(70)スフィンクス
遺跡の入り口、人一人がようやく通れるほどの穴の前に、台座があった。
石造りの台座の上には、褐色の肌に猫のような手足と耳をはやした女が、一人しゃがみ込んでいた。
「畑に行くときは一人、帰ってくるときは何十人。なーんだ？」
「畑にまいたトウモロコシと、収穫したときの粒だ」
女は、ややツリ気味の目を一瞬見開くと、唇を尖らせた。
「･･････ブブー」
「ええー！？」
少しの間をおいての、不正解を意味する彼女の言葉に、男が抗議の声を上げた。
「何でだよ！正解は何だよ！」
「ふふふー正解はねー」
「麦とか豆とか、畑に蒔いて収穫するものだったら正解扱いだぞ」
男の言葉に、女は口をつぐんだ。
「せ･･･」
「せ？」
「正解は･･･『昼飯時を伝えにいく監督と、畑から出てくる奴隷』でした」
額に汗を浮かべながらの女の言葉に、男は眼を細めた。
「今考えただろ」
「違う。サハラに古くより伝わる偉大なる知恵比べの問答の一つよ！ほら、ふつうに奴隷とか出てくるあたり、それっぽいじゃない？」
「昔のサハラには、昼休憩もそれを伝えにいく監督もいたのかー、へー」
「はは、はははは･･･先進的でしょう･･･」
まるきり信じていない様子の男に、彼女はドギマギしつつも胸を張った。
黒い布に押し込められた二つの肉の玉が、小さく揺れる。
「正直に言え、嘘だろう」
「ふーふーふふーん」
問いつめる男に、女は視線を逸らして、口笛を吹いた。
「仕方ない、アヌビスさんに聞いてみようか」
「嘘でしたー！ごめんなさいー！」
女の上司の名前に、彼女はがばと台座の上で頭を下げる。
「正解したんなら、ちゃんとそう言ってくれよ･･･」
「だって･･･一度ぐらい問いかけで勝たないと、スフィンクスとしてどうかと･･･」
ぐずぐずと、涙混じりの声で彼女、遺跡を守る魔物、スフィンクスは言い訳した。
本来ならば問答には魔力と呪いが込められており、不正解の場合には解答者に、正解ならば出題者にそれらが降り懸かるようにできている。
だが、男もスフィンクスも、呪いの『の』の字の影響すら受けた様子はなかった。
「だったら、勝てそうな問題出せよ･･･」
「その勝てそうな問題出して、あなたに即座に返り討ちにあったじゃないの！」
声を上げながら顔を上げると、彼女は涙をにじませたツリ目で男をにらんだ。
半年以上前、この小さな小さな遺跡を訪れた男が、一人で遺跡を守っていた彼女の問いかけに答えてから、この関係は始まったのだ。
「いやー、でも･･･今更『朝は四本、昼は二本、夜は三本』って問題がくるだなんて･･･」
「その後よ！何で『ならば猿が杖を突いて歩くようになれば、それは人間か？』になんて答えたか覚えてる！？」
「あー･･･」
当時のことを思い返した。
「『猿のように振る舞えばそれは猿。人のように振る舞えばそれは人。猿と人を隔てるのは、その振る舞いだ』だっけか？」
「本当なら適当に理由付けて不正解にするつもりだったのに、ふつうに感心して正解になったじゃないの！」
「いや、それ感心したお前が悪いよね？」
男としては、ごくごく当たり前のことを言ったつもりなのに、問いかけに込めた呪いが降り懸かった彼女は実際のところ自業自得だろう。
「おかげでこっちは身体が大変なことになるし、渾身の問いかけが破られたおかげで呪いを込められなくなるし･･･あなた以外の人がきたら、遺跡守れないじゃないの！」
心的に負った傷のおかげで、任された仕事ができなくなったということに対し、男はかすかに申し訳なさを感じた。
「あー、それは、若干申し訳ない･･･」
そう口にするだけで、彼の申し訳なさが若干紛れた。
「とにかく！」
ごしごしと猫めいた形の手で目元を拭ってから、彼女は男をにらみながら続ける。
