連載小説
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後編
 
 それから一週間後。

「よう、黒曜。今日のお供え、蕎麦稲荷」

 小太郎は今日も黒曜稲荷を訪れていた。
 手にしたスーパー袋ごと、社の縁側に腰掛ける黒曜に手渡す。

「また来たの? って言うかマニアックなもの持ってきたわね・・・・」

 スーパー袋を受け取り、中身を確認し、呟く黒曜。
 ちなみに蕎麦稲荷とは、いなり寿司のあげの中に、茹でて麺つゆに絡めた蕎麦を詰めた一品である。

「スーパーで売っててさ、珍しいから買った」

 ぶっきらぼうに答えると、小太郎はいつものように、黒曜の隣、社の縁側に腰掛ける。

「ふぅん・・・・・ありがと・・・・」

 同じく黒曜もぶっきらぼうに答えるが、その喜びようは、絶え間無く振られる二ツ尾と、ピコピコと楽しげに揺れる狐耳が、物語っていた。

「・・・・・・・・・・」

 耳と尾をピコらせながら、スーパー袋に顔を突っ込むようにして、蕎麦稲荷のパックを取り出す黒曜。
 そんな彼女にふっと、一瞬だけ暖かいまなざしを向けると、小太郎は尻ポケットからカバーのついた本を取りだし読書を始めた。
 ―――この一週間。
 いつしかこれが、二人の日課になっていた。
 昼前か昼過ぎごろ、お供えを持った小太郎がやってきて、それを黒曜に供える。
 そして、黒曜がお供えを食べ終わるか、酒を飲んで寝てしまうまで、あるいは暗くなるまで、小太郎は読書をするか掃除をする。
 あまり言葉は交わさないが、それなりに楽しい日常だった。

「はむはむはむ・・・・・」(←蕎麦稲荷租借中)

「・・・・・・・・・・・」(←そんな彼女を暖かく見つめている)

「はみはむはむ・・・・・むぐっ!」

「ほら、お茶・・・・・」

 ペットボトルの蕎麦茶が、すっと黒曜に差し出される。

「・・・・んぐっ・・・・・ぷはっ・・・ありがとう、小太郎」   

「どういたしまして・・・・・・」

 そう言いながらも、本から目を逸らさない小太郎。

「・・・・・・・」

 そんな小太郎自身の事が、黒曜は初めて気になった。

「ねぇ・・・小太郎? いっつも本読んでるけど・・・何読んでるの?」

「・・・・・・」

「あ、いや、そのね。言いたくないなら良いんだよ、別に」

「参考書・・・・・」

「え?」

「参考書・・・・・ただ勉強してるだけ・・・・」

 言って、黒曜に本の内容を見せる小太郎。
 内容は、各教科の要点やテストに出やすいポイントなどが纏められた総合教科の参考書だった。
【コレがポイント】と、狐耳のキャラクターが、要点を指差して強調していたりと、お固いだけの参考書ではないようだ。

「小太郎・・・・学生なの?」

 黒曜が訝しげに問う。
 いつも小太郎がやってくるのは、昼過ぎか昼前。
 ふつうの学生ならは、校舎でで勉学に励んでいる時間帯だ。

「いま高校2年。んで無期停学中・・・・もうすぐ2週間だからそろそろ解けると思う」

 なんでもないことのように答える小太郎に、黒曜は頭を押さえる。

「あんた、学校でなにやらかしたのよ・・・・・しかもその反応、停学慣れてるわね・・・・・」

「一応。一回留年してるし」

 パラパラと、参考書をめくりながら答える小太郎。

「ほんと・・・あんた、いったい何やらかしたの?」

 黒曜の疑問に、小太郎はパタンと参考書を閉じて、彼女へと向き直る。

「具体的に言うと・・・・・実は最近この辺の学校に転入したんだ、俺。そんで転入早々、番長っぽい奴に絡まれて、金を奪われそうなったから、一発殴って逃げた・・・・そしたら、次の日20人ぐらいに学校の屋上で囲まれて・・・・」

 ぽつりぽつり、と語り始める小太郎。

「ボコボコにされたの? 被害者なのに一発殴っただけで停学?」

「うんにゃ、無傷で全員返り討ちにした」

 完全に真顔で言われ、思わず面食らう。

「ごめん。想像の範疇越えてたわ・・・・・」

 再び頭を押さえて首を振る黒曜だった。

「昔からそうなんだよな、真面目に学校行ってるし、授業だってちゃんと受けてる。テストもちゃんと点を取ってるけど・・・・・」

「喧嘩ですべてがパァなのね・・・・?」

「・・・・・・ん、不良でもないのに不良扱いされてんだ」

 そういいながら、再び参考書を広げてる。
 おそらくは、停学中授業にでられ無い分を参考書で補填しているのだろう。
 そんな小太郎に黒曜はふっと近視感を抱いた。

(ああ・・・そうか・・・こいつ、不器用な生き方しかできないんだ・・・・昔のあたしみたいに・・・・)
 
