男淫魔まっしぐらだよねコンチクショウ!!
−−−−−−
「…じゃあ、ごちそうさまでした。」
「はい!またいつでもお越しくださいね!!」
そう言いながら、『エルテ』の店主であるアルカさんは元の中世的な顔立ちが想像も出来ない前が見えねぇ状態でありながら元気に見送ってくれる。
その隣には赤い鱗に褐色肌のラミア、ジーリャさんが仁王立ちで(下半身が蛇なので仁王立ちか結構微妙なところだけど)此方に睨みを効かせていた。
…まあ、お察しのいい方ならもうお分かりだろう。アルカさんの顔面をこのように半端なくジ〇ギ様めいた状態にしたのはほかの誰でもないアルカさんの彼女であるジーリャさんだ。
カルボナーラを食べ終わって一息ついていたら突然勢いよくドアが開きジーリャさん登場。そしてアルカさんに近付くと『なんで追って来ないのよバカアルカーッ!!』という絶叫と共に右ストレート一閃。
あとはこの店に入ってきた時と同じだ。吸い込まれたジーリャさんの右手はアルカさんの華奢そうな体をカウンターまで吹き飛ばしていった。
ピクリとも動かない彼氏に尻尾でなおも追撃するジーリャさんを横目に、ファベルさんはこっそりと「いつもの事だから気にすんな」って言ってたけど…いやこれが日常って、ちょっとバイオレンス過ぎませんかねぇ…?
とまあ、そんな顛末があったものの、ドタバタな昼食は終わりを告げた。
お釣りの銀貨と銅貨で重くなったズボンを振りながら『エルテ』のドアを抜け、入った時よりもほんの少し日差しが強くなった街の煉瓦道に足を踏み入れる。
…良かった、風は止んだみたいだ。これならフウが飛んでいく心配はしなくてもいいかな。
「……おにいちゃん。」
「ん?」
「あのおにいちゃんとおねえちゃん、なかなおりするといいね…。」
再び街の中心(に続いていると信じたい)方向に向けて歩いていると、ソピアがポソリと話しかけてきた。
いやぁ、どうなんだろ…。とんでもなく暴力的だけどファベルさん曰くアレが普通らしいし…。
「うーん…喧嘩する程仲がいいっていうし、どうなんだろう…。」
「…そうなの?」
「喧嘩するってのは、普段言いにくい事をぶつけるって事だからね。勿論、場合にもよるけど…。」
「ふぅん…?」
「ふーん。」
「…まぁ、こうは言ったけど二人ともあんまり喧嘩しちゃだめだよ?」
「うん!」
「あーい。」
「いい返事でよろしい。」
…といっても二人の性格からしてそんな事にはならないとは思うけど。特にフウが理解できてるかどうかは置いといて。
そういえば、出てきた時の風といい此処の季節は一体どうなってるんだろう。もしかしたらあっし達の世界とは違って四季ではないのかも知れない。だとしたらよくあるRPGみたいに『〇〇(気候の特徴)の時節』みたいな感じなんだろうか。図鑑世界の被害報告ではよく四季で表されてるけど、結局はあっし達の常識に当てはめた想像の域を出てない訳だし。………図鑑世界に来たいと焦がれる諸兄よ、少なくとも嫌ってぐらい風が強い季節が一つはあるから覚悟しておくといい。さて、考察の再開だ。日差しと暖かい環境からして多分此処は明緑魔界かまだ魔界化していない地域なのだろう。出来れば後者であって欲しいけど、確認する術はない。確かガイドブックによれば明緑魔界でも普通の魔界と同じく徐々にイ ンキュバスになるんだったな…怖杉内っすかね。…と なれば、食料や飲み水には極力注意しておかなけりゃならないって訳だ。出来れば人間のまま元の世界に帰りたいし。………アレ?あっしさっき思いっ切り魔物娘とカップルになってる男の料理食べなかった?………アレはノーカンだから。ほら、アレだよ…。の、ノーカン!ノーカン!!兎に角あっし基準でノーカンだから良いの!!というか魔王の娘であるソピアと一緒にいる時点で結構アウトだよね!!男淫魔まっしぐらだよねコンチクショウ!!ま、まぁ人間で帰還は可能であればだねもうこれ…。このままだと一縷どころか須臾(しゅゆ)も望みはないけどな!!