「あなたに出題して、あなたをコテンパンに不正解させない限り、怖くて問いかけに呪い込められないのよ！」
「つまり？」
「呪い込めて出題するから、一度不正解して」
「出来レースじゃねーか！」
スフィンクスの提案に、男は即座に言った。
「いやー、でも実感として一度は不正解勝ち取らないと、どうにもこうにも･･･」
「それで呪い降り懸かってくるのは俺だぞ！？」
「あー、呪いっていっても、えっちぃ気分になって、身動きがとれなくなるだけだから！あのときの私みたいに！」
男は、初めて彼女と会ったときのことを思い返した。
彼の解答に感心したような声を漏らすなり、スフィンクスは声を上げてその場にヘナヘナと崩れ落ちたのだ。不意打ちを警戒しつつ、男が彼女を調べると、彼女の顔は赤らみ、股間を覆う布はびしょびしょに濡れていた。
そして、弱々しく彼を見上げながら、身体の疼きを治めてほしい、とねだった。
「あのとき私を手込めにしたんだから、その責任をとりなさい」
「いやー、あれは不可抗力と言うか何というか･･･いや、あの状況でお前放置していける分けないだろ？」
「だったら私にも、あなた放置するわけにはいかない状況味あわせなさいよ！」
男のいいわけに、彼女は声を上げた。
「仕方ないな･･･」
確かに、あの場で彼女に手を出した男にも責任がある。ならば、呪いを込められないという状況を解決する手助けはすべきだろう。
「一回だ。一回だけ不正解してやるから、問題出せ」
「え？本当に受けてくれるの？やったー！」
「その代わり、一回だけだぞ！」
台座の上ではしゃぐスフィンクスにそう言うと、彼女は顎に手を当てて考え始めた。
「えーとね、じゃあ･･････」
しばしの間をおいて、彼女は男の目を見た。
「いつもあなたの側にいて、現れたり消えたりする、薄っぺらで暗い奴って･･･」
「待て、本当にそれでいいのか？」
答えが明らかな、なぞなぞレベルの問題を男は思わず遮った。
「そんな簡単な問題で、本当にお前の心に負った傷とかは治るのか？」
「いや･･･だって、こんな簡単な問いかけでも、あなたを打ち負かしたって実感があれば･･･」
「それにしても簡単すぎるだろう」
「うー」
男の言葉に、スフィンクスはうめいた。
「もう少し、難しい問題がよくないか？俺がしばらく考え込んで、出した答えが不正解でも不自然じゃない問題の方が」
「言われてみれば、そうかも･･･」
さすがに先ほどのようななぞなぞで不正解を勝ち取っても、茶番にしかならないだろう。
「わかった･･･だったら･･･」
再び顎に手を当て、ツリ目を閉ざしながら彼女は考えた。
「白い壁の中に紙、紙の中に大理石の壁、大理石の壁の中に黄金がある。黄金に大理石に紙に壁。そしていつの日か飛び立っていくのはなーんだ？」
「ええと･･･」
男は初めて聞く問題に、考えた。
壁に紙に大理石に黄金。なんだろうか？
形式としてはなぞなぞに近いが、なぞなぞでないかもしれない。
問題の最後に含まれていた、飛び立つという表現も気になる。
飛び立つ･･･鳥、ハーピィ、ワーバット･･･空を飛ぶ者はいくつもいる。
それらと、壁と紙と大理石と黄金の関係は？
男の脳裏で、知識と類推がぐるぐると渦を巻いていく。
「･･････」
本気で考え込む男の姿に、スフィンクスはツリ気味の目を見開き、彼がなんと答えるかじっと待った。
「ええと･･･あ！」
男が目を見開き、ぽんと手を打った。
「グレタル旅行記のジパング人だ！家は白い紙の壁でできているけど、肌は大理石のように艶やかで、心は黄金のように輝いているって書いてあった！」
「ブブー！」
心底うれしそうに、スフィンクスが顔の下で腕を交差させ、唇を尖らせた。
「答えは卵でしたー！」
「卵？ええと･･･あ･･･」