「ねぇ、小太郎・・・・あんた、あたしみたいね?」

 一度思ってしまえば、そう言わざるを得なかった。

「黒曜・・・みたい?」

 訝しげに聞き返す小太郎。

「ちょっと長い話になるけど、良い?」

 小太郎が無言で頷いたのを確認して、黒曜はゆっくりと語り始めた。





「ほら、あたしみての通り黒狐じゃない? 昔から言われてるのよ、黒い狐は悪い狐、不幸の象徴、災いの元ってね・・・・・・でもね、それならまだよかった、そう思われたって、生きていく方法なんていくらでもあった・・・・・・でもさ、あたしのお母様は白狐だったんだ、しかも九尾のね」

「九尾・・・の?」

「うん、伏見とか豊川なんかのと同格クラスだよ。白い狐は善狐、幸せもたらす、幸福の象徴ってさ。だからあたしは、母様に憧れた。稲荷として人間の幸せのために働きたかった・・・・・黒い狐だからって陰口たたかれたりもしたけど、一生懸命頑張って、稲荷の資格も得た。でもね、だれも神社なんて立ててくれないし、行かせてもくれない。お母様の神社でなら手伝いはできたけど・・・・・・やっぱり親が親でしょ? どうしても・・・・・比べられちゃって、ね・・・・・」

 そこで一旦、言葉を切ると、黒曜はゆっくりと神社全体を見回した。 

「この神社もね、ある地主の爺さんが立ててくれたんだ。黒いお狐様でもかまいませんよ・・・っていう変わり者の爺さんがね。・・・・・・嬉しかったよ、受け入れてもらえたのが。あたしも母様みたいに、その土地の人をたくさん幸せにしてあげられるんだって・・・・・だからがんばったんだ・・・・いろんな人の願いを叶えて、この土地の人が幸せに慣れるように・・・でもね」

 不意に、黒曜は俯いて。

「人間は、都合がいいようにしか解釈しないから・・・・・・どんなに良いことがあったって、幸せだったって、願いがかなったって、それは当たり前。正反対に悪いことあれば、全部この土地の黒い狐のせい・・・・・・・どんなに頑張っても、どんなに願いをかなえても、どんどん人は離れて行った・・・・・・・地主の爺さんも、体悪くして都会の病院に入院しちゃって・・・・・そのうち、この神社はだーれもこなくなって、見向きもされなくなって、だんだん忘れられていった・・・・・・・そして、十数年・・・そこにはすっかりやさぐれた、何の御利益もない、願いもかなえてくれない、黒いお稲荷様がいましたとさ、おしまい」

 最後に、悲しみをごまかすように、痛々しく陽気に話を終えた。

「不器用でしょ? 稲荷にならなければ、母様の神社から出なければ、どうにかうまくやって行けたかもしれないのに、稲荷になろうと不器用に突っ走った黒い狐がこのあたし・・・・・・・だから、嫌いなんだ、自分の真っ黒な毛の色がね・・・・・・・」

 最後に、自傷気味に言い放った黒曜。
 そんな言葉を否定するかのように――――

「俺は・・・・・すごく綺麗だと思う。真っ黒で、つやつやしてて、ふわふわで・・・・・黒曜は嫌いかもしれないけど、俺は黒曜のその髪の色、毛の色が大好きだ」

 ぽつりと、小太郎が答えた。 

「んぅ? 嫌みか? あたしが嫌いだって言ってんのに・・・・」

 ふざけるように、尻尾でぺちぺちと縁側を叩く。
 そんな黒曜の眼をまっすぐ見て小太郎は再び答える。

「そうじゃない。本当に大好きなんだ、その髪の色も。しっぽも毛の色も・・・・すごく、うらやましい」

 その真剣なまなざしに、黒曜はこれ以上ふざけた答えを返せなかった。

「・・・・・・・・・・・・うらやましいって・・・・・変な奴。日本人なんだから、おまえだって黒髪だろうに・・・」

 思わず黒曜は、ぷいとそっぽを向いてしまった。

「・・・・・・・・・いや、なんでもない。気にしないでくれ」

 言って、小太郎は参考書を尻ポケットにしまい、立ち上がる。

「じゃ、また明日・・・・・」

「あ、ああ・・・また明日・・・・・」

 少し微妙な空気のまま、小太郎を見送る黒曜。 
 そして、小太郎は鳥居をくぐった辺りで、ふっと足を止めて振り返った。 

「あ、そうだ黒曜・・・・・知ってるか? 黒狐ってな中国じゃ神様の使いとされてるんだぜ? 北斗七星の化身で、王が太平をもたらすと現れる・・・・つまり、平和の象徴なんだってさ・・・・・地主の爺さんも、きっとそっちの言い伝えを信じたんだと思うぜ・・・そんじゃ」

 それだけ早口に伝えると、さっと踵を返して、小走りで立ち去っていく小太郎。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱ変な奴」

