エピローグ
4日後、村にある、診療所の病室にて。
「いやぁ・・・・・・・・・・・完全に死んだかと思った。マジで」
ベットの上に腰かけて、もしゃもしゃと稲荷寿司(差し入れ)をかっ食らっている小太郎の姿があった。
頭と胸、右拳には包帯が巻かれ、左手は手首から先こそ露出しているものの、腕はギプスでぐるぐる巻きだ。
「死んでたからね!? ほんとに死んでたから! 医学的にも神様的にも!」
突っ込みを入れながら小太郎に付添って、お茶を入れている黒曜の姿もある。
「母様が来てくれなかったら、あのまま本当に死んでたんだからね!」
お茶を差し出しながら、ずいっと詰め寄りつつ言う黒曜。
「うん、あのお稲荷様にはマジで感謝だ。うん・・・・」
お茶を受け取りすすりながら、小太郎はあの直後の記憶を思い返す。
意識を失った後、小太郎は気がつくと川の前にいた。
川の向こうには、アカオニのお姉さんたちが手招きしていたし、ケンタウロスやミノタウロスっぽい感じの、色っぽいお姉さんたちも見えた。
ぼんやりしていたせいか、ふらふらと本能的な誘惑に負け、川を半ばまで渡っていたところ。
元居たほうの岸に、着物姿のお稲荷さまが見えた。
見た目は黒曜そっくりだったが、黒曜をずっと大人っぽく色っぽくしたような感じで、尻尾が9本あったうえに、髪も耳も尻尾も真っ白。
そして何より、ものすごく大きかった、黒曜より2カップぐらい。
迷わず引き返したところ、ぽふっとその胸に抱きとめられ・・・
『クロちゃんのだんなさま〜、まだそっち行っちゃダメですよ〜・・・・・』
そう言われたことだけ、覚えている。
気が付いたら、この診療所のベッドの上で、二日も経っていた。
「母様と父様が、最近だらしないあたしの様子を観に、たまたま近くに来てたのが幸いしたよ・・・・・」
結局あの後。
たまたま近くに来ていた、黒曜の母親である九尾の稲荷と、神道界の大物件神主だという黒曜の父親にいろいろと助けられた。
両親が素早く手を回してくれたおかげで、村人や警察、消防などが迅速に動き、放火され神社もなんとか半焼で済んだ。
小太郎自身もほとんど死んでいたが(医学的には心肺停止、神様的には魂がすでに三途の川へ)黒曜の母が魂を呼び戻したおかげで、かろうじて蘇生し、村の診療所に運びこまれ、一命を取り留めた。
あの少年(一応生きてた)は、警察に身柄を拘束された後、所持品や指紋等から、世界的に有名な主神系テロ組織の一員だと判明。
今後は表から裏からキツイ粛清&取り調べが待っているらしい・・・・
「まぁ、これで一件落着かな・・・・あとはあのお二人がやってくれるらしいし・・・」
「そうだね・・・・・」
現在、黒曜のご両親は、村役場で今回の後始末で大忙しらしい。
まぁ、そのおかげで黒曜と小太郎がこうしてゆっくりできるのだが。
「どうせなら、俺の怪我直してくれりゃあ、良かったのに・・・・・」
小太郎が、手を握ったり開いたり、不自由な軽く体を動かしながら、ぽつりとつぶやく
「蘇生って、魂と体に負担が掛かるらしいから、これ以上神通力で無理やり怪我を直すと、また負担が掛かって寿命が減るよ」
ぽふぽふ、と小太郎の頭をなで、なだめる様に答える黒曜。
「お稲荷様が言うと冗談に聞こえないな・・・・・で、お前、これからどうするんだ・・・・・」
「うん、神社は半焼で済んだけど・・・・やっぱり母様の神社に戻ろうかなって・・・・・」
「さすがに俺の日曜大工の腕じゃ、どうしようも無いしな・・・・・・・よし、思い切って建て直しちまおう。あの神社」
ぽつりと真顔でつぶやく小太郎に、黒曜ははぁ、とため息をついて。
「そんなお金、どこにあるのよ・・・・・・?」
そんな黒曜に、小太郎はいたずらっぽく微笑む。
「ああ、それなら・・・・・・・ほら、ベッドの下、」
小太郎が示すベッドの下・・・・・・
黒曜が覗きこむと・・・・・そこには、あの少年が持っていた、大ぶりな金属の十字架が置かれていた。
その鉄色の表面の一部が剥がれ、金色の輝きが覗いている。
「・・・・・ひょっとして、これって・・・・・うわ・・・すっごく重い・・・・」
その十字架に触れ、黒曜も何かに気がつく。
