連載小説
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(65)ナイトメア
走る、走る、走る。
ぬるぬるとぬめりを帯び、足に絡みつく膝ほどの深さの粘液の沼を、男は必死に走っていた。
男の向かう先は闇だ。しかし、このままとどまったり、背後を振り向くよりかは遙かにましだ。
ああ、追いかけてくる、追いかけてくる。お面をつけた小さい男が、足も動かさずに男を追いかけてくる。
振り向かずとも、男には追跡者の姿が手に取るように分かった。
そして、追跡者が自分に何をしようとしているかも、追跡者自身のように男には分かった。
スプーンだ。スプーンを使うんだ。
男は銀色の食器が描く曲線を脳裏に思い浮かべ、その材質の冷たさを背筋に感じながら、懸命に前に進んだ。
しかし、もう追跡者は彼のすぐ後ろに迫っている。もう手を伸ばせば、背中に触れられる距離だ。
だが、追跡者は手を伸ばす気配はない。それもそのはず、スプーンを使うにはまだ距離がある。
「はぁはぁはぁ・・・!」
妙にもたつく両足を叱咤しながら、男は前へ前へと進んだ。
そして、追跡者が手を掲げ、彼の背中に向けてスプーンの柄をそっと近づけていく。
冷たい小さな凶器が彼の背筋にふれる瞬間、彼の手を何かが掴んだ。
不意の感触に、男の口から悲鳴が迸った。



「ああああああああああっ!ああああっ!あぁっ!」
悲鳴と呼吸を繰り返しながら、男は自分が寝室にいることに気がついた。
粘つく闇の沼ではないし、男の背中に触れていたのもベッドのシーツでスプーンの柄の影すらなかった。
「はぁはぁはぁ・・・」
本当に走って逃げていたかのように高鳴る心臓の鼓動をなだめ、呼吸を落ち着かせていく。
そして男は、つい先ほどまで自分が見ていた夢の何が恐ろしかったのか、頭の片隅で疑問を抱き始めた。
闇の沼を走るのは怖い。なおかつ追跡者がいるのはもっと怖い。しかし、その追跡者がスプーンを使うお面をつけた小男だとして、何が恐ろしいのだろう?そもそも、夢の中の男自身は知っていたようだが、スプーンをどう扱うのか?
恐怖感が薄れ、妙な笑いが浮かんでくる。
しかし、男には先ほどまでの悪夢を笑い飛ばして、ベッドに横になる気力はなかった。
このところ、横になれば必ず悪夢を見ているからだ。それも、後で考えてみれば、何が恐ろしかったのか分からない、でたらめな恐怖感だけが脳裏を満たす悪夢だ。
もう、彼は眠ることが恐ろしかった。
「はぁ・・・はぁ・・・く・・・」
ようやく落ち着いてきた呼吸の合間に、男はうめき声を挟んだ。
夜明けまで、まだもう少しかかる。眠らぬよう気をつけながら、体を休めないと。
「そしたら、病院だ・・・」
聞くところによると、最近男が住む町に、眠りに関する一切を請け負う医者がやってきたらしい。その医者なら、この悪夢をどうにかできるかもしれない。
体が健康だというのに医者に行くことへの抵抗感は、もはや男の内側から消えていた。
「とりあえず・・・便所だ・・・」
男はそう声に出して呟くと、ベッドから起きあがり、寝室を出ていった。
そして、主のいなくなった寝室に、窓の外から何かが動く物音が響いた。




清潔感のある小さな部屋に、一体の魔物と一人の人間の女性がいた。
イスに腰を下ろした女性の向かい、机のそばに座っているのは、一体のナイトメアだった。
腰から下、馬めいた形の下半身を床に寝そべらせ、イスに座る女性と目の高さをそろえていた。
「どうやら、食事制限による空腹感と、それに伴う不安感が、安眠を妨げているようですね」
