修正後(エロ有り→微エロ)
竜翼通り。
ドラゴニア皇国の顔ともいえるこの大通りでは、観光客や旅の商人、地元の竜族などが行き交っていた。食事時が近いせいか、幾つかの建物からは炊事の煙が立ち上っている。
肉が焼ける香ばしい匂いにつられたようで、ドラゴンは腕を組んだ伴侶を連れて店へと入っていった。店先では竜のカップルが提供された食事に顔をほころばせている。
その反対側の通りでは、ドラゴンの少女の集団が店先に並んでいた。店員のワイバーンが肉を焼き、リザードマンがそれを切り裂いてパン生地に収める。芸術とも呼べる一連の流れに、少女たちは黄色い歓声を上げるのだった。
通りの所々には赤いマントを羽織った騎士が騎竜と共に歩いている。彼らの表情は緩み切っており――自分たちに課された見回りという仕事がなければ――今すぐここでキスを交わしそうなほどに甘い空気を作っていた。
喧噪あれど、諍いはない。穏やかな時間がお昼のドラゴニアの日常である。
――そして、その日常が一組の夫婦により壊されることを、この時は誰も知らなかった。
「おい、離れろ。これじゃ歩けないだろ」
「やぁん♡」
大通りの真ん中で一人のドラゴンゾンビが背後から男に抱き着いていた。だらしなく緩んだ体を摺り寄せながら、決して離すまいと両の腕で男の腕をしっかり押さえつけている。彼女が動く度に丸々とした胸がぐにぐにと形を変え、甘い香りをまき散らした。
「ったく、発情してるんならもう帰るぞ」
「やぁだ♡ここでシたいの、我慢できないの♡」
男は腕を振りほどこうともがくものの、ドラゴンゾンビの体が離れることはなかった。逆に男が抵抗したことで嗜虐心に火がついたのか、彼女は触れている肌の動きを激しくした。どうやら彼女は興奮しているようで、緑色の肌はほんのり朱に染まっていた。
周囲の人や竜はその光景を正面から、或いは横目で窺っている。しかし、彼らの中に夫婦のいちゃつきを止めようとする者はいなかった。彼らを見つめながらどこか羨ましそうに、伴侶や友人と小声で言葉を交わしている。
「ねえ、アタシもあんな風にしたいなぁ」
「仕事が終わるまで待ちなさい」
「じゃあ、終わったら激しくシてよ♡」
「いいなあ、私も早くかっこいい人を見つけたいなあ」
「うーーっ、見せつけるのなら他所でやってよ!」
「ちょっとちょっと、落ち着いて。睨んじゃダメだって」
彼らの視線を受け、ドラゴンゾンビの動きはますます激しくなった。彼女は男の耳元に口を近づけると、ふぅと息を吐く。桃色の吐息を受けた男の体がびくりと震えたのを見ると、彼女はにんまりと口を歪めた。
「ねぇ、気持ちいいでしょ?」
男の返事を待つことなくドラゴンゾンビは彼の耳へと顔を近づける。そして大きく口を開けると
「は〜むっ♡」
男の耳を咥えこんだ。
「あむ、んむ♡……んっ、くちゅ、ちゅぱ……♡」
「こら、やめなさい……くっ」
耳を舐め、吸い、甘く食む。耳を愛撫するドラゴンゾンビの口からは、悩まし気な吐息と粘液が滴る音が漏れていた。時折耳から口を離すと、桃色の吐息を吹きかけて男の反応を愉しむ。
「くすぐったいんだ、やめ――おい、こら! 当てんな!」
動いているのは口ばかりでない。ドラゴンゾンビは体を動かすと、己の胸を男の背に擦り付けるようにした。重さで垂れさがった胸がぐにぐにと形を変える。朱く色づいた乳房は、どことなく熟れた桃を思わせた。
「……ふっ、んっ、んふふ、えいっ♡」
ドラゴンゾンビが胸での奉仕を繰り返すうちに、次第に彼女の肌に珠のような汗が浮かんできた。汗は肌を伝い、鱗を通ってポタポタと地面に落ちる。汗が通った場所は妖しげな光沢を放ち、地に落ちた汗は霧となって辺りを漂った。
「本当、いい加減にしないと怒るぞ!」
「え〜、まだ言うの? だったら、その気にさせてアゲル♡」
ドラゴンゾンビは男を抱いている腕を動かし、男の衣服を裂く。そして男の肌に赤黒い爪を立てると、ゆっくりと爪の先端を差しこんだ。そして己の所有物であることを示すかのように、肌に痕をつけるように線を引いた。
「くっ……うあぁっ」
