連載小説
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好感度→→→→→
 オレンジジュースは100%。出来れば濃縮還元の、濃いものが好ましい。
 そんな事を大学時代友人に言い続け、そして飲み続けていた俺も、今では果汁15%とかそういう薄いのばかり飲んでいる。
 100%に飽きてしまったのか? その通り。さらには飲んだ後に別の水分が欲しくなるような濃さについていけなくなったのだ。
 人生もきっとそう。どれだけ好きなものでも続けてれば新しいものや別のものに興味が湧く。幸いな事に、社会には日々新しい何かを考えてくれる『誰か』が居る。だから退屈はしない。
 そう考えると、死ぬまで一緒な結婚って凄い事じゃないかな。浮気とか不倫とか、仕方ない事じゃないかな。相手に不満があるんじゃなく、人間の性質上仕方ないって。今まで結婚なんてゲームの中以外ではこれっぽっちも考えなかった俺が語るのもおかしな話だけどさ。
 ……今飲んでるオレンジジュースを見つめながら現実逃避してないで、今迫られている問題について改めて考えよう。

『インキュバスになる、という事は人間としての生を辞め私達と共に行くという事の表れなのです』

 どうしたものか。ありのまま起こった事をかいつまんで説明すると、ニュー・美人局に引っかかったらしい。可愛い女の子といちゃいちゃらぶらぶきゃっきゃでゅふふすると人間じゃなくなる、と。我ながらよく分からん。
   まあ要は魔物であるフィネアと合体(性的な意味で)を繰り返すと彼女達と同じく人間じゃなくなるらしい。某仮面戦士の最強フォームのような感じだろう。多分。融合し過ぎると戻って来れなくなる感じとかそれっぽいし。
 今までいろいろな漫画、アニメ、小説など、あらゆる創作作品において人間から人外になったキャラクターは多く存在した。
   特殊な粒子を浴び続け覚醒者として変革した者。
   太古から伝わる奇妙な仮面を被って吸血鬼になった者。
   身に過ぎる願いを抱き神に、一種の概念になってしまった者など、語り尽くせない程いろいろ居る。
 だがそれは所詮創作の中での話だ。現実じゃない。

『……今更このような事を申し上げるのは卑怯、というのは承知しております。ですから一度、お考え下さい』

 フィネアを選ぶ?
 それとも、今までの暮らしを選ぶ?
 これがエロゲの中での話なら迷わないだろう。つーか今までを選んでフラグを折る奴の気が知れない。そんなにバッドエンドのCGが欲しいか。
 だが、こうやって自分の身に直面すると、正直かなり困る。
 インキュバスになってしまえば、二度と人間には戻れない。そして、つがいの魔物と同じくらい寿命が伸びる。
 フィネア達キキーモラの寿命については、魔物の中では普通の方らしい。しかし確実に、少なくとも100程度までしか生きられない人間の常識からは外れる。すなわち、人でなくなってしまう。家族も、友人も、何もかもを引き換えに彼女と生きる。
 ちょっとだけ、考えさせて。
   そう言ってフィネアを一人病室に残し、かれこれ三十分ほど病院内の自動販売機前で唸っているのだった。
 確かに彼女の事は好きだ。虚弱無能不器用コミュ障ヘタレクソ野郎の俺に対し、一人の異性として接し、側に居て支えてくれる。彼女が居てくれるから、彼女と釣り合える男になろうと俺はテンション上げられる。だから彼女の事を捨てるなんて考えられないし、考えたくもない。だから一緒になっても後悔はしないだろう。
 だが、今までの自分自身を形作ってきた全てを捨てる。それはつまり、完全にして完璧な自己否定だ。
 これまで自分の事を散々こき下ろしておいて、否定しておいて今更自分にしがみつこうというのか? 何て滑稽な話だろうか。
 それでも、怖いのだ。
 父や母、姉が。幼馴染みや親友が、同僚が年老いていく中。俺は老いる事無く生きている。そんなの、傍から見れば不気味な事この上ないだろう。
 間違いなく、フィネアを選べば俺は孤立する。特定の集団からだけではない。社会、いや、この世界全てから。
 そうなった時、俺は後悔するんじゃないだろうか? それ以上に、それだけ永い間飽きずに一人の女性を愛せるのか?

