表出していた。
「ふぅ・・・」
セイレーンはどうにか呼吸を落ち着けると、舞台袖へ向けて歩き始めた。
「お疲れさま、よくやったな」
セイレーンからマイクを受け取りながら、男が彼女をねぎらう。
「お別れコンサートにふさわしい、最高のコンサートだったな」
「うん・・・」
男の手を取り、彼に体を預けるようにしながら、セイレーンは頷いた。
「大丈夫か?」
「ちょっと、頑張りすぎたかも・・・」
「明日から休みにしておくからな、ゆっくり休んで、これからのことを考えよう」
「うん・・・でも私、お休みよりその・・・ごほうび、ほしいな・・・」
「・・・ああ、分かった」
男は頷くと、行き交うイベントスタッフの目を気にするように小声で続けた。
「事務所か家まで、我慢できるか・・・?」
「いえ・・・できれば、早く・・・」
「そうか・・・少し急ぐぞ」
男の言葉に、セイレーンは小さく頷いた。
そして、二人は可能な限り急いで、楽屋に戻った。
「ああ、すみません。どうやら彼女、ちょっと疲れすぎちゃったみたいで・・・しばらく楽屋で休ませますから、お客さんを通さないようお願いできますか?」
どこかぐったりした様子のセイレーンを支えながら、男は楽屋近くにいたスタッフにそう頼んだ。
スタッフは彼の求めに快く応じると、警備員だとかに指示を出すためか足早に楽屋から離れていった。
「これでよし・・・」
男はあたりを確認し、楽屋に入る。
するとセイレーンは、突然衣装に翼の指をかけ、脱ぎ始めた。
「んっと・・・あっ・・・」
不意に足下がふらつき、セイレーンは転びかけた。だが、とっさに男が彼女の体を支えたおかげで、大事には至らなかった。
「じっとしていろ、俺が脱がせる」
「お願いします・・・」
男は、彼女の体を包む衣装を、丁寧に脱がせていった。
胸から鳩尾までを覆うトップスと太腿上部までしか丈がない短いスカート、そして見せてもかまわないショーツを脱がせ、下着姿にする。
肩紐のない、小降りの乳房を支えるブラジャーと、控えめに腰を覆うショーツ。
アイドルとしての衣装を脱ぎ捨てた、セイレーン自身がそこにいた。
「これで全部・・・だな」
衣装を一通り、皺にならぬよう畳んでよけると、男はセイレーンに目を向けた。
「ん?これは何だ?」
「っ・・・!」
不意に男が漏らした声に、セイレーンが体をふるわせる。
「下着が少し、湿っているみたいだなあ・・・」
白いショーツが、男の言うとおり僅かに湿り気を帯び、髪と同じ藍色の茂みがかすかに透けて見えていた。
もっとも、下着の布地で十分吸いきれるほどの湿り気だったため、衣装としてのショーツに影響はないようだが。
「うーん、これは汗かなあ?」
明らかに正体が分かっているにも関わらず、男は彼女の股間に顔を寄せ、下着の湿り気について探った。
「それとも、エッチなオツユかなあ・・・?」
「え、エッチなオツユです・・・」
セイレーンが、顔を赤らめながら湿り気の正体を口にする。
「歌いながらエッチな気分になってたのか?」
「はい・・・プロデューサーの、ご褒美のことを考えていたら・・・こんな風に・・・」
もちろんそれだけではない。セイレーンの本能に加え、コンサートの疲労を癒そうと体が精を求めているためだ。
だが彼女は、体が勝手になどと言い訳せず、自身の心理によるものだと認めた。
「ご褒美って?旅行?お菓子?」
「プロデューサーの・・・おち、んちん・・・」
ニヤニヤする男に、彼女はそう答えた。
「お願いです・・・もう、我慢できません・・・!」
セイレーンはショーツに指をかけ、膝のあたりまで下ろすと、鏡台のテーブルに上半身を乗せながら、男に向けて尻を突き出した。
「プロデューサーのおちんちん、私のエッチな穴にください!」
「よし、正直に言ったな。いい子だ」