「ああ、なんでもこの十字架、純金の塊らしい。装飾品としても価値があるから・・・・・まぁ、売り払えば神社の一個や二個、簡単に立て直せるさ」
金の重さは水の20倍。
それを軽々振り回していた少年もだが、それで頭を殴られたうえ、胴体と腕まで殴られて、死んでいない小太郎も人間離れしてる気がする・・・・
そう思ったがが、黒曜は口に出さなかった。
「・・・・・・・・でもこれって、ネコババじゃないの?」
少しだけ冷汗を垂らし、小太郎に聞き返す。
「大丈夫。駐在さんから聞いたけど、お前の両親が手を回してくれて、この十字架、慰謝料代わりに俺たちの物になったって」
にこりと、微笑み返す小太郎。
「でも・・・・・さ、神社が直っても・・・」
結局誰も来なければ同じ・・・・・そう口に出そうとした時。
「黒曜、あの時言えなかった話の続き」
それを遮るように、小太郎が口を開く。
「あの話の続きだけど、さ・・・・・俺は、不器用だから、不器用にしか、生きていけないから・・・・・一緒に傍にいて、黒曜に支えてほしいんだ・・・・その変わり、俺がずっと一緒にいて、不器用だけど、不器用なりに、お前を支えて行く。お前の夢が、叶うように」
まっすぐ、黒曜を見つめて紡がれる。
それは、プロポーズとも取れる言葉だった。
「うん。あたしも・・・・・お姉ちゃんとして約束、守ってあげる。強くて立派になった小太郎の傍にいて、一生不器用なりに支えてあげるよ・・・・・だから、あたしを支えてね、小太郎・・・・」
そして、今度こそ、だれにも邪魔されることなく、二人の唇が重なった。
「・・・・・・・・っ」
「はぁん・・・・ずちゅ・・・くちゅ・・・・」
舌が絡み、互いの唾液が交換される激しい口付け。
数分も続いただろうか、やがて黒曜が口を離す。
ツゥ…と、二人の唇の間に唾液の糸が伸びて、消えた。
「・・・・・・黒曜?」
「ごめん・・・・・あたしもう、我慢できないかも・・・・♪」
しゅるりと、ふわりと、黒い絹のような二ツ尾が、小太郎の体に巻き突く。
もじもじと、真っ赤な顔をして、黒曜は内股をこすり合わせ、濡れた艶っぽい瞳で小太郎を上目使いに見つめていた。
「でも・・・・小太郎・・・・怪我してる・・・し・・・」
濡れた瞳を伏せて、俯いてしまった黒曜。
その額に、小太郎はそっと口づける。
「あっ・・・・・・♪」
「俺の頑丈さは知ってるだろ? 大丈夫だ。良いよ。おいで、黒曜・・・・・」
両手を広げて、自ら黒曜を抱きしめた。
「うん・・・・・小太郎・・・小太郎ぉっ♪」
ふんわりと飛びかかってくる黒曜を、小太郎は抱きしめたまま受け止めた。
明けて、翌朝。
「・・・・・・・・・小太郎さん。全身の傷が見事に開いちゃってますね・・・・・あと腰の筋をだいぶ痛めたようで・・・・・・体力まで消耗してますね・・・・・・安静にしててくださいって言いましたよね? なのにお二人は昨夜、一体何をされていたんですか・・・・・!」
そりゃあ、大怪我してるのに、一晩中、明け方近くまでギシギシアンアンしていれば、当然そうなるわけで・・・・・・
翌朝、二人揃って診察に来た女医に叱られていた。
「・・・・・・・・・黙秘します」
無表情で遠い目をして答える小太郎
「・・・・・・・・・・・・・・//////」
一方、なぜかツヤツヤとしている黒曜は真っ赤になって俯いている。
いつの間にか尻尾が一本増えてることから、昨夜のことは隠しようがない。
「いいですか! くれぐれも! 安静にしていてくださいね・・・・・・・!」
キッと睨んで念を押すと、カルテにデータを書きつけて、病室を出ていく女医。
「・・・・と、言うわけで、黒曜。しばらくお預けな、イテテ・・・」
やはり昨夜の無茶のせいか、どこかしんどそうなまま、ベッドに横になる小太郎。
「・・・・・・・はぁい」
そして、寂しそうに、小太郎の傍らに腰かける黒曜。
そんな寂しそうな彼女に、小太郎は視線を向ける。
「・・・・・まぁ、でも」
言いながら、少しだけ、体を起こす
「・・・・?」
キョトンとする黒曜に、小太郎は顔を近づける。
「キスくらいなら、大丈夫だろ」
言って、肩を抱き寄せ・・・・・・そっと、二人の唇が重なった。
はい? ああ、黒曜稲荷への道ですか?