男が呻き声を上げる。肌に刻まれた赤い線は、まるで体の中に溶けるように消えてしまった。竜がつけている魔界銀製の爪は男から魔力と抵抗する心を奪い、代わりに快楽とそれを欲する感情を流し込む。
「れろ……あみゅ、ちゅぷ……じゅるるるるっ♡」
「あ……くっ……はぁ、はぁ……うぁ、あ……」
初めは抵抗していた男だったが、耳を貪られる度に、吐息を吹きかけられる度に、体を嬲られる度にその抵抗も弱まっていく。やがて観念したのか、ドラゴンゾンビのもたらす快楽にその身を委ね始めた。
そんな夫婦のやりとりを見守るかのように竜翼通りはいつの間にか静まり返っていた。喧噪はすっかり収まり夫婦のやりとりの音だけが辺りに響き渡る。
――滴り落ちる汗と竜が吐き出す吐息で、辺りに霧が立ち込め始めた。
「おい!」
二人のやりとりを見ていたドラゴンが大声を上げる。それは通りの真ん中で交わっている二人にではなく、目の前で共に食事を楽しんでいた自分の夫に向けてだった。
「お、お前はあれを見てだな、何とも思わないのか!?」
「別に珍しいことでもないだろ」
首を傾げて食事に手をつける夫に対し、ドラゴンは苦々しげに顔を歪める。
「馬鹿者め……竜たる者、どんな時でも誇りを持たねばならぬのだ! それでだな……」
「それで?」
夫が言葉端を繰り返してその先を促すと、ドラゴンは乱暴にテーブルを叩いた。グラスが倒れて中の液体が零れたことも意に介さず、彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「あいつのように自分から求めるなどというはしたないことはしないのだ!! だ、だから……」
「だから?」
最後は消え入るような声のドラゴンを見て、夫は意地悪く笑った。自分の主の態度に業を煮やしたのか、ドラゴンは俯いて体をふるふると震わせる。力を失ったかのように俯いてイスに座り込んだ。
「お、お前が察してだな……その、えっと……シて、ほしい」
顔を上げて潤んだ瞳を見せながら、夫にしか聞こえない声で囁いた。
「はい、よく言えました」
夫は震える彼女の体を抱き寄せ、その唇を奪うのだった。
――霧はゆっくりと色づきはじめ、辺りを桃色に染め上げていった。
「うわあああぁっ! た、助けてくれぇ!」
「駄目に決まってるだろ♡あんなもの見せられて黙っていられるかってんだ♡」
通りの一角では、旅の商人と思われる青年がワームに体を巻き取られていた。固い鱗と柔らかな肌が彼を包み込む。彼女の肌は朱く染まり、肌には珠のような汗が浮かんでいた。
「さ、これでもう邪魔は入らないぞ……しっぽりと楽しむとしようか♡」
「な、なにを……」
困惑し言葉に詰まっている青年に、彼女は苛立ちと欲望を隠さずに告げる。
「うるさいぞ♡これからお前は俺の夫になるんだ♡さぁ、こっちに来い、存分に可愛がってやるからな♡」
そして彼女は悲鳴を上げる青年を連れて路地裏へと去っていった。そして、数分もしないうちに甘い声と粘液の音が漏れ始める。
「や、やめ、待ってくれよ……うぁあ♡」
「やめるもんかよ♡やめて欲しかったら俺が満足するまで出してもらうからな♡」
――霧は呪いのように辺りへと広がっていく。
「ほらっ、早く出してっ、出してぇ♡」
「ぐっ、も、もう限界……――!!」
竜翼通りから離れた住宅街。屋根の上でワイバーンと男が交わっていた。翼をバタバタとはためかせ、搾り取るように腰を打ち付ける。
ワイバーンの眼は淀んでおり、とても正気とは言える状態でない。半開きになった口からは、嬌声に混じって桃色の吐息が漏れ出していた。
しかしそれでいて、男を責め立てる動きは的確だった。本能のまま精を貪ろうとしているようで、結合部から溢れ出る白濁の量はこれまでの行為の数を暗に物語っていた。
「止まん、ないぃ♡もっと、もっと、モット……」
新たな白濁をその身に受けながら、彼女は更なる行為にふけるのだった。
――人も竜も飲み込んで、快楽の色に染め上げながら。
「あ、あぐ……」
「はぁ、ぁはぁ……♡」
商人の男性は荒い息を吐いていた。彼のガイドである龍も同様に、苦し気な吐息を漏らしている。
突如現れた霧を浴びてからずっとこのままだ。自分の愚息が膨れ上がり、目の前の女性を蹂躙したいという欲求に襲われる。
「(馬鹿なことを考えるな! 弱っている女性を襲うなどということが……)」
できるものか、と言えなかった。熱に浮かされたような龍の姿を見て、今すぐに犯したいという欲望が鎌首をもたげていたのだ。だが、彼は残された僅かばかりの理性で辛うじて耐えていたのだ。
「はぁ、はぁ、お願い、です。……くぅ、ここ、さすってくれませんか?」
龍は荒い息を吐きながら体のある一点を指さした。臀部の下にあるその場所は、他の鱗が生えている場所となんら変わりないように見える。
しかし商人は知っていた。その場所が竜の逆鱗であることも、そのことが示す意味も。
「(誘われている……!!)」
魔物娘の中では珍しい、貞淑な性格の龍が自分を求めている。突きつけられたその事実は商人の理性の堤防を押し流すには十分なものだった。
「はやく、はや、くぅ……おねが、い、しま……あ♡」
龍の懇願の言葉を最後まで聞くことなく、商人は逆鱗に触れた。理性を失った一対の獣は、荒れ狂わんばかりの獣欲を互いの体にたたきつけるのだった。
――留まることのない欲望が辺りを満たしていく。
夜の帳が下りるころになっても、竜翼通りは桃色の霧で満たされていた。
「なんだこれは……」
ドラゴニア竜騎士団の団長であるアルトイーリスが駆けつけた時の竜翼通りは、淫猥な霧が立ち込める中で粘液の音や体同士がぶつかる音が絶え間なく聞こえる有様だった。まるで暗黒魔界のようなその光景を前に、彼女はただ立ち尽くすことしかできなかった。
「ふむ、お前は無事で何よりだ」
「デオノーラ様! ……いつからそこに?」
ひょっこり物陰から現れた自らが仕える主に驚きながらも、アルトイーリスはすぐさまその場へと跪いた。デオノーラと呼ばれた竜はそれを意に介さずにある一点へと視線を向ける。
「それよりもこの騒ぎの原因は分かったぞ。あのつがいだ」
アルトイーリスが視線の先を辿ると、桃色の霧に覆われながらも男と交わり合うドラゴンゾンビの姿があった。彼らの周りだけ霧が濃くなっており姿がぼやけて見えるほどだった。
「ここまで腐敗のブレスが広まるのは珍しいものだな」
そんなことを宣う主に、アルトイーリスは白い目を向けて問いかける。
「もしかして、かなーり前からこの事態を知っておられたのですか?」
「うむ、騒動が起きたのは昼間ごろだな」
「……いつから見ていらしたんですか」
「最初からだな♪」
「でしたらこんな騒ぎになる前に止めて下さい……」
あっさりと告げる主を前にがっくりと肩を落とすアルトイーリス。そんな彼女に近づくと、デオノーラは囁いた。
「これは好機ではないか?」
「は?」
疑問を浮かべるアルトイーリスにデオノーラは続ける。
「辺りはこうして淫欲に包まれているのだ……新たな夫婦も生まれることだろうな」
その言葉を聞いてアルトイーリスは何かに気づいたようにハッとした表情になった。
「つまり、我々にもその……は、伴侶というものが……♡」
デオノーラは頷いた。
「さあ、こうしてはおれぬ。我らと生涯を共にする者を探しに行かねばな♡」
そう言い残すと竜の女王は霧の中へと姿を消した。僅かに遅れて、騎士団長も後に続くのだった。
それから夜も更けたころ、後に『堕落の吐息』と呼ばれるこの事件はひとまず収束を迎えることとなる。
使いに出した娘が帰ってこないと心配して足を運んだ龍泉様の働きによって桃色の霧は晴れ、みな正気を取り戻したという。
多くのつがいを生み出したとのことで今回の件は不問となったが、以来『龍泉苑』で男とドラゴンゾンビが働く姿が見られるようになった。そして新たな名物として、桃色の霧が立ち込める温泉が生まれたのだが、それはまた別のお話。
「むう……龍泉様め……いいところで邪魔してくださって……ヒック」
「うー、飲みすぎた……私だけでも確保しておくべきだったか……」
また、騒動の夜に魔界バー『月明り』から千鳥足で出ていく竜の女王と騎士団長を見かけたという噂が立ったが、真偽のほどは定かではない。