ナイトメアがよく身に纏うローブではなく、白衣に袖を通し、藍色のロングヘアの下に眼鏡をかけた彼女は、女性に穏やかな口調で話しかけた。
「医者としては、ダイエットを中断して、食事制限を解除することをおすすめしますが・・・どうしても、というのなら寝る前に温めたミルクを飲んではどうでしょうか?ミルク一杯ぐらいなら、ダイエットの妨げにはならないでしょう?」
「そう、ですね・・・じゃあ、今晩からそうしてみます」
「しばらく試してみても、変わらず眠れないようなら、また来てください」
「はい、先生。今日はありがとうございました」
女性はイスから立つと、ナイトメアに向けて頭を下げて、部屋を出ていった。
「・・・・・・はぁ・・・」
ナイトメアは一つ嘆息すると、壁に掛けられた時計を見上げた。
もうすぐ昼だ。
「せんせぇ〜」
診察室の壁に設けられた小さな窓が開き、看護婦のワーシープがひょっこりと顔を覗かせた。
「新規の患者さんが来てます〜」
そう言いながら、彼女は窓からカルテを差し出した。ナイトメアはそれを受け取ると、ざっと目を通そうとし、カルテに書かれた名前に目が釘付けになった。
「っ!と、通して・・・」
「はい〜」
ナイトメアの声に宿った緊張に気がついた様子もなく、ワーシープは顔を引っ込め、窓を閉めた。
「・・・来た・・・!」
彼女は机の引き出しを慌ただしく開けると、小さな手鏡を取り出した。
顔を映し、髪型や目元をチェックしていく。すると、品津質の扉のノブがガチャリと音を立てた。
「っ!」
彼女は手鏡を瞬時に引き出しに押し込むと、何事もなかったかのように姿勢を整え、ペンを握った。
「失礼します・・・」
声だけでもそれと分かるほど、疲労感を滲ませながら、男が一人診察室に入ってきた。
「どうぞ、イスに腰掛けて、楽にしてください」
「はい・・・」
男はナイトメアの指示のまま、イスに腰を下ろした。柔らかなクッションが男の体重を受け止め、彼が背もたれに背中を預けると、ゆっくりと少しだけ傾いた。
「お名前は?」
男が、ナイトメアの問いかけに応え、彼の名前がカルテのそれと一致することを確認した。
「今日は、眠れないということでいらっしゃったそうですが・・・どのようにゃ症状で?」
口にしてから、ナイトメアは自分の舌がもつれたことに気がついた。
「・・・・・・眠ると、悪夢ばっかり見るんですよ・・・」
ナイトメアが噛んだことに気がついていないのか、平然とする彼女に自分の空耳だと判断したのか、男は何事もなかったかのように自分の症状を説明し始めた。
「夢自体は、後から思い出せばくだらない物ばっかりなんですが、見ている間は怖くて怖くてしょうがなくて・・・そして夢の最後で何かに捕まって、飛び起きるの繰り返しです。もう、眠るのがいやになるくらいになってきました・・・」
「なるほど」
ナイトメアは、男の症状をカルテに書き込んでいった。手が震え、ペン先が踊るため、並ぶ文字はいつもより少しだけ揺れていた。
「いつ頃からですか?」
「半年ぐらい前からです」
ちょうど、ナイトメアがこの町に来て、安眠専門の診療所を開いた頃だ。
「そのころ、生活や職場で何か変化は?」
「特に何も」
「家具を買い換えたりだとかは?」
「悪夢を見るようになって、二回枕を変えました」
男は小さく頭を左右に揺らしてから続けた。
「でも、全く変化はありませんでした。もう、ベッドごと変えた方がいいんでしょうか?」
「まあ、そう焦らないでください・・・」
カルテに並ぶ文字をざっと見回し、ナイトメアは口を開いた。
「夢というのは、精神の安定を図るため、無意識のうちに感じる現実の裏返しです。現実での不満や不安が、夢に反映される場合が多いとされています」