 あらためて、最初の評価を持ってくる。
 でも・・・・・・黒曜に、悪い気はしなかった。

「また明日・・・・・か・・・・・・あたしも酒飲んで寝るかね〜」

 ぐっと背伸びをしながら、自らの寝床へ向かおうとしたその時、ふっと疑問が生まれる。

「そういえば・・・・あいつ、あたしのしっぽ触ったこと無いくせに、何で手触りまで知ってるんだ・・・・・?」

 触らせた記憶も触られた記憶もは無いはず・・・・・等と考えながら、黒曜は寝床へと歩いて行った。


 そして、次の日。
 いつもならば、小太郎がやってくる時間。
 しかし、現れたのは、小太郎では無かった。
 
「・・・・・・・・・いったい誰だ?」

 とっさに隠行術で姿を消す。
 やがて、マフラーをはずされた改造バイク数台が、けたたましい騒音を立てて、境内に乗り付けられる。
 バイクから降りるは、不良学生とおぼしき6人組。
 いずれも学制服を着崩し、ピアスやアクセサリーなどを過剰に身につけ、髪はオレンジや緑など極彩色に染められている。

「ひゃっほー! こんないいとこに神社あるなんてしらなかったぜー!」

「いーじゃんいーじゃん、おれらのたまり場にすんべ? いい感じに社もあるし、女連れ込んで輪姦すのにもつかえそーじゃん?」

「花火とかいんじゃね、バーベキューとかもいけるべ? ひゃっほー!?」

「あの外人のガキ・・・・いいこと教えてくれたな、感謝感謝〜っと、へへへ!」

 口々に頭の悪そうな台詞を吐きながら、下品な単語を並べ立て、口々に騒ぐ。

(こんのクソガキども・・・・・)

 黒曜が、狐火か幻覚でも見せてやろうかと思った、そのとき。

「・・・・・・・・・・・・チッ」

 不意に聞こえた舌打ち、一つ。
 鳥居をくぐって姿を現したのは、小太郎だった。
 眉間に皺が寄り、目つきも鋭く、奥歯を噛みしめるギリと言う音が時折聞こえる。
 そして、小太郎に気がつかず、はしゃぎ続ける不良たちが止めていたバイクに近づいて――――――

「・・・・・・・ッ!」

 ドガグシャァッ!

 無造作に、前蹴り一発。
 バイクは蹴られた箇所のフレームがゆがみ、鳥居の柱に叩きつけられ、ぶち壊れて、一発で廃車同然と化す。
 さすがにその音に気がついたか、不良たちは小太郎へと即座に向かってくる。

「オイてめぇ! なに俺らのバイク蹴っちゃってんの!? ん!! ん! 弁償しろよ、500万だぞ500万、いしゃりょーこみdひぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!!」

 最後まで、メンチを切ることはできなかった。
 小太郎が、喋っている途中の不良の顔面を鷲掴んで、思い切り締めあげていたからだ。
 頭蓋骨がミシミシと軋む音を立て、その不良は白目をむき・・・・すぐに、泡を吹いて気を失った。

「ちょ・・・・テンメェコラ! ゆーじくん離せよ、こんのクソがっ!」

 ガッ!

「・・・・・・・」

 無言で、不良の顔面を締めあげ続ける小太郎を止めようと、仲間の一人が拳を振るう。
 顔面に一撃が打ち込まれるが、小太郎は身じろぐどころか、瞬きさえしなかった。

「・・・・・・・ウゼェ」

 そのまま、不良顔面を鷲掴んだまま腕一本で体を持ち上げ、殴りかかってきた仲間へと叩きつけるように放り投げる。

 ーーーーグシャッ!

「グエッ・・・・!」

 カエルがつぶれたような声を出し、二人の不良は地に沈む。

「・・・・・・」

 その一連の動きで、不良の手でも絡まったのか、小太郎のニット帽が脱げ落ちていた。

「ひっ・・・・!? あ、あんたまさか・・・・」

「ああ、嘘だろ・・・・・く、“黒鬼”の竜崎! あの県下最強の黒頭高校を一人で潰したって言う・・・・」

「それだけじゃねぇ! あの全国制覇を成し遂げた暴走族ブラックヴィネグを一人で壊滅させたって言う・・・あの“黒鬼”!?」

「ああ、何でも最近、あの“黒鬼”がこのへんの学校に転校してきたって噂・・・・マジだったのかよ・・・!」

「それだけじゃない! あの句炉美根我学園のーーーー」

 頼んでも居ないのに、口々に小太郎の武勇伝を語り出す不良ども。 
 それを聞いていた小太郎の頭のどこからか、プツンと言う音が聞こえた。

「・・・・・・ああ、もう、うるさい・・・それ以上口を開くんじゃねぇ・・・・・」

 