 つん、つん。

 ……? 誰だ、人が苦悩してる最中に背中を突っつくのは。あんまりにも悩んでる姿が犯罪者っぽかったろうか。

「ーーこ・ん・に・ち・は?」

 振り返ると、そこにはえらくすげぇ『美人ッッッ!!!』が居た。何でそこで格闘士のように『ッッッ!!!』と強調するのかというと、強調する必要があるくらいの美人だからだ。
 初雪よりも綺麗で、それ自体が淡い輝きを放っているように見える白髪ロングヘアー。もちろん枝毛何か一つとして見当たらない。
 髪に負けないくらいに白く滑らかな肌は、触れてみたいとか舐めてみたいとか、そんな危険な思想を抱かせる妖しさを放っている。
 顔に関しては……ヤバイ。ヤバイというのはアレだ。直視できないくらい酷いのではない。直視できないくらい、整っていて美しいのだ。
 そんなすげぇ『美人ッッッ!!!』が、高そうなスーツを着込んで居るのだ。傍から見て『デケェ……。いや、何がとは言わねぇけど』と感想を抱かざるをえないような自己主張の激しい突起物の先に、『有澤』というネームプレートが付いている。言うなれば、秘書とかキャリアウーマンとか、そんな感じ。
 フィネアが可愛い系だとすると、この女性はいわゆるグラマラス系で、その、つまり。
 う。

「う?」

 うわぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁっっっ!?!?!?

「え?」

 ゴメンナサイゴメンナサイ顔見てませんゴメンナサイ胸元も脚も見てませんゴメンナサイ触れるほど近くに居ません寄ってませんゴメンナサイ性的な視線を送ってませんゴメンナサイ陵辱とか悪堕ちとかそういうの好きな犯罪者性癖ですけどリアルにはそんな事する度胸無い存在価値もない臆病ゴミカスクソ野郎ですゴメンナサイだからチ・カーンじゃないですゴメンナサイなので通報しないでゴメンナサイィィィ!!!

「ど、どうしたのかしら? 何故そんな、恐怖心に囚われて変身が解除され、怪人に追い詰められて鳴き叫ぶ仮面戦士のような形相で逃げようとするの?」

 驚き、飛び退り、尻餅を付き自販機に背中を激突させる。
 だってよ……アーサー……、じゃなくて、ドえらい美人なんだぜ?
 フィネアで慣れた、と錯覚していたが、俺の女性恐怖症は一切治ってなどいなかった。むしろ、フィネア以外に対して耐性がなくなっていたのだ。悪化してるなコレ。
 大抵こういう美人さんって、ヤバイ職業に就いてたりヤバイ旦那さんに付いていたりするモンだ。きっと。
 つまりは危険な女だ。だから下手に刺激するとこちらの人生が終わる。たぶん。
 人間辞めるか否かの問題に直面してる最中に人生シャットダウンするかどうかの問題が迫り来るなんて、どんなクライマックスだよチクショウ。俺の人生いつの間に加速すると軍人すら圧死するゲットマシンみたいになってんだ。

「ーー『あの子』が、フィネアが思わず仕えたくなっちゃったっていうご主人様はア・ナ・タ?」

 は? フィネア? ……えーと、確かにフィネアは俺には勿体無い、ウチのメイドさんですが。……もしかしてこの人、フィネアの関係者? てか、この人外の美人っぷり。
まさか。

「は・じ・め・ま・し・て、フィネアのご主人様兼旦那様♪ 私はアリューシャ・フェムト。あの子を含めた、この世界に住んでいる魔物達の元締めと考えてもらって結構よ」

 あ、アリューシャ? 思わず視線が誘導ミサイルのように吸い寄せられる胸部のネームプレートには、

「これ? この『有澤恵(ありさわめぐ)』っていうのは仮の名前。姿はまだしも、名前は心に決めた人に最初に呼んでほしいもの。ーーああ、心配しないで。フィネアからアナタを横取りしようとか考えてないわ。私にはもう『な・か・に・い・れ・た・い』大切な人が居るから」

