同属嫌悪とその結末
「でねー、エリーったら話しかけたらびっくりしちゃって魔術書の山崩しちゃってねー…」
「はは、そんなことがあったのかい?君の友達は面白いなぁ」
路地を仲睦まじく歩く、二人の男女の姿があった。
男の方は優しい雰囲気の好青年といった風なのだが、もう片方は少女、というよりも幼女という言葉が似つかわしい程に背丈が小さく、手を繋いで歩くその様は兄妹のようであった。
しかし、少女はこう見えて魔女。なので、二人はこれでも立派な夫婦なのである。
その手の経験は既に何度もしており、ラブラブ愛欲生活を続けていた夫の方はそろそろインキュバスになりかけなのであった。
「あ、あれは……おーい!!」
そんな二人が楽しげに話しながら歩いていると、魔女の方が大きく手を振りながら誰かを呼んだ。
青年が目を向けると、その視線の先に、自分達と同じように手を繋いで歩く若い男女のカップルの姿があった。最も、青年と同じぐらいの年に見える男に対して、女性の方もそんなに年の差があるようには見えなかった。
「ん?あぁ、久しぶり!!」
声をかけられたカップルの内、反応したのは女性の方だった。魔女に気がつくと、彼氏と思われる男を連れながらスタスタとこちらへ歩いてくる。
「隣の人があなたのお兄ちゃんなの?どう、その後の調子は?」
「うん!!お兄ちゃん、とっても喜んでくれたよ!!ありがとうね、ダンピールさん!!」
仲の良さそうな二人のやりとりに、男達はほぼ同時に口をはさんだ。
「お、おい誰だこの子?」
「この人は、君のお友達かい?」
先に返答を返したのは、魔女の方だった。
「えっとね、この人はダンピールさん!!お兄ちゃんと会う前、わたしにお兄ちゃんを『よろこばせる』色んな方法を教えてくれたの!!」
「へぇ……この人が……」
よろこばせるというのが、悦ばせる、ということなのはすぐにわかった。確かに、ベッドの上での彼女は普段の無邪気な様子とはかけ離れた巧みな手つきで、青年は主導権を握られっぱなしだった。魔物だから、という事で納得していたのだが、どうやらそれだけが理由ではなかったらしい。
「その紹介だと、私がダンピールって名前みたいね……」
「あれ、違うんですか?」
てっきりそうだと思っていた男は、きょとんとして彼女に尋ねた。
「ダンピールって言うのは、種族名であって名前じゃないの。私、これでも魔物だからね」
「え、あなた魔物だったんですか!?」
さっきからずっと彼女を人間だと思っていた青年が驚いて声をあげると、ダンピールの隣にいた男がうんうんと頷く。
「あぁ、俺も最初知った時は驚いたよ……初めてお前とヤるまで、ずっと人間だと思ってたからな……」
男は、その時の事を思い出しているように呟いた。
「それで、この子は?」
「あぁ、この子は知り合いの魔女。ほら、以前にあなたに分身薬使った事あったでしょ?あれはこの子に、お兄ちゃんに甘える方法とかを教える代わりに貰ったのよ」
「へぇ……この子だったのか、あれ……」
互いに人間にしか見えない恋人の知り合いを紹介し終え、次は自分達の番だと男達が恋人から手を離して、前に出る。
だが、それまで和やかだった場の雰囲気は、次の男達の何気ない一言で霧散した。
「初めまして。妹がお世話になったみたいですが、そちらのお嫁さんも綺麗ですね」
「いやいや、そちらの子もなかなか可愛げがあるじゃないですか」
男達としては、社交辞令のつもりで言った軽い挨拶。
だが、それを聞いた瞬間ビキ!!という音がして、女性陣の額に同時に青筋が浮かんだ。
「ねぇ、お兄ちゃん?ダンピールさんのどこがいいのかな?」
「え?どこって……」