「つまり、俺の現実での生活に問題が?」
「いいえ。あなたの場合、むしろ現実に問題がないのが問題なのかもしれません」
「?」
禅問答めいたナイトメアの言葉に、男は首を傾げた。
「これは私の勝手な予想ですが、あなたは今、眠り以外に関しては現実生活は順風満帆なのではないのでしょうか?仕事は円滑に進むし、日常も平穏そのもにょでは?」
また噛んでしまった。しかしナイトメアは表情にそれを出すことなく、平然とした調子で続けた。
「ちょっと表現としてはオーバーかもしれませんが、『何もかもうまくいきすぎている』と感じているのでは?」
「・・・言われてみれば、そんな気もします・・・」
男は静かに、ナイトメア医師の言葉に頷いた。
「おそらく、何もかもうまくいきすぎている生活に、あなたは無意識のうちに不安を覚えているのです。いいことがこれだけ続いたのだから、きっとそのうち悪いことが襲いかかってくる、と。だから、あなたは悪夢を見ることで、順風満帆な人生に陰りを落とし、精神の安定を図ろうとしているのです」
「そんな、迷惑な・・・」
男は、自分の無意識とやらのお節介に、顔をしかめた。
「おおかた、あなたが子供の頃に、いいことと悪いことが交互に降り懸かる経験をして、人生はそういうものだと思いこんでいるのかもしれません。少々、あなたの夢に潜り込んで、様子を調べてみたいのですが・・・お時間は大丈夫ですか?」
「はい。今日はもう休みにしました」
「それはよかった」
ナイトメアは、折り畳んでいた足を伸ばし、床の上に立つと、男が腰を下ろすイスのそばに移動した。
「少しイスを倒します」
ナイトメアの操作に、イスの背もたれが傾いて寝そべるような姿勢になっていく。
「足を伸ばして、こちらにどうぞ」
部屋の隅に置いてあったオットマンをイスに添えると、男のかかとをその上に乗せてやった。
すると、男はイスの上で完全に横になっていた。
イスの背もたれのなだらかな凹凸が、男の背骨を優しく受け止めている。
「はい、これから私が言うとおりにしてください・・・まずは、目を閉じて・・・」
言われるがまま、男が目蓋をおろすと、診察室に差し込む日の光が、彼の目蓋を赤く透かした。
「ゆっくり呼吸しましょう・・・吸って・・・吐いて・・・吸って・・・吐いて・・・」
ナイトメアがそういいながら、男のそばを離れ、窓際に移動する。
そして、彼女はカーテンの縁を掴んで続けた。
「さあ、少しずつ暗くなっていきますが、ゆっくりと呼吸を続けましょう・・・吸って・・・吐いて・・・」
呼吸のペースをゆっくりにさせながら、ナイトメアは徐々にカーテンを広げていった。
差し込む日光が遮られ、男の目蓋を透かした赤い光が徐々に消えていく。
「吸って・・・吐いて・・・吸って・・・吐いて・・・」
完全に視界が暗くなったところで、ナイトメアの蹄が床を踏みしめる音が、徐々に男の方に近づいてきた。
そして足音は彼の側で止まると、穏やかな口調で続けた。
「その調子・・・ゆっくり、ゆっくり・・・呼吸して・・・」
一瞬みしり、と床板が軋みを立て、彼女の声が近づく。どうやら足を折り畳み、イスの側に座ったようだった。
「さあ・・・右手がおもーくなる・・・左手もおもーくなる・・・両足もおもーくなる・・・体全部がおもーくなる・・・でも、動かす必要がないから大丈夫・・・」
彼女の言葉に、男は四肢を脱力させていった。
「手のひらが温かくなってきました・・・だんだん手が温かくなって、腕も、体も、足も、ぽかぽかしてきます・・・」
彼女の言葉通り、全身が温もりを帯びていく。
「さあ・・・もう一度、目を閉じて・・・」