ドラゴニア皇国の顔ともいえるこの大通りでは、観光客や旅の商人、地元の竜族などが行き交っていた。食事時が近いせいか、幾つかの建物からは炊事の煙が立ち上っている。
肉が焼ける香ばしい匂いにつられたようで、ドラゴンは腕を組んだ伴侶を連れて店へと入っていった。店先では竜のカップルが提供された食事に顔をほころばせている。
その反対側の通りでは、ドラゴンの少女の集団が店先に並んでいた。店員のワイバーンが肉を焼き、リザードマンがそれを切り裂いてパン生地に収める。芸術とも呼べる一連の流れに、少女たちは黄色い歓声を上げるのだった。
通りの所々には赤いマントを羽織った騎士が騎竜と共に歩いている。彼らの表情は緩み切っており――自分たちに課された見回りという仕事がなければ――今すぐここでキスを交わしそうなほどに甘い空気を作っていた。
喧噪あれど、諍いはない。穏やかな時間がお昼のドラゴニアの日常である。
――そして、その日常が一組の夫婦により壊されることを、この時は誰も知らなかった。
「おい、離れろ。これじゃ歩けないだろ」
「やぁん♡」
大通りの真ん中で一人のドラゴンゾンビが背後から男に抱き着いていた。だらしなく緩んだ体を摺り寄せながら、決して離すまいと両の腕で男の腕をしっかり押さえつけている。彼女が動く度に丸々とした胸がぐにぐにと形を変え、甘い香りをまき散らした。
「ったく、発情してるんならもう帰るぞ」
「やぁだ♡ここでシたいの、我慢できないの♡」
男は腕を振りほどこうともがくものの、ドラゴンゾンビの体が離れることはなかった。逆に男が抵抗したことで嗜虐心に火がついたのか、彼女は触れている肌の動きを激しくした。どうやら彼女は興奮しているようで、緑色の肌はほんのり朱に染まっていた。
周囲の人や竜はその光景を正面から、或いは横目で窺っている。しかし、彼らの中に夫婦のいちゃつきを止めようとする者はいなかった。彼らを見つめながらどこか羨ましそうに、伴侶や友人と小声で言葉を交わしている。
「ねえ、アタシもあんな風にしたいなぁ」
「仕事が終わるまで待ちなさい」
「じゃあ、終わったら激しくシてよ♡」
「いいなあ、私も早くかっこいい人を見つけたいなあ」
「うーーっ、見せつけるのなら他所でやってよ!」
「ちょっとちょっと、落ち着いて。睨んじゃダメだって」
彼らの視線を受け、ドラゴンゾンビの動きはますます激しくなった。彼女は男の耳元に口を近づけると、ふぅと息を吐く。桃色の吐息を受けた男の体がびくりと震えたのを見ると、彼女はにんまりと口を歪めた。
「ねぇ、気持ちいいでしょ?」
男の返事を待つことなくドラゴンゾンビは彼の耳へと顔を近づける。そして大きく口を開けると
「は〜むっ♡」
男の耳を咥えこんだ。
「あむ、んむ♡……んっ、くちゅ、ちゅぱ……♡」
「こら、やめなさい……くっ」
耳を舐め、吸い、甘く食む。耳を愛撫するドラゴンゾンビの口からは、悩まし気な吐息と粘液が滴る音が漏れていた。時折耳から口を離すと、桃色の吐息を吹きかけて男の反応を愉しむ。
「くすぐったいんだ、やめ――おい、こら! 当てんな!」
動いているのは口ばかりでない。ドラゴンゾンビは体を動かすと、己の胸を男の背に擦り付けるようにした。重さで垂れさがった胸がぐにぐにと形を変える。朱く色づいた乳房は、どことなく熟れた桃を思わせた。
「……ふっ、んっ、んふふ、えいっ♡」
ドラゴンゾンビが胸での奉仕を繰り返すうちに、次第に彼女の肌に珠のような汗が浮かんできた。汗は肌を伝い、鱗を通ってポタポタと地面に落ちる。汗が通った場所は妖しげな光沢を放ち、地に落ちた汗は霧となって辺りを漂った。
「本当、いい加減にしないと怒るぞ!」
「え〜、まだ言うの? だったら、その気にさせてアゲル♡」
ドラゴンゾンビは男を抱いている腕を動かし、男の衣服を裂く。そして男の肌に赤黒い爪を立てると、ゆっくりと爪の先端を差しこんだ。そして己の所有物であることを示すかのように、肌に痕をつけるように線を引いた。
「くっ……うあぁっ」
男が呻き声を上げる。肌に刻まれた赤い線は、まるで体の中に溶けるように消えてしまった。竜がつけている魔界銀製の爪は男から魔力と抵抗する心を奪い、代わりに快楽とそれを欲する感情を流し込む。