ええ、この山道を少し登ってすぐです。
十数年前に新しく建て直されて、大変立派な造りになってますから、すぐ分かりますよ。
石段を上って鳥居が見えれば、黒い九尾のお稲荷様と、狐色の髪をした神主様が、夫婦そろって出迎えてくれますから。
え? そういえば黒狐って不吉って言われて無いか・・・・ですって?
黒い狐が不幸の象徴なんて言い伝え、古い古い。
最近では黒い狐は神様の使い、北斗七星の化身、太平の象徴というのが主流なんですから!
せっかくなのでご案内しますよ。
ええ、最近、遠くの方からも参拝によくいらっしゃいますよ、御利益があるって有名なんですよ、黒曜稲荷は。
地元の方々も、いまや無くてはならない神社だ・・・・なんて言ってくださってます。
あら、参拝は初めてじゃあない?
境内で掃除をしている、黒髪の巫女さんが可愛かった・・・・・・お守りを売ってる黒髪の巫女さんが、可愛かった・・・・・・ですって?
ええ、そうでしょう。
お二人の娘さんたちが、巫女として、神社の切り盛りをお手伝いされていますから。
みなさん、お母様に似て、黒い絹のような髪、漆黒の毛並みの耳と尻尾がとても綺麗でしょう?
ええ、はい。今年の春に12人目がお生まれになったとか・・・・・夫婦仲は大変よろしいようですわ。
本日はどのような? 家内安全、商売繁盛、夫婦円満、学業成就etc、etc…なんでもござれです。
え? それ以外の御相談ですか?
ご近所にヤ○ザ屋さんが事務所を立ててしまった・・・・・住んでる地域でカラーギャングが抗争を始めた・・・
良く使う幹線道路に暴走族が出没するようになった・・・・・不良学生が繁華街で暴れまわって困っている・・・・・
ははぁ、それはお困りですねぇ。
そういう件でお困りでしたら、神主様にご相談されるとよいでしょう。
なんでも、狐のお面をかぶり、黒いライダースーツを纏い、黒いバイクに跨った【狐面ライダー】なる正義の味方が、ひと暴れして解決してくださるとか、下さらないとか・・・・・・
あ、くれぐれも黒曜様には内緒ですよ?
ああ、お話しているうちに、着いちゃいましたねぇ・・・・・
え? そこに止めてある黒いバイクは誰のかって? 神主様のに決まってるじゃないですか・・・いまどき黒いバイクなんて珍しくないですよ?