殻が壁で薄皮が紙、白身と黄身がそれぞれ大理石と黄金を意味していることに、男は気がついた。
そして卵から孵ったヒナは、いずれ飛び立っていく。
「卵か･･･」
「むしろ、ジパング人なんてよく思いついたわねー。グレタル旅行記なんて私、読んだことないわよ」
男の変化球すぎる解答に、スフィンクスは男の発想力に対して感心していた。
「とにかく、これで不正解を勝ち取ったから、呪いがドーン！」
スフィンクスはそういいながら、猫の手で男を指した。
だが、男の身体に何の変化もなかった。
「･･･？ドーン！」
念のためもう一度、手を振りあげ、振り下ろしながら声を上げる。
しかし、男は呼吸一つ乱さず、戸惑ったように自分の身体を見下ろしていた。
「えーと･･･あ」
スフィンクスは、ふと思い出した。卵の問いかけに、呪いを込めるのを忘れていたのだ。
「ご、ごめんなさい･･･呪いを込めて･･･」
「ぐあーっ！」
「っ！？」
不意に苦しげな声を上げた男に、スフィンクスが全身をびくんと震わせた。
「ど、どういうことだ、体が熱い！」
苦しげな声音で、男は纏っていたシャツに手をかけると、ボタンを外して脱ぎ捨てた。
「熱くて熱くて、焼けそうだ！」
ズボンのベルトをゆるめ、下着ごとズボンを脱ぐと、簡単に畳んでから地面にたたきつける。
「そして身体が動かなくなってきた！」
一糸纏わぬ姿になると、男はスフィンクスの前で大の字に寝転がる。
「この隙に魔物に襲われたら、ひとたまりもないなあ！」
そしてそう続けると、彼は両手両足を広げたまま、身動き一つしなくなった。
「ええと･･･」
スフィンクスは、男の行動に困惑した。
まさか彼が、こうして呪いにかかった振りをするとは思わなかったからだ。
せいぜい、呪いを込め忘れた彼女に苦言を呈しながらも、次の問題を求めるとばかり思っていた。
だが、今現在、男は全裸で地面に寝転がり、身動き一つしなかった。
「うー･･･ふふふ、浅はかな知恵で、私に挑もうとしたのがそもそもの不正解なのよー」
一度呻いてから、スフィンクスは棒読みの口調でそう男に呼びかけた。
意志の台座から地面に飛び降り、男の側に歩み寄る。
「二度とそんな間違いを犯さぬよう、身体に教えてあげるわー」
そこまで言ったところで、スフィンクスは動きを止めた。
この後、なにをすればいいのだろう。
（とりあえず、お仕置きっぽいことよね･･･？）
内心で自問自答すると、彼女はおずおずと片足を掲げ、男のむき出しの股間にそっと乗せた。
「･･･」
無言のまま、足の肉球で肉棒を軽くなでる。
すると、スフィンクスの体重を支え、いくらか固くなっているとはいえ、ぷにぷにとしたその感触に彼の性器が屹立していく。
「わ、わわ･･･」
足の裏を押し返し、肉球に食い込む屹立の感触に、スフィンクスは思わず声を漏らして、片足をあげた。
「あ、もう少し体重かけても大丈夫だから」
「そうなの？じゃあ･･･」
倒れ伏す男の言葉に、片足立ちになっていた彼女は、再び肉棒に足を乗せた。
下腹に亀頭を押しつけ、膨れる裏筋全体を肉球で圧迫する。
この半年間、手や口や女陰で形を確かめ、扱いを覚えてきたはずなのに、足の裏で感じる肉棒は全く別物のように思えた。
男が痛みを覚えぬよう、しかし刺激を感じられるように、ゆっくりと体重をかけていく。
「うっ･･･」
「あ、ゴメン」
一瞬ゆがんだ男の表情に、彼女は少しだけ加重をゆるめた。
（このぐらいの力加減･･･）
肉球を押し返す屹立の感触と、足への力の籠もり具合を、スフィンクスは覚えた。
そして、その加重を維持したまま、彼女はゆっくりと足を動かし始めた。
まずは左右に。肉棒を、男の下腹の上で、右に左に転がすように。