ナイトメアのその一言に、男は自分の意識が閉じていくのを感じた。



気がつくと、薄汚れた狭い部屋に男は押し込まれていた。
固いイスに腰を下ろし、彼の前のテーブルには皿が一枚乗っている。
皿の上に乗っていたのは、妙にべたべたとした見た目の、魚の揚げ物だった。
頭に衣は付いておらず、魚の体を覆う衣も油を吸って湿っている。
男は、突然の状況に混乱しながらも、皿の左右におかれたナイフとフォークを無意識のうちに手に取った。
そして、ナイフの刃が妙にがたがたで、フォークの先端が微妙に違う方向を向いていることに気がつくやいなや、男はこの場所が急に恐ろしくなった。
こんな薄暗い場所で、食事?違う。食事ではない。男自身を『処理』するのだ。
薄汚れた皿の上で、不意に魚の揚げ物が目を開き、パクパクと口を開閉させた。
まるで生きているかのように、いや、この揚げ物は生きている。
油に濡れた衣に包まれた体をよじり、その場から逃れようとしているかのように、揚げ物の魚は男に顔を向け、濁った目玉で彼を見た。
「あ、あ、あ・・・!」
男は、手にしていたフォークで魚の体を押さえつけると、ナイフでその頭を切り落とそうとした。しかし、濡れた衣にナイフとフォークの先端が埋まり、軽く力を込めただけで二つの食器はパキンと砕けた。
唯一男が手にしていた武器が、銀色の粉になる。
「あああ!」
男はイスを蹴倒して立ち上がろうとしたが、イスは重く、彼の腰は上がらなかった。
皿の上では、揚げ物が身を捩りながら向きを徐々に変え、頭を彼の方に向けていた。このまま魚が皿を飛び出せば、男の喉元に食いつく。
いや、それよりももっと恐ろしいことが。
魚への恐怖感が膨れ上がっていく瞬間、男の背後で、木板が破れる音が響いた。
「っ!?」
不意の物音に首をひねり、背後を見ようとしたが、その瞬間彼の手を柔らかな手が掴んだ。
男の口から絶叫が響きわたる。



「ああああああっ!」
診察室のイスの上で、男は声を上げながら跳ね起きた。
夢の中ではイスに腰掛けていただけだというのに、心臓は早鐘のように鳴り響いており、全身には妙にべたつく汗が浮いていた。
「ああああ!ああああっ!」
「大丈夫!落ち着いて!イスに横になって!」
声を上げ、イスから転げ落ちそうになる男の手を握りしめたナイトメアが、そうやって彼を落ち着かせようとする。
彼女の手の感触と、その言葉に、男は徐々に落ち着きを取り戻していった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「落ち着きましたね・・・」
男の手を握ったまま、ナイトメアはぎこちない笑みを浮かべた。
「少しだけ、夢を拝見しましたが、どうも夢の中のあなた自身が、一切に対して恐怖を覚えるように・・・」
「先生・・・」
男の症状について説明しようとしたナイトメアを、男が不意に押しとどめた。
「・・・何か・・・?」
「いつから、俺の手を握ってた・・・?」
「っ!」
未だに握ったままだった手のひらに気がついたかのように、ナイトメアが目を見開いて指をゆるめようとした。しかし、男の指は彼女の手を逃がすまいと力を込め、彼女の手を掴み返した。
「俺が起きてから手を掴んだのか・・・?俺が目を覚ます直前に掴んだのか・・・?それとも・・・」
男はナイトメアの目を見上げながら、続けた。
「先生がこの町にやってきた頃から、毎晩夢の中で掴んでいたのか・・・?」
「な、なんで・・・っ!?」
思わずナイトメアが口にした言葉に、彼女は無意識のうちに肯定の意味を込めてしまっていたことに気がついた。