男が求めるより先に、模範解答に限りなく近い言葉を紡いだセイレーンに、彼は頷きながらズボンの合わせ目から肉棒を取り出した。
下着の下から解放されたのは、すでにガチガチに勃起する屹立だった。
撫でるようにしごきながら、彼はセイレーンの後ろに歩み寄り、角度を調整しつつ、露出した粘膜に先端を触れさせた。
「いいな?」
「はい!」
頷く彼女に、男は腰を突き出して応えた。
膨れた亀頭が、粘膜をかき分け、穴の中に入っていく。
「んぁ、あぁぁあああ〜!」
腹の中に入ってくる屹立の熱と、異物の感覚に、セイレーンは思わず声を上げた。
勃起の侵入に、彼女の下腹の内で子宮が疼く。と言っても、男が肉棒を挿入したのは女陰ではなく、彼女の肛門だった。
コンサートやイベントの度に、ご褒美をもらってきた彼女の尻穴は、男の屹立を嬉しげに咥え、吸いついていた。
「んぁっ、あっ、あぁあん・・・!」
男が腰を動かし、肛門を広げるように直腸をかき回す。
尻の穴から溢れる腸液が、緩んだ肛門と肉棒にかき混ぜられ、ぐちゅぐちゅと湿った音を立てた。
「あぁっ、ん・・・ぁ、あぁ・・・!」
「全く・・・アイドルが処女ではないとかどうかと思って尻にしたのに・・・お前、前使うより感じてるんじゃないか?」
「はぃぃ・・・私は、お尻で感じちゃう、変態アイドルですぅ・・・」
軽く肉棒を動かしただけだというのに、セイレーンは既に桃源郷に達しているのか、以前男が興奮のあまり言わせたセリフを繰り返した。
「私のお尻・・・ケツ穴はぁ、プロデューサーのぉ・・・ご褒美専用ですぅ・・・」
「これは相当だな」
本格的に腰を動かしていないにも関わらず、アイドルが浮かべるべきでない溶けきった表情を顔に浮かべ、うわごとのように卑語を紡ぐセイレーンに、男は嘆息した。
これで日常生活やアイドル活動に支障がないと言うのだから、不思議だ。
「それだけ、毎日気を張りつめてるってことか・・・う・・・!」
不意に絡みついてきた腸と、少しだけ引き締まる肛門に、男は声を漏らした。
女陰のように涎を垂らす肛門に肉棒を突き入れ、軽くかき回したことへのお礼とばかりに、襞の刻まれた直腸壁が肉棒にまとわりついたのだ。
しかし、粘液に濡れた粘膜の柔らかさとその温もり、そして刺激は、男の肉棒を溶かすようだった。
「うぉ・・・く・・・!」
男は低く声を漏らしながら、こみ上げてくる快感に身を任せたいという衝動を堪えた。
だがセイレーンの直腸は、小さく震えながら快感に耐える屹立を、優しくしゃぶった。
肛門が肉棒の根本を締め上げ、襞をなす腸壁がゆるゆると肉棒に絡み付き、屹立を奥へ奥へと導くように波打った。
本来の動きとは異なる、直腸の蠢きに、男の屹立の内を白濁が這い上っていく。
「うぁ・・・あぁぅ・・・ひぅ・・・」
「も、もう・・・!出すぞ・・・!」
既に意味のある言葉を紡げなくなっていたセイレーンに、男はうめくように告げると、彼女の尻の奥へ肉棒をより深く挿入した。
温もりをかき分けると、ひしめく粘膜が屹立を撫で、粘液が塗りたくられる。
ただでさえ高まっていた男の興奮は、自ら招いた粘膜の愛撫によって、ついに限界に達した。
「ぐ・・・!」
「んっひぃぃ・・・!」
男が低いうめき声とともに白濁を放つと同時に、セイレーンが裏が選った喘ぎ声を漏らした。
鏡台に乗せていた翼の指が板をひっかき、彼女の尾羽がぴくんと跳ねる。
彼女の全身の震えは、彼女の腸内にも響き、男の肉棒から容赦なく白濁を啜り上げていった。
そして、男が精液を放ち終えると、セイレーンはしばし体を震わせてから、全身から力を抜いた。
「あぅ・・・ぅぁあ・・・」
腸内を灼く白濁の熱を味わいながら、彼女はしばし絶頂の余韻に身を任せていた。
