読切小説
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ファントムちゃんの頼み事
「まず君にはこの聖ヤクジリパ王国の中でも特に優れた武勲を残した者にのみ送られる三花の紋章が入った覇勇者のマントと騎士の鎧風の模様がデザインされた洋服のセットをあげるからこれを身に着けて欲しいんだがあぁそもそも聖ヤクジリパ王国について君は知らないんだったな済まない過程を無視して結論から先に喋ってしまうのは私の悪いクセだ自覚はしているつもりなんだがやはり結論を先に言った方がその後の会話もスムーズに進むというのはこの社会における摂理でもあるものだからそこに妥協点を見つける事はできずついついこんな頼み方をしてしまうわけで決して君に迷惑をかけようとかそんなつもりは毛頭ないんだがそれはともかくとして聖ヤクジリパ王国についての説明をするとそもそもかの国は我らが偉大にして高潔たる我らが盟主にして王の中の王である淫魔が座に着く事になった魔王の代替わりを経る前から教国として名を馳せていたという立派な国ではあるものの特別な力を持つ勇者を長年出す事ができず騎士団の力でかろうじて魔物を退けるという名目の元で裏では生贄を数名出して見逃してもらう事でなんとか周囲の国に対して名誉を見せつけるというもう過激派の魔物娘達に見られようものなら即座に堕とされてもおかしくないと我ながら思うレベルの国ではあるのだがまぁ実際私の妄想の中に存在する国でしかないのだからそれは仕方ないとしてともかく聖ヤクジリパ王国の中で唯一の権力を誇る騎士団達は階級で振り分けられており入団当初は雑草どころかまだ芽が出てすらいない一本線というかっこよさもクソもない模様が鎧に振られており我ながらそんな鎧大量に作るのもったいないだろうという思いを抱かなくもないが騎士団員達は6つの花弁を持つ最上級職の隊長への憧れを胸にして入団をするのだが隊長になれるのは長い歴史の中でも数十年に1人出るかどうかというぐらい厳しくそれぐらいの力だとか教団に媚びへつらう従順性をよっぽど見せつけないといけないという設定まで考えたところで私としてはこの能力で全てが決められてしまう実力主義の世の中には反感を覚えざるを得ない気持ちでいっぱいだがだからと言ってそれ以外のシステムを採用しようとなると途端に上司の機嫌をいかに取るかという能力が一切反映されないシステムが始まってしまうのでそれはそれとしてどうなのよと思わなくもないのでこの世の中を都合よく変えるのは魔物娘でも難しいのだなぁと結論が出ない問いかけに頭を悩ませつつ話を先に進めるとされど騎士団員全員がその6つの花弁を目指すのかというとそうでもなく実際には花弁が1つの騎士団員だけでも裕福な貴族同然の暮らしが約束されるのでみんな自分にとって都合のいい範囲を目指して挑戦する訳だ全く嘆かわしい最近の若者はなどと言うつもりまでは流石にないがそれでも若い内は何事も挑戦しなければいけないだろうと志半ばで死んでしまった私は思いつつもそもそも生前の記憶がないのに何言ってるんだ君はって冷たい視線を目の前で浴びるのは中々キツいので話を戻すと3つの花弁は誰に与えられるんだという話になるんだがこの称号を与えられるのは先程も言った覇勇者と呼ばれるものでこれは6つの花弁を持つ者が神勇者と呼ばれる者になる事に起因していて下には豪勇者覇勇者金勇者銀勇者銅勇者という並びになっていて騎士団なのに勇者ってわかりにくすぎるだろうというツッコミが私の脳内に湧き出つつも勇者がいない国だからせめて勇者という名前の役職を作ることでかろうじて体裁だとか心の平静だとかそんな感じのものを保っているんだという今思いついたばかりの設定を追加することで難を逃れながら私は実は天才なのではないだろうかという感慨に浸りつつ次の話をすると覇勇者となる人間はある意味6つの花弁である神勇者よりも難しく武に長けている事と慈悲を持っている者にしか与えられないというものであり具体的には魔物娘をあえて殺さずに逃しながらも生還するものだけに与えられるという特殊な称号なんだいやいや勿論教団国家としては優しさを持たせる事にメリットを感じてはいないのだがあえて殺さないという強さを見せつけるというのも強者としてのアピールポイントの一つであるというのは言われてみれば納得できることであるだろうこの国はそういった形でも騎士団の強さをアピールしなければならないぐらい危うい国家間のパワーバランスの上に成り立っているということでこの場は理解をしてくれると幸いでありそんな訳で言わば特別枠として設けられたこの覇勇者に所属する役をやって欲しいのだよこのマントの模様とか自信作だぞデザイン作成に一週間かけて刺繍も一ヶ月ぐらいかけて近所のアラクネさんに教えていただきながら全部手作業で縫ったんだ実体はないけど手作業したんだどうだファントムだって役者だけじゃなく裏方の仕事だってきちんとこなせるんだ偉いだろうえっへん特にデザインなんてただ花弁が半分あるだけでなく満月が浮かぶ星空をイメージしていてこれをまとうものは夜の闇に身を潜め魔物との戦闘を避ける賢者っていう意味を込めたんだとさり気なく私のすごさをアッピールしたところで勇者サイドの話に戻ると紫色の模様は私達魔物だけでなく人間の男性諸君にもなんかカッコいいといった感じに映るため勇者の間でも大人気という設定なので覇勇者共は強さを見せつけるためにゴブリンやらスライムやらの中でも特に戦闘能力が低そうなものばかりをあえて狙っては適当に痛めつけて逃がすという外道な戦法を取るのが彼らの常套手段だったのだがそんな他の奴らはと違いただ1人自分が強いからあえて見逃すのではなく魔物に対して刃を向ける事自体に抵抗を持ち疑問を抱いているというのが君の役でありいかにも堕落した時に映えそうだと既にワクワクしながらスタンバイしているのだがそんな私は隣のホークシチーコ国でお姫様をやっていておぉっとまたしても説明を忘れそうになっていたために補足すると設定的には現状人間でいつも窓の外を眺めながらこんな退屈な世界をぶち壊して欲しいと思う箱入り娘でありながら具体的にはある日空から特大の炎魔法が堕ちてこないかなーとか思ったりするちょっぴり危ない子だったりするのだがしかしその正体はホークシチーコ国の聖剣と聖槍を代々封印する宿命を背負う少女でなんで聖槍と聖剣同時装備なんだどちらか片方だけでいいじゃないかという疑問に対してはうるせぇ私が聖槍って響きいいじゃん光る槍ってカッコイイじゃんって思ったんだと華麗なアンサーを返しつつ少女に話を戻すと左手にはホークシチーコ国初代国王にして教皇のホークティンーコ一世が作成した偉大なる聖紋章が刻まれておりそれが不規則にまたたくその様はまるで不吉を呼び込む災厄の娘だのと呼ばれてしまいそのせいで軟禁されてしまっているという筋書きではあるのだがそれは大きな間違いで実際には数千年前に同じ光を宿した姫の先祖にあたる偉大な女性が魔王の放つ瘴気を無効化する事で魔王と人間との戦いに終止符を撃つ転機の一つとなったトラパウィスガンの変と呼ばれる偉大な功績の立役者であるという事実が時代を経るにつれ少しずつ伝承されなくなっていき今では紋章を受け継いだお姫様本人ですらその事実を知らないという悲しき紋章でありそれを知らなかったためにお姫様という名の私はこのように酷い扱いを受けてしまったのだがそれを後悔する事になるとはこの時はホークシチーコ国の誰も思っていないのでぜひとも君が私に窓の下から声をかけてくれる事でお芝居のように悲恋につながっていきそうな感じを出しつつも魔物娘の影がちらつくような伏線を例えば淫魔の影が窓の外に見えたりだとか実は姫様の持っているペンダントに魔物のマークが見えてたりだとかそんな形でちらつかせることで見ている人間があぁこれは魔物娘が絡むことでハッピーエンドになる物語なんだと安心させて物語に引き込んで欲しいここで大事なのはあくまでちらつかせる事であって大々的にアプゥィール(巻き舌)をしないという事なんだその方が見ている人間的には気づいた時に発見の喜びを味わえるしその喜びを味わうためにより物語を深く観察しようとするだろう文章でそういった表現を行おうとするのは難しく小説家達にとっては悩みの種案件の1つではあるのだろうがお芝居としてやる分にはちょっとした小物をいかにも伏線っぽく観客にわかる程度のところに置くだけで十分だから比較的やる事そのものは難しくないあぁ誤解しないで欲しいのだがこれは別に私達の情事を芝居として他の人間に見せつけようとかそういう意図があるのではなくただ単に私がシチュエーションを作り込めば作り込むほど欲情を催すという魔物娘の中でも極めて特殊な性癖が芝居を好むファントムという種族性に絡み合った結果であるというだけでそして君はそんな私の事を好きになってしまった普通にしてかけがえのない大好きな人間である事から理解が及んでいると信じているからこそこのように私は自分の妄想を垂れ流しにできているのだという事を理解して欲しいという万感の思いを込めつつもこの姫と勇者の悲劇的で堕落的で退廃的になる事が確定した幸せな物語の立役者になってくれる事を断られたらどうしようという不安とそれでもやってくれたら嬉しいという期待に既に止まっている心臓をトクントクンと高鳴らせながら私は君に提案しているんだが、どう思うね?」
「長い、一行で」
「コスプレHしよ?」
「よしきた」
18/01/10 21:40更新 / たんがん

■作者メッセージ
そんな、短い(?)お話でした。

楽しんでいただければ、幸いです。


ひたすらお話し続けちゃう系ファントムちゃん、可愛くない?

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