 じゃあ何でわざわざ本名で? 偽名のまま立場明かしてもいいんじゃないですかね。てか『目に入れても痛くない』じゃないんですね。

「それはアレよ。『私達』の旦那様候補の人に仮の名前を使うなんて失礼だ・か・ら♪」

 そうなんですかー。あはははー。
 ……あの。大変恐縮なんですが目の前に立たれるとですね。こう、危ないんですよ。主に俺が。

「ーーうふふっ♪ 初々しくて可愛いわねぇ♪」

 やめてぇぇぇ! 俺そう言われるのすげぇ苦手なのぉぉぉ! どう返せばいいか分からないからぁぁぁ!
 というかあなた旦那持ちなんでしょ!? そうやってからかうのは旦那さんだけにしてくださいよぉぉぉ! 女ってそういう所が苦手なんだよぉぉぉ! 相手が居るなら他の異性をからかうんじゃないよぉぉ!
 いやぁぁぁ! 頭撫でないでぇぇぇ! こっち来ないでぇぇぇっ!?
   うわぁぁぁあああぁぁぁ!!!

・・・

「ーー落ち着いたかしら?」

 ええ、まあ。あなたが隣という至近距離から俺の視界に映らない位置に座っていただければもっと落ち着くんですが。

「あらあら、嫌われちゃったわねぇ。ーーそういう所に親近感覚えたのかしら」

 何の事ですか?

「フィネアの事よ。あの子、結構人見知りが激しいから」

 そうなんですか? ハキハキ喋るし、明るいし、優しくていい子じゃないですか。

「根はそうなのよ。けど、あの子はあの子なりの悩みーー、こっちで言う、『こんぷせっくす』ってものがあってね?」

 コンプレックスですフェムト様。それだとコンプリート・セックスとかいうよく分からん事態になってしまいます。

「あら、そうだったかしら? ……『完全な性交』、ねぇ……。ーーふふふっ♪ こ・ん・ど、休暇を取って……♪」

 あ、妄想スイッチ入れちゃったか? こういう単語で興奮するなんて、男子校とかに魔物が行ったらそれはそれは凄い事になるんじゃないだろうか。
 で。幸せそうに妄想中申し訳ないんですが俺みた(略)な男に何の御用ですか。俺が御用になるんですかそうですか。

「そうねぇ……。『あの』フィネアが選んだ、って人の事が気になっちゃって。さっきの話の続きだけど、あの子は結構重症な悩みを抱えてるのよ」

   悩み? 主人が駄目過ぎるとか?

「あなたの事で悩んでるんじゃないわ。ーーあなたとあの子は、と・て・も、似ているの」

   似てるぅ〜? HAHAHA、ばんなそかな。
   あの、完璧かつ即座に仕事をこなし時に厳しく時に優しく主人の為になるよう接し見る者を安堵させる微笑みで迎えてくれるフィネアと、仕事中に惚けて怪我をするだけでなく被害妄想が先走って他人が怖くコミュ障っぽい事しか言えない俺がぁ〜?
   んがっ。
   せ、セリフの途中でコップの口を顔に押し付けて遮断するのやめてもらえませんか? 顔にみっともない跡が付くんですが。

「ダーメ。あんまりネガティブ発言してると、あの子に怒られるわよ? ただでさえ自分を卑下する時の、泥沼にズブズブ沈んでいくような思考が似かよってるんだから」

   へ、フィネアが? 自分を卑下?

「ええ。あの子もあなたと同じ。自分に自信を持ててない。そんな子よ」

   そんな風には見えないんですがね。今まで話しててそんな素振りは感じられなかったし、コーヒーの件とか結構自分のスキルに自信持ってるような感じだと思いますが。

「まあ、極力そう見えないように頑張っていたのでしょうね。主人であるあなたに余計な心配掛けないようキキーモラは教育されているのだし」

   信じられない。そんなに言うなら確証持ってる理由を教えて下さいよ。
   そう言うと、フェムト様は口元に指を当てて何かを考えた後、言った。

「……あの子はね、キキーモラとしてはあまり成績のいい方ではないの」

   ……アレで?