それから、セイレーンが落ち着いて正気を取り戻した後、彼女は私服を身につけ、荷物をまとめていた。
「プロデューサー・・・さっきはごめんなさい」
「ん?なんだ?」
忘れ物がないか、楽屋をチェックする男は、彼女の言葉にそう聞き返した。
「その・・・コンサートの前に、もう止めたいとか変なこと言っちゃって・・・」
「ああ、緊張しすぎていたんだろう。それに、明日からは仕事も入っていないし、休みにするつもりだったから、大丈夫だ」
「そうだったんですか・・・」
自分の言い出したことで、方々に迷惑をかけたのではないかと心配になったが、男の言葉に彼女は胸をなで下ろした。
「でも、この休みの間にお前の活動方針を考える必要はあるな。いつまでもお前に無理をさせるような売り方はしたくない」
「そんな・・・私、まだ頑張れます」
「でも、せっかく歌うなら、お前の好きな歌がいいだろう?無理を続けて、歌うことが嫌いになっちゃいけない」
男の言葉に、彼女ははっとした。
「どうしたいか、休みの間にゆっくり考えて、また話し合おう」
「プロデューサー・・・実は、もう考えているんです・・・」
セイレーンは、しばし逡巡してから続けた。
「その・・・他の人のすてきな歌も歌いたいけど、もっと自分で書いた歌も歌いたいです」
「つまり、もっとお前のオリジナル曲を出していきたい、ということだな?」
男の確認に、彼女はコクリと頷く。
「よし。だったら、お前の書いた歌をチェックして、早速曲を作ろう。休みの間も、何本か書いてもらうことになるが・・・大丈夫か?」
「はい、アイデアはいくつか温めていますから」
後はそれを書き出すだけだ。
「じゃあ、早速事務所に戻って準備を始めよう」
「はい!」
「忙しくなるぞ?」
「でも、楽しいですよ」
二人は言葉を交わしながら荷物をまとめると、扉を開いて楽屋を出ていった。
鏡台には化粧道具に混ざって楽譜がおいてあり、セイレーンが袖を通しているのも、きらびやかな衣装だった。
衣装と髪型、そして顔に薄く施された化粧は、十代半ばほどの可愛らしさと美しさが同居する彼女の魅力を引き立てている。
しかし、衣装や髪型とは裏腹に、セイレーン自身の表情は沈んでおり、どこか思い詰めたような様子であった。
すると、不意に部屋の扉からノックの音が響いた。
「そろそろ時間だ」
扉が開き、男が一人顔をのぞかせる。
「準備は・・・できているようだな」
部屋に入り、扉を閉めながら、男はセイレーンの様子を確認した。
「ん・・・?大丈夫か?気分でも悪いのか?」
だが、すぐに彼女の異常に気がつき、そう問いかけた。
「大丈夫・・・です・・・」
セイレーンは男の方に顔を向けると、微笑んだ。しかしその微笑みは、どこか無理をしている様子が見て取れる、作った笑みだった。
無論男も、彼女の作り笑いを即座に見抜いた。
「大丈夫って・・・お前、辛そうだぞ。約束したよな?『イヤなことがあったり、止めたくなったらすぐ俺に言う』って」
「・・・・・・・・・」
セイレーンは表情から笑みを消すと、鏡の方を向いた。
「その・・・もう、歌いたくないんです・・・」
男の方を見ず、鏡の中の自身を見ながら、彼女が絞り出すように言う。
「コンサートも、イベントも・・・歌の内容なんてどうでもよくて、お客さんは、私が歌っているのを見に来ているだけなんだって、気がついたんです・・・」
「何で・・・」
「今日の演目見てください。ファンのアンケートで選ばれた歌をやるって言うのに、私ががんばって書いた歌が一つしか入ってないんです。誰かが書いた、歌ばっかりで・・・」
セイレーンは翼で顔を覆うと、涙声で続けた。
「誰も、私の歌を聞いてくれてない・・・もう、イヤなんです・・・」
「そうか・・・じゃあ、止めようか」
男は、何事もないかのように、そう口にした。
