連載小説
[TOP][目次]
第七章「再開は突然に」
朧げな意識の中、僕は見た。
蛇の下半身を持った、ラミア種の人が、僕の方へ向かってくるのを。
大丈夫か、と、心配そうに訊いてくる。
それに対して、僕はほとんど動けない状態で、大丈夫だと答える。
しかし、動かない体で、口で、それを伝えることは出来ない。
ラミア種の人は、僕の脈を測って、生きていると知ると、ホッと安心した表情をし、どこかに行ってしまった。
…………それにしても…………
あの人はいったい、誰なんだろう…………


××××××××××××××××××××××××××××××


…………自分が引き上げられてるような感覚とともに、意識が戻ってくるのが、自分で分かった。

______たい_________ら?__________

……誰かが何かを言っているが、まだ完全に意識が戻っていないので、何を言ってるのかが全く分からない。

________じゃ__________たら________

……聞こえてくる声は、なんだか聞き覚えがあった。
でも、誰のだかはまだ分からない。
…………徐々に、徐々に、僕の意識は覚醒していった。

「でも、これでもう半月よ?彼女も来てるんだし、そろそろ目を覚ましてもらわないと……」
「………………うぅん…………」
「「!?」」

…………僕が目を覚まし、体を起こすと、視界には二人の女性が写っていた。
一人は、大きな二本の角に獣の手足を持つ小柄な女の子……バフォメット。
もう一人は、下半身が蛇になっているラミア種の……………………そう、エキドナ。エキドナだ。
二人は、驚いたような、嬉しそうな顔をしていた。

「ああ、ルシア君!!目覚めたのね!?」
「ルシア!!心配かけおって!!」
「……………………あの…………」

二人を見ながら、僕は困惑していた。
なぜなら…………

「なんで、僕の名前、知ってるんですか……?」

僕は、この二人を知らないからだ。
忘れてる……と言うわけではない。
“そもそも、この二人にはあったことがないから”だ。

「…………それ、いったいなんて冗談なの?」
「………………ふざけるのもいい加減にせい…………わしはアーシェじゃ。それに、こやつはラナ。まさか忘れたとか言うまいな?」
「……ふざけてなんていませんよ。そもそも、僕はあなた達にあった覚えがありませんから…………」
「な……………………!!」
「まって、ルシア君、それ、どういう意味?」
「どういうって……」

そのままの意味ですよ……
と、本気で困惑している二人に、僕は答えようとしたところで、ふと、一人、僕に向かって走ってきた。
向かってきているのは、女の子だった。
髪は銀の長髪にストレート。小さな角と翼、そしてしなやかな尻尾があり、服装は黒を基調とした可愛らしく清楚なイメージのもの。
…………そして、その顔は、僕の良く知っている顔だった。
……そう、彼女は………………

「ルーくぅん!!」
「フィス!?」

……僕の彼女、フィス・アーコットは、僕の寝ているベットに飛び込んできた。
僕は、驚きながらも彼女とぶつからないように腕で飛んでくる彼女の体を支える。
そして、彼女は勢いのままに僕に抱きついてくる。

「ルー君、会いたかったよぉ!!」
「ちょっ、フィス、ヤメ……苦し……首が……」

割と強く抱きついてきているので、腕が首にきまって苦しい。
……あ、ヤバい……オチるかも…………
本気でそう思った僕は、フィスの背中を軽く何度かタップする。
一瞬なんのことか理解出来なかった彼女だが、すぐにその意図に気がついて、ごめんね、と謝りながら離してくれた。

「ええと、お帰りフィス。大体……一ヶ月ぶり……かな?」
「……?違うわ。三ヶ月ぶりよ?」
「…………え…………?」

…………おかしい。たしか、まだフィスを探して一ヶ月くらいしか経っていないはずだ…………
どういうことだ…………?
ていうかその前に……

「なんで、ここに来れたの?」
「…………それは、私が説明するわ」

僕の問いに、エキドナの…………たしか、ラナと呼ばれていた人が答えてくれた。

「先日の戦いであなたが倒れたから、私はミラーサバトに、しばらくはそちらにいけないって言ったのよ。……そしたら、彼女がここに来たってわけ」
「付け足すなら、一週間かけて、走って、だよ!」
「そっか……ありがとね、フィス」

戦い?倒れた?
覚えのない話が次々と出て来て、僕は混乱していた。
しかし、どうやらここにいる人たちの様子を見てみると、本当のことらしい。
……にしても、おかしい。
僕がフィスを探し始めてから、まだ一ヶ月しか経ってないはずだ…………
しかし、フィス自身は三ヶ月経ったと言っている。
…………いったい、何があったんだ…………?
そう、考えていると…………

「それよりも!!何故、わしらの名前を忘れておる!?しかも、“わしらにあった覚えがない”じゃと!?ふざけるのも大概にせい!!」

涙目になりながら、バフォメットが僕の服の裾を持ちながら、そう叫んできた。
…………だから、ふざけてなんか…………
……と、言い返そうとすると、フィスがそれを手で制した。

「…………一つ、訊いていいかな?」

ベットから降りて、フィスは、子供らしい……しかし、“子供らしくない”問いをした。

「ここで、何があったの?」
「「……………………………………」」

二人が、沈黙した。

「…………フィス、いったい、どういうことなの?」
「…………たぶん、だけど、ルー君……“イレイス”使ったんだと思う…………」
「…………え?」

イレイス。
その言葉を聞いて、僕は驚いた。
だって、それはフィス使うなと言われていた力だからだ。

「…………たしかに、あるにはあった。そして、それのせいでルシアは倒れてしまった。…………やはり、ルシアがわしらのことを忘れてしまったのは……レテの代償……なのかの?」