「れろ……あみゅ、ちゅぷ……じゅるるるるっ♡」
「あ……くっ……はぁ、はぁ……うぁ、あ……」
初めは抵抗していた男だったが、耳を貪られる度に、吐息を吹きかけられる度に、体を嬲られる度にその抵抗も弱まっていく。やがて観念したのか、ドラゴンゾンビのもたらす快楽にその身を委ね始めた。
そんな夫婦のやりとりを見守るかのように竜翼通りはいつの間にか静まり返っていた。喧噪はすっかり収まり夫婦のやりとりの音だけが辺りに響き渡る。
――滴り落ちる汗と竜が吐き出す吐息で、辺りに霧が立ち込め始めた。
「おい!」
二人のやりとりを見ていたドラゴンが大声を上げる。それは通りの真ん中で交わっている二人にではなく、目の前で共に食事を楽しんでいた自分の夫に向けてだった。
「お、お前はあれを見てだな、何とも思わないのか!?」
「別に珍しいことでもないだろ」
首を傾げて食事に手をつける夫に対し、ドラゴンは苦々しげに顔を歪める。
「馬鹿者め……竜たる者、どんな時でも誇りを持たねばならぬのだ! それでだな……」
「それで?」
夫が言葉端を繰り返してその先を促すと、ドラゴンは乱暴にテーブルを叩いた。グラスが倒れて中の液体が零れたことも意に介さず、彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。
「あいつのように自分から求めるなどというはしたないことはしないのだ!! だ、だから……」
「だから?」
最後は消え入るような声のドラゴンを見て、夫は意地悪く笑った。自分の主の態度に業を煮やしたのか、ドラゴンは俯いて体をふるふると震わせる。力を失ったかのように俯いてイスに座り込んだ。
「お、お前が察してだな……その、えっと……シて、ほしい」
顔を上げて潤んだ瞳を見せながら、夫にしか聞こえない声で囁いた。
「はい、よく言えました」
夫は震える彼女の体を抱き寄せ、その唇を奪うのだった。
――霧はゆっくりと色づきはじめ、辺りを桃色に染め上げていった。
「うわあああぁっ! た、助けてくれぇ!」
「駄目に決まってるだろ♡あんなもの見せられて黙っていられるかってんだ♡」
通りの一角では、旅の商人と思われる青年がワームに体を巻き取られていた。固い鱗と柔らかな肌が彼を包み込む。彼女の肌は朱く染まり、肌には珠のような汗が浮かんでいた。
「さ、これでもう邪魔は入らないぞ……しっぽりと楽しむとしようか♡」
「な、なにを……」
困惑し言葉に詰まっている青年に、彼女は苛立ちと欲望を隠さずに告げる。
「うるさいぞ♡これからお前は俺の夫になるんだ♡さぁ、こっちに来い、存分に可愛がってやるからな♡」
そして彼女は悲鳴を上げる青年を連れて路地裏へと去っていった。そして、数分もしないうちに甘い声と粘液の音が漏れ始める。
「や、やめ、待ってくれよ……うぁあ♡」
「やめるもんかよ♡やめて欲しかったら俺が満足するまで出してもらうからな♡」
――霧は呪いのように辺りへと広がっていく。
「ほらっ、早く出してっ、出してぇ♡」
「ぐっ、も、もう限界……――!!」
竜翼通りから離れた住宅街。屋根の上でワイバーンと男が交わっていた。翼をバタバタとはためかせ、搾り取るように腰を打ち付ける。
ワイバーンの眼は淀んでおり、とても正気とは言える状態でない。半開きになった口からは、嬌声に混じって桃色の吐息が漏れ出していた。
しかしそれでいて、男を責め立てる動きは的確だった。本能のまま精を貪ろうとしているようで、結合部から溢れ出る白濁の量はこれまでの行為の数を暗に物語っていた。
「止まん、ないぃ♡もっと、もっと、モット……」
新たな白濁をその身に受けながら、彼女は更なる行為にふけるのだった。
――人も竜も飲み込んで、快楽の色に染め上げながら。
「あ、あぐ……」
「はぁ、ぁはぁ……♡」
商人の男性は荒い息を吐いていた。彼のガイドである龍も同様に、苦し気な吐息を漏らしている。
突如現れた霧を浴びてからずっとこのままだ。自分の愚息が膨れ上がり、目の前の女性を蹂躙したいという欲求に襲われる。