「ファンの求めているお前と、お前のやりたいことが違っている、っていうのは辛かったな。でも、よく今日までがんばった。偉いな」
「プロデューサー・・・」
「それに、お前は優しい。だって、お前が『自分の書いた歌しか歌いたくない』と言えば、俺はそうせざるを得ないのに、ファンのことを考えてそうしなかったんだからな」
男の言葉が、セイレーンの胸に突き刺さる。自分のものでない歌を歌うのがイヤで、ただ逃げたいだけだというのに、優しいだなんて。
「お前が活動方針を変えたいと言えば、俺はそうする。お前が今日のコンサートは止めたい、と言えば、俺はそうしてやる。そういう約束だったな」
男はセイレーンの側に歩み寄ると、衣装が崩れぬよう注意しながら肩に手を触れた。
「よく、今まで頑張ったな」
頑張ったな。今まで幾度もかけられてきた言葉だったが、今かけられた一言は、セイレーンの胸に熱く染み込んでいった。
「プ、プロデューサー・・・」
セイレーンの言葉が震え、視界がにじむ。
鏡越しに彼の顔を見ようとしているのに、見ることができない。
「おいおい、泣くなよ・・・明日から休みにして、しばらく羽を伸ばそうって相談をしようってのに・・・」
「違うの・・・もう止めていい、っていわれたら・・・きゅうに、涙が・・・」
「別にアイドルを止めるってわけじゃないんだ。そう悲しまなくてもいい」
「でも・・・」
男の言うことは、セイレーンも頭でわかっていた。だが、涙はなぜか止まらないのだ。
「ああ、そうか、そういうことか」
困った様子の男が、何か思いついたように手を打った
「やっぱり、お前は優しいな。だって、これまでつきあってきた『ファンが見ているお前』とお別れになるって、泣いているんだからな」
「・・・・・・え?」
男の言葉は、セイレーンにとって意外なものだった。
「考えてみればそうだ。デビューから三年、生まれた赤ん坊が立派に立って走って口を利くぐらいの間、お前と『ファンが見ているお前』は一緒だったんだからな」
「・・・・・・」
言われてみればそうだ。ファンはセイレーン自身ではなく、アイドルを演じている彼女を見ていた。
止めていい、と男に言われるつい先ほどまで、『彼女』と彼女自身は影のように切っても切り離せないものだと思っていた。
だが、今彼女は『彼女』から自由になれる。その事実と男の言葉に、セイレーンは自分がいつの間にか『彼女』に対し、名残惜しさのようなものを感じているのを悟った。
「だったら、こうしよう。今日のコンサートは、お別れコンサートだ」「お別れコンサート・・・?」
「そうだ。お前と、『ファンが見ているお前』がお別れするためのな」
セイレーンが男の方を見上げると、彼は続けた。
「今日のコンサートで、これまでの活動方針はおしまい。休みを挟んで、本当のお前を売り込んでいくようにしよう。そして今日は、『ファンが見ているお前』に最後の華を持たせてやるんだ」
「そうね・・・」
男の言葉を聞く内、セイレーンは溢れそうになっていた涙が、いつの間にか引いていることに気がついた。
そうだ。今日で最後なのだ。ならば、最後に『彼女』の舞台を飾って、送り出してやろうではないか。
「分かりました、プロデューサー・・・お別れコンサート、やります!」
「よし!その意気で、送り出してやるんだぞ!」
「はい!」
セイレーンは大きく頷いた。
「ただ、お別れっていうのは俺とお前だけの秘密・・・だからな?」
「分かってます!」
「じゃあ、行ってこい!」
「行ってきます!」
セイレーンは鏡台の前から立つと、男とともに楽屋を出た。
「お待たせしました!」
廊下で待っていたスタッフに男が頭を下げ、狭い通路を急いで舞台袖へと移動する。
すると、小さいものではあるが、セイレーンの耳に彼女の名を呼ぶいくつもの声が届いてきた。