肉球に食い込んだ裏筋が、足の動きにあわせて左右に傾く。肉球の弾力のある柔らかい感触は、男に心地よい刺激を与えていた。
下腹と肉球。半分は自分の身体だというのに、肉棒を挟み込まれ圧迫される感覚は、温かく包み込まれているようだった。
「ん･･･」
屹立が脈動し、肉球を断続的に押し返してくるのを、スフィンクスは感じた。
男の肉棒が完全に勃起したのを確認すると、彼女は左右に動かしていた足を、前後の動きに変えた。
少しだけ足に加える重みを緩めることで、肉球が屹立を擦る。
膨れた裏筋に合わせて肉球がへこみ、皮膚表面をなでていく。緊張か、なれない姿勢によるものか、スフィンクスの肉球は汗の湿り気を帯びており、それが摩擦の滑りをよくしていた。
「う･･･ぅ･･･！」
四肢を広げて横たわる男が、指を握りながら呻いた。
屹立を食い込ませ、裏筋やカリ首にあわせて凹凸するその感触が、彼を追いつめていく。
そして、ついに限界が訪れ、びくびくとスフィンクスの肉球を押し返しながら、男は達した。
「ぐ･･･ぅ･･･！」
手を握りしめ、全身に力を込めながら、肉棒から白濁を迸らせる。
粘つく体液は、彼の下腹からへそを越え、胸のあたりまで届いた。
もちろん、肉棒に触れていたスフィンクスの足にも白濁は絡みついており、亀頭に近い足の指にへばりついていた。
「わ、わぁ･･･」
手や口、女陰で射精させたときと違い、妙に勢いのある射精に、彼女はツリ気味の目を丸く見開いた。
やがて肉棒の脈動が止まり、射精が収まる。少しだけ柔らかくなった屹立の感触に、彼女は足を持ち上げた。
にちゃり、と彼女のつま先と男の肉棒を繋ぐように、白濁が粘液の糸を張る。
「こん、なに･･･」
いつもならば体内にそそぎ込まれたり、口で吸ってしまうため、あまり目にすることがなかった精液の量に、スフィンクスは息をのんだ。
だが、見とれかけていたことに気がつくと、彼女はぶんぶん首を振って、意識を切り替えた。
「あ、足でこんなに射精するなんて･･･これは罰だというのに、喜んでどうするの？」
いかにもそれっぽい言葉を選びながら、彼女は足を掲げ、肉球の縁やつま先にへばり付く白濁を男に見せつけた。
「さあ、ここで一度だけ尋ねるわ･･･」
今の状態なら、いける。スフィンクスは自分の直感を信じ、言葉に魔力を込めながら、続けた。
「スで始まって、スで終わる、あなたが大好きで、私も聞くとうれしくなっちゃう言葉はなーんだ？」
答えはスフィンクス。つまりは彼女自身だ。
本当なら、知恵があるだの遺跡の守護者だの、ご大層なヒントを連ねるのだが、あえて男と自分の関係に集約した。
先ほど呪いを込めていなかったことに、演技で応えてくれた彼ならば、今度の問いかけにも間違えてくれるだろう。
「えぇと･･･」
男は、しばし考えて、口を開いた。
「『好きです』･･･？」
「へ？」
全く考えていなかった言葉が、スフィンクスの意識に食い込み、遅れてなんと言われたのか理解が及ぶ。
彼女の想定していた答えとは違う。だが、スで始まってスで終わり、スフィンクス自身もその言葉に喜びを感じている。
「きゅ、急にそんな･･･ひゃっ！？」
意識のどこかで正解と認めてしまったためか、問いかけに込めていた呪いが、スフィンクスに降り懸かった。
「ふひ、ゃぁあああああ･･･」
全身を支配する甘いしびれに、彼女は口から声を漏らすと、フニャフニャと男の身体に覆い被さるように倒れていった。
白濁が自身の腹にへばり付くのもかまわず、彼女は全身のしびれに身をゆだねていた。
「えーと･･･正解、だったの･･･？」
「ふひ･･･んにゃぁぁ･･･」
熱を帯び、時折身体を小さく震わせる彼女に、男はそう漏らした。
どうやら、彼女が心に負った傷が癒えるのは、もう少し先のことらしい。