「ええ。アレで。5段階評価で言えば2。合格は一応貰えているけど、メイドというよりは普通にお嫁さんになる事をオススメされてるくらい」

   聞いたかこの世界の似非メイド。メシマズ嫁。
   あんな、俺から見ればパーフェクトとしか思えないフィネアでギリギリ合格ラインだとさ。キキーモラの基準やべぇ。

「あ、スキル面は問題ないのよ。炊事洗濯掃除基礎教養とかの総合家事技術、主人を守る為の戦技、主人の身だけではない場合に備えた交渉術、あとも・ち・ろ・ん♪ 夜伽も入ってるわ♪ 全部しっかり8割以上の点数を貰ってるから」

   よかったなこの世界の(ry。てかアレで8割かよ。満点のキキーモラとかどうなってるんだよ。

「ーーただ普段、それこそお仕事中とかそういう所の態度……と言うべきかしらね。そういうのが『キキーモラとしては』問題があるのよ」

   態度? え、あの礼儀正しくキビキビお仕事するフィネアの態度が、そんなにキキーモラらしくないの?

「……あの子、あまりにも性欲が強過ぎるのよ」

   …………………………………………は? 性欲?
   それってつまり、エロエロ過ぎて仕事に支障きたすの?
   うわぁ頷かれた。マジすか。

「私達魔物は個として強さが増すと、それに比例して性欲も高まっていく傾向にあるわ」

   私やあの子の曽祖母とかね、と言われ、何か納得する。
   方やこの世界で魔物達を統括し、現代日本において完全に存在を秘匿しながら権力を持つ存在。方や、彼女達の世界とこちらの世界を繋げるっていうトンデモな力を持った存在。そりゃあまあ、当然凄くない訳がない。

「ただ、あの子は別。力のある血筋に生まれたけれど、彼女自体は強大ではないわ」

   まあ、確かに。仕事は出来るし可愛いしえろえろしいけど、ボスっぽさとかそういう威圧感は全くないしなぁ。怒る時は怖いけど。

「けれど、フィネアは受け継いでしまった。彼女の曽祖母の、性欲の部分をね。ーーあの子の髪がピンク色なのは、その表れなのよ」

   ほほう。それはつまり、アレですか。
   レベルが上がるにつれよりエロくなる魔物の、そのエロステータスだけを引き継いでしまったと。
   てか魔界でも『ピンクはIN-RAN』の定理が通用するんですね。

「当然、暴れ狂う欲望を抑え込む技術を持たないあの子は常に最上級の魔物が持つ性欲に犯される。そんな彼女が、『主人が求めた時以外奉仕に準じる』キキーモラとしてやっていくのは、根本的に問題があるのよ」

   何と、フィネアにそんな事情があったとは……。
   個人的には、そんなフィネアを抱き締めて、落ち着くまで合体(性的な意味で)し続けてあげたい所だが、それすると人間でなくなっちゃうしなぁ。
   ……あれ? それが何でコンプレックスに? キキーモラとしてはともかく、エロい事がよりいい、ってされてる魔物としてはさほど問題ないんじゃないの?

「あの子から聞かなかった? 『お父さんとお母さんのような主従関係を築く事』っていう、あの子の夢」

   ああ聞いた聞いた。今考えると確かにステキな夢だよなぁ。聞いた当初は駆け落ち願望があるのかと思ってたけど。
   うん。キキーモラ的に考えるといい感じなんじゃないかな。
   朝早く起きて、食事を作って、着替えを手伝って、見送って、掃除洗濯炊事買い物近所付き合い全部やって、出迎えて、背中流して、疲れを取ってあげて、最後に旦那さんが奥さんを労う為に寝室へ……。
   ……ん? ちょっと待った。
   キキーモラって、旦那が求めないとあんまりそういう事しないんだよな?
   今の日常動作で、フィネアは我慢できるのか……?