ささ、ちょっと待っててくださいね、いま、巫女装束に着替えてきますから・・・
え? あら、気がつかれて無い? あちゃ〜、わたし、耳と自慢の二つ尾、隠したままでした・・・・・
改めまして、わたくし、お二人の娘で、長女の月奈(つくな)と申します。
あ、お父様と黒曜様・・・・お母様もいらっしゃったみたいですね。
では改めまして・・・・・ようこそ、黒曜稲荷へ。
「いやぁ・・・・・・・・・・・完全に死んだかと思った。マジで」
ベットの上に腰かけて、もしゃもしゃと稲荷寿司(差し入れ)をかっ食らっている小太郎の姿があった。
頭と胸、右拳には包帯が巻かれ、左手は手首から先こそ露出しているものの、腕はギプスでぐるぐる巻きだ。
「死んでたからね!? ほんとに死んでたから! 医学的にも神様的にも!」
突っ込みを入れながら小太郎に付添って、お茶を入れている黒曜の姿もある。
「母様が来てくれなかったら、あのまま本当に死んでたんだからね!」
お茶を差し出しながら、ずいっと詰め寄りつつ言う黒曜。
「うん、あのお稲荷様にはマジで感謝だ。うん・・・・」
お茶を受け取りすすりながら、小太郎はあの直後の記憶を思い返す。
意識を失った後、小太郎は気がつくと川の前にいた。
川の向こうには、アカオニのお姉さんたちが手招きしていたし、ケンタウロスやミノタウロスっぽい感じの、色っぽいお姉さんたちも見えた。
ぼんやりしていたせいか、ふらふらと本能的な誘惑に負け、川を半ばまで渡っていたところ。
元居たほうの岸に、着物姿のお稲荷さまが見えた。
見た目は黒曜そっくりだったが、黒曜をずっと大人っぽく色っぽくしたような感じで、尻尾が9本あったうえに、髪も耳も尻尾も真っ白。
そして何より、ものすごく大きかった、黒曜より2カップぐらい。
迷わず引き返したところ、ぽふっとその胸に抱きとめられ・・・
『クロちゃんのだんなさま〜、まだそっち行っちゃダメですよ〜・・・・・』
そう言われたことだけ、覚えている。
気が付いたら、この診療所のベッドの上で、二日も経っていた。
「母様と父様が、最近だらしないあたしの様子を観に、たまたま近くに来てたのが幸いしたよ・・・・・」
結局あの後。
たまたま近くに来ていた、黒曜の母親である九尾の稲荷と、神道界の大物件神主だという黒曜の父親にいろいろと助けられた。
両親が素早く手を回してくれたおかげで、村人や警察、消防などが迅速に動き、放火され神社もなんとか半焼で済んだ。
小太郎自身もほとんど死んでいたが(医学的には心肺停止、神様的には魂がすでに三途の川へ)黒曜の母が魂を呼び戻したおかげで、かろうじて蘇生し、村の診療所に運びこまれ、一命を取り留めた。
あの少年(一応生きてた)は、警察に身柄を拘束された後、所持品や指紋等から、世界的に有名な主神系テロ組織の一員だと判明。
今後は表から裏からキツイ粛清&取り調べが待っているらしい・・・・
「まぁ、これで一件落着かな・・・・あとはあのお二人がやってくれるらしいし・・・」
「そうだね・・・・・」
現在、黒曜のご両親は、村役場で今回の後始末で大忙しらしい。
まぁ、そのおかげで黒曜と小太郎がこうしてゆっくりできるのだが。
「どうせなら、俺の怪我直してくれりゃあ、良かったのに・・・・・」
小太郎が、手を握ったり開いたり、不自由な軽く体を動かしながら、ぽつりとつぶやく
「蘇生って、魂と体に負担が掛かるらしいから、これ以上神通力で無理やり怪我を直すと、また負担が掛かって寿命が減るよ」
ぽふぽふ、と小太郎の頭をなで、なだめる様に答える黒曜。
「お稲荷様が言うと冗談に聞こえないな・・・・・で、お前、これからどうするんだ・・・・・」
「うん、神社は半焼で済んだけど・・・・やっぱり母様の神社に戻ろうかなって・・・・・」
「さすがに俺の日曜大工の腕じゃ、どうしようも無いしな・・・・・・・よし、思い切って建て直しちまおう。あの神社」
ぽつりと真顔でつぶやく小太郎に、黒曜ははぁ、とため息をついて。
「そんなお金、どこにあるのよ・・・・・・?」
そんな黒曜に、小太郎はいたずらっぽく微笑む。
「ああ、それなら・・・・・・・ほら、ベッドの下、」
小太郎が示すベッドの下・・・・・・
黒曜が覗きこむと・・・・・そこには、あの少年が持っていた、大ぶりな金属の十字架が置かれていた。
その鉄色の表面の一部が剥がれ、金色の輝きが覗いている。