「(馬鹿なことを考えるな! 弱っている女性を襲うなどということが……)」
できるものか、と言えなかった。熱に浮かされたような龍の姿を見て、今すぐに犯したいという欲望が鎌首をもたげていたのだ。だが、彼は残された僅かばかりの理性で辛うじて耐えていたのだ。
「はぁ、はぁ、お願い、です。……くぅ、ここ、さすってくれませんか?」
龍は荒い息を吐きながら体のある一点を指さした。臀部の下にあるその場所は、他の鱗が生えている場所となんら変わりないように見える。
しかし商人は知っていた。その場所が竜の逆鱗であることも、そのことが示す意味も。
「(誘われている……!!)」
魔物娘の中では珍しい、貞淑な性格の龍が自分を求めている。突きつけられたその事実は商人の理性の堤防を押し流すには十分なものだった。
「はやく、はや、くぅ……おねが、い、しま……あ♡」
龍の懇願の言葉を最後まで聞くことなく、商人は逆鱗に触れた。理性を失った一対の獣は、荒れ狂わんばかりの獣欲を互いの体にたたきつけるのだった。
――留まることのない欲望が辺りを満たしていく。
夜の帳が下りるころになっても、竜翼通りは桃色の霧で満たされていた。
「なんだこれは……」
ドラゴニア竜騎士団の団長であるアルトイーリスが駆けつけた時の竜翼通りは、淫猥な霧が立ち込める中で粘液の音や体同士がぶつかる音が絶え間なく聞こえる有様だった。まるで暗黒魔界のようなその光景を前に、彼女はただ立ち尽くすことしかできなかった。
「ふむ、お前は無事で何よりだ」
「デオノーラ様! ……いつからそこに?」
ひょっこり物陰から現れた自らが仕える主に驚きながらも、アルトイーリスはすぐさまその場へと跪いた。デオノーラと呼ばれた竜はそれを意に介さずにある一点へと視線を向ける。
「それよりもこの騒ぎの原因は分かったぞ。あのつがいだ」
アルトイーリスが視線の先を辿ると、桃色の霧に覆われながらも男と交わり合うドラゴンゾンビの姿があった。彼らの周りだけ霧が濃くなっており姿がぼやけて見えるほどだった。
「ここまで腐敗のブレスが広まるのは珍しいものだな」
そんなことを宣う主に、アルトイーリスは白い目を向けて問いかける。
「もしかして、かなーり前からこの事態を知っておられたのですか?」
「うむ、騒動が起きたのは昼間ごろだな」
「……いつから見ていらしたんですか」
「最初からだな♪」
「でしたらこんな騒ぎになる前に止めて下さい……」
あっさりと告げる主を前にがっくりと肩を落とすアルトイーリス。そんな彼女に近づくと、デオノーラは囁いた。
「これは好機ではないか?」
「は?」
疑問を浮かべるアルトイーリスにデオノーラは続ける。
「辺りはこうして淫欲に包まれているのだ……新たな夫婦も生まれることだろうな」
その言葉を聞いてアルトイーリスは何かに気づいたようにハッとした表情になった。
「つまり、我々にもその……は、伴侶というものが……♡」
デオノーラは頷いた。
「さあ、こうしてはおれぬ。我らと生涯を共にする者を探しに行かねばな♡」
そう言い残すと竜の女王は霧の中へと姿を消した。僅かに遅れて、騎士団長も後に続くのだった。
それから夜も更けたころ、後に『堕落の吐息』と呼ばれるこの事件はひとまず収束を迎えることとなる。
使いに出した娘が帰ってこないと心配して足を運んだ龍泉様の働きによって桃色の霧は晴れ、みな正気を取り戻したという。
多くのつがいを生み出したとのことで今回の件は不問となったが、以来『龍泉苑』で男とドラゴンゾンビが働く姿が見られるようになった。そして新たな名物として、桃色の霧が立ち込める温泉が生まれたのだが、それはまた別のお話。
「むう……龍泉様め……いいところで邪魔してくださって……ヒック」
「うー、飲みすぎた……私だけでも確保しておくべきだったか……」
また、騒動の夜に魔界バー『月明り』から千鳥足で出ていく竜の女王と騎士団長を見かけたという噂が立ったが、真偽のほどは定かではない。
18/02/18 16:19更新 / ナナシ
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