「気付いた? あの子が、その夢を叶えるには難しいって事に」

   ……なるほど。そういう事か。

「普段から妄想で仕事を疎かにする。すぐに我慢出来なくなって自分を慰めてしまう。主人を誘導してセックスに持ち込む。そんな子が、キキーモラとしての理想の関係を築く。……築きたくても、自分を抑えられなくて悩むのは目に見えるでしょう?」

   え、ちょ。そんなにバラしていいんですか本人のプライバシーは?

「あら、そんなにあの子が一人でオナニーしてたのが納得いかない?」

   いえ、俺も人の事言えないんでそこは気にしてないです。むしろ見たいです。
   てか、誘導? 俺ってフィネアに誘導されてたの?

「……え?」

   気付いてなかったの? 的な疑問符に対し、閉口せざるを得ない。スイマセン俺ドン臭くて鈍いんです。
   ……うーん。

「幻滅したかしら? 言い方は悪いけど、あの子はあなたを性欲処理の相手として見ている側面があるのよ」

   まあ、話だけ聞けばそうですよねー。ちゃんと向き合わずにこういう関係になってたら間違いなくトラウマになってたろうなぁ。
   ……でもなぁ。それだけじゃない気がするんだよなぁ。

「違う、と?」

   改めて考えると、そういう扱いだった瞬間もあった。マッサージ中にズボン下ろされた所とか、特に。
   でも、

『ーー本当に、本当に心配したんですからね!?』

   それだけだったら、あんなに悲しそうな顔は出来ないと思う。

『……こちらこそ、お願いします……! 私を、ご主人様のお側に仕えさせて下さい!朝も昼も、もちろん夜も、あなた様をお支えします! 一番近くで、あなた様だけを!』

   そんな風にしか見てなかったら、あんなに嬉しそうにしないと思う。
   童貞のキモい妄想かもしれない。『女は生まれついての役者』という単語の通りかもしれない。彼女の手のひらで踊ってるだけかもしれない。
   それでも俺は信じてる。
   なるほど。それほどまでに俺は、フィネアの事が。
   へぶっ。
   こ、指で直接口を蓋された。何だこの瑞々しさ(驚愕)。俺の唇なんぞに押し当てちゃいけないでしょ犯罪ですよコレ。訴訟も辞さない。捕まる気満々ですよ。

「ーーふふっ♪ そ・こ・ま・で♪ そこから先はあの子だけに言ってあげなさい」

   いや、でも確証はないんですがね。

「大丈夫よ。彼女の行いを分かっててもあなたはあの子を認めた。まだ、インキュバスにされていない、人間の状態でフィネアという魔物を欲した。ーーそれだけであの子は、魔物達(わたしたち)は自分の全てをあなたに捧げられるわ」

   現代魔物の元締めのお墨付きよ♪ 、と言われ、ちょっと胸のモヤモヤが晴れた気がした。
   だが、根本的な事態の解決にはなってないんですよねー。

「え? 今のであの子を押し倒しに行かないの?」

   いやぁ、ヘタレでスイマセン。
   フィネアが心から俺に好意を抱いていて、俺自身も彼女を選びたいと思ってるのは分かった。
   それでも俺は、選べない。
   どっちかを選べば、きっと失われていく片方が気になってしまう。その所為で選んだ方をおざなりにしてしまう事がとても、怖い。

「ーーふふっ♪」

   そんな俺の頭を、隣の美女は優しく撫でた。

「アナタはとってもお利口さんね。ーーけれど、それでは本当に欲しいと思った物を掴み取る事は出来ないわ」

   お利口さん。今までよく言われてきた言葉だ。
   言われた通りの事を、言われた通りにやる。高校時代、高得点を目指せ、と教師に言われた時、言われた通り勉強し、結果を出した。大学時代はサークルの先輩から、これを覚えろ、と言われて、用途や応用方など見向きもせずその事だけ覚えようとした。親からは『しちゃいけない』と言われた事は一度もした事がない。……エロゲとかは、まあ、やるなとは言われてないし。うん。
   職場でも、同じ。やれ、と言われた事を、ただやる。文句も何の為かも考えず、ただ。
   ただそれだけを繰り返してたら、そんな風に呼ばれるようになっていた。
   考えてみると、いや、考えるまでもなく、無味乾燥な人生だった。
   本気で命令を聞くしか能がなかった訳じゃないんだろう。もしそうなら、今頃本当に完璧な優等生を演じてた筈だ。こんな負け犬根性が染み付いたクズにはなっていない。
   きっと俺は、