「確かに私みたいに人間と変わらない見た目だけど、ダンピールって魔術使えないんだよ?快楽のルーン使ったり、分身薬や触手薬作ったりだってできないんだよ?それなのに、ダンピールのどこがいいの?」
「ちょ、ちょっと…」
無邪気な笑顔で毒を放つ自分の妹を青年は諫めようとしたのだが、それよりもダンピールが返事をする方が早かった。
「あらあら、何言ってるの?私、そんなのなくったって自分のテクニックがあれば充分男を満足させることができるわよ?それとも、あなたは道具に頼らないとろくに男を抱くこともできないの?」
「お、おい…それは言い過ぎだろ……」
売られた喧嘩を同じく笑顔で買い占めたダンピールを、隣にいる男も止めようとするのだが、彼女達に聞き入れる気配はまるでなかった。
そもそも、原因を作ったのも彼らなのだが、そこに気づく気配もない。
「ううん、そんなことないよ?私、容姿に何の特徴も無いダンピールさんと違って、このちっちゃい身体をいっぱい使うもん。大変だねー、魔物なのに容姿に何の特徴もないって」
容姿に何の特徴も無い、という言葉をここぞとばかりに強調する魔女に、ダンピールの額の青筋が浮かんでいる量は更に増えた。
「あーら、ロリコンホイホイする為だけにわざわざ契約してロリになった子は言う事が違うわねぇ。どうせ、男を手に入れる為にロリを売りにしたプレイでたらし込みたかったのよねぇ?」
まるで売春婦か何かのような酷い扱いに、魔女の青筋の量も増加する。
「あはは、産まれた瞬間からお母さんを調教しようとする人にとやかく言われたくはないなぁ?すっごいよねー、私尊敬するバフォメット様を調教しようなんて絶対思わないもん」
「私、母様のことは尊敬してるわよ?ただ、素直になれなかったから背中を押してあげただけよ。そうねぇ、口の減らないあなたのことも素直になれるようハントしてあげた方がいいかしらねぇ?」
「えー、魔術も使えないダンピールさんには私をハントなんてできないよー。私、魅了以外にも炎飛ばしたりぐらいできるんだよ?魔女ってダンピールと違って本当に色々できるもん」
「へー、そうなのすごいわねぇ……それなら、魔術なんか使えなくてもいいって教えてやるわゴルァ!!」
「あはは、やれるもんならやってみてよダンピールさん!!」
遂に我慢が臨界点に達したダンピールは腰に提げた鞘からレイピアを抜くが、それに対して、魔女も背中にしょっていた杖を両手で構えた。
「「ストォォップ!!」」
二人がばりばりの戦闘態勢に入ったところで、止めるタイミングを失っていた彼女達の恋人二人が、ようやく声を張り上げた。
「おいおい、何やってんだよ!?いくらなんでも、子供相手に剣を抜くのはやり過ぎだって!!」
「いくら親しい相手でもさっきの悪口は、失礼だぞ。ちゃんと謝りなさい」
慌ててダンピールを止める男と、兄というよりは父親といった方がしっくり来る態度で魔女を叱る青年。
彼女達は、それを見て思い出す。
自分達が、なぜこんなにも怒ってしまったのかを。
「……うん。お兄ちゃんの言う通りだね。ダンピールさん、ごめんなさい」
「ううん、いいのよ。私もちょっと、言い過ぎちゃったし……」
魔女がぺこり、と頭を下げると、ダンピールも彼女に合わせて頭を下げた。
彼女達の恋人は、そんな様子を見ると、互いに顔を見合わせほっと一息ついた。
「お兄ちゃん、それじゃぁ今日はもう帰ろ?」
「うん、そうだね。結構時間経っちゃったし……あ、では僕達はこれで失礼します」
「えぇ、じゃぁね」
そんな風にして、ひらひらと手を振るダンピールのカップルと魔女の兄妹は、それぞれの帰路についた。
だが、男達は気づいていなかった。
さっきまで喧嘩していた二人が、全く同じことを考えていたことを。
「……ねぇ。その三つの薬はなんだい?」
「これはねぇ、触手薬とー、分身薬とー、若返りの薬(男性ver.)だよ!!お兄ちゃんどれがいい?あ、どれ選んでも全部飲ませるんだけど、順番ぐらいはお兄ちゃんが決めていいかなって!!」
「……その前に、これほどいてくれないかな?」
「やだ♪」
青年の手と足はそれぞれがベッドの端できつく縛られており、動くことさえままならない状態であった。
「お兄ちゃんが悪いんだからね?私みたいな妹がいるのに、他の人に目移りなんかしちゃうんだから……」
「いや、あれは礼儀みたいなもので……君以外の女性を好きになったりなんか、するわけないじゃないか……」
「お兄ちゃん…………」
青年の言葉に魔女は顔を綻ばせて喜ぶ。
誤解を解けたことに、青年は安堵した。
「でも、駄ー目♪」
が、魔女は縛った腕を拘束しようとはしなかった。
薬の一つの蓋を開けて中身を全て口に含むと、青年の唇を自らのもので塞ぐ。それと同時に中身を口移しで流しこむと、青年は拒むこともできずに全て飲み干した。
「よく考えたら、分身でも若返りでも拘束が解けちゃうから、最初は触手にしたよ!!お兄ちゃん、今夜はずーっと、ダンピールにはない魔女の良さを教えてあげるからね♪他の女のことなんか、考えられないようにしてあげる♪」
背中から異物が出てくる感触を感じながら青年は、今夜は眠れないのだろうな、と思った。
「痛っ!?な、何すんだよお前!?」
家に帰った瞬間に男は突然ダンピールに押し倒されたかと思うと、首筋を噛みつかれた。
ダンピールがどんな魔物か知らなかった彼にとって、その瞬間は彼女の行動の真意がわからず、抵抗しようとした。
しかし、噛まれている筈の傷口から伝わらなくなってくる痛みと伝わってくる痛みではない熱が、徐々に彼の全身から力を抜いていく。
「はぁっ……はぁっ……ちゅるっ、れろぉ……♥♥」
やがて、男の首筋を離した彼女は口元に着いた血を拭うと、手の甲に着いたそれさえも残さずに舐めとろうとする。
自分の血を甘い物のように舐める彼女はとても倒錯的で、見とれてしまっていた。
「ずっと、我慢してた、のに……特徴無いなんて、言われちゃ、悔しくて……特徴、見せつけて、やりたくなるじゃない……」
「お、おい……お前……」
うわごとのように呟く自分の恋人を男は心配するが、彼女はその声に頬を緩ませた。
「あなたが悪いんだからね?私みたいな恋人がいるのに、魔女の子のことを可愛いなんて言うから……」
「いや、ありゃ挨拶みたいなもんで……お前以外に好きな奴なんか、できるわけないだろ……」
「ありがとう……」
男の言葉を、ダンピールは素直に受け止めて喜ぶ。
誤解を解けたことに、男は安堵していた。
「でも、もう遅いの♪」
が、ダンピールは男のズボンに手をかけると、破れるのも構わずに人間離れした力でズボンをパンツごと引きずり下ろした。
露わになった男の肉棒は血を吸われた快楽でそそり立っており、ダンピールは「はぁ……♥」と感嘆の息を漏らした。
「血を吸っちゃったから私、もう自分が抑えられない……もうあなたのことしか考えられないの……だから、今夜は私が魔女にはないダンピールの身体の良さをたっぷり教えてあげるね♪他の女のことなんか、考えられないようにしてあげる♪」
すっかり淫らになってしまった彼女の変化を感じながら男は、今夜は眠れないのだろうな、と思った。
後日、彼らは再び道ばたでばったり会うことになるのだが、その時には、二人共すっかりインキュバスになっていたという。
