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第六章「力のあり方」
…………何もない大空洞に、俺達三人はついた。
なんだ、何もないのかよ…………
魔物でもいれば、殺せたのになぁ…………
…………そんなことを考えていると、大空洞の奥の方から、一匹のラミアが現れた。

「…………まさか、こんなにも早く最奥部まで来るとは思いませんでしたよ」
「…………ラミアか……誰がいく…………?」

仲間がボソリと呟く。

「俺がいく。さっき逃げた奴らは殺し損ねたからなぁ」
「…………分かった」
「…………私も殺りたかったんだけど…………まぁ、いっか…………」

仲間は二人とも、少し不満がありそうだが了解する。
…………すでに、ラミアの方は臨戦体制に入っていて、いつでも反撃が出来るような構えを取っていた。
…………チッ、めんどくせぇ…………
そう思いながら、俺は背中の大剣を抜いてラミアへと突っ込んで行った。


××××××××××××××××××××××××××××××

「う……あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

突然、洞窟に悲鳴が響いてきた。
この声は…………!!

「二ティカ!!」

ラナさんはそう叫んで全力で声のする方向…………ラナさんの部屋に向かっていった。
それを見て、僕達もラナさんに続く。
…………僕達が空洞に入ってすぐに見えたものは…………肩口から血を流している二ティカさんと、その血で染まった大剣を持つ男だった。

「二ティカ!!」

もう一度、名前を叫んで、ラナさんは空洞の中に突っ込む。

「何!?」
「…………魔物…………か?」

次に見たのは、入り口付近にいる、黒い外套で身を隠した男と、白いローブを着た女。
どうやら、あの男の仲間らしい。
二人は、突然現れたラナさんに反応しきれずに通してしまう。
ラナさんは突っ込んだそのままのスピードで二ティカさんを抱え、その場を離れた。

「…………なんだよお前。邪魔、すんなよ」

大剣を持った男が、不機嫌そうな顔をした。

「お前も殺すぞ?」

言いながら、男は大剣をラナさんに向ける。

「ラナさん!!逃げてくだ……」
「…………お前らの相手は、俺たち……」

ラナさんの下に向かおうとすると、あの男の仲間がそう言いながら目の前に立ち塞がった…………

「そうそう。精々楽しませてちょうだ……」
「邪魔じゃ。<ガルダイン>!!」
「“忘れろ”、“忘れろ”、“忘れろ”」
「きゃぁっ!?」
「…………!?……!!……!!…………!?」

のだが、女の方はアーシェの高位風属性魔術であっさりと吹き飛ばされ、男の方は僕に体の動かし方に、魔術の使い方、果てには声の出し方さえ忘れさせられ、行動が不可能になった。

「ふん!!雑魚が」
「邪魔です」
「…………!!…………!!」
「ラナさん、二ティカさんを早く安全な場所に移動させて治療してください!!この人たちは僕達が引き受けます!!」
「…………分かったわ。頼んだわよ」

いくらか躊躇したものの、二ティカさんの状態が状態だからか、渋々と承諾し、ここから離れようと走った。

「折角の獲物を…………逃がすかよぉ!!」

逃げるラナさん達に、男は大剣を振りかぶりながら突っ込んで行く。
…………が、その刃はラナさん達には届かなかった。

「ふん。逃がすかと言われて、はいそうですかとわしらが何もしないと思ったか?」

そう言いながら、アーシェが男の大剣をどこからか取り出した杖で受け止めたのだ。

「…………また邪魔かよ……ウザってぇな……」

うんざりしたように男が言う。
それにアーシェは獰猛な笑みを浮かべて答える。

「仲間が襲われていては助けるのが当然じゃろう?まぁとにかく、他のやつらを殺したかったらわしを倒してからにせい」

そう言うと、アーシェは杖を振り上げて大剣を跳ね除ける。
普通ならあの体格で大剣を受け止めたり跳ね除けたりは出来ないのだが、そこは流石高位の魔物、と言ったところか。見た目にそぐわない力でそれをやってのけた。
男は態勢を崩すが、倒れるほどではなく、結構な経験を積んでいる感じがする。
一方でアーシェはそれを見ると即座に僕の方に跳び、男と距離を取った。