「ーーダメ」

   ふがっ。
   深みにはまって行こうとする思考が、顔に押し付けられた紙コップによって遮断されてしまった。

「そうやって真面目に考えるのも、お利口さんに育ってしまったが故なんでしょうね。ーーけど」

   いい? と、白い魔物は人呼吸置き、言った。

「ーーあなたはもっと、ワガママになるべきよ」

   諭すように、そして誘うように。
   白い魔物は、そう言ってきた。

「もっと自分に正直になって。もっと多くを、もっと強く望んで。それが欲しい、全部が欲しいって思ったら、周りの事を気にせずに求めて」

   自分に正直に。
   心の底から望む全ての事を求める。
   他のものなんて関係ない。構わず、欲する。
   そんな自分勝手、やっていいのか。

「ええ。あの子を必要としてくれた、救ってくれたあなたには、私から多くを望んでいい権利をあげる。だから、欲しいものを一つと言わず全て掴んで。ーーそうすればきっと、アナタだけの答えを見つける事が出来るから」

   ……。
   そっか。

「ふふっ♪ 決めたかしら?」

   正直、まだ願っていいのか分からないし、本当に願ったものかは分かんないです。
   けど、今はとりあえず。

「じょ・う・で・き♪ さ、早く行ってあげなさいな♪ あなたが欲しいものの手を握りにね♪

   そう言って、フェムト様は立ち上がり、去って行ってしまった。
大人の余裕、っていうか、何というか。物凄かったなぁ。
   しかしまあ、人生初の彼女がきっかけで『人』生の分岐点に立たされるとは。一体全体どういう事なんだまったく。こんなの超展開もいいところじゃねぇか。ノンフィクションドラマ化したらブーイングの嵐か視聴者総ポカンだろ。
   ったくよー。

 行くか。俺だけの、ヘタレなりに出した答えを掴みに。






「ーーねぇ、聞いてる? あなたのえっちな曽孫ちゃん、ついに貰い手がついちゃったわよ♪ え? 魔界で結婚式挙げるなら出る? そんな事言わないで、こっちで挙げる時も出てあげなさいよ。……大乱交巻き起こしちゃうから行けない? そうねぇ……」
14/10/04 22:13更新 / イブシャケ
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■作者メッセージ
さて、主人公はいったいどういう答えを見出したんでしょうか。
どうも、イブシャケです(コピペ挨拶)。つか最近メイド喫茶も一週間設定も関係無くなってますな。どうしよ。書き直しとくべきか。
あと最近知ったんですが、濃縮還元ジュースで最も有名な「P◯Nジュース」ですが、コレってオレンジしかないと思ってたらまさかグレープも出てたんですよ。もちろん即効買いましたよ。ええ。喉が乾くのなんの。
もうファンタグレープとかP◯Nスパークリングとかでいいです。

しかしまあ、作品というのはしっかりと道筋決めとかないとあらぬ方向に進んで行きますよねー。
元々は『ダメ男がキキモラさんに怒られながら人生頑張るってだけの作品』を書くつもりが、何時の間にかキャラクターが勝手に動き出しちゃってますな。どんどんダメ人間卒業しつつある主人公に、しっかり者で締める所締める『出来るキキーモラ』として書いてくつもりが何時の間にか性欲強過ぎエロメイドになってしまったフィネアさん。
何も考えずに書いてると、ダメ人間のはずの主人公が絶対素では言えないようなイケメンセリフを吐いてたりするんですよ。後から読み直してあまりにもクサくて呼吸困難起こしそうですよ全く。
あ、ちなみに今回現れたホワイト・グラマラス・キャリアウーマンのアリューシャ・フェムト様に関しては次の話で。まあリリムってのは明らかですけどねー。

さて、いい感じに自分の素直な気持ちに向き合い始めましたな。さあ告白だいけいけー(他人事)。
ではでは。

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