「はは、そんなことがあったのかい?君の友達は面白いなぁ」
路地を仲睦まじく歩く、二人の男女の姿があった。
男の方は優しい雰囲気の好青年といった風なのだが、もう片方は少女、というよりも幼女という言葉が似つかわしい程に背丈が小さく、手を繋いで歩くその様は兄妹のようであった。
しかし、少女はこう見えて魔女。なので、二人はこれでも立派な夫婦なのである。
その手の経験は既に何度もしており、ラブラブ愛欲生活を続けていた夫の方はそろそろインキュバスになりかけなのであった。
「あ、あれは……おーい!!」
そんな二人が楽しげに話しながら歩いていると、魔女の方が大きく手を振りながら誰かを呼んだ。
青年が目を向けると、その視線の先に、自分達と同じように手を繋いで歩く若い男女のカップルの姿があった。最も、青年と同じぐらいの年に見える男に対して、女性の方もそんなに年の差があるようには見えなかった。
「ん?あぁ、久しぶり!!」
声をかけられたカップルの内、反応したのは女性の方だった。魔女に気がつくと、彼氏と思われる男を連れながらスタスタとこちらへ歩いてくる。
「隣の人があなたのお兄ちゃんなの?どう、その後の調子は?」
「うん!!お兄ちゃん、とっても喜んでくれたよ!!ありがとうね、ダンピールさん!!」
仲の良さそうな二人のやりとりに、男達はほぼ同時に口をはさんだ。
「お、おい誰だこの子?」
「この人は、君のお友達かい?」
先に返答を返したのは、魔女の方だった。
「えっとね、この人はダンピールさん!!お兄ちゃんと会う前、わたしにお兄ちゃんを『よろこばせる』色んな方法を教えてくれたの!!」
「へぇ……この人が……」
よろこばせるというのが、悦ばせる、ということなのはすぐにわかった。確かに、ベッドの上での彼女は普段の無邪気な様子とはかけ離れた巧みな手つきで、青年は主導権を握られっぱなしだった。魔物だから、という事で納得していたのだが、どうやらそれだけが理由ではなかったらしい。
「その紹介だと、私がダンピールって名前みたいね……」
「あれ、違うんですか?」
てっきりそうだと思っていた男は、きょとんとして彼女に尋ねた。
「ダンピールって言うのは、種族名であって名前じゃないの。私、これでも魔物だからね」
「え、あなた魔物だったんですか!?」
さっきからずっと彼女を人間だと思っていた青年が驚いて声をあげると、ダンピールの隣にいた男がうんうんと頷く。
「あぁ、俺も最初知った時は驚いたよ……初めてお前とヤるまで、ずっと人間だと思ってたからな……」
男は、その時の事を思い出しているように呟いた。
「それで、この子は?」
「あぁ、この子は知り合いの魔女。ほら、以前にあなたに分身薬使った事あったでしょ?あれはこの子に、お兄ちゃんに甘える方法とかを教える代わりに貰ったのよ」
「へぇ……この子だったのか、あれ……」
互いに人間にしか見えない恋人の知り合いを紹介し終え、次は自分達の番だと男達が恋人から手を離して、前に出る。
だが、それまで和やかだった場の雰囲気は、次の男達の何気ない一言で霧散した。
「初めまして。妹がお世話になったみたいですが、そちらのお嫁さんも綺麗ですね」
「いやいや、そちらの子もなかなか可愛げがあるじゃないですか」
男達としては、社交辞令のつもりで言った軽い挨拶。
だが、それを聞いた瞬間ビキ!!という音がして、女性陣の額に同時に青筋が浮かんだ。
「ねぇ、お兄ちゃん?ダンピールさんのどこがいいのかな?」
「え?どこって……」