「この半年間、悪夢から目覚める間際、毎度手を掴まれていたんだ。もう、手を掴まれる感触は夢の中だってのに、体が覚えてるんだよ・・・そして、先生の手は、夢の中の手と全く同じなんだ・・・」
顔色を赤くしたり青くしたりするナイトメアを睨みながら、男は続けた。
「先生・・・何が楽しくて、俺をこんな目に遭わせるんだ・・・?」
「・・・・・・・・・ごめん、なさい・・・・・・」
もはや、言い逃れができないと悟ったのか、彼女がそう口を開いた。
「この町にやってきて、あなたを初めて見たとき、好きになってしまったの・・・でも、あなたにそのことを言う勇気がなくて・・・」
「夢の中に入って、俺の頭をぐちゃぐちゃにして、この病院に来るようし向けたのか?」
「ち、違う!」
男の言葉に、ナイトメアは勢いよく顔を左右に振った。
「悪夢を見せていたのは本当だけど、本当に怖いときに私が夢の中に現れて、助けてあげるつもりだったの・・・そうすれば、私と分からなくても、私みたいな魔物に対して好印象を抱くようになるはずだから・・・」
「いつか告白したときに、俺が受け入れてくれるようになるはずだ、と?」
「・・・・・・」
ナイトメアは無言で頷いた。
「はぁ・・・」
一方男はため息をついて、少しの間を挟んでから口を開いた。
「自分の魅力じゃ不安だから、相手の方を改造してやる、か・・・」
「ごめんなさい・・・」
「何で、もう少し自分に自信をもたないのか・・・」
男はやれやれ、といった様子で頭を振ると、彼女の手を掴む腕に力を込めた。
「っ!?」
ナイトメアの上半身が引き寄せられ、彼女の後頭部に男のもう一方の手が回る。そして、抵抗する間もなく、彼女の頭がたぐり寄せられ、男と唇が重なった。
「・・・んっ・・・!?」
「ぷはっ」
ほんの数秒、唇と唇が触れ合う程度の接吻だったが、彼女の意識を乱し、体を固まらせるには十分だった。
「こうして、もらいたかったんだろ・・・先生?」
「え?あ・・・え・・・?」
ふるえる指で、唇の感触の残る自信のそれに触れ、ほんのさっきキスしたことを彼女は実感していた。
「そして、こうしてもらいたかったんだろ?」
男は、未だ混乱する彼女の胸元に手を伸ばすと、白衣の下の乳房を掴んだ。
「んっ!」
胸元からかけ上る、かすかな痛みと甘い刺激に、彼女は思わず声を漏らした。
「ははは、いやがるかと思ったら、感じたみたいだな。もしかして、期待していたのか?」
「ち、ちが・・・」
「だったら、どうしてここはこんなに固くなってるんだ?」
「ひゃぅ!?」
乳房の先端、衣服の下で固く勃起する乳頭をぐいと擦られ、彼女は上擦った声を漏らした。
男は、人差し指で乳房の先端を擦りながら、残る四本の指で布の下の柔らかな固まりを揉みしだいた。
乳房をこねあげられる感触に、彼女の背筋を甘いしびれが上っていく。
「や、ぁ・・・!」
顔を赤らめ、弱々しく身を捩りながら、彼女は熱を帯びた声を漏らした。
「嫌?だったらやめよう」
不意に男がそう口を開くと、乳房を掴んでいた手を離した。
「あ・・・」
乳房の内側で高まりつつあった熱だけが取り残され、冷えていく感覚に彼女は思わず声を漏らした。
「嫌だったんだろう?だからやめた」
「そんな・・・」
彼女の馬めいた下半身、後ろ足の間の亀裂は、かすかに粘液をにじませている。
彼女の意識とは裏腹に、肉体が男を求めているのだ。
「もしかして、続けてほしかったのか?」
「・・・・・・・・・」
彼女はしばし迷ってから、小さく顔を上下させて、男の問いかけに肯定した。
「なるほど。だったら、約束しろ。俺にもう二度と悪夢を見せないとな」
「はい、約束します・・・だから、お願いですから・・・」