石造りの台座の上には、褐色の肌に猫のような手足と耳をはやした女が、一人しゃがみ込んでいた。
「畑に行くときは一人、帰ってくるときは何十人。なーんだ？」
「畑にまいたトウモロコシと、収穫したときの粒だ」
女は、ややツリ気味の目を一瞬見開くと、唇を尖らせた。
「･･････ブブー」
「ええー！？」
少しの間をおいての、不正解を意味する彼女の言葉に、男が抗議の声を上げた。
「何でだよ！正解は何だよ！」
「ふふふー正解はねー」
「麦とか豆とか、畑に蒔いて収穫するものだったら正解扱いだぞ」
男の言葉に、女は口をつぐんだ。
「せ･･･」
「せ？」
「正解は･･･『昼飯時を伝えにいく監督と、畑から出てくる奴隷』でした」
額に汗を浮かべながらの女の言葉に、男は眼を細めた。
「今考えただろ」
「違う。サハラに古くより伝わる偉大なる知恵比べの問答の一つよ！ほら、ふつうに奴隷とか出てくるあたり、それっぽいじゃない？」
「昔のサハラには、昼休憩もそれを伝えにいく監督もいたのかー、へー」
「はは、はははは･･･先進的でしょう･･･」
まるきり信じていない様子の男に、彼女はドギマギしつつも胸を張った。
黒い布に押し込められた二つの肉の玉が、小さく揺れる。
「正直に言え、嘘だろう」
「ふーふーふふーん」
問いつめる男に、女は視線を逸らして、口笛を吹いた。
「仕方ない、アヌビスさんに聞いてみようか」
「嘘でしたー！ごめんなさいー！」
女の上司の名前に、彼女はがばと台座の上で頭を下げる。
「正解したんなら、ちゃんとそう言ってくれよ･･･」
「だって･･･一度ぐらい問いかけで勝たないと、スフィンクスとしてどうかと･･･」
ぐずぐずと、涙混じりの声で彼女、遺跡を守る魔物、スフィンクスは言い訳した。
本来ならば問答には魔力と呪いが込められており、不正解の場合には解答者に、正解ならば出題者にそれらが降り懸かるようにできている。
だが、男もスフィンクスも、呪いの『の』の字の影響すら受けた様子はなかった。
「だったら、勝てそうな問題出せよ･･･」
「その勝てそうな問題出して、あなたに即座に返り討ちにあったじゃないの！」
声を上げながら顔を上げると、彼女は涙をにじませたツリ目で男をにらんだ。
半年以上前、この小さな小さな遺跡を訪れた男が、一人で遺跡を守っていた彼女の問いかけに答えてから、この関係は始まったのだ。
「いやー、でも･･･今更『朝は四本、昼は二本、夜は三本』って問題がくるだなんて･･･」
「その後よ！何で『ならば猿が杖を突いて歩くようになれば、それは人間か？』になんて答えたか覚えてる！？」
「あー･･･」
当時のことを思い返した。
「『猿のように振る舞えばそれは猿。人のように振る舞えばそれは人。猿と人を隔てるのは、その振る舞いだ』だっけか？」
「本当なら適当に理由付けて不正解にするつもりだったのに、ふつうに感心して正解になったじゃないの！」
「いや、それ感心したお前が悪いよね？」
男としては、ごくごく当たり前のことを言ったつもりなのに、問いかけに込めた呪いが降り懸かった彼女は実際のところ自業自得だろう。
「おかげでこっちは身体が大変なことになるし、渾身の問いかけが破られたおかげで呪いを込められなくなるし･･･あなた以外の人がきたら、遺跡守れないじゃないの！」
心的に負った傷のおかげで、任された仕事ができなくなったということに対し、男はかすかに申し訳なさを感じた。
「あー、それは、若干申し訳ない･･･」
そう口にするだけで、彼の申し訳なさが若干紛れた。
「とにかく！」
ごしごしと猫めいた形の手で目元を拭ってから、彼女は男をにらみながら続ける。
「あなたに出題して、あなたをコテンパンに不正解させない限り、怖くて問いかけに呪い込められないのよ！」
「つまり？」