「確かに私みたいに人間と変わらない見た目だけど、ダンピールって魔術使えないんだよ?快楽のルーン使ったり、分身薬や触手薬作ったりだってできないんだよ?それなのに、ダンピールのどこがいいの?」
「ちょ、ちょっと…」
無邪気な笑顔で毒を放つ自分の妹を青年は諫めようとしたのだが、それよりもダンピールが返事をする方が早かった。
「あらあら、何言ってるの?私、そんなのなくったって自分のテクニックがあれば充分男を満足させることができるわよ?それとも、あなたは道具に頼らないとろくに男を抱くこともできないの?」
「お、おい…それは言い過ぎだろ……」
売られた喧嘩を同じく笑顔で買い占めたダンピールを、隣にいる男も止めようとするのだが、彼女達に聞き入れる気配はまるでなかった。
そもそも、原因を作ったのも彼らなのだが、そこに気づく気配もない。
「ううん、そんなことないよ?私、容姿に何の特徴も無いダンピールさんと違って、このちっちゃい身体をいっぱい使うもん。大変だねー、魔物なのに容姿に何の特徴もないって」
容姿に何の特徴も無い、という言葉をここぞとばかりに強調する魔女に、ダンピールの額の青筋が浮かんでいる量は更に増えた。
「あーら、ロリコンホイホイする為だけにわざわざ契約してロリになった子は言う事が違うわねぇ。どうせ、男を手に入れる為にロリを売りにしたプレイでたらし込みたかったのよねぇ?」
まるで売春婦か何かのような酷い扱いに、魔女の青筋の量も増加する。
「あはは、産まれた瞬間からお母さんを調教しようとする人にとやかく言われたくはないなぁ?すっごいよねー、私尊敬するバフォメット様を調教しようなんて絶対思わないもん」
「私、母様のことは尊敬してるわよ?ただ、素直になれなかったから背中を押してあげただけよ。そうねぇ、口の減らないあなたのことも素直になれるようハントしてあげた方がいいかしらねぇ?」
「えー、魔術も使えないダンピールさんには私をハントなんてできないよー。私、魅了以外にも炎飛ばしたりぐらいできるんだよ?魔女ってダンピールと違って本当に色々できるもん」
「へー、そうなのすごいわねぇ……それなら、魔術なんか使えなくてもいいって教えてやるわゴルァ!!」
「あはは、やれるもんならやってみてよダンピールさん!!」
遂に我慢が臨界点に達したダンピールは腰に提げた鞘からレイピアを抜くが、それに対して、魔女も背中にしょっていた杖を両手で構えた。
「「ストォォップ!!」」
二人がばりばりの戦闘態勢に入ったところで、止めるタイミングを失っていた彼女達の恋人二人が、ようやく声を張り上げた。
「おいおい、何やってんだよ!?いくらなんでも、子供相手に剣を抜くのはやり過ぎだって!!」
「いくら親しい相手でもさっきの悪口は、失礼だぞ。ちゃんと謝りなさい」
慌ててダンピールを止める男と、兄というよりは父親といった方がしっくり来る態度で魔女を叱る青年。
彼女達は、それを見て思い出す。
自分達が、なぜこんなにも怒ってしまったのかを。
「……うん。お兄ちゃんの言う通りだね。ダンピールさん、ごめんなさい」
「ううん、いいのよ。私もちょっと、言い過ぎちゃったし……」
魔女がぺこり、と頭を下げると、ダンピールも彼女に合わせて頭を下げた。
彼女達の恋人は、そんな様子を見ると、互いに顔を見合わせほっと一息ついた。
「お兄ちゃん、それじゃぁ今日はもう帰ろ?」
「うん、そうだね。結構時間経っちゃったし……あ、では僕達はこれで失礼します」
「えぇ、じゃぁね」
そんな風にして、ひらひらと手を振るダンピールのカップルと魔女の兄妹は、それぞれの帰路についた。
だが、男達は気づいていなかった。