 ・・・・


 ・・・・・・



 数分後・・・・


「う・・・・ぐぇ・・・・」

「い・・・痛ぇよぉ・・・・・」

「かー、かあちゃん・・・・・・」

 不良たちは皆ボコボコにされて倒れ伏し、対照的に無傷の小太郎がパンパンと手のほこりを払っていた。

「・・・・・・・」

 そして、おもむろに、一人うつ伏せになっていた不良の一人を髪を掴んで、顔を持ち上げる。

「ひっ!?」

 砕けた歯と変形した顔面で、怯える不良に、小太郎はしゃがみ込んで視線を合わせると・・・・・・

「・・・・・・・まず一つ、二度とこの場所に近づくな。二つ、今後一切、俺の武勇伝なり噂なり、善悪問わず口にするな。この二つを破ったら次は本当に殺す。・・・それから三つめ、5分以内に壊れたバイクと動けない仲間連れて、ここから消えろ・・・・!」

「は・・・・はぃ・・・・わ、がりまじた!」

「・・・・・・素直でよろしい」

 ぱっと、髪から手を離し、腕組みをして全員を監視するように一別し。

「1、2、3、4、5、6、7、8・・・・・」
 
 ゆっくりと、五分のカウントダウンを始める。
 不良たちはあたふたと、壊れたバイクと動けない仲間を
引きずって・・・・・小太郎が「300」と口にした頃には、すっかり姿を消していた。

「はぁ、・・・・・・」

 不良たちを追い払って一息つくと、小太郎は地面に落ちていたニット帽を拾い上げ、パンパンと埃を払う。

「黒曜・・・・・居るか?」

「・・・・・居るよ」

 ふっと、隠行を説いて、小太郎の傍らに姿を現す黒曜。

「悪かったな、騒がせて・・・・」

 ぺこりと、黒曜に頭を下げた。

「良いよ、別に・・・・ここ守るためにやってくれたんだし・・・・・いっつもこんな事してるの?」

 いつものように、社の縁側に腰かけて問う黒曜。


「俺は口下手でね・・・・ああ言う連中には力ずくでしか対処できないんだ」

 そう言いながら、いつもの定位置。
 黒曜の隣に小太郎は腰を下ろす。


「見て見ぬ振りしたらいいのに・・・・」

「それができたら不良のレッテル貼られてないよ」

「不器用なんだね・・・・・」

「そうとも言うかな・・・・」

「じゃあ、最後に・・・・あんたのその髪の色・・・どう言うこと?」

 ニット帽を失って、露わになった小太郎の髪の色・・・・
 それは、狐色とも称される、薄い茶褐色の髪だった。
  
「・・・・・・最初に言っておくけど、別に染めてる訳じゃ無い・・・生まれつきこの色なんだ・・・・」

 そう言って、小太郎はニット帽をかぶりなおした。
 自分の髪をすっかり隠してしまうように・・・・・

「ガキのころは変な髪だってからかわれてさ・・・・・・学校じゃ染めてもないのに。、教師からは染めてくるなと言われて、染めてもないのにこんな髪色だから、上級生や不良連中には同類だと思って絡まれるし、町を歩いてりゃ目を付けられる・・・・・どうしろって言うんだ? それで、仕方なく黒く染めてったら、また教師は染めてくるなって言うし・・・・・その時、俺を眼の敵にしてる生活指導の顔色見ててわかったんだ。ああ、こいつはわかってて言ってる。神の色が気に入らない俺に、絡んでやがるってね・・・・・んで、ブチ切れてその教師殴ったら、停学だ・・・・まぁ、友人がいろいろと手をまわしてくれたおかげでその生徒指導も懲戒免職になったけど・・・・・まぁ、停学になったし、教師殴ってハクが付いたからって、いきなり不良みたいに悪ぶることもできず・・・・・かといって、黙って絡まれ続けるのも我慢できなかった・・・・・」

 それだけ言うと、ニット帽の上から頭をぼりぼりと書いて、一呼吸おく。


「それで、不器用な俺は自分で自分を守るしかなくて、仕方なく喧嘩に明け暮れて、今に至る。学校をあちこちたらい回しにされ、最終的にじぃちゃんが住んでたツテで、この村の高校に転校してきたんだ・・・・・ほんと不器用で馬鹿だよな・・・・喧嘩するんじゃなくて、もっといろいろ賢く動けば、こんな事には成らなかったかも知れないのにさ・・・・・・」

 ふぅ、と大きく溜息を吐きだす。
 まるで、自分に呆れるように。 

「だから、さ・・・・・俺は黒曜が羨ましかった・・・・・黒曜自身が好きじゃなくても、同族から疎まれるだけの物かもしれないけど・・・・・俺は黒曜が羨ましかった・・・・・毛並が、しっぽが、耳が、髪の毛が・・・・その綺麗な真っ黒い髪が羨ましくて、まぶしくて、綺麗な、モノだったんだ、俺にとっては・・・・・・・・」