「ちょっと、この人大丈夫なの?」
「…おにいちゃん?」
「パパー。」
「…えい。」
「イィイッ↑タァイ↓メガアァァァァァ↑!!?(低音)」
突然襲ってきた両目の激痛に、叫びながらその場であお向けに倒れこんで転げまわる。
「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「よっと、思ったよりちょっと良いのが入っちゃったわね。」
「おにいちゃん!だいじょうぶ!?」
「パパ?」
心配するソピアの声に交じって聞きなれない声が耳に入ってくる。少し低く、凛とした声。
「全く、私(わたくし)を無視するなんて良い度胸してるわねあなた。」
「ず、ずびばぜん…?」
無視…?もしかして、話しかけられてたのか?っつー事は…またやってしまったのか…。考え事を始めると周りが一切見えなくなる癖…本当、何とかしなくちゃな。
徐々に目の痛みが引いてきたのでゆっくり目を開けてみると、涙で霞む視界に泣きそうな顔で此方を見るソピアちゃんの整った顔とその向こうに深いスリット入りの暗めのドレスを着た血色の悪い女性の姿が見えた。
「何方か知りませんが申し訳ないです…。」
「本当よ、何度話しかけても目の前で止まったっきり…。もし私が短気な魔物だったら、思いっきり殴られてる所だわ。」
目潰しの方が酷いと思うのはあっしだけかなー?
「おにいちゃん…?」
「あ、うん。ありがとうソピアちゃん、もう大丈夫だよ。」
「パパー?」
「心配かけたねフウ。」
「んー。」
ソピアに白衣の裾を掴まれながら立ち上がると同時に、倒れた時にはもう飛んでいたのだろうフウがちょっとだけ不安そうな顔をして飛んできた。左手の親指と人差し指でフウの頬を挟むと、フウはまだ不安気ながらも指を掴んできた。
「それよりも、はい。」
「え?」
血色の悪い女性は、腕に抱えていた見覚えのある紙袋を此方に渡してきた。
「あなたが倒れた時、手から離れたから落ちる前に掴んでおいたのよ。ありがたく思うことね。」
「あ、ええ。ありがとうございます…。」
…………あれ?
「これ落としたの、あなたが目を突いたのが原因じゃ…。」
「……何のことかしらね?」
ヒッデェ。
「それに、その原因は貴方が作ったのよ?」
「…そうでした。改めて、申し訳ありません。…それで、何か御用ですか?」
「ええ。」
そういって、女性はこちら値踏みするように見やる。…何か、背中がぞくっとした。
「この辺で見かけない顔だと思って声をかけたのよ。…貴方、旅人…には見えないわね。」
「ええ。一応、此処に越してきた…事になるのかな?」
「…そんな報告、私の耳には入ってないのだけれども、ね。」
………報告?つまり、この人はこの街の重役なのかな?
「ああでも、越してきたと言っても勝手に連れて来られたというか…。何て言えばいいのか…。」
「…ああ、じゃあ貴方が魔王様の言っていた違う世界の人間なのね。」
一瞬、『あのフレーズ』の一片的なサムシングが聞こえたので大声出して止めようかと思ったが、普通に返してくれた。よかった。
「なら私、引いてはこの街は貴方を歓迎致しますわ。…失礼、私の名はスケーニカ。ワイトのスケーニカ=コーマと申します。この街、シシアの町長を務めております。」
「ご丁寧にどうも。あっしは」
「ソピアです!」
「ちょっ…ソピアちゃん…!?」
あっしの言葉を遮り、ソピアがムッとした顔で自己紹介する。
スケーニカさんは一瞬目を見開いていたが、すぐに何かに気づいた様子で優しく笑った。
「魔王様のニ十一番目の御息女、ソピア様。貴女様が御生まれになられた際の式典以来、お初にお目にかかりますわね。」
「むぅー…!!」
「ソピアちゃん…それは失礼だよ…?」
「いえいえ、構いませんわ。」
『王女様のお気に入りを取る事は御座いませんので、ご安心を。』
スケーニカさんはなおも威嚇し続けるソピアに近付き、そっと何かを耳打ちをした。
「そちらの小さいケセランパサランは?」
「あぁ、あっしの娘です。ほらフウ、ご挨拶。」
「んー?」
いつの間にか肩に乗っていたフウに促すと、小首を傾げた。
「…フウ、お前の名前は?」
「フウ〜♪」
「フウさんですね。これからよろしくお願い致します。」
「あいー。」
クスクスと笑いながら、スケーニカさんはこちらのほうを向く。
「娘…ですか。」
「ええ。…まぁ、話せば突飛なんですけど。」
「大方、胞子が貴方の目の前で孵った…でしょう?」
「…その通りです。」
…やっぱり、この世界ではよくある事態のようだ。
「…さて、このまま立ち話ではお疲れになりますでしょう?もしよろしければ、私の邸にぜひいらっしゃって下さい。ご案内させて頂きますわ。どうですか?」
…………この街の町長なら、色々と情報を持ってるかもしれない。それこそ、この世界のいろんなことについて。
…別に拒否する理由もないし、このままついて行こう。………魔物娘の家、か………貞操はしっかり守らないと。…守れるかな?