「大丈夫かい、アーシェ?」
「ああ。まだ問題ない。このままお主に負担をかけずに終わらせてやる」
「だから僕のことは気にしなくていいから……でも、ちょっといやな感じがするんだよな、あの男……」

男が警戒して動かない隙に僕達は会話を交える。
どうにも、あの男はいやな予感がする…………
しかし、気のせいかもしれない。
今は、様子を見ることにした。
レテを使ってもいいのだが、あれは根本的な解決にならない。
体の動かし方を忘れさせた後に縄で縛ろうにも縄はこの場にはないし、縛っている途中で思い出して暴れられるのがオチだろうし、何をしていたか忘れさせてもおそらくは同じ。
体の動かし方を忘れさせた後でアーシェに急所を抑えてもらっても、結局一対一なのは変わらず、上手く立ち回られてしまえばお終いだ。
殺すのは却下。彼女達が許さない。
ということで、ろくに戦闘能力のない僕が出来ることは、アーシェの補助にレテを使うくらいだ。
しかも、下手すると相手を殺しかねないので、タイミングを図らなければならないし、仲間が動きだした時にまた行動不能にするために動かねばならないので、それ程機会があるわけでもない。
女の方はアーシェの魔術で気絶してるからしばらくは大丈夫だろうけど、男の方は少ししたら復活するだろう。
しかも厄介なことに……

「全員レテで動けなくするっていうのが楽なんだけどな……」
「何を言う。仲間がやられたというのだ。ボコボコにせねば気が収まらぬ!!」

アーシェは頭に血が登ってるときてるからな……
自分の力で相手をぶちのめさないと気が済まなそうだから、僕はアーシェの邪魔はしないことにした。

「さて…………では、いくかの」

そう言って、アーシェは杖を半回転させながら男に突っ込んで行った。
……じゃあ、僕はそろそろ体が動かせそうなフードの男をまた行動不能にしないとな……そう思って、僕は入り口付近に向かった。


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杖を半回転させながら、わしは大剣を構えている男に向かっている。
遠距離から魔術で攻撃することも出来るが、それでルシアが巻き込まれては敵わない。
そのまま、近距離で、最大の魔術を叩き込む。

「<フラッド>!!<万物流転>!!<クエイク>!!」

高位魔術よりさらに難しい臨界魔術、ほぼすべての魔術の中で最高の威力のこの魔術なら、一撃でこやつを戦闘不能に出来るじゃろう。
水が、風が、大地が、まるで天災のように荒れ狂いながら男に襲いかかる。

「チッ、魔法かよ……!!」
「ふんっ、そのまま死にさらすのじゃ!!」
「やなこったな!!」

ほとんど殺す気で放った3つの臨界魔術を、男は避けきった。
……よほど場慣れしているに違いない。
でなければ、先ほどの魔術でボロボロにされているじゃろう…………

「避けるな!!<フレアー>!!<ラグナロク>!!<トルネド>!!」

火球に火柱に竜巻が男を取り囲むように放たれる。
……これなら、避けられないじゃろう…………
そう考えておった、その時じゃった。

「ああ、もうウザってぇ!!」

という声とともに、3つ全ての臨界魔術が弾かれたのだ。
魔術が消えた先には、大剣を振り切った姿勢の男がいた。

「…………お主、いったい何をした?」
「さぁな。お前に答える義理はない」

わしは男に訊くが、やはり男は答えない。
なら…………

「<ニブルヘイム>!!<フリーズ>!!」
「無駄だぁ!!」

氷塊を飛ばすタイプと、空間を凍結させるタイプの氷属性魔術を使う。
しかし、男はそれを大剣を一振りするだけで消し飛ばす。
ふむ、なるほどの……

「魔力を斬る剣か…………たしか、教会が勇者とやらに配っているそうじゃと聞いたが、お主、その勇者なのかの……?」」
「ま、そういうところだ。んじゃあ、納得したところで、死ね!!」

ついに、男が攻撃を開始した。
わしに向かって突っ込んできながら、大剣を縦に大きく振る。

「ちぃ、厄介じゃのう……<コラプス>!!」

砕ける地面を見て苦笑いをしながら、わしは無属性臨界魔術を放つ。
凝縮されて黒く染まったエネルギーが、一直線に男に向かって放出される。
これならば、いくらなんでも……