 そんな小太郎の独白を黒曜はただ黙って聞いていた。

「ねぇ、あたしと小太郎って、やっぱり似てるかもね・・・・・あたしも羨ましいよ。あんた自身が嫌ってるその髪の色が、狐色の綺麗な髪の毛が、ね・・・・」

 さわさわと、ニット帽をずらして、小太郎の狐色の髪をなでる黒曜。

「お互いに欲しいもの持ってて、不器用な性格まで似てて・・・・・・なんかさ、皮肉と言うべきか、縁と言うべきか・・・・・でもこれを、運命・・・・って信じたいのは、あたしだけ、かな・・・・・?」

 すっと、黒曜が、小太郎の肩に頭を載せ、体重を預けてくる。


「黒曜・・・・・」


「あたしはね、嬉しかったよ。こんな見向きもされなくなった神社に来て、黒狐だって知っても、こうして一緒にいてくれた。そんな小太郎のことが・・・・」

「でも、俺は・・・・・」

 不意に口ごもる小太郎に、黒曜はゆっくりと、体ごとしなだれかかる。

「いいじゃない、。お互いにはみ出し者で、不器用に突っ走っちゃう馬鹿で・・・・・でもこれからも、二人で支えあっていけたら、嬉しいなって思っているのは・・・・あたしだけじゃないって想いたいよ・・・・・」

 小太郎を見つめる黒曜の眼が、潤んでいた。

「・・・・・・・・」

 こくりと、無言でうなづく小太郎。
 そして、ゆっくりと、二人の唇が、重なろうと―――――


「―――――だめじゃないですかお兄さん。狐とはさっさと縁を切った方が良いと、忠告してあげたのに・・・・・・」

 
 不意に、この場に割って入ったのは、先日小太郎に絡んだ白づくめの少年だった。
 今日は手に、聖書の代わりに銀のアタッシュケースを手にしている。


「っ! ・・・・・・だれ・・・アンタ・・・・なんか気持ち悪い・・・・」

 少年を見た黒曜から、さっと血の気が引く。
 思わず、きゅっと小太郎の服を握りしめていた。

「テメェ・・・この前の・・・・・ちょっと待ってろ黒曜、前に俺に絡んできた変な宗教の人間だ。すぐに追い出すから」

 言って、黒曜をやんわりと体から離し、再び眉間にしわを寄せ、ぎろりと睨みつけて少年の方へと歩みを進める。

「すでに魅入られているなら仕方がないですねぇ・・・そこの汚らわしい魔物共々、この忌々しい魔物の巣窟もろとも私が浄化して差し上げましょう・・・・」

 にこりと、不気味なほどの笑顔を浮かべ、、両手を広げて小太郎を迎えるかのようにつぶやく少年。

「ダメ、小太郎! そいつ・・・・・普通の人間じゃない・・・・!」

 そう黒曜が叫ぶが、時すでに遅し。

「ふざけてんじゃねぇぞ、オイ・・・・!」

 怒気を込めて小太郎が青年の首元をねじりあげた、刹那――――

 バチン!

「っあッ・・・!」

 幾度か食らったことのある痛み。
 腹に走った覚えのある痛み。
 視線を落とせば。腹に押しつけられていたのはスタンガン。

「ナメてんじゃねぇぞ、こんなモン程度・・・・」

 スタンガンを撃たれたことなど一度や二度じゃない。
 痛みから察するに、一般に出回る護身用のスタンガン。
 この程度ならば慣れている、一発食らった程度なら意識を失うほどじゃない。

「重々承知ですよ。あなたの頑丈さは、今確かめさせてもらいました・・・・・」
 
 しかし、確実に体はその動きを鈍らせ・・・・

「だけど、ボクに抜かりはありませんよ?」

 少年がアタッシュケースから取り出すのは、大降りの金属の十字架。
 大きく降りかぶられた一撃を、動きの鈍った体は、回避してはくれなかった。

 ゴッ!!!

 頭蓋に打ち込まれた鋼の十字架は骨と金属が打ち合う鈍い音を立てる。
 ずるりと、小太郎の体が、糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。
 指も、足も、ピクリとも動かない。
 地に伏せた顔から、ゆっくりと、血貯まりが広がっていく。
 一瞬で、その場の気温が数度下がったかのような寒気が、黒曜の体に走った。

「小太郎っ!? おまえ・・・よくもっ!!!」

 毛を逆立てて、怒りを露わにし、今にも少年に飛びかからんとする黒曜。

「おっと、動かないでください? と、言うよりーーーー」 

 パチン。と、少年が指を鳴らす。

「ーーーー動けないでしょう?」

 と、社を包囲するようにぼんやりと光の線が浮かび上がる。

「なっ!? これって・・・・・」

 土地からの力が遮られ、ガクリと、黒曜の体が脱力する。

「ふふ、この周囲一体に聖水をたっぷり撒いておきました、主神の御力は聞くでしょう? 汚らわしい魔物には?」

 主神の祝福を受けた水によって張られた結界。
 男性からの精気を受けていない黒曜にとって、土地からの力は命を繋ぐ文字通りの生命線。
 それを絶たれることは、人が呼吸を止められたに等しい。  