「…ええ、お願いします。」
「…じゃあ、ごちそうさまでした。」
「はい!またいつでもお越しくださいね!!」
そう言いながら、『エルテ』の店主であるアルカさんは元の中世的な顔立ちが想像も出来ない前が見えねぇ状態でありながら元気に見送ってくれる。
その隣には赤い鱗に褐色肌のラミア、ジーリャさんが仁王立ちで(下半身が蛇なので仁王立ちか結構微妙なところだけど)此方に睨みを効かせていた。
…まあ、お察しのいい方ならもうお分かりだろう。アルカさんの顔面をこのように半端なくジ〇ギ様めいた状態にしたのはほかの誰でもないアルカさんの彼女であるジーリャさんだ。
カルボナーラを食べ終わって一息ついていたら突然勢いよくドアが開きジーリャさん登場。そしてアルカさんに近付くと『なんで追って来ないのよバカアルカーッ!!』という絶叫と共に右ストレート一閃。
あとはこの店に入ってきた時と同じだ。吸い込まれたジーリャさんの右手はアルカさんの華奢そうな体をカウンターまで吹き飛ばしていった。
ピクリとも動かない彼氏に尻尾でなおも追撃するジーリャさんを横目に、ファベルさんはこっそりと「いつもの事だから気にすんな」って言ってたけど…いやこれが日常って、ちょっとバイオレンス過ぎませんかねぇ…?
とまあ、そんな顛末があったものの、ドタバタな昼食は終わりを告げた。
お釣りの銀貨と銅貨で重くなったズボンを振りながら『エルテ』のドアを抜け、入った時よりもほんの少し日差しが強くなった街の煉瓦道に足を踏み入れる。
…良かった、風は止んだみたいだ。これならフウが飛んでいく心配はしなくてもいいかな。
「……おにいちゃん。」
「ん?」
「あのおにいちゃんとおねえちゃん、なかなおりするといいね…。」
再び街の中心(に続いていると信じたい)方向に向けて歩いていると、ソピアがポソリと話しかけてきた。
いやぁ、どうなんだろ…。とんでもなく暴力的だけどファベルさん曰くアレが普通らしいし…。
「うーん…喧嘩する程仲がいいっていうし、どうなんだろう…。」
「…そうなの?」
「喧嘩するってのは、普段言いにくい事をぶつけるって事だからね。勿論、場合にもよるけど…。」
「ふぅん…?」
「ふーん。」
「…まぁ、こうは言ったけど二人ともあんまり喧嘩しちゃだめだよ?」
「うん!」
「あーい。」
「いい返事でよろしい。」
…といっても二人の性格からしてそんな事にはならないとは思うけど。特にフウが理解できてるかどうかは置いといて。
そういえば、出てきた時の風といい此処の季節は一体どうなってるんだろう。もしかしたらあっし達の世界とは違って四季ではないのかも知れない。だとしたらよくあるRPGみたいに『〇〇(気候の特徴)の時節』みたいな感じなんだろうか。図鑑世界の被害報告ではよく四季で表されてるけど、結局はあっし達の常識に当てはめた想像の域を出てない訳だし。………図鑑世界に来たいと焦がれる諸兄よ、少なくとも嫌ってぐらい風が強い季節が一つはあるから覚悟しておくといい。さて、考察の再開だ。日差しと暖かい環境からして多分此処は明緑魔界かまだ魔界化していない地域なのだろう。出来れば後者であって欲しいけど、確認する術はない。確かガイドブックによれば明緑魔界でも普通の魔界と同じく徐々にイ ンキュバスになるんだったな…怖杉内っすかね。…と なれば、食料や飲み水には極力注意しておかなけりゃならないって訳だ。出来れば人間のまま元の世界に帰りたいし。………アレ?あっしさっき思いっ切り魔物娘とカップルになってる男の料理食べなかった?………アレはノーカンだから。ほら、アレだよ…。の、ノーカン!ノーカン!!兎に角あっし基準でノーカンだから良いの!!というか魔王の娘であるソピアと一緒にいる時点で結構アウトだよね!!男淫魔まっしぐらだよねコンチクショウ!!ま、まぁ人間で帰還は可能であればだねもうこれ…。このままだと一縷どころか須臾(しゅゆ)も望みはないけどな!!