その声は、舞台袖にたどり着くと、幕越しにも関わらず熱気とともに彼女に伝わった。
「俺はここで待っているからな。目一杯、やってこい」
「はい!」
小声でそう言葉を交わすと、セイレーンは舞台袖から舞台の真ん中へ移動した。
そして最後に、舞台袖に立つ男と視線を交わすと、客席と舞台を遮る幕に目を向けた。
ビーッ、と開幕を知らせるブザーが鳴り響き、幕の向こうからの声が止む。
幕が上がり、スポットライトが彼女を照らした。
「みんなー!今日は私のコンサートにきてくれて、ありがとーっ!」
翼の半ばに生える指に握ったマイクで、闇に沈む客席に呼びかける。
すると、暗がりから熱気とともに無数の声が帰ってきた。
「今日は思い切り歌うから、みんな、楽しんでいってねーっ!」
『彼女』の最後を飾る、お別れコンサート。失敗は許されないが、過剰に緊張する必要もない。
いつも通りにやればいいのだ。
「それじゃあ一曲目!『メンスでごめんネ!』」
彼女のタイトルコールとともに、音楽が鳴り響き、いくつもの照明が舞台を照らした。
「今日は最後までありがとーっ!これからも、私を応援してねーっ!」
ゆっくりと幕が下りていく間、セイレーンは客席に向けてマイクで呼びかけ続けた。
コンサートの終わりを惜しむファンがセイレーンの名を呼ぶが、すでにアンコールには応えている。
正真正銘、本当の終わりだ。
幕が完全に下りてもなお、セイレーンは舞台に立ち、しばし余韻に浸った。
「はぁ・・・はぁ・・・」
全部で七曲、アンコールも入れれば八曲をダンスも含めて歌いあげ、コンサートが終わって緊張が解けたたためか、彼女の呼吸は乱れていた。
幕が上がっている間、曲と曲の合間のトーク中でも息は乱れていなかった。だが、疲労は着実にセイレーンの体に残っており、今まさに表出していた。
「ふぅ・・・」
セイレーンはどうにか呼吸を落ち着けると、舞台袖へ向けて歩き始めた。
「お疲れさま、よくやったな」
セイレーンからマイクを受け取りながら、男が彼女をねぎらう。
「お別れコンサートにふさわしい、最高のコンサートだったな」
「うん・・・」
男の手を取り、彼に体を預けるようにしながら、セイレーンは頷いた。
「大丈夫か?」
「ちょっと、頑張りすぎたかも・・・」
「明日から休みにしておくからな、ゆっくり休んで、これからのことを考えよう」
「うん・・・でも私、お休みよりその・・・ごほうび、ほしいな・・・」
「・・・ああ、分かった」
男は頷くと、行き交うイベントスタッフの目を気にするように小声で続けた。
「事務所か家まで、我慢できるか・・・?」
「いえ・・・できれば、早く・・・」
「そうか・・・少し急ぐぞ」
男の言葉に、セイレーンは小さく頷いた。
そして、二人は可能な限り急いで、楽屋に戻った。
「ああ、すみません。どうやら彼女、ちょっと疲れすぎちゃったみたいで・・・しばらく楽屋で休ませますから、お客さんを通さないようお願いできますか?」
どこかぐったりした様子のセイレーンを支えながら、男は楽屋近くにいたスタッフにそう頼んだ。
スタッフは彼の求めに快く応じると、警備員だとかに指示を出すためか足早に楽屋から離れていった。
「これでよし・・・」
男はあたりを確認し、楽屋に入る。
するとセイレーンは、突然衣装に翼の指をかけ、脱ぎ始めた。
「んっと・・・あっ・・・」
不意に足下がふらつき、セイレーンは転びかけた。だが、とっさに男が彼女の体を支えたおかげで、大事には至らなかった。
「じっとしていろ、俺が脱がせる」
「お願いします・・・」
男は、彼女の体を包む衣装を、丁寧に脱がせていった。
胸から鳩尾までを覆うトップスと太腿上部までしか丈がない短いスカート、そして見せてもかまわないショーツを脱がせ、下着姿にする。