「くっ・・・・こん、のぉ・・・・!」

 強がって見せるも、すでに体は動かない。
 ぺたりとその場にへたりこんでしまい、耳も二ツ尾も力無くうなだれる。

「さて、と・・・・・すべてを浄化するとしましょう・・・」

 足下に横たわるぴくりと動かない小太郎に目もくれず、続いて茂みの中から取りだしたのは中身の詰まったポリタンク。
 表面にはびっしりと古代語で主神を称える聖句が刻まれていた。

「よい・・・しょっと・・・」

 タンクのキャップを開ける・・・と、周囲に独特の刺激臭が漂い始めた。

「これ・・・・まさか・・・・」

「さすがケダモノ、鼻がイイですね〜、お察しの通りガソリンです。でもただのガソリンじゃありませんよ、きちんと祝福を受けた聖油です」

 そしてそれをびしゃびしゃと、無造作に神社中に撒き散らし始めた。

「あんた・・・まさか・・・」

「すべて焼き尽くして浄化します。このような悪魔を祭るなんて、なんて汚らわしい・・・・まったく、日本人というのは本当にバカですね、魔物に魅入られて神として祭るなど、本当に汚らわしい・・・・・」

 まるで、汚らしいものを見るような目で、周囲を見渡し、びしゃびしゃとガソリンをまき散らす。

(こんな奴に、蔑まれて、燃やされる? 小太郎が直してくれた賽銭箱も金口も・・・・社の壁も床も・・・・・)

「ふざけるなっ! このっ・・・・・」

「あー、もう・・・・・・汚らわしいゴミは黙ってろ」

 怒鳴る黒曜に、ポリタンクからぶちまけられるガソリン。
 否、聖油。
 聖水の結界に囚われ、さらに全身を聖油に濡らされ、黒曜は一気に衰弱する。
 どんなに悔しくても、どんなに悲しくても、黒曜の体はぴくりとも動かなかった。

「では、浄化・・・・・開始です」

 ガソリンをまき終えると、さも楽しそうにスタンガンの火花で、社の一番端に火をつける。
 ゆっくりと、ちろちろと、炎が社に燃え広がり始めた。
 
「こた・・・ろぉ・・・・」

 社が炎に包まれていく中、それでも、黒曜は蚊の泣くような声で小太郎の名を呼ぶ。
 目じりから、涙のしずくが溢れていた。

「チッ、そろそろうるさいですね、このゴミも・・・・・それじゃま、次は景気よく浄化の炎をこのゴミから・・・・」

 再び、着火に使ったスタンガンを構える。
 その火花で、今度は黒曜の着物に着火すべく、スイッチをーーー

 メキミシィッ・・・・!

 ――――入れようとした瞬間、スタンガンが握りつぶされていた。
 少年でも黒曜でもない、第三者が後ろから伸ばした手によって。

「なっ!?」

 驚いた少年が振り向き――――

「・・・・えっ?」

 弱々しく、黒曜が顔を上げ―――


「俺の女に・・・・・何してくれてんだテメェェェェェッ!!!!!」


 振り向いた少年の顔面に、小太郎の拳が全力で撃ち込まれたのは、ほぼ同時だった。

「――――っがはっ!?」

 小太郎の拳を受けて、もんどりうって社から放り出される少年。
 
「ぜー・・・・。ぜー・・・」

 だが、すぐに追撃をかける余裕は小太郎にはない。
 頭からは今もだらだらと血が流れ、視界が揺れているのだろう、その足取りはふらふらとおぼつかない。
 意識がはっきりしているかも不明瞭なほど、目の焦点は定まっていなかった。

「こた・・・ろぉ・・・・」

「ちょっと、まってろ黒曜・・・・すぐに、助けてやる・・・・・」

 黒曜にはっきり答えると、ふらつく足取りで、血みどろの体を引きずって、少年の後を追った。
 
「痛てぇ・・・・・このやろうよくもやってくれやがったな東洋の黄色いサルめ異教徒め汚らわしい日本人どもめ! 修正してやる粛正してやる浄化してやる主神様の名においてぶっ殺してやるぅぅぅぅぅっ!!!!!!」

 小太郎の一撃で顔面を変形させた少年は反狂乱で十字架を振り回す。
 
「死ねぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 横から遠心力を加えて振るわれた一撃を、満身創痍の小太郎には回避できない。
 
 メギィイッ・・・・・

 鈍い音がして、十字架を受け止めた小太郎の左腕があり得ない方向に折れ曲がっていた。
 骨がきしみ、へし折れ、折れた骨が肉を突き破って血が溢れる。
 それでも衝撃は殺しきれず、胸部にまで到達する。
 肋骨が折れ、肺に突き刺さる。
 口から鮮血が咳とともに飛び散った。