さっきまで喧嘩していた二人が、全く同じことを考えていたことを。
「……ねぇ。その三つの薬はなんだい?」
「これはねぇ、触手薬とー、分身薬とー、若返りの薬(男性ver.)だよ!!お兄ちゃんどれがいい?あ、どれ選んでも全部飲ませるんだけど、順番ぐらいはお兄ちゃんが決めていいかなって!!」
「……その前に、これほどいてくれないかな?」
「やだ♪」
青年の手と足はそれぞれがベッドの端できつく縛られており、動くことさえままならない状態であった。
「お兄ちゃんが悪いんだからね?私みたいな妹がいるのに、他の人に目移りなんかしちゃうんだから……」
「いや、あれは礼儀みたいなもので……君以外の女性を好きになったりなんか、するわけないじゃないか……」
「お兄ちゃん…………」
青年の言葉に魔女は顔を綻ばせて喜ぶ。
誤解を解けたことに、青年は安堵した。
「でも、駄ー目♪」
が、魔女は縛った腕を拘束しようとはしなかった。
薬の一つの蓋を開けて中身を全て口に含むと、青年の唇を自らのもので塞ぐ。それと同時に中身を口移しで流しこむと、青年は拒むこともできずに全て飲み干した。
「よく考えたら、分身でも若返りでも拘束が解けちゃうから、最初は触手にしたよ!!お兄ちゃん、今夜はずーっと、ダンピールにはない魔女の良さを教えてあげるからね♪他の女のことなんか、考えられないようにしてあげる♪」
背中から異物が出てくる感触を感じながら青年は、今夜は眠れないのだろうな、と思った。
「痛っ!?な、何すんだよお前!?」
家に帰った瞬間に男は突然ダンピールに押し倒されたかと思うと、首筋を噛みつかれた。
ダンピールがどんな魔物か知らなかった彼にとって、その瞬間は彼女の行動の真意がわからず、抵抗しようとした。
しかし、噛まれている筈の傷口から伝わらなくなってくる痛みと伝わってくる痛みではない熱が、徐々に彼の全身から力を抜いていく。
「はぁっ……はぁっ……ちゅるっ、れろぉ……♥♥」
やがて、男の首筋を離した彼女は口元に着いた血を拭うと、手の甲に着いたそれさえも残さずに舐めとろうとする。
自分の血を甘い物のように舐める彼女はとても倒錯的で、見とれてしまっていた。
「ずっと、我慢してた、のに……特徴無いなんて、言われちゃ、悔しくて……特徴、見せつけて、やりたくなるじゃない……」
「お、おい……お前……」
うわごとのように呟く自分の恋人を男は心配するが、彼女はその声に頬を緩ませた。
「あなたが悪いんだからね?私みたいな恋人がいるのに、魔女の子のことを可愛いなんて言うから……」
「いや、ありゃ挨拶みたいなもんで……お前以外に好きな奴なんか、できるわけないだろ……」
「ありがとう……」
男の言葉を、ダンピールは素直に受け止めて喜ぶ。
誤解を解けたことに、男は安堵していた。
「でも、もう遅いの♪」
が、ダンピールは男のズボンに手をかけると、破れるのも構わずに人間離れした力でズボンをパンツごと引きずり下ろした。
露わになった男の肉棒は血を吸われた快楽でそそり立っており、ダンピールは「はぁ……♥」と感嘆の息を漏らした。
「血を吸っちゃったから私、もう自分が抑えられない……もうあなたのことしか考えられないの……だから、今夜は私が魔女にはないダンピールの身体の良さをたっぷり教えてあげるね♪他の女のことなんか、考えられないようにしてあげる♪」
すっかり淫らになってしまった彼女の変化を感じながら男は、今夜は眠れないのだろうな、と思った。
後日、彼らは再び道ばたでばったり会うことになるのだが、その時には、二人共すっかりインキュバスになっていたという。
12/11/25 15:10更新 / たんがん