肩紐のない、小降りの乳房を支えるブラジャーと、控えめに腰を覆うショーツ。
アイドルとしての衣装を脱ぎ捨てた、セイレーン自身がそこにいた。
「これで全部・・・だな」
衣装を一通り、皺にならぬよう畳んでよけると、男はセイレーンに目を向けた。
「ん?これは何だ?」
「っ・・・!」
不意に男が漏らした声に、セイレーンが体をふるわせる。
「下着が少し、湿っているみたいだなあ・・・」
白いショーツが、男の言うとおり僅かに湿り気を帯び、髪と同じ藍色の茂みがかすかに透けて見えていた。
もっとも、下着の布地で十分吸いきれるほどの湿り気だったため、衣装としてのショーツに影響はないようだが。
「うーん、これは汗かなあ?」
明らかに正体が分かっているにも関わらず、男は彼女の股間に顔を寄せ、下着の湿り気について探った。
「それとも、エッチなオツユかなあ・・・?」
「え、エッチなオツユです・・・」
セイレーンが、顔を赤らめながら湿り気の正体を口にする。
「歌いながらエッチな気分になってたのか?」
「はい・・・プロデューサーの、ご褒美のことを考えていたら・・・こんな風に・・・」
もちろんそれだけではない。セイレーンの本能に加え、コンサートの疲労を癒そうと体が精を求めているためだ。
だが彼女は、体が勝手になどと言い訳せず、自身の心理によるものだと認めた。
「ご褒美って?旅行?お菓子?」
「プロデューサーの・・・おち、んちん・・・」
ニヤニヤする男に、彼女はそう答えた。
「お願いです・・・もう、我慢できません・・・!」
セイレーンはショーツに指をかけ、膝のあたりまで下ろすと、鏡台のテーブルに上半身を乗せながら、男に向けて尻を突き出した。
「プロデューサーのおちんちん、私のエッチな穴にください!」
「よし、正直に言ったな。いい子だ」
男が求めるより先に、模範解答に限りなく近い言葉を紡いだセイレーンに、彼は頷きながらズボンの合わせ目から肉棒を取り出した。
下着の下から解放されたのは、すでにガチガチに勃起する屹立だった。
撫でるようにしごきながら、彼はセイレーンの後ろに歩み寄り、角度を調整しつつ、露出した粘膜に先端を触れさせた。
「いいな?」
「はい!」
頷く彼女に、男は腰を突き出して応えた。
膨れた亀頭が、粘膜をかき分け、穴の中に入っていく。
「んぁ、あぁぁあああ〜!」
腹の中に入ってくる屹立の熱と、異物の感覚に、セイレーンは思わず声を上げた。
勃起の侵入に、彼女の下腹の内で子宮が疼く。と言っても、男が肉棒を挿入したのは女陰ではなく、彼女の肛門だった。
コンサートやイベントの度に、ご褒美をもらってきた彼女の尻穴は、男の屹立を嬉しげに咥え、吸いついていた。
「んぁっ、あっ、あぁあん・・・!」
男が腰を動かし、肛門を広げるように直腸をかき回す。
尻の穴から溢れる腸液が、緩んだ肛門と肉棒にかき混ぜられ、ぐちゅぐちゅと湿った音を立てた。
「あぁっ、ん・・・ぁ、あぁ・・・!」
「全く・・・アイドルが処女ではないとかどうかと思って尻にしたのに・・・お前、前使うより感じてるんじゃないか?」
「はぃぃ・・・私は、お尻で感じちゃう、変態アイドルですぅ・・・」
軽く肉棒を動かしただけだというのに、セイレーンは既に桃源郷に達しているのか、以前男が興奮のあまり言わせたセリフを繰り返した。
「私のお尻・・・ケツ穴はぁ、プロデューサーのぉ・・・ご褒美専用ですぅ・・・」
「これは相当だな」
本格的に腰を動かしていないにも関わらず、アイドルが浮かべるべきでない溶けきった表情を顔に浮かべ、うわごとのように卑語を紡ぐセイレーンに、男は嘆息した。
これで日常生活やアイドル活動に支障がないと言うのだから、不思議だ。