後ろめたさのあるような顔で、……たしか、アーシェと言っていたバフォメットが訊いてきた。

「…………そうね。正確には少し違うけど……あなた達は、レテの代償については、知ってるのね?」
「……ええ。知っているわ。ルシア君から聞いたから」
「…………そう。そしたら、ルー君の使っていたレテ、あれが実はオリジナルを効果を弱めて使っているとしたら?」
「……………………たしかに、辻褄があうが…………では、ルシアの使ったアレ……お主が言う“イレイス”と言うものは、いったいどういうものなのじゃ?」
「それについては、僕がお話しします」

アーシェさんの疑問に、僕が答えた。

「“イレイス”の効果、それは、“対象者を構成する記憶、感情、思考回路、経験などを全て忘れさせる”…………簡単に言ってしまえば、対象を初期化するんですよ。生まれた時のような。まっさらな状態に…………」
「「………………………………」」

またしても、二人は沈黙した。
まぁ、仕方がないだろう。こんな、化け物じみた力を知ったのなら。

「…………さらに付け足すなら、“ルシア自身も使えばイレイスの影響を受ける”と言ったところかしら?簡単に言っちゃうと、“それを忘れたことすら忘れてしまう”ってとこかしらね?…………今回は、今から二ヶ月分消えてる。つまり、私と別れてから一ヶ月経ったところまでしか覚えてないわ」

……と、フィスが付け足してくる。
……そう。“忘れたことすら忘れる”。それなら、僕が二人のことを全く知らないことも説明できる。

「…………なる……ほどの…………それなら、ルシアがわしらのことを忘れている……いや、知らないことに辻褄があう。でも、それでは…………」
「…………ええ。もう二度と、あなた達と過ごした時間は思い出さないわ…………」
「………………………………」
「…………すまぬが、少し、席を外す」

アーシェさんは、少しだけ、僕の方を見た後、そう言ってこの場を離れた。
…………少しだけ、胸の奥がうずく。
……と、そんな感覚に戸惑っていると、不意にラナさんが口を開いた。

「それにしても、フィスちゃん。あなた、本当にアリスなの?私にはとてもそうは見えないくらい……その…………大人びているように思えるんだけど…………?」
「…………あたりまえだよ。だって、私の母親が…………あんなんだったんだから…………」
「…………あんなん…………?」

ラナさんが訊くと、フィスは拗ねたような顔をした。
何故なら…………

「……私の母親、とても嫉妬深かったのよ……」
「…………それくらいなら、別にどこにでもあるような話じゃないかしら?」
「……そうですけど、フィスの母親は度が越してましてね…………実の娘を父親として愛することさえ怒るらしいんですよ…………」
「…………そして、最終的には私に呪いをかけて、自分達から遠ざけて戻って来れないようにするくらいに……ね」
「……!?それってつまり…………」
「はい。彼女の母親が……彼女に、呪いをかけたんです…………」
「………………………………」

僕の言葉に、ラナさんは愕然としていた。
まぁ、あたりまえだろう。普通なら、たとえ魔物でも自分の娘は可愛がるものだ。しかし、フィスの母親は愛するどころか呪いをかけたのだから。
と、そこまで話すと、突然フィスがラナさんを回れ右させた。

「ラナさん!!そろそろ夜遅くなるし、ルー君を疲れさせたらいけないから、部屋に戻ってください!!」
「え?いやでも…………」
「大丈夫ですから!!ルー君の様子は私が見ますから!!」

そう言うと、フィスは少し名残惜しそうなラナさんを無理矢理部屋から出し、扉を閉めて部屋から離れて行くことを確認していた。
……ああ。もうそんな時間なのか。
寝ていたので、今がいったいいつなのか判らなかった僕は、やっと今が夜であることを知った。
…………そして、なんでフィスがラナさんを追い出したのかも、理解した。

「ルゥー君♪」

ラナさんが去ったのを確認すると、フィスは甘えるような声で僕の上にしなだれかかってきた。
ああ。やっぱりか…………

「ねぇ、フィス。僕を疲れさせたらいけないんじゃなかったの?」
「あんなの、ただの口上に決まってるじゃない。あ、見せつけたかった?」
「滅相もございません…………というか、やっぱりフィスって、フィス話す母親にかなり性格が似てるよね…………」
「まぁ、母親だからね。…………でもルー君。私が甘えてるのに、他の人のこと言うなんて、酷いと思うわよ?」
「あ…………ごめん………………」
「だぁめ。許さない。なんかアーシェさんとも何かあるみたいだし…………今夜は今まで我慢してた分、全部発散するわ」

淫靡な微笑みをしているフィスの顔が僕に近づいてくる。
ああ…………今夜、寝れないかもな…………
そんなことを考えながら、僕は彼女と唇を合わせたのだった………………
10/10/11 22:03更新 / 星村 空理
戻る 次へ

■作者メッセージ
…………フィスがアリスらしくない…………
ごめんなさい。なんか、母親に呪いをかけられたという設定を重視したせいで、こんな感じとなってしまいました。
佐藤さんを代表としたロリコンさん、またはアリス好きの方々、申し訳ありません。

……フィスは、設定上子供らしくない、少し大人びた性格となっています。
しかし、日常ではさほど普通の子供と変わらない……はずなので、安心してください。

…………では、突然ですがアンケート取ります!!
フィス×ルシアのHシーン見たい(読みたい)人!!
いましたら、感想の方に送ってください。
短いでしょうが、書いてみたいと思います。

では、今回はこれで。
星村でした。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33