「ちょっと、この人大丈夫なの?」
「…おにいちゃん?」
「パパー。」
「…えい。」
「イィイッ↑タァイ↓メガアァァァァァ↑!!?(低音)」
突然襲ってきた両目の激痛に、叫びながらその場であお向けに倒れこんで転げまわる。
「アアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
「よっと、思ったよりちょっと良いのが入っちゃったわね。」
「おにいちゃん!だいじょうぶ!?」
「パパ?」
心配するソピアの声に交じって聞きなれない声が耳に入ってくる。少し低く、凛とした声。
「全く、私(わたくし)を無視するなんて良い度胸してるわねあなた。」
「ず、ずびばぜん…?」
無視…?もしかして、話しかけられてたのか?っつー事は…またやってしまったのか…。考え事を始めると周りが一切見えなくなる癖…本当、何とかしなくちゃな。
徐々に目の痛みが引いてきたのでゆっくり目を開けてみると、涙で霞む視界に泣きそうな顔で此方を見るソピアちゃんの整った顔とその向こうに深いスリット入りの暗めのドレスを着た血色の悪い女性の姿が見えた。
「何方か知りませんが申し訳ないです…。」
「本当よ、何度話しかけても目の前で止まったっきり…。もし私が短気な魔物だったら、思いっきり殴られてる所だわ。」
目潰しの方が酷いと思うのはあっしだけかなー?
「おにいちゃん…?」
「あ、うん。ありがとうソピアちゃん、もう大丈夫だよ。」
「パパー?」
「心配かけたねフウ。」
「んー。」
ソピアに白衣の裾を掴まれながら立ち上がると同時に、倒れた時にはもう飛んでいたのだろうフウがちょっとだけ不安そうな顔をして飛んできた。左手の親指と人差し指でフウの頬を挟むと、フウはまだ不安気ながらも指を掴んできた。
「それよりも、はい。」
「え?」
血色の悪い女性は、腕に抱えていた見覚えのある紙袋を此方に渡してきた。
「あなたが倒れた時、手から離れたから落ちる前に掴んでおいたのよ。ありがたく思うことね。」
「あ、ええ。ありがとうございます…。」
…………あれ?
「これ落としたの、あなたが目を突いたのが原因じゃ…。」
「……何のことかしらね?」
ヒッデェ。
「それに、その原因は貴方が作ったのよ?」
「…そうでした。改めて、申し訳ありません。…それで、何か御用ですか?」
「ええ。」
そういって、女性はこちら値踏みするように見やる。…何か、背中がぞくっとした。
「この辺で見かけない顔だと思って声をかけたのよ。…貴方、旅人…には見えないわね。」
「ええ。一応、此処に越してきた…事になるのかな?」
「…そんな報告、私の耳には入ってないのだけれども、ね。」
………報告?つまり、この人はこの街の重役なのかな?
「ああでも、越してきたと言っても勝手に連れて来られたというか…。何て言えばいいのか…。」
「…ああ、じゃあ貴方が魔王様の言っていた違う世界の人間なのね。」
一瞬、『あのフレーズ』の一片的なサムシングが聞こえたので大声出して止めようかと思ったが、普通に返してくれた。よかった。
「なら私、引いてはこの街は貴方を歓迎致しますわ。…失礼、私の名はスケーニカ。ワイトのスケーニカ=コーマと申します。この街、シシアの町長を務めております。」
「ご丁寧にどうも。あっしは」
「ソピアです!」
「ちょっ…ソピアちゃん…!?」
あっしの言葉を遮り、ソピアがムッとした顔で自己紹介する。
スケーニカさんは一瞬目を見開いていたが、すぐに何かに気づいた様子で優しく笑った。
「魔王様のニ十一番目の御息女、ソピア様。貴女様が御生まれになられた際の式典以来、お初にお目にかかりますわね。」
「むぅー…!!」
「ソピアちゃん…それは失礼だよ…?」
「いえいえ、構いませんわ。」
『王女様のお気に入りを取る事は御座いませんので、ご安心を。』
スケーニカさんはなおも威嚇し続けるソピアに近付き、そっと何かを耳打ちをした。
「そちらの小さいケセランパサランは?」
「あぁ、あっしの娘です。ほらフウ、ご挨拶。」
「んー?」
いつの間にか肩に乗っていたフウに促すと、小首を傾げた。
「…フウ、お前の名前は?」
「フウ〜♪」
「フウさんですね。これからよろしくお願い致します。」
「あいー。」
クスクスと笑いながら、スケーニカさんはこちらのほうを向く。
「娘…ですか。」
「ええ。…まぁ、話せば突飛なんですけど。」
「大方、胞子が貴方の目の前で孵った…でしょう?」
「…その通りです。」
…やっぱり、この世界ではよくある事態のようだ。
「…さて、このまま立ち話ではお疲れになりますでしょう?もしよろしければ、私の邸にぜひいらっしゃって下さい。ご案内させて頂きますわ。どうですか?」
…………この街の町長なら、色々と情報を持ってるかもしれない。それこそ、この世界のいろんなことについて。
…別に拒否する理由もないし、このままついて行こう。………魔物娘の家、か………貞操はしっかり守らないと。…守れるかな?
「…ええ、お願いします。」
18/05/11 18:50更新 / 一文字@目指せ月3
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