「それだけ、毎日気を張りつめてるってことか・・・う・・・!」
不意に絡みついてきた腸と、少しだけ引き締まる肛門に、男は声を漏らした。
女陰のように涎を垂らす肛門に肉棒を突き入れ、軽くかき回したことへのお礼とばかりに、襞の刻まれた直腸壁が肉棒にまとわりついたのだ。
しかし、粘液に濡れた粘膜の柔らかさとその温もり、そして刺激は、男の肉棒を溶かすようだった。
「うぉ・・・く・・・!」
男は低く声を漏らしながら、こみ上げてくる快感に身を任せたいという衝動を堪えた。
だがセイレーンの直腸は、小さく震えながら快感に耐える屹立を、優しくしゃぶった。
肛門が肉棒の根本を締め上げ、襞をなす腸壁がゆるゆると肉棒に絡み付き、屹立を奥へ奥へと導くように波打った。
本来の動きとは異なる、直腸の蠢きに、男の屹立の内を白濁が這い上っていく。
「うぁ・・・あぁぅ・・・ひぅ・・・」
「も、もう・・・!出すぞ・・・!」
既に意味のある言葉を紡げなくなっていたセイレーンに、男はうめくように告げると、彼女の尻の奥へ肉棒をより深く挿入した。
温もりをかき分けると、ひしめく粘膜が屹立を撫で、粘液が塗りたくられる。
ただでさえ高まっていた男の興奮は、自ら招いた粘膜の愛撫によって、ついに限界に達した。
「ぐ・・・!」
「んっひぃぃ・・・!」
男が低いうめき声とともに白濁を放つと同時に、セイレーンが裏が選った喘ぎ声を漏らした。
鏡台に乗せていた翼の指が板をひっかき、彼女の尾羽がぴくんと跳ねる。
彼女の全身の震えは、彼女の腸内にも響き、男の肉棒から容赦なく白濁を啜り上げていった。
そして、男が精液を放ち終えると、セイレーンはしばし体を震わせてから、全身から力を抜いた。
「あぅ・・・ぅぁあ・・・」
腸内を灼く白濁の熱を味わいながら、彼女はしばし絶頂の余韻に身を任せていた。
それから、セイレーンが落ち着いて正気を取り戻した後、彼女は私服を身につけ、荷物をまとめていた。
「プロデューサー・・・さっきはごめんなさい」
「ん?なんだ?」
忘れ物がないか、楽屋をチェックする男は、彼女の言葉にそう聞き返した。
「その・・・コンサートの前に、もう止めたいとか変なこと言っちゃって・・・」
「ああ、緊張しすぎていたんだろう。それに、明日からは仕事も入っていないし、休みにするつもりだったから、大丈夫だ」
「そうだったんですか・・・」
自分の言い出したことで、方々に迷惑をかけたのではないかと心配になったが、男の言葉に彼女は胸をなで下ろした。
「でも、この休みの間にお前の活動方針を考える必要はあるな。いつまでもお前に無理をさせるような売り方はしたくない」
「そんな・・・私、まだ頑張れます」
「でも、せっかく歌うなら、お前の好きな歌がいいだろう?無理を続けて、歌うことが嫌いになっちゃいけない」
男の言葉に、彼女ははっとした。
「どうしたいか、休みの間にゆっくり考えて、また話し合おう」
「プロデューサー・・・実は、もう考えているんです・・・」
セイレーンは、しばし逡巡してから続けた。
「その・・・他の人のすてきな歌も歌いたいけど、もっと自分で書いた歌も歌いたいです」
「つまり、もっとお前のオリジナル曲を出していきたい、ということだな?」
男の確認に、彼女はコクリと頷く。
「よし。だったら、お前の書いた歌をチェックして、早速曲を作ろう。休みの間も、何本か書いてもらうことになるが・・・大丈夫か?」
「はい、アイデアはいくつか温めていますから」
後はそれを書き出すだけだ。
「じゃあ、早速事務所に戻って準備を始めよう」
「はい!」
「忙しくなるぞ?」
「でも、楽しいですよ」
二人は言葉を交わしながら荷物をまとめると、扉を開いて楽屋を出ていった。
12/11/12 21:18更新 / 十二屋月蝕
戻る
次へ