「・・・・・ひょっとして、これって・・・・・うわ・・・すっごく重い・・・・」
その十字架に触れ、黒曜も何かに気がつく。
「ああ、なんでもこの十字架、純金の塊らしい。装飾品としても価値があるから・・・・・まぁ、売り払えば神社の一個や二個、簡単に立て直せるさ」
金の重さは水の20倍。
それを軽々振り回していた少年もだが、それで頭を殴られたうえ、胴体と腕まで殴られて、死んでいない小太郎も人間離れしてる気がする・・・・
そう思ったがが、黒曜は口に出さなかった。
「・・・・・・・・でもこれって、ネコババじゃないの?」
少しだけ冷汗を垂らし、小太郎に聞き返す。
「大丈夫。駐在さんから聞いたけど、お前の両親が手を回してくれて、この十字架、慰謝料代わりに俺たちの物になったって」
にこりと、微笑み返す小太郎。
「でも・・・・・さ、神社が直っても・・・」
結局誰も来なければ同じ・・・・・そう口に出そうとした時。
「黒曜、あの時言えなかった話の続き」
それを遮るように、小太郎が口を開く。
「あの話の続きだけど、さ・・・・・俺は、不器用だから、不器用にしか、生きていけないから・・・・・一緒に傍にいて、黒曜に支えてほしいんだ・・・・その変わり、俺がずっと一緒にいて、不器用だけど、不器用なりに、お前を支えて行く。お前の夢が、叶うように」
まっすぐ、黒曜を見つめて紡がれる。
それは、プロポーズとも取れる言葉だった。
「うん。あたしも・・・・・お姉ちゃんとして約束、守ってあげる。強くて立派になった小太郎の傍にいて、一生不器用なりに支えてあげるよ・・・・・だから、あたしを支えてね、小太郎・・・・」
そして、今度こそ、だれにも邪魔されることなく、二人の唇が重なった。
「・・・・・・・・っ」
「はぁん・・・・ずちゅ・・・くちゅ・・・・」
舌が絡み、互いの唾液が交換される激しい口付け。
数分も続いただろうか、やがて黒曜が口を離す。
ツゥ…と、二人の唇の間に唾液の糸が伸びて、消えた。
「・・・・・・黒曜?」
「ごめん・・・・・あたしもう、我慢できないかも・・・・♪」
しゅるりと、ふわりと、黒い絹のような二ツ尾が、小太郎の体に巻き突く。
もじもじと、真っ赤な顔をして、黒曜は内股をこすり合わせ、濡れた艶っぽい瞳で小太郎を上目使いに見つめていた。
「でも・・・・小太郎・・・・怪我してる・・・し・・・」
濡れた瞳を伏せて、俯いてしまった黒曜。
その額に、小太郎はそっと口づける。
「あっ・・・・・・♪」
「俺の頑丈さは知ってるだろ? 大丈夫だ。良いよ。おいで、黒曜・・・・・」
両手を広げて、自ら黒曜を抱きしめた。
「うん・・・・・小太郎・・・小太郎ぉっ♪」
ふんわりと飛びかかってくる黒曜を、小太郎は抱きしめたまま受け止めた。
明けて、翌朝。
「・・・・・・・・・小太郎さん。全身の傷が見事に開いちゃってますね・・・・・あと腰の筋をだいぶ痛めたようで・・・・・・体力まで消耗してますね・・・・・・安静にしててくださいって言いましたよね? なのにお二人は昨夜、一体何をされていたんですか・・・・・!」
そりゃあ、大怪我してるのに、一晩中、明け方近くまでギシギシアンアンしていれば、当然そうなるわけで・・・・・・
翌朝、二人揃って診察に来た女医に叱られていた。
「・・・・・・・・・黙秘します」
無表情で遠い目をして答える小太郎
「・・・・・・・・・・・・・・//////」
一方、なぜかツヤツヤとしている黒曜は真っ赤になって俯いている。
いつの間にか尻尾が一本増えてることから、昨夜のことは隠しようがない。
「いいですか! くれぐれも! 安静にしていてくださいね・・・・・・・!」
キッと睨んで念を押すと、カルテにデータを書きつけて、病室を出ていく女医。
「・・・・と、言うわけで、黒曜。しばらくお預けな、イテテ・・・」
やはり昨夜の無茶のせいか、どこかしんどそうなまま、ベッドに横になる小太郎。
「・・・・・・・はぁい」
そして、寂しそうに、小太郎の傍らに腰かける黒曜。
そんな寂しそうな彼女に、小太郎は視線を向ける。
「・・・・・まぁ、でも」
言いながら、少しだけ、体を起こす
「・・・・?」
キョトンとする黒曜に、小太郎は顔を近づける。
「キスくらいなら、大丈夫だろ」
言って、肩を抱き寄せ・・・・・・そっと、二人の唇が重なった。
はい? ああ、黒曜稲荷への道ですか?