「げふっ・・・・・がぁあああああっ!!!!」

 小太郎が、吠える。
 吠えれば傷ついた肺に激痛が走る・・・・だが、その痛みを無視して、小太郎は動く。
 動かせば激痛が走る折れた腕、撒き取るように十字架を持つ腕に絡め、十字架を奪い取り、地面へ放り捨てる。

「ひっ・・・・ぁああああああぁぁぁぁぁ!?」

 そして、振るわれる右の拳。

「オラアァァァァァァァァっ!!!!!」 
 
 左腕を犠牲にしてかばった無傷の右拳が、再び少年の顔面へと撃ち込まれた。

「――――かぶっ!」

 真っ正面からの一撃で、少年は仰向けに倒れ伏す。
 だが、いまだ意識があるのか、立ちあがろうと膝を立て、手足に力を込めようと――――

「・・・・・・もういい、さっさとくたばれ」

 ――――した、少年のその胴体に、小太郎が馬乗りになる。
 いわゆるマウントポジション。
 この形に持ち込まれれば、乗られた側の運命は、ほぼ決まる。

「ひぃっ!? ひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」

 怯え、足掻く少年の顔に、ポタポタと、小太郎頭から流す血が垂れる。
 おそらくは少年の眼には、血まみれの小太郎が、悪魔が死神にでも映っているであろう。
 恐怖で失禁したようで、少年の股間から水たまりが広がっていく。

「・・・・・・・・消えろ」

 その一言が、少年の記憶に残る最後の言葉だった。

 
 ・・・

 
 ・・・・・・


 ・・・・・・・・・


「・・・・・はぁ・・・はぁ・・・・」

 少年が、ぴくりとも動かなくなったことを確認してから、小太郎はマウントポジションを解いて立ち上がる。
 相手の顔面の原型が無くなるまで、振るい続けた右拳は、幾本かの指が折れ、歯に当たって皮膚が裂け、真っ赤に塗れる血は、もはやどちらの物か判別できない。

「・・・・っ、まだ、だ・・・!」

 カクリと、一瞬崩れかけた膝を、気力だけで立て直す。
 ゆっくりとではあるが、確実に社に火の手が回り始めている。
 もはや消化する余力はない、だから・・・・

「黒曜・・・・ココから出る・・・ぞ・・・」

 黒曜だけでも助けるために、満身創痍の体を引きずって、火に包まれる社に戻った。

「・・・・うん・・・」

 動けない彼女を、どうにか立たせて肩を貸し、ゆっくりと、火の手に包まれてゆく社から脱出すべく、歩み始めた。
 しかし、悲しいかな、すでに体は限界。
 自分一人の体でさえ動かせない者が、どうして他人の体など運べようか。
 二人の歩みは、いまや亀や蝸牛のよう鈍重だった。

「もう・・・・良いよ・・・・あたしを置いてって・・・小太郎・・・・」

「断る・・・・・」

「だって・・・・アンタだけなら――――」

「―――――そんなテンプレ知ったことかっ!!!!!!」

 黒曜を黙らせるように、叫ぶ。
 同時に、黒曜を支えるために握っていたその手を、強く、強く握りしめた。
  
「この手は死んでも離さねぇ! やっと会えたんだ! やっと一緒にいられると思ったんだ! 小さいころの夢が叶うって思ったんだ! ボロボロの神社を見てもうアンタは居ないって思った! ものすごく、悲しかったんだ! この神社か綺麗になれば、元に戻れば戻ってきてくれるかもしれないって、藁にもすがる思いでここを綺麗にしてたんだ! 再会できたとき・・・・・どんなに嬉しかったか! 素直じゃないから素直に喜ぶこともできなくて・・・・ほんとガキだけどさ・・・・・二度もあんたとお別れしたくは無いんだよっ!!!!」

「・・・・・・っ!?」

 明らかに矛盾している小太郎の言葉。
 口にするのは、明らかに黒曜を過去に知っていたという事実。
 その小太郎の言葉に、忘れかけていた、黒曜の記憶が脳裏に蘇る。

 
(そうだ、まだここに来たばかりで、神様として、お稲荷様として頑張っていたころ・・・・・あたしを受け入れてくれた爺さんに手をひかれて、遊びに来てたちっちゃい坊主が居た。ほんの2、3日だけ、爺さんのところに預けられてたって言う、孫の男の子。結局名前も聞かずに坊主、坊主って呼んでたから、名前は結局聞かないままで・・・・)