「呪い込めて出題するから、一度不正解して」
「出来レースじゃねーか！」
スフィンクスの提案に、男は即座に言った。
「いやー、でも実感として一度は不正解勝ち取らないと、どうにもこうにも･･･」
「それで呪い降り懸かってくるのは俺だぞ！？」
「あー、呪いっていっても、えっちぃ気分になって、身動きがとれなくなるだけだから！あのときの私みたいに！」
男は、初めて彼女と会ったときのことを思い返した。
彼の解答に感心したような声を漏らすなり、スフィンクスは声を上げてその場にヘナヘナと崩れ落ちたのだ。不意打ちを警戒しつつ、男が彼女を調べると、彼女の顔は赤らみ、股間を覆う布はびしょびしょに濡れていた。
そして、弱々しく彼を見上げながら、身体の疼きを治めてほしい、とねだった。
「あのとき私を手込めにしたんだから、その責任をとりなさい」
「いやー、あれは不可抗力と言うか何というか･･･いや、あの状況でお前放置していける分けないだろ？」
「だったら私にも、あなた放置するわけにはいかない状況味あわせなさいよ！」
男のいいわけに、彼女は声を上げた。
「仕方ないな･･･」
確かに、あの場で彼女に手を出した男にも責任がある。ならば、呪いを込められないという状況を解決する手助けはすべきだろう。
「一回だ。一回だけ不正解してやるから、問題出せ」
「え？本当に受けてくれるの？やったー！」
「その代わり、一回だけだぞ！」
台座の上ではしゃぐスフィンクスにそう言うと、彼女は顎に手を当てて考え始めた。
「えーとね、じゃあ･･････」
しばしの間をおいて、彼女は男の目を見た。
「いつもあなたの側にいて、現れたり消えたりする、薄っぺらで暗い奴って･･･」
「待て、本当にそれでいいのか？」
答えが明らかな、なぞなぞレベルの問題を男は思わず遮った。
「そんな簡単な問題で、本当にお前の心に負った傷とかは治るのか？」
「いや･･･だって、こんな簡単な問いかけでも、あなたを打ち負かしたって実感があれば･･･」
「それにしても簡単すぎるだろう」
「うー」
男の言葉に、スフィンクスはうめいた。
「もう少し、難しい問題がよくないか？俺がしばらく考え込んで、出した答えが不正解でも不自然じゃない問題の方が」
「言われてみれば、そうかも･･･」
さすがに先ほどのようななぞなぞで不正解を勝ち取っても、茶番にしかならないだろう。
「わかった･･･だったら･･･」
再び顎に手を当て、ツリ目を閉ざしながら彼女は考えた。
「白い壁の中に紙、紙の中に大理石の壁、大理石の壁の中に黄金がある。黄金に大理石に紙に壁。そしていつの日か飛び立っていくのはなーんだ？」
「ええと･･･」
男は初めて聞く問題に、考えた。
壁に紙に大理石に黄金。なんだろうか？
形式としてはなぞなぞに近いが、なぞなぞでないかもしれない。
問題の最後に含まれていた、飛び立つという表現も気になる。
飛び立つ･･･鳥、ハーピィ、ワーバット･･･空を飛ぶ者はいくつもいる。
それらと、壁と紙と大理石と黄金の関係は？
男の脳裏で、知識と類推がぐるぐると渦を巻いていく。
「･･････」
本気で考え込む男の姿に、スフィンクスはツリ気味の目を見開き、彼がなんと答えるかじっと待った。
「ええと･･･あ！」
男が目を見開き、ぽんと手を打った。
「グレタル旅行記のジパング人だ！家は白い紙の壁でできているけど、肌は大理石のように艶やかで、心は黄金のように輝いているって書いてあった！」
「ブブー！」
心底うれしそうに、スフィンクスが顔の下で腕を交差させ、唇を尖らせた。
「答えは卵でしたー！」
「卵？ええと･･･あ･･･」
殻が壁で薄皮が紙、白身と黄身がそれぞれ大理石と黄金を意味していることに、男は気がついた。
そして卵から孵ったヒナは、いずれ飛び立っていく。