こうしている間にも否応なしに高まっていく下半身の疼きに、彼女はもじもじと尻を揺らしながら、そう求めた。
「素直でよろしい」
男はイスからすっくと立ち上がると、床にうずくまる彼女の背後に回った。
「あ・・・」
「さーて、御開帳」
男は、ナイトメアの下半身を覆うスカートをめくると、後ろ足の間をのぞき込んだ。
「ははは、胸をもまれて興奮したのか?ぬるぬるになっているぞ」
「うぅ・・・」
改めて、自分の下半身がどのように欲情しているのかを指摘され、彼女は羞恥に顔を赤らめた。
だが、その羞恥心が彼女の興奮を高め、下半身の亀裂を開閉させた。
「おぉ、ぱくぱく開いて・・・もしかして、もうつっこんでほしいのか?」
「・・・・・・はい・・・・・・」
赤く染まった顔を伏せながら、彼女はそう頷いた。
「よし。正直な先生に、ご褒美だ」
男はズボンの内側から屹立を取り出すと、腰を屈めて彼女の尻に近づき、開閉する桃色の亀裂に肉棒を差し入れた。
「っ・・・!」
腹の間をかき分けて入り込んでくる肉棒の感触に、ナイトメアは背筋を反らして声を漏らした。
「おぉ・・・なかなか、締め付けてくる・・・!」
馬の巨大な尻とは裏腹に、ナイトメアの内側は狭く、男の屹立を締め上げてきた。
軟らかな肉が、屹立を包み込む感触は、ただじっとしているだけでも心地の良い物だった。
「く、ぅ・・・!」
男はじっとしていてもこみ上げてくる射精感を押さえ込み、歯を食いしばりながら腰を前後に揺すった。
締め付けてくる膣肉が、肉棒に引きずられながら擦られる。
「ひゃぅ・・・!」
女陰から伝わる、肉棒が出入りする感触に、彼女は声を上げて体を震わせた。
「も、もっとゆっくり・・・!」
「先生の方から欲しがったくせに、注文付けるのか・・・?」
腰の動きをそのままに、男はゆっくり指をそろえた手を挙げる。
「そんなわがまま先生には、お仕置きだ・・・!」
腰を揺すりながら、彼はナイトメアの尻に、勢いよく手のひらをたたきつけた。
「んぎっ!?」
ぱあん、と小気味いい音が診察室に響き、ナイトメアの膣がきゅっとせばまる。
「ん?中がきつくなったぞ!尻をたたかれて感じているのか!?」
「や、やめ・・・」
「もう少し試してみよう」
男は、力加減を調整しつつも、リズミカルにナイトメアの尻に手を振りおろした。
腰の動きにあわせて彼女の尻が高い音を立て、その度に屹立を締め付けが襲う。
「んぎっ!ひぐっ!うぅっ!」
途切れ途切れの声を漏らし、体を震わせながら、彼女は痛みに耐えた。
しかしその一方で、膣内を前後する男の屹立は、彼女の体に甘い会館を刻み込んでいく。
そしていつしか、たたかれた尻に残るじんわりとした熱が、ある種の快感の余韻のように彼女には感じられてきた。
「ひぅ!うぅ・・・はぁっ!」
「ん?声がだんだん、甘くなってきたな・・・!」
下半身からこみ上げてくる衝動と戦いながら、男はそう笑った。
「もしかして、スケベな先生は尻をたたかれているのも気持ちよくなってきたのか?」
「そ、そんな・・・あぁぅっ!」
すぱぁん、と鳴り響く尻に、彼女は体を震わせた。
もはや、彼女は尻からの快感を否定しきれなくなっていた。
「だったら・・・スキモノのスケベ先生に、とびっきりのご褒美だ・・・!」
男はゆっくりと腕を掲げると、今まで以上の勢いを込めて、手のひらを彼女の尻に振り下ろした。
張り手の跡がいくつも刻まれた尻に、手のひらがぶつかり、ひときわ大きな音が響く。
「っ・・・!」
瞬間、彼女は歯を食いしばり、背筋を反らしながら達した。
同時に、男の屹立を膣壁が食いちぎらんばかりに締め上げ、絶頂に追いやった。
男の白濁が、文字通り屹立から搾り取られていく。