ええ、この山道を少し登ってすぐです。
十数年前に新しく建て直されて、大変立派な造りになってますから、すぐ分かりますよ。
石段を上って鳥居が見えれば、黒い九尾のお稲荷様と、狐色の髪をした神主様が、夫婦そろって出迎えてくれますから。
え? そういえば黒狐って不吉って言われて無いか・・・・ですって?
黒い狐が不幸の象徴なんて言い伝え、古い古い。
最近では黒い狐は神様の使い、北斗七星の化身、太平の象徴というのが主流なんですから!
せっかくなのでご案内しますよ。
ええ、最近、遠くの方からも参拝によくいらっしゃいますよ、御利益があるって有名なんですよ、黒曜稲荷は。
地元の方々も、いまや無くてはならない神社だ・・・・なんて言ってくださってます。
あら、参拝は初めてじゃあない?
境内で掃除をしている、黒髪の巫女さんが可愛かった・・・・・・お守りを売ってる黒髪の巫女さんが、可愛かった・・・・・・ですって?
ええ、そうでしょう。
お二人の娘さんたちが、巫女として、神社の切り盛りをお手伝いされていますから。
みなさん、お母様に似て、黒い絹のような髪、漆黒の毛並みの耳と尻尾がとても綺麗でしょう?
ええ、はい。今年の春に12人目がお生まれになったとか・・・・・夫婦仲は大変よろしいようですわ。
本日はどのような? 家内安全、商売繁盛、夫婦円満、学業成就etc、etc…なんでもござれです。
え? それ以外の御相談ですか?
ご近所にヤ○ザ屋さんが事務所を立ててしまった・・・・・住んでる地域でカラーギャングが抗争を始めた・・・
良く使う幹線道路に暴走族が出没するようになった・・・・・不良学生が繁華街で暴れまわって困っている・・・・・
ははぁ、それはお困りですねぇ。
そういう件でお困りでしたら、神主様にご相談されるとよいでしょう。
なんでも、狐のお面をかぶり、黒いライダースーツを纏い、黒いバイクに跨った【狐面ライダー】なる正義の味方が、ひと暴れして解決してくださるとか、下さらないとか・・・・・・
あ、くれぐれも黒曜様には内緒ですよ?
ああ、お話しているうちに、着いちゃいましたねぇ・・・・・
え? そこに止めてある黒いバイクは誰のかって? 神主様のに決まってるじゃないですか・・・いまどき黒いバイクなんて珍しくないですよ?
ささ、ちょっと待っててくださいね、いま、巫女装束に着替えてきますから・・・
え? あら、気がつかれて無い? あちゃ〜、わたし、耳と自慢の二つ尾、隠したままでした・・・・・
改めまして、わたくし、お二人の娘で、長女の月奈(つくな)と申します。
あ、お父様と黒曜様・・・・お母様もいらっしゃったみたいですね。
では改めまして・・・・・ようこそ、黒曜稲荷へ。
11/05/08 10:37更新 / たつ
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