「卵か･･･」
「むしろ、ジパング人なんてよく思いついたわねー。グレタル旅行記なんて私、読んだことないわよ」
男の変化球すぎる解答に、スフィンクスは男の発想力に対して感心していた。
「とにかく、これで不正解を勝ち取ったから、呪いがドーン！」
スフィンクスはそういいながら、猫の手で男を指した。
だが、男の身体に何の変化もなかった。
「･･･？ドーン！」
念のためもう一度、手を振りあげ、振り下ろしながら声を上げる。
しかし、男は呼吸一つ乱さず、戸惑ったように自分の身体を見下ろしていた。
「えーと･･･あ」
スフィンクスは、ふと思い出した。卵の問いかけに、呪いを込めるのを忘れていたのだ。
「ご、ごめんなさい･･･呪いを込めて･･･」
「ぐあーっ！」
「っ！？」
不意に苦しげな声を上げた男に、スフィンクスが全身をびくんと震わせた。
「ど、どういうことだ、体が熱い！」
苦しげな声音で、男は纏っていたシャツに手をかけると、ボタンを外して脱ぎ捨てた。
「熱くて熱くて、焼けそうだ！」
ズボンのベルトをゆるめ、下着ごとズボンを脱ぐと、簡単に畳んでから地面にたたきつける。
「そして身体が動かなくなってきた！」
一糸纏わぬ姿になると、男はスフィンクスの前で大の字に寝転がる。
「この隙に魔物に襲われたら、ひとたまりもないなあ！」
そしてそう続けると、彼は両手両足を広げたまま、身動き一つしなくなった。
「ええと･･･」
スフィンクスは、男の行動に困惑した。
まさか彼が、こうして呪いにかかった振りをするとは思わなかったからだ。
せいぜい、呪いを込め忘れた彼女に苦言を呈しながらも、次の問題を求めるとばかり思っていた。
だが、今現在、男は全裸で地面に寝転がり、身動き一つしなかった。
「うー･･･ふふふ、浅はかな知恵で、私に挑もうとしたのがそもそもの不正解なのよー」
一度呻いてから、スフィンクスは棒読みの口調でそう男に呼びかけた。
意志の台座から地面に飛び降り、男の側に歩み寄る。
「二度とそんな間違いを犯さぬよう、身体に教えてあげるわー」
そこまで言ったところで、スフィンクスは動きを止めた。
この後、なにをすればいいのだろう。
（とりあえず、お仕置きっぽいことよね･･･？）
内心で自問自答すると、彼女はおずおずと片足を掲げ、男のむき出しの股間にそっと乗せた。
「･･･」
無言のまま、足の肉球で肉棒を軽くなでる。
すると、スフィンクスの体重を支え、いくらか固くなっているとはいえ、ぷにぷにとしたその感触に彼の性器が屹立していく。
「わ、わわ･･･」
足の裏を押し返し、肉球に食い込む屹立の感触に、スフィンクスは思わず声を漏らして、片足をあげた。
「あ、もう少し体重かけても大丈夫だから」
「そうなの？じゃあ･･･」
倒れ伏す男の言葉に、片足立ちになっていた彼女は、再び肉棒に足を乗せた。
下腹に亀頭を押しつけ、膨れる裏筋全体を肉球で圧迫する。
この半年間、手や口や女陰で形を確かめ、扱いを覚えてきたはずなのに、足の裏で感じる肉棒は全く別物のように思えた。
男が痛みを覚えぬよう、しかし刺激を感じられるように、ゆっくりと体重をかけていく。
「うっ･･･」
「あ、ゴメン」
一瞬ゆがんだ男の表情に、彼女は少しだけ加重をゆるめた。
（このぐらいの力加減･･･）
肉球を押し返す屹立の感触と、足への力の籠もり具合を、スフィンクスは覚えた。
そして、その加重を維持したまま、彼女はゆっくりと足を動かし始めた。
まずは左右に。肉棒を、男の下腹の上で、右に左に転がすように。
肉球に食い込んだ裏筋が、足の動きにあわせて左右に傾く。肉球の弾力のある柔らかい感触は、男に心地よい刺激を与えていた。