 それは、遠い日の記憶。
 今から十数年前の、数時間だけの出会い。




『おねえちゃん、くろいいけがとってもきれぇ〜・・・しっぽもふわふわだね〜』

『こら! あんまり触んなよ・・・・それにこの色、そんなに好きじゃないんだからさ・・・・』

『ぼく、おおきくなったら、おねえちゃんおよめさんにしたいな〜・・・』

『聞けよ、人の話!? ああ、こら! 耳を触るな! もふもふするなぁ!』

『ほっほっほ、仲が良いことで・・・・・黒曜様、うちの孫・・・・将来、婿にどうですかな?』

『おい、じーさん冗談は・・・・みろよ、この坊主。本気にして目ぇキラキラさせてやがる・・・・』

『おねえちゃん、ボクのおよめさんになってくれるのぉ〜、わぁ、うれしいなぁ・・・♪』

『まったく・・・・しかたない、条件付きだ。強くて立派な男になって見せろ! そうしたら嫁にでもなんにでもなってやる』

『わ〜い♪ ぼくがんばって、つよくてりっぱなオトコになるよ〜!』

『ほっほっほっほ。将来が楽しみですな・・・・いやぁ、この老いぼれにも生きがいができましたわ・・・・』

『じゃぁ、ばいばい・・・・おねえちゃん・・・・ぼく、あしたおうちかえるんだ・・・・・』

『もう帰るのか? 爺さん、こいつの家って・・・・そうか・・・・かなり遠いな・・・・』

『おねえちゃん、ボク、つよくてりっぱなオトコになってかえってくるよ! だから・・・・まっててね!』

『ああ、強くて立派な男になれよ! 坊主!』

『ばいばい・・・・おねえちゃん』

『ああ、バイバイ・・・』




 黒曜自身が忘れかけていた遠い日の記憶。
 たった一日だけであって、遊んだ幼い男の子。



 
「小太郎・・・あんた、あの時の・・・・・」

「っ・・・・・・ああああああああああっ!!!!!!!」

 最後の力を振り絞るようにして、あるいは黒曜の言葉をごまかすように、文字通りの火事場の馬鹿力で、二人揃って、もんどりうって転がるように社から境内へと、投げ出される。 
 
「はっ・・・・・はっ・・・・はっ・・・・ごふっ、カハッ・・・・・は・・・あ・・・・」

 かろうじて、燃える社からは脱出したものの、小太郎は地に伏したまま動かない。
 呼吸の質が荒い呼吸から、停止する寸前の弱々しいものへと変わりつつあった。

「小太郎・・・・小太郎・・・・!」

 対照的に黒曜は活力を取り戻していた。
 結界を張っていた少年の意識が途絶えたためか、聖油は今の黒曜には、ただのガソリンでしかない。

「はは、ごめんね・・・お姉ちゃん・・・・約束・・・・守れなかった・・・・・」

 弱々しい言葉が、小太郎の唇からこぼれる。

「もういい喋るな! くっ、なんであたしはこんな時に・・・・」

 小太郎の胸に、頭に手をあてて、神通力で傷を癒そうと試みる。
 しかし、長年力を使わなった為か、力がうまく使えない。
 黒曜は己の非力さを呪う。
 神通力さえまともに使えれば、小太郎をすぐにでも助けられるかもしれないのに・・・・・
 悔しさに、己の唇を、血があふれる程に噛みしめた。

「いいんだ、約束・・・まもれなかったし、さ・・・・強くはなったけど・・・・・立派にはなれなかった・・・・・グレて、ケンカに明け暮れて、不良になって・・・・・」

「何言ってるのよ・・・・・だから黙ってたの! ふざけないでよ! あんなに必死になって、ここを直してくれて、あたしを命がけで助けてくれて・・・・・立派じゃなくて、なんて言えばいいのよ!」

「必死な・・・・だけ・・・だったから・・・・さ・・・だから・・・・・」

 弱々しく、小太郎の手が黒曜の頬に伸びる。
 そして、にっこりと、微笑んで・・・・・

「・・・・・・バイ、バイ・・・・おねえ、ちゃ・・・ん・・・・・」    



『バイバイ・・・・おねえちゃん』



「―――――っ!?」


 一瞬、別れの言葉と笑顔が、記憶の中の男の子と重なって。
 かくりと、小太郎の腕から力が抜けた。

「小太郎・・・・・・小太郎、ねぇ、冗談やめてよ・・・・小太郎! 小太郎!」

 目を閉じた小太郎の体を、必死に揺さぶり、弱々しくても自分にできる限りの神通力を送り続ける。

「ねぇ、本気で怒るよ・・・おきてよ、ねぇ、一人にしないでよ・・・・こた、ろう・・・・こた、ろ・・・・・」

 ぽたりと、透明のしずくが小太郎を揺さぶる黒曜の手の甲に落ちた。

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 黒煙を上げて燃え盛る神社に、黒曜の慟哭の叫びだけがが響き渡った。
11/05/16 23:52更新 / たつ
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■作者メッセージ
後編が前編の文字数倍以上・・・・・どうしてこうなった・・・Orz
しかもラストが収まりきらず、エピローグに続きます。
そもそも短編のはずなのにすでに前篇後編あわせて2万字突破とか・・・・
でも、明日中にはエピローグを上げますので・・・・それでは ノシ

5/16 若草雅也さんが書いてくださったイラストUPしました。

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