「はっ!!無駄だって言ってんだろう!!」
「なっ!?」

だが、男はそれさえも一振りで消し飛ばしてしまった。

「!?<ヘイスト>!!<エアロ>!!」

咄嗟に時空魔術と風属性魔術を使って男と十分な距離を取る。
普通なら、これを使う時は壁などの障害物や追い詰められることに注意しなければならないが、流石洞窟の主の部屋と言ったところじゃろうか、この程度の距離なら全く問題なかった。
……さっきまでわしのいた所を見ると、地面が砕けていた。
…………化け物め…………
そう思ったがしかし、たしかに、あやつが勇者であるというのであれば、あのくらいの力は当然じゃろう…………
ちぃ、厄介じゃのう……まさか、こんなやつが侵入者じゃったとは…………
にしても……

「お主、何故こんな所を襲撃する?勇者であるのならば魔界にでも向かえばよいじゃろう」
「はっ、んなもん簡単だ。俺は殺したいだけだ。魔界じゃ死ぬかもしれないだろ?勇者になったのも、魔物を殺せるからだ。人を殺したら問題になってめんどくせぇからなぁ」
「……下衆が…………」

そう言いながら、わしは空を見る。
と言っても、ここは洞窟の中。空が見えるわけがない。
しかし、わしは笑った。

「…………どうやら、今宵は満月のようじゃのう……」
「あ?だからどうした?」
「いやのぅ……この杖、“フレイヤ・レプカ”とゆうての?あの男が言うには、満月の日に力が最大限発揮されるらしいんじゃ」
「だからどうした?」

訝しげな顔をしながら男は訊いてくる。
それを見て、わしはニヤリと笑いながら答えた。

「ただ、本気を出せる。それだけじゃ…………フレイヤ、起動……」

そうわしが唱えた途端、杖の形が変わり始めた。
杖全体がルーン文字で装飾され、先端部分が黄金になる。
これが……“フレイヤ・レプカ”。どこぞの国の月の女神とされるものの模造品……と、小華月とやらが言っていたな…………
杖が起動したのを確認すると、わしはさらに魔術を唱える。

「これが…………最後じゃ…………<大海嘯>」
「だから魔法は………………!?」

わしが唱えると、周囲の空間が“捻じ曲がった”。
そして、“曲がった空間”が男を囲み、そこから大量の水が飛び出してきた。
“空間変異型大規模攻撃魔術”……俗に言えば、召喚魔術と呼ばれるそれは、大規模かつ高威力であるが、本来なら精霊などの協力が必要なものである。
しかし、わしはそれを一人で……いや、正確にはフレイヤの力を使ってやってのけた。
普通の人間なら簡単に潰れるくらいの量の水が男に襲いかかる。
……これならば……殺してしまうだろうが、男を倒したじゃろう…………
そう、思っていた。
油断していた、そう言ってもいい。

「無駄だっつってんだろぉがよぉ!!」

男が、魔術を他のものと同じように、消し飛ばした。
そして、大剣を持たずに手を前に突き出す。

「…………そんなに魔法がいいなら……魔法で殺してやるよ!!<アルテマ>!!」

男が唱えると、わしの周りの空間に膨大な魔力が集まる。
魔力暴走魔術、<アルテマ>…………
ああ、これは…………負けたの…………
わしは最後にルシアの方を見る。
見えたのは、泣きそうなルシアの顔。
ああ、そんな顔をするでない……
そう言いたかったが、言えなかった。
目の前が真っ白に染まる。
そして、わしの意識は、そこで途切れてしまった。


××××××××××××××××××××××××××××××


「無駄だっつってんだろぉがよぉ!!」

男のそんな声が聞こえて、僕はアーシェの方を振り向く。
…………アーシェの周りには、白い何かの塊が沢山集まっていた。
これは…………駄目だ!!