下腹と肉球。半分は自分の身体だというのに、肉棒を挟み込まれ圧迫される感覚は、温かく包み込まれているようだった。
「ん･･･」
屹立が脈動し、肉球を断続的に押し返してくるのを、スフィンクスは感じた。
男の肉棒が完全に勃起したのを確認すると、彼女は左右に動かしていた足を、前後の動きに変えた。
少しだけ足に加える重みを緩めることで、肉球が屹立を擦る。
膨れた裏筋に合わせて肉球がへこみ、皮膚表面をなでていく。緊張か、なれない姿勢によるものか、スフィンクスの肉球は汗の湿り気を帯びており、それが摩擦の滑りをよくしていた。
「う･･･ぅ･･･！」
四肢を広げて横たわる男が、指を握りながら呻いた。
屹立を食い込ませ、裏筋やカリ首にあわせて凹凸するその感触が、彼を追いつめていく。
そして、ついに限界が訪れ、びくびくとスフィンクスの肉球を押し返しながら、男は達した。
「ぐ･･･ぅ･･･！」
手を握りしめ、全身に力を込めながら、肉棒から白濁を迸らせる。
粘つく体液は、彼の下腹からへそを越え、胸のあたりまで届いた。
もちろん、肉棒に触れていたスフィンクスの足にも白濁は絡みついており、亀頭に近い足の指にへばりついていた。
「わ、わぁ･･･」
手や口、女陰で射精させたときと違い、妙に勢いのある射精に、彼女はツリ気味の目を丸く見開いた。
やがて肉棒の脈動が止まり、射精が収まる。少しだけ柔らかくなった屹立の感触に、彼女は足を持ち上げた。
にちゃり、と彼女のつま先と男の肉棒を繋ぐように、白濁が粘液の糸を張る。
「こん、なに･･･」
いつもならば体内にそそぎ込まれたり、口で吸ってしまうため、あまり目にすることがなかった精液の量に、スフィンクスは息をのんだ。
だが、見とれかけていたことに気がつくと、彼女はぶんぶん首を振って、意識を切り替えた。
「あ、足でこんなに射精するなんて･･･これは罰だというのに、喜んでどうするの？」
いかにもそれっぽい言葉を選びながら、彼女は足を掲げ、肉球の縁やつま先にへばり付く白濁を男に見せつけた。
「さあ、ここで一度だけ尋ねるわ･･･」
今の状態なら、いける。スフィンクスは自分の直感を信じ、言葉に魔力を込めながら、続けた。
「スで始まって、スで終わる、あなたが大好きで、私も聞くとうれしくなっちゃう言葉はなーんだ？」
答えはスフィンクス。つまりは彼女自身だ。
本当なら、知恵があるだの遺跡の守護者だの、ご大層なヒントを連ねるのだが、あえて男と自分の関係に集約した。
先ほど呪いを込めていなかったことに、演技で応えてくれた彼ならば、今度の問いかけにも間違えてくれるだろう。
「えぇと･･･」
男は、しばし考えて、口を開いた。
「『好きです』･･･？」
「へ？」
全く考えていなかった言葉が、スフィンクスの意識に食い込み、遅れてなんと言われたのか理解が及ぶ。
彼女の想定していた答えとは違う。だが、スで始まってスで終わり、スフィンクス自身もその言葉に喜びを感じている。
「きゅ、急にそんな･･･ひゃっ！？」
意識のどこかで正解と認めてしまったためか、問いかけに込めていた呪いが、スフィンクスに降り懸かった。
「ふひ、ゃぁあああああ･･･」
全身を支配する甘いしびれに、彼女は口から声を漏らすと、フニャフニャと男の身体に覆い被さるように倒れていった。
白濁が自身の腹にへばり付くのもかまわず、彼女は全身のしびれに身をゆだねていた。
「えーと･･･正解、だったの･･･？」
「ふひ･･･んにゃぁぁ･･･」
熱を帯び、時折身体を小さく震わせる彼女に、男はそう漏らした。
どうやら、彼女が心に負った傷が癒えるのは、もう少し先のことらしい。
12/11/02 23:09更新 / 十二屋月蝕
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