他では男がリードをとり続けていたにも関わらず、膣と肉棒において二人の立場は逆転していた。
肉棒から睾丸の中身を、実感としては腹の中身をすべて吸い上げられていくような感覚に、男は体を震わせた。
そして、たっぷりと白濁を彼女の膣内にはなってから、男は不意に襲ってきた眠気に身を任せてしまった。
「うぅ・・・」
男はうめきながら、目蓋をおろし、意識を閉じていった。




「はい、終わりです」
ナイトメアの静かな言葉に、男は目を開いた。
倒されたイスに身を任せ、診察室の天井を見上げたままだった。
「え・・・?」
「とりあえず、夢の中であなたを支配していた感情の方向性を変え、あなたが一切をリードできるようにしてみました。恐怖感のない夢、どうでしたか?」
顔を横に向けると、男の手を握ったナイトメアが、冷静そのものと言った様子で淡々と説明した。
「とりあえず、これで多少は状況が変わるはずです。ですが油断は禁物。悪夢を見た見なかったに関わらず、来週また来てください」
「は、はぁ・・・」
「では、後は受付で看護婦とおねがいします。これかりゃ昼休みですので」
そういうと、彼女は男の手を離して立ち上がり、机に向かった。
そして黙々と、周りの様子が見えないと言う様子で、ペンを走らせ始めた。
「・・・」
彼女のカルテに向かう姿勢に、さっき噛んだことの指摘はもちろん、一切の質問もできず、男はイスから立ち上がった。
そして、かすかにふらつく足下をなだめながら、彼は診察室を出た。
「それにしても・・・さっきの、夢・・・?」
ナイトメアの医師を言葉責めし、スパンキングしながら交わったのは、本当に夢だったのだろうか。
彼女の口振りからすると、治療の一環だったようだが。
「あ、終わりましたかー?」
待合室に戻ると、受付の奥からワーシープの看護婦が男に声をかけた。
「次は来週ですね。いつにしましょうか?」
「ええと・・・じゃあ、この日の今日と同じ時間で」
男は受付に向かうと、カレンダーの日付を指さした。
「んー・・・日付はいいですけど、時間を夕方頃にはできませんか?」
「え?もう予約入ってましたか?」
ワーシープの言葉に、男は戸惑った。
「いえ〜。その日の夕方から夜は、先生開いてるんですよ〜。ですから・・・ね?」
「じゃあ、夕方頃で・・・」
夕方ならば、仕事も終わっている。
男はいい方に考えようとした。
そして、男は会計を住ませると、ナイトメアの診療所を出ようとした。
「あぁそうだ〜」
ふと男の背中に、ワーシープの声が投げかけられる。
「うちの先生、いろいろと不器用ですけど、どうかよろしくお願いしますね〜」
「は、はぁ・・・」
彼女の言葉に、男はそう答えるしかなかった。
あれが夢だったのか、現実だったのか。はたまた夢を通じてナイトメアが伝えた願望なのかは、来週までのお楽しみだ。
12/10/28 21:28更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
一族代々騎士を勤めてきたメア家の一人娘は、ついに人馬一体となることで騎士を越えた騎士となることに成功した。
夜のように戦場を塗りつぶし、悪夢のごとく敵に襲いかかる騎士メア。
宿敵を前に、彼女はKnight Mareではなくナイトメアと名乗るが、ナイトメアが本来臆病な魔物であることを指摘され、悲鳴を上げながら夜の闇へ消えていったのであった。
彼女の行方はようとして知れない。

というお話を考えていたけど、エロの挟みようがあまりないので断念しました。

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