「アーシェ!!」

僕は思わずアーシェの名前を呼ぶ。
アーシェは、少し悲しそうな顔をしていた。
それを見た瞬間、白い塊が大爆発を起こした。

「うわぁっ!?」

途轍もない爆風で僕は吹き飛ばされてしまった。
ドンッ、という音とともに背中に鈍い痛みが走る。
ぅグッ、と声が漏れる。
全身に痛みが広がっていくが、そんなこと構ってられない。
このままでは、アーシェが…………!!
僕は爆風が収まると、すぐに立ち上がり、アーシェの下に向かった。
アーシェは……ピクリとも動かずに倒れている。
そして、そのすぐ近くには、あの男がいた。

「…………!?“忘れろ”!!」

ヤバい、と判断した僕はすぐさまレテで男の体の動かし方を忘れさせる。
男はガクッ、とバランスを崩し…………

「………………あぁ?お前、今何かやったか?」

…………それだけだった。
……嘘だろ……レテで忘れさせられなかった……?
…………いや、反応を見る限りではレテは“効いてる”。ただ、思い出すのが早いだけだ。
……これじゃあアーシェが……
手が無いわけではないが、難しい。
とにかく、今僕は全力でアーシェのもとに向かうことしか出来ない。

「ったく、今からこいつを殺すんだから、邪魔すんなよ……」

そう言いながら、男は大剣を構えた。
マズい、殺る気だ…………!!
今の距離では、斬られる前にアーシェ助け出せるかどうか分からない。
…………でも、やるしかない!!

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

叫びながら、僕は限界など意に介さずに走り、そして…………
ブンッ、と大剣が振り下ろされる音がする。
ざざざざざざざ!!と服が擦れる音がする。
そして、僕の腕の中には、グッタリとしたアーシェの姿があった。
……ああ、よかった…………!!

「…………邪魔、してんじゃねぇよ……殺すぞ?」

男が僕を睨みながら言ってくる。
僕は、アーシェを腕から降ろして、立ち上がる。

「……なんで、魔物を殺そうとするんですか?」
「ああ?んなもん殺したいからに決まってんだろ」
「…………そうですか………………」

……覚悟が、決まった。
本当は、使うことを躊躇していた。
この力は、レテより嫌いだ……
でも、使う。

「……あなたは、僕の大切な仲間を殺そうとした…………」
「……だから、なんだってんだよ?」
「…………だから、あなたは僕にとってはいらない存在だ!!」

そう言って、僕は手を男に突き出す。
この距離では、流石に男には届かない。

「はんっ、だからなんだ?お前も戦うってのか?」

でも、それでいい。
男が何か言っているが、気にしない。
今は、それどころではない。
…………智也が言ってた。“魔法は理不尽だ”と。
僕も、そう思う。
だって…………

「………………………………“消えろ”…………」
「……あ…………な…………ぁ…………」

たった一言で、人を、殺すことができるんだから…………
“消えろ”、そう僕が言った瞬間、男は驚いたような顔をしたあと、その瞳から、輝きのようなものが無くなった。
…………これで、もうあの男という存在は消滅してしまった。
……さっきの爆発のせいで意識が飛びかけている……
でも、まだ終われない……

「……そこの二人……もう、動けるんでしょう?」
「「……………………………………」」

僕がそう言うと、倒れていた男の仲間がむくりと起き出した。
そして、その顔には、気付いていたのかと言いたそうだった。
だが、今はそんなことに構うことが出来ない。

「……もし、今この男を回収して逃げるのであれば、何もしません。……ただし、まだやるつもりなら…………この男と同じようにしますよ?」

意識を保ちながら、僕は二人にそう言う。
すると、二人はすぐに男を回収して、その場を離れていった。
…………よかった…………もう、大丈夫だ…………
そう思いながら、僕はアーシェの下に向かう。
ふら……ふら……と、足下が覚束ない。
バタンッ、と倒れながらも、僕はアーシェの近くに着いた。
指がアーシェの体に触れる。
……生きている。暖かな体温が、手に伝わってきた。
…………よかった…………生きてた…………
これで…………もう…………
…………僕の意識がもったのは、そこまでだった。
10/10/08 17:02更新 / 星村 空理
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■作者メッセージ
如何だったでしょうか?
楽しんで頂けたら幸いです。
ええと……違和感、ありましたか?
無かったらいいんですが…………
感想、批評、アドバイスがありましたら、感想の方にお送りください。

さて、では簡単な次回予告を。
次回、なんと、やっと!!メインのアリス様が出ます!!
長かった(?)……
とにかく、出します!!

そして、倒れてしまったルシア君。
一体どうなったんでしょうか……
それはまた、次回の話に……

では、星村でした。

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